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トンネルは続くにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年十一月二八日


 ○王都タリス 王立魔法大学附属魔法学校 教室


「今日もレイモンくんは帰って来なかったね」

「本当にいったい何をされているのでしょう?」

 ケントルムからの留学生マルレーヌ・マラブルとマルネロ・ダヤンは、相変わらず姿を見せない同郷のレイモン・アムランを心配している。

「学校の外に出られないから大使館の人たちにも聞けないし」

「仕方がないですよ、ケントルム王国とアナトリ王国は戦争中なんですから」

「まあね、学校に戻れるだけ凄いんだけど」

 学校の外に出られないこと以外は開戦前と何ら変わらない学園生活に戻っていた。


「にゃあ、授業を始めるにゃん」

 チャド講師の講義に何故か猫耳がやって来た。

「先日までこの講義を担当していたチャドは、王宮に異動になったので、本日からは新しい講師が担当するにゃん」

 教室がザワザワする。

「急に異動ですか、チャド先生、王宮で何をするんでしょう?」

 マルネロは首を傾げる。

「器用な人だから何でもできるんじゃない? ああ、いなくなっちゃうのか、チャド先生の講義、面白かったんだけどな」

 マルレーヌは不満げだ。

「そうですね、わかりやすい授業でしたね」

 他の生徒たちの意見もマルレーヌとマルネロとほぼ同意見だ。ちゃらんぽらんだが不思議と人望があった。

「にゃあ、静かにするにゃん」

 教室が静かになる。

「それでは新しい講師を紹介するにゃん、にゃあ、入っていいにゃん」

 扉が開いた。

「レイモンくん!?」

 マルレーヌは思わず大きな声を出してしまった。

 レイモンことルーファスは、マルレーヌの顔を見て苦笑いを浮かべる。

「にゃあ、改めて紹介するにゃん、レイモン・アムランことケントルム王国ルーファス第二王子殿下にゃん」

「「「……」」」

 教室の中の時間が停まったかのように静まり返った。

「ルーファス第二王子って、ええっ!?」

 マルレーヌが最初に再起動した。


「ルーファス殿下は半年前に留学をされたが、警備上の関係でレイモン・アムランと名乗っていたにゃん、では自己紹介をお願いにゃん」

 余計な情報は表に出さない。

「ルーファスだ、みなを騙す様な形になって済まない、今回の戦争で私はケントルム王家の籍を離れた、いまはひとりのアナトリ王国の臣民なので、以前と同じように接して欲しい」

「拍手にゃん」

 パチパチと拍手が起こる。

「レイモンくんがルーファス殿下だったなんて」

 ルーファスに対して先輩風を吹かせていたマルレーヌだけが頭を抱えていた。



 ○グランキエ大トンネル


 ピンクの猫耳ゴーレムの実戦投入に伴い、黄色いエーテル機関が大量に手に入った。それらは全数ゴーレム化している。

 オレの作った刻印でピンクの猫耳ゴーレムが手軽に生産できるようになって、あっという間にトンネル内がいっぱいになる勢いで増えていた。

 ひとりずつ魔法蟻に乗っていては本当にトンネルが埋まるので、いまは全員がトラックに乗り換えている。

 あれほど慎重にやっていた砂海の魔獣の処理も雑なぐらい簡単になって、いまでは四区画を一気にブチ抜いて進撃の速度もまたまた上がっていた。


「にゃふ~、ここまで退屈になるとは思ってなかったにゃん」

 オレは大きなあくびをしながら伸びをする。仕事をピンクの猫耳ゴーレムと刻印に割り振ってしまったのでやることが無かった。

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちもトラックの荷台に人を駄目にするクッションに埋まってる。

 初めて砂海の砂に防御結界を抜かれた衝撃と砂海の魔獣と対峙した時の緊張はもう遠い日の思い出にゃん。

「ピンクは優秀にゃん」

 チーコがピンクの猫耳ゴーレムの動きをモニターしている。

「予想以上にゃん」

 アルは朝からソフトクリームを舐めてる。

「お館様、この調子なら明後日にはタルス一族の街だった場所に到着しそうにゃん」

 ウイが距離を測っていた。

「まだ掛かるにゃんね」

 オレは飽きていた。十分に下調べと準備をしたから砂海の砂に埋まって絶体絶命なんてことにはならないから退屈になるのは当然なのだが。

「それでもタルス一族の鉄道馬車に比べたら段違いの速さにゃん」

「今後はモノレールを通すから快適に行き来できるにゃんね」

 トンネルは二階建て仕様に作り変えられ、上の階にモノレールを通し下の階をオレたちが独占して使用することにした。いま後ろでこれまたピンクの猫耳ゴーレムたちが工事をしている。

「にゃあ、ゴロゴロしてるのも退屈にゃん、この距離ならタルス一族の街にあるヤバい仕掛けでも調べてみるにゃん」

「お館様は、ここから調べられるにゃん?」

 アルがチョコミントのアイスを食べながら聞く。

「たぶんイケるにゃん、多少無理をしても退屈しているよりはずっといいにゃん」

「だったらウチらも調べるにゃん」

 チーコがこっちを向いた。

「にゃあ、いいにゃんよ、全員でやるにゃん」

「「「にゃあ」」」

 荷台でゴロゴロしていたオレたちは一斉に精霊魔法系の探査魔法を打った。いずれもクッションに埋まったままだが。


 明後日あたりに到着しそうな位置に大きな空間が拡がっている。たぶんそこが街のあった場所だ。


 いまは砂海の砂に溶かされて、大きな地底湖の様な風景になっていた。実際には真っ暗だけどな。そこに蛇だの魚だの多彩な形に変化した魔獣が一〇体ほどうろついている。残念ながら喰いあったりはしないらしい。

「街の有ったらしき場所は、小さく区分けしてないにゃんね」

「にゃあ、トンネルじゃないからと違うにゃん?」

 区画を分けるのが面倒くさかったとか、そんな理由の様な気がしないでもない。

「侵攻軍の痕跡も全く残ってないにゃん」

 街が綺麗サッパリ消えてるぐらいだから人間なんかひとたまりもないか。金属を含めて本当に何も残っていない。魂もない。溶けはしないだろうから天に還ったのだろう。

「お館様、ここのヤバい仕掛けは王家の関係者を生贄にしなくても動いたにゃん?」

「タルス一族に皇帝の血筋がいたと違うにゃん?」

「にゃあ、ありそうにゃん」

 帝国の分裂後に皇帝の血脈は、各地に散っているからボッタクリな一族がいても不思議は無い。

「それで問題のヤバい仕掛けは何処にゃん?」

 まさか溶けて無くなったなんてことは無いよな。

 壁際か?

 機械的な仕掛けではなく、溶けない壁に刻印として刻まれているはずだ。

 続けて探査魔法を打ちまくる。

「人がいるにゃん」

「「「にゃ?」」」

 猫耳たちがオレを見る。

「右側の壁の向こう側に小さな隠し部屋があるにゃん、そこにいるにゃん」

 位置情報を共有する。

「にゃあ、本当にいるにゃん」

 アルも確認した。

「二人にゃんね」

 ウイが人数を確認した。

「魂はあるけど死んでるにゃん」

 チーコは状態を確認する。

「カチンコチンの金属状態にゃんね」

 壁の向こう側の小部屋にいる二人は彫像になっていた。ホコリが積もってるところを見ると最近死んだわけではなさそうだ。

「これはいつ頃の人間か本人に聞かないとわからないにゃん」

「そうにゃんね」

「お館様、砂を出すっぽい刻印を発見にゃん!」

 アルが砂を出す刻印を見付けた。小部屋の対岸、左側の壁に掌サイズの刻印が刻まれている。

「「「ちっちゃいにゃん!」」」

 全員でツッコむ。

「でも、間違い無さそうにゃん」

 読み込んだ魔法式は、チャドの前世の記憶から引っ張り出したモノと一致した。

 猫耳たちと魔法式を共有する。

「止められるのは、砂だけみたいにゃん」

「隔壁は自動起動だったにゃん」

「砂が止まれば、とりあえず問題は砂海の魔獣だけになるにゃん」

「にゃあ、ひとまず砂は止めるにゃん、念の為、引き続き砂の吐出口には全部蓋をするにゃんよ」

「「「了解にゃん」」」

『『『にゃあ』』』

 ピンクの猫耳ゴーレムたちも声を上げた。


 遠距離だが、刻印の修正はそれほど難しくない。

 今度は砂の吐出機能そのものを削った。たぶんこれでケントルム側の流出も止まったはずだ。


 刻印の修正が終わったところで、ケントルムの猫耳たちから念話が入った。


『にゃあ、これからソルダート傭兵団を攻めるにゃん』

 ケントルム東部にいる大手盗賊団の三つ目だ。厳密には違うがやってることは盗賊団そのものな連中だった。

『了解にゃん、オレたちもアシストするにゃん』

『『『にゃあ』』』



 ○ケントルム王国 ジェラーニエ州 スソーラ砦


 ジェラーニエ州は、この前エフォドス団を狩ったヴォーリャ州の更に北に位置する。ちなみに東隣りが砂海の砂に沈んだアナトリ派の一つヴラーチ州だ。

 そしてジェラーニエ州もヴラーチ州からの魔獣の侵入によって蹂躙され、州都が失われていた。


 ジェラーニエ州とヴォーリャ州の境界門近くにあるスソーラ砦。諸侯軍が境界警備隊が使用していた古い砦だ。ここもまた先日の魔獣の大発生の際に魔獣に襲われ半壊している。そこを現在は悪名高いソルダート傭兵団の根城にしていた。


 ソルダート傭兵団は、ヴラーチ州の諸侯軍としてアナトリ侵攻軍に参加する予定だったが、後方にいたことが幸いし砂海の砂からギリギリ逃れた。その統制の取れた撤退の動きは他の諸侯軍の上を行く。

 もともと素行に問題のある傭兵団だが、強さはピカイチで領地間での紛争の絶えないケントルム国内では重宝されている存在だ。今回はその素行の悪さを発揮し、行きがけの駄賃とばかりに盗賊&火事場泥棒に精を出していた。


「ナリュート団とエフォドス団が消えただと?」

 砦の司令官室に陣取ったソルダート傭兵団の団長、白髪鬼の異名を持つグラシアンは報告の内容を聞き返した。今年五〇になるがその鍛え抜かれた肉体は少しも衰えていない。

「突然消えた様です」

 魔導師のマルセルが報告する。この痩せた若い男は現役の宮廷魔導師だ。ヴラーチ州の諸侯軍に派遣されたが、現在もそのままソルダート傭兵団と行動を共にしていた。

「おでたちにおそれをなしてにげだしたんじゃやねえか?」

 ソルダート傭兵団の副団長アンベールはグラシアンの息子で、でっぷりと太った巨漢だ。見た目と違って戦闘ゴーレム並の速度で剣を振るう。

「そうなのか?」

「いえ、遠見の魔法使いの報告では、その後の消息がまったく見えない様です」

 グラシアンは、お宝を貯め込んでるとおぼしきナリュート団とエフォドス団への襲撃を計画しマルセルたち魔法使いに動向を探らせていた。

 盗賊団なら討伐しても何ら問題もない上に報奨金まで付いて来る。しかも今回の悪行をすべてなすり付けられるといい事づくめだったのだが。

「討伐か?」

「いえ、全員を殺して運び去る以外は無い可能性かと?」

「みおとしたんじゃねえのか?」

「いえ、ナリュート団が三〇〇以上、エフォドス団が二〇〇以上ですから、見落としはないかと」

「魔獣か?」

「それはあるかもしれません、強力な認識阻害を使うヤツなら魔法使いにも気付かれず近付くとされていますので」

「俺たちもそろそろ潮時か」

 グラシアンは顎を撫でる。

「まじゅうあいてならしかたねえな」

 アンベールは腕を組んで頷く。

「魔獣の領域は拡がっていますから悪くない判断かと」

 マルセルも同意した。

 いずれも戦闘狂だが、魔獣を相手にしようとはしない。天災に戦いを挑むようなものだからだ。


「報告します、第二、第三小隊、連絡が途絶しました」

 伝令が報告した。

「何だと?」

「報告します、第五、第七、第八小隊、連絡が途絶」

 次々と報告が入る。

 いずれも周囲に展開していた小隊が消息を絶ったというモノだ。

「まじゅうか?」

 アンベールは立ち上がって剣を抜く。

「そうなのかマルセル?」

 グラシアンも周囲を警戒する。

「いえ、わかりません」

 マルセル自身も探査魔法を打ったが何も引っ掛からなかった。



 ○グランキエ大トンネル


『にゃあ、大猟にゃん』

 盗賊をやるだけあって同じ傭兵団でもユウカのところのブラッドフィールド傭兵団に比べるとずっと柄が悪かった。あっちはユウカが顔で選んでいる疑惑があるし、自主的な盗賊行為はやってない。

『超ヤバいソルダート傭兵団がこんなに簡単に狩れるとは、流石お館様の装備と猫耳ゴーレムにゃん』

 地元産の猫耳、元エフォドス団の団長のエンゾだったエンが感心する。当然、以前の面影はこれっぽっちも残っていない。一晩で猫耳化が完了していた。

『おまえらの土地勘と相手の情報は重要にゃん』

『『にゃあ、褒められると照れるにゃん』』

 元エフォドス団の副団長のレジスだったレジと元ヴォーリャの騎士団員のロジェだったロジが声を合わせる。以前の面影は以下同文。

『後は砦にゃんね』

 視覚共有しているのでオレにもスソーラ砦が見える。魔獣によって開けられた穴が痛々しい。たぶん中にいた人間を食い尽くしたのだ。

『そっちにいったら魔獣は全部ブッコロにゃん』

『魔獣を狩るとか、本当にお館様たちは半端ないにゃん』

 エンが目を輝かせる。

『早く抱っこしたいにゃん』

『『『にゃあ』』』

 三人は念話の声を揃えた。

『にゃお、ウチの家族を殺した魔獣をこの手で狩れる日が来るとは思いもしなかったにゃん、お館様には感謝にゃん』

 騎士団所属から盗賊堕ちしたレジスだが、元は農村の純朴な少年だった。それが魔獣の襲撃によってすべてが失われてから変わったのだ。

『魔獣とタイマンとかワクワクするにゃん』

 ロジは普通に戦闘狂だ。

『魔獣は、この仕事が終わってからにゃん、まずは砦攻めにゃん!』

『『『にゃあ!』』』

 三人はまた念話の声を揃えた。今度は力強く。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >あれほど慎重にやっていた砂海の魔獣の処理も雑なぐらい簡単になって、いまでは四区画を一気にブチ抜いて進撃の速度もまたまた上がっていた。  当初3~4週間と見込んでいたトンネル通過が1週間く…
[一言] ts物は余り面白いと思った事はないがコレは面白い!応援してます。
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