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オリエーンス帝国初代皇帝にゃん

 ○グランキエ州 州都パゴス グランキエ大トンネル 物理障壁 屋上庭園


 砂海の魔獣の黄色いエーテル機関を効率的に回収する手法をひとまず確立したおかげで、毎分一〇個を自動的に生産している。

 それを次々と研究拠点に運んでいた。

 黄色いエーテル機関から魔獣化の因子を取り除くことが出来れば、もうこれだけで三型マナ変換炉に近い性能を叩き出せる。

 いろいろ性能アップを図れるが、オレたちはいったい何と戦っているんだと思わなくもない。

 砂海の魔獣に関しては赤ちゃん型しか確認出来ていないが、これって成長したりするのだろうか?

 流石にいまそれを実際に試す勇気は無いが、ただ実物で実験しなくても黄色いエーテル機関を解析すればその辺りのことがわかるかも。

 例えばこうやってエーテル機関内の刻印を格納空間にコピーしてマナを充填させ擬似的に起動させる。

 格納空間内なので、実際に魔獣が発生することはないが……おお、刻印の魔法式が変化したぞ。

 たぶんこれが赤ちゃんだ。

 続けてマナを維持しながら擬似的に時間を進ませる。

「魔法式が変化したにゃん」

 赤ちゃんから何か別のものに変化してるっぽい。

「でも何かはわからないにゃんね」

 魔法式も崩れてしまう。

 エーテル機関の刻印の魔法式は意外とデリケートだ。

「でも、刻印の中の魔獣の因子はわかったにゃん、たぶん最初に書き換わったここにゃんね」

 掌の上で黄色いエーテル機関の刻印をイジってみた。

 これを砂海の砂を入れたバケツに落としてみる。結界で囲ってマナも充填した。

「にゃあ、エーテル機関が起動したにゃん」

 ピカっ!と爆発的な光とともに魔力があふれた。

 魔力はそのまま格納空間に流した。

 その後、抱っこされた。

『お館様、可愛いにゃん』

 ピンク色の猫耳ゴーレムに抱っこされていた。しかも普通に喋ってる。

「にゃ?」

 黄色いエーテル機関がピンク色の猫耳ゴーレムになっていた。

「どういうことにゃん?」

『わからないにゃん』

 オレと一緒に首を傾げるピンク色の猫耳ゴーレム。

「ネコちゃんが練成したからこうなったんじゃない?」

 いつの間にか現れたタマモ姉が興味深そうにピンクの猫耳ゴーレムを見ていた。

「そうにゃん?」

「ネコちゃんのマナも吸収したわけだし」

「また、謎が増えたにゃん」


 続けて黄色いエーテル機関を加工して実験したが結果は同じだった。ところが、猫耳が同様に加工した黄色いエーテル機関は猫耳ゴーレム化することはなく、ちゃんと魔獣化しないエーテル機関になった。

 ちなみにそのエーテル機関を普通の猫耳ゴーレムに入れるとピンク色の猫耳ゴーレムに変化した。


 ピンクの猫耳ゴーレムの性能だが、砂海の魔獣と同等の熱線を出せる。あのキモいモーション無しで撃てるのが非常に良いと思う。あと砂をある程度操れる機能があった。当然、溶けることもない。


 ピンク色の猫耳ゴーレムのおかげで四型マナ変換炉の実用化が一歩近付いた。



 ○グランキエ州 州都パゴス グランキエ大トンネル 物理障壁 露天風呂


『『『お館様とお風呂にゃん♪』』』

 二〇体を越えるピンク色の猫耳ゴーレムと露天風呂に入っている。

 行動原理は他の猫耳ゴーレムと変わらないみたいだ。違いは格納できないのと言葉が流暢な点か。あと熱線な。

 魔力も黄色いエーテル機関だけに半端ない。

 ピンク色の猫耳ゴーレムが集団で反乱を起こしたら人類が滅ぶにゃんね。

 今後、ピンクの猫耳ゴーレムを増やすかどうかだが、天使アルマもタマモ姉も猫耳たちからも反対は無かったので、まずはいまいるノーマルの猫耳ゴーレムをピンク化することにした。


『お館様、ちょっといいにゃん』

 王都にいる猫耳のリーから念話が入った。

『大丈夫にゃん』

 ピンク色の猫耳ゴーレムに抱っこされているだけだ。

『ケントルムの第二王子を確保したにゃん』

『無理やり連れて来たにゃん?』

『にゃお、勝手に付いて来たにゃん』

『何か、面倒くさそうな感じがするにゃんね』

『にゃあ、第二王子のルーファスは中身がオリエーンス帝国初代皇帝ライナス・アナトリアだったにゃん』

『にゃ? 意味が良くわからないにゃん』

『この世界の中での転生者だったにゃん』

『姉弟が揃ったにゃん?』

『にゃあ、ルーファスがお館様に会いたいそうにゃん』

「わかったにゃん、王都の屋敷でいいにゃん?』

『了解にゃん、お待ちしてるにゃん』


 そんなわけでオレはピンク色の猫耳ゴーレムに抱っこされたまま王都に向かうことになった。



 ○帝国暦 二七三〇年十一月二一日


 ○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 発着場


 ドラゴンゴーレムの使用を解禁してからは、オレも猫耳たちも日常の足として使うようになっている。

 魔法馬での時間を掛けての旅は、オレたちにとっては贅沢なモノになりそうだ。

 昼過ぎに王都の館に到着した。


「おお、ドラゴンゴーレムか、あいかわらずすげーな、前のと違うのか?」

 チャド・アシュ・ピサロが発着場にいた。

 オレが猫耳に頼んで王立魔法大学附属魔法学校から連れて来て貰ったのだ。

「にゃあ、日々改良しているにゃん」

「マコト、俺に用事って何だ? それとその綺麗な人を俺に紹介しろ」

 タマモ姉がオレと一緒に来ていた。

「タマモです、どうぞよろしく」

 タマモ姉は相変わらず女医さんのコスプレだ。こっちの治癒師は白衣もタイトスカートもストッキングも履いていないが。

「チャド・アシュ・ピサロです」

 キリっとする。

「詳しくは、中で話すにゃん」

「ここがネコちゃんのお屋敷なの? おお、これは凄いね、先に行ってるね!」

 タマモ姉はパタパタと尻尾を振って屋敷に行く。

「タマモさんとの縁談ならぜんぜんOKだぜ」

 いい顔をするチャド。

「ここで俺を養ってくれるならそれはそれでOKだ」

 もっといい顔をする。

「にゃあ、ここだと気軽に屋敷の外には出られないにゃんよ」

「そいつは困るな」

「チャドには気軽に動けるところがいいと違うにゃん?」

「それはあるな、そういやマコトはカジノと娼館もやってるんだろう?」

「カジノはやってるけど娼館は借金のカタで差し押さえただけにゃん、いまは中のお姉さんたちが自主的に運営しているにゃん」

「優待券とかないか?」

「残念ながら娼館はオレの管轄じゃないからわからないにゃん」

「なるほど、猫耳に頼んで給料を上げて貰うしかないか」

「チャドは結婚とかしないにゃん?」

「没落貴族の長男のところに嫁いで来る物好きはいないぞ」

 渋い顔をするチャド。

「そこは愛があればどうにでもなるにゃんよ、それにチャドの本業は冒険者と違うにゃん?」

「マコト、冒険者のところに来る女こそいないぞ、世帯を持つヤツもいるが、何か遭った時が悲惨だ」

「にゃあ、それはあるにゃんね」

 確かにそういった例は間近で見ている。

「それにいまの講師の仕事もなかなか気に入ってるから、いまさら冒険者も無いな」

「にゃあ、冒険者は今後、需要が減る職業なのは間違いないにゃん」

 魔導具の大規模工房が各地に建設が進められている。それに農園も人手不足だし。

「でも、タマモさんならOKだぜ」

「自分で口説いたらいいにゃん」

 チャドと話しながら屋敷の中に案内した。



 ○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 客間


「にゃあ、戻ったにゃん」

「マコト、わざわざ足を運んで貰って済まない」

 カホが出迎えてくれた。

「にゃあ、ルーファス殿下が来てくれたにゃん、駆けつけるに決まってるにゃん」

 ソファーに座っていたルーファスが顔を上げた。

 他人の事は言えないが、何処からどう見ても十二歳だ。とても二〇には見えない。

「あなたが、マコト公爵か」

「にゃあ、そうにゃん、お会いできて光栄にゃん、ルーファス殿下」

「まさか、本当に稀人だったとは」

 オレの姿に殿下は驚きの表情を浮かべた。

「マコト、ルーファス殿下って誰だ? そこにいるのはレイモン・アムランってケントルムの商家のせがれだぞ」

 チャドには話が見えてない。

「にゃあ、こちらはケントルム王国の第二王子ルーファス殿下にゃん、商家の息子として半年前に留学したにゃん」

「マジか?」

「マジにゃん」

「まいったな、俺の講義を受けたくてわざわざ身分を偽って留学してくれたのか?」

 頭を掻くチャド。

「半年前のチャドは、まだ冒険者だったはずにゃん」

「おお、そうだったか」

「オレに突っ込ませるとは、流石チャドにゃん」

「それにしてもレイモンがケントルムの王子様とは驚きだ、確かに商家の小僧にしてはお上品なガキだと思ったぜ」

 ルーファスの場合、完璧な完全な偽装でケントルム大使館の大使でさえ最近まで知らなかったぐらいだ。

 前世の様に王族の姿が映像で公開されているわけじゃないから、異国の地で書類も揃っていればまず身バレはしないか。

 いまなら魔力で引っ掛かるけどな。

「殿下は護国派のマルク・ヘーグバリ男爵とは、直接会ったことはないにゃんね?」

「ない、それは間違いない」

「なら、問題ないにゃんね」

 ここから見てもルーファスのエーテル器官に細工された跡はない。

「マコト、そちらの方は?」

 カホがチャドを見る。

「チャド・アシュ・ピサロ、いまは王立魔法大学附属魔法学校の講師にゃん、今回の関係者だから来て貰ったにゃん」

「「関係者?」」

 カホとルーファスが声を揃えた。

「俺が関係者って何だ? 殿下の担任は俺じゃないぞ」

 チャドも首を捻った。

「にゃあ、追って説明するにゃん、まずはルーファス殿下にゃんね」

 改めてルーファスを見た。

「確かにルーファス殿下は転生者にゃん」

「わかるのか?」

 ルーファスもオレを見た。

「にゃあ、転生者はエーテル器官と魂にわずかながらズレがあるのが特徴にゃん」

 ただし世界を越えたカホやカズキたちとは違う。

 ルーファスは、例の短期転生の被害者ブルーノ・バインズのエーテル器官に似ている。

 この世界の転生者。

 ただし短期転生者ではない。約二五〇〇年前からの転生だ。

「オリエーンス帝国初代皇帝ライナス・アナトリア、間違い無さそうにゃん」

「ああ、間違いない」

 カホも確認済みだ。

「マコト、いったいどういうことなんだ?」

 チャドが訊く。

「にゃあ、ルーファスはオリエーンス帝国初代皇帝ライナスの生まれ変わりにゃん、そしてその姉のジャンヌはヌーラの遺跡で発掘されたにゃん」

「発掘……されたことには間違いないが」

 カホは何故か不満げだ。

「頭は大丈夫か?」

 チャドが真顔でオレを見る。

「大丈夫にゃん、今回二五〇〇年前の人間がふたり揃ったにゃん、これを偶然で片付けるには無理があると違うにゃん?」

 ルーファスが横を向いた。

「にゃあ、殿下が何かやったにゃんね?」

「うっ」

「ライナス、お前、何かしたのか?」

 カホもルーファスを見る。

「……天使様に姉上にまた相まみえることを願いました」

「天使誰にゃん?」

「姉上を失った後、降臨された天使クミに姉上を手助けすると約束をして」

 天使姉妹の妹だ。

「にゃあ、それであっちでの兄貴はどうにゃん?」

「兄上は、信じておられなかったが承諾はしていただいた」

「やっぱり偶然じゃないにゃんね、それで何で戦争なんか仕掛けたにゃん?」

「大方、私のことなど忘れて戦ごっこに夢中になっていたのだろう?」

 カホはプイっと横を向く。

「ち、違います! 姉上のことを忘れたことなどありません!」

「本当か?」

「本当です! まさか既にお戻りだとは思わなかったものですから、私がアナトリを支配して姉上の眠る場所を調査しようと」

「ヌーラならオレが貰う前だったら調査し放題だったにゃんよ」

「いえ、魔獣の森だったのでまずは体制を整えようと」

「私が助かったのは、マコトたちのおかげだ、ライナスに手を掛けずに済んだのもだ」

「わかっております、マコト公爵、感謝する」

 ルーファスは、オレに向かって頭を下げた。

「にゃあ、お代はケントルムからガッポリいただくから気にしなくていいにゃん」

「マコト、いよいよ俺には話が見えないんだが?」

 チャドが手を挙げた。

「まだ、わからないにゃん?」

「まったく」

 チャドは肩をすくめる。

「ふたりには二五〇〇年前に兄貴がいたにゃん、そしてここには三人がいるにゃん、つまりそういうことにゃん」

「あなたがクラーク兄上なのか?」

 オレの言葉にカホがチャドを見た。

「チャド講師がクラーク兄上?」

 ルーファスもチャドを見る。

「転生して別人格になっている可能性もあるから、直ぐにはわからないかもしれないにゃんよ」

「いや、言われてみればチャド講師の言動はクラーク兄上に良く似ている」

「にゃ、どんな性格にゃん?」

「クラーク兄上か? 内政は天才的だが、普段はちゃらんぽらんで女にだらしないヤツだった、不思議と人望があったが」

 カホの言葉にルーファスが頷いた。

「にゃあ、ちゃらんぽらんで、女にだらしないところだけは合ってるにゃん」

「おい待て」

 チャドからツッコミが入った。

「冗談にゃん、不思議と人望があるのは本当にゃん」

「しかし、何故チャド講師がクラーク兄上だと?」

「にゃあ、ルーファス殿下の記憶にチャドの魔法馬の婆さんがあったのがきっかけにゃん、あの馬は驚くほど本物の馬に似せて作られているにゃん、しかもあれは主人を変えないはずなのにチャドにはべったりだったにゃん、それで試しにチャドのエーテル器官を確認したところ転生者の特徴があったというわけにゃん」

「私の記憶?」

「にゃあ、猫耳が治療ついでに確認させて貰ったにゃん」

「偶然じゃないのか?」

 カホもまだ信じてない。ちなみにカホの記憶とも魔法馬は一致していた。

「いや、二五〇〇年前なら、高級な魔法馬だってくさるほどいたんじゃないか?」

 チャドが疑問を呈する。

「いえ、クラーク兄上の魔法馬は完全な一品物で姉上が復元されたものです」

 ルーファスが証言した。

「魂の記憶を引っ張り出せば、直ぐにわかるにゃんよ」

 チャドに軽く電撃を浴びせた。


「うおおお!」


 チャドが身体をビクビクっとさせた。

「マコト、お前! それは駄目だろう!」

「にゃあ、まだるっこしいのは面倒にゃん」

 どうせチャドだし。

「だからって、おい! ジャンヌも何か言ってやってくれ!」

「本当に兄上なのか?」

「ジャンヌが帰って来たんだ、俺が戻っても不思議はあるまい、しかしライナスは転生しても考えなしか?」

「本当に兄上なのですか?」

 ルーファスが改めてチャドを見た。

「ライナスの秘密ならジャンヌのパ……」

「わあああ! 確かに兄上です! 間違いありません! お懐かしゅうございます!」

 なんか知らんがルーファスも確信したらしい。

「しかし、ライナスはケントルムの王子様か、俺なんかしがない没落貴族の長男だぞ」

「没落は自業自得にゃん」

「少なくとも俺のせいじゃないぞ」

「これで三人が揃ったにゃんね、どうにゃん二五〇〇年後の世界は?」

「魔獣の大発生があった割に人が滅びていないんだから上出来じゃないか? この前のはマコトたちがいなかったらヤバかったけどな」

「そのために神はマコトを遣わされたんだろう?」

 カホが初耳なこと言う。

「にゃ、神様にゃん?」

「天使ミサがそう仰っていたが、何で本人が知らないんだ?」

「にゃあ、知らないものは知らないにゃん、神が遣わしたって、オレは天使じゃないにゃんよ」

 元敏腕新車ディーラーの永遠の六歳児にゃん。敏腕は盛ったにゃん。

「ネコちゃんは天使みたいに可愛いけどね」

 いつの間にか入って来たタマモ姉に抱っこされていた。

「にゃあ」

「詳しくは天使ミサに聞いてみるんだな」

「そうするにゃん」

「そちらはどなたですか?」

 ルーファスは初見か。

「准天使タマモ様だ」

 カホがタマモ姉の正体をバラす。

「えっ、准天使?」

 チャドがビクっとした。

「ところで准天使って何だ?」

「天使様のような義務を負ってない者ってところかな?」

 タマモ姉も自分でわかってないっぽい。

「准天使なら大丈夫か」

 ひとり納得するチャド。何が大丈夫なんだ?

「それでマコト、グランキエ大トンネルは放ってきて大丈夫なのか?」

 カホが質問する。

「にゃあ、最初は危なかったけどいまは問題ないにゃん」

「グランキエ大トンネルで何かあったのか?」

 続けてチャドが質問する。

「ケントルムの侵攻軍とタルス一族が揉めて砂海の底が抜けたにゃん」

「底が抜けたって、砂海の砂で大変なことになるんじゃないのか?」

「ケントルムは大変なことになってるにゃんね、侵攻軍が全滅して砂海の魔獣まで出て大暴れしてるにゃん」

「ヤバいなんてもんじゃないな」

「まったくにゃん、こっちが片付いたから、次はグランキエ大トンネルに潜って様子を見て来るにゃん」

「公爵は、グランキエ大トンネルに入れるのか?」

 ルーファスが訊く。

「にゃあ、トンネル内にいくつも有る砂の吐出口をどうにかすればトンネルは通れるはずにゃん」

「砂を出す仕掛けか、封印していたが流石に壊れたか」

 チャドには心当たりがあるらしい。

「ヤバい遺跡を封印したのは前世のチャドにゃん?」

「ああ、危ない遺跡には封印を施した」

「それはクーストース遺跡群とアポリト州のカンデイユ、クプレックス州のキパリス、フルゲオ大公国のルークスそれにフィーニエンスのロサ遺跡ってところにゃん?」

「おおそれだ、それにグランキエ大トンネルで全部だ、トンネル以外はマコトが潰してくれたヤツだな」

「発動したのもいくつかあったにゃんよ、フィーニエンスの飛行戦艦なんか凄かったにゃん」

「あれはまさに化け物だな、実際に起動したヤツと出くわしたら俺は泣くぞ」

「オレは出くわしたにゃんよ、あんなのに飛行戦艦なんて名前を付けたセンスに戦慄したにゃん」

 数珠玉の巨大なスキンヘッドで戦艦の要素が見当たらない。

「いや、正直に飛行妖怪とかにしたら、いくら連邦の時代でも予算が下りなかったんだろ?」

「それもそうにゃんね」

 お役所の仕事はいつの時代も一緒だったのかもな。

「公爵は、その遺跡をすべて潰したのか?」

 ルーファスは何やら驚いていた。

「にゃあ、潰したにゃんよ、ただプリンキピウムの遺跡だけは再利用してるにゃん」

「再利用?」

「にゃあ、フィーニエンスで見付けた良くわからない魔法式を走らせているにゃん」

「大丈夫なのか?」

 チャドが真顔だ。

「少なくとも魔獣が錬成されることは無いにゃん、そう言えばプリンキピウムの遺跡はチャドが調べていたにゃんね」

「なんでだろうな? 知識があったわけじゃないが、アレはヤバいと直感的に感じたから、近衛軍の動向を探っていた」

「前世の記憶が影響していたにゃんね」

「だろうな、おかげで死にかけたが」

 あの時は魔法馬の婆さんが身を挺して守ったのだ。ダメ男に尽くす系の可愛そうな魔法馬にゃん。

「東方大陸はどうなっているんだ?」

 カホが質問する。

「砂海の砂が魔獣付きでかなり拡がっているみたいにゃんね、それに加えてケントルム東部を中心に魔獣の大発生が起こっているにゃん」

「魔獣の大発生とはかなりマズいな、どうなんだライナス、ケントルムでは魔獣の大発生は止められるのか?」

 チャドがルーファスに尋ねた。

「魔獣の森からはぐれ出た単体ならともかく、大発生のレベルになると難しいかと」

「にゃあ、単体でも狩れるなら大したモノにゃん」

「いや、せいぜい追い返すぐらいだ」

「それでも以前のアナトリよりはマシにゃん」

 王国軍は盗賊と大差なかったし、魔導師はヤバい仕事はしないし、冒険者はSランクでギリ追い返せるぐらいか。基本は勝手に帰ってくれるのを待つしかできない。

「すると戦争なんてやってる場合では無いのではないか?」

 カホがもっともなことを言う。

「仰るとおりです姉上、いま直ぐ本国に停戦を打診いたします」

 姉に再会した時点でルーファスの戦争は終わっていた。

「停戦には応じないにゃんよ」

「応じないとは?」

 ルーファスがオレを見る。

「にゃあ、だからケントルムにはそれなりの代償を支払って貰うにゃん」

「おーいいんじゃないか、ガッポリ取ってやれ」

 チャドが軽く同意する。

「あっちの王宮に魔法の一発でもブチ込まないとオレの気が収まらないにゃん」

「やってやれ!」

「マコトは、本当に東方大陸に行くのか?」

 カホが質問した。

「にゃあ、行くつもりにゃん」

「マコトはケントルムの砂海の砂はどうにかできるんだな?」

「にゃあ、砂に関しては問題ないにゃん、ただ砂海の魔獣はまだわからないにゃん」

「倒せないかも知れないと?」

「そうにゃん、砂の魔獣は一定時間が経過すると成長して姿を変えると思われるにゃん、そうなるとまったく歯が立たない可能性もあるにゃん」

 砂海の魔獣のエーテル機関から導き出した推測なので、本当のところは実物を見ないとわからない。

「私も同行できないだろうか?」

「にゃあ、殿下はダメにゃん、現状では最低限、砂海の砂に埋まっても大丈夫な人間じゃないと無理にゃん」

「やはりそうなるか」

 ルーファスはおとなしく引き下がった。

「そいつはライナスだけじゃなく俺とジャンヌも含めても無理だな」

「にゃあ、開通させたら直ぐに行き来できるようにするにゃん、でも暫くはごたついているにゃんね」

「だろうな、ライナスがいま戻っても混乱するだけだろ」

 チャドがルーファスを見た。

「兄上のおっしゃるとおりかと」

 ルーファスは兄貴に頭が上がらない様だ。

「チャドに一つ聞きたいにゃん、砂海の砂をトンネル内に流す仕掛けは何処に有るにゃん?」

「いまの時代ならタルス一族の街がある辺だ、当時はそんな連中はいなかったけどな」

「にゃあ、わかったにゃん、その辺りを探ってみるにゃん」

「公爵、砂海の魔獣を倒せたとしてもケントルムの王宮はそう甘くは無いぞ、侵攻軍の間抜けとは違う」

「そうにゃん?」

「王都フリソスを守る宮廷魔導師団は最強だ」

「実は魔力で王国を支配していたにゃん?」

「無論、魔力もだが表向きは政治力、実際には謀略、敵となる勢力から戦う力を裏から削ぐのだ」

「今回の侵攻軍がそれにゃん?」

「可能性はある、公爵の情報が見事に遮断されていた、私も先日まで公爵は生産特化の魔法使いだと信じていた」

 確かに見事なまでに情報を隔離されていた。

「いや、それはライナスにも問題があるんじゃないか? マコトとその配下の魔法が尋常でないことなど、ちょっと調べればわかりそうなものだぞ」

 カホが腕を組んで不満げだ。

「まあ、マコトたちの魔法を信じられないのも無理はないが、お前の短絡なところは一度死んでも治らなかったわけだ」

 チャドも頷く。

「護国派と法衣貴族の大半が魔獣の大発生を嘘と決めつけていたから、王都の中にいればわからないのも無理はないにゃん」

「そうだとしても私に一度倒されたゴーレムをまた使うとか、今回は戦略もいまいちだったぞ」

 またしても軽く斬られていたしな。

「兄上、姉上、申し訳ない」

 また頭を下げるルーファス。黒幕を気取っていた頃の面影はない。

「ただ、謀略だとしてもトンネルに穴が空くのは想定外だったんじゃないのか?」

 チャドが予想する。

「たぶん間違いないかと」

 ルーファスも同意した。

 王宮が混乱していたというカズキの話からもそんな感じがする。

「謀略にしてはその後の被害が大きすぎるにゃんね」

 わざとならケイジ・カーターが絡んでる可能性があるが、今回はそこまでの手の込んだ感じはないか。

 ケントルムはともかくアナトリ側は上手く行っても僻地が魔獣の森に沈んで終わりだったと思う。ヤツの好む国を滅ぼす仕掛けではない。


『お時間にゃん』

「にゃあ、後は兄弟たちでゆっくりして欲しいにゃん」

 二五〇〇年振りの反省会の後は兄弟たちを客間に残して、オレはピンク色の猫耳ゴーレムに抱えられ抱っこ会へと連れて行かれた。


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