表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
303/357

マルク・ヘーグバリ男爵にゃん

 ○王都タリス 城壁門


「にゃあ、そこの馬車はちょっとこっち寄せるにゃん」

「ここで停めるにゃん」

 王都タリスの城壁門で乗合馬車を猫耳たちが停止を命じた。

「なんでしょうか?」

 馬車を取り込む猫耳たちに中年の御者は不安げな表情で縮こまる。

「にゃあ、ただの臨検にゃん、リアンティスから来た馬車は全部止めているにゃん」

 リアンティス州と王都の境界門は現在閉鎖中だが、王都に戻る分だけは通過が許されていた。

 猫耳たちが乗合馬車に乗り込む。乗客は三人。いずれも商人風の男だ。

 そのうちの三〇代前半と思しき騎士のように体格のいい男に声を掛けた。

「マルク・ヘーグバリ男爵にゃんね?」

 問い掛けに男が顔を上げる。

「いかにも私だが、何か?」

 男はとぼけることもなく答えた。

「逮捕するにゃん」

 手錠を出す猫耳。

「ほう、それで罪状は何か?」

「反逆罪にゃん」

「ほう、それは大罪だ」

 ニヤリとするマルク。

「申し開きは後で聞くにゃん、まずは一緒に来るにゃん」

「よかろう」

 マルクは猫耳の求めに応じて席を立った。

 次の瞬間、二人の乗客がナイフを抜いて猫耳たちに襲いかかった。

 首を狙ってナイフが繰り出される。

 寸前、閃光が走り視界が一瞬真っ白になった。

「「……っ!」」

 崩れ落ちたのは襲撃者たちだ。

「にゃあ、ウチらには効かないにゃんよ」

 猫耳を守る防御結界が刃を砕いていた。

「ほう、マコト公爵様の配下は、大した戦闘力が無いと聞いていたが、違っていたようだね」

 マルクは愉快そう。

「しかし、私もここで捕縛されるわけにいかないのでね」

「にゃお、逃げたところで意味は無いにゃん、再革命は失敗に終わるにゃん」

「さあ、それはどうかな?」

 マルクが笑みを浮かべたまま首を不自然なほど傾ける。

「「「にゃ?」」」

「再革命は成就する、何故なら」

 マルクの瞳が二つに別れた。

「その目、特異種にゃんね」

「にゃお、しかもエーテル機関の気配がするにゃん」

 意識を刈り取ったはずの襲撃者たちが身体を揺らしながら立ち上がる。

 立ち上がったが意識は失ったままだ。

「お前ら、エドガー・クルシュマンに何かされたにゃんね?」

 エドガー・クルシュマンは、転生者ケイジ・カーターに魂を奪われ肉体を乗っ取られた前任の主席魔導師だ。

「ほう、そこまでわかるか、ならばエドガー様に頂いた力を見せてくれよう」

 高濃度のマナがマルクとその仲間たちから湧き出す。

「にゃあ、下がるにゃん!」

「全員、退避にゃん!」

「急いで離れるにゃん!」

 猫耳たちが馬車から飛び降りた。

「えっ!?」

 呆然としている乗合馬車の御者のおっさんも別の猫耳たちが担いで退避する。

 他の馬車は距離を取って通行を止めていたので、周囲の人間も直ぐに退避した。

「人間が魔獣に変身とかあるにゃんね」

「感心してる場合じゃないにゃん」

「封印結界は、展開済みにゃん」

 濃厚なマナを撒き散らしながらマルクたちが馬車を降りる。

 マルク以外のふたりはゾンビみたいな動きだ。

「手下は自らのマナでやられたっぽいにゃん」

「意識を失っているところでエーテル機関を起動した弊害にゃんね」

 短時間で三人の周囲は、普通の人間なら卒倒するレベルのマナに満たされた。

「にゃあ、魔獣に変身ならヤメておいた方がいいにゃんよ」

『ご忠告感謝だ、だが、それは出来ない相談でね』

 声は半分、念話になっていた。

「先王の到着を待っていなくても良かったにゃん?」

『なに、その前に私がハリエット様を始末するとしよう』

 マルクは城壁の向こうを見る。

「にゃあ、魔獣が騒いだら王都が滅ぶにゃん」

『国体が壊れたままなら、すべて壊れた方がいい』

「にゃあ、その極端な思考、エドガーにオツムもイジられたにゃんね」

「エドガー・クルシュマンは最初からそっちが狙いにゃん、主義主張は二の次にゃん」

「にゃあ、あのおっさん、やっぱり性格が歪んでいるにゃん」

「「「にゃあ」」」

 揃って頷く猫耳たち。

『さあ、いまの私にとってはどうでも良いことだ、すべて滅びればいい』

 エーテル機関から魔獣が発生するマナの濃度になる。

「にゃあ、おまえらにはひとつ誤算があるにゃんよ」

『誤算?』

 首を傾げるマルクだったもの。

「魔獣程度では、大したものは壊せないにゃん」

「「「にゃあ」」」



 ○エクシトマ州 帝都エクシトマ 上空


「魔獣まで王都に持ち込むとは、先王はよほどの愚か者らしい」

 憤慨するカホ。

 護国派のマルク・ヘーグバリ男爵が魔獣になったとの報にオレたちは王都に急行すべくドラゴンゴーレムで空に駆け上がった。

 禁忌呪法しかもエドガー・クルシュマンことケイジ・カーターの呪法とあってはエクシトマに引っ込んでいるわけにはいかない。

「にゃあ、カホはこっちにいていいにゃんよ」

 王都に向かうオレたちにカホも着いて来た。

「いや、ハリエットは私が守る」

「了解にゃん、ぶっ飛ばすにゃん!」

「ああ、飛ばせ!」

「にゃあ!」

 オレたちはドラゴンゴーレムを加速した。



 ○王都タリス 王立魔法大学附属魔法学校 教室


『予想通り先王が革命を宣言されたか、我々は本国の宣戦布告を待って動くぞ』

 ルーファスは、またエサイアスからの念話に集中する。

 予想外に王宮が早く動いたことから、事態も急速に動いていた。

『かしこまりました、魔導師は既に城壁内に配置が終了しております』

『わかった、くれぐれも油断するな』

『お任せ下さい』

 ルーファスはうつむいて口元に笑みを浮かべる。

 かつてのような派手な戦にはならないだろうが、やはり自分の生きる場所は戦場いくさばなのだと実感する。

 王宮を押さえ従順を拒否する邪魔な貴族どもは排除する。

 アーヴィン・オルホフ侯爵はどう動く?

 いずれにしろ王都にヤツは入れぬ。

 笑い声は辛うじてこらえた。



 ○王都タリス ケントルム大使館 貿易事務室


 ルーファスとの念話を終えると直ぐに扉がノックされ、書記官が顔を出した。

「エサイアス殿、来客だ、カエルム州の商人だそうだ、早急に伝えたいことがあるらしい、いかがなされる?」

 カエルム州はケントルムにそのルーツをもつ七つの州からなる北方七州の一つ。訪れたのはエサイアスの配下の人間だ。

「ありがとうございます、お会いいたします」

「わかった」


 エサイアスとの直接の接触は禁じていたのだが、こうして接触を図ったということは何か問題が生じたのだろうか。


 衛兵たちに連れられてカエルム州の商人を名乗った若い男が部屋に入った。

 酷く青白い顔をしている。

「ありがとうございます、どうやら極秘の商談があるようです、彼とふたりにして頂けますか?」

 衛兵たちは、余計なことを言わず頷いて退出した。


「何事です?」

 この男には密かにマルク・ヘーグバリ男爵の動向を探らせていた。

「マルク・ヘーグバリ男爵様とそのお仲間ふたり、城壁門にてマコト公爵様の手の者に止められました。どうやら既にマークされていた様です」

 マルク・ヘーグバリ男爵はアナステシアス・アクロイド公爵と渡りを付ける為に利用した人物だ。

 再革命の宣言がなされた今となっては用済みの人間だ。まだ護国派のあぶり出しが終わっていないので泳がせているに過ぎない。

「逮捕されたのですか?」

 それならば始末する手間が省けたとも言える。

 密かに男爵たちに施した契約魔法でケントルム関連のことは口に出来ず、他人が無理に引き出そうとすれば絶命する。

「いえ、そうでは無いのです、マルク・ヘーグバリ男爵様たちは魔獣に變化へんげなされたのです」

「魔獣……ですか?」

 理解が追いつかない。

 大使館の中が騒々しくなった。

「そうです、魔獣になり革命の後押しをされたのです」

 男は恍惚とした表情を浮かべる。

 マナの濃度が上がり肌がピリピリする。

 扉が激しくノックされた。

「すまないエサイアス殿、入るぞ!」

 乱暴に扉が開かれた。先ほどの書記官が入室した。

「いかがなされました?」

「魔獣だ! 城壁門に三体の魔獣が現れた、どうやら先王は禁忌の術に手を染めたらしい、エサイアス殿も避難の準備を!」

「かしこまりました」


 書記官が退出したところで改めて配下の男に向き直った。

「状況はわかりました」

「では、マルク・ヘーグバリ男爵様のご伝言をお伝え致します」

「ご伝言?」

「『先日のお約束、即実行に移されます様に』とのことです」

「わかりました、既に動いております」

「承りました、では失礼いたします」


 エサイアスは、退出する直前、男の瞳が二つに別れているのを見た。



 ○王都タリス 城壁門


「にゃあ、しっかり王都の防御結界が効いてるにゃんね」

「ウチらが手を出すまでもない感じにゃん」

「ちゃんと魔獣から魔力を吸ってるにゃん」

 王都の防御結界に元マルク・ヘーグバリ男爵たちだった三体の鎧蛇型の魔獣が引っ掛かってもがいてる。

「たかが鎧蛇型で王都を壊そうというのが間違ってるにゃん」

「にゃあ、魔力を吸われて王都の糧になるといいにゃん」


『おまえらさっさとお笑い三人組の魂とエーテル機関を回収するにゃん、人間だった頃の記憶が飛んじゃうにゃんよ!』

 猫耳たちに念話を飛ばした。


「「「にゃあ、お館様にゃん!」」」

 猫耳たちは慌ててマルク・ヘーグバリ男爵たちの魂と魔獣のエーテル機関を回収した。



 ○王都タリス 王立魔法大学附属魔法学校 教室


『にゃあ、全学生に連絡するにゃん、本日の授業を中断するにゃん、寮生は寮にて待機にゃん、通学組は地区ごとにウチらが送って行くから中庭で待つにゃん、校内に残りたい者は近くの猫耳に相談にゃん』

 いきなり放送の魔導具から授業中断のメッセージが流れ教室がざわつき始めた。

『なお、授業中断の理由は、城壁門に魔獣が現れたからにゃん、既に全数制圧済みにゃん、でもまだ危険があるかもしれないから帰宅組は十分気を付けるにゃん』

 魔獣という言葉に生徒たちのざわめきがもう一段大きくなる。

 通学組の生徒たちは心配そうに外の状況を猫耳に聞いていた。


「魔獣だって、レイモンくん」

 留学生仲間のマルレーヌ・マラブルが心配そうに問い掛ける。

「そうみたいですね」

 レイモンことルーファスは、既にエサイアスから魔獣発生の報告を受けていた。

 現場が封鎖されており、魔獣の躯が遠くから見える以外は誰も近付けない為に詳細は不明らしい。

「先王の陣営が禁忌呪法を使ったそうですよ、猫耳さんが教えてくれました」

 同じくマルネロ・ダヤンが新たな情報を持って来る。

「革命を宣言されていきなり禁忌呪法とは先王陛下は随分と乱暴な方の様ですね」

 ルーファスは、無難な受け答えをしつつマルク・ヘーグバリ男爵の顔を思い浮かべた。魔獣になるとはイカれるにも程がある。ヤツは何を考えていたんだ?

「魔獣なんか持ち出したら、革命の大義も何も無いよね」

「禁忌呪法ですから、しかもそれを止められたとなると先王の陣営はかなり不利になりますよね」

 マルレーヌとマルネロが話し合う。

「でしょうね」

 ルーファスも相槌を打つ。

 城壁門に現れた魔獣が本当なのか? この目で確認したかったが、いま学校の外に出るのは無理そうだ。

 人間が魔獣になるなんて聞いたこともない。たぶんグールかオーガの亜種だ。王都住いの人間に魔獣の区別など付くわけがない。ルーファスはそう判断した。



 ○オーリィ州 上空


「にゃあ、マルク・ヘーグバリ男爵がケイジ・カーターの隠し玉だったにゃんね」

 オレはドラゴンゴーレムをぶっ飛ばしながら城壁門の猫耳たちと視覚同調して魔獣の躯を眺める。

 まったくマメなオヤジにゃん。

 実行犯であるエドガー・クルシュマンの記憶を拾えなかったせいで、実際に何が残されているのかがわからないのが痛い。

「魔獣になる禁忌呪法なんてモノがあったとは驚きだな」

 カホの声は冷静沈着だけどな。

「にゃあ、そう難しいものじゃないにゃん、エーテル機関があれば人間の体内で高濃度のマナを生成すれば後は自動的に魔獣になるにゃん」

「原理はわかるが、益のない魔法だな」

「禁忌呪法に益のあるモノなんて無いにゃん」

「それもそうか、あれは人を尊厳を踏みにじるだけの代物だ」

「普及しなかったのは単にエーテル機関が手に入らなかっただけにゃん」

「人はそこまで愚かだろうか?」

「残念ながらバカは何処にでもいるにゃん、いざとなったら魔獣でもなんでも使うにゃん」

「否定できないのが痛いな」

 カホは苦笑いを浮かべた。



 ○王都タリス 城壁門


 マルク・ヘーグバリ男爵とその手下たちの成れの果ての鎧蛇型魔獣の躯は分解することなく状態維持で城壁門の脇に寄せた。

 大きな躯からは、いずれもエーテル機関と魂の回収を終えており、猫耳としての再構成が王都の拠点で速やかに始められている。

 僅かな時間だが魔獣になったことで記憶が飛んでしまった可能性が大きいが、少しでも回収するべく作業を進めていた。


「おお、本当に魔獣だ」

 元アルボラ州の領主カズキ・ベルティが鎧蛇型の三体の魔獣を眺めている。

「ねえ、触ってもいい?」

「にゃあ、カズキ殿なら構わないにゃん」

 猫耳に許可を貰ったカズキは、嬉しそうに鎧蛇の名前の元になった装甲板をコンコン叩いて満面の笑みを浮かべる。

「うわ、硬いね」

「硬いけど粘るから嫌になるぐらい頑丈にゃんよ」

「でも金属じゃないんだよね?」

「違うにゃん、獣の皮と同じくくりにゃん、金属製の身体を持つ魔獣は別の種類になるにゃん」

「魔獣の素材は市場に出さないの?」

「上位の魔導師クラスじゃないと加工が出来ない代物にゃん、だから素材として出しても仕方がないにゃん」

 肉はハムなどにしてこっそり流通させている。

「魔石も出して無いよね」

「にゃあ、禁忌呪法以外に使い道のないモノを流通させてどうするにゃん?」

「いや、魔導具にも使えるのがあるよ」

「適当に戦闘ゴーレムに突っ込んだら、魔獣化するから気を付けた方がいいにゃんよ」

「えっ?」

 ビクっとするカズキ。

「王宮にいた戦闘ゴーレムを調べた限りはそうにゃん、魔石にも刻印を施して適合させないと魔獣化するにゃん、魔石にはゴーレムを魔獣化させる回路もあるにゃんよ」

「うわ、フィーニエンス産の魔石を買っちゃったよ」

「エイハブ・マグダネル博士がオパルス城の地下で今頃組み込んでるにゃんね、二〇体の魔獣とか奥さんと息子にマジ殺されるにゃんよ」

「そこは大丈夫、エイハブ・マグダネルとは縁を切ったし、魔石は一個しか買えなかったから」

「魔石の魔力もしっかり遮断しないと近くの人間がグール化するから保管にも気を付けた方がいいにゃんよ、この前のフィーニエンスの侵攻軍がやらかしたにゃん」

「マジで?」

「だいたいあんなのが近くにあったら、普通は具合が悪くなるにゃん」

「飾って置きたかったんだけどな」

「使用人がグール化するにゃんよ」

「うん、封印して仕舞っておく」

 カズキはシュンとして頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ