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モノレールを通すにゃん

 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 宮廷魔導師団 主席執務室


『にゃあ、ごきげんようにゃん、オレにゃん、マコトにゃん、スタロニク州を占領したことをここに宣言するにゃん』


「おーマコト公爵は、スタロニク州にまで出て来たのか、スゴいね」

 モリス・クラプトン主席宮廷魔導師は通信の魔導具を見た。完全に他人事だ。

「ついでに砂海の魔獣の集合体も始末してくれればいいのに」

 ルフィナ・ガーリン次席宮廷魔導師もテーブルに頬杖をついて自分の通信の魔導具を指先で突く。

「それはそれで面倒なことになるぞ」

 ルミール・ボーリン上級宮廷魔導師は口は悪いが真面目だ。


『諸君らに悪い知らせにゃん、魔獣の大発生が砂海の魔獣の集合体の移動に伴って東部から中央を含む国土の東半分に拡がりつつあるにゃん』


「確かに南と北からも魔獣の越境が確認されているね」

「もっと増えるってこと?」

「ああ、集合体に引き寄せられているのならもっと増えてるな、こいつはヤバいんじゃないか?」

 魔導師の三人は情報が表示されるタブレット型の魔導具を眺めた。



 ○ケントルム王国 スタロニク州 カサドリ拠点 大露天風呂


 屋上からアクィルス拠点よりもパワーアップした大露天風呂に運ばれてピンクの猫耳に抱っこされながら、フリソス城の通信の魔導具をジャックしている。



 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 王太子執務室


『諸君らに迷っている時間はないにゃんよ』


「またマコト公爵か、魔導師が対策を講じたのではなかったのか?」

 王太子オーガストは通信の魔導具を諦め顔で眺めた。

「あえなく完全に乗っ取られていますね」

 シリル・ドラン第二騎士団団長が自分の通信の魔導具を見る。シリルは先日から王太子の護衛に加えて補佐官のようなことまでやらされていた。

 シリル団長は平民出身の叩き上げで四〇歳になる。一見すると人のいい細身の中年男だが、魑魅魍魎の棲まう王宮で団長にまで上り詰めただけあって、見た目どおりの人間ではない。

「まあ、王都圏の民を避難させてくれるのは有り難いが」

「敵国の貴族ですから、マコト公爵には何か魂胆があるのでしょう」

「そうであろうな、ただマコト公爵が平民を手厚く保護するのも事実らしい、アナトリにいるケントルム臣民を保護してくれているそうだ」

「そいつは我が国とは大違いですな」

「……まったくだ」

 王都内のアナトリ人はすべて殺されている。

 特にアナトリ人の収容所と大使館の襲撃は、王命によりオーガスト自身が第一騎士団に命じていた。

 事実は違うが虚偽の報告も有って王太子はそう思っている。

「これといった魂胆がないのなら、マコト公爵は既に戦後処理を始めているのかもしれませんね」

「早くも戦後処理か、確かにいまの状態では我が国に勝ち目はないか」

「あちらが圧倒的なのは間違いありませんね」

 大使館からの情報を精査するまでもなく遠見の魔導師の観測結果だけで、比較にならないほどの戦力差があることがわかる。

「これは近いうちに私も縛り首だな」

 硬い笑みを浮かべるオーガスト。

「殿下は大丈夫ですよ、私が交渉します。これでも交渉事は得意でしてね」

「シリルには第二騎士団を守って貰いたい、私は自分でどうにかするさ」


『にゃあ、オレたちは諸君らを救うために遠路はるばるやって来たわけじゃないにゃん、だから占領地域以外の面倒はみれないにゃんよ』


「殿下、どうやらマコト公爵の言葉に間違いはないようですね、魔獣は中央近くにも進出しているようです」

 シリル団長がタブレット型の魔導具で確認した。


『各領主に告ぐにゃん、もし降伏するなら卿らの領地内の魔獣を排除してやるにゃんよ、通信の魔導具のチャンネルは開けておくにゃん、卿らの賢明な判断を期待しているにゃん、なお州都が魔獣に潰された領地は勝手に占領する予定にゃん』


「そうは言っても降伏する領地が出ますかね?」

 降伏など領主には簡単に受け入れられない提案だ。

「むしろ取り返しがつかなくなる前に降伏してくれれば良いのだが、無理だろうな」

「殿下もそう思われますか?」

「いくら領民の犠牲が積み増そうとも州都が無事ならば、降伏の選択はしまい」

「ただ何処の領民も領主と心中なんかせず、さっさと逃げ出すでしょうけど」

「そうであって貰いたい」


『王都にいる連中もさっさと避難しないとヤバいにゃんよ、特に東半分は一瞬で壊滅すると思った方がいいにゃん』


「マコト公爵は随分と厳しく見積もっているんじゃないか? 魔導師の仕掛けた罠があるだろうに」

「殿下、王都は罠の外からでも砂海の魔獣の集合体の射程に入るようですよ」

「本当か?」

「先日から主席宮廷魔導師の名前で情報がこっそり回ってます」

「主席殿か、するとマコト公爵の見積もりは正確か」

「そうなりますね、むしろあちらが正確な情報を持っているみたいですよ、砂海の魔獣の探査魔法もマコト公爵の提供だそうですから」

「マコト公爵からの?」

「そうです、元は薔薇園の魔女にマコト公爵が提供したモノだそうです」

「魔法でも魔導具でも遅れているはずのアナトリの貴族が、完全に我らの上を行っているとはな」


『最後にケントルム国王に告げるにゃん、お前はすでに統治能力を失っているにゃん、さっさと降伏することをお勧めするにゃん』


 次の瞬間、衝撃音とともに王宮全体が揺れた。


「何だ!?」

 王太子オーガストは周囲を見る。室内に大きな変化はない。


『にゃあ、どうせ隠れるならもっと深い場所がお勧めにゃん、そんな浅い場所ではいつでもブッ刺せるにゃんよ』


「杭?」

 王太子はシリルを見た。

「前回のような杭が四本突き刺さったようです、どうやら地下王宮に届いたらしいと」

 シリルがタブレット型の魔導具で確認した。

「陛下は?」

「わかりません、地下王宮内の中は見えませんから」

「そうであったな」

「ただ、いまのマコト公爵の口ぶりだと陛下は無事かと思われます」

「だとしたら完全に遊ばれているな」


『にゃあ、それとウザい暗部の魔導師は全員お仕置きにゃん』


「ぐっ!」

 突然、王太子の執務室に声が響き黒ずくめの男が現れた途端、ドサリと倒れた。身体の表面にバチバチと青い火花が散っている。

「……誰だ?」

 オーガストには見覚えのない顔だ。

「暗部の魔導師のようですね、殿下の動向を監視していたのでしょう」

 シリルはそう言い控えていた騎士に手で指示した。

 騎士は剣を抜くと倒れている男を突き刺す。男は声を上げることなく事切れた。

「殺したのか?」

「殿下の暗殺も視野に入れての監視でしょう、始末するしかありません」


『にゃあ、それではまたにゃん』



 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 宮廷魔導師団 主席執務室


「あれれ、ルミールって暗部だったの?」

 モリス・クラプトン主席宮廷魔導師は床に倒れてヒクヒクしているルミール・ボーリン上級宮廷魔導師を眺めた。

「……ちょっと帳簿の手伝いをしただけで暗部ではない」

「それでも暗部に分類されちゃったんだ、お気の毒」

「見てないでどうにかしてくれ」

 ルミールはまだ痺れている

「無理だよ、こんなの見たことのない魔法だもん、ルフィナはどう?」

「そのうち解けるんじゃない?」

 ルフィナ・ガーリン次席宮廷魔導師は床に転がっている男に興味なし。

「それより地下王宮にでっかい杭が打ち込まれたみたいだね」

 モリスが床を指差す。

「全部で四本、東西南北に正確に打ち込まれているわね。いったいどこから打ち込んだのかしら?」

 ルフィナは魔導具ではなく自分の探査魔法で確認した。

「うーん、王都の外から飛んで来た様子がないから、城の上空で錬成されたんじゃないかな?」

 今度は天井を指差すモリス。

「へえ、お城の上であんなモノが錬成できちゃうんだ、ねえ、マコト公爵が本気で攻撃してきたらマズいんじゃない?」

「うん、全員が頭から串刺しじゃないかな?」

「やっぱり? 降伏した方がいいんじゃない」

「でも、マコト公爵がボクたちを攻撃することはないんじゃないかな? 直接、敵対しているわけじゃないし」

「それは甘いんじゃないか?」

 ルミールはやっと身体を起こした。

「ママが、公爵は可愛いネコちゃんだっていっていたから、大丈夫だって」

「どういう根拠だ?」



 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 地下 禁足領域


『大丈夫かどうかは、今後のモリスの動き次第にゃん』

「にゃあ」

 オレは幻体を飛ばして地元の猫耳と交代して王宮に潜入中の元カロロス・ダリのロロと一緒にフリソス城地下の禁足領域にやって来た。

『杭は四本とも防御結界を抜いてしっかり地下王宮に刺さったにゃんね』

「にゃあ、砂海の砂の侵食系には効果ないみたいにゃん」

 地下王宮を守る未知の魔法も砂海の砂には勝てない様だ。

『杭が接触して見えた魔法式は、やっぱり現代魔法の派生型っぽいにゃん、一部オリエーンス連邦の魔法式の影響もあるにゃん』

 以前に観察した内容以上のモノは出て来なかった。

「やっぱ完全に独自の魔法では無かったにゃんね」

『にゃあ、魔法式自体もいまいち洗練されてないにゃん、でも未知の形式だから先制攻撃には有利そうにゃん』

「暗殺と奇襲には良さそうにゃんね」

『もしかしたらこの魔法には、七神教皇国あたりが絡んでいるのかもしれないにゃん』

「お館様がアイリーン様から聞いたケントルム建国神話にも出てくる国にゃんね、そんなモノが実際にあったとは驚きにゃん」

『まったくにゃん』

 実態は天使ミサと天使クミの天使姉妹が作った国だ。

『にゃあ、北極に引きこもってるからいまの状況は不明にゃん、ただ国を作った天使姉妹が手を焼く連中らしいからまともじゃなさそうにゃん』

「するといま七神教皇国に出て来られたらヤバそうにゃんね」

『まったくにゃん』

 現国王と七神教皇国が繋がっているとは思えないが、迷惑なヤツほど迷惑なタイミングで出てくるから警戒はしておいた方が良さそうだ。

 何事も油断は禁物だ。

「お館様、地下王宮に追加で杭を打ち込まなくていいにゃん?」

『ひとまず必要なデータは取れたにゃん、これ以上追い詰めて王都を道連れに自爆でもされたら厄介にゃん』

 いまのところ地下王宮内に動きは無かった。

 中で国王がぐぬぬとはなっているみたいだが、表向きはオレの挑発に乗って来ない。そこはアナトリの貴族と違って、流石にそこまで単純なオヤジではないか。

『不気味なのはテランス・デュラン次席宮廷魔導師にゃんね、あれは正体が掴めないにゃん』

「にゃあ、マルもテランス師については良くわからないみたいにゃんね」

 元暗部のマルですらテランス・デュランの正体を知らなかった。

『にゃあ、あの外見の出来の悪い偽装からして一筋縄ではいかないにゃん』

 ピントが合わない画像は四〇代ぐらいの男性ぐらいしか読み取れない。一見すると中途半端な偽装なのだが、その奥がまったく見えない。いや見えるのだが似た偽装が延々と続く。

「テランス師もいまは触らないほうがいいにゃんね」

『にゃあ、テランス師は集合体の罠の中心だからいま手を出すわけにはいかないにゃん、だいたい得体の知れないおっさんと戦うなんて嫌すぎにゃん』

 テランス師が集合体をやっつけたところに襲い掛かるのがベストなタイミングだ。できれば共倒れして欲しい。

『にゃあ、ロロたちも一旦、王都圏から退避するにゃん』

「了解にゃん、ついでにウチらは王都圏の近くで混乱に乗じて悪さをしているヤツを片っ端からとっ捕まえるにゃん」

『にゃあ、頼むにゃん、オレたちもこっちにいる盗賊が魔獣に食べられる前に狩りまくるにゃん』

 潜入していたロロたちは直ぐに王宮から離れた。



 ○ケントルム王国 スタロニク州 カサドリ拠点 大露天風呂


「にゃあ、オレたちも盗賊狩りを始めるにゃん!」

 オレは大露天風呂からピンク色の猫耳ゴーレムに抱っこされたまま指示を出した。

『『『にゃあ!』』』

 猫耳がドラゴンゴーレムで拠点から飛び立つ。

 先行している猫耳ゴーレムはスタロニク州の外縁部を中心に展開し、猫耳たちは中心部を担当する。

「盗賊は全部で二〇〇〇人ってところにゃんね、思っていたよりいるにゃん」

 探査魔法でスタロニク州内の盗賊を全部マーキングした。

『お館様、避難民の収容を完了したにゃん』

 ブリーフィングルームでモニター中の猫耳から報告してくれる。

「にゃあ、お疲れにゃん」


 逃げ遅れたというか取り残された領民は、全部で二〇〇人ほどだ。親のいない子どもと『ワシは逃げん』系の爺さん、それに自力では動けない病人と怪我人たちだ。

 子供や病人はともかく逃げたくない爺さんは放置しても良かったのだが、魔獣が近くに来たら考えが変わったらしい。

 領民は、アドウェント州の避難民収容施設に送った。スタロニク州内はマナが安定していないので危険だ。


「ケントルムでも子どもたちの為の寄宿学校を作った方が良さそうにゃんね」

 アナトリ王国とフルゲオ大公国それにフィーニエンスとオレの領地にプリンキピウム寄宿学校と同じものを幾つか作っている。

「子供は国の宝にゃん」

「「「にゃあ」」」

 ケントルムがアナトリより進んでいるのは魔導具のみで文化的には五〇歩一〇〇歩ってところだ。領民は奴隷みたいなものだし。



 ○ケントルム王国 スタロニク州 カサドリ拠点 屋上


「にゃあ!」

 茹で上がったオレはくるっと回転しつつ屋上に飛翔する。キャット空中三回転の逆回しでついでに服も着た。

 猫耳と猫耳ゴーレムたちが盗賊どもを狩って箱に詰めている間に有り余る魔力を消費するにゃん。

「にゃあ、ワガブンドゥス州からスタロニク州までモノレールを通すにゃん!」

 拠点の屋上で宣言した。

『『『にゃあ!』』』

 猫耳たちの念話が返ってきた。

 パゴノ街道に沿ってモノレールを延長する。モノレールの基本はトンネル内で完成しているので、そう難しいことはない。必要なのは魔力だけだ。


「にゃあ!」


 ムクムクと地面からモノレールの巨大な橋脚が立ち上がりそこからレールが両側に手を伸ばすように延びて繋がる。我ながらちょっとヤバい光景だ。

「にゃあ、でもいい感じにゃん」

 グランキエ大トンネルのあるワガブンドゥス州からここに至るまでを同時に築いたので、直ぐに形になった。


「にゃあ、モノレールがOKなら誰でも運用可能な普通の鉄道を引いても良さそうにゃんね」

 オレはモノレールの軌道を眺める。

「それならお館様に貰った蒸気機関車をベースに刻印で蒸気機関を動くように改造したのが出来上がっているにゃんよ」

 屋上にやって来た猫耳が教えてくれた。

 以前、オレが再生して猫耳たちにあげた蒸気機関車だ。前世で一度だけ乗ったことがあった代物のコピー品だ。

「にゃあ、それはいいにゃんね、製造も領地の魔導具工房で従業員たちだけでやれるともっといいにゃん」

 モノレールは無理だが蒸気機関車ならどうだ?

「治具を充実させればいけそうにゃん」

「ついでに治具の制作も出来た方がいいにゃんね」

『『『にゃあ、試作を始めるにゃん』』』

 プリンキピウムの魔導具工房の猫耳たちから返事が来る。

「にゃあ、頼んだにゃん」

「お館様、産業革命にゃんね」

 ワクワク顔の猫耳。知識のベースがオレの中途半端な世界史の記憶なのがあれだが。

「にゃあ、そうにゃんね」

 刻印なら地球温暖化も無い? わからん。

「規格を統一した発熱させるだけの刻印を作るといいかも知れないにゃん」

「いいにゃんね」

『『『賛成にゃん!』』』

 研究拠点の猫耳たちが食い気味に賛成した。

「それと熱を出すだけの刻印はカホに作って貰うといいにゃん」

 カホの永久魔法みたいな刻印は出土品より信頼性が高い。

『にゃあ、頼んで見るにゃん!』

「出力別に三種類ぐらい作って貰うといいにゃん、こちらから指定しないで頼むととんでもないのを作りそうだから気を付けるにゃんよ」

『了解にゃん』

 出力を指定しないと洒落にならない事態になりそうだからな。


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