はじめてのいらいにゃん
○プリンキピウムの森 南西エリア(危険地帯)
森に入ったオレたちは馬の上でハンバーガーを齧りながら進む。
まずはこの前キャリーとベルと一緒にクロウシを狩った近くを探してみる。
探査魔法を使ったが反応がない。
「にゃあ、探すとクロウシはなかなか見付からないにゃん」
「そうだね、直ぐ近くにはいないね」
探索範囲を広げる。
更に南方三〇キロの位置に反応があった。
「にゃ~かなり遠いにゃん」
「他の群れはもっと遠いから行くしかないね」
「にゃあ、そうにゃん、行くしかないにゃん」
気分を切り替え、獣道を外れて魔法で藪を切り開きながら最短コースで魔法馬の速度を上げた。
『『『キャイ~ン!』』』
途中でオオカミの群れに絡まれたが返り討ちにした。
「にゃあ! オレたちにおまえらと遊んでる暇はないにゃん!」
「ないぞ!」
それでも全部、おいしく分解した。
「にゃ!?」
シマウマがいた。しかもデカい。
そして四つの眼でオレを見ると大きく裂けた口でニヤっと笑った。
「特異種だね」
「にゃお」
『オオオオオオオッ!』
オレの知ってるシマウマと全然違ってる声を上げた。
大きさからして違うけどな。
「シマウマにも用事はないにゃん!」
シマウマはオレに用事があるというか食べたいだけか。
「にゃあ、マジで象ぐらい有るにゃん、そのガタイじゃオレを食べてもおなかいっぱいにならないにゃんよ」
『ガオオオオオオッ!』
もう完全に肉食獣みたいな咆哮を上げサメみたいな口を開いて突っ込んでくる。
群れてないだけマシか。
オレの防御結界に頭から突っ込んで来た。
ゴン!と激しい衝突音が鳴り響く。
シマウマの特異種は首が折れてだらりと垂れ下がった。
「にゃ、死なないにゃん?」
折れた首を左右に振るとそれだけで元に戻った。
驚きの治癒の能力だ。
今度は結界に治ったばかりの頭を押し付けて力を込めて来る。
特異種は頭を使うと言われてるけど、このことじゃないにゃんよね?
「にゃ!?」
シマウマの頭と接触している部分からオレの防御結界にヒビが入ってるにゃん!
『ガガガガガガガガッ!』
工事現場みたいな音がシマウマの口から出てる。
「にゃあ! こいつ、頭を振動させてるにゃん!」
マジで頭を使って来やがった!
防御結界のヒビが大きくなってる! こいつ力技で破るつもりだ!
「にゃあ、これはヤバいにゃん!」
「意外とやるね」
リーリは感心していた。
オレは銃を構える。
そして目の前に有るシマウマの額にフルオートで半エーテル体の弾丸を撃ち込んだ。
『ヒィ!』
流石の特異種も脳をやられるとダメみたいだ。
その場で崩れ落ちた。
最後にシマウマは『こいつズリぃぃぃ!』みたいな目をしていた。
「にゃあ、弱点を晒されたら撃つに決まってるにゃん」
シマウマを分解してオレはまた魔法馬を走らせた。
「みゃ?」
一〇分もたたない内に前方に群れの反応!
『『『モォォォォォォォォォッ!』』』
クロウシの前にマダラウシの群れに襲われた。
オレたちに向かってマダラの巨ウシが次々と突っ込んで来る!
『『『モッ!』』』
防御結界に弾き飛ばされ大木に全身を強く打って死亡する。
オレは魔法馬を止めることなく片っ端からマダラウシを弾き飛ばして躯を分解した。
特異種や魔獣相手じゃなきゃオレの防御結界をどうこうすることはできないぜ。
「にゃ!?」
防御結界にウシの角が刺さっていた。
シューと音がしている。
「みゃ?」
轟音とともに突き刺さっていた角が爆発した。
「にゃおおお!」
防御結界の第一層が破壊された。
「びっくりしたね」
「にゃ!? 普通のマダラウシの中に何か違うのが混ざってるにゃん!」
レベッカとポーラじゃないが大丈夫と思った途端にこれだ。
爆弾ウシはマダラ模様が少し細かいのか?
良くわからないが。
「にゃあ! たぶんおまえにゃん!」
爆弾ウシが防御結界に触れる前に電撃で始末した。
「にゃあ、油断大敵にゃん、防御結界に触れる前に倒さないと何が有るかわからないにゃん」
マダラウシの群れを一掃して格納空間で個体を調べてみる。
「にゃお」
どの角も身体から離れると一〇秒後に爆発することがわかった。
「模様は関係無かったにゃん」
「そうみたいだね」
異世界だけにオレの常識が全く通用しないモノが現れるぜ。
「にゃあ、改めて調べてみるとこの世界のウシの角は押しなべて全部爆発するにゃん」
「へぇ、そうなんだ」
これまでは角が外れることが無かったから気が付かなかった。死んでも爆発しない。
他の人からも聞いたことがない。
「にゃ、クロウシがこっちに近付いて来るにゃん」
まだ距離が有ったはずなのにかなりの速度で移動してる。
そんなにオレを喰いたいのか?
「にゃあ、来たにゃん」
地震の様に地面が揺れ、前方から黒い巨大な塊が幾つも迫って来る。
いつも以上の大迫力だぞ。
「にゃ?」
いや何か違う。
奴らはオレを見ていなかった。
巨体が次々とオレの両側を通り過ぎる。
「にゃ、こいつら逃げてるにゃん」
更に巨大な地響きと共に現れたのはティラノサウルス系の恐竜だ。
特異種ではないが、あのクロウシの群れを一匹で追い回してるだけあって、もう怪獣に分類してもいいサイズだった。
『ガァァァァァァァァァァァァッ!』
当然ヤツは魔力を出しっぱなしのオレに狙いを定める。
銃や電撃では猛スピードで突っ込んで来る恐竜を止められない。
防御結界をぶち当てても良かったが、さっき反省したばかりだから今回は風を使う。
「にゃあ!」
恐竜に風の壁をぶち当てた。
防御結界ほどの衝撃は与えられなかったが、ヤツは首を仰け反らせて止まった。
恐竜を銃で仕留めたオレは直ぐに分解してクロウシの群れを追った。
クロウシの群れは恐竜から逃げ切って安心したのか、そのまま狩りを開始した様だ。
全部で三〇頭いる。
奴らが獲物に選んだのはクマだ。
『『『モオオオオオオッ!』』』
自分たちよりもデカいクマを集団で襲い頭突きしまくって殺す。
オレは認識阻害の結界を張ってヤツらに近付く。
おお、リーリに鍛えられて効果が上がったぜ。
にゃお、クマを食ってるにゃん。
口を獲物の血で汚してるリーダーは特異種かと見まごうばかりの巨体だ。
『ムゥォォォォォォォォォォ!』
リーダーの重低音の鳴き声がオレの尻尾の付け根にビンビン来るぜ。
いまさら威張っても恐竜から先頭切って必死に逃げていた姿を見てるオレにはちょっと微妙だ。
オレは銃を取り出し三〇頭全部を仕留めた。
「にゃあ、認識阻害を使うと意外と簡単に狩れるにゃんね」
これで依頼一〇頭+二〇頭を確保した。
「これで街に戻れるにゃん」
「間に合う?」
「にゃあ、急げば門限に間に合いそうにゃん、でもそこまで急いでないから今日は森で一泊しもいいにゃん」
「州都にそのまま行くの?」
「にゃあ、明日、冒険者ギルドで売れるものは売っ払ってからにするにゃん、地元経済を潤さないと過疎るにゃん」
「じゃあ、狩りの続行だね、美味しいところを頼むよ」
「にゃあ、任せるにゃん」
認識阻害の結界を外して魔力をあふれさせた途端、獣たちが我先に寄って来る。
「せっかく来てくれるんだから全部狩るにゃんよ」
頭上から蛇が襲ってきた。
もちろん地球ではあり得ない大きさだ。
首を伸ばし牙を剥いてオレたちを丸呑みにしようとする。
「にゃ!」
オレの防御結界に触れる前に電撃で息の根を止めて回収した。
続いてイノシシが襲って来る。
その後が筋肉質の大鹿。
黒くてデカいヤギ?の群れも来た。
○プリンキピウムの森 南西エリア
来るものを拒まずで狩っていたら街まであとちょっとの所で時間切れになった。
「にゃあ、やっぱり間に合わなかったにゃんね」
暗くなったのでロッジを出す場所を探す。
面倒くさいから大木を切り倒して場所を作るか。
「にゃ?」
「人がいるみたいだね」
人間が複数いる。
こんな時間に森にいるなんて門限に間に合わなかった冒険者か?
それとも盗賊?
「にゃ? この反応は子供みたいにゃん」
「そうだね、子供が五人いるね」
「にゃあ、何で暗くなった森の中に子供が五人もいるにゃん?」
しかも大きな獣の反応が子供たちに近付いてる。
「とにかく行ってみるにゃん!」
「うん、急いだほうがいいね」
オレは馬を走らせた。
「どうするアシュレイ姉?」
黒髪の一〇歳の男子バーニー・モームが、十一歳の少女アシュレイ・マンセルに聞く。
背が低いバーニーはアシュレイを見上げる。
「どうするも何も、ここで野営するしかないじゃない」
アシュレイは、不機嫌と不安が入り交じった表情を隠す余裕も無かった。
既に森の中は暗くなっている。
「うん、もう移動は無理だよ」
八歳の男子カラム・マーサーは弓に矢をつがえたまま辺りを警戒する。
いまの森の中では、彼の銀髪もいまはバーニーの黒髪と見分けが付かない。
「ブレア、結界を張れる?」
「ボクに獣除けの結界なんて無理だよ、それに魔力だって幾らも残ってないもの」
八歳の男子ブレア・マーサーは、メンバーの中で唯一魔法が使えたが、昼間の狩りと格納空間の維持で魔力切れ寸前だった。
「お姉ちゃん、もう歩けないよ」
五歳の女の子メグ・マーサーはアシュレイにすがり付く。
ここにいる五人は孤児院の子供たちだった。
マーサーのファミリーネームは、孤児院に預けられた時に元の名前がわからない子供に付けられている。
「ここで夜を明かして、明るくなったら道を探そう、火を熾すね」
アシュレイが使い古しの魔導具を使って拾い集めた薪に火を点けた。
孤児院の子供たちが狩りに出る様になったのは先月からだ。
いつもおなかを空かせてる現状をどうにかしたいと狩りに出るようになった。
補助金がなくなって孤児院の運営がジリ貧なのだ。
しばらく前から院長は姿を見せなくなっている。
大人はたまに冒険者ギルドのデニスさんが来てくれるぐらいだ。
町長から冒険者ギルドの人を心配させてはいけないと言われてるので、余計なことは言ってない。
全員、冒険者の子供として誇りを持っていたし、最初は順調に狩りも出来たし木の実も採取出来た。
それが回数を重ねた油断が有ったのかもしれない。
今回、獲物を追ってる間に森の中で迷子になってしまった。
それでも誰一人はぐれなかったのは不幸中の幸いだ。
「暖かいね」
「うん」
焚き火に照らされてアシュレイの金髪とメグの赤い髪が見えるが、どちらも薄汚れている。
汚れてるのはここにいる子供たち全員がそうだ。
空腹で力が出ない。
それに疲労が重なってまともに思考が働かない。
最悪の状況も想定していたつもりだが、いざそういう状況に陥ると衰弱した身体が言うことを聞かない。
「アシュレイ姉、何かこっちに来る」
最初に気が付いたのはカラムだった。
「獣?」
「たぶん」
「皆んな、準備して」
「お、おう」
バーニーは剣を構えた。
「お姉ちゃん」
泣きそうなメグを自分の後ろに隠すアシュレイ。
ガサガサと音がした。
「来た!」
ヤブから現れたのはトラだった。
恐ろしく大きなトラだ。
「これは無理だ」
バーニーが後ずさる。
怯える子供たちに走る必要もないと判断したのか、トラはゆっくりとこちらに来る。
「皆んな、メグを連れて逃げて」
アシュレイが剣をトラに向ける。
「そんなダメだよ、アシュレイ姉」
「全員がここで殺されるよりまだマシでしょう?」
「無理だよ、逃げられないよ」
ブレアが泣き出した。
「泣くなブレア、ボクがメグを連れて逃げるから全員別方向に逃げるんだ」
カラムがメグの手を掴んだ。
「おい、一緒に逃げないのか?」
バーニーは情けない声を出す。
「運が良ければ一人ぐらい生き残れる」
カラムも声が震えた。
「早く行って!」
アシュレイが前に出た。
「こっちに来い! あんたなんかに絶対に負けないんだから!」
剣を振り上げた。
『ガアォォォォ!』
「……っ!」
自分に向かって跳躍したトラに思わず目をつむってしまうアシュレイ。
ドサッ!と地響きがした。
「ふう、何とか間に合ったにゃん」
「そうだね」
衝撃が来ることは無く代わりに女の子の声がした。
「えっ!?」
アシュレイが目を開けると猫耳と尻尾の付いた女の子が倒れたトラの上にいた。それと妖精。
子供たちはその場にへたり込んでる。
「にゃあ、大丈夫にゃん?」
五人の子供たちはコクコクと頷く。
「怪我はないみたいだね」
「それは良かったにゃん」
トラを分解して地面に降りた。
「あなたは?」
リーダーと思しき女の子に聞かれた。
「オレはマコトにゃん、子供だけで森に入っちゃダメにゃんよ」
「おまえだって子供だろう?」
ちびっこい男子からツッコミを入れられた。
「にゃあ、オレは冒険者だからいいにゃん」
冒険者カードを見せびらかす。
「それにオレは……」
闇に紛れて近付いた三匹のトラを電撃で仕留める。
「強いから問題ないにゃん」
「そうだよマコトは強いんだから」
リーリが胸を張る。
「まだ、いたのか」
折り重なるように倒れたトラを見て弓を持っていた銀髪の男の子が呟く。
五人の子供たちはどの子も薄汚れて痩せていた。
「事情を聞くのは一休みしてからにゃんね」
近くの木を切断して分解しロッジを再生した。
「ネコちゃんのお家なの?」
いちばん小さい女の子が目を輝かせる。
「にゃあ、そうにゃん、野宿は危ないから中に入るにゃん」
「これも魔法で出したの?」
魔法使いらしき男の子に質問された。
「ただの格納魔法にゃん」
実際にはちょっと違うけどな。
「これを格納してたの? ボクの知ってる格納魔法と違う」
「良く言われるにゃん」
○プリンキピウムの森 南西エリア ロッジ
疲労困憊の子供たちをロッジに案内した。
残念ながら入口の自動ウォッシュでは完全には綺麗にならなかった。
「にゃあ、皆んなにはまず治癒魔法が必要にゃんね」
「マコトさんは治癒師なの?」
いちばん大きな女の子が質問する。
「にゃあ、オレは治癒魔法も使える冒険者にゃん」
全員、栄養状態が悪く擦り傷や軽微な打撲はあったが、幸いなことに深刻な疾病や怪我は抱えて無かった。
ただこの状態が続いたら取り返しの付かないことになるのは間違いない。
「にゃあ、直ぐに済むにゃん」
エーテル器官のエラーを修正しつつ魔力を注ぎ込んだ。
「身体が軽くなった」
「本当だ」
「スゴい魔力」
「何か、頭の中もスッキリした」
「足が痛いのが治ったよ」
「にゃあ、ご飯を食べたらお風呂に入るといいにゃん、詳しいことは明日訊くにゃん」
「「「ご飯!」」」
「要らないにゃん?」
「「「いる!」」」
「にゃあ、直ぐに出せるヤツがいいにゃんね」
テーブルにハンバーガーとポテトとジュースを出す間に名前を聞いた。
「アシュレイ・マンセルは十一歳にゃんね」
「そうです、マコトさんいろいろありがとうございました」
「にゃあ、お礼はもういいにゃんよ」
いちばん年上のリーダーの女の子だ。責任感も人一倍強いのはさっきのトラに立ち向かった姿を見ればわかる。
「バーニー・モームは一〇歳にゃんね」
「マコトは幾つなんだ?」
「公式には六歳にゃん」
「公式?」
「にゃあ、冒険者カードに書いてある年齢にゃん」
バーニーは、男子三人の中ではいちばん背が小さいがいちばん元気がある。
でも考えなしっぽいのが残念だ。
一〇歳の男の子はそんなものかもしれないが、プリンキピウムの森では命を危うくするから要注意だ。
「ブレア・マーサーが八歳にゃんね、魔法使いにゃん?」
「うん、マコトにはぜんぜん敵わないけどね」
「にゃあ、これから鍛錬を積めばちゃんとした魔法使いになれるにゃん」
「本当に?」
「にゃあ、後はブレア次第にゃん」
貴重な魔法使いだが魔力はまだささやかだ。
おっとりとした慎重な性格は冒険者として長生きするのに有利な資質だ。
「カラム・マーサーは八歳にゃんね」
弓使いの男の子。冷静沈着で地頭も良さそうだ。
「マコトは何でこんなところにいたの?」
「にゃあ、狩りにゃん、野営しようとしたところで五人を見付けたにゃん」
「ぜんぜん気が付かなかったよ」
「にゃあ、探査魔法でも使わなきゃ無理にゃん」
「魔法か」
八歳だけど一〇歳のバーニーよりもしっかりしてそうだ。
「メグ・マーサーは五歳にゃんね」
「そうだよ」
猫耳の部分を除くとオレとほとんど同じ身長だ。
狩りにはまだ早いと思ったら、勝手に付いて来てしまったらしい。
甘えっ子なのだそうだ。
コミュニケーションの能力が高いから、将来はいい営業になれそうだ。
「にゃあ、食べていいにゃんよ、ハンバーガーは包み紙を剥がしてから食べるにゃん」
「こうやるんだよ」
リーリが実演してくれる。
体調を魔法で整えたが空腹はそのままだったらしく全員、勢い良く食い付いた。
妖精も一緒になって食べる。
「「「美味しい!」」」
「にゃあ、口に合って良かったにゃん」
「マコトさん、このお料理ってなんて言うんですか?」
アシュレイに質問される。
「ハンバーガーにゃん」
「皆んなにも食べさせたかったな」
バーニーがボソっと言った。
「それは、うん」
「そうだね」
ブレアとカラムも同調する。
「にゃあ、皆んなって、他にも仲間がいるにゃん?」
「あたしたち、孤児院から来たの」
メグが教えてくれた。
「孤児院から脱走したにゃん?」
「「「違う!」」」
「にゃあ、まずは食べるにゃん」
食べ終わるとメグはそのまま眠ってしまった。
「男子は先にお風呂に入るにゃん」
「「「お風呂?」」」
「にゃあ、こんな感じにゃん」
説明も面倒くさいので全員の頭に風呂の入り方からトイレの使い方など必要な情報を直接送った。
「「「おおお」」」
「わかったら入るにゃん、着替えは出るまでに用意しておくにゃん」
男の子たちを風呂場に追い立てた。
「マコトさん、本当にすいません」
また謝るアシュレイ。
「本当にもういいにゃんよ、道に迷っての野営なら仕方ないにゃん、次は城壁の見える位置で狩りをするといいにゃん」
「そうします」
「何で狩りに出たにゃん?」
アシュレイは頭のいい娘だ。いまは痩せっぽちで金髪も煤けていたがちゃんとご飯を食べれば将来は美人になること間違いなしだ。
それは置いといて。
そんなアシュレイが危険を押して狩りに出たのだから、よほど切羽詰った事情が有るのだろう。
「孤児院の皆んなのためです」
「孤児院にゃん?」
アシュレイの話に依ると孤児院は冒険者ギルドと町が折半して運営していたらしい。
それが一年前に冒険者ギルドが手を引き、二ヶ月前には町も手を引いて日々の食べ物にすらこと欠くようになったそうだ。
それで仕方なく年上の子たちで狩りや採取に出るようになった。
もともと冒険者の遺児だけあってそれなりに適性があり、今日まではそこそこ上手く行っていた。
「危険なエリアじゃないけど、ここまで深く入るのは感心しないね」
リーリがオレの頭の上から苦言を呈する。
「そうにゃんね、この辺りは少なくともDランクぐらいの冒険者じゃないとヤバい場所にゃん」
「それは私の判断ミスです」
「好事魔が多しにゃんね」
ベルもそう言ってた。
「そうですね」
「にゃあ、わかったにゃん、オレも孤児院の運営に協力するにゃん」
もしかしたらオレが叩き込まれていたかもしれない場所だ。黙って見過ごすわけには行かない。
それに孤児院の手助けは転生者の義務にゃん。
「マコトさんがですか?」
「にゃあ、子供に危険なことはさせられないにゃん」
「子供って、マコトさんも子供でしょう?」
「そうだよね」
アシュレイと妖精に突っ込まれた。
「にゃあ、だからオレは冒険者だからいいにゃんよ」
男の子たちが風呂から出て来たので、今度はメグを起こしてオレたちが入った。