迷宮の主にゃん
『にゃあ! これは凄いにゃん!』
セリが魔法蟻の上から飛び出した。
『『『みゃあ!』』』
魔法蟻の防御結界を抜けた瞬間、セリは一瞬で金属の彫像になった。
オレは慌てて魔法でキャッチした。
そのまま地面に激突したら変な形になってたかもしれない。
『猫耳でも彫像になるにゃんね』
『予想は出来てたにゃん』
『予想を裏切らない行動にゃん』
『セリは大丈夫なのか?』
ミマも飛び出そうとしたが、宇宙服みたいな物理防御服のせいで機敏に動けずタイミングを逃した。
『にゃあ、セリなら大丈夫にゃん、魂はちゃんと中に入ってるにゃん』
空中に浮かべた彫像状態のセリを魔法蟻の背中に戻した。
するとみるみる元に戻る。
猫耳は普通の人間と違ってマナの濃度が下がると自然に回復する様だ。予想は出来たがまさか実証することになるとは。
『にゃあ、いま怖い夢を見たにゃん、自分がカチンコチンになる夢にゃん』
彫像から復帰したセリは耳をペタンとさせた。
『『『夢じゃないにゃん!』』』
『みゃあ』
オレを含めて全員に突っ込まれていた。
『あの石球からマナを吹き出してるにゃん』
『カチンコチンの女の子が抱え込んでる石にゃんね』
『ひとまず分解するにゃん』
オレは、迷宮の中心の置かれた石球を分解する。そのまま消すと女の子の彫像が転がってしまうので同じ大きさのただの石に取り替えだ。
石球を分解すると格納マナの潮流が止まった。
『マナの濃度が一気に下るにゃん』
直ぐにマナの濃度が下がり、強力な防御結界も不要な環境になる。
「お館様が分解したのはいったい何にゃん?」
念話を使わなくてもアルの声が通る。
「どうやら超強力なマナ生成炉にゃん、こんな高性能なモノがあったとは驚きにゃん」
「アレがあれば簡単に魔獣の森が作れるにゃんね」
ロアが綿密に計算する。
「にゃあ、しかもかなり大きい魔獣の森ができるにゃん」
ヨウは感覚で言ってる。
「いま格納した石球と同じモノが他にも有りそうにゃんね」
「にゃあ、未踏地には転がってそうにゃん」
アルが同意する。
「マコト、魔法蟻から降りてもいいか?」
ミマがウズウズしている。
「防護服を着たままならいいにゃんよ」
「了解だ」
防護服を着たままのミマは魔法蟻の背中から飛び降りると、そのまま彫像の女の子の元に走った。
そして迷宮の主の顔を覗き込む。
「皇帝にしては若いな」
「にゃあ、やっぱりここが玄室にゃん?」
「棺は無いにゃんね」
「そこのお姉ちゃんが埋葬された王族関係者にゃん?」
「斬新なポーズで埋葬されてるにゃんね」
オレたちも魔法蟻を降りて遺跡の中心から周囲を眺める。
「遺跡と言うより、鍾乳洞みたいにゃん」
外縁部にあった人工物の意匠はここではまったく見えない。
「お前ら、ここが玄室のわけないだろう」
「そうにゃん?」
「お館様、これはどうみても事件現場にゃん」
セリがさっきとは違った慎重な姿勢で彫像化した女の子を調べる。
「すると見たまんまにゃんね」
「この子が迷宮を造ったのだろうか?」
「他に人影が見られないから可能性は高そうにゃんね、迷宮の造営に関してはここが始点なのは間違い無いにゃん」
「にゃあ、お館様、この子ハリエット様に似てるにゃん」
アルが彫像の顔をじっくり覗き込んで手を挙げた。
「ハリエット様にゃん? にゃあ、言われてみれば良く似てるにゃんね、ハリエット様をそのまま十五歳ぐらいにした感じにゃん」
「アナトリ王国の王族はオリエーンス帝国の皇帝の血筋だ、この子が皇族なら似ていてもおかしくはない」
「にゃあ、その辺りは本人に聞けばわかると思うにゃん」
「えっ、本人?」
「だから本人に聞くにゃん、まさか自分のことは忘れてないにゃんよね?」
「二五〇〇年前に彫像になった人間を復活させることが可能なのか?」
「にゃあ、経過した時間は関係ないにゃん、問題は彫像化した身体の中に魂があるかどうかだけにゃん」
「彼女の魂は残されてるのか?」
「にゃあ、問題ないにゃん、直ぐに復活可能にゃん」
女の子の魂は彫像化した身体の中に閉じ込められていた。
「本当なのか、だったら直ぐに頼む」
宇宙飛行士に急き立てられてるみたいでちょっと可笑しい。
「にゃあ、残念ながらこの子を復活させる前にすることがあるにゃん」
「何だ?」
「ここからの脱出にゃん」
「は?」
「お館様、急ぐにゃん、マナの供給が絶たれて迷宮の崩壊が始まったにゃん!」
ヨウが声を上げた。
猫耳たちは全員、魔法蟻の背中に跨っている。
「にゃあ! 行くにゃん!」
ハリエット似の彫像の女の子を回収し、ミマを魔法蟻の背中に放り投げオレも自分の魔法蟻に飛び乗った。
稲妻の様な轟音と共に迷宮が激しく振動する。
「全速力で地上に脱出にゃん!」
『『『ニャア!』』』
オレたちを乗せた魔法蟻たちは、壁をよじ登ると地上に向けて垂直に穴を開けた。
マナを喪失した迷宮は、自分の役目は終わったとばかりに加速度的に崩壊する。
「にゃあ、頑張るにゃん」
魔法蟻の進路の崩壊を一時的に停止させ空間を圧縮させた。
『『『ニャア!』』』
わずか数秒で地上に飛び出したオレたちは、そのまま打ち上げられたロケットみたいに空中を舞った。
○ヌーラ 上空
「にゃあ!」
魔法蟻を格納してドラゴンゴーレムを再生する。
「ヌーラ展開中のオートマタを全数回収にゃん!」
「「「にゃあ!」」」
その直後、轟音とともに地面のあちこちで巨大な陥没が発生し魔獣の森の木々がその穴に飲み込まれる。
一緒に魔獣が穴に落ちる。這い上がろうするが、マナが足りず力尽きてそのまま落ちて行った。
「ヌーラの城壁は大丈夫みたいにゃんね」
アルがドラゴンゴーレムの背中に立って城壁の方向に探査魔法を飛ばして確認した。
「魔法蟻のトンネルと拠点は問題なしにゃん」
ロアは地中に向けて探査魔法を飛ばす。
トンネルも拠点も地中の大きいうねりに対応する設計なので、この程度ではびくともしない。
「だけど、巨大迷宮の消滅でヌーラ全体が穴ぼこだらけになったにゃんね」
ヨウは広範囲に探査魔法を飛ばした。
「にゃあ、これを機会に真っ平らに整地するのも有りにゃんね」
「迷宮は崩壊してもまだマナを吸ってるから、魔獣の森も縮小するはずにゃん』
「流石、永久刻印にゃん」
「にゃあ、でも刻印が壊れたから、いずれ収束するにゃん」
「それでもそれなりに時間は掛かるだろうから、魔獣の森にはかなりの打撃にゃん」
「これを機会に一気にヌーラの魔獣の森をすべて解放するにゃん」
「「「にゃあ!」」」
オレの魔獣の森解放宣言に猫耳たちが声を揃えた。
「マコト、ヌーラの研究所跡は大丈夫なのか?」
まだ防護服を着ているミマはドラゴンゴーレムの背中からこわごわ下を覗き込んでる。
「心配しなくても研究所跡は全部コピーしてあるし、オリジナルもちゃんと保存してあるから大丈夫にゃん」
「あそこは跡地って言ってもただのクレーターにゃん」
アルがミマに現実を教える。
「復元される可能性があるなら、保存はすべきだろう」
「にゃあ、可能性はゼロじゃないけど現状はかなり難しいにゃん、魔力炉が無いと無理にゃん」
「そうか、魔力炉か、道は遠いな」
「にゃあ、遠いにゃん」
『ニャア』
戦艦型ゴーレムの鳴き声が響いた。
『『『お館様!』』』
元チビたちが心配して駆け付けてくれた。
『にゃあ、オレたちは大丈夫にゃん』
ドラゴンゴーレムの頭の上から手を振った。
○ヌーラ 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 隔離区画
隔離区画の中央に迷宮の中心から持ち帰った女の子の彫像を置く。
「これからこの娘を復活させるにゃん」
ペチペチと金属の身体を叩く。
「服も一緒に金属になるのだな」
高級軍人のようなマントを羽織っているが、その下は冒険者の様な服装だった。両腕には刻印の施されたリストバンド。これだけで防御結界を発動していたようだ。
「通常の彫像病ではならないにゃんよ、ここまで金属化するのは高濃度のマナの環境だけにゃん」
ロアが解説する。
「彫像病はエーテル器官の先天的な異常にゃん、この場合はエーテル器官の暴走にゃん、金属化の魔法が体内で勝手に発動されるにゃん?」
「さっきのセリの場合もか?」
「あれは防御機能の一種にゃんね、金属化して異常濃度のマナに破壊されるのを防ぐにゃん、オレも実際に見たのは初めてにゃん」
「何事も経験にゃんね」
セリが腕を組んで頷く。
「「「お前が言うにゃん!」」」
「みゃあ」
「それでどうなんだ、本当にこの子があの迷宮を造ったのか?」
「たぶん間違いないにゃんね、リストバンドの刻印を見ただけで只者じゃないことがわかるにゃん」
「やはり魔法使いか?」
「にゃあ、首席宮廷魔導師クラスにゃんね、それもマリオン・カーターじゃなくて親父のケイジ・カーターにゃん」
本名スズガ・ケイジ。短期転生の秘術を操った最悪の魔導師だった転生者。
「それは穏やかじゃないな」
「にゃあ、超絶した魔法式を操って、あのマナ生成炉まで単身でたどり着いたにゃん、普通の人間じゃないにゃん」
「ヤバい人間だったらマズいな」
「にゃあ、あのとんでもないマナ生成炉を一人で封じ込めようとしたにゃん、あのイカれた迷惑系転生者と違って善良な人間のはずにゃん」
「やはり転生者だろうか?」
「そうにゃんね、あの追い込みまくった永久魔法一歩手前の魔法式とか、転生者だと納得がいくにゃん」
「真相は本人に聞くのがいちばんか」
「そういうことにゃん、では、始めるにゃん」
「「「にゃあ!」」」
聖魔法を展開する。青い光が広い倉庫を満たす。
ものの数秒で全身金属の彫像から生身の人間に戻る。現れたのはハリエットと同じ見事なウエーブの入ったきれいな金色の髪だ。
「おおお、凄いな、こんなに簡単に戻るのか?」
ミマが目を見開く。
「にゃあ、オレたちの中では彫像からの復元は手法が確立してるにゃん、効率化も進んでるにゃんよ」
「不治の病がこんなに簡単に回復するとはな、自分で経験したとはいえ、にわかには信じ難いのだが」
「目に見えてるのが現実にゃん」
女の子の身体がピクンと震え息を吹き返した。本当に驚くほどハリエットに似ている。
「ひとまず成功にゃん」
女の子が目を覚ます。
薄っすらと開けた瞳に光が戻る。
「誰だ、ここは何処だ、何故、私はこんなところにいる?」
ゆっくりと身体を起こす。
ハリエットと同じウエーブの入ったきれいな金色の髪が揺れる。
「にゃあ、オレはマコトにゃん」
「にゃあ、ウチはアルにゃん」
「にゃあ、ウチはロアにゃん」
「にゃあ、ウチはヨウにゃん」
「にゃあ、ウチはセリにゃん」
みんなの視線がミマに集まる
「わ、私は鳴かないぞ、ミマ・キサラギだ」
誰もそれは求めて無いが。
「いや、私は名前を聞いてるわけじゃなくて」
「ウチらは、お館様と猫耳軍団と愉快なミマにゃん」
アルの返答もどうかと思う。ミマはそれほど愉快じゃないし。
『にゃあ、それで、そっちは誰にゃん?』
オレは金髪の女の子にちょっとしたいたずらを混ぜ込んで尋ねた。
「私か、ちょっと待ってくれ、いま混乱してる、私はマナを吹き出す石球を封じ込めようとして意識を失ったのだが」
額を押さえる。
「ちゃんと封じ込めてたにゃんよ、巨大迷宮が造られていたにゃん」
「迷宮か、なるほど」
何やら納得する。
「転生者で決まりだな、マコトの日本語の問い掛けに答えてる」
ミマがオレを見る。
「にゃあ、そうにゃんね」
オレも頷く。
「転生者?」
女の子が問いかける。
「にゃあ、オレもミマも元日本人にゃん、だから仲間にゃん」
「日本人か、久しぶりに聞く単語だ」
「それでどうにゃん、当たってるにゃん?」
「ああ、私も元日本人だ、そうか、私と同じ境遇の人間がいたのか、私ひとりじゃなかったんだな」
女の子は力が抜けてその場にぺたんと座り込んだ。
「それで名前は何にゃん?」
「ああ、私はジャンヌ・アナトリアだ、元の名前はカホ・イシガミだ」
「カホの近くに他の転生者は居なかったにゃんね」
「私が知る限りは居なかった、いまにして思えば日本人らしき者が残した遺物があったかもかもしれないが」
「アナトリアか、アナトリ王国の初代コンスタンティン王もその姓を持っていた」
元エドモンド第二王子だけあってミマはアナトリ王国の歴史に詳しい。
「アナトリ王国?」
カホが首を傾げる。
「にゃあ、いまから一〇〇〇年前に魔獣の大発生によってオリエーンス帝国が分裂して出来た国の一つにゃん」
「一〇〇〇年前?」
「カホが彫像になったのは、たぶんいまから二五〇〇年前にゃん」
「するとオリエーンス帝国は、一五〇〇年も続いたのか?」
「それはほぼ間違いない」
ミマが断言した。
「ミマがそう言うなら合ってるはずにゃん」
「そうか、一五〇〇年とは大したものだな」
「にゃあ、そうにゃんね」
「いまも魔獣の森によって国が分断されただけで、帝国の文明は受け継がれている」
「上手くやれたわけだ」
「にゃあ、いまはいろいろ問題を抱えてはいるにゃん」
「問題はいつの世もあるものだ」
「それで、カホはオリエーンス帝国の関係者にゃん?」
「ああ、初代皇帝は私の腹違いの弟だ」
「やっぱり血縁だったにゃんね」
「予想以上の大物にゃん! これで帝国黎明期の謎が一気に明らかになるにゃん!」
セリが目をキラキラさせる。
「にゃあ、するとカホはこっちで完全に転生したにゃんね?」
「ああ、こちらで新たに生を受けた」
「赤ちゃんからにゃんね」
「質問、前世の記憶はいつ頃取り戻したんだ?」
「三歳の誕生日の夜だ、唐突に日本で派遣社員をしていた頃の記憶を取り戻して三日寝込んだ」
「幼年期の終りにゃんね」
「ひとつ聞きたいことがあるんだが、害獣駆除者共同組合はまだあるのか?」
カホが質問した。
「害獣駆除者共同組合?」
ミマは聞き覚えがないようだ。元王子様ならそんなものか。
「にゃあ、またの名を冒険者ギルドにゃんね、ちゃんとあるにゃん、この世界で唯一の国際的な組織にゃん」
「そうか、まだあるのか」
「何だ、冒険者ギルドのことだったのか」
「正式名称にゃん」
「いまの時代も冒険者ギルドの方が一般的か」
「にゃあ、もしかして冒険者ギルドを作ったのはカホにゃん?」
「わかるか?」
「にゃあ、どうりで元の世界で知られていた冒険者ギルドそのものだったにゃんね」
「異世界に冒険者ギルドが無いのは変だろう?」
「妙に先進的な装備のある組織だと思ったにゃん」
「冒険者ギルドとは、そういうものだ」
「にゃあ、確かにそうにゃん」
だからファンタジー小説そのものの組織になっていたというわけだ。
「こちらの基準では確かに不思議だろうな」
「おかげでこっちに来た時は助かったにゃん、獣を売って稼げたにゃん」
「転生者の役に立てたなら良かった」
それからカホはオレをじっと見た。
「マコトたちは稀人か?」
「にゃあ、稀人はお館様だけにゃん」
アルがオレを抱えあげる。そのジェスチャーは必要か?
「そうか、天使様の預言は当たったわけだ」
「にゃ、カホも天使様に会ったにゃん?」
「一度だけだが、将来出会う稀人を導くように命じられた」
「天使アルマは、やっぱり昔からいるにゃんね」
「いや、私では無いが」
天使アルマがオレの頭を撫でると直ぐに消えた。相変わらずの神出鬼没ぶりだ。
「マコトにも天使様の知り合いがいるのか?」
カホは、驚きの表情で天使アルマが消えた場所を見つめる。普通、驚くよね。
「にゃあ、天使アルマはオレの守護天使にゃん」
「天使アルマか、私が会った天使様は確かミサというお名前だったはず」
「日本人ぽい名前にゃんね」
「日本人か、言われてみれば確かにそうかもしれない、当時はそこまで考えが及ばなかったが」
日本人ぽい名前、すると転生者か?
転生者の天使様と言えば、
「もしかしてカホが会ったのは、北方監視者の天使様にゃん?」
「そう、私が出会った天使ミサは、北方監視者だ、良く知ってるな」
「天使アルマに教えて貰ったにゃん、北方監視者なら転生者で間違いないにゃん」
「天使様が転生者なのか?」
「にゃあ、天使アルマの情報だから間違いないにゃん」
「転生者が天使になったのか?」
「オレもどういう経緯で転生者が天使になったかはわからないんにゃん」
「そうか、私は知らずに転生者に会っていたわけだ」
「カホは天使ミサに何を頼まれたにゃん?」
「マコトをエクシトマの城に案内するように頼まれた」
「「「エクシトマにゃん!?」」」
猫耳たちが声を上げた。
「これで帝都エクシトマへの道が開けたな、直ぐに行こう!」
ミマもワクワクが止まらない。
オレを小脇に抱えた。
「道が開けた?」
キョトンとするカホ。
「にゃあ、帝都エクシトマは魔獣の森に沈んで久しいにゃん、いまでは何処にあるのかもわからないにゃん」
「魔獣の森か」
カホは難しそうな顔をする。
「西から拡がったのだろうか?」
「方角は不明にゃん、少なくとも西方大陸の西側三分の一が魔獣の森になってるにゃん、東以外ならどれもありそうにゃん」
「そうか、魔獣の森となると入るだけで一苦労だな」
「オレたちなら魔獣の森を進むのは問題ないにゃん、ただ目印が無いにゃん」
「目印か、確かにすべてが魔獣の森に沈んだとなると厄介だな」
考え込むカホ。
「そうだ、魔獣の森と化しても変わらないものがある」
「にゃ?」
「太古の道だ、エクシトマを建設するにあたって新たに道を造る手間を惜しんで太古の道が集まってる場所を選んだ、それを目印にすれば発見も可能ではないだろうか?」
「にゃあ、太古の道にゃんね、それが集まってる場所なら直ぐにわかるはずにゃん」
魔獣の森に沈んでも存在し続ける太古の道は、オートマタの移動にも使用してるので、かなり網羅されている。
地図を空間に表示して太古の道を更に重ねた。
「道が集まってるのはここか?」
オレを抱えたままのミマが指差した場所は、旧貴族派領地のオーリィ州の境界から一〇〇キロほど魔獣の森を西側に潜った太古の道が集中した地域だ。
既にオートマタが走り回ってる場所だが、特にめぼしい人工物は発見されていない。
「どうにゃん?」
画面を見入ってるカホに問い掛ける。
「ああ、すまない、私の記憶が正しければ、そこでほぼ間違いないと思う、故郷も何もかも魔獣の森に沈んだのかと思うと来るものがあるな」
カホは、悲痛な表情を浮かべた。
「にゃあ、すべてが沈んだわけじゃないにゃん、カホが守った人たちは生き残ったはずにゃん」
「そうだろうか?」
「アナトリ王国の女王は、カホそっくりにゃんよ」
「私に?」
「どう見ても同じ血筋にゃん」
「そうか、いずれ会ってみたいものだな」
「わかったにゃん、近いうちに面会できるようにするにゃん」
「国王に簡単にアポイントを取れるとか、マコトはいったい何者なんだ、稀人とはいえただの子供ではないだろう?」
「ざっくりと説明して、お館様は西方大陸の実質的な支配者にゃん」
アルがざっくりしすぎる説明をした。
「「「にゃあ~」」」
猫耳たちも同意の鳴き声を揃えた。
「マコトがいなければどの国も存亡の危機に陥っていたはずだ、マコトを中心に新しい形になったのは本当だろう」
ミマがもうちょっとマシに解説した。オレを小脇に抱えたままだが。
「マコトは国王にはならないのか?」
「にゃあ、そんな面倒そうなことはお断りにゃん、それに六歳児が国王をやらなくても何処も優秀な人材が揃ってるにゃんよ」
「マコトに依ってオリエーンス帝国は新しい形で再建されたわけか」
今度はカホがオレを抱き上げる。
「オレはそんな大それたことはしてないにゃんよ」
「結果としてそうなったのだろう、そのぐらい私にもわかる、私たちの子孫たちを守ってくれて感謝する、ありがとう」
カホに抱きしめられた。
○エクシトマ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦)
戦艦型ゴーレムはエクシトマ州上空をカホが指示した場所に向かってゆっくりと進む。
カホは、風呂に入ってから二五〇〇年ぶりにベッドで寝た。
オレは戦艦型ゴーレムに乗り込んだ研究拠点の猫耳たちと折り重なって寝たにゃん。




