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州都消失にゃん

 ○ケントルム王国 アドウェント州 州都メントル郊外


 薔薇の騎士団総長クロード・デュクロからの命令で州都から退避する途中、副総長オレリアとその部下五〇人の騎士は突然、衝撃波に巻き込まれた。

 真後ろからの衝撃波に対応が一瞬遅れたが、盾に仕込まれた自動展開の防御結界がかろうじて全員をその場に繋ぎ止めた。

「……っ!」

 振り返ると瓦礫が山津波の様に押し寄せるのが見えた。

「抜刀! 粉砕せよ!」

「「「おおっ!」」」

 オレリアの号令に騎士たちは剣に魔法を載せて瓦礫を砕く。刃先に触れた背丈ほどの石材が塵となって消える。

「気を抜くな! 飲まれるぞ!」

 剣を振るって瓦礫を砕き防御結界を守る。

 常人には真似のできない技だが、オレリアたちの装備と並外れた技量を持ってしてもギリギリの攻防だった。


 爆風が収まると騎士たちの周囲は瓦礫と砂に埋まっていた。



 ○ケントルム王国 テスタ州 州都トロイ郊外 北方連合侵攻軍陣地 現地発令所


 現地発令所のテントに伝令の兵士が駆け込んだ。

「州都メントルが消滅だと?」

 報告を受けた北方連合侵攻軍の将軍バスチアン・アンクタンが伝令に聞き返した。

「……間違いございません、遠見の魔導師が確認しています」

 巨漢のバスチアン将軍に睨まれ後ずさりそうになりながらも答えた。

「消滅とはどういうことだ?」

 インテリっぽい雰囲気のブリュノ・オクレール将軍が情報端末であるタブレット型の魔導具を見る。

「宮廷魔導師ですか、やってくれましたね」

 三人の現地司令官の中で最年少のディディエ・バリエもタブレットを眺めた。

「竜騎士一〇〇〇人までも消滅であるか」

 バスチアン将軍は言葉を失う。

「しかし、これで我々の勝利が確定か……書類上だが、だとしても竜騎兵一〇〇〇騎の損害は痛い」

 ブリュノ将軍は額を押さえた。

「現実は四〇〇〇の竜騎兵を以てしても薔薇園どころかローゼ村に近付けていませんからね」

 ディディエ将軍の言葉は落ち着いていたがタブレットに鋭い視線を向けている。

「薔薇園の魔女の首は取ったようだが、薔薇園を落とさなくては我らの目的は果たされぬ」

「避難民はすべてあちらに集められているか、困ったものだな、宮廷魔導師ではなくてはローゼ村の結界は破れまい」

 王宮との密約で二〇人の宮廷魔導師を貸与されていたが州都メントルで全員が消息を絶っている。

「王宮の目的は薔薇園の魔女を殺す、これだけだったのでしょう」

「目的を果たしたからには追加の支援は期待できぬか」

 バスチアン将軍がため息を吐く。

「王宮なら、後は我々が消耗するのを期待しているのだろう、ヤツらが飴ばかりくれるわけがないのだ」

「かと言ってアドウェント州の実質的な中心であるローゼ村を攻略するには我らの魔導師では手が足りませんね」

 北方連合の魔導師は宮廷魔導師に比べれば質が劣るし数で押そうにも四〇人程度しかいない。

「宮廷魔導師有りきでの侵攻計画であったからな」

「さて、どうしたものか?」

 ブリュノ将軍がバスチアン将軍とディディエ将軍を見る。

「ここは魔導師を集めるしかないでしょう、あと補給に問題が出ているようです」

 現地調達という名の略奪で賄う予定だったが、州都に向かう途中の集落や街はすべて強力な結界に阻まれて近付けないでいた。

「人的被害はありませんが、何者かに補給物資を奪われているのも問題ですね」

 ディディエ将軍が情報を追加する。

 敵の姿を見た者がおらず、魔法で意識を奪われた間に物資を根こそぎ持って行かれる事例が報告されていた。

「食い物など自分たちでどうにかするものだ、これまでは敵地ではないから配給もしたがアドウェント州に入ったからには現地調達が基本であろう」

「確かに、兵士どもはたるんでいる様だ」

 バスチアン将軍の言葉にブリュノ将軍も頷いた。

「今回の地上部隊は寄せ集めですから質が落ちるのは仕方ないことです」

「兵士どもの食い物よりもいまは魔導師の手配である」

「本国に動いてもらうしかあるまい」

「そうですね」


 現地司令官たちは本国に向け魔導師の手配を要請した。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 州都メントル郊外


「総長! 何があったのですか!?」

 オレリアは通信の魔導具に向かって叫んだ。

「総長! 叔父上!」

 薔薇の騎士団総長である叔父のクロード・デュクロとは、ついさっきまで繋がっていたのにいまは返答が無い。

 チャンネルを切り替えたが州都にいるはずの父親も弟も、そして到着したばかりのナオにも繋がらない。

「何があったというのだ!?」

 オレリアは通信の魔導具を見る。刻印に問題はない。顔を上げたが瓦礫の山が視界を遮っていた。

 空にあれほどいた竜騎兵の姿が一騎も見えない。

「さっきの爆風で飛ばされたのか?」

 わからないことだらけだ。

「オレリア様! 大変です! 州都が!」

 目の前の瓦礫の山をよじ登った騎士の一人が声を張り上げた。

「州都が?」

 オレリアは身軽に瓦礫の山を駆け上った。


「……何だこれは?」


 州都のあった場所からこれまで見たことのない大きさの黒煙が吹き出していた。

「州都が消えた?」

 オレリアはその場にへたり込んだ。

 城壁のあった辺りから地面がえぐられ沈み込んでいる。そこから先は鼓動のように吹き出す黒煙が視界を遮って確認することができない。

「叔父上! 父上! エリク!」

 オレリアは声を張り上げる。

 涙が視界を曇らせるが拭いもせずに叫び続けた。

「ナオ様っ!」


「なに?」


 頭上から声がした。

「……っ?」

 顔を上げると頭上の何もない空間に突然ドラゴンゴーレムが出現した。乗っているのは猫耳ゴーレム。そしてその後ろにナオがいた。

「うん、全員無事みたいだね、優秀、優秀」

 ナオがホバリングしているドラゴンゴーレムからオレリアの前に飛び降りた。

「なぉざまぁぁぁぁ!」

 オレリアが顔を涙でくしゃくしゃにしたままナオに抱きついた。

「ぎゃあああ!」

 顔に鼻水をこすり付けられたナオの悲鳴が響き渡った。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 州都メントル メントル城 客間


「……酷い目に遭った」

 ソファーに座ったナオはげっそりしていた。いまもオレリアが抱き着いている。

「とりあえず王宮は焼く」

 ナオがボソっと宣言した。

 爆発寸前の巨大ゴーレムを猫耳ゴーレムたちが格納して、危なく州都ごと吹き飛ぶのを回避していた。

 現在は州都の消滅を偽装中だ。

『にゃあ、王宮を焼くのはもうちょっと待つにゃん』

 オレはナオの前に幻体を再生した。

「でもね、ネコちゃん、あいつら本気であたしたちを殺しに来たんだよ、普通、焼かない? 焼くよね」

『にゃあ、普通は焼かないにゃん』

「えー」

 ナオは不満げだ。

『王宮も北方連合も油断させておけばいいにゃん、その間にいただけるモノは全部いただくにゃん』

「何をいただくの?」

『にゃあ、王宮ではお宝でこっちでは騎士と兵隊にゃんね。ローゼ村に集まってくる連中をこっそりとっ捕まえるにゃん。ついでに盗賊も入ってくればウハウハにゃん』

「ネコちゃんたちの都合ね」

 ナオは冷めた視線をくれる。

『にゃあ、アドウェント州だってどっさり戦争奴隷を得られるから悪い話じゃないにゃんよ』

「戦争奴隷なんて使い所ないんじゃない?」

『要らないなら適価でオレのところで引き取るにゃん』

「その辺りは領主様と相談して~」

『にゃあ、了解にゃん』

「でも、領民にしたっていつまでも街や村に引きこもっているわけにはいかないわよ、食料が無くなって干上がっちゃうもの」

『自給自足じゃないにゃんね』

「無理無理、そこまでスローライフしてないから」

『にゃあ、物資の補給ならオレたちにお任せにゃん、食料なら売るほどあるし、北方連合からもブン盗ってくるにゃん』

「北方連合の連中にはご愁傷さまだね」

『薔薇園の魔女に喧嘩を売ったにゃん、無事に帰れるわけがないにゃん、上から下まで全員戦争奴隷にゃん』

「なんか、全部あたしがやったことにされそう」

『有名人の宿命にゃん』

「公爵様、俺たちも外に出ない方がいいんですか?」

 薔薇の騎士団総長クロード・デュクロがオレに尋ねた。

『薔薇の騎士団なら状況が落ち着くまで姿を見せないのがいいにゃんね』

「では、夜になったらこっそり移動します」

『騎士団は何処かに行くにゃん?』

「薔薇園に戻ります。あちらに敵が集結している以上、俺だけ安全な州都にこもっているわけにはいきませんので」

『にゃあ、ローゼ村も薔薇園も安全にゃんよ』

「そうだとは思いますが」

『連中に猫耳たちの防御結界は抜けないにゃん』

「ネコちゃん、あたしも帰りたい、枕が変わると寝られないもん。ネコちゃんたちにあたしたちは通してくれるように言っといて」

 ナオが手を挙げた。

『帰りたいなら、オレたちが連れて行くにゃんよ』



 ○ケントルム王国 アドウェント州 地下トンネル


 ナオは州都メントルとローゼ村をつなぐ地下トンネルを走るジープに乗せられていた。ジープの運転は猫耳ゴーレムで、総長を始めとする騎士団の連中は後続のトラックに分乗して貰っている。

「あのネコちゃん、こんなのいつの間に作ったの?」

『にゃあ、最近にゃん』

 州都メントルとローゼ村を繋ぐ地下トンネルは魔法蟻のトンネルよりも浅いところを通っており、魔法車での通行を前提で作られている。こんなこともあろうかと昨日作ったにゃん。

 見た目は高速道路のトンネルそのまんまだ。

「それで何でトンネルなの?」

『オレたちが移動する為にゃん、まだこっちには来てないことになっているから監視の目があるアドウェント州では必要にゃん』

「えっ、そんなに監視されてる?」

『王宮の仮想敵にゃん、いまだに王宮を焼いたことを恨まれていると違うにゃん?』

「……若気の至りね」

『しかし、この国難にわざわざ辺境にいるナオを殺しにくるとか、もしかしてケントルムの国王はバカにゃん?』

「いまの国王ってオセロ四世だっけ?」

『違うにゃん』

 タイトルと数字違いだ。

「ああ、ルパン三世か」

 数字は合ってる。

『ハムレット三世にゃん』

「ああ、そっちね」

 どっちにゃん。

『命を狙っている相手の名前ぐらいちゃんと覚えるにゃん』

「元はユーグでしょう? あいつはハムレットなんて柄じゃないって」

『前から知ってるにゃん?』

「面識があるのは戴冠前だよ、いまの何とか三世になってからは知らない」

 名前を覚える気はさらさらないらしい。

『その程度の関係なのに命を狙われているにゃんね、国王の秘密でも知ってると違うにゃん?』

「ユーグの秘密? そんなのあったかな」

 考え込むナオ。

『明確な理由が無いというのも、それはそれでヤバそうにゃん』

 サイコパスか。

「ああ、そういえば先王がユーグのことを自分の子供じゃないとか言ってたな、戯れに貧民街から拾ったとか」

『にゃ、それってかなりヤバい秘密と違うにゃん?』

「そうなの?」

『だってそんなこと知られてないにゃんよ』

 少なくともオレたちが集めた情報には無かった。

「そうなんだ、あたしにとっては心底どーでもいいことだから、気にしたことも無かったよ」

『ナオは何でそんなヤバい秘密を知っているにゃん?』

「昔、先王のところに文句を付けに行った時にユーグが一緒にいたんだよね、で、父親を守ろうとして向かって来たのよ、軽くノシたけど」

『その時、秘密を知ったにゃんね?』

「そうなの聞いてもいないのに先王がベラベラとね、戯れで貧民の子を息子として育てたが忠誠心はいちばんだとかなんとか」

『たぶん、ユーグの秘密を知っていた人間は残らず始末したにゃんね』

「もしかして残りはあたしだけ?」

 ナオは自分を指差す。

『殺せるチャンスをずっと待っていたにゃんね』

 現代の日本ならともかく、こちらの王族や貴族にとって出自の秘密は致命的だ。特に階級に厳格なケントルムなら間違いなく王座から引きずり降ろされる。

「ユーグも秘密にしたいなら最初からそう言えばいいのに」

『……そうにゃんね』

 あっちからしたら連続放火魔と取引する気にはならなかったのだろう。オレも国王の気持ちがわからないではない。

「理由もわかったから盛大にバラしちゃおうか?」

『ここに来て政変を誘発するのは要らぬ混乱を招くにゃんよ』

 これ以上の騒動は御免こうむりたい。

「ネコちゃんの方があたしよりもこの国のことを考えているよね」

『成り行きにゃん』

 いまさら引くわけにもいかない。

「ネコちゃん、間もなくこっちに来るんでしょう?」

『明日には到着予定にゃん』

「えっ、明日なの? ネコちゃん、それってメチャクチャ早くない!?」

『みんなで頑張ったにゃん』

 実際、オレひとりだったら倍以上掛かったんじゃないだろうか。

「頑張ってどうにかなるとは思えないんだけど」

『たゆまぬ努力と研究の結果にゃん』

 オレ一人だと無理だけどな。

「もしかしてネコちゃんはケントルムを占領するの?」

『にゃあ、人のいなくなった場所は頂戴するにゃん』

「ケントルム王国全体は?」

『要らないにゃん、ただ二度と戦争をしようと思わないぐらいのお灸は据えるにゃん』

「うん、いいんじゃない、ただちょっと焼いたぐらいじゃ反省しないと思うけど」

『にゃあ、国王と宰相にパンチを入れるにゃん』

 既にお宝はいただいたから。

「ネコちゃんはマメだね」

『ナオは逆に大ざっぱ過ぎにゃん』

「うん、良く言われる」



 ○グランキエ大トンネル


「にゃあ、いよいよ明日には到着にゃんね」

「「「にゃあ」」」

 明日の朝にはケントルム王国に到着する。ピンクの猫耳ゴーレムたちの活躍も大きい。オレなんかトンネルに対しては最初のうちしか魔法を使ってない。幻体を飛ばした精神はともかく身体の方は抱っこされて過ごすという愛玩動物みたいな生活だった。

「砂海の砂の供給が止まって領域はほぼ確定してたから、一気に消すにゃんよ」

「「「にゃあ」」」

「砂海の魔獣も一気に制圧にゃん?」

 アルが問い掛ける。

「当然にゃん」

 オレじゃなくてウイが答えた。

「現地の猫耳たちが砂海の領域の地下に展開中にゃん」

 チーコが報告する。

「にゃあ、フライングは厳禁にゃんよ」

「大丈夫にゃん、ちょっと尻尾の先を焦がしたぐらいの被害しか出てないにゃん」

 アルが新情報をくれた。

「砂海の領域に行って尻尾の先だけで済んだのは、それはそれでスゴいにゃん」

 逆に感心する。

「新入りは、防御結界の展開範囲をもう一度おさらいにゃん」

『『『にゃあ』』』

 ケントルム産の新入り猫耳たちから念話で返事が来た。



 ○ケントルム王国 アドウェント州 西部地区 北方連合侵攻軍中隊野営地


 時刻は深夜になっていた。

 アドウェント州に入り込んだ北方連合侵攻軍の兵士たちは、簡易的なテントで寒空の下で横になっている。

「誰だよ、南は暖かいなんて言ってたヤツは」

「まったくだ」

 街道わきに作られた野営地で不寝番の二人の若い兵士が焚き火に当たっていた。野営地は簡易の防御結界が張られているので、不寝番は緊張感なく雑談に興じている。

「なあ、アドウェントの州都が壊滅したってマジか?」

 声を潜めて問い掛ける。

「ああ、小隊長たちが話していたらしいぞ」

 周囲を見回してから答えた。

「何でみんなに知らせないんだ?」

「竜騎兵様が一〇〇〇騎が一緒に吹っ飛んだって話だ。ちゃんとした確認ができてないんだろ」

「一〇〇〇騎って、そいつはヤバいな」

「いや、敵も味方も吹っ飛んだから、俺たちは安全てわけだ」

「確かに気難しい竜騎兵様のお世話をしなくていいのは最高だな」

「敵よりそっちか」

「当たり前だろ、ど田舎の敵より竜騎士様の方がヤバいだろ」

「まーな」

「後は街の結界が解ければ楽勝だな」

「ああ、小隊長が言ってたが携帯できる範囲なら金品を頂戴していいらしいぜ、女も派手にやりすぎなきゃ好きにしろと」

「おーそいつはいいな」

「だろ」

 二人はゲスな笑みを浮かべてうなずきあった。

「いいわけないにゃん」

「「……っ!?」」

 真後ろからの声に二人の兵士が慌てて振り返った。

「にゃ!」

 声の主を認識する前に二人の意識は刈り取られた。



 ○ケントルム王国 王都フリソス フリソス城 ゲストルーム


 王宮の長らく使われていない区画のゲストルームを改装してイングリス・ラガルド将軍とオレたちの現地ブリーフィングルームにした。

「城壁外から王宮までの地下トンネルが完成したにゃん」

 新しく作られた扉を開けて猫耳たちが現れた。

「将軍は状況を把握したにゃん?」

 イングリス将軍に問い掛けた。

「ああ、私を陥れてグレン・バーカーがやりたかったことがこれとは、あまりにも不甲斐ない」

 憤懣やるかたないといった感じの将軍は腕を組んだ。

「それでだ、マコト公爵に話はできるだろうか?」

 将軍がオレに問い掛けた。

『にゃ、呼んだにゃん?』

 モノレールの露天風呂車両から幻体を飛ばした。

「確認させていただきたいのだが、公爵殿は国境線の変更は考えてはいないのだな?」

『にゃあ、それはないにゃん、ハリエット陛下もそれを望んではいないにゃん』

 ハリエットはオレに丸投げだし。

「州都の壊滅した州だけを占領すると?」

『にゃあ、基本はそうにゃん、でも攻めて来た領地はその限りではないにゃんよ』

 例えば北方連合一〇州だ。

「無論それで構わぬと思う」

『オレとしてはケントルムそのものを占領するつもりはないにゃん。ただこれは戦争にゃん、攻撃されれば反撃するしオレたちの都合が優先されるにゃん』

「相わかった、ただ罪のない市民は助けていただけないだろうか?」

『オレたちに敵対しなければ手は出さないにゃん、むしろ市民を危険に晒しているのは、そっちの王宮と領主たちにゃんよ』

「確かに耳の痛いところである。この国は各領地の諸侯が強い、王宮もそこまでの力を持ってはおらず他領の領民を救うという発想がない」

『以前は良くても今後は駄目にゃん』

「公爵殿の仰るとおりである。ましてこの未曾有の国難、今上の陛下にはその意味がわかっておられぬらしい」

『王都というより自分が良ければそれでいいみたいにゃんよ』

「王国軍を潰したのも、王宮強化の一環であった様だ」

 表情に悔しさをにじませる。

『そうみたいにゃんね』

 ケントルムの王国軍も諸侯軍を集めて作られていた。アナトリと違ってまともな人員が供出されており領地間の互助組織的な性格だった様だ。そしてその独立性と武力が大きくなったところで潰された。

『にゃあ、それと第三王子たちが明日、派手にやらかすみたいにゃんね』

 王宮内で情報を収集した結果、第三王子を中心としたとある計画を知った。

「困ったものである」

 両手を組んで難しそうな顔をする。

「将軍はどうするにゃん?」

 こっちの王宮のことなのでオレたちにはどうでもいい。

「知ったからにはこれ以上の愚行は座視するわけにはいかぬと思う。公爵殿、相談なのだが私にご協力願えるだろうか?」

『いいにゃんよ、そうなるとまずは作戦会議にゃんね』

「感謝する」

 猫耳たちとイングリス将軍がテーブルを囲み、オレも幻体のまま作戦会議を開始した。


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