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荒れ地でスコーンにゃん

「風が鬱陶しいにゃんね」

 またしてもホワイトアウトだ。オレたちは見通せるからいいが、いくら魔法馬の防御結界に守られているとは言えマリナは馬車の中で心配顔だ。ボックス型じゃないしな。

 生死に直結する風雪の中にあっては怯えるのが普通の反応か。

「壊れた刻印は、止めても問題無さそうにゃんね」

 ぶっ壊れた刻印の位置は、探査魔法を打つまでもなく既に把握している。街道から北側に二キロほど入った位置に強い反応があった。要は精霊魔法の発生点なわけだ。刻印を完全停止したときの影響をシミュレーションしたが人間にとって大きな問題は無さそうだ。

 猫耳たちにも位置を共有する。

「「「にゃあ! お館様、刻印はウチらが止めるにゃん!」」」

 並走する猫耳たちが刻印に時間停止の魔法を打ち込んだ。


 風雪は直ぐに消え去った。


 上空の垂れ込んだ厚い雪雲も溶けるように消え去り陽の光が降り注ぐ。本来の気候がこれだ。十一月でもそれほど寒くない。むしろ暖かいぐらいだ。


「急に晴れましたね」

 マリナがほっとした表情を浮かべる。

「そのようですね」

 ベルダも空を見上げて頷く。

「風が消えて防御結界が無くても大丈夫そうにゃん」

 馬車のふたりに声を掛けた。


『お館様、精霊魔法の刻印は、ウチらが修復と調査をするにゃん』

 このオーリィ州にいる猫耳から念話が入った。

『にゃあ、任せるにゃん、使えそうなら再起動、使えないならそのまま撤去で頼むにゃん』

『了解にゃん』

『『『にゃあ!』』』


 精霊魔法の刻印は、オーリィ州に詰めている猫耳たちに任せ、オレたちは街道をパカポコとまったり進む。

 さっきまでの魔法馬が吹き飛びそうなほど強く瞬く間に凍死させられそうな風は何だったってくらい穏やかになり、やわらかな日差しが心地よい。

「眠くなるにゃん」

 眠気を誘うほど気持ちいい。魔法馬の首に抱き着く。

「マコト、周囲に敵がいないとは言え油断し過ぎだ、何処に何があるかわからないのは、私の時代と変わってないのではないか?」

 カホに注意される。

 流石に戦乱の世を生き抜いたカホはどんな時も油断しない。

「にゃあ、そうにゃんね」

 自分にウオッシュの魔法を掛けて眠気を洗い流す。カホの言う通り何が埋まってるのかわからないのがこの世界だ。

「しゃきっとしたけど、そろそろ休憩の時間にゃん」

「そうそう、休憩と美味しいおやつは必須だよ」

 オレの頭の上にリーリが戻って来た。

「確かに、休憩は重要だ」

 カホも同意した。

「ふむ」

 天使様も深く頷いた。



 ○オーリィ州 太古の道 街道脇


 魔法馬を停めて道路脇の岩がゴロゴロの荒れ地を整地する。

「ロッジは必要ない感じにゃんね」

 テーブルと椅子をセッティングした。赤茶けた殺風景な大地に白いテーブルと椅子が映える。

「今日はスコーンにお茶という気分にゃん」

「あたしもその気分だよ」

 リーリも同意した。

「スコーンとは懐かしいな、こっちでは食べたことが無かったが、マコトは何でも作れるのだな」

「にゃあ、オレのはコピーにゃん」

「美味しければ問題ないよ」

「ミンクもなの!」

 ミンクもオレの頭に乗って飛び跳ねる。

「スコーンですか?」

 マリナが首を傾げる。

「にゃあ、硬めでずっしりめのパンみたいなものにゃん」

「パンなんですね」

「堅焼きパンみたいなものですか?」

 ベルダも首を傾げた。この国にあるパンは押し並べて硬いけどな!

「あそこまでは硬くないにゃんよ」

 マリナとベルダにスコーンを大雑把に説明したがいまいち伝わらなかった。こっちには無い食べ物かな。

「食べてみればわかるにゃん」

「そうですね」

 おやつの内容を勝手に決めてしまったが、特に問題は無い様だ。知らない食べ物じゃ好き嫌いの判断も付かないか。

 テーブルのセッテングは猫耳がやってくれているので、オレはポンポンとスコーンを再生する。

 スコーンは一〇年ほど前に何故かハマったことがあって、いろいろ食べたが、やっぱり最後はプレーンに落ち着いた。

「紅茶にクリームで完璧にゃん」

「完璧だね」

 リーリも同意する。本当にわかっているかどうかは不明だが。

 ああでもお子様には紅茶よりもジュースだろうか?

「ジュースもあるにゃん」

 オレンジみたいなジュースをマリナと妖精たちと天使アルマの前に置く。妖精たちと天使様も甘いものを好む。

「オレもジュースの方がいいみたいにゃん」

 紅茶は美味しいが、ジュースは更にその上を行った。やはり六歳児は六歳児の舌か。

「とても美味しいです」

 マリナは美味しそうに紅茶を飲んでいる。五歳児のくせにやるにゃんね。オレよりちょっと大きいだけはあるにゃん。

「紅茶はともかくスコーンは美味しいにゃん」

「ああ、最高だ」

 カホがスコーンを食べながら静かに泣いていた。

「カホはあっちの食べ物を口にすると泣く習性があるにゃんね」

「仕方ないだろう、いろいろと思い出してしまったんだ、元の家族や友人たちのこととか」

「にゃあ、いまは遠い場所にいる人たちにゃんね、二度と会えないのが残念にゃん」

「恋人や子供がいなかっただけ、私はまだマシなのかもしれない」

「オレも同じにゃん」

「お互い気ままな独り者か」

「ラーメンでは、思い出さなかったにゃんね」

「あれはラーメンが衝撃だったからな」

「マコト、ラーメン食べたい」

 妖精がおねだりする。

「にゃあ、わかったにゃん、お昼はラーメンにゃんね」

「悪くない」

「ミンクは味噌バターを所望なの!」

 天使様とミンクもラーメン希望だった。

「にゃあ、承ったにゃん」

「ラーメンですか?」

 マリナはまた首を傾げる。

「にゃあ、オレの故郷の食べ物にゃん、食べ慣れない人には美味しいかどうかわからないにゃん」

 こっちのダイエット食みたいな料理に比べると味が濃いからね。

「マリナも試してみるといいにゃん」

「はい」

 可愛い笑みを浮かべる。

 五歳児にしては、随分としっかりしているお嬢さんだ。ビッキーとチャスもしっかりしていたが方向性が違う。貴族のお嬢さんと奴隷として躾けられていたふたりだから違うのは当然か。

「ビッキーとチャスはどうにゃん?」

「紅茶が美味しいです」

「ジュースよりも合う気がします」

「にゃあ、ビッキーとチャスも紅茶がわかるお年頃になったにゃんね」

 オレとしては、ちょっと寂しい。

「お館様、ウチらはジュースにゃん」

「甘いミルクティーなら有りにゃん」

「にゃあ、甘さは正義にゃん」

 ミルクティーを飲む猫耳たち。

「その意見には全面的に賛成だよ!」

 リーリが同意した。

「ミンクもミルクティーが欲しいの」

「「「にゃあ、承ったにゃん」」」

 猫耳たちが妖精と天使様を始め全員にミルクティーを配る。

「マダラウシの濃厚ミルクにゃん」

「お砂糖も上物にゃん」

「にゃあ、最近発見したサトウキビから作ったにゃん」

 フィーニエンス南方の魔獣の森で自生してるのを発見したので、猫耳たちが栽培を始めていた。農業にも力を入れている猫耳たちだった。

「ミルクティーも美味しい、これ、私があっちで飲んだのより美味しいぞ」

 カホも満足したようだ。

「にゃあ、二五〇〇年前は飲め無かったにゃん?」

 皇帝の姉なら多少は贅沢が出来そうだが。

「まず、紅茶が無かった」

「にゃ、マジにゃん?」

「当時のお茶は、抹茶みたいな粉末をお湯に溶いたもので、正直好んで飲みたくなる味では無かった」

「でも、飲んでたにゃんね」

「魔力を復活させる効果があるから我慢して飲んでいた」

「にゃ!? 魔力を回復させるお茶なんてあったにゃん?」

「もしかして、いまは無いのか?」

「にゃあ、お茶で魔力を回復とか聞いた事がないにゃん、まるでポーションにゃんね」

「ポーションはゲロマズだろ、お茶の代わりにはならないぞ」

「ちょっと待つにゃん、当時はポーションもあったにゃん?」

「ああ、普通に作って飲んでいたが、もしかしていまは無いのか?」

「にゃあ、いまはお館様が森の小人から授かった霊薬を元に作った回復薬があるにゃん、いかんせん作れるのは、ウチらだけにゃん」

 猫耳たちが説明する。森の小人謹製ポーションは猫耳たちが量産して確か幾つかの商会と冒険者ギルドを通して販売していたはずだ。

 かつてはあったポーションも薬師ギルドの消滅と共にその製法も失われたのだろう。

「森の小人? マコトは私と違ってファンタジーの世界に生きてるな」

 何故か遠い目をするカホ。

 かつての血と泥にまみれた生活を思い出したのだろう。あの頃に比べれば現代はそれなりに平和と言える。

 ただ同時に停滞してるけどな。

「にゃあ、それでポーションはやっぱり薬草を煮詰めて魔力を注いで作るにゃん?」

 戦の記憶よりポーションの製法だ。

「概ね合っている、撹拌と熱と魔力の加減で品質が大きく左右される、その辺りはファンタジーのお約束のままだ」

「にゃあ、カホはポーションの具体的な製法を知ってるにゃん?」

「本職では無いが必要に駆られて度々作成した、ただ私のやり方は魔力を大量に注ぎ込んで強引に効果を持ち上げたモノだから、他の連中には作れない代物だぞ」

「魔力で誤魔化す手法は嫌いじゃないにゃん」

「いや、誤魔化しではなくブーストと言って貰いたいな」

 屁理屈をこねるカホ。

「ブーストも嫌いじゃないにゃん、だから製法をオレに教えるにゃん」

「まあ、いいだろう、マコトたちなら魔力も問題あるまい」

 カホはオレを正面から抱き上げると額と額をくっつけた。

「こうすれば良いのであろう?」

「ついでにポーションの作り方を思い浮かべてくれると完璧にゃん……にゃお、蛇の解剖は違うにゃんよ……そうにゃん、それでいいにゃん」

 カホからポーションの制作方法を伝授された。

 そのまま猫耳たちと共有する。

「にゃ?」

 何故か猫耳たちは、オレを抱っこすると順番に額をくっつける。

「にゃあ、既に情報は渡したにゃんよ」

「「「問題ないにゃん」」」

 確かに問題は無いが。


『お館様、精霊魔法の刻印の修理が終わったにゃん』

『にゃあ、お疲れにゃん、早かったにゃんね』

 オーリィ州の拠点からドラゴンゴーレムで駆けつけた猫耳たちが刻印を直ぐに修理してくれた。

『この荒れ地一帯はぶどう畑だったにゃんね』

 修理された刻印を読み取った結果、緻密に維持監理するぶどう畑向けの内容だった。

『にゃあ、ぶどう畑を再生するのも良さそうにゃんね、ついでにちゃんとしたワイン造りを始めるのも面白そうにゃん』

 オレと猫耳たちは飲めないけどな。ぶどうジュースも悪くない。

『にゃあ、精霊魔法の刻印を起動させるにゃん』

『オレも荒れ地にぶどう畑を復元するにゃん』


 刻印の起動と同時にぶどう畑を再生する。

 ワインの醸造用ではあるが生食でもイケるマルチな品種を選択した。当然、他の品種より手間も魔力も掛かるがオレたちには誤差の範囲だ。


 そよ風に葉が揺れ、ぶどうの甘い匂いが漂う。

「これはいったい!?」

 ベルダが周囲を見回し驚きの声を上げた。

 そりゃ荒れ地が一瞬でぶどう畑に変わったら誰でも驚くに決まっている。

「これは見事なものだな」

 カホは全く驚かないか。

「にゃあ、豊穣の大地を人工的に作り出す刻印はなかなかのモノにゃん、ぶどう畑の再生も簡単だったにゃん」

「マコトたちにはそうだろうな」

 カホが頷く。

「ぶどう、食べてもいい?」

 腹ペコ妖精のリーリがおねだりする。

「にゃあ、いいにゃんよ、皮ごと食べられるにゃん、ミンクも天使様もどうぞにゃん、皆も食べていいにゃんよ、もぎたては最高にゃん」

 皆にもぶどうを勧めた。

 おやつの後なのでマリナとビッキーとチャスは味見程度だったが、他の面々はしっかり味わった。



 ○オーリィ州 太古の道


 またのどかな晩秋の陽を浴びてオレたちは、道の両側が一面ぶどう畑の中を進む。


 途中でお昼の休憩でラーメンを振る舞い、旅を再開する。

 ラーメンは、マリナとベルダにも好評だった。

 ぶどう畑では猫耳ゴーレムたちが収穫にあたる。小麦のようにもっと魔法を使えば、短期での収穫が繰り返し可能なのが地球の農業との最大の違いだ。

 畑というより工場だが、フル回転させるほどの逼迫した需要はないから、のんびり進めればいいだろう。十分に早く収穫できるんだし。

「カホはお酒は飲めるにゃん?」

「ああ、人並みには飲める、何があるかわからないから酔いはしないが」

「生粋の武人にゃんね」

「敵の隙を突くのは、奇襲の基本中の基本だからな」

「にゃあ、お酒ならオレの手持ちが結構あるにゃん、晩酌に提供するにゃん」

「マコトのところなら冷えたビールとかありそうだな」

「あるにゃんよ」

「それなら風呂上がりに頼むとしよう、ふふ、いまから楽しみだ」

「冷えたビールというのはいいものなのか?」

 天使様が興味を示した。

「にゃあ、天使様がお酒が飲めるなら試してみるのも悪くない代物にゃん」

「人間の飲めるものなら問題はない」

「だったら、天使様にも用意するにゃん」

「お酒か、あたしは好きじゃないな」

「ミンクも駄目なの」

 天使様はイケるが、ふたりの妖精は駄目っぽい。



 ○オーリィ州 太古の道 街道脇 ロッジ


 夕方になってエクウス州の境界門の近くに到達したが、猫耳たちが準備があるとかでそこが今日のキャンプ地となった。

 予定以上に早く進んだから良しとするか。

 新しいお馬さんのお礼に天使アルマに手料理を振る舞う。デザートは最近食べたくなって再現したティラミスだ。


 そしてお風呂の後にカホと天使様とそれとベルダにも冷えたビールを用意した。お子様たちには冷えたジュースだ。

 妖精たちはソフトクリームも欲しがった。機械を出してやったので好きなだけ食べるといいにゃん。


 さて、夜中は久々に地下に籠もって天使様のお馬さんを量産する。

 作成時に魔力をバカ食いする仕様は、完全な素のエーテルから作り上げることが原因らしく、あらかじめ材料を用意しておけば、かなり魔力を節約できることがわかった。

 でも、まだオレじゃないと作れないレベルにゃん。

 せっせと作って猫耳たちが待ち構えてる研究拠点に送る。魔力を準備すれば猫耳にも複製は可能だ。

 残りは格納空間に入れておけば、猫耳たちが適当に引っ張り出して乗り回すだろうし、オレが気付かなかった新しい活用法を見出すかも知れない。


 いまや王国の経済を実質的に回しているのは、猫耳たちといっても過言では無い。


 この国の表も裏も知り尽くした者が猫耳の元になってるから、チートな大量生産と流通が、この国の経済を破綻させること無く浸透している。王国の滅亡へのカウントダウンは一応、止められたと思う。


 最後にユニコーンを作る。空を駆けるユニコーンだ。

「にゃあ、かっこよすぎにゃん」

 角を生やした優美な白馬を眺め一人悦に入る。

 ということで、ユニコーンに乗って夜空に駆け出した。

 ペガサスは羽根が邪魔くさいし、ドラゴンゴーレムで間に合う。この空中を駆ける独特の感覚は天使様の魔法馬だけのものだ。

「空を駆けるとか、ドラゴンゴーレムとはまた違った楽しさがあるにゃん」

「そうだね」

 いつの間にかリーリがオレの頭に乗っていた。

「やっぱりマコトの頭の上が落ち着くね」

「そうにゃん?」

「カホには猫耳は無いからね」

「その違いは大きいにゃんね」


 冬の夜空を思い切り駆け回った。



 ○王都タリス 城壁内 タリス城 国王執務室


「マコトが帝国の初代皇帝の姉上を連れていると聞いたが、本当なのか?」

 ハリエットが猫耳のエマに尋ねる。

 元が王国の宰相だったニエマイア・マクアルパインだったエマは、マコトの名代として王都の政務に携わっていた。無論、ハリエットはエマの正体を知らない。

 本来の宰相が空席のままなのでその穴埋めだ。

「にゃあ、間違いないにゃん、お館様はオリエーンス帝国の初代皇帝の姉上ジャンヌ・アナトリア様を連れて王都に向かってるにゃん」

「マコトは、王族を拾う特技があるらしいな」

 ハリエット自身もマコトに森で拾われた口だ。

「ジャンヌ様はヌーラに埋まっていたらしいにゃん」

 カホの埋まっていた遺跡を実際に発見したのは、元第二王子の中身のミマと元不肖の息子セザール・マクアルパインだったセリの遺跡バカコンビだが、それを話すとややこしいことになるので、エマは黙っておく。

「情報によるとジャンヌ様は、陛下と瓜二つらしいにゃん」

「私と?」

「にゃあ、皇帝の血は二五〇〇年が過ぎても脈々と受け継がれている証拠だとお館様が仰っていたにゃん」

「新しい血が入らなかった証拠でもあるのではないか」

「それだけ陛下のご先祖は上手くやってたってことにゃん」

「かなり危ういバランスだったのは間違いないが、上手くやれていたとは言い難い、現に倒れる一歩手前だった」

「確かにお館様がいなかったら危なかったにゃん」

「多くの犠牲を払ったが、この国を改革するには好機だったとも言える」

「歴代の国王の中でも陛下の力は突出しているにゃん、しかも王宮内のしがらみが無いのも大きいにゃんね」

 王国軍でもやった大規模な監査を王宮でも実施しており、多数の逮捕者が出て、いまは猫耳として働いている。


 お館様と一緒にいる楽しさを知ってしまったら、富も権力も無味乾燥なものに見えてしまう。それが猫耳たちの共通した思いだ。

 実際、お館様の与えてくれるものは知識から物資まで度肝を抜くものばかりで、元の人生でいくら足掻いたところで絶対に手に入れられないものだ。

 エマの場合、前世のニエマイア・マクアルパインの不甲斐ない最期の後始末までして貰っていた。

「父上は、この国をもっと豊かに出来ないかと考えていらっしゃったが、まさか私が後を継ぐことになるとは思いもしなかった」

「陛下は上手くやってるにゃん」

「そうなのだとしたら、やはりマコトとそなたたちのおかげだ」

「お館様は、陛下だから協力したにゃん、他の人間ではこうは上手く回らなかったはずにゃん」

「人が滅びはしなかったろうが、王国は滅んだだろうな、いまとなっては私を誘拐してプリンキピウムの森に捨てた者たちに感謝だ」

 ハリエットは、皮肉な笑みを浮かべる。

「それもまた運命にゃん、王国の民の大部分は陛下を歓迎してるにゃん、不満があるのは金が入らなくなった貴族ぐらいにゃん」

「致し方あるまい、王国は正規の報酬以外支払うつもりはない」

 組織的横領が暴かれて追徴金を課された貴族から不動産を中心に問答無用で取り立てている。王国軍が強制執行役なので小競り合いも何のそのだ。お館様に調教される前から徴発だけはいっちょまえだっただけはある。

「にゃあ、不満分子の間で、きな臭い動きがあるにゃん」

「その方らが、そう仕向けてるのではないか?」

「にゃあ、危険なヤツらはまとめて片付けるのがいいにゃん、それに大義名分が欲しいにゃんね」

「フィーニエンスの再現だな」

「攻め込んで来たところで返り討ちにするつもりが、勝手に全滅しそうになったので慌てて助けに行ったにゃん、思い通りには進まないにゃん」

「手間の掛かるヤツらだな」

「にゃあ、いまも掘り出した飛行戦艦で、国を動かす階級がゴソっと減ったせいで、お館様が面倒を見ている状態にゃん」

 猫耳たちと進駐軍ともいえる境界軍が復興を担ってる。

「マコトの領地でいいのではないか? その方が王国も安心できる」

「にゃあ、帝国復興の呪縛から解かれたフィーニエンスに危険は無いにゃん、危ないヤツらも自滅したにゃん」

 まとめて猫耳になっている。

「それにお館様が欲しいのは、誰も住んでない土地にゃん、例えばフィーニエンスよりも西南大陸にゃんね」

「それは凄いな、マコトが森を好むのは知っていたが、魔獣の森でも構わないのか?」

「にゃあ、お館様は冒険が好きにゃん、今回の王都の旅も魔法馬で冒険したかったからみたいにゃん、早速トラブルに巻き込まれるのもお館様らしいにゃん」

「トラブル?」

「呪術ギルドを発見したにゃん、いま片っ端からとっ捕まえてるにゃん、近日中の壊滅を目指すにゃん」

「呪術ギルドか、本当にそんなものがあったのだな」

「にゃあ、これまでは宮廷魔導師崩れが犯罪ギルドに匿われていた例は見られたにゃん、それが全国規模の組織があったとは全くわからなかったにゃん」

「それをマコトが容易く見つけたと?」

「お館様が何か持ってるのは間違いないにゃん」

「だろうな」


 エマが、前世で頭を悩ませた食料・経済・魔獣そのいずれもをお館様はいとも簡単に解決してしまった。

 いまは王国を中央集権国家に改革する準備に入っている。これまたお館様の知識の中にあった国家形態だ。

 陛下の父君が最終的に目指していたものに近いが、お館様の知識のほうがより緻密だ。夢想と現実ほど違う。

 ハリエットの父クリフォード・ベッドフォード公爵は、聡明な方ではあったが、お世辞にも人使いが上手いとは言えなかった。王国軍の改革の断行も貴族派を喜ばせただけで、国の財力と治安を大きく毀損した。

 いくら上層部がまともでも組織の構造に欠陥があったからだ。しかしクリフォード様にはそれが見えていなかった。

 貴族派からすれば有り難い存在だったが、何者かに暗殺された。ケイジ・カーターかと思われたが動機が薄い。むしろ今回、お館様が摘発のきっかけを作った呪術ギルドが絡んでいる可能性が高い。

 依頼主は法衣貴族あたりか?

 その中でもエマが候補に挙げたのは、護国派と呼ばれる一派だ。

 王国のためなら命を懸ける連中だが、手段が斜め上を行く。自分たちが基準だから始末が悪い。しかも彼らが信奉するのは王国であって国王ではない。

 いまのところ表立ってお館様と対立してはいないが、心良くも思ってはいまい。武力でも魔力でも経済力でさえ太刀打ちできないことは承知しているようだが、いつまでもおとなしくしている連中とも思えない。

 法衣貴族として有能な連中が多く猫耳たちにも尻尾を掴ませない用心深さがある。大公国のバカ貴族みたいなヤツらだったらさっさと始末するのだが、いまは様子見の段階だ。


 ただし、お館様にちょっかいを出す素振りでも見せれば、全猫耳が遠慮なしの攻撃を加える。それは間違いない。


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