再びプリンキピウムにゃん
○帝国暦 二七三〇年〇五月〇二日
○プリンキピウム 西門
午後のまだ早い時間にオレたちを乗せた馬車は無事プリンキピウムの西門に到着した。
「よう、お帰り」
「ただいまにゃん」
実は守備隊の副隊長だったおっちゃんにカードを見せる。
「マコトとデニスとセリアが戻りで、そっちの女の子ふたりが初めてだな、それと妖精さんか」
「そうにゃん」
「あたしはリーリだよ」
「妖精さんに会えるなんて、今日はいいことが有りそうだ」
「女の子ふたりはシャンテルとベリル、ノーラ・ダッドさんのお孫さんよ」
デニスが守備隊のおっちゃんにシャンテルとベリルのことを説明してくれる。
「ああ、ノーラさんから聞いてるぞ、ふたりがジェドの娘なんだな?」
「そうです、ジェド・ダッドが父の名前です」
「そうか、おお、確かにヤツの面影がある」
「副隊長は、ふたりのお父さんの事を知ってるにゃん?」
「ヤツとは子供の頃からの友だちだ」
「本当ですか?」
「ああ、いいヤツだった」
「後でふたりに教えてやって欲しいにゃん」
「おお、任せろ、じゃあふたりは俺が預かるぞ」
「にゃ?」
「ノーラさんからふたりが来たら家に案内するように頼まれてるんだ」
「おばあちゃんにですか?」
「ああ、足が悪いのにここまで来て頼んでったんだ、ちょっと待ってくれ、いま用意する」
「にゃあ、オレたちで送って行くにゃん」
「待てオレも頼まれたんだ、だったら一緒に行くぜ」
「にゃあ、わかったにゃん」
副隊長のおっちゃんは詰め所に駆け戻った。
「良かったにゃんね、シャンテルとベリルのこと、おばあちゃんはちゃんと待っていてくれたにゃん」
「そうですね」
シャンテルは緊張が少し解けた。
○プリンキピウム 市街地 ノーラさんの家
副隊長とデニスたちのナビで冒険者ギルドにほど近い小さな家の前に到着した。
「俺がノーラさんに伝えて来るぜ」
副隊長は身軽に馬車を飛び降りて玄関の扉へと駆けて行った。
シャンテルとベリルも馬車を降りる。
玄関の扉が開いて杖を突いたノーラさんらしき女性が出て来た。
おばあちゃんと言っても五〇前の様だ。加齢と言うより病気で老け込んだのだろう。
シャンテルとベリルも前に出る。
「あなたたちがシャンテルとベリルね」
「はい、おばあちゃん」
「はい」
「いらっしゃい、遠いところ良く来たわね」
「「おばあちゃん!」」
ふたりはノーラさんに駆け寄って抱き着いた。
これでふたりを無事に送り届けるミッションはコンプリートにゃん。
ふたりの荷物と一緒にウシ肉とブタ肉にウルフソルトのセットを袋に入れて渡した。
「また、明日くるにゃん」
オレは三人に手を振って馬車に戻った。
次はデニスとセリアと一緒に冒険者ギルドだ。
「おっちゃんはどうするにゃん?」
「俺は、ここから直帰だ」
「じゃあ、おっちゃんにもこれをやるにゃん」
肉の入った袋を渡す。
「おい、いいのか、こんなにいい肉を貰って?」
「にゃあ、売るほど有るから心配しなくていいにゃん、一緒に入ってる塩をすり込んでから焼くと美味しいにゃん」
「そうか、ありがとうな、うちのガキどもも喜ぶ」
副隊長のおっちゃんを見送ってオレは馬車をギルドに向けて走らせる。
○プリンキピウム 市街地
「お肉いいな」
「いいな」
御者台に一緒に乗ったデニスとセリアにおねだりされる。
「ちゃんとふたりにもやるにゃん」
「どうせならネコちゃんに焼いて欲しいな」
「私たちじゃネコちゃんみたいに上手に焼けないもの」
「確かにマコトみたいには焼けないよね」
リーリが語る。
「にゃあ、だったらギルドの裏庭を使う許可をもらって欲しいにゃん、そうしたら皆んなに焼き肉を振る舞うにゃん」
「おお、それはいい考えだね」
リーリが大きく頷く。
「任せて、必ず許可をもぎ取るから」
「別に無理はしなくていいにゃん」
「大丈夫、誰も反対なんてしないし、させないから」
「にゃあ、それとオレの書類も頼むにゃん」
「書類?」
「盗賊を捕まえた時の討伐証明の書類にゃん」
「ネコちゃん、盗賊も捕まえたの?」
「にゃあ、犯罪奴隷にして売っ払ったので良い稼ぎにゃん」
「ネコちゃんて、もしかしてスゴいお金持ち?」
「凄くはないにゃん」
「ああ、ネコちゃんが私の妹だったら、毎日遊んで暮らせるのに」
デニスがオレの頭を撫でる。
「妹は黙って姿を消すと思う」
セリアがボソっと呟く。
「そうにゃんね」
馬車は冒険者ギルドに到着した。
○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー
「おお、マコト帰って来たか! オパルスのフリーダに引き止められるんじゃないかと心配してたぞ!」
冒険者ギルドのカウンターで、セリアに討伐ポイントをカードに記録しているとギルマスのデリックのおっちゃんが出て来た。
「フリーダならデリック様に悪いからそれはしないって言ってたにゃん」
「ほぉ、意外と義理堅いんだな」
「にゃあ、それに州都に住んだら大した商売にならないにゃん」
「マコトの場合はそうか」
「マコトは強いからね」
リーリがオレの頭の上にすっくと立つ。
「おお、妖精さんか!?」
驚きの声を上げるデリックのおっちゃん。
「あたしはリーリだよ!」
「お、おお、よろしくな!」
「にゃあ、リーリとは州都から戻ってくる途中で仲良くなったにゃん」
「稼ぎまくった上に妖精さんまで連れてるとは恐れ入った」
「まあね」
リーリが威張る。
「しかし、そんなに稼いでるのにまた裏庭を使いたいんだって?」
「ギルマス、今回はただ泊まるんじゃなくてネコちゃんが職員の皆んなにお肉を焼いてくれるんです」
「肉なんて誰が焼いたって一緒だろう?」
「違います! ネコちゃんのは、焼いてくれるお肉が全然違ってます!」
セリアが力説する。
「マコトの料理は世界一なんだよ」
リーリも加勢する。
「おお、妖精さんが保証してくれるのか、そりゃ楽しみだな」
「ウシとブタだから、誰が焼いても美味しいのは本当にゃん」
職員たちがピクッ!と反応した。
「はい、登録終わりました」
「ありがとうにゃん」
「おい、Fランクで盗賊を討伐なんて初めて聞いたぞ」
ギルマスが盗賊の討伐証明の書類を眺める。
「にゃあ、盗賊から来たんだから仕方ないにゃん」
「あっちから来るなら有りか」
「奴らのアジトにはオレから行ったにゃん」
「あまり危ないことはするなよ」
「にゃあ、自分から無理な場所には突っ込んで行くつもりはないから大丈夫にゃん、それとちょっと聞きたいことがあるにゃん」
「聞きたいこと?」
「この辺りで近衛軍の騎士が活動してる場所はあるにゃん?」
「ああ、それならプリンキピウムから北西にある遺跡だ」
「クーストース遺跡群のプリンキピウム遺跡にゃん?」
「おお、それだ」
ベルの予想で正解だった。
「先月からあそこを発掘してるはずだ、結界が張ってあって危ないから絶対に近付くなよ」
「にゃあ、間違って近付きたくないから聞いたにゃん」
犯罪奴隷でいっぱいの発掘現場なんて間違っても入り込みたくない。
関わり合いになるのだって勘弁だ。
○プリンキピウム 冒険者ギルド 買い取りカウンター
買い取りカウンターに行くと担当の枯れた兄ちゃんことザックにそのまま倉庫に連れて行かれた。
「一匹ずつだしてくれ、こっちが捌ききれなくなったらストップをかける」
「わかったにゃん」
州都からの帰り道に狩った獲物を種類別に一匹ずつ出して行く。
「これが全部、街道沿いに出たのか? そりゃヤバいな」
「にゃあ、馬車に乗ってたのが全員子供だったからだと思うにゃん」
「ああ、それはあるかもな、オオカミは頭がいいからな、しかし随分多いな」
「こいつに追われてたみたいにゃん」
ブタを取り出す。
オレの知ってる日本のブタとは面構えが違う般若顔の悪役ヅラだ。
「ああ、ブタな、こいつらオオカミも食うからな」
「オオカミが好物にゃん?」
「いや、こいつら動くものなら馬車にだって食い付くぞ」
「本当に何でも食べるにゃんね」
「ブタは要注意だぞ、オオカミどころかそこいらの人間より頭がいいんだ」
「マジにゃん?」
「一晩で一〇人の冒険者が喰われたことがある。ひとりずつ間引いて夜明けまでに一〇人だ」
「野営してたにゃん?」
「いや、コルムバ支部に近い農村でのことだ」
「それは怖いにゃんね」
「ブタはいい値段が付くから狩れる人間からしたら美味しい獣だけどな」
「食べても美味しいにゃん」
「うん、美味しいよ」
リーリも同意する。
「妖精さんを連れて来たって、マコトのことだったのか」
「にゃあ」
「俺もあやかりたいね」
「にゃあ、ブタは高く売れるにゃん?」
「ああ、貴族様に人気だからいい値段が付く」
「やっぱり貴族はいいものを食べてるにゃんね」
「マコトだって負けてないだろう?」
「オレは自給自足にゃん」
「それはそうだな」
「にゃあ、ところでこれはどうにゃん?」
最後に金狼を出した。
「おおおおお、こいつは高いぞ、一匹で大金貨一枚だ。それで全部で何頭いるんだ?」
「十一頭にゃん」
「状態が良ければ全部で大金貨十二枚で引き取るぞ」
「にゃあ、いいにゃんよ」
残り一〇頭を出した。
「おお、こいつはいいぞ!」
今回は問題なく全部買い取ってくれた。売上は大金貨十六枚とちょっとだった。
金狼とブタが高かった。金銭感覚がおかしくなりそうだぞ。
○プリンキピウム 冒険者ギルド 裏庭
買い取りの後はギルドの裏庭で焼き肉パーティーの準備をする。
セーラー服にエプロンを着けたオレは魔導具の大きな鉄板を作る。
焼くのは肉各種、それに野菜に焼きそばにゃん。
肉は格納空間で秘伝のタレに漬け込んである。秘伝は精霊情報体にあった秘伝だ。
それと塩をすり込んだのも用意してある。オレに抜かりはない。
テーブルにはサラダにパンにドリンク各種。
酒はないにゃん。
まさか職場で飲酒はマズいだろう。
「漬物も欲しいにゃんね」
準備を進めつつオレはキャリーとベルに念話を送った。
『もしもし、オレにゃん、いま大丈夫にゃん』
『マコト? 大丈夫だよ』
『いま、テントに入ったところなのです』
『オレは無事プリンキピウムに到着したにゃん』
『そうか、良かった安心したよ』
『マコトをどうこうできるヤツはいないのです』
『にゃはは、そうにゃんね、キャリーとベルはどうにゃん?』
『こっちもあとちょっとで王都に到着するよ』
『ゆっくり走っても十分早く着くのです』
『それはいいことにゃん』
改めて州都から別れてからのことを情報交換する。
『私たちが何事も無く進んでる間にマコトは冒険しまくりだったんだ』
『にゃあ、トラブルが寄って来るから仕方ないにゃん』
『マコトはそういう星の下に生まれたので仕方ないのです』
『にゃあ』
ふたりが王都に到着したら連絡してもらう約束をして念話を終えた。
ちょうどギルドの就業時間が終わったところでぞろぞろと職員が出て来る。
「マコト、早く焼いて!」
リーリが急かす。
「にゃあ、わかったにゃん、直ぐに焼き始めるにゃん、皆んなも飲み物は勝手に飲んで欲しいにゃん」
ジューっと肉を焼いていく。
おいしそうな匂いが漂う。
「ネコちゃん、まだ?」
「まだか?」
「焦らすなよ」
職員たちも鉄板の周りに集まる。
「焦らなくても直ぐに焼けるにゃん、皿とフォークを持つにゃんよ」
肉をひっくり返す。
「食べていいにゃんよ」
皆んなが一斉に肉に挑みかかる。
「これはあたしのお肉だから取っちゃダメだからね」
リーリが鉄板の一角を占領する。
畳一畳分×二枚の鉄板が直ぐに綺麗になった。
追加の肉を手早く置く。
「焼けたと思ったら食べていいにゃん、空いたところには適当に肉を置いて欲しいにゃん」
「おお、肉なら任せておけ」
ギルマスが手を挙げた。鉄板奉行だったらしい。
「ところで酒はないのか?」
「にゃあ、ギルド内で飲酒していいにゃん?」
「仕事は終わってるし建物の中じゃなければ問題ない」
ギルマスがOKを出す。何ともアバウト。
「ビールでいいにゃん?」
こっちの世界にもちゃんとビールがある。
「おお、いいぞ」
ビールサーバーを出す。
自分では飲めないが、こんなこともあろうかと密かに開発した。
嘘にゃん、自分で飲もうとしたのだがこの身体では苦くて飲めなかったのだ。
「プレミアムビールにゃん」
ジョッキにビールをついで出してやる。
「おお、器も凝ってるな」
ガラスのジョッキを珍しそうに見る。
そういえばガラスの食器は見たことがなかった。
割れやすいから飲食店で使ってないだけかも。ちなみにこのジョッキは落としても壊れないにゃんよ。
「おいマコト! このビール、ヤバいな、美味すぎだぞ!」
ギルマスの声に周囲の注目が集まる。
「当然にゃん、オレ特製のプレミアムビールにゃん」
「ネコちゃん、ビールも作れるの?」
セリアが興味津々でビールサーバーを眺める。
「ちょっとした嗜みにゃん」
レシピは精霊情報体からそのまんまだけどな。
美味しく出来たのにオレが飲めないのがアレだが。
「何で冒険者をやってるのか不思議ね」
「冒険者のカードが必要だったからにゃん」
「マコト、オレにもくれ!」
買い取り担当のザックがオレの前に来る。
「ネコちゃん、私にもビールをお願い」
デニスがザックの後ろに並ぶ。
「飲み過ぎ注意にゃんよ」
「「「大丈夫!」」」
一斉に返事が帰って来た。
オレが開催した冒険者ギルドの肉祭りは夜中まで続いた。
酔っ払った女子職員はロッジに泊めてやる。
男どもは帰れる者は帰らせ、ただ酒と思って前後不覚になるまで飲んだヤツは即席で作った空間拡張なしの大型のテントに突っ込んだ。
過度なアルコールは消したので、いまは気持ち良さそうに寝てる。
「お風呂、気持よかったです」
「はい、疲れまで取れちゃいました」
「でしょう? ネコちゃんのお風呂はスゴいのよ、各種ヒーリングの魔法が重ね掛けされてるんだから、貴族様でも持ってないわね」
セリアがギルドの見習い女子職員たちに大きなおっぱいを揺らして解説する。
「ベッドルームを増やしたから好きなところで寝ていいにゃん」
女子職員たちは全員がスエットを着てる。
「このパジャマも貰っちゃっていいの?」
見習い職員の一人に聞かれる、日本だったら高校生ぐらいの年齢だ。
「いいにゃんよ、どうせオレには大きすぎて着れないにゃん」
「着心地がいいからうれしい」
「うん、ありがとうね、ネコちゃん」
他の見習いの娘たちにも好評だ。抱っこされたり撫でられたり。
「にゃあ、もう遅いから寝た方がいいにゃんよ、明日も仕事にゃん?」
「ああ、そうだった非番じゃなかったんだ」
「やった私、明日非番だ!」
「良かったにゃんね、でも、起きる時間は皆んなと一緒にゃん」
「あぅ、せっかく寝心地の良さそうなベッドなのに」
「だったら、早くベッドに入って寝るといいにゃん」
「うん、そうする」
「オレも寝るにゃん」
「あたしはマコトのおなかで寝る」
リーリはオレのおなかにピタッと張り付いた。




