帝都エクシトマを再生にゃん
○帝国暦 二七三〇年十一月〇七日
○エクシトマ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
早朝、夜明けの時刻にゆっくりと進んでいた戦艦型ゴーレムは、予定通りカホの指定した帝都エクシトマが在った場所の上空に到着した。
「本当にここに在るのか不安になるぐらいただの魔獣の森にゃんね」
モニターには地平線まで樹海が続いている。
魔獣の森ではあるが、魔獣はすべて狩り尽くされていた。マナの濃度も人間が住めるぐらいには低下している。
「過去に在ったと言うべきだろうな」
「にゃあ、確かに古代の道が幾つも走ってるにゃんね」
カホが指定した場所と合致している。
「ああ、上から見るのは初めてだが、私もここで間違いないと思う」
カホが艦橋の窓に駆け寄った。
「ここまで綺麗に無くなるものにゃんね」
「どうやら消滅の刻印を使った様だ」
「消滅の刻印にゃん?」
「「……っ!」」
ミマとセリがピクっとする。
「そこのところを詳しく」
「教えて欲しいにゃん」
ミマとセリがカホに迫る。
「有事の際に街を一時的に消し去ることが出来る刻印だ」
「にゃあ、そりゃ剛毅な仕組みにゃんね、自爆するにゃん?」
「自爆では無い、消滅だ」
「何が違うにゃん?」
「可逆性の分解の刻印だ、手順を踏めば元に戻せる」
「それは凄いにゃんね、カンケルの魔の森みたいにゃん」
「マコトは、カンケルの魔の森を知ってるのか?」
復活して以来、良く見せる驚きの表情を浮かべた。
「にゃあ、知ってるにゃん、都市を永久魔法の魔法式に変換するとか半端ないにゃん」
二五〇〇年が経過しても基本的に同じ文明だからなのか土地の名前は変わって無い様だった。
「それは話が早い、エクシトマの消滅の刻印は、カンケルの永久魔法をパクったものだから基本は同じだ」
「すると再生には魔力バカ食いにゃんね」
「そこまでわかってるのか? 確かに再生は現実的ではない、消滅に意味がある刻印だから再生についてはほとんど考慮していないし、省力化は検討したが私には無理だった」
「にゃあ、カンケルの永久魔法をパクれるだけでも凄いにゃん、でも魔の森みたいな防御機能は無いにゃんね」
魔の森みたいな魔獣を喰い殺す仕掛けが有ったらオレたちだけでも場所を特定できたはずだ。
「ああ、もしかして魔の森の魔獣のことか?」
「にゃあ」
「アレが防御機能だったのか? 本物の魔獣だと思っていた」
「近付かないとわからないから仕方ないにゃんね」
「例え防御機能だったとわかったとしても、真似をするのは無理だ」
再生とは別系統の魔法だからそれを作るだけでも大変だ。
「にゃあ、帝都の再生は魔力をぶっ込むだけでいいにゃん?」
「基本はカンケルと同じだ、再生には非現実的な量の魔力を必要とする」
「にゃあ、カホだったら再生出来るにゃん?」
カホは首を横に振る。
「消滅の刻印を刻んだのは私だが、再生は魔力量的に無理だ、気まぐれな天使が降臨でもしなければ不可能だろう」
「にゃあ、天使ミサにゃんね」
「そう、天使ミサだ」
「今回は、エクシトマを再生しないと会えないから魔力を借りるのは無理にゃんね」
「エクシトマの城で待ち合わせだったな」
「にゃあ、正確には天使ミサからの呼び出しにゃん」
「魔獣の森に沈んだ消滅都市で待ち合わせとは、天使ミサらしい」
「そういうキャラにゃん?」
「知らない場所にはあまり来ないと言っていた」
「それでエクシトマだったにゃんね」
「だろうな」
「そんなわけでオレはエクシトマを再生する必要があるにゃん」
「再生? 出来るのか」
「出来るにゃん」
「じゃあ、直ぐに再生だ!」
「にゃあ!」
ミマとセリがオレの手を引き、いつものようにFBIに捕まった宇宙人状態で連れて行かれた。
○エクシトマ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 甲板
カホも連れて戦艦型ゴーレムの甲板に出た。
「地上に降りるのにこれを使うのか?」
オレが再生したモノに目を見張る。
「にゃあ、そうにゃん、ドラゴンゴーレムにゃん」
カホは恐る恐るドラゴンゴーレムに触れる。
「そうか、これはゴーレムだったのか」
「ドラゴンゴーレムを知ってるにゃん?」
「ああ、一度見た事がある、一体のドラゴンに二〇人の騎士が瞬殺されていた」
「にゃあ、ドラゴンゴーレムを相手に逃げなかったにゃんね」
「襲い掛かって返り討ちだった」
「オレが見つけた個体と同一かはわからないけど、野良のドラゴンゴーレムは近付いたら危険にゃんよ」
「無論わかる、私と仲間は一目散に逃げた」
「にゃあ、それが正解にゃん、野良のドラゴンゴーレムに頭上を飛ばれたらペシャンコになるにゃん」
「こいつは大丈夫なのか?」
「改良に改良を重ねてあるから大丈夫にゃん、最後には天使様が改修したにゃん」
『ニャア』
猫耳装着のピンク色のドラゴンゴーレムがオレに頭を擦り付ける。オレの方がずっと小さいので身体を洗うスポンジになった気分だ。
「天使様が改修とか、凄すぎる代物だな」
「マコトのしでかすことに驚いていたら身が持ちませんよ、カホ様」
苦笑いを浮かべながら失礼なことを言うミマ。
「私に敬語は不要だぞミマ、そなたの方が年上ではないか」
「えっ、何を……」
「何か?」
カホの目が鋭くなった。
「あ、そ、そうだな」
コクコクと頷くミマ。
魔力の強い者は総じて老いるのが遅い。特にカホは転生者だ。それ以上考えるとカホがオレにも怖い視線を向けそうなので中断した。
「刻印はこの下の五叉路にある」
「にゃあ、だったらそこに降りるにゃん」
オレはドラゴンゴーレムの頭に飛び乗った。カホは背中によじ登る。ミマはセリのドラゴンゴーレムに乗った。
更に研究拠点所属の猫耳が五人付いて来る。
「行くにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
戦艦型ゴーレムの甲板を離陸する七体のドラゴンゴーレム。地上に降りるだけなので直ぐだ。
○エクシトマ州 帝都エクシトマ跡 再生ポイント
カホが指定した五叉路の真ん中にドラゴンゴーレムを着陸させて格納した。既に木々は伐採され赤茶けた大地が拡がっている。
「にゃあ、ほんとうに綺麗サッパリ分解されてたにゃんね」
人工物は、帝都エクシトマの造営前から在った太古の道だけだ。以前からあったモノは分解の対象から外れるらしい。
「消滅は上手く行った様だが、刻印がちゃんと残っているか心配だ」
「にゃあ、カホの刻印は永久魔法みたいなものにゃん、だから二五〇〇年程度なら劣化しないにゃんよ」
「実感が湧かないが」
「直ぐにわかるにゃんよ」
「確認してみる」
頷いたカホは腰を落として五叉路の中心に手を置いた。そして魔力を流す。カホの魔力が刻印を起こす鍵になってるらしい。
「にゃあ、ちゃんとあるみたいにゃんね」
地中から波動を感じた。紛れもなくカホの刻印だ。迷宮でたっぷりお世話になったから直ぐに識別出来た。
「ああ、壊れること無く残っていたようだ、ちゃんと発動させる辺り私の兄弟の子孫もしっかり務めを果たしたらしい」
直径一メートルほどの光る刻印が路面からオレの頭の高さぐらいまで浮き上がる。
消滅の刻印が発動したのが一〇〇〇年前の魔獣の大発生時だったのなら、カホが刻印を作ってから一五〇〇年後の子孫が発動させたことになる。なかなか律儀な一族だ。
「魔法陣じゃないのか?」
ミマが近付いて刻印を眺める。
「にゃあ、これはちっちゃいけどちゃんとした空中刻印にゃん」
研究拠点の猫耳のひとりが鑑定する。
「カホは空中刻印も作れるにゃんね」
「カンケルの魔法をパクるならなるべく近づけようとして使ったわけだ、永久魔法は無理だからな、雰囲気は似てるだろう?」
「にゃあ、意外と凝り性にゃんね」
「帝都をまるごと再生するにしては、随分と小さな刻印なのだな」
ミマは更に刻印に顔を近付ける。
「にゃあ、この刻印は、消滅から再生に切り替える為のスイッチにゃん、ONにすると再生の為の刻印が起動するにゃん」
オレが教えてやる。
「起動だけで、天使様の協力を仰がねばならないほどの魔力が必要となるから、どう考えても現実的な魔法ではないがな」
カホは自分で作った切り替え用の刻印を眺めながら他人事みたいなことを言う。
「起動ならオレの魔力で事足りるにゃん、でも、そのまま維持するのは無理にゃんね」
「マコトでも無理なのか?」
ミマが意外そうな顔をした。
「にゃあ、帝都の再生にはずっと魔力を注ぎ込む必要があるにゃん、途切れさせないのが重要にゃん」
「つまり付きっきりか、大変なわけだ」
「にゃあ、だからオレが刻印に張り付かなくてもちゃんと継続的に注ぎ込めるようにするにゃん」
「カンケルみたいにトンネルで魔力を流すのか?」
ミマが続けて質問する。
「それも準備するとして、オレたちには天使様から授かった三型マナ変換炉があるにゃん」
動作原理がまだ解析されてない上にオレが起動しないと動かない三型マナ変換炉だが、桁外れの魔力を生み出す。
「良くわからなくても複製はできるから、それを使うにゃん」
「「おおお」」
カホも一緒になって声を上げていた。
「にゃあああ!」
必要は無いのだがそれっぽく気合の入った鳴き声を上げたオレは、切り替えの刻印に魔力を注ぎ込んだ。
「「おおおお!」」
ミマとカホがまた声を上げた。
現れたのは天を覆う金色に輝く巨大な空中刻印だ。上空二〇〇メートルぐらいに展開している。大きさは帝都エクシトマと同サイズのはず。
「にゃあ、ひとまず再生が開始される前にここから退避するにゃん、地上のオートマタも地下の魔法蟻も全数退避するにゃん!」
地下は大丈夫だとは思うが、念には念を入れて退避させる。
空中刻印に引っ掛かったら嫌なので、オレたちはドラゴンゴーレムではなく猫耳ジープに分乗してこれから再生が始まる帝都エクシトマの領域から退避した。
巻き込まれてもオレたちならどうってことはないが、再生に歪みが出てしまう。刻印と同じく雑味は無い方が良い。
○エクシトマ州 帝都エクシトマ跡 境界外 太古の道
消滅から再生に切り替わった刻印の境界を越えた。
かつて帝都エクシトマのあった領域は薄明るいモヤの様なものに包まれる。
薄ぼんやりと半透明な城壁が揺らいで見えていた。
「城壁だけでもデカいにゃんね」
「それでも魔獣には無力だったようだ」
「にゃあ、魔獣の大発生を城壁だけで何とかしようとしても無理にゃん」
「それは言えてる」
帝都エクシトマの境界から一歩出た途端、地形が一変していたことに気付いた。
「にゃあ、消滅の結界が発動した帝都エクシトマのあった場所は本当に真っ平らだったにゃんね」
境界を越えた途端、山あり谷ありの地形になる。
「いまとなっては唯一の痕跡だな」
「魔獣の森の中では誰も気付かないにゃん」
「そもそも魔獣の森に一〇〇キロ潜るとか、Aランクの冒険者でも無理にゃん」
「近衛軍にいたヤバいヤツらなら入ってこれそうにゃん」
「にゃあ、アイツらはバカだからここまで来るのは無理にゃん、途中で魔獣に喧嘩を売って喰われるのが関の山にゃん」
「高位の宮廷魔導師なら来れるにゃんよ」
「来ても金にならないからやっぱり来ないにゃん、そういうヤツらにゃん」
猫耳たちは最終的には宮廷魔導師をディスったところで落ち着いた。
オレの知る限り目的もなく魔獣の森に入るのは自殺志願者だけだ。たどり着く前に獣に食い殺されるだろうけど。
「にゃあ、退避は完了にゃんね」
「「「完了にゃん」」」
猫耳たちが返事をする。
「再生を開始するにゃんよ」
「「「にゃあ!」」」
研究拠点の猫耳たちが観測準備を開始する。
カンケルの魔の森の永久魔法をお手本にしていると言ってもそれは表面的なことだけで中身はまったくの別物だ。
オレは自走式マナ変換炉を三型マナ変換炉に変更したモノを三〇台ほど再生した。オレが作って起動させたので天使アルマのロックは回避されている。
自走式とは言っても以前作った自走式マナ変換炉と違って、足は付いておらず五〇センチほど地上から浮き上がって移動する。
『『『ニャア』』』
そして何故かメタルな猫耳が生え、ピンク色のまん丸なボディにつぶらな瞳がパチパチする。
もうこういうモノだと思うしか無い。
「配置に着くにゃん!」
『『『ニャア!』』』
自走式三型マナ変換炉が列を作って帝都エクシトマの境界線に沿って飛んで行く。しっぽも付いていた。
一台でも十分イケるのだが、一箇所から大量の魔力を流し込むと刻印を損傷させる可能性がある。堅牢であるがそういったところは意外とデリケートなのだ。
「にゃあ、後は待ってれば勝手に再生されるにゃん」
既にカホから引き出した情報から魔力を注ぎ込むべきポイントを絞り出してあるので再生はより効率的に行われるはずだ。
やはり都市の設計者であるカホがいるのが大きい。
「自分で作っておいてなんだが、本当に再生されるのだな」
刻印の製作者であるカホが感慨深げに呟く。
「にゃあ、そこは間違いないみたいにゃんよ」
カンケルの魔の森の都市遺跡と違って普通の都市だから、あそこまでの魔力の消費も無い。先史文明の都市とはスパコンと電卓ぐらいの隔たりがある。
○エクシトマ州 帝都エクシトマ跡 境界外 上空
その後はドラゴンゴーレムに乗って帝都エクシトマの境界をぐるりと一周して状況を確認する。カホを乗せたオレのドラゴンゴーレム以外は、再生の始まった刻印を観察するべくゆっくり飛んでいる。
城壁の中の風景がやはりぼんやりとして揺らいで見えた。帝都らしい巨大な建造物がいくつも蜃気楼のように揺らいで見えた。
「私の知ってる都エクシトマとは違う様だ」
「にゃあ、カホが眠った一五〇〇年後の姿にゃん、変わっていて当然にゃん」
「そうか、ちょっと眠ってる間にここまで変わってしまうのだな」
嘆息するカホ。
「二五〇〇年はちょっとの間とは言わないにゃんよ」
「そうは言われても、気を失ったと思ったらマコトたちに囲まれていたのだ、実感が無くて当然だろう」
「それもそうにゃんね」
「帝都が魔獣の森に沈む惨状に遭ってもまだ、人の世が滅びなかったのは幸いだ」
「人間はなかなかしぶといみたいにゃん」
「かもしれないな」
「カホはこれからどうしたいにゃん? オレのところでのんびり暮らすのも良し、街で暮らすのも良しにゃん」
「出来れば自活したいが、流石に冒険者はブランクが有りすぎるし、森の中で野営とかあまり好きじゃない」
「にゃあ、前世のキャンプじゃあるまいし、森の中で好んで野営をする冒険者はいないにゃん」
「いたとしても早死にするか」
「そういうものにゃん」
「マコトのところで厄介になるのも悪くは無いが、街で気楽に暮らしたいってのもあるな、ただ退屈だと死ぬ」
いろいろ面倒くさいヤツだ。
「それ以前に手元不如意だから、魔法で稼ぐか」
「だったら、オレの王都の家に暫く滞在するといいにゃん、後は魔導具でも作って売ればそこそこ儲かるにゃん」
「魔法馬のリメイクとかはどうだ?」
「いいにゃんよ、魔法馬は間もなくオレのところで大量生産を開始するから、それをチューンナップすればいいにゃん」
プリンキピウムの街の外に魔法馬などを生産する大型工房と言うか巨大工場を建設中だ。これが稼働すれば魔法馬が普及する足掛かりになる。猫耳たちがフィーニエンスの魔法馬に触発されてあれの上を行くらしいからいきなり高性能な馬が出回りそうだ。
「新品の魔法馬をイジるのか、それも良さそうだな」
「にゃあ、基本荷馬車用の大量生産品だから力強さと頑丈なだけが取り柄だからいろいろイジれるにゃん」
「試すだけ試してみよう」
「それとオレの知ってる転生者も紹介するにゃん」
「転生者か、本当に他にもいるのだな」
「にゃあ、それとこの国の女王にも会わせるにゃん」
「ハリエットか、そんなに私に似ているのか?」
「にゃあ、生き写しにゃん、そっくり過ぎにゃん」
「腹違いの兄弟たちはそれほど似て無かったのだが」
「似てない兄弟なんていっぱいいるにゃん、でも従兄弟にあたる子供同士がよく似てるなんてのも良くある話にゃん」
「そちらも実感が湧かない」
「実際に会えばわかると思うにゃん」
「そんなものだろうか?」
「そんなものにゃん」
オレは大きく頷いた。
「この国の現在の王都はタリスだったな?」
「知ってるにゃん?」
「タリスの遺跡のある場所なら知っている」
「にゃあ、大きな岩をくり抜いた遺跡にゃん」
「それだ、普通に使うには大きすぎる上に修復も困難だったので、私の頃は余計な人間が入り込まないように入り口を封鎖していた」
「にゃあ、いまは王宮になってるにゃん」
「あれを王宮にしたのか、大き過ぎないか?」
「オレもそう思うにゃん、でも、魔獣の大発生に遭ってもあれなら大丈夫にゃん」
「ああ、タリスの遺跡ならそうか」
カホも頷く。
例え巨大な岩をよじ登って来られてもかなり高い位置からの迎撃なので、普通の城よりは魔獣に対する耐性は高い。
それに大発生時の魔獣は頭がイカれてるので前進あるのみで、簡単に壊せなかったり乗り越えられない障害物は避けることが先日確認されている。
「ただ、魔獣の森に沈んだらそれまでにゃん」
「マナが問題か」
「にゃあ、魔法の効きがいいから暫くは大丈夫でも、正気に戻った魔獣から逃げられるかは微妙にゃん」
「だろうな」
マナが高濃度で安定した環境にいる魔獣なら岩に穴を空けて侵入することも容易くやってのけるし、よじ登らなくても地上から攻撃出来るヤツもいる。
「王都の位置はわかった」
「にゃあ、土地の名前はそれほど変わってないみたいにゃん」
「では、私だけでも行けそうだな」
「にゃ?」
「二五〇〇年が経った世界をこの目で見てみたい、相談なんだが魔法馬と路銀を貸して貰えないだろうか?」
「王都まで魔法馬で行くにゃん?」
「ああ、出来ればそうしたい」
「魔法馬で行く王都までの旅にゃんね」
「私の時代は、魔法馬か馬車ぐらいしか移動手段が無かったからな」
「にゃあ、いまも基本は同じにゃん、オレたちがちょっと違ってるのと、そうにゃんね、宮廷魔導師の一部が飛翔の魔法を使って飛ぶぐらいにゃんね」
「飛翔の魔法か、ドラゴンゴーレムが普及してるわけでは無いのか?」
「持ってるのは、オレたちだけにゃん」
「これがあれば戦では有利に事が進められそうだ」
「にゃあ、ドラゴンゴーレムは人間との戦いではほとんど使ってないにゃん」
人間が相手ならオレたちの場合、上空から攻撃しなくてもどうにでもなる。
「私の時代にマコトがいてくれたら、戦いも有利に進められたのに残念だ」
「にゃあ、その場合、オレがカホの側に落ちて来るとも限らないにゃんよ」
「マコトたちが敵に回ったら悪夢だな」
「オレも転生者と戦うのは嫌にゃん、しかも相手がカホでは、間違いなくろくなことにならなかったにゃん」
「だろうな」
カホが頷く。
「にゃあ、時代が違っていたことに感謝にゃん、カホも平和な時代をその目で確かめてみるといいにゃん、ただし平和と言っても治安は微妙にゃんよ」
「ああ、わかってる日本とは違った平和ということだろう?」
「にゃあ、それでも猫耳たちのおかげでオレの領地に関してはかなり改善されてるにゃん」
「するとマコトの領地沿いに進むのが安心というわけか」
「にゃあ、相談だけど、カホの旅にオレも一緒行ってもいいにゃん?」
「マコトが私と魔法馬で王都まで旅をするのか? 私は構わないがマコトだったらもっと楽に早く行けるだろう」
「にゃあ、早さだけが旅じゃないにゃん、たまにはゆっくりしたいにゃん」
「六歳児の言葉では無いな」
「オレの見た目に惑わされてはダメにゃん」
「しかし、マコトは魔法馬の旅でゆっくり出来るのか?」
「にゃあ、オレの場合は十分にゆっくり出来るにゃん」
本来の魔法馬の旅は安全の確保されていない険しい道を獣や盗賊に怯えながら進む過酷なものだ。宿場町も整備されていないのでどうしても行程には野宿が少なからず混じる。とてもゆっくり出来る旅ではない。
「私としては同行して貰っても構わない」
「にゃあ、必要なものはオレが用意するにゃん、それで出発はいつがいいにゃん?」
「私はいつでもいいぞ」
「だったら、明日の出発でも構わないにゃん?」
「私は構わないが、マコトはいいのか?」
「にゃあ、エクシトマの再生が完了するまで、オレの仕事は無いにゃん」
「仕事の合間の息抜きというわけだ」
「にゃあ、そうとも言えるにゃん」
「では、明日出発しよう、行程はマコトに任せていいだろうか?」
「大丈夫にゃん」
再生が始まって視界が揺らぐ帝都エクシトマの境界をぐるっと一周したオレたちは、続けて明日の準備に取り掛かった。




