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戦艦型ゴーレムで来たにゃん

 ○ケントルム王国 ヴォーリャ州 上空 戦艦型ゴーレム 艦橋


 アクィルス州の拠点から戦艦型ゴーレムでナオのいるアドウェント州に向けて南下を開始したオレたちは、現在、エフォドス団をとっ捕まえたヴォーリャ州上空を高速で航行中だ。下には魔獣しかいないので遠慮無しでぶっ飛ばす。


 _北

 西←東

 _南


 ○アクィルス州(拠点)__←○ワガブンドゥス州(拠点)

 ○ニゲル州________←○トロバドル州

 ○ジェラーニエ州_____←○ヴラーチ州

 ○ヴォーリャ州(現在地)_←○ストーロジ州

 ○トリフォリウム州____←○イピレティス州

 ○アドウェント州(薔薇園)←○パイアソ州


 所々、停船してオートマタの大量降下も行っている。オレたちが到着する前から現地猫耳たちと猫耳ゴーレムが魔獣を刈り取ってくれたが、東方の魔獣の森からの流入が収まらず殲滅には至っていない。

「にゃあ、ケントルムの魔獣の森の方が厄介にゃんね、いくら狩っても追いつかないにゃん」

 まだオートマタの配備が進んでいないのも大きいが、どうもアナトリの魔獣の森よりも魔獣が濃いみたいだ。

「これは時間が掛かるにゃんね」

 エフォドス団が活動していた頃よりも魔獣が増えていた。

「にゃあ、お館様、普通ならまた人の住める状態に戻すのは不可能なレベルにゃん」

「ここまで魔獣が増えると既にケントルム東部は魔獣の森にカウントされている可能性があるにゃんね」

 魔獣の森は、マナの濃度を下げれば魔獣は姿を消すが、再び濃度が高まると再び湧き出すことがある。これは実験して確認しないとわからない。

「お館様、魔獣の森判定を受けなくてもこの状態では街を一から作り直しにゃん」

「そうにゃんね」

 いまは廃墟と瓦礫とマナの影響で異常な成長を見せる草木だけだ。

「領主を始めとする貴族階級が壊滅したし、農奴の様な扱いを受けていた平民もわざわざ戻ってくるのかって話もあるにゃん」

「それに東部に関しては生存者がわずかにゃん、街を再生しても大部分はゴーストタウンになるにゃん」

「そうなると東部の大部分は暫くこのままにゃんね」

 魔獣を狩るのも追いつかない状態では、誰も住まない街を再生する余裕なんて無い。



 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 第一騎士団本部 団長執務室


 第一騎士団第三中隊隊長で現在、第一騎士団団長代理のアルベール・ブロンデルが団長執務室で落ち着かない感じに座っていた。

 第三王子の謀反に組みした第一騎士団が解体されなかったのは、王宮上層部の混乱で単に処遇が決まってないだけだろうとアルベールは考えている。

 牢に繋がれた団長は年下で話も合わないヤツだったが、騎士の資質は問題が無かったし剣の腕も評価していた。

「まさか謀反とか大それた真似をするとはなあ」

 おかげで団長代理を押し付けられたアルベールはブツブツ言ってる。

「しかし、俺は何をすればいいんだ?」

「書類の整理じゃないですか?」

 ダニエル・アヴリーヌ第三中隊副隊長がアルベールの独り言に答えた。

「第一と第二の文官まで全員連れて行かれましたからね、何が何やら」

 同じく第三中隊副隊長のエタン・バランドも書類を掻き回している。

「いや、意味ないんじゃないか? もうすぐ砂海の魔獣とアナトリの子供が来るんだろう?」

「それはそうですが」

「あっちは、王宮でも秘匿されていた陛下の執務室に正確に杭を打ち込めるぐらい精密で強力な魔法と諜報力を持ってるんだぞ、剣を振り回すだけの俺たちじゃ勝ち目はないだろ?」

 アルベールは頬杖をついて語る。

「それもそうなんですが」

 ダニエルも頷きつつ苦い顔をする。

「通信の魔導具、今日も乗っ取られてましたね」

 エタンはさっきまでにゃあにゃあ言っていた通信の魔導具を見る。

「敵の大将に自国民の避難の指示をされてるようじゃな~」

 アルベールは頭を掻く。

「俺たちは動かなくていいんですか?」

「時間がないですけどね」

「ああ、時間的に難しい、俺たちも情報の把握に手間取ったからな」

「俺たちはマコト公爵の言葉を聞いて初めて事の重大さがわかったぐらいですからね」

「調べて無かったのは、しくじりましたね」

「まったくだ」

 アルベールたちはアナトリの大使館の襲撃の後、積極的な情報収集を放棄していた。汚れ仕事の後ではやる気も出なかったのだ。

「ウチの宮廷魔導師、魔獣の集合体に勝てますかね?」

 ダニエルが声を潜めて訊く。

「魔導師が罠か、上手くいって王都圏の外に押し出すのがいいところじゃないか?」

 アルベールが答えた。

 過去の魔獣討伐でも進行方向をずらす程度で成功とされている。まれに討伐された例があるが、そこは人の入れない魔獣の飛び地になったらしい。

「上手く罠が効いても王都圏の半分が焼かれそうですね」

「それで退避させろと敵国の公爵様に指示されているんだから世話ないな」

「王宮が動いてないのも筒抜けなんですね、公爵様はいったいどうやって調べたんだか?」

「内通者だろうな、金を積めば何でも教えてくれるヤツがいるだろう」

「陛下の執務室までバラします?」

「謀反をやらかした連中ならやるんじゃないか?」

「「ああ」」

 三人は同じ人間を思い浮かべた。


「「「……っ」」」


 扉の向こうに人の気配を感じ副隊長たちは剣の柄に手を伸ばしたが、アルベールが手を上げて止めた。

「邪魔するぞ」

 尋ねて来たのは内務省情報局代理ブレーズ・ダヤンだった。

「どうしたんですか、局長代理?」

 アルベールは、肩の力を抜いて声を掛ける。

「お前も代理だろうが、アルベール」

 二人は寄宿学校時代に先輩後輩だった旧知の間柄だ。

「ああ、そういやそんな役職でしたね、それで解体寸前の第一騎士団に何用です?」

「仕事に決まってるだろ」

「ブレーズ先輩の仕事ってさっきのアレですか?」

 アルベールは通信の魔導具を指差す。

「他に何が有る?」

「本当に手を貸すんですか? マコト公爵はアナトリの貴族ですよ」

「アルベール、お前は俺を拷問死させたいのか?」

「王宮に奉職している以上は仕方のないんじゃないですか?」

 ニンマリするアルベール。

「公爵は『騎士団を使え』って言ってたから、お前らも拷問の対象だぞ」

 ブレーズもニンマリする。

「王都圏の人間の避難の誘導ですよね? いまからでは間に合いませんよ」

 何をするにも完全に出遅れていた。しかも第一騎士団は人員が三分の一に減っている。

「お前らが間に合わせるんだ」

「いや、いくらなんでもそれは無理がありますよ」

「無理はこいつでどうにかしろ」

 机の上にドサッと大金貨の詰まった大きな袋を置いた。

「これは?」

「マコト公爵からの資金提供だ」

「これだけの金額を寄越したんですか?」

「マコト公爵は西方大陸でいちばんの富豪だ、この程度どうってことないんだろう」

「はあ、敵国の公爵様ですよね?」

「俺たちとは器が違うんだろ? とにかく直ぐに初めてくれ、ウチの連中も総出で当たるから、あとでこっちにも誰か寄越す」

「了解です」

「お前らだけでも使える騎士団が残っていてくれて助かるよ」

 ブレーズは疲れた笑みを見せる。

 王都圏でも顔の利きそうな第二騎士団は王太子と動いているし、貴族のお嬢様で構成された第三騎士団は、半数が第三王子に連座していた。残りは健在だが儀仗用のお飾りなのでいないほうが邪魔にならないだけマシなレベルだ。

「悪いが頼む」

「ブレーズ先輩の頼みですからね、やるだけやりますか、書類を弄ってるより俺たち向きの仕事ですし」

「俺は完全に畑違いだよ」

 ブレーズは苦笑いを浮かべて立ち上がった。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 薔薇園の館 執務室


「はあ、何がどうしたの?」

 報告を受けたナオが突っ伏していた机から顔を上げた。

「ですから、東の空に大きな何かがこちらに近づいているのです!」

 薔薇の騎士団副総長のオレリアが報告する。

「空に何が浮かんでいるの?」

「何かです!」

「その何かって何なの?」

「何かは何かです!」

 オレリアが身振り手振りを混じえて説明するもナオは首を傾げるだけだ。

「にゃあ、それはお館様の戦艦型ゴーレムにゃん、そろそろこっちに到着する時刻にゃん」

「戦艦型ゴーレム?」

 執務室にいる猫耳の説明にナオがまた首を傾げた。

「にゃあ、実際に見ればわかるにゃん、百聞は一見にしかずにゃん」

「それがいいか」

 ナオはだるそうに立ち上がった。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 薔薇園の館


「戦艦って、本物の戦艦なの!?」

 外に出たナオは空に浮かぶモノを見て声を上げた。

「最初からそう言ってるにゃん」

 猫耳が突っ込む。

 クロエも無言で頷く。表情は変えていないが目が輝いていた。

「なんで戦艦が飛んでるの?」

「戦艦型ゴーレムは空を飛ぶモノにゃんよ」

「ああ、宇宙戦艦的な? あんなに大きいのがゴーレムなんだ、スゴいね」

「にゃあ、お館様はスゴいにゃん」

 猫耳が誇らしげに語った。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 上空 戦艦型ゴーレム 艦橋


 戦艦型ゴーレムを薔薇の館の上空で停船させる。

「にゃあ、ナオに挨拶してくるにゃん」

 オレは艦長席から飛び降りた。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 薔薇園の館


 ドラゴンゴーレムを使うほどでもないのでそのまま飛翔を使って降下する。

『お館様、ゲットにゃん』

 ジャンプしたピンクの猫耳ゴーレムに途中でキャッチされ、空中で三回転してナオの前に着地する。

『お館様にゃん』

 脇の下で持ち上げられたオレはだらんとした状態でナオに差し出される。

「にゃー」

 声が出てしまう。

「えっ? あっ、そうだね、こんにちは」

 我に返るナオ。

「にゃあ、実際に会うのは初めてにゃんね、オレがマコトにゃん」

 猫耳ゴーレムの手からにょろっと外れてやっと地面に降り立つ。

「幻体どおりの本当にちっちゃい女の子なんだ」

「にゃあ、公称六歳にゃん」

「これで元成人男性とは驚きね」

「いまはほとんど中身も六歳児にゃん」

「六歳の子は戦争でいちばんに乗り込んだりしないけどね、立ち話もなんだから中にどうぞ」

「にゃあ」

 ナオに手を引かれて館の中に案内された。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 薔薇園の館 執務室


 ナオの執務室のソファーによじ登って座る。

「状況はどうにゃん?」

「こっちは特に変わりはないかな、戦争にしても猫耳ちゃんたちがやってくれたから戦闘らしい戦闘も無かったし」

 侵攻軍を残らずとっ捕まえたので現在は州都の偽装も解除してある。

「戦争奴隷は南方の森の中に作った収容所に入れてあるにゃん、奴隷をどう使うかはここの領主に任せたにゃん」

「ネコちゃんたちの取り分は?」

「犯罪奴隷相当の人間はオレたちが引き取ったにゃん」

 もれなく猫耳化してある。

「難民の人たちも猫耳ちゃんたちに任せちゃったから、あたしたちは何もしてないようなものね」

 クロエも無言で頷く。

「にゃあ、困っている時はお互い様にゃん」

「それでネコちゃんは、王宮を一気に潰さないの?」

「無理にゃん、ケントルムの国王は最後の切り札を使うみたいにゃん、危なくて近づきたくないにゃん」

「切り札って?」

「封印の魔神にゃん、詳細は不明にゃん、わかっているのは起動に王族の血が必要なぐらいにゃんね」

「封印の魔神なんてあるんだ、クロエは知ってる?」

「王宮の地下に大型の戦闘ゴーレムが隠されているという噂は耳にしたことがございますが、やはり詳細は不明でございます」

 クロエは淡々と答えた。

「もークロエは戦艦型ゴーレムに乗りたくて仕方ないんでしょ? アレを見た途端、そわそわしてるもんね」

「そうにゃん?」

 オレにはぜんぜんわからなかった。

「恥ずかしながら」

 その割に表情を変えないクロエ。

「にゃあ、見学だけならいいにゃんよ、あとで案内させるにゃん、ただ迂闊に変な魔法を使うと外に弾き出されるから気をつけるにゃんよ」

「かしこまりました」

 クロエは深く一礼した。

「ネコちゃんいいの? さすがに馬鹿なことはしないと思うけど、いや、わざと放り出されるぐらいはしかねないわよ」

 ナオはクロエを見た。自分の家令を信用していない。

 クロエも微笑を浮かべるだけで否定も肯定もしないし。

「戦艦型ゴーレムの刻印を読み解けるなら大したものにゃん」

「読み取れても魔力的に動かせないよね、あたしも無理そう」

「にゃあ、クロエが艦の外に放り出されたいなら、変なことをしなくてもやってやるにゃんよ、その代わり死ぬにゃん」

「クロエにいま死なれると困るんだけど」

 本人じゃなくて雇い主から物言いが入った。

「ご安心下さい、変な真似はいたしません」

 クロエが笑みを浮かべた。

「それが平和でいいにゃん」

 死んだら猫耳だけどな。

「ネコちゃんは、戦艦型ゴーレムで砂海の魔獣の集合体をやっつけるの?」

 天井を指差すナオ。

「戦艦型ゴーレムは使わないにゃん、集合体に対抗するには的が大きすぎるにゃん」

「撃ち合いになっても負けないんじゃない?」

「熱線が防げても集合体は人型魔獣のくくりに入るから分解を使う可能性があるにゃん、分解は厄介にゃんよ」

「人型魔獣の分解って、どのぐらい分解しちゃうの?」

 ナオが質問する。

「オレが知ってるヤツは何でも分解したにゃん、オレも危なく防御結界ごと持って行かれるところだったにゃん」

「ネコちゃんが戦ったの?」

「にゃあ、人型魔獣は武闘派妖精がボコった後にオレがトドメを刺した感じにゃん」

「武闘派妖精?」

「にゃあ、思わず敬語になるほど強いにゃんよ」

 ミンクは敵に回してはいけない妖精だ。

「ネコちゃんは、どうやって分解を防いだの?」

「あの時は、分解されるよりも早く防御結界を展開したにゃん。消されるけどわずかにタイムラグができるにゃん」

「力任せなのね」

「にゃあ、小細工の通用する相手じゃないにゃん」

 オレもギリギリだった。

「あたしなら速攻逃げるよ」

「それもひとつの選択にゃん、ただ転生者の不始末は転生者が付けるべきと考えたにゃん」

「あー西方の宮廷魔導師だった人ね? カズキからだいたいのことを聞いたけど、あたしはとても相手できないわ」

「にゃあ、オレだって相手にしたく無かったにゃん」

 サイコパスオヤジが仕掛けてくるから仕方なく相手をしただけだ。

「ネコちゃんは偉いよ、あたしだったらやっぱり逃げてる」

「にゃあ、勝ち目がなければオレだって逃げるにゃん、だから今回は悪いけど砂海の魔獣の集合体は近づかないにゃん、少なくともケントルムの宮廷魔導師の罠と王宮の秘密兵器の後にゃん」

 そろそろケントルム王国の真の実力を見せて欲しい。そして美味しいところだけオレに回してくれると嬉しいにゃん。


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