孤児院再建にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇五月〇六日
○プリンキピウム 冒険者ギルド
翌日、冒険者ギルドに行った。
「手続き出来てるわよ」
「にゃあ」
セリアから犯罪奴隷ふたり分の代金を貰った。一人あたり金貨八枚だ。高くもなく安くもなくって感じだ。
「ギルマスが顔を出して欲しいそうよ」
「にゃあ、わかったにゃん」
デリック・オルホフの執務室をノックした。
「よう、マコトに妖精さん」
「にゃあ、おはようにゃん」
「おはよう!」
「もう孤児院を直してくれたんだってな、さっき様子を見に行ったデニスが驚いていたぞ」
「にゃあ、昨日のうちに粗方直したにゃん、二~三日様子を見て問題がなかったら州都に行くにゃん」
「ああ、クロウシの依頼だったな」
「にゃあ、後は持って行くだけにゃん」
「そういや町長の屋敷がまるまる消えたそうだな」
「そうにゃん?」
「そうなの?」
オレとリーリは首を傾げた。
「守備隊の隊長とノクティスのギルマスの家も消されたそうだ」
「にゃお、家が消えるなんて怖いにゃんね」
「怖いね~」
「悪いことをすると家が消されるから気を付けないとな」
「にゃあ、それでそいつらどうなったにゃん?」
「夜のうちに町から逃げ出したらしい、これまでの悪事がバレて報復されたと思ったんだろうな」
「にゃあ、するとしばらくは平和にゃんね」
「ああ、たぶんな」
「にゃあ、孤児院だけど誰か一日一回見に行って欲しいにゃん、前みたいに酷いことにはならないと思うけど念のためにゃん」
「わかった、必ず見回りさせよう」
「防御結界が張って有るから、入口以外からは入れないから気を付けるにゃんよ」
「ああ、伝えておく」
「にゃあ、ところで孤児院て大人の職員がいると違うにゃん?」
「院長がいるが金が無くなった途端、姿を現さなくなったそうだ、そんなのいても仕方ないだろう?」
「同感にゃん、それにいまさら来ても結界は通れないにゃん」
「そいつはこっちで解任して新しい院長はマコトにしておく、叩けば埃が出そうだからこっちで始末を付けとく」
「にゃあ、まともな人間が居ないなら、大人は近付けない方がマシにゃん」
「ああ、全くだ」
「にゃあ、州都に出発する前にまた顔を出すにゃん」
「そうしてくれ、いろいろ済まなかったな」
「にゃあ、困った時はお互い様にゃん」
「そうだよ、お互い様だよ」
ギルドの買い取りカウンターで売れるものは売っぱらって外に出た。デニスに貸した馬車を回収して市場に向かう。
小麦だの米だの森では手に入らないものを買って孤児院に戻った。
○プリンキピウム 孤児院
「ネコちゃん、妖精さん、お帰り!」
ちっちゃい子たちがオレに抱き着いた。
「にゃあ、ただいまにゃん」
「ただいま」
大きな子たちは、遊具代わりに植えた木に登っていた。
「気を付けて遊ぶにゃんよ」
食料庫に買って来たモノを仕舞う。
アシュレイ、バーニー、ブレア、カラムの四人が付いて来た。
「マコトさんがここの院長になったんですね」
「にゃあ、いつの間にかそうなってたにゃん」
「孤児院もマコトが買ったんだろう?」
「にゃあ、この前のチンピラみたいのに大きな顔をさせない為にゃん」
「マコトなら安心だな」
バーニーがほっとする。
「にゃあ、でも大人の手がないのは不便にゃん」
「いまさらいいよ、これまでも居ない方がマシだったんだから」
ブレアの言葉に四人全員が頷いた。
「そうにゃんね、だったらこれはどうにゃん?」
オレは白い大人サイズの人形を再生した。
「これは何?」
カラムが目を丸くする。
「ゴーレムにゃん、雑用や料理をしてくれるにゃん、戦闘力はないから乱暴に扱っちゃダメにゃんよ」
ゴーレムはペコリと頭を下げた。
光沢のある白いボディに子供たちの驚いた顔が映る。
「ゴーレム!?」
「にゃあ、ゴーレムのことは他の人に教えちゃダメにゃんよ」
四人はコクコクと頷く。
ゴーレム自体がロストテクノロジーっぽいしな。少なくともプリンキピウムと州都では一体も見掛けなかった。
新品同様のゴーレムの存在を知られると厄介事を引き寄せる可能性大なので、特に近衛軍関係が怖い。
「三体も有れば間に合うにゃんね」
白いゴーレムを次々と再生する。
「ゴーレムたちが皆んなのご飯を作ったりしてくれるにゃん」
「お料理ができるんですか?」
「にゃあ、何でもできるにゃんよ」
エーテル機関を突っ込んであるから、そこそこ高性能になっている。
上に戻ってゴーレムを他の子供たちにも紹介した。
「「「わああ!」」」
子供たちはゴーレムに歓声を上げた。
「にゃあ、ゴーレムのことは外の人たちには内緒にゃんよ」
「「「はーい」」」
「いい返事にゃん」
「マコト、ゴーレムを庭に出したら直ぐにバレるんじゃないか?」
「にゃあ、大丈夫にゃん、敷地の外からゴーレムは見えないようにしてあるにゃん」
孤児院の外から中を覗くとゴーレムの認識が阻害されるのだ。
「皆んなが、外の人にゴーレムのことを話さなければ大丈夫にゃん、でも何が有るかわからないから用心するにゃんよ」
「「「はーい」」」
ゴーレムたちは早速、仕事に取り掛かる。
お昼ご飯を作ったり布団を整えたり。
「にゃあ、脱いだパジャマぐらいは自分で片付けるにゃんよ」
「「「えへへ」」」
「ところで、孤児院の子は読み書きはできるにゃん?」
「いいえ、誰も出来ません」
アシュレイが代表して答えてくれた。
「にゃあ、それはいけないにゃん」
「冒険者ギルドの初心者講習で必要なことは教えてくれますから」
「にゃ、初心者講習なんて知らないにゃんよ」
「マコトは受ける必要が無かったんだよ」
「にゃあ、確かに読み書きと計算はできるにゃんよ」
「「「……っ!」」」
何か尊敬の眼差しで見詰められた。
「マコトって、貴族様なのか?」
バーニーが恐る恐る聞く。
「オレはただの冒険者にゃん」
「ただの冒険者は、あんなに魔法を使ったりしないよ」
ブレアがジト目でオレを見る。
「少し魔法が得意な冒険者にゃん」
「そういうことにしておくよ」
カラムが肩をすくめた。
「にゃあ、皆んなにも簡単な読み書きと計算の基本を教えてやるにゃん」
「私たちに教えてくれるんですか?」
「にゃあ」
「うっ、苦手な予感しかしない」
怖気づくバーニー。
「にゃあ、魔法を使うからバーニーでも大丈夫にゃん」
子供たち全員のエーテル器官に読み書きと計算の基礎の情報を送った。
「「「えっ!?」」」
子供たちが驚きの表情を浮かべた。
「これでもう読み書きも計算もできるにゃんよ、こっちの地下に図書室を作るから本とか記憶石板を読むといいにゃん」
「もう読めるならわざわざ読まなくてもいいんじゃないか?」
バーニーがもっともなことを言う。
「にゃあ、ちゃんと自分でやらないと身に付かないにゃん」
「やっぱり、そうなるのか」
小うるさいお母さんみたいだが仕方あるまい。
リビングの下に図書室を作った。
州都の図書館で仕入れて来た情報を元に本と記憶石板をこしらえる。
おとぎ話や絵本はそれこそありとあらゆるところから。
「にゃあ、本を読んで知識を蓄えれば、この世知辛い世界でもちゃんと生きて行けるにゃんよ」
「「「はい!」」」
「いい返事にゃん」
昼食の後は孤児院の裏庭で魔法鶏を再生する。
褐色のガラス細工みたいな鶏が芝生の上をコッコッコと首を前後に振りながら歩く。
動きは鶏そのものだ。
「にゃあ、まずは二〇羽もいればいいにゃんね」
「そうだね、ゆで卵が食べたいね」
早くもリーリがご所望だ。」
「ネコちゃん、これなあに?」
メグは次々と現れる魔法鶏を目で追う。
「にゃあ、これは魔法鶏にゃん、卵を産んでくれるにゃん」
「卵って、ネコちゃんが作ってくれた卵焼きの卵?」
「それにゃん、その卵にゃん」
オレはザルを地面に置いた。
「にゃあ、卵が欲しいにゃん」
オレの声を聞いた鶏たちは一羽ずつザルに卵を産み落として行く。
「「「わあ!」」」
集まって来た子供たちが声を上げる。
ザルには二〇個の卵が入っていた。
「にゃあ、魔法鶏は皆んなの為に卵を産んでくれるにゃん、蹴飛ばしたりしたらダメにゃんよ」
「「「はーい!」」」
蹴飛ばしたりしたら集団自衛で二〇羽から突き回される。
「撫でてあげるのはいいの?」
「優しく撫でるのはいいにゃん、でも鶏が嫌がったら中止するにゃんよ」
「「「わかった」」」
「鶏ちゃんおいで」
鶏たちはトコトコと呼ばれたメグのところに来た。
「かわいいね」
頭を撫でられた鶏は気持ち良さそうに目を閉じていた。
○帝国暦 二七三〇年〇五月〇七日
「にゃ?」
朝っぱらから猿が騒いでる様な鳴き声がして目が覚めた。
「誰か騒いでるみたいだね」
「にゃあ、お猿さんが結界に引っ掛かったのと違うにゃん?」
孤児院の裏庭に張ったテントからリーリと一緒に這い出した。
猿は門のところにいるらしい。
「帰って下さい!」
「そうだ、帰れ!」
「「「帰れ!」」」
アシュレイを始めとする子供たちの声もする。
「黙れガキども! ここはあたしの持ち物なんだよ!」
表に回ると騒いでいたのは、猿かと思ったら干物みたいな婆さんだった。
「何の騒ぎにゃん」
全員の視線がオレに集まった。
「マコトさん、前の院長がここを空け渡せと」
「にゃ? 前の院長にゃん」
「前とは何だい、あたしはちゃんとしたここの院長だ!」
「にゃお、怒鳴らなくてもちゃんと聞こえるにゃん、婆さんと違ってオレの耳はいいにゃん」
クスクスと子供たちが笑う。
「お黙り!」
子供たちがビクっとした。
「あんた、見ない顔だね」
「にゃあ、婆さんも見ない顔にゃんね、何でいまごろ出て来たにゃん?」
墓から這い出して来たにゃん?って感じの汚い婆さんだった。
「自分の持ち物にいつ来ようが、あたしの勝手だろう!」
「にゃお、ここはもともと冒険者ギルドの持ち物にゃんよ、それをオレが買ったにゃん、嘘だと思うなら確かめるといいにゃん」
「な、なんだと、おまえみたいな子供に買えるわけがなかろう!」
「にゃあ、オレは金持ちにゃん」
「バカを言うな、金持ちの子供が孤児院にいるわけがないわ」
大金貨をごそっと出して見せる。
「……っ!?」
婆さんの表情が凍り付く。
「オレが現金で買い取ったにゃん」
「バカ言うな、それもあたしのだ、直ぐに寄越しな!」
掴み掛かって来た。
「話が通じない上にかっぱらいとは困った婆さんにゃん」
「そうだね」
「黙れ!」
婆さんはオレに掴み掛かったが孤児院の防御結界に弾かれてあえなく気絶した。
「にゃあ、これはいろいろ余罪が有るにゃんね」
婆さんの頭を踏んづけて記憶をチェックした。
敬老精神の欠片もない。
この世界は犯罪者に厳しいのだ。
ゴーレムを使い、婆さんを箱に詰めて馬車に乗せた。
「にゃあ、オレは婆さんを冒険者ギルドに売っ払って来るから、皆んなはリーリと一緒に朝ごはんにするといいにゃん」
子供たちがコクコクと頷いた。
若干、引き気味か?
○プリンキピウム 冒険者ギルド
「マコト、またスゴいのを持ってきたな」
婆さんを鑑定した買い取り担当のザックがタブレットを見せてくれた。
「大金貨二〇枚にゃん?」
婆さんの値段がこんなに高いとは驚きだ。
「にゃあ、婆さんの需要が逼迫でもしてるにゃん?」
「違う、元孤児院の院長は賞金首だったんだよ、三〇年前に貴族の子供を誘拐して殺してやがる」
魔導具で鑑定して賞金首と判明したらしい。
オレが婆さんの頭から読み取ったのは人身売買の情報とは別口だ。
「にゃお、とんでもないのが孤児院に居座っていたにゃんね」
「ああ、その辺りの犯罪ギルドよりヤバい奴だ、それが歳のせいでちょっとボケたらしいな、町長一派が失脚したのを知らなかった様だ」
「にゃあ、焼きが回ったにゃんね」
「ああ、そのとおりだ」
あの婆さんは相当なワルだったらしく大金貨二〇枚の賞金の他に大金貨三〇枚の私的な報奨金が付いていた。
「報奨金もスゴいにゃんね」
「ああ、息子を誘拐された貴族が出した金だからな」
合計で大金貨五〇枚だ。
金が勝手に貯まって行く。
「マコト、ご褒美はまだ有るんだぞ」
「にゃ?」
街外れの林の中にある婆さんが隠れ住んでいた小さな家がオレのものになった。
○プリンキピウム 北部 街外れ 婆さん宅
朝ごはんを食べ終えたリーリを拾って現地に赴いたが酷い代物だ。
「にゃあ、異世界にもゴミ屋敷があるにゃんね」
変なところで感心してしまった。
ガラクタと言うかゴミが窓からあふれ出している。
マジで要らないけどこのまま放置するわけにもいかないので分解した。
「マコトならガラクタも修復できるんじゃない?」
「にゃあ、修復すればそれなりにはなるにゃんね」
ランプなどの細々とした魔導具。
魔法馬が三頭分。
馬車二台。
衣服に靴は店が開けそうなほどあった。
小さな家もそう悪いものじゃない。
これも分解して格納する。
「にゃお?」
隠されていた地下室から婆さんが貯め込んでいた大金貨五〇〇枚分の金の地金が出て来た。
大金貨が一〇枚と金貨に銀貨と銅貨が詰まった革袋が多数。
それに箱に仕舞われた小さめの人骨。
一緒に入っていた遺留品からするとどうやら誘拐された子供の骨らしい。
「これは冒険者ギルドに持ってく必要ありにゃん」
婆さんの家が有った場所を更地にしてまた冒険者ギルドに引き返した。
○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室
「あの婆、持ち歩いていたのか?」
デリックのおっちゃんに骨を見せると渋い顔をした。
「そうみたいにゃん」
「遺骨は家族の元に送ろう」
「にゃあ、よろしく頼むにゃん」
○プリンキピウム 孤児院
結局、孤児院に戻ったのは夕方だった。
どっさりあった服を古着屋に持っていったりしていたからだ。
「「「お帰りネコちゃん!」」」
小さな子供たちが駆け寄ってきた。
「にゃあ、ただいまにゃん」
古着屋で手に入れた子供服を仕立て直してクロゼットに仕舞う。
「マコトさん、服を買って来たんですか?」
「にゃあ、どちらかと言うと売って来たにゃん、アシュレイに似合う可愛い服もあるにゃんよ」
「すいません、マコトさんにいっぱいお金を使わせてしまって」
「にゃあ、心配ご無用にゃん、孤児院は今のところ超黒字経営にゃん」
「黒字なんですか?」
「にゃあ、チンピラと婆さんでかなり儲かったにゃん」
服の次は食料をぎゅうぎゅうに詰め込んだ。
「にゃあ、オレとリーリは明日から州都に行くからしばらく戻って来れないにゃん」
「「「え~やだ」」」
ちっちゃい子たちがギュッと抱き着く。
「にゃあ、こればっかりはオレの仕事だから仕方ないにゃん、その代わりいいものをやるにゃん」
孤児院の庭にちっちゃい子が遊べる滑り台と砂場を作った。
さっき泣きそうだった子たちがキャッキャッと遊び回ってる。
子供とはそういうものだ。
暗くなっても中に戻らないからアシュレイに怒られていた。
念のため、医療用ゴーレムと警備用ゴーレムを作る。
こいつらの出番がないことを祈るぜ。




