ハリエット陛下に謁見にゃん
○帝国暦 二七三〇年十一月十二日
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 寝室
「にゃお」
何処で寝ても猫耳たちに埋もれて目を覚ますオレがいる。またオレに乗っかっている猫耳たちをにょろりとかき分けて顔を出す。このみっしりた感じは嫌いじゃない。
昨夜は抱っこ会の途中で寝てしまったが、ちゃんとお風呂にも入れて貰ったようだ。
猫耳たちの上を歩いて寝室を出る。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 食堂
「美味しいよ!」
「美味しいの!」
食堂ではふたりの妖精たちが朝食を食べ散らかしていた。
テーブルには飴色の豚の丸焼きが鎮座していて、給仕係の猫耳が妖精たちのオーダーに従って切り出してあげてる。
「朝から豚の丸焼きとはやるにゃんね」
「子ブタだけどね」
口の周りを油でテカテカにしたリーリが謙遜する。
謙遜なのか?
「子ブタは柔らかくて美味しいの!」
ミンクも大満足そうだ。
「にゃあ、カホとビッキーとチャスはどうしたにゃん、まだ寝てるにゃん?」
食堂に三人の姿が無かった。
「三人は庭で朝の鍛錬をしているにゃん」
給仕担当の猫耳が教えてくれる。
「にゃ? 三人で鍛錬にゃん」
「昨日のカホの剣技にビッキーとチャスが惚れ込んで弟子入りを志願したにゃん」
「ビッキーとチャスがカホに弟子入りにゃん!?」
何でそんな展開になっているんだ。
「にゃあ、そうにゃん、ふたりは本気みたいにゃん」
カホに本気で弟子入りって。
はっ!
「ビッキーとチャスは天下を狙っていたにゃんね!」
まったく気が付かなかった。
奴隷から皇帝の座を狙うとかロマンだが。
「にゃお、オレはハリエット様とビッキーとチャスの誰の味方をすればいいにゃん?」
オレは頭を抱えた。
「違うんじゃない?」
「ミンクも違うと思うの」
妖精たちからツッコミが入った。
「だったら何でカホに弟子入りしたにゃん? カホは国盗りのプロにゃんよ」
「ビッキーとチャスが学びたいのはカホの護衛術にゃん、国盗りじゃないにゃん」
給仕の猫耳からもツッコまれた。
「チビッコには、天下を狙うぐらいの元気が欲しいとオレは思うにゃん」
「お館様は、どっちにゃん」
「にゃあ、冗談にゃん、ビッキーとチャスはオレの為に頑張ってくれてるにゃんね、それはわかるにゃん」
「お館さまが、ビッキーとチャスにはもっと自由に生きて欲しいと思ってるのは承知してるにゃん、ふたりはちゃんと自由に生きてるから心配ご無用にゃん」
「にゃあ、ふたりは本当に自由にゃん?」
「嫌ならとっくに逃げ出してるにゃん、ビッキーとチャスならいつでも逃げられる力を持ってるにゃん」
「にゃあ、実際に逃げられたらそれはそれで寂しいにゃんね」
たぶん寝込む。
「ふたりには、このまま自由にさせるのがいちばんにゃん、巣立つ時がくれば勝手に出て行くにゃん」
「ふたりは、簡単には嫁にやらないにゃんよ」
「にゃあ、ほどほどに頼むにゃん」
給仕の猫耳は肩をすくめた。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 中庭
中庭では、なるほどカホがビッキーとチャスに人体強化魔法を手ほどきしていた。オレはこそっと木陰から三人を見守る。
うわ、あんなに速く動けるのか。
それでいてカホが頭一つ分速い。ビッキーとチャスは全力で追っているがカホはまだまだ余裕が有りそうだ。
単体でもそれだけの戦闘力があれば天下も取れるだろうと思わせる。
「無理はせずに少しずつ身体を慣らして行くことが肝心だ。剣も一朝一夕で身につくものでははない」
「「はぁ、はぁ、はぁ、はい!」」
ビッキーとチャスは息が上がって汗だくになっていた。ヘトヘトだ。カホは汗一つかいていない。
それでもビッキーとチャスなら無理をしなくても、直ぐにカホの動きにも付いていけるようになりそうだ。
確かに剣技はそれなりに時間を要するだろうが、ふたりならそちらもマスター出来るはずだ。
オレとしてはビッキーとチャスには、平凡でもいいから幸せな人生を送って欲しいと思っていたのだが、まったく昨日の戦闘ゴーレムは余計なことをやってくれた。
ビッキーとチャスが安心してオレから離れられるように、一日も早く平和な世界を作り出さないといけない。
まずは戦闘ゴーレムを使ったヤツを血祭りに上げるにゃんと、堅く心に誓った。
○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍総司令部
以前、王国軍の駐屯地が置かれていた場所に現在、王国軍総司令部が置かれている。
城壁内では有事の際に迅速な対応が出来ないのでこちらに移転したのだ。
城壁内の総司令部は総務省の庁舎に改築され、そちらで元官僚の猫耳たちが王国の復興のために働いている。
朝食の後、王国軍総司令部に魔法蟻のトンネルでダイレクトに移動した。絶対防御の刻印を打ち直した王都城壁内で新たな襲撃があるとは思えないが、絶対はこの世には無い。むしろ何でも有りなのがこの世界だ。
カホとビッキーとチャスの師弟トリオは、猫耳たちの案内で王都見物に出ている。国王ハリエット陛下との謁見は本日の夕方にねじ込んで貰った。
国王相手に友だち感覚でのアポイントだが、まあ許せ。オレもカホも忙しいのだ。
「公爵様、お出でいただきありがとうございます」
執務室で王国軍総司令のドゥーガルド・オルホフが出迎えてくれた。相変わらずの筋肉だ。
総司令の制服はハリエットの頃と同じ意匠のはずだが、可愛らしかった少女司令官と比べて威圧感が凄い。
「にゃあ、ご無沙汰にゃん」
「お久しぶりでございます」
「にゃーお、ドゥーガルドのおっちゃんに敬語を使われると尻尾の付け根がムズムズするから、やっぱり前と同じで頼むにゃん」
「公爵様にタメ口とか勘弁しろよ、そうでなくてもいつの間にかマコト公爵派の重鎮のひとりってことになってるんだぞ」
「オレ関係で面倒事があるなら、近くの猫耳に丸投げして欲しいにゃん、こっちで上手く処理するにゃん」
「そいつは助かる、息子の見合い話が山のように来て困ってるんだ」
「任せるにゃん」
挨拶の後は人払いを頼んだ。
「マコト公爵様が自らお出ましの用件と言うと昨日の件か?」
人型戦闘ゴーレムのことは、ドゥーガルド総司令にも既に知らせてある。
「そうにゃん」
「人型戦闘ゴーレムとは厄介なモノが出てきたな、しかもケントルム系か」
「にゃあ、そうにゃん、ケントルム王国のモノで間違い無さそうにゃん」
「しかし、ケントルムでも人型戦闘ゴーレムを新たに作る技術は失われて久しいはずだが、まだこちらに持ち出せるほど残っていたのか」
「失われた技術にゃん?」
「一〇〇年近く前の大規模な反乱が最後だったはずだ、製法を知る魔導師は当時すべて粛清されたと記録されている」
「昨日のはそう古いモノじゃなかったにゃんよ、実際には生き延びていたにゃんね、ケントルムからアナトリに逃げた可能性もあるにゃん」
「ゼロでは無いにしても、いまの時代まで隠し通せたかというとかなり難しいのではないか?」
「そうにゃん?」
「アナトリでもそれなりに大きな事件が有ったが、現れた記録がない、暗殺に特化したとしてもまったく情報がない」
「にゃあ、確かに情報は無かったにゃんね」
猫耳たちの情報網にも引っ掛からなかった。
「有力貴族でさえ家が傾くほどの膨大な魔力と資金を必要とする上に人殺し以外にこれと言って使い道のない戦闘ゴーレムだ、その技術を継承するのは、少なくともアナトリでは無理じゃないか」
「コストが絡むとそうにゃんね、使い所が難しい上に金にならない技術にゃん」
「アナトリ国内の可能性は排除して問題あるまい、昨日の襲撃もケントルムの人間が絡んでいると見た方がいい」
「にゃあ、今回の戦闘ゴーレムがケントルムの人間の仕業だとして、あちらの連中に領土的野心はあるにゃん?」
「国としては有るまい、バカみたいに長い大トンネル経由な上にアナトリには特筆すべき産業も資源も無いからな、下手に占領しても経費がかさんで本国の財政が傾くのが目に見えている」
「アナトリの悲しい現状にゃん」
「大トンネルを通っての侵攻はあまり現実的ではないが、マコトの領地に付いての情報を得れば話は違ってくる」
「違うにゃん?」
「多少無理をするだけの価値がマコトの領地にはある」
「小麦にゃん?」
「そう、食料の安定は何処の領主も喉の奥から手が出るほど欲しているものだ、連合王国的な性格を持つケントルムなら暴走する領主がいてもおかしくはない」
「ケントルムはアナトリよりもマシという印象があるけど、実際は違うにゃん?」
「かつてはそうだった。だが、近年は魔獣の被害と天候不良によってアナトリほどでは無いにしても余裕のない状態と聞いているらしい」
「農業に魔法資源をブッ込めばいいのに戦争の準備をしてるにゃんね」
「開拓より戦争の方が貴族受けはいい、マコトを狙ったということは、ある程度、計画が動いているのかもな」
「にゃあ、それかオレ個人に恨みがあるとかにゃんね」
「何かケントルムの連中に、戦闘ゴーレムを引っ張り出すほど恨まれるようなことをしでかしたのか?」
「まったく思い当たらないにゃん」
「すると侵攻の予兆か、しかしトンネルを出たところがマコト公爵の領地とあっては、侵攻したところで上手くは行くまい」
「通常戦力ならそうにゃんね、ただ、高価な戦闘ゴーレムを使い捨てにするヤツらが安易に攻めて来るとも思えないにゃん」
「トンネルからウジャウジャと戦闘ゴーレムが出て来るんじゃないのか?」
「そこまで目立った動きをしてくれれば、トンネルから出て来る前に情報を掴めるにゃん」
ケントルムとアナトリを結ぶ唯一のルートであるグランキエ大トンネルは、古くからタルス一族が支配している。
彼らの目をすり抜けて大量の戦闘ゴーレムを通すのは無理があるから、到着日時と数が事前に察知できるかも知れない。
「それだけの軍事力があるならケントルム王国を再統一出来そうだが、それをやらないということは王家に近い勢力なのかもしれんな」
「王家そのものと違うにゃん?」
「ケントルムの王家にそこまでの力が備わっているなら、長い間、苦労して領地間のバランスを取る必要など無かったはずだが」
「それはいままでの話にゃん、最近になって力を得た可能性も考えられるにゃん」
「最近か、そして今回の一連の事件を絶好の好機と捉えて動き出したわけか」
ドゥーガルドのおっちゃんは眉間にシワを寄せて考え込む。
全体のフォルムは父親のアーヴィン様に似ているが考える姿はやはり別人だ。アーヴィン様はどちらかと言うと脊髄反射系の人だ。
「アナトリが魔獣の侵攻で以前にも増して弱体化しているいまなら、攻めやすいと考えるのは当然にゃん」
「侵攻した魔獣のすべてをマコトたちが蹴散らしたわけだが」
「貴族を中心に信じて無い人間は少なくないらしいにゃん」
「ああ、確かに王都では信用していない貴族が多いのが現実だ、ましてや他国の者なら端から虚偽と決めつけていても不思議は無いか」
「せいぜい侮ってくれた方が、オレたちには都合がいいにゃん」
「公爵様は、王国軍にどう動いて欲しい?」
「王都周辺の護りを徹底して欲しいにゃん」
「わかった、検問はどうする?」
「表向きはいつも通りでいいにゃん、下手に市民の不安を煽っても仕方ないにゃん」
「検問に関しては、いつものことだったから、迷惑に思ってもいちいち不安に思う市民などいないぞ」
「それも困りものにゃんね」
「以前は王都も治安が悪かったからな、貴族地区でさえ強盗も珍しく無かった。まともに取り締まって無かったせいだが」
「意外と適当だったにゃんね」
「貴族と繋がっていた盗賊も多かったからな、国軍が捕らえようとすると騎士団経由で邪魔が入ったものだ」
「本当にやりたい放題にゃんね」
「いまじゃ盗賊もそれと繋がっていた貴族も天に還った。この前の事件も我々にしたら悪いことばかりじゃなかったわけだ」
「どうせなら、不満分子を全部天に還して欲しかったにゃん」
「それでも風通しはかなり良くなった、マコトのところの猫耳たちも上手くやってくれてる、まるで経験者だ」
「にゃあ、それなりに経験を積んでるにゃん」
猫耳になるまえは官庁で甘い蜜をたっぷりと吸って来た連中だ、業務の裏の裏まで知り尽くしている。
「警戒はするが、いまの王国軍がまともになったとは言え、流石に戦闘ゴーレムと渡り合うのは無理だぞ」
「にゃあ、普通の人間にあの戦闘ゴーレムの相手は無理にゃん、そこは猫耳たちに任せて貰っていいにゃん」
王国軍には元軍人の猫耳を中心にそれなりの数を常駐させてある。
「助かる、貴重な人員を失いたくは無いからな」
「そうにゃんね」
王国軍は少なくない数の犠牲を毎年出していた。半分は自業自得の事故だったけどな。
「あとは先王様か」
渋い顔をするドゥーガルド。
「困ったおっさんにゃん」
「アナステシアス・アクロイド公爵というのも厄介だ、本人たちがどうあれ周囲は再革命有りと思うだろう」
「そうにゃんね」
「コレに関しては、先王様を自由にした親父殿の不始末だ、俺からも謝罪する」
「それは結果論にゃん」
「先王様とアナステシアス公爵にその気が無くても周囲が動く、マコトもそう思っていてくれ」
「わかったにゃん」
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 車寄せ
午後になって、王宮から迎えの馬車が回されて来た。
「ご無沙汰しております、公爵様」
案内役は、イーニアス・バスカヴィル元近衛軍少尉。現在は王国軍の所属なのでイカれた金ピカの鎧は着ていない。
「にゃあ、元気そうで何よりにゃん」
毎日、猫耳たちに揉まれて充実した日々を送ってるらしい。元近衛軍の戦闘狂でもぶっ倒れるほどの激しだそうだ。
でも、それがいいとか。
マゾだな。
○王都タリス 城壁内 王城区画
馬車は近衛軍の金ピカ仕様から白に塗り直されていた。まだ白亜の馬車の方が落ち着いて乗っていられる。
今回、ハリエットの面会なのでオレとカホだけが馬車に乗り、ビッキーとチャスはお留守番だ。
リーリとミンクは、猫耳を連れて下町に買い食いに出掛けている。猫耳たちの指導もあって、王都の屋台は軒並み味が向上しているらしい。
王城区画の道沿いはそこかしこに猫耳たちが目を光らせていた。高高度の上空には魔法龍のディオニシスが待機しており長距離の攻撃も見逃さない。
大げさな気もするが、オレのことを知ってなお狙って来る人間なら、王都そのものを吹き飛ばす様な無茶な攻撃を仕掛ける可能性だってある。
警戒するに越したことは無い。
「にゃあ、王都の下町はどうだったにゃん?」
カホに聞く。
「私には、貴族街よりも下町が合ってるようだ」
「元庶民には落ち着く場所にゃん、ただ当初よりはかなり綺麗にしてあるにゃんよ」
「ああ、確かに綺麗だった」
「下水関係は作り直したにゃん」
「事件がいろいろ続いていたのに随分と大掛かりな改修をしたんだな」
「魔法の利便性を再確認したにゃん、現代日本だって無理な工期でやれたにゃん」
「魔法で庶民の街の整備か、私の時代には考えられなかったな」
「にゃあ、いまの時代もオレたち以外はやってないみたいにゃんよ」
「時代が変わってもその辺りに変化は無かったか」
「国力と共に魔法そのものが衰退してるにゃん」
「マコトたちだけが特別なんだな」
「全てでは無いにしろ、この世界の中心は魔法にゃん、魔法の衰退がすべての衰退に繋がってると思うにゃん」
「前文明が魔法文化の絶頂で滅んだことを考えると、魔法も良し悪しだと思うぞ」
「にゃお、オリエーンス連邦は禁忌魔法の絶頂期に滅んだにゃん、自業自得もいいところにゃん」
「マコトは封印図書館を持っていたか」
「あれはヤバすぎにゃん」
「だろうな」
「衰退の原因は愚かな人間にゃん」
「いまも昔も変わらずだな、とは言え、私の場合、偉そうなことを言える立場ではないか、むしろ愚か者の側の人間だからな」
「そうにゃん?」
「戦に使いまくった」
「生きる為なら、それは仕方ないことにゃん」
「選択できる状態でも立場でも無かったからな、少なくとも私の兄弟たちは愚か者ではなかった」
「にゃあ、いまも形は変わっても国が続いているのは、カホの兄弟たちのおかげにゃんね」
「多分、間違いない」
カホは誇らしげな顔をする。自慢の兄弟らしい。
王宮への道は猫耳たちが再整備して太古の道仕様に作り直してくれたおかげで、ノーマルの馬車なのにほとんど振動もなく滑らかに走っている。
森は道の両側を大きく切り取って見通しを良くしてあった。それに防御結界を張り巡らせてあるので、昨日の人型戦闘ゴーレムぐらいなら簡単に弾くことが出来る。
アレが厄介なのは、防御結界の無効化とあの速度につきる。いずれも対策はそう難しくないのは幸いだ。
敵が同じ手を使っている可能性は低いだろうが、万全を期すにゃん。
「近付いてはっきりしたが、私の知るタリスの遺跡よりずっと大きくなっている」
カホが馬車から顔を出して声を出す。
「王宮になってから増築したみたいにゃんよ」
「遺跡でもバカみたいに大きかったのに更に大きくするとは、こういっちゃ何だがバカじゃないのか?」
呆れた顔をする。
「にゃあ、そうにゃんね、どうも半永久的に籠城するのがテーマらしいにゃん、王都が魔獣の森に沈んでも生存可能にゃん」
「核シェルターみたいなものか」
「そうにゃんね、ただ実際に半永久は無理にゃんよ、魔獣の侵入を防げてもマナにやられるにゃん」
「だろうな、魔獣の森は長く人の滞在する場所じゃない」
「そうにゃん」
高濃度のマナが人間と魔獣を棲み分けさせている。魔獣がフラフラ魔獣の森から出て来なければ、まだマシなのだが。
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内
オレたちの乗った馬車は、停められることなく城内に入る。
「城内も馬車移動なのか?」
「にゃあ、歩いて移動できる大きさじゃないにゃん、モノレールも走っているにゃん」
「モノレール! そんなものまであるのか?」
「あるにゃん、王宮の古い部分を修復したら出て来たにゃん」
そして馬車は復元された遺跡内部の街を抜ける。先日の事件で破壊されたが、かつての姿に復元されている。
「本当にシェルターだったのかもしれないな」
「にゃあ、本来、何に使われていたのかは今後の調査待ちにゃんね、いまはそれどころじゃないにゃん」
「だろうな」
いまは王宮として必要なものを残し、余計なものは封印している。モノレールも隅々まで走って移動はかなり楽になった。
それに合わせて馬車もかなり奥まで入れる様になっている。徒歩移動は常識の範囲内に収まった。
○王都タリス 城壁内 タリス城 玉座の間
「にゃあ、陛下がお待ちにゃん」
「「「にゃあ」」」
王宮に詰めてる猫耳たちが出迎えてくれた。
「ご苦労にゃん」
「これはまた随分と豪華な」
カホは壁画や天井画をグルグル見回す。以前は煤けて汚い代物だったがいまはしっかり修復されている。
大きな扉が開かれた。
広々とした謁見の間にかつてのように貴族がたくさん並んでいることは無い。いまいるのは国王となったハリエットと猫耳たちだけだ。
「にゃあ、お待たせにゃん」
玉座に座るハリエット陛下に声を掛ける。いくら公爵でも公式の場だったら不敬罪だが、非公式の場なので問題なしだ。
「久しいなマコト、それでそちらが初代皇帝陛下の姉上様なのか?」
「そうにゃん、こちらがジャンヌ・アナトリア様、初代皇帝陛下の姉上にゃん、ハリエット陛下と血縁なのは一目瞭然にゃんね」
こうして向かい合っている二人の顔を眺めると、まるで年齢の違う同一人物だ。
「確かに似ている、兄上の娘も似ていたが、それ以上だ」
カホも感心していた。
「ジャンヌ様」
ハリエットは玉座から立ち上がるとカホに駆け寄って抱き着いた。
「おおっと」
頭一つ分小さいハリエットを抱き止めるカホ。
ハリエットは、涙を浮かべてギュッと抱き着いている。こうして見ると十二歳の女の子の顔になっている。
「……も、申し訳ございません」
ハッとして身体を引き離す。自分の衝動的な行動に赤面する。
「にゃあ、いいにゃん、実の姉だと思って接してくれていいにゃんよ」
叔母とは言わない辺り、オレは気遣いの出来る六歳児にゃん。
「よろしいのですか?」
ハリエットは上目遣いでカホを見る。
「ああ、私で良ければ構わない、どうやら他人ではない波動を感じる、私の兄弟たちの子孫で間違いない」
うなずくカホ。
「にゃあ、とても二五〇〇年の隔たりがあるとはとは思えないほど似てるにゃんね」
「私たちのご先祖が遺伝子に何かしたのかもな」
「イデンシですか?」
ハリエットは首を傾げる。
「人間の設計図みたいなものにゃん、王家とその親族に特別な何かが受け継がれているのは先日の事件ではっきりしてるにゃん」
「そうなのですか?」
「にゃあ、人型魔獣を起動させる鍵に使われていたにゃん、エドモンド第二王子が殺された理由にゃん」
中身はピンピンしてるけどな。
「そうでしたか」
フィーニエンスの飛行戦艦の起動キーにもコンラート第二王子が使われた。
「先史文明から引き継がれた何かにゃんね、ふたりが似ているのにも理由があるのかもしれないにゃん」
ハリエットはすっかりカホに懐いてしまった。自分そっくりなカホに血縁以上の何かを感じたのだろう。
○王都タリス 城壁内 タリス城 国王執務室
場所を移してくつろいで話をする。
ハリエットは初代皇帝の話を聞きたがった。
皇帝は、身体が大きく剣技も優れていたがそれ以上に魔法の使い手だったそうだ。
「魔法での破壊力は私の方が上だけどね」
と、自慢も混じったり。
「マコトが来ていると聞いたが? おわ、誰なのこの娘!?」
扉を開けるなり驚いているのは、王都タリスの冒険者ギルドのギルドマスターでハリエットの叔母のマティルダ・ベッドフォードだ。
貴族然とした姿に似合わぬ落ち着きの無さだ。
「ジャンヌ・アナトリアお姉さまです」
「お姉さま!? はっ! まさかクリフォード兄様の隠し子なの!?」
おお、マティルダはなかなかいい設定を提示してくれた。
カホも小さく頷く。
「そんなところにゃんね」
カホのことはオレたちだけの秘密がいい。その存在が切り札になる可能性がある。
「兄様も意外とやってたのね、ジャンヌはこれまでどうしていたの?」
「マコトに助けられるまでは眠っていました」
まあ、嘘ではない。
「またマコトにお世話になっちゃったか、ふむふむ、ただ身分に関しては公にしないことね、たぶん面倒なことになるから」
「心得ています」
カホは笑みを浮かべて返事をした。
ハリエット陛下の腹違いの姉とは、いい隠れ蓑が出来た。
カホはオレのところの魔導師として、ハリエット陛下のところに出入りする許可を貰った。
「マコト、ちょっとこの前のあれって何だったの? 呪術ギルドがどうしたこうしたって、職員が何人も逮捕されたままなんだけど、返して貰えないの?」
どうやらギルマスのマティルダは呪術ギルドの件でクレームを入れに来たらしい。
「冒険者ギルドを隠れ蓑にした呪術ギルドを掃討した影響にゃん、連中に悟られるとマズいからギリギリまで伏せていたにゃん」
「私から漏れると思ってるの?」
「にゃあ、ギルマスであるマティルダのことは勿論、信用しているにゃんよ、ただ周囲で誰が聞いているかわからないから用心しただけにゃん」
「あー周囲か、確かに絶対に漏れない保証は無いな、それで連れ去った職員は返して貰えるの?」
「犯罪奴隷相当の罪を犯していたから無理にゃんね。その代わり猫耳を派遣しているから冒険者ギルドの業務には支障は無いはずにゃんよ」
「そうなの?」
「にゃあ、なにか報告は無かったにゃん?」
「そう言えば、最初の報告以外に特に無かったかな」
「じゃあ、問題無しでいいにゃんね」
「マコトのところの猫耳たちを暫く貸して貰えるなら問題は無いかな?」
「にゃあ、大丈夫にゃん」
派遣される猫耳たちは、元冒険者ギルドの職員でしかも呪術ギルドのメンバーだったヤツらの魂を煉獄の炎でじっくり焼き上げて鍛え直した連中だ。以前の数倍のパフォーマンスを発揮してくれるはずだ。
ハリエット陛下の希望で夕食を伴にしてからお暇した。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区
「十二歳の娘に国王はやはり酷だな」
カホは、帰りの馬車の中でボソっと呟く。
「にゃあ、だからカホにはハリエット陛下のいい話し相手になって欲しいって言ってたにゃん」
「かわいい子孫の為だ、私の出来ることなら何でもしよう」
「摂政か関白はどうにゃん?」
「いや、この国の政は、私の様な過去の遺物ではなく、いまの時代を生きる者がやるべきだ」
「にゃあ、カホに遺物感はないにゃんよ」
「それでもこの時代の人間がやるべきだ」
「どちらかと言うと、今の時代の人間のほうが古臭いにゃん」
「我々の価値観を基準にするとどうしてもな」
「にゃあ」
「敵の動きはどうだ?」
「特に無かったにゃん」
「城内では貴族らしき男が鋭い視線を向けていたが」
「貴族への締め付けがキツいから、オレたちを恨んでいる人間は少なくないにゃんね」
「反乱の可能性は?」
「いまのところはないにゃん、特に王宮内の法衣貴族は手持ちの武力が無いから謀反も反乱も無理にゃん」
「地方は野放しか」
「にゃあ、そちらもいまのところは動きは無いにゃん、領内で騒いでる分にはこちらから関知しないにゃん」
「潰すつもりが無いならそれが正解だろう」
「動くとしたら、リアンティス州の領主アナステシアス・アクロイド公爵にゃんね」
「戦闘ゴーレムの関係者か」
「今回の件に公爵自身が絡んでるとは思えないにゃん、でも、関係者に利用されている可能性は高そうにゃんね」
「自分の思想が絶対に正しいと思っている人間ほど利用しやすいものだ」
「にゃあ、わかるにゃん」
前世でそこまでの大物の知り合いはいなかったが、おべっかを使う人間を信用して酷いことになった中小企業の社長とか、まあ、いろいろ見て来た。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 車寄せ
館に到着したところで馬車を降りるところで猫耳に抱っこされた。
「お館様ゲットにゃん!」
そのまま高々と掲げ上げられ別の猫耳にパスされる。
「抱っこ会、今宵も開催にゃん!」
「「「にゃあ!」」」
オレはそのまま連れ去られた。




