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お出迎えにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年十二月一〇日


 ○ケントルム王国 王都フリソス 猫スフィンクス 露天風呂


「にゃあ、いい湯にゃん」

『『『にゃあ』』』


 王都フリソスの貴族地区だった辺りに猫耳たちが作ったのは、ネオケラスをモデルにしているがとんでもなくデカい四つの青いピラミッドとそれに囲まれた猫スフィンクスだ。

 ピラミッドなんか高度限界を軽く越えて砂海の魔獣の集合体みたいにレーザーを魔力に変換している。エコかどうかはわからないが、オレたちの最新技術が投入されていた。


 オレは、抱っこ会を終えて朝から猫スフィンクスの背中に作られた露天風呂に新型猫耳ゴーレムたちと入っている。新型になっても風呂好きは変わらないみたいだ。


 新型といえば西方大陸にいる猫耳ゴーレムたちも含めて、全数が昨日のうちに勝手にバージョンアップして新型の赤いのに切り替わっていた。

 新型って砂海の超大型魔獣のエーテル機関が必要じゃなかったのか?

 猫耳ゴーレムたちに聞いても『ウチらもわからないにゃん』という答えしか返ってこなかった。

 この世界は謎に満ちているにゃん。



 ○ケントルム王国 王都フリソス アナトリ王国大使館 応接室


 四つの青いピラミッドのうち一つを大使館に割り当てて、猫耳たちが保管していた荷物も運び込んである。

 避難していた大使館のメンバーとその家族もこちらに移動して貰った。


「お待たせしたにゃん」

 面談するのは大使と副大使それに書記官の代表者が一名だ。

「公爵様、この度は我らを救っていただきありがとうございます」

 オレがちっちゃいので一瞬驚いたようだが、大使グレッグ・クームズが代表して感謝の口上を述べた。

「大使館の職員だけでも無事でなによりにゃん」


 資料によればグレッグは今年五〇歳の法衣貴族で男爵。ハリエットの父クリフォード・ベッドフォード公爵の元側近で王国軍参謀本部長を務めていた人物だ。

 王国軍改革の中心人物のひとりだがクリフォードの死後、直ぐにケントルムの大使として赴任させられていた。王国軍を食い物にしたい連中から厄介払いをされたわけだ。


「にゃあ、他の邦人を救えなかったのは残念にゃん」

 開戦直後にアナトリ人の多くが略奪やリンチで命を落としている。

「我らの情報収集の甘さが招いたことです」

「確かにいまの人員では諜報活動は無理にゃんね、これは本国の失策にゃん、オレも甘かったにゃん」

「公爵様に落ち度はございません、我らが情報を掴んだ時点で既に手遅れだったのですから」

「にゃあ、いまはアナトリの人間に危害を加えたヤツらを探しているところにゃん」

「殺すのですか?」

 副大使のアイザック・ディクソンが口を開いた。


 彼は三五歳で見た目はビジネスマン風だ。平民出身で現在は法衣貴族の騎士伯の階級を得ている。グレッグの王国軍時代からの部下で数字に強いらしいが、ここではいまいち活かしきれていない様だ。


「にゃあ、もちろんケントルムの法に従って処罰するにゃん」

「ならば問題は無いかと」

 アイザックも同意した。既に容疑者はほぼ全員を狩り終わっている。記憶を直に精査しているので間違いはない。

 犯罪奴隷相当の者は猫耳になって働いて貰うだけだ。

「公爵様は、ケントルムを完全に征服されないのですか?」


 質問をしたのは書記官代表のピーター・オーツだ。こちらも平民出身の二六歳、とはいえあのアーヴィン様の守護騎士のエラ・オーツの従兄でベイクウェル商会の縁者なので、ちゃらい兄ちゃんの外見のままの人間では無いだろう。


「征服なんてしないにゃんよ、ハリエット陛下もお望みではないにゃん」

「かしこまりました」

 ピーターは余計なことを言わずに引き下がった。

「今後はどうするにゃん? 本国からは帰国の許可が全員に出ているから、希望するならオレたちが責任を持って送り届けるにゃんよ」

「大使館員の大半が帰国を希望すると思われます。ここにいる三人はしばらくこちらに残りますが」

 グレッグ大使が答えた。

「どちらも問題ないにゃん、帰国希望者の準備ができ次第いつでも出発が可能にゃん」

「かしこまりました、準備をさせます」

「公爵様はグランキエ大トンネルを作り変えられたとお聞きしましたが、どの程度直されたのですか?」

 アイザック副大使が質問した。

「にゃあ、タルス一族が施設ごと消えたからヘンテコな馬車に換えてオレたちでモノレールを敷いたにゃん、一週間もあればグランキエ州に出るにゃんよ」

「「「一週間ですか?」」」

 三人が声を揃えた。

「一般の旅客運行ならそんなモノにゃんね」

 それ以上の速度を出すのは危ないからオレたち専用だ。

「ずいぶんと速いのですね」

「にゃお、前が遅すぎたにゃん、タルス一族は滅ぶべくして滅んだにゃん」

「確かにタルスの馬車はお世辞にも速いとは言えませんでしたが」

「グランキエ州の先もモノレールを通してあるにゃん、だから王都フリソスから王都タリスまで全部で十四日前後にゃんね」

「十四日でございますか?」

 目を丸くするグレッグ大使。

「にゃあ」

「公爵様のモノレールは、避難先からこちらに来る時に乗せて頂きましたが、あれは恐ろしく速い乗り物でした」

 速度はリニアモーターカー並だからな。オレも速いと思う。

「にゃあ、速度は直ぐに慣れるにゃん」

「帰国してもまた十四日程度でこちらに戻ることも可能なのですね」

 書記官のピーターが質問する。

「そうにゃん、タルスの馬車よりは気軽に使えるにゃんよ」

 いずれ誰でも新幹線ぐらいの感覚で使える様にしたいが、現状そこまで長距離移動の需要はない。

 一般人の移動は敷設が始まっている蒸気機関車を使った鉄道が中心になると思う。貨物は鉄道一択だ。

「人の交流も活発化しそうですね」

「そうにゃんね、もっと盛んになるといいにゃん」

「物流はやはりネコミミマコトの宅配便が中心になるのでしょうか?」

 やはりピーターはベイクウェル商会の縁者だけあって気になるようだ。間違いなく商会から派遣された人間だ。

「オレのところの荷物はそうなるにゃん」

 鉄道事業者にもなるから国鉄に近い存在になるだろう。

「ケントルムの現状では、しばらく交流どころではなさそうですが」

 アイザック副大使がいう。

「そうにゃんね、復興以前にかなり国土の荒廃が進んでいたから、厳しい状態が続きそうにゃん」

「王都以外の状況は我らも調査不足でした」

 グレッグ大使がまた頭を下げる。

「にゃあ、これまでは本国がそこまでの情報を欲してなかったから問題ないにゃん」


 各領地の独立性が高いケントルム全体での諜報活動を本気でやるには、大使館の人員も予算も少なすぎたし、これまではコストを掛けてまで情報を集める意味もなかった。

 去年まではそれで良かったのだが、今年はアナトリ王宮の革命とオレの小麦が状況を一変させた。

 それに対するケントルムの変化を見落としてしまったわけだ。

 ケントルムの連中にしてもアナトリを文明の遅れた田舎者が住む国とバカにしていたから今回の馬鹿げた侵攻を考えたのだろう。

 本来、止めるべき国王はあの調子だし、宰相のグレン・バーカーはアナトリ派からの賄賂で便宜を図りまくりで、第二王子のルーファスも愛する姉のために先乗りしてやる気満々だったからな。


「公爵様はこちらでも一〇以上の領地を占領されているのですね」

 グレッグ大使が質問した。

「にゃあ、仕方なくにゃん」

 実際には一〇どころの騒ぎじゃない。

「その領地はアナトリに併合はされないのですね?」

「ないにゃん」

 国境線の変更はない。変更したところでアナトリに利益はない上に余計な手間ばかり掛かる。

「賢明なご判断だと思われます」

 おべっかではなく大使も賛成らしい。

「将来的な遺恨を潰せたのは幸いかと」

 アイザック副大使も同意する。

「遺恨が残るほど貴族が残ってないにゃんよ、それに国境の引き直しはハリエット陛下がお望みじゃないにゃん」

「かしこまりました。国境の引き直しはせずに公爵様の領地とするのですね」

「こっちでも早急に食料の生産をするのに土地が必要なのと、空き地にしたらバカどもが戦を始めるからしばらくは占領したままにするにゃん」

「公爵様の土地ならば手出しする者はいないでしょう」

「そう願いたいにゃん」

「すると公爵様はこちらでも公爵様ですね」

 ピーターが言った。

「そうにゃん?」

「基本はアナトリと同じです。一〇を超える領地を持つ者は公爵として叙爵じょしゃくされます」

「にゃあ、公爵なら多少の無理は効きそうにゃんね」

 いまの状態でも力ずくでどうにでもなるけどな。


 職員の大半が帰国するので、大使館の機能もオレたちが手伝うことになった。



 ○ケントルム王国 王都フリソス アナトリ王国大使館 大使執務室


「ここは立派すぎて落ち着かないのだが」

 アナトリ王国大使グレッグ・クームズは自分の椅子に座ってキョロキョロしている。

 ピラミッドの上層階なので、半透明の壁からは荒野と化した王都圏の彼方まで眺めることができた。

「公爵様のお力は本国から伝え聞いておりましたが、実際に目の当たりにすると凄まじいものがありますね」

 副大使のアイザック・ディクソンはソファーでくつろいでいる。

「本当に六歳児とはな、そこにいちばん驚いたぞ」

「公爵様は、六歳児としてはお小さいかもしれませんが、魔力と財力と武力は西方も東方も敵う者はいないでしょう」

「だろうな、しかも配下の者とゴーレムたちも半端ないときている、正確に情報が伝わっていればケントルムの連中も戦など起こさなかったであろうに、そこは私の失態でもあるが」

「いえ、我々も戦の前まではアーヴィン・オルホフ侯爵の作り出した与太話だと思い込んでいたぐらいですから、なかなか難しいかと、ピーターは違っていた様ですが」

 アイザック副大使は書記官のピーター・オーツを見た。

 通信の魔導具をいじっていたピーターはそれを懐に仕舞った。

「ある程度の情報は得ていましたが、ケントルムにはほぼ無関係でしたので」

「何か新しいネタでもあったのか?」

「アナトリ人に危害を加えた人間は既にほとんどが捕縛されたようです。公爵様の仕事の早さには驚かされます」

「ピーターはもっと公爵様に刺さって行くのかと思ったが、随分とおとなしかったではないか」

 グレッグ大使がからかうような口調てピーターに訊く。

「公爵様には接触無用と実家からキツく言い渡されておりますので」

「ベイクウェル商会は、公爵様と懇意にされていると聞いたが」

 アイザック副大使が尋ねる。

「実質、公爵様のお作りになった商会であるネコミミマコトの宅配便の傘下になっているようです」

「ほぉ、あのベイクウェル商会を傘下に収めたのか」

 グレッグ大使も感心する。

「大公国の元将軍を始め優秀な方を集められている上に、公爵様の小麦と魔導具を独占的に扱っていますからね、更に公爵様の資金力と庇護があっては、例え大店の商会でも太刀打ちはできません」

「ケントルムを打ち負かす公爵様の庇護下にあっては、下手に手を出せば大やけどか」

「その結果、傘下に収められたようです」

「なるほど」

 グレッグ大使は深くうなずいた。

「公爵様がこれだけの力の違いを見せつければ、今後は我々をアナトリの田舎者と蔑む者もいないでしょう」

 アイザック副大使は軽い口調だが目は笑っていない。

「蔑むも何も誰もおるまい」

 グレッグ大使が背後の半透明の壁を見る。

「全員を王都圏の外に強制的に避難させたようですね、しかも避難した法衣貴族のかなりの人数が姿を消したようです」

「消えた?」

「犯罪ギルドに関係している者や、非合法の奴隷を所有している者にアナトリ人に危害を加えた者などのようです。平民にリンチにあった者も少なくないようですが」

 ピーターが答えた。

「公爵様は以前から貴族だろうが平民だろうが、理不尽な暴力はお許しにならないと聞いております」

 アイザック副大使が付け加えた。

「では、そういうことなのだろう」

 グレッグ大使はまたうなずいた。



 ○ケントルム王国 ワガブンドゥス州 州都パゴノ グランキエ大トンネル前駅


「ふぅ、ここがケントルムなんだ~」

 停車したモノレールの車両からホームに降り立ったキャリーが背中を伸ばした。

「駅という建物は巨大なのです」

 ベルも続く。モノレールのプラットフォームはオレのうろ覚えの新幹線の駅を参考に作っているのでこっちの世界ではかなり異質な建物だ。

 キャリー小隊の面々もキョロキョロしていた。

『にゃあ、お疲れ様にゃん』

 オレは幻体でふたりを出迎えた。

「「マコト!」なのです!」

『にゃあ』

「まだ、幻体なんだね」

『なかなか忙しくてここまで出迎えられなかったにゃん』

「そりゃ忙しいよね」

「わかるのです」

『戦争をやっていたから仕方ないにゃん』

 さっきは元チビたちを幻体で出迎えた。元チビたちは戦艦型ゴーレムでこっちに向かっているので今日中に到着予定だ。

 キャリーたちはケントルム側の準備ができてないので、このままモノレールを使って王都まできて貰う。

 オレ個人は、抱っこ会の予定が詰まっているのでマジで忙しい。


 アイリーン王女一行もホームに出てきた。

「マコト殿、この度は親子ともども世話になった」

 アイリーン王女が頭を下げる。ケントルムの地に戻ったので第一王女の称号も戻った。

『にゃあ、王女殿下にお礼を言っていただけるほどの結果は残せてないにゃん』

 とにかく被害が大きすぎた。

「いや、国が滅んでもおかしくない状況で、マコト殿は十分な働きをしてくれた」

『そう言って貰えると助かるにゃん』

「状況は報告を受けてある程度は把握した。かなり厳しい状況なのは承知している。まったくバカなことをしたものだ」

『バカなことをしたのは間違いないにゃんね、それに不幸が重なってこの有様にゃん』

「マコト殿、私はどうすればいいのだろう?」

『まずは国王と王太子と話し合って欲しいにゃん』

「厚かましいお願いなのは重々承知しているが、マコト殿はケントルムの復興に手を貸していただけるのだろうか?」

『にゃあ、王女殿下のお願いは断れないにゃんね、でも、オレたちを使うと既得権益を無視するから揉め事の種になるにゃんよ』

「問題ない、こちらでは私もよそ者だ、気を使ったところで揉め事は起きる」

『それならいいにゃんよ、オレたちでできることはやるにゃん』

「感謝する」


「にゃあ、一時間程度ここに停車するにゃん、駅弁と立ち食い蕎麦を用意してあるにゃん」

 駅員の制服を着た猫耳が乗客たちを案内する。ホームには出汁のいい匂いが漂う。


『にゃあ、では王都で待っているにゃん』

 オレは手を振って幻体を消した。


誤字報告ありがとうございます。


本業多忙につき更新が滞っておりますが細々と続けておりますので、気が向いた時になどお読みいただければ幸いです。

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