プリンキピウムの孤児院にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇五月〇五日
翌日、朝食の準備をしてると子供たちが起きてきた。
「おはようにゃん」
「「「「おはよう」」」
全員、オレが用意したパジャマを着てる。
どの子も一晩寝たせいか皆んな血色が良くなっていた。
煤けていた髪の色も艶を得ている。
朝のメニューはサラダとベーコンとソーセージにパンケーキだ。
「「「美味しい!」」」
「にゃあ、パンケーキはシロップたっぷりが最高にゃん」
「うん、あたしもお勧めだよ」
サトウカエデのそっくりさんが森の中にはたくさんあるのでいくらでも集められる。
「ネコちゃん、甘くて美味しいね」
メグが口の周りをベトベトにして満面の笑みを浮かべた。
「にゃあ、気に入ってくれたなら孤児院にプレゼントするにゃん」
「本当に!?」
「本当にゃん」
○プリンキピウムの森 南西エリア
朝食の後はロッジを仕舞った。
「うわ、格納されちゃったよ」
魔法使いのブレアがいちばん驚いていた。
「マコトさん、道案内を頼んでいいですか?」
「にゃあ、もちろんいいにゃん」
「じゃあ、出発しましょう」
アシュレイが前に立った。
「にゃあ、待つにゃん、ここからは歩きじゃなくて馬で帰るにゃん」
「馬ですか?」
「そうにゃん、馬にゃん」
「森の中を魔法馬なんて大丈夫なのか?」
バーニーが心配そうな顔をする。
「にゃあ、他の魔法馬は知らないけどオレのは大丈夫にゃん」
魔法馬を二頭出した。
「大きいお馬さん!」
メグが声を上げた。
「男子はそっちに乗るにゃん、女子はこっちにゃん」
「森で馬に乗ったりして獣に襲われたりしないんですか?」
アシュレイは一般的な知識が邪魔してまだ心配らしい。
「にゃあ、この魔法馬たちの防御結界は半端ないから、この辺りの獣だったら大丈夫にゃん」
「防御結界付きの魔法馬って、めちゃくちゃ高くない?」
ブレアが馬を眺める。
「まあ、そうにゃんね」
軍用だから安くはないだろう。
「うん、間違いないよ」
リーリも保証する。
「にゃあ、大きいことはいいことにゃん、とにかく行くにゃん」
「俺たち魔法馬に乗ったことないんだけど」
バーニーが恥ずかしそうに手を上げた。
「にゃあ、オレが遠隔で操作してるから大丈夫にゃん、それに直ぐに慣れるにゃん」
「わかった」
三人の男子が恐々、魔法馬の背中に乗った。
オレもアシュレイとメグを魔法馬に引っ張り上げた。
「出発!」
リーリの号令の下、オレと子供たち五人が分乗した二頭の馬でプリンキピウムの街に向かう。
「お馬さんに乗ってると楽ちんだね」
メグはオレの前に乗せてる。
「にゃあ、寝ててもちゃんと目的地に着くぐらい楽ちんにゃん」
「えっ、寝てても着くんですか?」
オレの後ろに乗ってるアシュレイが驚きの声を上げる。
「にゃあ、試してもいいにゃん」
「いえ、遠慮します」
後ろの馬に乗った男の子たちは三人三様の反応を見せる。
「わわ、本当に自分で動いてる」
いちばん前に乗ったバーニーはおっかなびっくりだ。
「わあ、すごく高い」
ブレアは初めて乗る魔法馬に感動してる。
「この高さは狩りにも有利に働きそうだ」
カラムは弓を引く動作をしてる。
途中、獣が何匹か寄って来たが、馬の結界に触れる前にオレが電撃で始末した。
子供たちを怖がらせないようにゆっくり目に馬を走らせたせいでプリンキピウムの門に到着したのはお昼ちょっと前の時間になっていた。
○プリンキピウム 西門
「おまえら大丈夫だったか!」
守備隊の副隊長に出迎えられた。
「マコトさんが助けてくれました、ご心配お掛けしました」
アシュレイが頭を下げた。
「そうか、マコトが連れ帰ってくれたのか、ありがとうな」
「にゃあ、たまたま合流したにゃん、遅くなったからオレが引き止めて一泊させたにゃん」
「悪くない選択だ、ギルドの連中も心配してたから後で報告しとけよ」
「にゃお、オレから文句を言ってやるにゃん」
「何で心配してるのに文句を言われるんだ?」
「にゃあ、元はと言えば冒険者ギルドが孤児院の運営費を無くしたせいにゃん、こいつらが狩りに出るようになった要因にゃん」
「本当かよ」
副隊長も顔をしかめる。
「にゃお」
「でも、あのデリックの旦那がそんなことするかな?」
「にゃあ、そこはオレも引っ掛かるにゃんね、でも、町からのお金も止まってこいつらが困ってたのは事実にゃん」
「町か」
副隊長は声を潜めた。
「デリックの旦那にちゃんと確かめろ、ここの町長はちょっとヤバいヤツだから」
「にゃあ、わかったにゃん、まずは確認するにゃん」
オレも声を潜めた。
オレはその足で冒険者ギルドに向かい、子供たちは食料の入った布袋を渡して先に馬で孤児院に帰らせた。
皆んな魔法馬にはすっかり慣れて自在に操っている。この手のことは子供の方が適応が早いのかも。
「またね、ネコちゃん、リーリちゃん!」
パカポコと歩き出した魔法馬の上から振り返ってメグが手を振った。
「にゃあ、オレたちも後で行くにゃん」
オレとリーリも手を振って二頭の魔法馬が見えなくなるまで見送った。
○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー
「ネコちゃん! 森で子供たちを見なかった!? 五人なんだけど!」
冒険者ギルドに入るなりデニスがカウンターから飛び出してきた。
「にゃあ、孤児院の子供たちだったら昨日偶然に森の中で拾ったにゃん、日帰りは無理そうだから野営して先に孤児院に帰したにゃん」
「子供たちは無事なのね!?」
「にゃあ、五人とも無事にゃん」
「良かった、守備隊から子供たちが帰って来ないって話があった時から、生きた心地がしなかったんだから」
少なくともデニスは本気で子供たちを心配していた。
「にゃあ、孤児院のことでデリックのおっちゃんに話があるにゃん」
「ギルマスに? ちょっと待ってて」
ギルマスの部屋から『無事だったんだな?』とデカい声が聞こえた。
「ネコちゃんたち入って」
デニスに手招きされた。
○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室
「おう、マコトに妖精さん、ガキどもが迷惑を掛けた」
「流石にちっちゃい子がトラに睨まれてたら無視できないにゃん」
「またトラか、増えてるのか?」
「にゃあ、そんな感じはしないにゃん、入り込んだエリアと運の問題にゃん」
「なるほどな」
「にゃあ、ギルマスは何で子供たちが森に入ったか知ってるにゃん?」
「狩りの練習じゃないのか? もっとしっかり基礎を教えないとマズいのはわかった、そこは俺の責任だ」
「違うにゃん、あいつらは食べるものが無くなって仕方なく森に入ったにゃん」
「おい、マコトそれはどういうことだ?」
ギルマスは気色ばんだ表情になる。
「冒険者ギルドは一年前、町からは二ヶ月前に補助金が止まったそうにゃん」
「一年も前だと!? やりやがったな、あのペテン師野郎!」
ギルマスは完全に鬼の表情になった。
「にゃあ、やっぱり町長が噛んでるにゃんね」
「ああ、ヤツがギルドの供出金をガメやがったんだ、直ぐに捕まえたいが証拠がいる」
「にゃあ、町長ってどんなやつにゃん?」
「先代は冒険者上がりだったが、いまのは金で町長を買った貴族崩れのクズだ」
「にゃあ、クズじゃしょうがないにゃん」
「ちなみに町長の屋敷はここだ」
おっちゃんは地図を引っ張りだして指差す。
「にゃお、街の真ん中の邪魔くさい屋敷にゃんね」
屋敷がないとすっきりしそうだ。
「おっちゃん、孤児院の建物は改造してもいいにゃん?」
「ああ、あそこは土地も建物もギルドの物だ、好きにしていい」
「にゃあ、ありがとうにゃん」
「そうだ、相談なんだがプリンキピウムの孤児院をマコトが買い取ってくれないか?」
「にゃ、孤児院をオレが買うにゃん?」
「そうだ、こんなことを頼める財力のある冒険者がプリンキピウムでは、六歳のマコト以外いないのがちょっと情けないけどな」
「にゃあ、いまさら見捨てられないからオレのできることはやるにゃん、でも、冒険者ギルドではダメにゃん?」
「外から孤児院に変な圧力が掛かる前に切り離したい」
「にゃあ、了解にゃん」
「助かる、ギルドの予算では現状維持がやっとでな、マコトほどポンポンモノを出せる魔法使いもいないと来てる」
「普通はいないよね」
リーリが頷く。
「孤児院はいくらにゃん?」
「金貨一枚ってところか」
「ずいぶん安いにゃんね」
「いや、町外れの不便な場所だ、それでも高いぐらいだ」
「にゃあ、いま払うから手続きして欲しいにゃん」
○プリンキピウム 北西部 町道
魔法馬を走らせるデニスの案内でオレたちはプリンキピウムでも辺鄙な場所にある孤児院に向かった。
「私も迂闊だったわ、孤児院の皆んながそんなに追い詰められてたなんて」
「補助金のことをデニスにしゃべらない様に口止めされてたらしいにゃん」
「口止めって誰に?」
「町長とその手下にらしいにゃん」
「孤児院のお金をだまし取るなんて、私がぶっ飛ばしてやる!」
「にゃあ、ぶっ飛ばすのはちゃんと証拠がそろってからにするにゃんよ」
○プリンキピウム 孤児院 前
孤児院に到着すると子供たちとチンピラ風の若い男がふたりが揉めていた。チンピラはどちらも細身で冒険者のおっちゃんたちに比べるといまいち強くは無さそうだ。
「にゃあ、どうしたにゃん?」
「あっ、マコトさん、この人たちが魔法馬を勝手に持って行こうとするんです!」
アシュレイが叫ぶ。
「うるせぇ! これは俺たちの馬だ、小汚い孤児院のガキが乗っていいもんじゃねぇんだよ」
チンピラだけに面白いことを言う。
「この二頭はオレの馬にゃん、チンピラ風情が触っていいもんじゃないにゃん」
「そうだぞ」
リーリもオレの頭の上でお怒りだ。
「はあ? てめえも孤児院のガキか? だったら俺のもんだろう、孤児院は俺のオヤジのものだからな!」
「少なくともおまえのハゲオヤジのものじゃないにゃん、さっさと失せないと犯罪奴隷にして、売っ払うにゃんよ」
「てめぇ、貴族でしかも町長の息子である俺様を侮辱した罪でぶっ殺してやる!」
顔を真赤にしたチンピラの片方がナイフを抜いた。
沸点低すぎにゃん。
「にゃあ、町長の息子って、貴族崩れは貴族に含まれないにゃんよ、もしかしてバカにゃん? そこの共犯も自称貴族にゃん? 貴族を騙ると重罪にゃんよ」
「俺のオヤジはこの街の守備隊の隊長だ」
「にゃあ、隊長がいつから貴族になったにゃん? バカの友だちはやっぱりオツムが足りないにゃんね」
「おまえらに比べたら俺たちは貴族様だ! とにかく怪我をしたく無かったら馬を寄越しやがれ!」
もう一人もナイフを抜いた。
「やれやれにゃん、バカと話すと疲れるにゃん」
「そうだね、疲れるね」
「てめぇは絶対に殺す、死ね!」
「いいぞ、やれ!」
町長のバカ息子がナイフを振り回して突っ込んで来た。
「マコトさん!」
「にゃ!」
素っ裸になったふたりが仰向けに倒れた。
「にゃあ、オレの魔法馬を奪おうとナイフを振り回したんだから、盗賊行為で犯罪奴隷決定にゃんね」
オレはデニスに聞く。
「ええ、それで間違いないわ、それに孤児院は自分の物だとか言ってたし、真実の首輪を使ったらもっと面白いことを聞かせてくれそうね」
「にゃあ、そうにゃんね」
オレはその場でチンピラふたりが入る様に箱を作り、更に箱が載る荷馬車を作る。
「こいつらのことはデニスに頼むにゃん、オレは孤児院を直して明日ギルドに顔を出すにゃん」
「わかったわ、ギルドに持って帰って手続きと取り調べをしておくね」
「にゃあ、お願いにゃん」
二頭の馬を荷馬車に繋ぐ、その後は並走するデニスに遠隔操作されつつ冒険者ギルドへと走り去った。
「ありがとうマコト、あいつら毎日の様に嫌がらせをしに来てたんだ」
バーニーはホッとした表情を浮かべてた。
「いろいろ盗んでいったし」
ブレアはまだ少し怯えていていた。
「ナイフを振り回すからボクらにはどうすることも出来なかったんだ」
カラムは悔しそうな表情を浮かべた。
「にゃあ、ナイフを持ってる相手にはそれでいいにゃん、それにヤツらはこれから罪を償うことになるにゃん」
「もう来ないの?」
メグがオレに抱き着く。
「にゃあ、もう来ないにゃんよ、それに孤児院は今日からはオレが守るから心配要らないにゃん」
「「「本当に?」」」
「本当だよ!」
オレに代わってリーリが答えた。
○プリンキピウム 孤児院
「それにしても孤児院と言うより崩れかけの小屋にゃんね」
目の前に有る孤児院の建物は、前世で見た川岸に違法に建てられた物置小屋よりヤバい感じの思っていた以上に酷いモノだった。
「チンピラが暴れなくても壊れそうだね」
「にゃあ」
心霊スポットと大差ない。
「にゃあ、まずは建物を直すにゃん、いま子供たちは全員で何人いるにゃん?」
「全部で十五人です」
アシュレイが教えてくれる。
「にゃあ、だったらこの大きさでは狭いにゃんね」
敷地は有るんだから倍の大きさにしても問題無さそうだ。
「にゃあ、手っ取り早く作り直すにゃん」
「いいぞ、やれ!」
オレの頭の上でリーリが腕を振り上げた。
小屋の中にいた小さな子たちを外に連れ出して準備OKだ。
「にゃあ、始めるにゃん」
小屋を消し去りしっかりとした石造りの頑丈で綺麗な二階建ての建物に造り替え、さらに建築面積を三倍にした。
外のボットン便所を消して水洗トイレと風呂を増築した。
キッチンも造り替え魔導具を入れる。
二階には寝室を作った。
以前と同じくベッドではなく布団を敷く方式だ。
布団は以前のボロ布では無く恐鳥の羽毛布団だ。
「にゃあ、着替えもパンツも靴も全部新しく作り直すにゃん」
それと虎皮のクッションはオレからのプレゼントだ。
「にゃあ、ひとまず建物は出来上がりにゃん」
「わあ、孤児院がすごく大きくなった!」
メグはオレに抱き着いて孤児院の建物を見る。
他のちっちゃい子たちもオレにくっついた。
今にも崩壊しそうだった小屋は小洒落た建物に生まれ変わった。
「にゃあ、塀もちゃんと作るにゃん」
敷地をしっかりとした塀で囲い、剥き出しの地面を芝生っぽい月光草で覆った。
門扉も頑丈なモノを付ける。
「仕上げは防御結界にゃん、部外者は入れないから何かあったら門の中に逃げ込むにゃんよ」
「「「うん」」」
全員が頷いた。
「皆んなも綺麗にするにゃん」
全員にウォッシュを掛ける。
健康状態もチェック。
やはりどの子にも大なり小なりエーテル器官にエラーがあるのでさっと修正した。
「にゃあ、お昼の時間が過ぎたにゃんね、お昼ごはんにするにゃん」
「お昼ごはんがあるの?」
ちっちゃい子がオレのスカートを引っ張る。
「にゃあ、あるにゃん」
「「「わぁい♪」」」
ちっちゃい子たちは大喜びだ。
「さあ、お家に入るにゃん」
皆んなを建物の中に入れる。
「にゃあ、入口では靴を脱ぐにゃん」
建物全体に自動ウォッシュ&補修を付けたからちっちゃい子が汚しまくっても大丈夫だろう。
「お昼は、オオカミのソーセージのホットドッグにゃん、ちっちゃい子にはパンケーキにするにゃん」
まずはテーブルと椅子を取り替えてから、おなかを減らしてる子供たちのためにホットドッグやパンケーキを出してやる。
「あたしには両方ちょうだい!」
リーリには両方出してやる。
「にゃあ、スープとサラダもあるにゃん、いっぱいあるから慌てなくていいにゃんよ」
子供たちが食べてる間にトイレや風呂それに各種魔導具の使い方を直接教え込む。
「にゃあ、ケチャップでベトベトにゃん」
ちっちゃい子の面倒を見ながら料理を追加する。
「ジュースも出しておくにゃん」
ちっちゃい子は早々におなかがいっぱいになったので、もう一度ウオッシュを掛けてから二階の寝室に連れて行った。
「にゃあ、お昼寝するにゃん」
言うまでもなく皆んな夢の中に旅立っていった。
続けてオレは地下に食料庫を作る。
状態保存の魔法が掛けて有るのでここから出したら直ぐに食べられる様にした。
時間になったら入れる様に時間錠と普通の鍵を用意する。
「にゃあ、鍵は二本有るから皆んなで話し合って保管するにゃん、それから危ないから小さい子だけでは入れないようにしてあるにゃん」
「わかりました」
アシュレイが代表して鍵を受け取った。
「にゃ?」
敷地の外側に張った警戒結界に何かが引っ掛かった。
距離を少し置いて馬車が停まっている。
この辺りは雑木林と孤児院しかないので、間違いなくこちらに用があるのだろう。
「コソコソしてるから、あまりいい用事では無さそうだね」
リーリも気付いた。
「にゃあ」
オレたちは認識阻害の結界を使って馬車に近付いた。
距離を置いて孤児院を覗き込んでる男が三人。
オレは音もなく電撃で全員を気絶させた。
一人ずつ記憶を覗く。
一人目は町長だ。
四〇代後半の男で実家は王都の法衣男爵。
寸借詐欺を繰り返し勘当されてアルボラに流れ着いた小悪党だ。
州都の貴族の行き遅れの娘を孕ませて取り入り、数年前からはプリンキピウムの町長の地位を手に入れせっせと小銭を稼いでる。
ふたり目は守備隊の隊長だ。
四〇代前半の神経質そうな痩せた男で王都のころから町長の腰巾着だった。
内心、町長をバカにしてるがやってることは同じだ。
三人目は犯罪ギルドのノクティスのプリンキピウム支部のギルマスだ。
犯罪ギルドは、日本で言うところの暴力団みたいなものか。
看板は出してないが皆んな知ってる存在だ。
本人は五〇代前半の禿頭のデブオヤジ。
元は冒険者らしいが、その実態は冒険者を襲う強盗だ。
どうやらバカ息子たちとは別口で、魔法馬に乗ってる子供たちをノクティスのチンピラが見たらしくギルマスから町長と隊長にご注進したらしい。
金の匂いを嗅ぎ付けて来て見たら孤児院がいつの間にか建て直されていた。
これはもう取り上げて売っ払うしかないと盛り上がっている最中だ。
ギルドの土地だがそんなものは書類を書き換えればいいらしい。
どうも同じ手口で何件も騙し取っていた様だ。
そろいもそろってクズだが詐欺の手口はなかなか洗練されていた。
これまで公に露見しなかっただけのことはある。
「にゃあ、残念ながらオレには通用しないにゃん」
「あたしにも通用しないよ」
そっと離れて何事も無かった様に町長たちを目覚めさせる。
引き続き孤児院を潰す算段を話し合う三人。
自分たちの息子がいま犯罪奴隷として売っ払われそうになってることは全く知らないようだ。
孤児院の子供たちが外に出てくるとコソコソと馬車を出した。
町長たちが乗った馬車が大通りに出たところで突然、魔法馬が崩れ、馬車の車軸も折れて派手に横倒しになったらしいが、オレは何も知らないにゃん。
細々としたモノを出したり作ったり調整したりしてるうちに暗くなって来た。
「今日は暗くなっても明るいね」
メグの言葉に子供たちが頷く。
いままで無かった魔導具のランプが食卓を照らしていた。
これまではランプすらない生活を強いられていたわけだ。
「にゃあ、夕ご飯にするにゃん」
「「「わーい!」」」
ちっちゃい子たちもすっかり元気になっていた。
子供たちの健康状態も問題なしだ。
夕食は、クロウシバーガーと野菜サラダにゃん。
いちばん食べたのはリーリだった。
真夜中、オレたちは孤児院の庭に張ったテントからコソッと外に出た。
夜も更けたことだし出発だ。
門を出ると馬を再生した。
行き先は……。