ケントルムで盗賊狩りにゃん
○帝国暦 二七三〇年十一月二五日
○グランキエ州 州都パゴス 上空 戦艦型ゴーレム ブリーフィングルーム
オレは、朝から戦艦型ゴーレムのブリーフィングルームでケントルムに行く準備を進めている。
「にゃあ、ケントルムは順調にゃんね」
「ナオのいるローゼ村に簡易宿泊所を一〇棟といくらでも出てくる不思議な食料倉庫を一棟建てたにゃん」
猫耳のアルが返答する。
こっちで在庫を補給しているだけなので不思議でも何でもないが。
「オレからもナオにカレーを渡して盗賊の情報を聞き出したにゃん、涙を流して喜んでたにゃん」
「そんなに盗賊に悩まされていたにゃん?」
「にゃあ、泣いたのはカレーにゃん、泣くぐらいなら自分で作ればいいのにものぐさな女にゃん」
むせび泣きながら食べていた。
「カレーを一から作るのはなかなか難しいにゃんよ、お館様みたいに上手くはいかないにゃん」
「気合いが足りないにゃん」
「ケントルムは、そこそこ美味しいモノが揃っているから、きっとお館様ほど気合が入らなかったにゃんね」
元バイネス狩猟団の猫耳チーコはケントルムにいたことがあった。
「それは羨ましい環境にゃん、オレが最初に泊まった子ブタ亭は衝撃だったにゃん」
「にゃあ、あのレベルはウチらでもなかなかお目に掛かれないにゃん」
元カトリーヌ団の猫耳ウイが肩をすくめて首を横に振った。
「おかげで、気合が入ったのも事実にゃん」
「ウルフソルトではかなり儲かっているにゃん、何が幸いするかわからないにゃんね」
アルがにんまりする。
「にゃあ、それで猫耳ゴーレムは昨夜のうちにナオのいるアドウェント州の境界を越えたにゃんね」
「アナトリ派の領地だった東隣りのパイアソ州に入り込んでるにゃん、追加で二〇〇〇体ほど送り込んだにゃん」
元近衛軍でたまに境界軍の猫耳キーコが報告する。
「いいペースにゃん」
「魔獣を狩りながら地下に拠点も建設中にゃん、魔法蟻も一万体がトンネルを掘りまくってるにゃんよ」
アルが付け加えた。
「次はケントルム産の猫耳を確保にゃんね」
距離はあるが猫耳ゴーレムたちがいるので問題ない。
「にゃあ、現在はナオのいるアドウェント州の北にあるトリフォリウム州にいる盗賊団を偵察中にゃん」
トリフォリウム州はアナトリ派ではないが、アドウェント州よりもアナトリ派領地と親交が深かった。
州都ビブリアが魔獣の大発生に巻き込まれて壊滅し無政府状態となっていた。いまは盗賊が幅を利かしている。
「トリフォリウム州に盗賊どもはどのぐらいいるにゃん」
「軽く五〇〇人程度は確保できそうにゃん」
「ずいぶんいるにゃんね」
「にゃあ、アナトリ派領地内に元々盗賊が多かったみたいにゃん、それに加えて他領からも集まったみたいにゃんね、いまは魔獣の近くに陣取って火事場泥棒兼追い剥ぎをやってるにゃん」
「ケントルムの王宮は動いて無いにゃん?」
「動いてないにゃん、あそこは基本的に直轄領以外に兵は出さないにゃん、統治できなければお取り潰しにゃん」
チーコはケントルムの内情にも詳しい。
「厳しいにゃんね」
「いまはアナトリ派の領地と魔獣の大発生に飲み込まれた近隣の領地が無法地帯になってるにゃん、東側の十二州のうち被害をまぬがれたのはナオのところだけにゃん」
「すると盗賊はもっと狩れそうにゃんね」
「にゃあ、かなり狩れるにゃん」
ウイが請け負う。
「狩れるだけ狩るのが良さそうにゃん」
アルが親指を立てた。
「にゃあ、盗賊はさっさと壊滅させた方が世の為、人の為にゃん、ついでにオレたちの為にゃん」
「了解にゃん、猫耳ゴーレムを増やして今日から殲滅を開始するにゃん」
チーコがケントルムにいる猫耳ゴーレムに指令を送る。
「頼んだにゃん」
『『『ニャア!』』』
ケントルムにいる猫耳ゴーレムたちから返事が届いた。
○ケントルム王国 アドウェント州 ローゼ村 薔薇園の館 執務室
「ねえクロエ、猫耳ゴーレムちゃんたちは帰って来てないの?」
ナオは、柿ピーをポリポリ食べながら傍らに控えるクロエに聞く。
「はい、州の境界を越えパイアソ州に入ったままこちらには戻ってはおりません」
「あっちは魔獣がウロウロしているのに大丈夫なの?」
ポリポリ食べているので心配している感は薄い。
「魔獣はゴーレムに反応しないと言われていますので問題ないかと思われます」
「本当なのそれ?」
「少なくとも人間ほどには反応しないようです、ただわざわざ高価なゴーレムを魔獣の森に入れる者はほとんどいませんから、実例はわずかです」
「でしょうね、まあ、何か有ってもあたしたちのせいじゃないってことで、おかわりちょうだい」
メイドが、柿ピーが二〇〇グラム入った袋を差し出す。
「ナオ様、食べすぎじゃないのか?」
クロードが心配そうにナオを見る。いや、呆れ顔だ。
「あんたね、何年ぶりの柿ピーだと思ってるの? あんたら兄弟がお腹を空かせて森でピーピー泣いてた頃よりずっーと前なんだからね」
お家騒動で森に捨てられた領主一族の幼い兄弟を拾って保護したのがナオだった。
「はいはい」
肩をすくめるクロード。
「それで、難民はどうなの?」
「村に流れ込んだ難民は、ほぼ収容が完了いたしました。ただ難民はいまだ増えていますので、宿泊所も近いうちに定員に達すると思われます」
クロエが返答した。
「足りなくなったら、ネコちゃんにお願いして宿泊所を増やして貰うから、場所だけは選んでおいて」
「かしこまりました」
「ああ、それと宮廷魔導師団の式神が来てたね、撃ち落としたけど」
ナオは天井を指差した。
「難民の中にも王宮の間者が紛れ込んでるんじゃないですか? 村に入り込むには絶好の機会ですから」
クロードが答えた。
「始末いたしますか?」
クロエが抑揚の無い声で問う。
「簀巻きにして州の外にでも転がしておいて」
「かしこまりました」
一礼するクロエ。
「王宮は何なの? あたしのことがそんなに気になるの? もしかして好きなの?」
「ナオ様がアナトリ側に寝返るのを警戒してるのではないでしょうか?」
エリクが口を開いた。
「ナオ様がアナトリの貴族と親交があることは広く知られていますから」
「貴族っていってもカズキだよ? あいつがここに滞在してたのって、まだアナトリの貴族になる前の話なんですけど」
「そうは言っても、暫く前からアナトリの領主様ですからね」
クロードはカズキと面識があった。
「いまは息子に家督を譲ってまた住所不定無職に戻ったみたいだけど」
「それは知られてませんね」
クロエが付け加えた。
「この前の革命の後らしいからね、でも王宮の人間だったら知ってるんじゃない?」
「領主じゃなくてもカズキ・ベルティ様は、アナトリ王国でもヤバい魔法使いのひとりですからね、しかもマコト公爵と近いとなれば、ヤバさもひとしおじゃないですか? おっ! これは美味いですね」
クロードが横からナオの柿ピーを食べる。
「美味しいに決まってるじゃない、だいたいトンネルが通れないのにいったい何を警戒してるんだか」
「マコト公爵は、あっさり越えましたけどね」
「そこはあたしも想定外だったけど、アナトリからモノなんか送れるわけがないでしょ!ってとぼける方向でよろしく」
「あちらさんは難癖を付けたいだけでしょうね、あっ、ナオ様、俺にももうちょっと下さいよ」
「もーしょうがないな」
「いやあ、これは酒の欲しくなる味ですね」
ポリポリ食べるクロード。
「でしょう? あたしは夜のうちに冷えたビールで流し込んじゃった、ネコちゃんは、絶対あたしを骨抜きにしようとしてるよね」
「ナオ様が勝手に骨抜きになっているだけかと思われます」
静かにツッコむクロエ。
「だってネコちゃん、何でもくれるんだもん」
「言い訳にもなってませんが」
「でもさ、ここは過疎った村の薔薇園だよ、本当に王宮の連中が攻めて来ると思う? 他にやることがあるんじゃない?」
「ナオ様の弟子たちが王宮内でもかなり影響力がありますからね、その封じ込めを狙っているんじないですか?」
「弟子って言われてねえ、あたしが面倒を見たのって子供の時だけだし、そもそも王宮と敵対したことなんて一度も無いのに」
「王宮を半分焼き払ったのは敵対行動だと思われますが」
クロエがボソっと言う。
「やーね、そんな昔のこと、あれは先代の王様にお灸を据えただけよ、言うなれば教育的指導ね」
両手を胸の前でくるくる回す。
「今回はアナトリの貴族と手を結んだんですから、明らかな敵対行動ですけどね」
クロードもポリポリと柿ピーを食べながらなので緊張感はない。
「ネコちゃんのことは緊急避難だからセーフに決まってるじゃない、あいつらもそれが嫌ならこの惨状をどうにかしなさいって言うの」
「無理でしょうね」
「無理ですね」
「無理なんじゃないですか」
クロードとクロエとエリクの三人が揃って首を横に振った。
「でもさ、本当のところは地下にあるローゼ遺跡が欲しいだけなんでしょ?」
ナオは床を指差す
「モリスのヤツですか?」
クロードが嫌そうな顔をする。
「ローゼ遺跡には、相変わらず主席宮廷魔導師モリス・クラプトン様が執着されていますので」
クロエが解説する。
「あたしは、モリス程度じゃ死ぬからやめろって言ってるんだけど、何でわからないかな?」
「ご自分で試さなければご納得されないのかと」
「もー子供の頃から頑固なのよね」
「モリスのヤツの好きにさせたらいいんじゃないですか?」
モリスはクロードの幼馴染でもある。
「あんな子でもさ、あたしが保護した子だからさ、天に還すのも忍びないじゃない?」
「モリス様は今回の混乱は好機と捉えナオ様を我がものとし、遺跡を手に入れるおつもりのようです」
「あの子の力量では、中途半端に結界を壊してこの辺り一帯を魔獣の森に沈めて終わりだと思うけど」
「ナオ様、この下のローゼ遺跡っていったい何なんです? そんなに良いものが埋まってる感じはないですが」
クロードも気配は感じ取れていた。
「本当のところあたしも良くわからないんだよね、とんでもなく濃いマナが封じ込められてるのは間違いなさそうなんだけど」
「下手を打つとそれが漏れ出すと?」
「そういうこと、前からモリスにも説明してるんだけど全然信じないんだよね」
「ナオ様の魔力の秘密が隠されていると思っていらっしゃいますから」
クロエはモリス情報に詳しい。
「本当にそうなら、魔法使いを量産して世界を征服してるっての」
頬を膨らます。
「ナオ様は、そんな面倒くさそうなことしないじゃないですか? 実際、こんな片田舎に引きこもったままだし」
今度はクロードに突っ込まれた。
「あたしは師匠から受け継いだここが好きなの」
薔薇園はナオを保護した魔法使いが遺したものだ。
「俺たちからしたらありがたいですけどね」
「遺跡のマナが漏れたら最後、あたしにも手に負えないからね、悪いけどさっさと逃げるから」
「モリスのヤツ、アナトリとトンネルで配下の魔導師をかなり失ったもんだから、起死回生を狙って必死になってるんじゃないですか?」
クロードが予想する。
「むしろ王宮の目が逸れている間に独自で動かれるつもりではないでしょうか?」
クロエは別の予想をする。
「この面倒な時に本当に攻めてきたら、生け捕りにして折檻ね」
「どうぞ、お好きに」
クロードが許可した。
「ああそうだクロエ、テランス・デュランってヤツにネコちゃんから伝言が有るんだけど」
「何でしょうか?」
「『パンチ入れるにゃん』だって」
「承りました」
「誰です、それ?」
クロードも知らない名前だった。
「あたしも知らないけど、ネコちゃんを怒らせる様なことをしたんでしょ?」
「ナオ様、私から伝えるのはマコト公爵様のご指示ですか?」
「そう、『クロエなら知ってると思うにゃん』て言ってた、それでテランス・デュランて誰か聞いてもいい?」
「ナオ様が知れば面倒なことになりますが、よろしいですか?」
「止めとく」
「賢明な選択です」
○グランキエ州 州都パゴス 上空 戦艦型ゴーレム ブリーフィングルーム
「にゃあ、トリフォリウム州でいちばん人が集まっているのは州都みたいにゃんね」
オレはケントルムにいる猫耳ゴーレムを介して探査魔法を打った。猫耳ゴーレムたちは現在トリフォリウム州上空をドラゴンゴーレムに乗って飛行中だ。
「州都ビブリアにゃんね、壊滅した州都に残っているのは全員が盗賊みたいにゃん」
「大きな盗賊団が居座っているみたいにゃん」
猫耳たちも同じく猫耳ゴーレムたちと同調する。
「マナの濃度が高い場所と魔獣をしっかり避けている辺り手慣れているにゃん」
しっかり組織だって動いている。
「魔法使い、それも宮廷魔導師レベルのがいる証拠にゃん」
危険な濃度になったマナと魔獣の位置の正確な把握は上級の魔法使いにしかできない。
「ここまで大きな盗賊団はアナトリだとなかなかお目にかかれないにゃん」
かつてのバイネス狩猟団を超える規模だ。
「一度に盗賊を大量確保するにはおあつらえ向きにゃん」
「「「にゃあ」」」
◯ケントルム王国 トリフォリウム州 州都ビブリア
トリフォリウム州は、ケントルムの東南に位置し南にナオの薔薇園があるアドウェント州、東にアナトリ派領地の一つイピレティス州と隣り合っている。
砂海の砂の余波で起こった魔獣の大発生に巻き込まれ、領内は徐々に魔獣の森に沈みつつあった。
トリフォリウム州の中央にある州都ビブリアだった場所。
美しい街並みはいまは見る影もなく瓦礫が延々と連なっている。しかし人がいないわけではない。冬の太陽が落ち、焚き火の明かりがあちこちに灯った。
「魔獣が近いな」
スキンヘッドの大男が東方に拡がる漆黒の闇を睨んだ。
「マジか兄貴?」
優男が手入れをしていたナイフを鞘に仕舞った。
「ああ、かなり近い、俺たちもいまや三〇〇からの大所帯だからな、魔獣が反応するには十分な数だ」
スキンヘッドの大男であるガエルとナイフ使いの優男リュカの兄弟が率いる盗賊団ナリュート団は、アナトリ派領地が魔獣に埋め尽くされたのに乗じて勢力を拡大させていた。
ここ数日は、アナトリ派領地から西に移動しトリフォリウム州の州都ビブリアの廃墟を根城に火事場泥棒に勤しんでいる。
「ここも潮時だな」
「兄貴、次はアドウェントか? トリフォリウムの人間がかなり流れ込んだらしいぜ」
リュカが南を指差す。
「アドウェントか、あそこも魔獣が入り込んでりゃ遊んでやるんだが、無傷らしいからな、薔薇園の魔女も健在なら近づかない方がいいだろう」
スキンヘッドの大男は見た目と違って思慮深い。
「すると北か?」
「北はエフォドス団のヤツらともっとヤバいソルダート傭兵団がいるぞ」
「エフォドス団か、あのエンゾの貴族野郎のところだよな?」
「ああ、あのクソ野郎だ」
エフォドス団は、元貴族であり騎士団員だったエンゾが率いる盗賊団だ。
雑多な人間が集まっているナリュート団と違って元兵士など戦闘訓練を受けた人間が大半を占めている。
「いっそのことブッ潰すか? きっと感謝されるぜ」
エフォドス団は、男女問わず性的に襲うことで知られており、同業者からも恐れられていた。
「まあ、それも悪くないが場所がマズい」
「下手に騒いだら魔獣が来るか」
「ああ、連中とやりあったら間違いなく来る」
「すると西か」
「だろうな、魔獣はエフォドスの変態とソルダートに相手をして貰おうぜ」
「エンゾだったら、魔獣でも掘っちまうんじゃないか?」
「違いない」
二人の笑い声が瓦礫に木霊する。
「ガエルの旦那」
魔法使いのドニが低い声でガエルを呼ぶ。
「どうした先生?」
元宮廷魔導師のドニは団の中で先生と呼ばれている。
「何者かに囲まれたみたいです」
声を潜めて報告する。
「マジか? こっちには何も引っ掛らないぞ」
ガエルは剣闘士の様なガタイだが、その実は魔法使いだ。
「こいつは人間じゃないですね」
「人間じゃない?」
「魔獣か?」
リュカがナイフを抜いた。
「いや、たぶんゴーレムです」
「ゴーレムが俺たちを囲んでいるのか?」
「はい、距離を取っていますが、間違いないかと」
「誰がゴーレムなんか引っ張り出して来たんだ?」
「さあ、私の知らないタイプです」
「人型だな?」
ガエルが訊く。ガエルも改めて探査魔法を打っていた。
「そうです」
ドニが頷く。
「こいつはかなりいるな」
ガエルが周囲を見る。
「おい、いったい何体いるんだ?」
リュカもキョロキョロする。
「二〇〇といったところですね」
「狙いは俺たちか?」
「他に人間はいませんから」
「木偶で俺たちを潰そうってか?」
リュカがニヤリとする。
「ああ、舐められたもんだな」
ガエルも剣を抜いた。
先日手に入れた魔法を付与されたアーティファクト級の剣だ。
○グランキエ州 州都パゴス 上空 戦艦型ゴーレム ブリーフィングルーム
「にゃあ、盗賊団の包囲完了にゃん」
アルが報告する。
オレたちは、引き続きケントルムにいる猫耳ゴーレムたちをグランキエ州の上空に浮かぶ戦艦型ゴーレムから指揮する。
「ナリュート団で間違いなさそうにゃんね、スキンヘッドの親分があの成りで魔法使いとはフェイントがキツいにゃん」
ナオから仕入れた情報と一致する。
「人数が前情報より一〇〇人ほど多いにゃんね」
仕入れた情報では二〇〇弱だったはずだがいまは三〇〇強がいる。
「今回の騒動で、人員を増やしたみたいにゃん、三〇〇を越えるとか、盗賊というより武装勢力にゃん」
「後は犯罪奴隷相当がどれだけいるかにゃんね」
「間違いなく全員アウトにゃん、ナリュート団は殺してから奪う系だったはずにゃん、盗賊の手法はそうそう変わらないにゃん」
チーコが判定する。
「お館様、一気に行っていいにゃん?」
ウイが問う。
「いいにゃんよ、まずは全員を捕縛するにゃん」
「「「にゃあ」」」
◯ケントルム王国 トリフォリウム州 州都ビブリア
「喰らいやがれ!」
首領のガエルがアーティファクトの剣を横薙ぎに払った。
刀身から光の波が拡がり、暗闇が稲光の様に照らされたその直後、瓦礫が炎を噴き上げた。
○グランキエ州 州都パゴス 上空 戦艦型ゴーレム ブリーフィングルーム
「にゃあ、流石はケントルムにゃん、なかなかいい魔導具を持ってるにゃんね、盗賊ごときには勿体ない代物にゃん」
魔法を付与されたアーティファクトの剣だ。
「お館様の猫耳ゴーレムをその程度の炎で焼こうとは片腹痛いにゃん」
アルが腕を組んでふんぞり返った。
◯ケントルム王国 トリフォリウム州 州都ビブリア
「なに、効かないだと?」
ゴーレムは焼き払われるどころか、まったく数を減らすことなく包囲を狭める。
「こいつは、ただの木偶ではなさそうだな」
ガエルはゴーレムの動きを確認した。
いまやゴーレムたちは、認識阻害の結界を外し姿を隠そうとしない。
「兄貴、いったい何処のどいつがこんなものを?」
リュカが焦りの表情を浮かべた。
配下の者たちもざわつき始めた。
「先生、こいつは宮廷魔導師か?」
ガエルがドニに問う。
「いいえ、これほどの数のゴーレムを操る魔導師は宮廷にもいないかと、暗部ならわかりませんが」
「暗部がお出ましだと流石に分が悪いな」
「盗賊に暗部かよ」
リュカが表情を歪めた。
「まあいい、魔法に耐性があっても木偶であることには変わりない、あれだけガチガチに防御を固めてるなら、大した攻撃は出来ねえはずだ、そうだろう、先生?」
「ええ、しかも二〇〇からの数がいますから、たぶん大半が我々の足止め用の囮かと、数体は戦闘ゴーレムが潜んでいる可能性があります」
「戦闘用か、王族までお出ましか?」
「木偶とはいえ、これだけのゴーレムを揃えられるのは、本当に王族かもしれません」
「そいつは光栄なこった」
「俺のナイフが効くか、まずはお試しだな」
「ああ、来たぞ」
目の前に白い影が迫った。
彼らが認識出来たのはそこまでだった。
○グランキエ州 州都パゴス 上空 戦艦型ゴーレム ブリーフィングルーム
「接触したにゃん」
「にゃお、歯ごたえがないにゃん、ケントルムの盗賊だったら死霊を操るとか魔獣に変身するぐらいはやって欲しいにゃん」
「お館様、それは無理にゃん」
「「「にゃあ」」」
「残念ながら、統制が取れているように見えても所詮は盗賊にゃん、烏合の衆にゃん」
「人数を増やしてから日が浅いのも駄目にゃんね」
いまは全員が混乱し逃げに転じている。
「それ以前に、ウチらからしたらただ人数の多いだけの盗賊にゃん」
◯ケントルム王国 トリフォリウム州 州都ビブリア
『ニャア、盗賊団ノ制圧完了ニャン』
『全員ヲ回収スルニャン』
『箱詰メスルニャン』
ケントルム王国の東部を荒らし回っていた悪名高き盗賊ナリュート団は、この日を境に忽然と姿を消した。




