テレーザ大公妃の昼食会にゃん
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 コーネリアス大公邱 車寄せ
「いらっしゃいませ」
温和な笑みを浮かべて直々に俺たちを出迎えてくれたのは、転生者仲間の前国王の弟コーネリアス大公の奥方テレーザ様だ。
「にゃあ、お招きいただきありがとうにゃん」
「いらっしゃいませ、マコト公爵、そちらがジャンヌ様ね、ミマさんもいらっしゃいませ」
秘密の会合なので、使用人は下げられ代わりに猫耳たちが代役で働いている。
「そうにゃん、こちらがオリエーンス帝国の初代皇帝の姉上ジャンヌ・アナトリア様にゃん」
「ジャンヌ様は、本当にハリエット陛下そっくりなのですね」
分かりづらいが、とても驚いているお顔だ。
「ええ、お会いして私も驚きました」
「わたくしも子孫の一人として、お会い出来てとても光栄です」
「私の兄弟の子孫だ」
「子孫に二人も転生者がいるにゃんね」
「そうなるのか」
ミマはフムフムと頷く。
「そして殿下はお姿は変わられても本質は一緒なのね」
「中身は同じですから」
「では、マリオンと結婚されるのかしら?」
テレーザ様は目を輝かせる。
「いえ、ヤツはただの友人ですから、それより先日の件では叔母上にも大変なご迷惑をお掛けしました、改めてお詫び致します」
ミマは頭を下げる。
「お互いこうしてまた会えたのです、それで良しといたしましょう」
「にゃあ、引き続きミマのことはくれぐれも内密でお願いにゃん」
「わかっています、それ以前に話しても誰も信じてくれないと思いますけど」
「でしょうね」
ミマが苦笑しつつ同意した。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 コーネリアス大公邱 離れ
テレーザ大公妃主催の昼食会は、その私邸の離れで行われる。
表向きは昼食会だが、その実、転生者たちへのカホのお披露目会だ。
招待客は、先日家督を息子に譲ったばかりの前アルボラ州の領主カズキ・ベルティ。
ブラッドフィールド傭兵団団長ユウカ・ブラッドフィールド。
今朝、再生中の廃帝都エクシトマから呼び戻された元アナトリ王国第二王子エドモンドの中身だったミマ・キサラギ。
オレ、いかした六歳児マコト・アマノ。
そして、本日の主役である先ごろ発掘されたジャンヌ・アナトリアことカホ・イシガミだ。
「ごはん、ごはん♪」
「ごはんなの♪」
ついでにリーリとミンクもオレの頭の上に乗っている。
昼食会と聞いてやって来たのだ。
会場である離れは以前、永遠の十八歳ことテレーザ大公妃が長く臥せていた場所だ。
いまは大改装されて居心地のいいリビングになっている。
金ピカじゃないのは落ち着くが、オレとしてはちょっと物足りなく感じるにゃん。
「お待たせにゃん、こちらがオリエーンス帝国初代皇帝の姉君ジャンヌ・アナトリア様ことカホ・イシガミにゃん」
先に到着していたカズキとユウカにもカホを紹介する。
「えっ、カホ・イシガミ?」
先日まで猫耳たちに捕まっていたユウカがソファーから腰を浮かせた。
「もしかして××中学校出身?」
「えっ、あっ、うん、そうだが」
「チヌザキ・ユウカ、それが私のあちらでの名前だ」
ユウカのあちらでの名前を聞いたのは、オレも初めてだ。
「××中学のチヌザキ・ユウカって、ええっ、三年間ずっと同じクラスだったユウカなの!?」
「そう、カホもこっちに来てたんだ」
「二五〇〇年前だけどね、ユウカのお葬式に行ったのにまた会えるとはね、良く見たら私と違って面影が残ってる」
「私は、この姿でこちらに転生したからね」
「なるほど、マコトには聞いていたが、いろいろあるわけだ」
実はカホとユウカが中学生の同級生であることが判明した。
「ふーん、世の中は狭いんだね」
カズキも感心して頷く。
「転生者じゃなくても、オリエーンス帝国の初代皇帝のお姉さまというだけで凄いですけど、平穏に暮らしていた私とは大違いです」
そういうテレーザ様も長らく呪いの影響で臥せっていたり旦那が金ピカだったり姪が王様になったりとなかなか波乱万丈だと思うが。
「帝国を打ち立てたのだから、我々の中でも転生チートを活かした事例だね、僕は流石にそこまでは出来なかったな」
チーレムのカズキが何か言ってる。
「私は兄弟たちの手伝いをしただけで大したことはしていない、それに転生チートなら稀人のマコトがいちばんだろう」
「「「あああ」」」
一同納得。
精霊情報体のフルセットを持ってるのはオレだけだからな。
猫耳と尻尾があるのもオレだけだし。
「にゃあ、オレのことはいいにゃん」
尻尾を上下に振る。
「ジャンヌ様、二五〇〇年後の世界はいかがですか?」
テレーザ様が尋ねる。
「日常的に戦をしていた私の世界より平和ではあるかな」
「にゃあ、モノは言いようにゃんね」
「少なくとも王都は平和だったぞ」
カホは、王都の繁華街を見て回っていた。ドーナツが美味しかったそうだ。
「そうですね、ただ先王様が再革命を狙っているという噂が流れていますから、不安に思っている市民も多いみたいですよ」
テレーザ様が教えてくれる。
「父上が再革命ですか?」
ミマは初耳だったらしい。
「はい、先王様がアーヴィン様の領地を出られたとのことで、巷ではそんな噂で持ちきりです」
「市民にまで噂が流れているにゃんね」
庶民の情報が早いとは言え、ちょっと早すぎないか?
誰かが意図的に情報を流しているのかも。
「まずは、始めましょうか、猫耳ちゃんたちが用意してくれたお料理が冷めてしまいますわ」
テレーザ様の声で昼食会が始まった。
本日のメニューは、全員が元日本人ということもあって、居酒屋のメニューみたいなモノが並ぶ。
「ちょっとマコト、この串揚げって美味しいよ!」
「ソースは二度漬け禁止にゃん」
「お寿司も美味しいの」
「醤油の付けすぎに注意にゃん」
いずれも地下拠点の生産施設で作った食材だったりするが妖精たちは大喜びだ。
転生者たちもだが。
ユウカは冷えたビールと枝豆で満足していた。安上がりだ。
「伯母上は、革命の後も頻繁に貴族街の外に出られるのですか?」
ミマがテレーザ様に尋ねる。
「ええ、猫耳ちゃんたちに護衛して貰っているから安心して出掛けられます」
王都BL界の重鎮だからいろいろあるのだろう。それ以前に革命後で大きく変わったのは貴族なので市民階級に大きな変化はない。
「父上は、本当に再革命を狙っているのでしょうか?」
ミマは、第二王子時代の父親の動向が気になる様だ。
「さあ、それはわたくしからは何とも、ただ市民にはそう思われているようですよ」
「真実ではなくとも、あまりよろしくない傾向ですね」
苦い表情を浮かべるミマ。第二王子時代よりは周りが見えるようになったか。
「大公様も頭を抱えられておられました」
「でしょうね」
「アーサー様が、諌めていただければ良かったのですが」
「兄上が父上に意見されることは無いと思います」
「元王太子様に期待するのは無理じゃないかな? 悪い人じゃないけど、いいも悪いもお坊ちゃまなんだよね」
カズキが言い難いことをはっきり言う。
「元王太子に再革命の意思は無いはずだ。ただし先王は自分の意志が無い人間だ、アナステシアス・アクロイド公爵に同調する可能性が高い」
ユウカはちゃんと調べていた様だ。猫耳たちに掴まっていたけど。
「にゃあ、護国派の連中はどうにゃん?」
「護国派か、人畜無害のいいヤツだぞ」
「にゃ?」
答えたのはユウカじゃなくてミマだった。
「もしかしてミマは護国派の人間を知ってるにゃん?」
「二~三人なら」
「誰にゃん!? 名前を教えるにゃん!」
「えっ? えーと、マルク・ヘーグバリ男爵だったかな? 法衣貴族で王宮の文官だ、彼がリーダー格みたいだったが」
他にも二人ほど名前を挙げたが、聞いた限りは男爵よりも小粒な感じだ。
『お館様、マルク・ヘーグバリ男爵は現在、休暇中になってるにゃん』
『にゃお、ウチらが確認したリアンティス州入りした護国派のメンバーに男爵の名前はなかったにゃん』
『完全にノーマークだったにゃん』
猫耳たちから報告の念話が入った。
『直ぐにマルク・ヘーグバリ男爵を拉致ってオツムの中身を拝見にゃん!』
『『『にゃあ!』』』
俺の指令を受けた猫耳たちが直ぐに動き始めた。
「護国派と言っても勉強会みたいなものだぞ」
「それは彼らにとってエドモンド王子が人畜無害で利用価値のある人間だったからにゃん」
「私に利用価値?」
「にゃあ、その実態は思想的にかなりヤバい連中にゃん」
「革命前は彼らの守るべき世界だったから、わざわざ波風を立てるようなことはしなかった、それだけだ、過去に何度も大きな事件を起こしているぞ」
ユウカが補足した。
「それにしては、先王一家を守ってもいなかったにゃんね」
「正当なる血統の王が君臨していれば、誰に操られようが彼等は関知しない、重要なのは国体だ」
「本当に面倒なヤツらにゃんね」
「ヤツらの本質はカルト教団のそれとかわらん、これまでも急進的な王族や貴族を暗殺した過去がある、ハリエット陛下の父君もヤツらの仕業じゃないか?」
「そうだったのか」
ミマもわかったらしい。
「にゃあ、ミマのおかげで護国派の主要メンバーと思わしき人物を特定出来たのは幸いにゃん、お手柄にゃん」
「彼等が、父上の再革命を扇動しているのか?」
「にゃあ、護国派のメンバーとみられる人間がアナステシアス公爵の領地リアンティス州に入り込んだところまでは確認したにゃん」
「アナステシアス公爵か、謀略とは無縁な単純明快な方だったはずだが」
ミマは意外そうな顔をする。
「それだけ、扱いやすいってことにゃん」
「父上も同じか」
「にゃあ、そういうことにゃん」
エドモンド第二王子がアナステシアス公爵のところに婿入して脳筋に鍛え直されていれば、もうちょっと歴史は変わっていたが、いま言っても詮無いことか。
オレとミマが話し込んでいる間に、カホはユウカと一緒に宝探しをすることになっていた。
「問題は全部、魔獣の森の奥ってことぐらいだ」
カホが地図を広げている。
「魔獣の森か、いかにも宝の有りそうな場所だな」
ユウカが覗き込む。
「マコトのドラゴンゴーレムを借りればアクセスはそう苦労せずにたどり着けるだろう、ただ地下に埋まった遺跡だと厄介だが」
「にゃあ、猫耳たちも連れて行くといいにゃん、遺跡の結界にも対応可能にゃん」
「未発掘の遺跡にいきなり入り込むと普通は死ぬぞ」
専門家のミマの意見は正しい。
「マコトのところの猫耳が付いて来てくれるなら助かる、本来、魔獣の森に入るには膨大な資料と下準備が必要だからな、マナ避けだの何だの護符だけでも数百枚は消費する」
何度も魔獣の森に潜っているユウカだけに詳しい。
「それじゃお宝が見つかっても赤字だね」
カズキは苦笑い。
「転生者だけなら、そこまでの経費は掛からないんじゃないか? 私は猫耳と二人で魔獣の森に潜ったが平気だったぞ」
魔獣に追い駆けられて地下迷宮に落ちたミマが言ってるのだから間違いない。
「ところで、そのお宝とやらは先史文明の史跡なのか!?」
ミマが鼻をスピスピさせる。親父のことは既に頭の隅に追いやったっぽい。
「何があるのかはわからない、ガセかもしれないが、それにしては手が込んでいると言った印象だ」
二五〇〇年前にカホが集めたお宝の地図だ、全部が全部ガセってことは無いだろう。
「おおお、それは是非、調査したい!」
ミマも行きたそうだ。
「アナトリでも有数の考古学者だった元エドモンド殿下に同行いただけるのは心強い」
「私を発掘したぐらいだからな」
ミマも頷く。
「カズキはどうする? 荷物持ちでなら連れて行ってもいいぞ」
ユウカが誘う。
「実は凄く行きたい、でも、いまは奥さんと旅行中なんだよ、流石に放り出しては行けないよね、奥さんはマコトのホテルのエステに行ったままだけど」
カズキは悠々自適の生活を満喫している。いまは王都で楽しくやっているらしい。ちなみに王都にも猫耳たちがカジノ&エステのホテルをブチ建てている。
「先にカズキが放り出されてないか?」
「言われてみるとそうかも」
カズキも何かに気付いたらしい。
「でも、夫婦なんてそういうものだよ」
「前世でも結婚したことがないからオレには良くわからない感覚にゃん」
「カズキも愛人をとっかえひっかえしてるわけだから、奥様をとやかくいう資格はなさそうだが」
ユウカはいろいろ知ってるみたいだ。
「愛人じゃなくて彼女ね、対等な立場が重要なんだよ」
「それもオレには良くわからない感覚にゃん」
前世でも以下同文だ。
「お金のある殿方は仕方ないのではないですか? 愛妾を持つのが普通ですから」
「確かに」
赤ちゃんから人生をやり直したテレーザ様とミマはこちらの常識が染み付いている。
元の世界である現代日本でそんなことを主張したら大炎上だけどな。
「宝探しで盛り上がってるところで悪いけど、帝都エクシトマが先にゃん」
「わかっている」
「当然まずはそちらだ、明日には完成するぞ」
カホは面倒くさそうだったけどミマは目を輝かす。
「帝都エクシトマ?」
ユウカが首を傾げる。
「マコトが帝都エクシトマを復活させたってことじゃないかな?」
カズキがニンマリしてオレを見る。
「復活させたのはカホにゃん、オレは魔力を提供しただけにゃん」
「その魔力が尋常な量じゃないんだろう?」
ユウカが肩をすくめる。
「正解だ」
ミマが答えた。
「魔獣の森の中の帝都では、直ぐには使えそうに無いよね」
カズキは現実的だ。
「にゃあ、エクシトマの魔獣の森は、オーリィ州の境界から西に二〇〇キロの地点までは魔獣の排除とマナの濃度調整が終わっているにゃん」
「マナの濃度を調整したら普通の森だね、これは魔獣の森を解放したってことかな?」
カズキの意見はもっともだが。
「にゃあ、ところが元魔獣の森だった場所は、マナの濃度が濃くなると何処からともなく魔獣が湧くにゃん」
「なにそれ?」
「原因不明にゃん、いま猫耳たちが研究しているところにゃん」
「魔獣の森の濃度になれば、普通の人間も長時間は耐えられないんだから、魔獣が湧こうが結果は同じなんだから、気にしなくていいんじゃないか?」
ユウカは乱暴な意見を述べる。
「それもそうにゃんね」
オレも乱暴な意見は嫌いじゃないにゃん。
「マコトの領地なら移住したい人間は多いんじゃないか? 安全はちゃんと担保した方がいいと思うぞ」
ミマにしてはちゃんとしたご意見だ。
「ただし帝都に関しては、我々の調査が終わってからにして貰いたい」
本音はそっちにゃんね。
「言われなくても元魔獣の森の領地に人は入れないにゃん、魔獣がいなくても太古の道以外は危ないことには変わらないにゃん」
「何処に穴が空いてるかわからないからか」
「魔獣の森で地下迷宮に落ちたミマが言うと説得力があるにゃん」
「まあな」
「ミマとマコトってどんな関係なんだ?」
ユウカから質問される。
「マコトは中学と高校時代の友人だ」
「情報を売っちゃ駄目にゃんよ」
「誰が欲しがるんだ、そんな情報?」
「ユウカは、欲しがるヤツを作り出すから油断ならないにゃん」
「それが商売だからな」
「ユウカは、情報屋なのか?」
カホが質問する。
「ユウカさんは傭兵団の団長さんなんですよ」
テレーザ様が答えた。
「傭兵団の団長、ユウカが?」
「それが何か?」
「私も似たようなことをやっていたから、似たもの同士だなと」
「カホは、国盗りをやっていたのではないのか?」
「いや、子供時代、傭兵団で育った関係で、暫くはそこにいたから仕事は一通りこなしていた、二五〇〇年前の話だが」
小国の貴族の娘で傭兵団で育ったらしい。波乱万丈にゃん。
「傭兵団と言っても私のところとはスケールが違うんじゃないか? こちらは本格的な戦はやらないぞ、そもそも需要がない」
ついこの前はあったけどな。
「平和なのは、いいことだ」
「にゃあ」
オレも同感だ。
「マコト、ユウカならこの前の人型戦闘ゴーレムについて何か知ってるんじゃないのか?」
「にゃあ、それなら既にユウカから根掘り葉掘り聞いてるにゃん」
猫耳たちが簀巻きにして。
「ああ、全部喋った」
「人型戦闘ゴーレムって、マコトはケントルムとも何かトラブったのかい?」
カズキの中でもケントルム=人型戦闘ゴーレムの図式が出来てるらしい。
「にゃあ、オレは何もしてないにゃん、人型戦闘ゴーレムが突然襲い掛かって来たにゃん」
「マコトは、暗殺されかかったわけだね」
「カズキは、人型戦闘ゴーレムについて何か情報を持っているにゃん?」
「人型戦闘ゴーレムは、ケントルムで使われていた暗殺用の道具ってことぐらいかな? 表向きは消えたことになってるけどね、それに普通の魔法使いレベルでは使えない」
「確かにあれは燃費が悪いにゃん、禁呪ギリギリのことをしないとまともに動かないにゃん」
「実際に動かしたとなると容疑者は、かなり絞られるかな、少なくともアナトリの人間じゃないね」
「ケントルム王家が絡んでるにゃんね?」
ドゥーガルド王国軍総司令の推測でもある。
「十中八九そうじゃないかな? ケントルムの他の勢力があの技術を持っているとは思えないから」
「にゃお、やっぱりケントルム王家がオレを殺しに来たにゃんね」
『『『戦争にゃん!』』』
念話で猫耳たちの声が上がる。
「ケントルムの王家が直接マコトに喧嘩を売るって、諜報関係に難ありなのかな? そんなわけは無いんだけど」
カズキは首をひねる。
「そうにゃん?」
「マコトの小麦が欲しいなら戦争より買った方がずっと安上がりだし、なんたってケントルムとアナトリは離れているからね、それにユウカも情報を売ってるんだろう」
「にゃあ」
「情報があっても信じなければそれまでだ」
「信じられないのも頷けるね」
「オレはノーコメントにゃん」
「ケントルムはアナトリよりまとまりのない国だから、バカなことを考えるヤツもいるんだろう」
ユウカがコメントする。
「ああ、それはあるね」
「いちばん始末が悪そうにゃん」
「カズキはケントルム王家の情報を持っているのか?」
「ユウカは持ってないの?」
「王宮の深いところは、噂を拾うのがやっとだ」
「今回の一件で関係ありそうなのは、第二王子のルーファス殿下かな」
「にゃ!? 第二王子にゃん?」
思わず『第二王子』というワードに反応してしまった。
「マコトは知ってるの?」
「全然知らないにゃん、ただ何処の第二王子もキャラが濃いにゃん」
「……っ」
ミマがビクっとした。
「うん、確かにキャラが濃いね、ここ数代まともな魔法使いを輩出しなかったケントルム王家に久し振りに現れた上級の宮廷魔導師クラスらしいよ」
「ケントルムの第二王子は、ただ魔力が強いだけじゃないということにゃんね?」
「そう、ケントルムからの情報によれば、ルーファス殿下はどうやら傀儡使いらしい」
「傀儡使い、人型ゴーレム専門の魔法使いのことにゃん?」
「そう、特にケントルム王家の傀儡術は戦闘ゴーレムに特化されている」
「にゃあ、だったら犯人で決まりと違うにゃん?」
「容疑者としては濃厚だけど、でも、彼はケントルム本国にいるはずだよ」
「いくら優秀な傀儡使いでもケントルムからアナトリで戦闘ゴーレムを操るのは不可能か」
ユウカのいう通り距離が有りすぎる。
中継できないわけじゃないが、グランキエ大トンネルを経由では、あまり現実的ではない。
念話や通信の魔導具で会話は可能だが、それを利用するにして戦闘ゴーレムを動かすのはちょっと無理がある。
複雑な魔法式を通信の魔導具を使って起動させるのは、ほぼ無理だ。
「王家には第二王子以外の傀儡使いがいる可能性はないにゃん?」
「そこはなんとも言えないね、王家に伝わる秘術とされているけど表向きは途絶したことになってるし」
「真相は謎だな」
「にゃあ、第二王子が今回の術者なら、既にアナトリ国内に潜入しているってことにゃんね」
「そう考えるのが自然だね、偽装されたら国境でもまずわからないし、少なくとも王家の関係者が条約を破って潜入しているのは間違いないんじゃないかな」
「そうにゃんね、ただグランキエ州がオレの領地になってからは、ちゃんと入国審査をしてるにゃん、犯罪奴隷相当は弾いてるにゃんよ」
「実は第二王子も弾いてるとかないだろうな?」
ミマが疑いの眼差しを向ける。
「にゃあ、それは無いにゃん、そんな強力な魔導師なら直ぐにわかるにゃん」
「するとマコトの領地になる前にアナトリ国内に来てたのか?」
「意外と王都に潜伏してたりしてね」
カズキが怖いことを言う。
「ケントルムの人間なら北方七州の貴族派の領地の方が自然だと思うが」
ミマの推測も説得力がある。
北方七州はケントルム系の領主が治める領地だ。
「いや、僻地より人口の多い王都の方が潜伏は楽だと思うぞ、それよりカズキ、第二王子が転生者の可能性は無いのか?」
ユウカがもっと怖いことを言った。
「どうだろう、実際に会ったことが無いから断定は出来ないけど、ボクらの仲間である可能性は低いんじゃないかな」
「ラーメンとか作ってないにゃん?」
「そう、王子の地位にあってラーメンを作ってないなら転生者じゃないよね」
「いや、転生者だからって誰でもラーメンを目指しはしないだろう?」
ユウカから物言いが入った。
「ラーメンじゃなくても食べ物には転生者の痕跡が残りやすいからね、ボクなんか直ぐにマコトが転生者だってわかったよ」
「マコトの場合は、食べ物以前の問題じゃないか? 魔力が圧倒的過ぎる」
「ネコちゃんはカレーもお上手でしたよ」
「ホテルの人気メニューにゃん」
「それにケントルムにはナオさんがいるから、他に転生者らしき兆候があれば教えてくれると思う」
「ケントルムの転生者にゃんね」
詳細は知らない。
「ナオ・ミヤカタか」
ユウカも知っているらしい。
「そう、ジャンヌ様を除けば、この中ではいちばんの古株だね。通称、薔薇園の魔女。所有する薔薇園からはほとんど出て来ないけど、お弟子さんが多いから情報通なんだよ」
「にゃあ、もしかして第二王子の情報もその人から貰ったにゃん?」
「全部じゃないけどね」
「第二王子の動向について、改めて問い合わせて貰ってもいいにゃん?」
「うん、聞いてみるよ、魔法使い関連の情報には強いから何かわかるんじゃないかな」
「頼んだにゃん」
情報を交換して昼食会という名のカホのお披露目会が終わった。
先王コンスタンティン二世を旗頭にした再革命の疑念とケントルム第二王子密入国の可能性を情報を得たのは大きな収穫だ。
「では、マコト、エクシトマに戻るぞ」
ミマが俺を急かす。
「にゃあ、今日中には戻るから慌てなくていいにゃんよ」
「私もエクシトマの件が片付いたらまた王都に戻って来るとしよう」
「ああ、待ってる」
カホは直ぐに宝探しに行きたいだろうが、まず帝都エクシトマを見て貰わなくてはならない。
オレたちは一路帝都エクシトマに向かってドラゴンゴーレムで上空に駆け上った。




