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王太子はいいヤツにゃん

 ○ケントルム王国 アナトリ派領地 上空


 オレたちを乗せたディオニシスが離陸する。

 トンネル前の防御結界を出たところで射程圏内にいた砂海の魔獣が一斉に熱線を発射した。やっぱ大きく動くと専用の認識阻害も効きづらいか。

『ほう、これは心地よい』

 熱線はディオニシスの防御結界の表面で魔力に変換されて取り込まれる。

『ただ、少々うるさい』

 ディオニシスが熱線をくれた魔獣に撃ち返し一瞬で蒸発させた。

「にゃあ、相変わらずスゴいにゃんね」

『すべて主より授かりし力だ』


 ディオニシスは高度を上げ秒で高度限界を突き抜ける。


「高度限界を超えても砂海の魔獣は攻撃するにゃんね」

 ディオニシスは高度限界の熱線と一緒に魔力に変換し、一部は撃ち返す。

「砂海の魔獣の最大射程は六〇キロ程度みたいにゃんね」

「それ以上は無視するみたいにゃん、現に集合体は撃って来ないにゃん」

 猫耳たちも観測する。


 分厚い雪雲を突き抜け更に上昇を続けながらやや南に進んでアナトリ派領地がすべて見渡せる高度を目指す。

 アナトリ派領地の東側は魔獣の森が拡がっている。この辺りはアナトリ王国のある西方大陸と変わらない。

「ついでに魔力炉を見付けられるとラッキーだけど、そうは上手くいかないにゃんね」

 魔力炉とはオリエーンス神聖帝国の文明を支えたその名の通り魔力を生み出す発電機みたいなものだ。特徴はエーテルからマナを経由せす魔力を直接作り出すことができる。しかも高効率なのが特徴だ。それが天使様の証言でこの東方大陸の何処かに残っているらしいのだ。

「にゃあ、いまも稼働してないと見つけるのは至難の技にゃん」

「そうにゃんね」

「でも、それを探すのが男のロマンにゃん」

「「「にゃあ」」」

 いまはオレを含めて全員、女の子だけどな。


 オレは雲越しに砂海の領域を見渡しながら砂海の魔獣のすべてのエーテル機関の反応にマーキングする。


「にゃあ、この辺りでいいにゃん」

『了解だ』

 アナトリ派領地の上空、砂海の砂が広がった領域すべてを見渡せる高度でディオニシスを止めた。

「まずは砂海の砂を格納するにゃん」

「「「にゃあ」」」

 雲越しに拡がる砂海の砂をすべて格納空間に収めた。

「さすがにスゴい量にゃん」


 帝都エクシトマを軽くもう二~三回再生してもまだ余る魔力を作れそうだ。

 アナトリで上限ギリギリまで魔力をぶっ込んでいるフィーニエンスのピルゴナで手に入れた魔導書の実証実験中のプリンキピウム遺跡と、カンケル州の永久魔法っぽいので分解された都市を再生中の魔の森も、いまとなっては微々たる量に感じるぜ。


 地上では足場を失った砂海の魔獣たちがベチャっと地面に落ちた。砂を失った砂海の魔獣はいずれも形が崩れてしぼみ始める。

「なるほど砂海の魔獣は砂から出ると途端に弱くなるにゃんね」

「シヌス公国で記録された情報通りにゃん」

「マナが濃い状態では、しぼんでも直ぐに自己格納はしないみたいにゃんね」

「砂海の魔獣は砂が無くなる状況を想定されていないのかもしれないにゃん」

「最初から格納されているヤツはそのまま隠れているにゃんね」

 猫耳たちも考察する。

「隠れても無駄にゃん、始末するにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 観察の後は攻撃のフェーズだ。


 さっきまで砂海の領域だった場所に黒く大きな杭が降り注ぐ。


 エーテル機関をマーキングしたすべての砂海の魔獣を串刺しにした。

「内部から電撃にゃん!」

 杭から電撃を放ち砂海の魔獣の動きを止めた。

「にゃあ、全数沈黙にゃん」

「さすがお館様にゃん、半端ないにゃん」

「半端ない可愛さにゃん」

「「「にゃあ」」」

 何故か抱っこされる。

「魔獣の身体の回収はウチらがやるにゃん」

「任せて欲しいにゃん」

「同時にエーテル機関の回収も開始するにゃん」

 上空から猫耳たちが動きを止めた砂海の魔獣の躯を一斉に格納した。


 続けてピンク色の猫耳ゴーレムがワラワラと大トンネルを出て黄色のエーテル機関を回収する。

 自己格納したヤツらも一網打尽だ。

 猫耳たちもドラゴンゴーレムに乗ってトンネルから飛び立った。

 現地の猫耳も魔法蟻が作ったトンネルから出てエーテル機関を回収するべく一斉に動き出す。既にアナトリ派領地の地下には、魔法蟻のトンネル網と拠点がいくつも作られている。



 ○ケントルム王国 ワガブンドゥス州 州都パゴノ グランキエ大トンネル前


 ディオニシスにまた地上に送って貰った。

『我は、東方大陸の空をもう暫く楽しむとしよう』

「にゃあ、集合体の射程圏内に近づいちゃ駄目にゃんよ」

『了解だ』


 ディオニシスがまた飛び立った。やっぱデカいね。


 続けてトンネルの出口にグランキエ州の州都パゴスと同じ物理防壁を築く。もう砂海の砂の吐出は無いと思うが、念には念を入れる。オレたちはともかく一般人はひとたまりもないからな。

 それから少し距離を取って巨大な青いピラミッド型の二型マナ変換炉を四つに猫ピラミッド型の拠点をひとつ築いた。大気中の濃厚なマナをゴリゴリ吸う。



 ○ケントルム王国 ワガブンドゥス州 西側境界線


 昼過ぎには旧アナトリ派と西隣りの領地との境界にヌーラ州と同等の物理障壁を築いた。これは主にアナトリ派領地内に大発生した魔獣どもを封じ込めるのが目的だ。

 ただかなりの数の魔獣がここより西側に入り込んでいるので魔獣の大発生自体を収束させたとは言えない。



 ○ケントルム王国 ワガブンドゥス州 パゴノ拠点 ブリーフィングルーム


「にゃあ、実際に自分の目で見ると想像以上に酷い状況だったにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 現地猫耳たちと視覚同調などを行っていたがやはり自分の目で見ると空気感が違う。濃厚なマナと風の匂いはほとんど魔獣の森だ。

「マナは魔獣の森の深い場所並みの濃度にまで上昇しているにゃんね」

「実質アナトリ派の領地は、魔獣の森に沈んだ状態にゃん」

「盗賊どころか獣もいないにゃん」

 獣も特異種などは濃度の高いマナを好むが、濃すぎると死ぬ。

「砂海の魔獣の集合体は相変わらず元気に歩いてるみたいにゃんね」

 現在も周囲を焼き払いながら移動を続けている。

「魔獣のくせに真面目にゃん」

「元が砂海の魔獣のくせに地上での行動がインプットされているみたいにゃんね」

「にゃあ、それでいて砂海の魔獣のエーテル機関を調べても何も出て来ないのが不思議にゃん」

「もしかしたら集合体を作るには、何か特別なエーテル機関が必要なのかもしれないにゃん」

「特別な魔獣にゃんね」

「回収した黄色のエーテル機関にはいまのところ大きな違いのある個体はないみたいにゃん」

 差はほんの少しでしかない。

「他に集合体が出なかった理由の裏付けになりそうにゃん」

 ちなみに回収した砂海の魔獣の黄色のエーテル機関は最終的に二〇万個を超えるが、後でまとめてピンクの猫耳ゴーレムにする予定だ。猫耳ゴーレムの帝国ができる日も近いにゃん。


 改めて砂海の魔獣の集合体の位置を確認する。


 _北

 西←東

 _南


 _______________○アクィルス州←○ワガブンドゥス州(拠点)

 _______○スタロニク州←○ニゲル州←○トロバドル州

 ○フィロス州(集合体)


 砂海の魔獣の集合体は、フィロス州の南部をパゴノ街道を通って西に向かって侵攻中だ。やはり王都が目的地なのだろうか?

 現在通過中のフィロス州は州都が街道から距離があり射程外だったから焼き払われずに済んだが、この先パゴノ街道の通る領地の州都はいずれも射程内なので無事では済まないと思われる。


「集合体に直に探査魔法を打つとヤバさひとしおにゃんね、アレには本能的に近づきたくないにゃん」


 高度制限を超える巨人は、顎を突き出した酷い猫背で痩せ型のプロポーションだ。人型にしては手足が異様に長く、特に腕は手の甲を地面に引きずっている。とにかくデカい。身長約三五〇メートルってところか。


「にゃあ、お館様、近づかないのが正解にゃん、絶対に駄目にゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちが声を揃える。

「お前らに言われなくても危ないことはしないにゃんよ、少なくとも集合体の射程圏内には入らないにゃん」

「にゃあ、当然にゃん」

「オレだけじゃなくお前らも猫耳ゴーレムも入っちゃ駄目にゃん、魔法蟻もにゃんよ」

『『『……』』』

 地下にいる魔法蟻たちが一斉に口をカチカチさせる。大丈夫ってことなのだろう。


「お館様、お時間にゃん」

「にゃ?」

「ケントルム到着記念抱っこ会にゃん」

「抱っこ会に名前が付いたにゃんね」

「新入りたちが首を長くして待ってるから急ぐにゃん」

 ひょいと椅子から持ち上げられて地下の抱っこ会会場へと運ばれた。無論、猫耳たちの巧みなパス回しで一切歩くことは無かった。



 ○ケントルム王国 ワガブンドゥス州 パゴノ拠点 地下大ホール


 地下大ホールは新入りの猫耳たちでいっぱいだ。

『これよりケントルム到着記念抱っこ会を開催するにゃん!』

 司会の猫耳が開会を宣言した。

「「「にゃあ!」」」

 新入りたちはヒートアップ!

『にゃあ、お前ら待たせたにゃん!』

 風の魔法でホール全体にオレの声を響かせた。

「「「にゃあ! お館様にゃん! 生のお館様にゃん!」」」

 新入りたちが歓声を上げた。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 薔薇園の館 執務室


「状況は?」

 ナオは机に身体を預けてでろんとしていた。トンネルを通って昨日のうちにローゼ村の薔薇園の館に戻ってからずっとゴロゴロしている。

「北方連合の地上部隊を西にいる連中から騎士団とウチらでちまちま間引きしているにゃん」

 猫耳が報告する。

「アイツらも結構な被害が出ているんだから尻尾を巻いて逃げればいいのに」

「北方連合一〇州は今回の遠征に多額の資金を投じていますから、簡単に引くことは出来ないと思われます」

 クロエが解説する。

 ローゼ村の周囲には敵勢力が集結しつつあった。

「面倒くさいからあたしが焼いちゃおうか?」

『にゃお、焼いちゃ駄目にゃん!』

 身体は抱っこ会の最中だがオレは幻体を再生した。

「ネコちゃん?」

『にゃあ、こっちに到着したにゃん』

「本当に来たんだ」

『近いうちに薔薇園に挨拶に行くにゃん』

「うん、待ってる、でも本当に焼いちゃ駄目なの?」

『貴重な労働力にゃん、そちらの領主も欲しいそうにゃんよ』

「ジスランが? 何だろう戦争でもするのかな?」

「既に当領地は戦争中ですが」

 クロエが突っ込む。

『にゃあ、南方の森を開拓したいそうにゃんよ、魔法使いだけでは出来ないことをやらせるそうにゃん』

「開拓? もーそんなのあたしに言ってくれれば焼いてあげたのに」

『焼いただけじゃ作物は出来ないにゃんよ』

 焼き畑も人手は必要不可欠だ。

「なるほど」

 感心するナオ。

「ネコちゃんのところで、砂海の魔獣の集合体をどうにかしてくれないの?」

『無理にゃん、オレたちが潰した単品とはモノが違うにゃん、魂も喰っているから下手に突いたらマジで何が起こるかわからないにゃん』

 危険この上ない。それと触ったらヌルヌルしてそう。

「ネコちゃんにも予想が付かないの?」

『にゃあ、さっぱりわからないにゃん、もしも洒落にならない規模の爆発でもされたら目も当てられないにゃん、それにこっちの宮廷魔導師が罠を張っているらしいから邪魔はしないにゃん』

「宮廷魔導師が失敗したところで美味しいところを持って行く作戦ね、お姉さんわかっちゃった」

 得意げな顔をするナオ。

『宮廷魔導師はかなり自信があるみたいにゃんよ』

「王宮用の苦し紛れのブラフじゃないの?」

『魔導師が実際に動いてるのは間違いないにゃん、それとブラフだと困ったことになるのはケントルムの王都にゃんよ』

「それもそうか、あたしが焼く前に滅びないで欲しいんだけど」

『にゃあ、オレとしても人的被害はなるべく少なくして欲しいにゃん』

「王太子が西部連合と一緒に一部の市民を避難させるみたいだから、一般市民の被害は少ないんじゃない? 王都圏の人たちなんかかなり逃げたみたいだよ」

 庶民はしたたかか。

『少なくとも宮廷魔導師が罠を張っても射程圏内に入る王都の東側の住民は避難して欲しいにゃんね』

「王太子の頑張りに期待ね」

『まったくにゃん』



 ○ケントルム王国 王都フリソス 貴族地区


 冬の社交が始まる一二の月は、本来、王都がいちばんにぎやかな時期だが、今年は様相が違っていた。

 当初は突然のアナトリとの開戦で閉塞感が漂っていた国内が沸き立ち、貴族たちは情報の収集に血道を上げ、商会は利権の食い込みに奔走した。暴走した一部の平民に至ってはアナトリ系の住民を惨殺し財を奪った。

 アナトリ派に出し抜かれた西部連合の領主たちも連日会合を重ね、参戦の可能性を模索していた。

 それからわずか数日で状況が一変する。

 グランキエ大トンネルからの砂海の砂の流出と魔獣の大発生によってアナトリ派領地が壊滅し風向きが一八〇度変わった。



 ○ケントルム王国 王都フリソス カテギダ州領主 王都屋敷 大広間


 王都にいる西部連合の領主が、連合の盟主であるカテギダ州の領主であるファブリス・ボワデフル侯爵の王都屋敷に集められた。

 悪名高い王太子との面会に領主たちはいずれも緊張した面持ちを浮かべている。既に王命の内容は通達されていたが、それを額面通りに受け取った者はいない。

 西部連合の領主たちは、王宮の狙いは西部連合の領地のいずれかに王都を遷都させることだと踏んでいた。

 砂海の魔獣の集合体が魔獣を引き連れてパゴノ街道を王都に向かって西に移動しているのは公然の秘密だ。

 集合体を王宮の目論見通り王都圏で止められたしても国土の東半分が魔獣の森に沈むことは不可避だと容易に予想された。このままだと年を越した辺りには人間の住める領域は国土の西半分に限定される。

 王都もそのまま魔獣の森の縁に置くわけには行かないだろう。必然的に西に移動せざるを得まい。そうなると邪魔になるのは西部連合だ。

 西部連合と繋がりがあった第二王子ルーファスが王都にいればまだ交渉の余地があったのだが、潜入した異国の地で戦の不手際を理由に廃嫡となり、王宮との強いツテを失ったのも痛い。

 王太子子飼いの第二騎士団が屋敷の近くに密かに移動していることも確認している。先日も第三王子クライヴが第一騎士団を使いアナトリの大使館と収容所で、華々しい戦功を上げたばかりだが、実は丸腰の人間を一方的に虐殺し火を放ったのは第二騎士団が王太子の指示の下に行ったとの噂が王宮内で流れていた。

 逃げ出そうにも護衛が王都の屋敷に詰めている警備兵では、城壁門にたどり着くことすら難しいだろう。


「王太子殿下が到着されました」

 使用人の報告に館の主ファブリス・ボワデフル侯爵が立ち上がった。


 第二騎士団の騎士に護衛された王太子オーガストが主の案内で大広間に姿を表した。

 護衛の騎士が二人だけで魔導師も連れていない。

 王太子の訪問を口実にした第二騎士団による襲撃を覚悟していた領主たちは、本当に本人が現れて少なからず驚いていた。


「皆に集まってもらい感謝する」

 柔和な表情を浮かべる王太子。

「いえ、こちらこそわざわざご足労いただきありがとうございます」

 代表して館の主であるファブリス・ボワデフル侯爵が改めて一礼した。西部連合の盟主であるカテギダ州の領主は最近代替わりしたばかりの青年だ。

「では、早速だが時間もないことだし本題に入らせて貰おう。基本はあらかじめ知らせたとおりだが」

 文官を同行させず自ら説明をする。その姿にまた驚く領主たち。本当に王命を実行する為の打ち合わせが始まったからだ。


『領主たちはビビっているにゃんね』

『王太子の虚像しか知らぬのだ、致し方あるまい』

 猫耳のマルとイングリス・ラガルド将軍もこっそりその会合に参加している。王太子と一緒にやって来たのだ。

『領主の中に将軍が知っている人間はいるにゃん?』

『おお、何人か知っておるぞ』

 将軍は知人がいた。

『協力は期待できそうにゃん?』

『以前の彼らなら、そうであるな、ただ二〇年の歳月が過ぎているから直ぐには判断できぬ』

『西部人は情に厚く結束が固いことで有名にゃん、そう変わらないと思うにゃん』

『そうであるな。当時は南部出身の友人も数多くいたから気質はよく知っておる、いまも変わらぬのなら期待できそうだ』

『にゃあ』


「平民は、侯爵のカテギダ州で受け入れて貰えるのだろうか?」

 王太子が領主のファブリス侯爵に尋ねた。

 カテギダ州は西部連合の領地の中で王都に最も近く、王家の分家である公爵家が収めるアファロス州を挟んで西にある。西部連合最大の大領地だ。

「短期的な受け入れは可能ですが、時期的にかなり厳しい状況になるかと思われます」

 ファブリス侯爵が即答した。既に見積もりは作ってあるが、収容所があるわけではなく森で野宿のレベルだ。

「そうであろうな、短期とはどの程度だ?」

「一週間程度でしょうか、それ以上は難しいかと」

 不十分な食料提供の限界だ。


『ヤバい王太子相手に正直にゃんね』

『ここで誤魔化しても仕方ないと思っているであろう』


「一週間か、急な話だから仕方あるまい」

 王太子が無理難題を投げかけずすんなり受け入れられたことに拍子抜けの領主たち。王命自体が既に無理難題ではあるが。


『実際の王太子は温厚な常識人だ、協力を拒まなければどんな返答をしても受け入れるだろう』

『そうにゃんね』


 王太子の本当の人となりを知らない西部連合の領主たちは何かの罠か?とまだ警戒を解いてはいない。


「状況次第だが、最終的には南部に送るしかあるまい」

 王太子が呟く。

「南部と申されますとアドウェント州でしょうか?」

 国内で難民を拒んでいない唯一の州だ。

「そうだ、州都が失われたが薔薇園は健在と聞く、状況が落ち着けば交渉の余地も出てくるだろう」

「殿下は、北方連合との戦争はアドウェント州が勝利すると予想されているのでしょうか?」

 ファブリス侯爵が尋ねる。

「無論だ、竜騎兵をいくら集めたところで薔薇園の魔女に敵うわけがあるまい」


『適当言ってるわりに真実を突いてるにゃんね』

『薔薇園の魔女が相手ではそうであろうな』


「確かにアドウェント州が州都を失ってもなお戦闘を継続しており、北方が思いの外、苦戦しているらしいという話は聞いております」

 ファブリス侯爵もそれなりに情報を持っている様だ。


『西部連合の連中はそれなりに情報を掴んでいるみたいにゃんね』

『自前の情報網は健在のようだ』


「では、状況が落ち着きましたらアドウェント州に打診いたします」

「それが良かろう」

 王太子は頷いた。



 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 第一騎士団本部 指令室


「クライヴ殿下、王太子様はカテギダ州領主の王都屋敷に入りました。護衛は騎士が二人のみとのことです」

 ニコラス・バーカー第一騎士団団長の報告を受けた第三王子クライヴは口元に笑みを浮かべた。父親によく似た表情を見せる。

「相変わらず兄上は警戒心が薄いようだ」

「左様でございますね、アナトリ派の残党が潜伏しているというのに」

 ニコラスも同意する。

「兄上をアナトリ派の残党からお守りしなくてはならない、第一騎士団、出撃だ」

「かしこまりました、殿下」

 深く一礼したニコラスは通信の魔導具を手にした。

「第一中隊、第二中隊、突撃せよ!」


 待機していた二つの中隊が行動を開始した。


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[良い点] もう今更何を言おうと。 [気になる点] > 「回収した黄色のエーテル機関にはいまのところ大きな違いのある個体はないみたいにゃん」 > >  差はほんの少しで 「差はほんの少しで」は「差…
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