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迷宮の中心にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年十一月〇五日


「おはようにゃん」

 朝になって魔法蟻の背中から滑り降りた。

「んっ、朝か」

 部屋の隅っこで毛布にくるまっていたミマが起き出す。

「にゃあ、起きたにゃん?」

 セリを始めとする猫耳たちがぞろぞろと浴室から出て来た。

「朝風呂にゃん?」

「「「にゃあ、最高にゃん」」」

 猫耳たちは声を揃える。

「わかるにゃん」

「良し行くぞ!」

 ミマは魔法蟻に跨る。

「にゃあ、朝ごはんぐらい落ち着いて食べるにゃん」

「早く食え」

 ミマは、魔法蟻から降りて来ない。

「そんなに慌てなくても玄室は逃げないにゃん」

「いや、遺跡の中心はどんどん遠くなってるぞ」

「にゃあ、魔法蟻たちの力を以てすればそんなの誤差の範囲にゃん」

『『『ニャア』』』

「魔法蟻たちも『大丈夫』って言ってるにゃん」

「先に行っていいか?」

「駄目に決まってるにゃん、駄々をこねると地上に強制送還するにゃんよ」

「うー」

 ミマは唸りつつも魔法蟻を降りた。

「玄室に着いたら心ゆくまで調査するといいにゃん、オリエーンス帝国の関係者が眠ってるのなら、廃帝都エクシトマに関する記録があるかもしれないにゃん」

「その可能性は大いにあるだろう」

 ミマがテーブルに着いたので、ソーセージマフィンを出してやる。

「墓所がヌーラなら廃帝都エクシトマは意外と近い可能性がある」

「そうだとしたら探索はもっと楽になるにゃんね」

「問題は、ほとんど痕跡が残っていない可能性だ、オリエーンス連邦の消滅以降の遺跡は脆弱で建物の土台が残ってればいいほうだ」

「するとここは例外にゃん?」

「例外中の例外だ、たぶんごく少数の天才の仕事だろう……んっ、マコトの料理は美味いな」

「王子様の頃のミマも下手じゃないと聞いてるにゃん」

「私の場合はアイデアを出しただけで、実際に作ったのは城の料理人だ」

「王子様では厨房には入れないにゃんね」

「そういうことだ」

「遺跡の痕跡が少ないのは痛いにゃんね」

「お館様、ヌーラがエクシトマの可能性はないにゃん?」

 ソーセージエッグマフィンにかぶりついていたアルが顔を上げた。

「オリエーンス帝国の崩壊は約一〇〇〇年前にゃん、その時はすでに帝都エクシトマは失われていたと思われるにゃん、この遺跡が二五〇〇年前だとするといくらなんでも時期が合わないにゃんね」

 セリが答えた。

「それにヌーラならもっとハッキリとした伝承が残っていてもおかしくない位置だ、たぶんここではないだろう」

「やっぱりエクシトマ州の何処かにゃんね」

 名前からしてそれは間違いない気がする。

「広大なエクシトマ州の何処かとなるとやっぱりヒントは欲しいにゃん、当てもなく探すのは時間が掛かり過ぎるにゃん」

「にゃあ、ロアの言う通りにゃん」

「玄室もしくはその近くに副葬品か記憶石板でもあれば、大きなヒントになるだろう」

「にゃあ、なるべく早く見付けたいにゃんね、そして北方監視者の天使様との面会をさっさと終わらせたいにゃん」

「急ぎの用件でもあるのか?」

「オレは冒険の旅に出るにゃん」

「冒険? マコトは何処に行くつもりなんだ」

「そうにゃんね、太古の道を当てど無くジープで突っ走りたいにゃん」

「それってドライブでは」

「にゃあ、魔獣の森を突っ走る何があるかわからないハプニング満載のドライブにゃんね」

「それにゃん、ヨウの言う通りにゃん!」

「魔獣の森をドライブか、常人には出来ない所業だな」

「そうにゃんね、将来的には魔獣の森を潰して誰でも入れる様にしたいにゃん」

「魔獣の森の解放か、人類の夢だな」

「いまのところは、マナゼロ地帯までは作れたけど完全な解放には至ってないにゃん」

 マナゼロ地帯でもマナが濃くなると魔獣が湧き出すのが、つい先日確認されている。

「魔獣の森の構造はいまだ解明されてないからな」

「にゃあ、それでも人間が作り出したものなら人間の手で潰せるにゃん」

「ああ、稀人のマコトなら出来るだろう、神々がこの世界を託した存在なのだから」

「にゃ、神々にゃん?」

「神々がどうかしたか?」

 ミマはきょとんとしてオレを見る。

「にゃあ、いまミマが言ったにゃんよ」

「いや、わからんが」

 オレが聞き返すとミマは首を横に振った。



 ○ヌーラ 地下迷宮 横穴


「うおおお! これは速い!」

 次々と壁に穴を開けて突き進む魔法蟻の速度に目を白黒させるミマ。

「にゃあ、まだまだ全力じゃないにゃんよ、でもこれ以上はミマが目を回すから抑えてるにゃん」

「遠慮しなくていいにゃん」

 セリが許可する。

「こ、こら、勝手なことを言うな!」

「にゃあ、わかってるにゃん、玄室を調査する前にミマがグロッキーでは困るからギリギリで行くにゃん」

「お気遣い感謝だ」

 ミマは魔法蟻の背中に張り付いた。


『『『ニャア』』』

 ミマが気絶しない程度の速度を維持して、五匹の魔法蟻は、壁なんて最初から無いみたいな速度で遺跡の中心に迫る。

「お館様、マナの濃度がヤバいにゃん」

 アルが注意をうながす。

 中心に近付くほどにマナの濃度が加速度的に高まる。

「マナを溜め込んでるだけにしては異常な濃度にゃん」

「この先、もっとヤバそうにゃん」

 ロアとヨウも警戒する。

「にゃあ、そうにゃんね、マナを生産していないことは確認してるのにこの濃度は異常にゃん」

「お館様、この遺跡自体が生産していなくても何かしらマナを作り出す仕掛けを取り込んでる可能性があるにゃん」

「にゃあ、有りそうにゃんね、一旦停止にゃん!」

 五匹の魔法蟻が停止した。

「どうかしたのか?」

 魔法蟻の背中に張り付いていたミマが身体を起こした。

「このまま突き進むとミマがヤバいにゃん」

「私が?」

「にゃあ、マナの濃度が半端ないにゃん、魔法蟻に乗っていてもミマはちょっと耐えられないにゃん」

「ここで待てと言うのか?」

 上目遣いにオレを見る。

「違うにゃん、ここからは物理防御服の着用が必要にゃん、またセリが着せてやって欲しいにゃん」

「了解にゃん」

 ミマが一瞬で宇宙飛行士みたいな格好になった。

「それと魔法蟻から降りるのは禁止にゃんよ」

「降りるのも駄目なのか?」

「にゃあ、たぶん駄目にゃん、魔法蟻の防御結界も合わせないと持たないにゃん」

「それは相当だな」

「エドモンドの次にミマの彫像なんて見たくないから、行動は慎重に頼むにゃんよ」

「問題ない、任せろ」

 本当だろうな。


 ミマを宇宙飛行士にして先に進む。

 気体のはずのマナが液化して白い壁をじっとり濡らしている。

『これはかなりヤバいにゃんね、洒落にならない量のマナを吹き出してる何かがあるのはほぼ間違いないにゃん』

 ここからはお互いの防御結界が壁を作って肉声では聞こえなくなっているので、念話を使っての会話だ。

『にゃあ、アウルムの巨大蛹の時より高濃度にゃん』

 アルがマナの濃度をチェックする。

 ケラスの旧州都アウルムの地下に埋まっていた巨大蛹が吐き出していたマナの濃度を凌駕する。

『巨大蛹は大きさにビビったけど、こっちのはそんな大きな反応は無いにゃんね』

『たぶん、かなり小さなモノっぽいにゃん』

『小さいけどマナの生産量が巨大蛹を超えるとか、そんなモノが実在するにゃんね、興味津々にゃん』

 セリはワクワクが止まらない。

『話を聞いただけなら、たぶん信じなかったにゃん、それだけ現実離れしてるにゃん』

『『『にゃあ』』』

 ロアの言葉に全員が頷いた。

『実際のところ実物を見ないことにはオレもまだ信じられないにゃん』

『にゃあ、何故そんなモノが遺跡の中心にあるのか知りたいにゃん! 遺跡の謎が深まるばかりにゃん』

 セリの気合が入る。

『確かにいったいそんなモノをどうやって遺跡の中心に据えたのか気になるところだ』

 ミマも口調は冷静だが防護服の中で目をキラキラさせている。

『このマナを封じ込めようとしたのが迷宮の本来の仕事みたいにゃんね』

『魔獣の森からマナを吸っていたわけじゃなくて、マナを吹き出す何かを封じ込めようとしていたわけか』

『にゃあ、地中に深く潜りながら迷宮を拡大させる、しかもこれだけのマナの濃い環境の中でやってのけるとか、どう考えても普通の人間の所業では無いにゃん』

『普通じゃない人間か』

『にゃあ、転生者あたりにゃん?』

 ヨウが発言する。

『可能性は高いにゃんね、ただ並の転生者には無理にゃんよ、にゃあ、もちろん魔獣にも無理にゃん、この濃度だと破裂するにゃん』

『やはり、実際に中心に行って確かめるしか無いか』

『にゃあ、それが確実にゃんね』

『急ぐぞ!』

『『『にゃあ!』』』

 ミマの号令にオレたちが声を上げた。


 一気に迷宮の中心を攻略と行きたかったが、想像以上の濃いマナに慎重に進まざるを得ない状態だ。

 魔法蟻たちの改造二型マナ変換炉が唸りを上げ防御結界を多重展開させる。

『にゃあ、マナ使い放題の環境だからできる豪華な防御結界にゃん』

『この環境じゃなければ不要な防御結界でもあるにゃんね』

『適材適所にゃん』

『ここより過酷な場所はそうないにゃん』

『にゃああ、液体マナが底に溜まってるにゃん』

『ここに比べたら、ディオニシスのいた地底湖はリゾート地にゃん』

『同じ液体マナでも性質が全く違うにゃん』

『あっちは液体で安定してるにゃん、こっちは気体が液化して溜まってる状態にゃん、不安定もいいところにゃん』

『オレたちが走り回って波風を立ててるから余計に荒れてるにゃん』

『にゃあ、ウチらの通った後は地獄にゃん』

『確かに地獄にゃん』

『いや、ここは私たちが通る前から既に地獄だぞ』

 宇宙服みたいな物理防護服に身を包んだミマがしみじみ呟く。

『この先は、もっと地獄にゃん、しかも何か動いてるにゃん』

『何だって?』

『にゃあ、確かに動いてるにゃん』

 ヨウも確認した。

『魔獣では……ないにゃんね、幻獣の可能性はどうにゃん?』

 幻獣は、魔力に依って構成される知的生命体だ。このヤバい環境下でも存在が可能なはずだが、人間とはコミュニケーションはまったく取れない。オレの格納空間にも一匹いるが、例に漏れずだ。

『にゃあ、ここからだと良くわからないにゃんね』

 ロアが意識を集中して探るが駄目なようだ。

『迷宮がここに来て、牙を剥いてきたにゃん』

 アルが警戒する。

『本当に迷宮の機能なのか?』

 ミマが疑問をていした。

『違うにゃん?』

『それもここからだとハッキリわからないにゃんね』

 専門家のセリにもわからないらしい。

『これだけマナが濃いのに更に嫌がらせをするとも思えんが』

『あまり意味がない気もするにゃんね、でもオレの常識が通じないヤツかも知れないにゃんよ』

『にゃあ、実際に確認するしかないにゃん』

 セリが魔法蟻を蠢くものの反応に向ける。

『オレとしては、避けて行きたいにゃん』

『安全第一にゃん』

『そうにゃんね』

『ちょっと進路をずらせばいいにゃん』

 アルたちもわけのわからないモノはパスで賛成だった。

『にゃお、お館様、それは駄目にゃん! 遺跡の謎は解明する必要があるにゃん!』

『同感だ、謎は解かなくてはならない、それが我らの使命だ!』

 専門家がうざいにゃん。

『わかったにゃん、何が動いてるのか確認するにゃん』

『にゃあ、地獄で蠢いてるものだから、たぶんろくなモノじゃないにゃんよ』

 ロアが魔法蟻の上で腕を組む。

『間違いないにゃん』

 オレも同意だ。

『逆にいいものだったら驚きにゃん』

 ヨウが肩をすくめた。

『そうにゃんね、度肝を抜かれるにゃん』

 アルも頷く。

『なに、このマナの濃度だ、そう脅威になる様なモノではあるまい、ヤバいモノなら既に襲い掛かって来てるはずだ』

『にゃあ、現に移動はしてないみたいにゃん』

 セリが耳をピクピクさせる。

『にゃあ、このマナの中で動いてるだけで十分にヤバいにゃんよ』

『本当にヤバかったら逃げるのみだ』

『その意見には賛成にゃん』


 専門家の熱意に押し切られ魔法蟻たちの進路を良くわからないモノに向けた。

『一〇分も掛からない距離にゃん』

『蠢いているモノの少し前に出るにゃん』

『一応、認識阻害で行くにゃん』

『この環境でどれほど効果があるかは謎にゃん』

『それでもそのまま前に出るよりはずっとマシにゃん』

『にゃあ、最初から防御結界は限界まで厚くしてるから、人型魔獣の分解魔法までなら何とか防げるにゃんよ』

『それは心強いな』

『アレよりヤバいのが出て来たら、ウチらは問答無用で消すにゃん』

 アルが宣言する。

『消すのか?』

『にゃあ、当然にゃん』

 ロアが同意する。

『先手必勝にゃん』

 ヨウも直ぐに殺る気だ。

『攻撃は本当にヤバい時だけにゃんよ』

 一応、注意しておく。

『だぞ』

『ウチらに任せるにゃん』

 アルは引き受ける。

『『にゃあ、』』

 ロアとヨウも声を揃えた。

 コイツら絶対に先に殺る気だ。


 魔法蟻たちは次々と壁を突き抜け何やら蠢いているモノがいる通路に出た。


『流石にここに来ると何なのかわかるにゃんね』

 オレは探査魔法を打つまでもなく蠢くモノの正体を把握した。猫耳たちも同じだ。

『半エーテル体にゃん』

『知識としては知っていたが、実物は初めてだ』

『にゃあ、生身の状態で出会ったら大変にゃん、半エーテル体がまとってるマナだけで死ねるにゃん』

『だろうな、それで今回の半エーテル体はどんな形なんだ?』

『にゃあ、人型にゃん』

『大きいのか?』

『大きさは普通にゃん』

『そうか、だったら桁外れに強いってことは無いか』

『ところがそうでもないにゃん、数が半端ないにゃん』

『半端ない?』

『四~五万ってとこにゃんね、通路にみっしりと詰まってるにゃん』

『元人間なのか?』

『そうみたいにゃんね、ただどれほど元の状態を保っているかは不明にゃん』

『この環境では、ほぼ無い可能性が高いにゃん』

『数押しで襲い掛かられると面倒にゃん、慎重に進むにゃん、ミマはオレたちがガードするからいちばん後ろで頼むにゃん』

『『『にゃあ!』』』

『おう!』



 ○ヌーラ 地下迷宮 通路


 通路には予測どおり半エーテル体がぎっしりと通路に止まっていた。半透明の白い身体は遠くからは白い霧みたいだ。

『にゃあ、やっぱり元は人間にゃんね、ちゃんと魂が入ってるにゃん』

『ただ人間の形だけで、記憶とかは完全に抜け落ちるみたいにゃんね』

『お館様、魂は利用できそうにゃん?』

『問題なくイケそうにゃん、ただこの場所じゃ無理にゃん』

『すると魂を確保にゃんね』

『にゃあ、それで行くにゃん』

 魂は狭い場所にも収納可能なので、空間拡張魔法を使えば四~五万とは言え何とか持ち運べるだろう。

『お館様、半エーテル体が迷宮のシステムと繋がってるみたいにゃんよ』

 アルが前方に目を凝らした。

『そうみたいにゃんね』

『繋がってるとなると下手に魂を抜けば迷宮のシステムに警報が行く可能性があるにゃん』

 ロアが難しい顔をする。

『にゃあ、ここで遺跡にウチらの存在を知らせるわけにはいかないにゃん』

 ヨウの言葉通りここに来て迷宮とやり合いたくはない。

『魂を回収するのは諦めた方がいいにゃんね』

『どうしてこんな場所にこれほどの魂が堆積してるのだろう?』

『たまたまたくさんの魂が近くに有ったからにゃんね、それを迷宮がマナと一緒に吸いんだと思うにゃん』

『たまたまこんなにたくさんの魂が漂っていたと?』

『にゃあ、栄えていた領地に魔獣の森が出来たのなら、それなりに被害が出たはずにゃん』

『マコトは魔獣の森の発生と迷宮の造営がほぼ同じと推測するわけか』

『他に魂を取り込んだ説明が思い付かなかっただけにゃん』

 ミマと念話をしつつ更に半エーテル体の塊に近付く。

 やはり魂の状態で半エーテル体に変化したらしく、生前の記憶は失われていた。

 その姿は人型だが、性別などの認識できないデフォルメされた人形のようだ。動きはまるで風船で作ったみたいにフワフワしている。

 それが大量に絡み合い通路を塞ぐように詰まってる。

『お館様、認識阻害の結界が効いてるというより、最初から認識する機能が無さそうにゃんよ』

 ロアが半エーテル体の能力を確かめた。

『完全に迷宮と一体化してる状態にゃんね』

『どうやら半エーテル体が迷宮に寄生して魔力をちょろまかしてるみたいにゃん』

『それが迷宮と繋がっている真相だったにゃんね』

『そこは人間ぽいにゃん』

『迷宮も半エーテル体の存在は想定外みたいにゃん』

 アルが迷宮との繋がりを確認する。

『にゃあ、すると迷宮から切り離しても平気にゃん?』

『問題無さそうにゃん』

『そもそも迷宮側から、半エーテル体は見えて無いにゃん』

『迷宮のシステムから見えていたら、そのまま吸収されていたにゃん』

『にゃあ、おかげで貴重な魂が回収できるにゃん』

『始めるにゃんよ!』

 猫耳たちに声を掛けた。

『『『にゃあ!』』』

 使うのは聖魔法。迷宮のシステムは聖魔法に関しては全く関知しない様だ。

『にゃあ、マナが濃いせいでお館様の聖魔法の効きが半端ないにゃん』

 青い光はオレたちのところまで拡がる。

『聖魔法がマナの濃度にここまで左右されるとは知らなかったにゃん』

『にゃあ、この濃度は普通に存在しないから、試して無かったにゃんね』

『魔獣の森程度では、それほど変化は無かったにゃん』

『聖魔法の根本の魔法式を修正する必要ありにゃんね』

『ああ、これはちょっと気持ちいいかも』

 オレたちが聖魔法について話し合ってるところに最後尾のミマからうっとりした声が混じった。

『みゃあ! ミマが昇天しないようガードにゃん!』

『『『にゃあ!!!』』』

 オレたちは慌ててミマを聖魔法から隔離した。

 オレたちがドタバタしてる間も高速道路のトンネルみたいな空間にぎっしり詰まった半エーテル体が青い光に包まれ、その中の魂が浮き上がる。

『魂を回収にゃん!』

『『『にゃあ、回収するにゃん!』』』

 新たに魔法蟻のお尻にくくりつけたバッグに半エーテル体から分離した魂を回収して詰め込む。

『どんどん行くにゃんよ』

 魂たちの光で眩しい。

『おお、これは凄いな』

 さっき魂たちの仲間入りするところだったミマも大量の魂の光に感嘆の声を漏らす。

 魂たちは光の川のように流れ魔法蟻のお尻のバッグに吸い込まれる。

 オレと猫耳四人でそれぞれ一万弱の魂を回収した。合計四万弱だ。

 魂を喪った半エーテル体は、聖魔法の青い光とともに消えた。

『回収完了にゃん』

『では、迷宮の中心に一気に行くぞ!』

 ミマが腕を振り上げた。


 魔法蟻たちが最後の壁をぶち抜く。後は通路は道なりに二〇〇メートルってところだが、マナの潮流が凄い。

『にゃああ、これは凄いにゃん』

 ダムの放流みたい濃度どうこういう以前に物理的に押し流されるマナの量だ。防御結界がなかったら押し流されていた。

 一旦、停止する。

『防御結界とかはなさそうにゃん』

『扉も無いにゃん』

『ちょっとした広間があるだけにゃんね』

『そこが玄室にゃん?』

『場所としては玄室だろうな、本当にそうかは確認する必要有りだ』

『にゃあ、このマナでは扉も作れないにゃんね、玄室とは違う可能性が高そうにゃん』

 マナの激流を前にしてセリも慎重になってる。

『普通はこういう場合、どうやって玄室を確認してるにゃん?』

 ミマとセリに質問する。

『犯罪奴隷を使う』

『犯罪奴隷にゃん?』

『にゃあ、犯罪奴隷を歩かせてまずは罠の有無を探るにゃん、最低でも三人は使うにゃん』

『中心の手前まで罠もないみたいにゃんね』

 ロアが探った。

『だったら進むだけだろう』

『ウチが先頭で行くにゃん』

 セリが手を上げた。

『『『駄目にゃん』』』

 アルたちから駄目が出た。

『にゃ、何でにゃん!?』

『『『危ないからにゃん!』』』

『にゃあ、オレもそう思うにゃん、ここはオレが先頭で行くにゃん』

『お館様も危ないにゃんよ』

『危ないから、防御力がもっとも強いオレが先頭にゃん』

 猫耳たちが同等の魔法を使えるとは言え、扱える絶対的な魔力量はオレが上を行く。


 先頭が決まったところでどう考えても不自然なマナの流れに逆らって距離を詰める。これだけマナが流れていたら罠なんて作っても意味が無さそうだ。



 ○ヌーラ 地下迷宮 中心部


 迷宮の中心に到着した。

『にゃ?』

 膨大なマナを放出する一メートルほどの石球。

 それを抱え込んだ女の子の彫像が迷宮の中心にあった。


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