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会談にゃん

 ○ケントルム王国 王都フリソス 猫スフィンクス 会議室


「マコト殿とこうやって実際にお目に掛かるのは初めてでしたな」

 イングリス・ラガルド将軍が入室した。

「そうにゃんね」

 大柄でがっしりした体躯でいかにも軍人という雰囲気を漂わせている。騎士とは違う独特の殺気を備えていた。

「ファブリス・ボワデフル侯爵とイジドール・マラブル侯爵は初めてにゃんね、オレがマコトにゃん」

 続いて入室したふたりに挨拶した。

 ひとりは西部連合の若き盟主であるカテギダ州領主のファブリス・ボワデフル侯爵。

 もうひとりの軍人ぽいおっさんは、将軍のかつての部下でアナトリ留学組のマルレーヌの父親でもあるリスティス州の領主イジドール・マラブル侯爵だ。

「恐れ入ります公爵様、お初にお目にかかります」

 若くはあるが西部連合の盟主であるファブリス侯爵が先に挨拶した。

「にゃあ、ご足労いただいて恐縮にゃん」

 本来は格が上のオレがへりくだった態度を取るべきではないのだが、六歳児が威張っても痛々しいだけなのでこのぐらいで勘弁して欲しい。

 だからって舐めた態度を表に出したら猫耳たちが黙ってないけどな。

「公爵様には娘を救っていただき感謝します」

 続けて挨拶するイジドール侯爵。イングリス将軍よりも年上に見えるが、こちらが年相応だ。

「にゃあ、マルレーヌが希望するならいつでも帰国できるにゃんよ」

「ありがとうございます。ですが、娘はまだ帰る気はないようです」

「学園内にはルーファスもいるし、安全だから安心していいにゃんよ」

「公爵様、ルーファス殿下はご無事なのですか?」

 ファブリス侯爵が横からかぶり気味に訊く。

「ルーファスなら王族の籍を剥奪されてからは魔法大学の講師をやっているにゃん」

「ご無事なら何よりです」

「安心いたしました」

 イジドール侯爵もファブリス侯爵の言葉にうなずいた。

「にゃあ、卿等は運が良かったにゃんね」

「運でございますか?」

「アナトリ派に出し抜かれなかったら、たぶん西部連合が滅んでいたにゃんよ」

「確かに公爵様のお力の前では我らの力などたかが知れておりますので」

「オレがどうこういう以前に、ケントルムはたちの悪い連中に目を付けられていたにゃん」

「たちの悪い連中でございますか?」

「にゃあ、アナトリでルーファスの協力者だった連中にゃん」

「確か護国派と記憶しておりますが」

「そうにゃん、そいつらはアナトリの革命に絡んだ魔導師と繋がっていたにゃん、正確にはヤバい禁忌呪法をオツムに仕掛けられていたにゃん」

 オレは自分の頭を指差す。

「禁忌呪法でございますか?」

「にゃあ、ヤツらに接触したら卿等も犠牲になっていた可能性が高いにゃんね、現に暗部の魔導師はやられたにゃん」

 西部連合の計画にアナトリ派が割り込まなかったら、護国派の動きも多少違っていたはずだ。

 トンネルが無事なら魔獣のエーテル機関を埋め込まれたヤツが、逆にケントルムにも入り込んでいたかもしれない。

 アナトリを潰すのにケントルムはいい駒だ。もっと利用しようとしただろう。

「公爵様、いくら禁忌呪法でも我らを狙い撃ちするのは難しいかと、特に王都近辺は呪法が発動いたしませんので」

 イジドール侯爵が否定するのもわかる。

 王都近辺の呪法に対する結界はなかなかのものだった。こっちのレベルが低い呪法に対しては、と但し書きが付くけどな。

「王都の結界では無理にゃんね、ヤツらが使った呪法はこんな感じにゃん」

 アナトリの王都の城塞門で魔獣に変化した護国派のマルク・ヘーグバリ男爵の姿をファブリス侯爵とイジドール侯爵の脳裏に流し込んでやった。

「「……っ!」」

「たぶん卿等の知っている呪法とはちょっと違うと思うにゃんよ」

 呪いとかの辛気臭い呪法とは一線を画す派手さ加減だ。

「確かに魔獣とは」

「しかも簡単に魔獣を倒されている」

 驚いているのはそっちか。

「戦をするなら、次はしっかり調べてから始めることをオススメするにゃん」

「い、いえ、滅相もございません」

「戦などありえません」

 イジドール侯爵とファブリス侯爵は揃って首を横に振った。

「この国に戦をする余裕が残っている領地などありますまい」

 イングリス将軍が青い顔のふたりを見てニヤリとする。将軍には猫耳たちが収集した情報を伝えてある。

「そうにゃんね、魔獣の森が活性化している現状で戦なんかやらかしたら、また魔獣を呼び込むにゃん」

「大規模な戦に魔獣が出るというのは、本当なのですな」

「普段はともかく、今なら間違いないにゃん」

 魔獣の森の魔獣も狩ってはいるが、思ったほどマナの濃度が下がらないこともあって、直ぐにどこからともなく補充されていた。

 この調子だと条件が揃えば再び大発生が起こる。しかもその条件のハードルがえらく低くなっていた。

「西部連合以外の西側の領地の連中には、バカなことをしないように卿等からも警告を出して欲しいにゃん」

「かしこまりました、ただ彼らが従うかどうかは保証致しかねますが」

 ファブリス侯爵が答えた。

「バカな真似をすれば、自分たちがバカだと思い知るだけにゃん」

「確かに」

 イングリス将軍がうなずく。

「公爵様、既に援助を頂いておりますが、見返りは領内の通行の自由と商業の許可だけでよろしいのでしょうか?」

 ファブリス侯爵が切り出した。それが西部連合の本題なのだろう。

「にゃあ、いまのところはそれで問題ないにゃん、他に何かあればその都度、許可を求めるにゃん」

「かしこまりました」

「ああ、それと盗賊は問答無用でとっ捕まえるにゃんよ」

「そちらも問題ございません」

「盗賊を狩っていただけるなら有り難いの一言です」

 イジドール侯爵も同意した。

「しかし、商売と言っても格安で小麦を売る程度では、マコト殿の利益にはならないのではないですかな?」

 イングリス将軍が訊く。

「別にケントルムの人たちから儲けようとは思ってないにゃん」

「それでよろしいのですか?」

 ファブリス侯爵が訝しげに尋ねる。普通なら赤字で大変なことになるが、オレのところは違う。

「にゃあ、問題ないにゃん、既に魔獣だの魔力だのでオレのところは大幅な黒字が確定しているにゃん」

「魔獣がマコト殿の利益になるのですかな?」

 イングリス将軍が尋ねる。

「魔獣の素材でしょうか?」

 イジドール侯爵も知りたいらしい。

「そうにゃん、オレのところでは便利に使わせて貰っているにゃん、この建物の材料にも使っているにゃんよ、ただ外には出してないにゃん」

「魔石も含めて魔獣の素材は外にお売りにはならないと?」

 ファブリス侯爵はそこが気になるらしい。

「にゃあ、魔獣の素材は魔法以外での加工が難しいにゃん、いまのところオレたち以外には使えないにゃん」

「魔法でございますか?」

「上級の宮廷魔導師が最低ラインにゃん、それに扱いをしくじるととんでもないことになるモノもあるにゃん」

「せめて魔石をお売りいただけたら良かったのですが」

 残念そうなファブリス侯爵。魔石ことエーテル機関はアーティファクト系の武器に使うことが多い。

「魔石は、出土品も含めて危ないにゃんよ」

「確かに放出される魔力の管理が難しい面はありますが」

「条件が揃うと魔石から魔獣が生まれるのは知ってるにゃん?」

「あっ、いえ存じません、魔獣が魔石から生まれるのですか?」

「そうにゃん」

 オレは掌に魔獣のエーテル機関を再生した。赤いごく普通のヤツだ。

「魔石に魔獣の森と同程度のマナを浴びせるにゃん、それが発生の条件にゃん」

 掌のエーテル機関を結界でくくってマナを充填する。

 エーテル機関は直ぐに大きさを増した。魔石の中で何かがうごめくのが見える。

「濃度の高いマナに晒すとこうなるにゃん、これは出土品の魔石も同じにゃんよ」

「「「……っ!?」」」

 イングリス将軍も西部連合のふたりと一緒に驚いていた。

 オレは大きくなったエーテル機関からマナを抜き強制的に元の大きさに戻してから格納した。

「嘘だと思うなら、手持ちの魔石で試してみるといいにゃん」

 元軍人のイジドール侯爵はともかく、領内にいくつもの魔導具の大きな工房を抱えるファブリス侯爵なら、出土品の魔石をいくつか持っていてもおかしくはない。

「出土品の魔石の表面に刻印が刻んであっても、年代的に劣化してるから、取り扱いは注意するにゃんよ、あの魔力には人をグール化させる効果もあるにゃん」

「「「グール化!?」」」

 また三人揃って驚いていた。

 全員、思い当たる節があるようだ。

「公爵様、魔石の保管にはどうするのがよいのでしょう?」

「余計な魔力が漏れないように結界で封じ込めるしかないにゃんね、刻印の打ち直しはヤメた方が無難にゃん」

「封印でございますか?」

「にゃあ、それと戦闘ゴーレムに未調整の魔石を突っ込むと魔獣化するから気を付けるにゃんよ」

「マコト殿、刻印を刻んだ魔石でも魔獣化するのですか?」

 イングリス将軍は戦闘ゴーレムにも心当たりがあるようだ。

「表面に刻印を刻んだ程度では駄目にゃん、魔石の中をイジって魔獣化の記述を削るにゃん、それをやらなかったアナトリの王宮では、このまえ見事に魔獣化したにゃんよ」

「マコト殿のお言葉ならそうなのでしょうな」

「これも試すのはオススメしないにゃんよ」

「あっ、いえ、戦闘ゴーレムも今回の件で失われておりますので」

 王都か王都圏に隠されていたらしい。

「将軍は王国軍を復活させるにゃん?」

「いずれはそうですな、しかし現状では現実的ではないでしょう」

 残念そうなイングリス将軍。

「そうにゃんね、直ぐは無理にゃんね」

 元になる人間がいないのでアナトリで強引に王国軍をシャキッとさせた手は使えない。

「ただ、王国軍を再建しても今の時代では無用の長物となりそうですな」

「新たな秩序の中でまた必要になるかもしれないにゃんよ」

「そうですな、まあ必要とされるまではおとなしくしていましょう」

 イングリス将軍は深くうなずく。

「にゃあ、ではオレからのお願いにゃん、実は王宮のポストが空きまくって困っているにゃん、その相談がしたくて卿等にもご足労願ったにゃん」

 オレも本題に入った。

「王宮のポストでございますか?」

 ファブリス侯爵が訊く。

「にゃあ、宰相を始め禁呪の犠牲だのなんだので空席が多数出ているにゃん」

 王宮務めの中には、特権を傘に犯罪奴隷相当の罪を犯しているヤツらがわんさかいたので、とっ捕まえていま猫耳になっている。

 おかげで人が足りなくなった。

「オレのところの猫耳たちが、実務を担当できるから行政が滞ることはないにしても、それだと何処の国かわからなくなるにゃん」

「そうでしょうな、その状況ではマコト殿が占領を否定しても誰も信じますまい」

 イングリス将軍の言葉にファブリス侯爵とイジドール侯爵がうなずく。

「ケントルムの征服はハリエット陛下の御心に背く行為にゃん、だからといってこのまま撤退も無責任だと思っているにゃん」

 王都に王宮よりもデカいピラミッド群をこしらえたので、何を言っても手遅れかもしないが。

「公爵様に撤退されてはこの国は冬を越すことなく滅ぶかと」

 ファブリス侯爵がおだててくれる。

「にゃあ、おだてても何も出ないにゃんよ」

「いえ、ファブリス侯爵はおだててなどおりません、真実を語っております」

 イジドール侯爵が真顔で補足する。

「でしょうな、西部連合こそマコト殿のおかげで大きな被害は免れましたが、この先、行き場を失った避難民が大挙して押し寄せれば混乱は必至、新たに魔獣を呼ぶ事態になるかと」

「混乱はヤバいにゃんね」

 理由は不明だが、西方大陸と違ってこっちの魔獣の森はマナと魔獣の補充がキツくて簡単に潰せそうにない。

「マコト殿が手を引かれても、人の領域に魔獣を呼び寄せるような真似さえしなければ、大丈夫なのでしょうが、馬鹿なことを考える人間がいないとも限りませんし、そうなれば、この国は完全に魔獣の森に沈みますな」

 イングリス将軍は深い溜め息を吐く。

「状況が落ち着くまでは、オレのところで魔獣の森は監視するにゃん、大発生はできるだけ初動で潰せるような体制を取るにゃん」

 これは西方大陸も同じだ。ヤバいヤツは何処にでもいる。

「マコト殿の軍勢が目を光らせているなら、我らも安心だ」

「まったくです」

 イングリス将軍の言葉にうなずくイジドール侯爵。

「それで公爵様、我々が王宮に奉職させる人材には、どのような人間をお求めなのでしょう?」

 ファブリス侯爵が質問する。

「欲しいのは文官にゃん」

「騎士はよろしいのですか?」

「こっちの第一騎士団の一部と第二騎士団が健在だから問題ないにゃん」

「かしこまりました、人数はいかほどに」

「各領地で一〇人程度は欲しいところにゃんね、能力はこちらで教育するから特に指定はないにゃん」

「身分的なものも問われずでしょうか?」

「にゃあ、貴族でも平民でも構わないにゃん、ただし扱いは一緒にゃんよ」

「かしこまりました、早急に選抜いたします」

「それと度を越した公私混同や利益誘導は、こちらの法律に照らし合わせても処罰の対象になるから気を付けるにゃん」

「当然ですな」

 イングリス将軍がうなずく。

「問題なのは宰相のポストにゃん」

「宰相となると上級の法衣貴族の有力者から選出されるのでしょうが、まともな人材は残っておりますまい」

 イングリス将軍が壁の向こうを見る。

 有力な法衣貴族は猫耳になっているか、全財産を持って地方に逃げたかのいずれかだ。なお、反主流派というのは上級貴族には存在しない。

 それでいて中級や下級がまともかというと、平民階級にかなり恨みを買っていたヤツらが多かったようで、避難の混乱時にかなりの数が命を落としていた。

「にゃあ、オレとしてはイングリス将軍にお願いしたいにゃん」

 宰相のグレン・バーカーだった猫耳のグレも推薦していた。自分が幽閉させたわけだが、それだけ将軍の能力を恐れていた証拠でもある。

 殺せなかった辺りに友人としての情も残っていたようだが、何の贖罪にもならないにゃんね。

「マコト殿、私が宰相でありますか?」

 言葉が改まるイングリス将軍。

「そうにゃん、信用できる筋から推薦も貰っているにゃん」

 グレ以外にも猫耳になったかつての王宮の中枢で私腹を肥やした連中も推薦していた。手を変え品を変え私腹を肥やしていただけあって仕事には精通しているヤツらだ。

「実務はウチの猫耳たちがサポートするにゃん、将軍の力でこの国を再建して欲しいにゃん」

「むむ……」

 今度は言葉に詰まるイングリス将軍。

「将軍なら、最適かと」

「私も同感です」

 イジドール侯爵とファブリス侯爵も同じ意見だった。

「わかりました、マコト殿と西部連合の諸侯殿に協力していただけるならお引き受けいたしましょう」

 イングリス将軍が決断した。


お疲れ様です。

久しぶりに更新します。

感想や誤字報告をいただいた方、ありがとうございます。

本業はこれから佳境ってところで、

……現実逃避的な。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続き楽しみにしてます!
[一言] (´·ω·`)
[一言] 更新ありがとうございますm(_ _)m これからも更新楽しみにしています。
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