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ポレックス村にゃん

「にゃあ、オレたちはちょっと寄り道をして行くにゃん」

 街道からダイナの実家の村に行く分かれ道で馬車を停めた。

「ネコちゃんたちはこの先のポレックス村に用事があるの?」

「にゃあ、そうにゃん」

「ポレックス村でしたら、わたくしたちも依頼で行ったことがありますわ」

「あの時は大鹿の特異種で、ちょっと死ぬかと思ったよね」

「ふたりとも魔力切れで木に登って一晩明かしたのは良い思い出ですわ」

「にゃあ、最後の思い出にならなくて良かったにゃんね、そんなわけでオレたちはポレックス村に寄り道するにゃん」

「うん」

「どうぞ」

 ふたりは、馬車から降りる素振りも見せない。

「にゃあ、もしかしてレベッカとポーラも一緒に行くにゃん?」

「うん」

「おつきあいいたしますわ」

「にゃあ、わかったにゃん」

 オレは脇道に馬車を乗り入れた。



 ○ポレックス村


「おお、ネコのお嬢ちゃんに妖精さんじゃないか!」

 畑で農作業をしていた村人に声を掛けられる。

「にゃあ、遊びに来たにゃん」

「また来たよ!」

 オレは馬車を停めて返事をした。リーリもオレの頭の上で手を振る。

「村長のところに行くのか?」

「にゃあ、そうにゃん」

「そうか、この前はろくに礼もせずに悪かったな、後で行くから待っててくれ」

「にゃあ、わかったにゃん」

 オレも手を振って馬車を出した。

 その後も村の人たちに次々と声を掛けられお礼の言葉を貰った。

「ネコちゃん、ここで何をしたの?」

「にゃあ、村長に頼まれて怪我人や病人を治したにゃん」

「ネコちゃんのことだから、一瞬で完治させたのでしょう? 皆さんの唖然とした顔が目に浮かびますわ」

「あたしたちも唖然としたもの」

「にゃあ、ふたりにはその前にオレたちがびっくりさせられてるにゃん」

「だよね」

 リーリもオレの頭の上で頷いた。

「あの時は好きで血まみれになったわけじゃないからね」

「好きでなられたら困るにゃん」



 ○ポレックス村 村長宅


 馬車をダイナの実家こと村長の家の前に乗り入れた。

「よう、マコトに妖精さんじゃないか! 来てくれたのか、おっ、そっちはいつぞやの冒険者さんたちか、久しぶりだな!」

 最初に出迎えてくれたのはダイナの兄貴のチェルノだ。

「にゃあ、州都に行く用事が出来たから寄らせて貰ったにゃん」

「こっちはいつでも大歓迎だ、間もなく親父も帰って来るから中で待っててくれ、母さん、ばあちゃん、タリア、マコトたちが来てくれたぞ!」

 最初に出てきたのは、ばあちゃんだった。

「おやおや、ネコちゃんと妖精さんかい、今日は強そうなお供を連れて来たね」

「にゃあ、こっちはレベッカとポーラにゃん」

「レベッカとポーラ、ああ聞いたことがあるよ、以前、村に来てくれた凄腕の美人冒険者ってあんたたちのことだね」

ちまたではそう言われてるかな」

「そうですわね」

 美人に『ちょっと残念な』って付くけどな。

 ばあちゃんの後にチェルノの母さんと嫁さんのタリアが出て来て歓迎してくれた。

 ダイナは無事に旦那の元に帰ってる。


「にゃあ、この前もらったお弁当とてもおいしかったにゃん」

「うん、おいしかったよ」

「にゃあ、出来たら作り方を教えて欲しいにゃん」

 チェルノのお母さんに頼む。

「いいわよ、あれはね、鹿肉を加工したものなのよ」

「にゃあ、鹿肉なら持ってるにゃん、特異種もあるにゃんよ」

「特異種のお肉は美味しいって聞くわね」

「うん、美味しいよ」


 オレは台所で肉の加工法を教わる。他にも幾つか料理を教えて貰う。

 リーリとレベッカとポーラはばあちゃんたちと談笑してる。

「ネコちゃん、村の人たちが来たよ」

「にゃ?」

 タリアに呼ばれて玄関先に出ると村の人たちが集まっていた。

 そして野菜がどっさり持ち込まれていた。

「「「ネコちゃん、ありがとう!」」」

 オレが治療した人たちだ。

「にゃあ」

 オレはありがたく野菜を頂戴した。


「マコトさん! 申し訳ない、直ぐに来ていただけますか!?」

 血相を変えた若い男が馬に乗ってオレを呼びに来た。

「にゃ!?」

 オレは魔法馬を出した。

「何かわからないけど行って来るにゃん!」

「あたしも行く!」

 リーリがオレの頭に飛び乗った。

「にゃあ、行くにゃん!」

「こちらです!」

「あたしたちも行くよ!」

「ええ、行きますわ!」

 レベッカとポーラも自分たちの馬を出して付いて来た。

「にゃあ、何が有ったにゃん?」

「事故です、馬車が路外に飛び出して荷台に乗っていた人が大怪我を」

「にゃあ、場所はこの先にゃんね、先に行ってるにゃん」

 オレは魔法馬の速度を上げた。



 ○ポレックス村 村道


 事故現場は探査魔法を使うまでもなく直ぐにわかった。

 畑の中の交差点の一角に完全に裏返って大破した荷馬車の上に足の折れた魔法馬が乗っていた。

 しかも魔法馬の刻印が壊れたらしく激しく身体を動かしてここに集まった人たちでは退かすことができないでいる。

「にゃあ、怪我人は何処にゃん!」

「ああ、マコトさん、本当にいらしてたのですね」

 ダイナパパこと村長がいた。

「挨拶は後にゃん、状況を教えて欲しいにゃん」

「怪我人は、その馬車の下敷きです、返事がないのでもうダメかも知れません」

「にゃあ、諦めちゃダメにゃん、それにしてもこの馬、何で倒れてるのに動いてるにゃん?」

 魔法馬は倒れると動きが止まることになってる。

「昨日、刻印の打ち直しをしたらしいですが、どうやらそれで刻印をダメにしたらしいです」

 少し離れた場所に寝かされてる馬車の持ち主に聞いたのだろう。

「にゃあ、まずは馬と馬車を消すにゃん」

 暴れる魔法馬と壊れた荷馬車の残骸を同時に消す。

 血まみれの母娘が姿を見せた。

 まだ二〇そこそこの母親が幼い娘をかばって抱き寄せていた。

「ああ、ふたりともダメか」

「かわいそうに」

 呟きが聞こえた。

「チクショウ! あのペテン師野郎! ぶっ殺してやる!」

 馬車の持ち主がここまで這いずって来ていた。

「ああ、おまえの馬を壊した刻印師は俺たちが捕まえてやる、だからおまえは安静にしていろ、ホリーと孫が心配して迷ったらどうする」

「すまない村長」

 慟哭する馬車の持ち主。

「にゃあ、死んでるように見えるけど大丈夫にゃん、まだ間に合うにゃん、だからちょっと静かにするにゃん」

「そうだよ、ここはマコトに任せて!」

 ふたりの魂はまだ体内に留まっている。これが抜けたら本当の終わりだ。

「本当ですか!? ホリーとアニーを助けてくださるんですか!」

 痛みに顔をしかめながら身体を起こそうとする。

「おい、マコトさんが静かにしろと言ってるんだ、邪魔をするな」

「すいません」

「始めるにゃん」

 治癒の光でふたりを包み込む。

 ふたりのエーテル器官に魔力を注ぎ込み身体の時間をわずかに巻き戻して事故の前の肉体に修復した。

 ついでにその他の不具合を治療する。

 母親は心臓、娘はエーテル器官に問題が有った。

 治療を終えて仕上げにウォッシュする。

「にゃあ、もう大丈夫にゃん」


 ふたりがぴくっと動いて目を覚ました。

「あの、えっ、どうしてなんともないの?」

「おかあさん?」

 ふたりはキョロキョロする。

「にゃあ、もう、大丈夫にゃん」

「な、治ったのかホリー、本当に大丈夫なのか!?」

「お父さん!」

「じいちゃん!」

「にゃあ、じいちゃんも治すにゃん」

 こちらを後回しにしたが、かなりの重傷だった。

 内臓が損傷していてあと数時間で天に還る状態だ。

 治癒の光をフラッシュさせた。

「にゃあ、ついでに他の悪いところも治したにゃん、膝と腰にゃんね、それと魔法馬と馬車にゃん」

 オレの格納空間に仕舞った馬と馬車をセットで再生した。

「おお、身体が治ってる上に馬と馬車まで綺麗になってる!」

 ホリーの父さんは、じいちゃんと言っても五〇代半ばだ。

「にゃあ、ところでこの馬の刻印の打ち直しの時に刻印師から何か言われなかったにゃん?」

 馬の足をペタペタ叩いた。

「それと馬車も最初から真っ直ぐ走らなかったと違うにゃん?」

「そ、それは」

 ホリーの父さんは急に口ごもる。

「おい、どうした、ちゃんとマコトさんに説明しないか?」

 村長にどやされるホリーの父さん。

「刻印師には『限界を越えてるから何が有っても責任は持てない』と」

「おまえ、それなのに打ち直しをさせたのか?」

「すいません、まさかこんな大事になるとは思わず」

「おい、それで刻印師をペテン師扱いか? おまえの話を鵜呑みにして刻印師を捕まえたら俺たちが逆に訴えられていたぞ!」

 村長が怒るのは当然だ。

「も、申し訳ありません!」

 ホリーの父さんが両手を地面に付けて頭を下げる。こっちにも土下座があるにゃんね。

「この馬車は村で没収だ」

「そ、そんな」

「おまえの馬車は本当はどうなったんだ?」

「馬の足が折れて路外で転覆しました」

「それで、馬と馬車は修理出来そうな状態だったのか?」

「……いいえ」

「誰の不始末だ?」

「……俺です」

「お父さん、そんな危ない馬車にあたしとアニーを乗せたの!? ふたりとも危なく死ぬところだったんだからね!」

「す、すまない」

「村長さん、馬も馬車も村で使って下さい、後で母さんにたっぷりお説教してもらうからね!」

「……」

 小さくなるホリーの父さん。

「にゃあ、そのぐらいにしておくにゃん、娘と孫が馬車の下敷きになって泣き叫んだのは本当にゃん」

「考えが足りなかったのはいただけ無かったけどね」

 リーリが付け加えた。

「申し訳ない」

「ホリー、俺も言いたいことはまだ有るがマコトさんがそう仰ってるんだ、おまえももういいだろう?」

「はい、あのそれでこちらの方が助けてくれたんですか?」

「そうだ、ホリーも知ってるだろう? マコトさんは以前にもウチのダイナや村の人間を何人も助けてくれたことが有るんだ」

「じゃあ、ダイナちゃんの言ってたネコちゃん?」

「にゃあん、ダイナと赤ちゃんを州都から戻って来る途中で拾ったにゃん」

「ええ、ダイナちゃんから話は聞いてます、本当にありがとうございました」

「ネコちゃん?」

「にゃあ」

 ホリーの娘のアニーがオレに抱き着く。

 こっちに来てからちっちゃい子にモテモテだ。

「ネコちゃん! 妖精さん!」

「やっと追いつきましたわ」

「もう、ネコちゃんの馬、どれだけ速いの」

「にゃあ、あれでもセーブしたにゃん」

「すごすぎて言葉が出ませんわ」

 レベッカとポーラが到着した。

「それで怪我をした人は何処?」

「すいません、私と娘と父です」

 ホリーが済まなそうに手を上げた。



 ○ポレックス村 村長宅 裏庭


 軽く立ち寄ってあわよくばお弁当のレシピを教えて貰おうぐらいのつもりだったのだが、ホリーの父さんがやらかしてくれたので、村長主催の宴会を断れなくなってしまった。

 そして村長宅の庭先でエプロンをして焼きそばを焼いてるオレがいる。

 リーリとレベッカとポーラが無責任にオレの料理が美味しいと吹きまくったせいだ。

「「「ネコちゃん、美味しい!」」」

 村の子供たちには大好評だ。

「にゃあ、食べ過ぎ注意にゃんよ」

「「「はーい」」」

 大人も焼きそばにウインナーそれにビールを楽しんでる。

 気候は日本のオレの住んでた地方と大差なく夜はちょっと肌寒いがこちらの人たちはあまり気にしない。

 それに焚き火が思いの外、心地良かった。

 オレの場合、ちゃんとした野営をしてないし、日本で焚き火したといったらそれこそ学生の頃のキャンプが最後だ。ソロキャンには興味はあったが、そこは敏腕営業マンだったので時間が取れなかった。

 嘘にゃん、休日は家でゴロゴロしていただけだ。

「マコトさん、ホリーの母です、本日はウチのバカ亭主がご迷惑をおかけしました。娘と孫を救ってもらったばかりか壊したボロ馬車の代わりに綺麗な荷車までいただいてしまって」

「にゃあ、何もないのも困ると思ったにゃん」

 取り上げられた馬車の代わりにリヤカーをホリーの父さんにやったのだ。アシスト付きリヤカーなら今日みたいな派手な事故は起こさないだろう。

「本当に何から何まで」

「にゃあ、困ったときはお互い様にゃん」

「そう、お互い様ですよ」

 横からレベッカが入って来た。

「お互い様と言ってる割にネコちゃんたちにはお世話になりっぱなしですわ」

 ビールジョッキを持ったレベッカとポーラは出来上がり気味だ。

「マコト、おかわり!」

 リーリの皿に焼きそばを盛ってやる。

「にゃあ、そう言えばホリーたちはどこに行く途中だったにゃん?」

「隣町の乗合馬車の停車場に行く途中だったんですよ、州都に娘の旦那が働きに出てまして、やっと一緒に暮らすことになった矢先のあれですからね」

 危なくホリーの旦那は妻と娘とついでに義父を失うところだった。

「州都でしたらあたしたちも行くから、ホリーも一緒に行ったらいいんじゃない?」

「ああ、それはいい考えですわ」

「そうだね」

「にゃあ、そうにゃんね」

「よろしいのですか?」

「にゃあ、オレなら問題ないにゃんよ、どうせ空荷の馬車にゃん、ホリーたちが乗っても問題ないにゃん」

「それでしたら、お願いしてもいいですか? マコトさんたちと一緒でしたら安心ですから」

「にゃあ、明日の朝、出発するから迎えに行くにゃんね」

「いいえ、乗せていただくんですから、こちらに連れて来ます」

「にゃあ、だったら待ってるにゃん」

 最後にまたお礼を述べたホリーのお母さんが戻って行き、オレは焼きそばとウインナーを焼き続けた。


 夜が更けてまだ村長宅の庭に残っていたへべれけの村人とレベッカとポーラからアルコールを抜いた。

「あれ?」

「おお?」

「俺は何で裸なんだ?」

 知らないにゃん。

「ネコちゃん?」

「まだ夜ですわね」

「にゃあ、宴会は終わりにゃん、さっさと帰らないとお化けが出るにゃんよ」

 村人たちを帰宅させ、オレもリーリとレベッカとポーラと一緒に裏庭に置いたロッジに引っ込んだ。



 ○ポレックス村 村長宅 裏庭 ロッジ


「途中からネコちゃん主催って感じの宴会になっちゃったね」

「そうでしたわね」

 きっかけはレベッカとポーラだけどな。

「焼きそばもウインナーもおいしかったよ!」

 リーリはぶれない。

「にゃあ、皆んなが楽しければそれでいいにゃん、ふたりともお風呂に入ってから寝るにゃんよ」

「ネコちゃんたちも一緒に入ろうね」

「ああ、それはいいアイデアですわ」

「にゃあ」

 頭にリーリを乗せたままオレはふたりに手を引かれて風呂場に連れて行かれた。


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