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大迷宮でビバークにゃん

『では、移動開始にゃん!』

 行き先を迷宮の中心に変更、壁と床を交互に穴を開けて進む。

 遺跡の内部は常に動いている。

 それでもオレたちの移動速度が勝っていた。

 多少凸凹とした軌跡を描きながら遺跡の中心に近付く。オレたちは魔法蟻が三体なのでミマたちより速度が出ている。

「この調子なら、ヤバいことになる前にミマたちに追いつけるにゃん」

「にゃあ、不慮の事故も未然に防げるにゃん」

「不慮の事故というより起こるべくして起こる事故にゃん」

「約束された事故にゃん」

 アルたちは容赦ない。

「信用が無さ過ぎにゃんね、でも、オレもそう思うにゃん」


 余計な事故を回避すべく速度を上げて突き進む。


 迷宮を構成する刻印からは、オレたちは全く見えない状態なので防御結界が発動することはない。

 迷宮の結界は、ほぼすべて現代魔法で賄われている。

「実に見事な魔法式にゃん、刻印も二五〇〇年もの間、稼働しているのに劣化がほとんどないにゃん」

「にゃあ、本当にそうなら刻印だけど効果は永久魔法に近いことになるにゃんね」

 アルが迷宮の刻印と永久魔法と比べる。

 永久魔法は刻印無しで効果が持続する魔法だ。

「雑味の無い綺麗な魔法式は見ていて気持ちいいにゃん」

 ロアがうっとりする。

「刻印も見事なものにゃん」

 ヨウも同意する。

「この刻印がどれぐらい持つか確認してみたいにゃんね」

「にゃあ、ウチが試してみるにゃん」

 アルが手を上げた。

「任せたにゃん」

 アルが自分の格納空間で、遺跡の刻印のコピーを使って擬似的に時間を進ませて劣化具合を検証する。

「お館様、これは凄いにゃん、一万年ほど擬似的に進ませたけど魔法式も刻印もぜんぜん劣化しないにゃん」

「にゃあ、それは凄いにゃん」

 一万年は凄い。

「刻印で一万年も使えるなら、もう永久魔法と変わらないにゃんね」

「にゃあ、まさにそうにゃん」

「現代魔法もなかなか奥が深いにゃん、ここまでのことはできるとは夢にも思わなかったにゃん」

 ロアがしみじみ呟く。

「勝手にしょっぱいものと決め付けてたけど違っていたにゃんね」

 ヨウも頷く。

「実際、いまの現代魔法はしょっぱいにゃん」

「にゃあ、魔法馬もまともに作れないわ、獣には効かないわ、刻印は打ち直しがやっとでしかもブレまくるわで、もー大変にゃん」

 ロアは目を閉じて語る。

「「「わかるにゃん」」」

「自分の魔法で首を飛ばしたヤツを見たことあるにゃん、危なくウチも真っ二つになるところだったのも、いまとなってはいい思い出にゃん」

 アルたちは、いい思い出がいっぱいありそうだ。

「魔法の暴走にゃんね、ヘボい魔法使いの定番のヘマにゃん」

「ヘボいヤツは長生きしない、自然の摂理にゃん」

「オレの近くには、ヘボい魔法使いは居なかったにゃんね」

「にゃあ、ヘボい魔法使いは主に三流の盗賊団に生息してるにゃん、お館様だったらヘボさを見る前に瞬殺してるにゃん」

「魔法使いには先手必勝にゃん」

「にゃあ、確かに魔法を打たせないのは基本中の基本にゃんね」

 ロアは元魔法使いだけあって造詣が深い。

「更に基本は魔法使いと事を構えないことにゃん、それが長生きする秘訣にゃん」

 アルが語る。

「それにしては、オレに襲い掛かって来たにゃんね」

 アルの前世のアール・ブルーマー男爵は二〇〇を越える盗賊を引き連れてオレに襲い掛かって来て返り討ちにあった。

「にゃあ、それは当時のウチの掴んだ情報から、お館様が本物の魔法使いだとは少しも思って無かったからにゃん」

「それでもアルボラ州領主カズキ・ベルティのヤバさは知っていたから、ウチらも万全は図ったにゃん」

「まさか、お館様こそが桁外れの魔法使いだったとは夢にも思わなかったにゃん」

「瞬殺だったにゃんね」

「にゃあ、瞬殺にゃん」

「いまとなっては、いい思い出にゃん」

「「「にゃあ」」」

 思い出話をしつつもアルの格納空間で実験が続く。

「魔法式の雑味が刻印を劣化させる原因の一つみたいにゃんね、迷宮の刻印はこのままなら一万年は機能を維持できるにゃん」

「雑味が混ざると劣化するにゃん?」

「そうにゃん、魔法式にゴミを混ぜると一気に劣化が進むにゃん、逆に綺麗な状態だとほとんど劣化しないにゃん」

「にゃあ、これは大発見にゃんね」

「お館様、そうは言っても、この迷宮の刻印の魔法式みたいなモノは、なかなか真似は出来ないにゃん」

「そうにゃんね、こんなに綺麗な魔法式を作るのは、かなり難しいにゃん」

 オレも頷く。

 雑味はないということは完全に最適化された魔法式ということだ。言うは簡単だが実際に組むのは至難の業だ。

「もっと簡単に構成できるように要研究にゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちは声を揃えた。

「魔法式をギリギリまで追い込むのは楽しそうにゃん、オレも研究するにゃん」

「お館様が追い込んだら何でも永久魔法になりそうにゃんね」

「にゃあ、そんなに簡単にはいかないにゃんよ、それにどうせなら刻印が要らない本物の永久魔法が欲しいにゃん」

「永久魔法はまだ、研究が進んでないみたいにゃんね」

「そうにゃんね、いま研究拠点の猫耳たちは、こぞって三型マナ変換炉の解析に掛かりきりだから仕方ないにゃん」

 天使様のロックを外すわけにはいかないが、似たものを作るのはセーフだろうということで。

「にゃあ、永久魔法は急いで欲しいわけじゃないから、じっくりやるにゃん」

「「「にゃあ」」」


 猫耳たちと話し込んでるうちにミマたちを捕捉した。壁に穴を開けたところで魔法蟻に跨った二人を見付けた。

「やっと追い付いたにゃん」

「マコト、早いな」

「ミマとセリのことが心配でお館様が急いだにゃん」

「ウチらも心配してたにゃん」

「にゃあ、無事で良かったにゃん」

 ミマとセリがやらかす前に合流できたのは幸いだ。

「にゃあ、ちょうどいいにゃん、今日はここでキャンプするにゃん」

「こんなところで足を止めるのか?」

 ミマは不満顔だ。

「もうかなり遅い時間にゃん、ミマは迷宮を彷徨ってるうちに時間の感覚が無くなったみたいにゃんね」

「迷宮に落ちてからずっと魔法蟻の上で生活してたからな」

「魔法蟻の上で生活にゃん?」

「にゃ? 言ってる意味が良くわからないにゃん」

「ふたりとも魔法蟻から降りてないにゃん?」

 アルたちはちょっと引き気味。

「ウチとミマは、寝ている間も魔法蟻で移動していたにゃん」

 セリは胸を張る。

「にゃあ、ご苦労にゃんね」

「遺跡の中はのんびりする場所じゃないからな」

「ウチらにとって遺跡は戦場にゃん」

 誇らしげなミマとセリ。

「にゃあ、一度戦死しただけはあるにゃんね、でも今日は明日の突入に備えてゆっくりするにゃん」

 また死なれると面倒くさいし。

「明日、突入するだと?」

「にゃあ、明日には迷宮の中心に到達するにゃんよ」

「ちょと待て、本当にそんなに早く到着するのか?」

 ミマはオレの見積もりが信じられないらしい。

「迷宮に穴を開けて最短を行くからそんなものにゃん、特製の魔法蟻が五匹もいれば寝てる間に遺跡が幾ら動いても平気にゃん」

「にゃあ、距離的にはお館様の言う通り明日中に届く距離にゃん」

 セリも遺跡の中心の正確な位置を把握した。

「わかった、身体を休められるのは正直なところありがたい」

「にゃあ、以前の身体よりは魔力が上がっていても、ここは即死レベルのマナの場所にゃん、それなりに消耗してるはずにゃん」

「そうなのかもな」

 ミマは自分の身体をチェックする。転生者とはいえオレや猫耳とはちがう普通の人間だ。無理は禁物だ。



 ○ヌーラ 地下迷宮 ロッジ


「寝床はウチが作るにゃん、大きくしない方がいいにゃんね」

 ロアが手を挙げる。元々魔法使いなのでロッジを作るなんて朝飯前だ。

 深夜だけど。

「にゃあ、頼んだにゃん、風呂だけは大きめで頼むにゃん」

「お館様と一緒にお風呂にゃんね、心得たにゃん」

 壁に扉が現れる。

 オレたちは魔法蟻に乗ったまま出来たてのロッジに入る。

 そこは直ぐにカーペット敷きのホールになっていた。五人と五匹でほぼいっぱいになる大きさだ。魔法蟻は軽自動車ぐらいあるから小さくは無い。

『『『……』』』

 魔法蟻たちが口をカチカチさせる。

「にゃ、魔法蟻たちもお風呂に入りたいにゃん?」

『『『……』』』

 魔法蟻たちは揃って右前脚を挙げた。



 ○ヌーラ 地下迷宮 ロッジ 風呂


「にゃあ、そこそこ汚れてるにゃんね、それと魔法蟻の魔法式にも現代魔法じゃないけどゴミが混じってるにゃん」

 ホールよりも広いお風呂の洗い場で魔法蟻たちを泡だらけにしながらスポンジで手洗いする。

 ついでに魔法式をチェックしたところ、元の魔法蟻の魔法式から残されていたゴミが多数発見された。

 大元はオリエーンス連邦時代の軍用のトンネル&地下拠点建設用の魔法生物だ。

 じっくり見るまでもなく最適化がイマイチだった。以前はそこまで読み解くことが出来なかったが、いまははっきりとわかる。

「魔法式も綺麗にするにゃんね」

 魔法蟻たちの魔法式をブラッシュアップする。

『『『……』』』

 口をカチカチさせる。

「魔力の通りが良くなったそうにゃん」

「にゃあ、魔法蟻もまだ改良の余地があったにゃんね」

「共通の魔法式を土台に魔法蟻専用の差分を追加して組み上げてるからどうしても無駄が発生するにゃん」

「魔法馬も軍用馬は基本が同じになるにゃんね、魔法牛と魔法鶏は違うみたいにゃん」

「にゃあ、牛も鶏も軍用じゃないから当然にゃん」

『『『ニャア』』』

「「「……?」」」

「いま、魔法蟻が鳴いたにゃん」

『『『ニャア』』』

 魔法蟻たちが右前脚を掲げた。そして猫耳がぴょこんと出た。

「バージョンアップすると猫耳が生えるのは何故にゃん?」

「私に聞かれても困るが」

 ミマは困った顔で肩をすくめる。

「お館様が手を加えると猫耳が生えるのは、この世界の謎のひとつにゃんね」

 セリが腕を組んで頷く。

『『『ニャア』』』

「にゃ、今度は魔法蟻たちがオレたちを洗ってくれるにゃん?」

「私はいいぞ」

 ミマが後ずさる。

『ニャア』

「遠慮は不要だそうにゃん」

「いや、でも、ちょ!」

 魔法蟻は問答無用でミマを前脚で捕まえて洗い始める。

「にゃ?」

 オレも魔法蟻に抱え上げられて耳から尻尾の先まで丁寧に洗われた。



 ○クプレックス州 クプレックス街道 街道脇


「今夜は、ここで野営するってさ」

 ケントルムの騎士から話を聞いたキャリーがジープに戻って来た。

「随分と走ったのです」

 ベルが運転席にちょこんと座ってる。キャリー小隊は三台のジープに分乗していた。

「私たちは、マコトのところから魔法車を貸して貰ったから、ぜんぜん平気だけど、騎士の人たちは結構大変そうだね」

「寒さが予想以上なのです、これはこたえるのです」

「出発前は、私たちを口説こうとしてたのにね」

 後部座席からイルマが降りた。

「いまはそんな元気もないみたいだね」

 二台目のドライバーを務めたエルダがケントルムの騎士たちを見た。騎士たちはいずれも動きが鈍い。

「その点、ジープは快適だね、私も運転したけど初めてなのにこんなに楽に動かせるとは思わなかったよ」

 カタリーナは二台目の助手席に乗車していた。

「マコトが作っただけはあるのです」

「快適を求めてますからね」

 ベルとキャリーは得意げだ。

 キャリー小隊は、王都タリスを出発直前に現れた猫耳たちに乗って行く様にとジープを渡されたのだった。

「私たちも野営の準備をしようか?」

「それがいいですね」

 フランカとレーダは、二台目の後部座席だ。いずれも休憩ごとにドライバーを交代している。

「このまま魔法車の中で寝ちゃってもいいですよ」

「本当、これ快適ですし」

「直ぐに眠くなっちゃうのが玉に瑕ですけど」

 三台目に乗っていたのはリリアーナとロレッタとミーラの魔法剣士トリオだ。

「マコトのテントよりそっちがいいなら構わないよ」

「キャリーは物分りのいい隊長なのです」

「「「中将閣下のテントでお願いします!」」」

 三人は声を揃えた。

「了解なのです、ではテントを出すからジープはまとめて格納するのです」

 ベルが三台のジープを格納する。

「「「おお、寒い!」」」

 ジープの防御結界が切れて寒風に晒される小隊の面々。

「風を遮るモノがないからね」

 麦畑の真っ只中とあって吹きさらしになってる。

「思っていた以上に風が強いのです」

「キャリーとベルは平気なの?」

 エルダは自分の肩を抱く。

 鍛え抜いている小隊の面々だが、やはり寒いものは寒い。

「魔法馬の防御結界を切っちゃ駄目だよ」

 キャリーが小隊の面々を見て呆れ顔。

「「「ああっ!」」」

 格納してある魔法馬の防御結界を展開すると一瞬で暖かで穏やかな空気に包まれた。

「マコトの魔導具に囲まれてると、兵士として駄目になるのです」

「それはあるよね」

 キャリーとベルが頷き合う。

「あちらは手伝わなくていいの」

 カタリーナがケントルム大使館の連中が大型のテントを組み上げてる方向を見る。

「魔法使いがいるから手伝い不要だって」

「ケントルムの宮廷魔導師は雑用もこなしてくれるんだね、ベルと一緒だね」

 フランカは感心してケントルムの準備を眺める。

 風が強い中、大小幾つものテントが張られた。

「王国の宮廷魔導師は使えないですから」

 レーダは、苦笑い。

「ケントルムは魔導具のレベルも高いのです」

「でも、大変そうだね」

 魔法使いたちも長距離移動で疲れているみたいだ。更に吹き付ける寒風に身体を震わせている。

「その点、マコトのテントは一瞬で展開するのです」

 キャリーがテントを格納空間から再生させる。

 以前のテントと違って大きいドーム型テントだ。これも出発前に猫耳たちに渡されていた。

「おお、これは立派だね」

「シンプルだけど恐ろしく高級な素材が使われてるのがわかるのです」

「マコトも限度を知らないけど猫耳たちも同じだね」

「マコトの仲間だけはあるのです」

 小隊の面々はただ頷くだけだ。


「小隊の皆様のお夕食をご用意いたしますがいかがでしょう?」

 フレデリカの側仕えイライザがやって来た。

 彼女はアナトリの人間なので、グランキエ大トンネル前までの同行だ。

「イライザさん、私たちに敬語は不要だよ」

「そうなのです、ただの庶民なのでお気遣いなくなのです」

「「「そう」」」

「マコト公爵様のお友だちに気安く接するわけには参りません」

「マコトだって元は迷子の子供だよ」

「魔法が得意なだけのいい子なのです」

「いい子なのは同感です、でも私の命の恩人ですからやはり気安くは参りません」

「わかった、無理強いはしないよ、ああ、それから寒い時は格納してある魔法馬の防御結界を使うといいよ」

「魔法馬の防御結界ですか?」

「そう、イライザさんもマコトから魔法馬を貰ってるでしょう?」

「はい、頂いております」

「方法は簡単なのです、魔法馬が教えてくれるのです」

「そう、格納空間に入れたまま防御結界を軽く展開するだけ、後は魔法馬が最適化してくれるから大雑把でいいよ」

「あっ、はい」

 イライザは頷いて目を閉じた。

 そして直ぐに驚いた表情を浮かべ目を開く。

「どう?」

「出来ました、全然寒くなくなりました」

「マコトが用意してくれた便利機能だから使ってあげてね」

「はい」

「油断すると展開を忘れるから注意なのです」

「「「うん、そう」」」

「それで夕食だけど、こちらはもう準備ができてるから大丈夫だよ」

「お気遣い感謝なのです」

「本当によろしいのですか?」

「問題ないよ、逆にアイリーン様たちをご招待したいところだけど、お許しは出ないよね」

「それは難しいかと思われます」

 今回グランキエ大トンネルまで同行するケントルムの大使館の人間が、アイリーンとの接触を拒んでいた。

「イライザさんも居づらくなったらこっちに逃げて来ていいよ」

「それは大丈夫です、皆さん親切ですから」

「一人を除いてでしょう?」

「あー、それはノーコメントでお願いします」

 副大使オラース・クーランの声の甲高い痩せた男が一行を仕切ってるのだが、アナトリへの敵対心を隠そうとしていなかった。

 まだ二〇代半ばで副大使をしているのだから優秀な人材なのだろうが、かなり余裕のない感じだ。

「では、私は戻ります」

「うん、じゃあ、またね」

「困ったことがあったら直ぐに教えるのです」

「はい、ありがとうございます」


 イライザは小さく手を振ってケントルム大使館の用意したテントに戻って行った。

「私たちもテントに入ろうか」

「雪が降って来たのです」

 白いモノが風に混じり始めた。

「積もらないといいけどね」

「多分、マコトたちの造った道路ならいくら降っても大丈夫だと思うのです」

「じゃあ、大変なのはケントルムの騎士の人たちだけだね」

「いくら冬装備でも、私は遠慮したい任務なのです」

「雪中行軍は、私ももうやりたくないな」

「それは更に嫌なのです」

「「「同感!」」」

 意見が一致したところでテントに入った。


『『オ帰リニャン』』

 玄関ホールで二体の猫耳ゴーレムが小隊のメンバーを出迎えた。

「まさかの猫耳ゴーレム付き」

『ニャア、うちラガきゃりー小隊ノオ世話ヲスルニャン』

「お世話付きとは驚きなのです」

 キャリーとベルも驚きを隠せなかった。

「ホテルより上って感じ」

「本当にテントなの?」

 以前のテントを知っているはずのエルダとカタリーナも改めて驚く。

『オ食事ニャン、ソレトモオ風呂ニャン?』

「「「お風呂もあるの!?」」」

 リリアーナとロレッタとミーラの三人が顔を見合わせる。

「やっぱりマコトのテントだったらお風呂は付いてるか」

「当然なのです」

 キャリーとベルはまた頷き合う。

「私はまずはご飯がいい」

 イルマが手を上げた。

「賛成なのです、お腹ペコペコなのです」

 ベルも同意した。

「他の皆んなはどうします」

「「「ご飯!」」」

 キャリーの問いに残りの全員が声を揃えた。


『直グニ準備スルニャン、てーぶるデ待ツニャン』

『今夜ノめにゅーハ、ぷりんきぴうむノほてるカラノオ取リ寄セニャン』

「ここで作ってるわけじゃないんだ」

『ニャア、ココデ作ルノモ可能ニャン、デモ、本物ノ味ヲオ届ケスルニャン』

「本物は嫌いじゃないのです」

『おるほふほてるぐるーぷヲ代表スル料理人、あとりー三姉妹ノオ手製ニャンヨ』

 テーブルに見たことの無い料理が並べられる。

「「「美味しそう」」」

「食べる前から幸せなのです」

『オ館様ガ教エタめにゅーヲあとりー三姉妹ガあれんじシタニャン』

「「「いただきます!」」」

『オカワリモイッパイアルニャン』

 あっという間にお腹いっぱいになった。


 夕食の後、少し置いてから風呂にチャポンと入るキャリーとベル。

「いいお湯だね」

「マコトのところじゃないと、こんなたっぷりのお湯に浸かれないのです」

『『ニャア』』

 猫耳ゴーレムたちも一緒に湯船に浸かっていた。

「この気持ち良さを知ってしまうと、直ぐにまた入りたくなっちゃうよね」

「まったくなのです」

『コレカラハ、コノてんとガアルカラ好キナ時ニ入レルニャン』

「うん、最高」

「最高なのです」

『にゃあ、お疲れにゃん』

「「マコト!?」」

『にゃあ』


 念話を入れたらキャリーとベルはお風呂に入っていた。

『にゃあ、急にケントルムに行くって聞いたからビックリしたにゃん』

『それは、私たちも同じだよ、王都に戻って直ぐにだったから』

『話を聞いた一時間後には出発していたのです』

『猫耳たちがいろいろ貸してくれて助かったよ』

『大助かりなのです』

『にゃあ、これから冬本番なのにケントルムの人間も無茶をするにゃん』

『それは私も思う』

『何かヤバめのことは、ありそうにゃん?』

『いまアナトリと事を構えても損をするのはケントルムだから、滅多なことにはないだろうというのが王宮内の見解なのです』

『ケントルムが損するにゃん?』

『小麦の輸出が始まったばかりだからね、大使は本国の通達に耳を疑ったらしいよ』

『小麦にゃんね』

『ほぼ全数がマコトのところの小麦だね』

『いまやアナトリの戦略物資なのです』

『にゃあ、オレのところで買い取った小麦も混ざってるにゃん』

 価格の暴落を防ぐ為に他の産地の小麦を買い集めている。

『マコトの小麦であることに変わりは無いよ』

『無いのです』

『みんなが無事でいてくれれば、オレとしては問題ないにゃん』

『明日は、アーヴィン・オルホフ侯爵様たちが合流することになってるから、マコトの手をわずらわせることにはならないんじゃないかな』

『アーヴィン様は明日の合流にゃんね』

『アーヴィン・オルホフ様がいるのを知って襲い掛かって来るような盗賊はいないから、たぶん平和なのです』

『にゃあ、オレもそう願うにゃん、それでキャリーとベルはいつ帰って来るにゃん?』

『任務が完了するのは早くても半年後かな』

『そのぐらいなのです』

『にゃあ、半年も会えないのは嫌にゃん』

『半年なんて直ぐだよ』

『直ぐなのです』

『帰りはオレが迎えに行くにゃん』

『それはちょっと難しいかな』

『にゃ!? 六歳児が迎えに行ったら体裁が悪いからにゃん?』

『そうでは無いのです、ケントルムがアナトリの貴族の入国を拒否する可能性が高いのです』

『にゃお』

『マコトの場合、公爵様だからね、余計にハードルが高いよ』

『公式な訪問である必要があるのです』

『にゃあ、ハリエット様に頼むにゃん』

『それでも難しいと思うよ、今回は親書を渡すって大義名分があったからゴリ押しで許可をもぎ取ったけど』

『みゃあ』

『マコトを心配させるような事態には陥らないから大丈夫だよ』

『公式な訪問である以上、あちらでの安全は保証されているのです』

『了解にゃん、オレが行けない分、出来るだけバックアップはさせて貰うにゃん』

『暴れちゃ駄目だよ』

『駄目なのです』

『そこは相手次第にゃん、出来るだけ穏便に済ませるから二人には迷惑は掛けないにゃん』

『判断はマコトに任せるよ』

『表沙汰にならなければセーフなのです』

『にゃあ、そこは心得てるにゃん』



 ○ヌーラ 地下迷宮 ロッジ


 キャリーとベルと念話を終えて毛布に潜り込もうとしたところで身体が浮き上がった。

「にゃ?」

 魔法蟻に抱え上げられた。

『ニャア』

 隣の魔法蟻の背中に乗せられる。

「にゃあ、魔法蟻の上で寝るにゃん?」

『『『ニャア』』』

「順番にゃんね、にゃあ、いいにゃんよ、オレは寝てるから適当にやっていいにゃん」

 バージョンアップした魔法蟻の背中は、前よりも寝心地が良かった。


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