表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/357

女子旅にゃん

「ネコちゃんは、州都に軍人さんたちを見送りに行ったんだよね、それで今度は別の女の子と妖精さんを連れて来たの?」

 後部座席のデニスが御者台の後ろに張り付く。

「にゃあ、シャンテルとベリルは、プリンキピウムのおばあちゃんちに行くにゃん、リーリは途中で一緒になったにゃん」

「あたしは面白そうだからマコトに付いて行くの」

 リーリがオレの頭の上から補足する。

「妖精さんに気に入られるなんてネコちゃんはやっぱりスゴいね」

 セリアも張り付く。

「マコトはご飯も美味しいんだよ」

「そうだよね、ネコちゃんの焼いてくれたお肉とってもおいしかった」

「うん、あんなに美味しいの初めてだったわ」

 ふたりが思い出してるのを見てリーリもうっとりとした表情をする。

「おいしかったよね」

 やはり盗み食いしてたらしい。

「焼肉って、美味しいよね?」

 妖精はオレにも同意を求める。

「にゃあ、美味しいにゃんよ」

 焼肉を出さないと収まらない感じだ。

 シャンテルとベリルはキョトンとしている。

「にゃあ、後ろにいるふたりのお姉さんはプリンキピウムの冒険者ギルドの職員で、デニスとセリアにゃん」

 シャンテルとベリルにデニスとセリアを紹介する。

「おばあちゃんは、以前プリンキピウムの冒険者ギルドの職員だったらしいです」

 シャンテルからおばあちゃんの情報が出た。

「だったらデニスとセリアが知ってるにゃんね」

「おばあちゃんのお名前は何て言うの?」

 セリアが質問する。

 オレもおばあちゃんの名前は聞いて無かった。

「おばあちゃんの名前はノーラ・ダッドです」

 シャンテルが答えた。

「「ノーラさん!?」」

 デニスとセリアは顔を見合わせる。

「えっ、だったらふたりはノーラさんのお孫さんなの?」

「にゃあ、デニスとセリアはシャンテルとベリルのおばあちゃんを知ってるにゃん?」

「もちろん知ってるよ」

 セリアは当然といった顔をする。

「ノーラさんは、三年前までギルドの職員だったからあたしたちも良く知ってる、病気をされて引退されたけど、とても優秀な人だったな」

 デニスが詳しく教えてくれた。

「にゃあ、ノーラさんのお家は知ってるにゃん?」

「勿論知ってるよ、プリンキピウムに到着したらあたしが案内してあげるね」

 セリアが請け負ってくれた。

「にゃあ、ふたりとも良かったにゃんね、おばあちゃんちに迷わず行けるにゃん」

「ありがとう、お姉ちゃんたち」

 ベリルは後ろを向いてお礼を述べる。

「おばあちゃんて、どんな人なんですか? 私たち一度も会った事がないんです」

 シャンテルは不安と緊張の入り混じった表情を浮かべていた。

「ノーラさんは、自分にも他人にも厳しい人ね、公明正大、あなたたちのことはちゃんと受け入れてくれるはずよ」

「ただ、ノーラさんは身体を悪くされてるから、手助けするのはあなたたちになるかもしれないね」

 デニスとセリアが答えてくれた。

「にゃあ、ばあちゃんの手助けはオレにもできるかもしれないにゃん」

「ネコちゃんが、おばあちゃんを助けてくれるの?」

 ベリルがオレを見詰める。

「にゃあ、おばあちゃんにとっていちばんの助けはシャンテルとベリルだと思うにゃん、オレはその補助にゃん」

「そう、いちばんはシャンテルちゃんとベリルちゃんだね、ネコちゃんが味方してくれるのも心強いし」

 デニスも同意してくれた。



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群 街道脇


 昼ごはんは、カツサンドだ。

「美味しい!」

 最初に齧り付いたリーリが声を上げた。

「ネコちゃん、これってブタのお肉じゃない?」

 一口食べたデニスが言い当てた。

「そうにゃん、ブタの肉にゃん」

「いいの、ブタなんか食べさせて貰って?」

「にゃ、ブタ肉は高いにゃん?」

「ウシと同額かそれ以上ね」

「にゃあ、随分と高いにゃん」

 肉としてはほぼ最高ランクだ。

「そりゃね、ブタなんかに出くわしたら普通は狩ろうなんて考えないで一目散に逃げるべき相手だもの」

「ネコちゃんは、ブタも倒したってこと?」

 セリアが聞いてくる。

「にゃあ、昨日オレのロッジに来たから倒したにゃん」

「ブタが残ってたらギルドにも売ってくれない? ネコちゃんたちがいなくなった途端、売上が激減なんだもん」

「元に戻ったとも言うけどね」

「いいにゃんよ」

「ふう、ネコちゃんが帰って来てくれたから今週の売上は何とかなりそうね、いまのペースが維持できればボーナスは確実ね」

 超個人的な理由にゃんね。

「にゃあ、プリンキピウムには冒険者がいっぱいいたと思ったけど、違ったにゃん?」

「残念ながらブタやウシを狩る高ランクの冒険者は現在いないの、プリンキピウムの最上位がCランクだから仕方ないのだけど」

「オレなんかFランクにゃん」

「ネコちゃんは、直ぐにランクアップ間違い無し!」

「ランクアップすると何かいいことあるにゃん?」

「獲物の査定額が上がるわ」

「ランクが高い冒険者が狩った獲物の方が高く売れるからね」

「だったら、オレもランクアップを目指すにゃん」

「マコト」

 セーラー服の袖をリーリに引っ張られる。

「焼肉食べたい」

「にゃあ、そう言うと思ってこれも作ってあるにゃん」

 焼肉サンドを出してやった。

 調理は格納空間を使ってる。

「これって焼肉なの?」

「にゃあ、食べてみればわかるにゃん」

「そうだよね」

 妖精が豪快に焼肉サンドにかぶりついた。マヨネーズと秘伝のタレで口の周りがベチョベチョだ。

「本当だ、焼肉だよ、美味しい!」

 皆んなはリーリが焼肉サンドを平らげる様子を不思議そうに見ていた。



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群


 午後もファンタジーな巨木群の間を走る。静謐とした世界にオレの馬車の音だけが響いた。

 お腹いっぱいになった皆んなはお昼寝中だ。オレは逆に眼が冴えていた。たぶんマナの濃度が不安定なせいだ。

 プリンキピウム巨木群がこの街道の中でいちばん危険なエリアだと思う。

 濃度の高いマナは魔法使いでも厄介な代物だ。しっかり防御できなければ一般人よりも大きなダメージをエーテル器官に食らう事になる。

 いまのところ精霊がどうのこうのな事件を引き起こすほどの濃度には達していない。昼間は比較的安定しているみたいだ。油断は禁物だけどな。


「にゃあ、そろそろ野営の準備に入るにゃん」

 日が傾き掛けたのでさっさと夜に備えることにする。

「ネコちゃん、野営地はまだ先だからここからなら引き返した方が近いよ」

 後ろからセリアが教えてくれる。

「にゃあ、野営地は使わないにゃん」



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群 街道脇


 街道から外れて大木の裏側に回り込んで馬車を停めた。街道からは直接見えない場所だ。いまのところはマナも安定している。

「ネコちゃん、プリンキピウム巨木群では野営地以外での野営は厳禁よ、直ぐに引き返しなさい」

 デニスが厳し目に命じた。

「にゃあ、さっきの野営地は駄目にゃんよ、今夜は精霊が出るにゃん」

 不安定なマナが近くに渦巻いていた。

「あの野営地の結界では防げないにゃん、まだここの方がマシにゃん」

 地面にわかりやすく刻印を打つ。

 魔法陣が馬車を中心に広がる。

「これって防御結界!?」

 デニスが看破した。

「当たりにゃん、デニスは魔法式が読めるにゃんね」

「多少はね、大して使えないけど」

「野営地じゃなくていいってこと?」

 セリアは不思議そうに周囲を見回す。

「たぶんね、ネコちゃんの防御結界が野営地のそれより桁違いに強力なのはわかったから」

 デニスが難しい顔をして答えた。

「にゃあ、それにオレとしては街道から見えない方が都合がいいにゃん」

 ロッジを出す。

「「おお!」」

 デニスとセリアは驚きの声を上げた。

 ふたりにロッジは見せた事が有ったが、出すところを見せるのは初めてか。

「にゃあ、これを狭い野営地に出すわけにはいかないにゃん」

 実は近衛軍対策だけどな。

「「う、うん、そうだね」」

 デニスとセリアは何度も頷いた。


「皆んな中に入るにゃん」

 馬と馬車を消してオレもロッジに入った。



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群 街道脇 ロッジ


 オレとリーリはシャンテルたちと一緒に風呂に入ってる。デニスとセリアはロッジのリビングでくつろぎ中だ。


「騒がしくてごめんにゃん」

「いいえ、そんなことないです、おばあちゃんのこといろいろ教えてくれましたし」

 シャンテルに気遣われてる大人二名。

「楽しいおねえちゃんたちだよ」

 ベリルもいい子だ。

「プリンキピウムのおばあちゃんは、ふたりのお父さんのお母さんにゃん、それともお母さんのお母さんにゃん?」

「お父さんのお母さんです」

「シャンテルとベリルのお父さんのことも聞いていいにゃん?」

「はい、お父さんは冒険者でした、でも三年前に狩りに出たまま戻って来ませんでした、だからもう私たちにはおばあちゃんしかいないんです」

 シャンテルの目から大粒の涙が流れた。

「お姉ちゃん」

 ベリルがハラハラしてる。

「にゃあ、ふたりにはオレも付いてるから安心して欲しいにゃん」

「あたしも付いてるよ!」

 湯おけでくつろいでいるリーリも声を上げた。

「マコトさんもリーリさんも本当に親切なんですね」

「まあね」

「それほどでもないにゃん、とにかくふたりのことは何が有ってもオレが守ってやるにゃん、だからしょぼくれちゃダメにゃん」

「はい」

 シャンテルは泣き笑いの表情で頷いた。


 夕食の後は、うつらうつらし始めたシャンテルとベリルをベッドに連れて行った。

 リーリとデニスとセリアは元気いっぱいだ。

「ふたりは、もう一つの寝室を使って欲しいにゃん」

「ネコちゃんは何処に寝るの?」

「オレはいつもこのリビングに布団を敷いて寝てるにゃん、外を眺めて寝るのが好きにゃん」

「あたしはマコトのおなかの上だよ」

 妖精にそんなことを許可した憶えはないのだが。

「いいなそれ、あたしも一緒に寝ようかな」

「わたしたちもここで寝るね」

「外から丸見えだけどいいにゃん?」

「街道から森の中に入り込んだ場所だよ、見られたとしても人間じゃないだろうし、そもそも見られて困る格好じゃないし」

「うん、これなら困らない」

「それより、防御結界で守られているのはわかるけどガラスって大丈夫なの?」

「ガラスの様でガラスじゃないから大丈夫にゃん」

 デニスとセリアのふたりはオレの用意したスエットを着てる。

 野営前提の移動では、下着以外の着替えは持ち歩かないそうだ。

 だから簡単なウォッシュを使える人は多いとか。

「ふたりは、シャンテルとベリルのおばあちゃんと親しかったにゃん?」

「仕事のいろはを叩き込まれたよ、厳しいけど優しい人ね」

「でも、息子が行方不明になっても嫁や孫には援助しなかったにゃん?」

「三年前だとノーラさんも身体を壊した時期だから思うようには動けなかったんじゃないかな?」

「息子さんが冒険者になるのは反対してたみたいね、旦那さんも冒険者で若くして命を落としてるから」

「それじゃ複雑にゃんね」

「ノーラさんだったら、あの子たちをちゃんと受け入れてくれるはずだから、そこはネコちゃんも安心していいよ」

「本当にゃん?」

「うん、あたしたちが保証する」

 デニスとセリアが保証してくれるなら大丈夫か。後は自分の目で確かめるだけだ。


 ふたりともリビングで寝ると言うので、オレたちは川の字になって寝た。

 おなかの辺りがもぞもぞしていた。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月〇一日


 翌朝、デニスとセリアの寝相の悪さはオレに勝るとも劣らないことはわかった。

 三人そろっておなかまる出しにゃん。

 そしてオレのおなかには妖精が張り付いていた。


 朝食は、トーストにベーコンそれにスープにサラダだ。

「ネコちゃんが作ってくれるご飯、朝からすごく美味しいんですけど」

「うん、美味しい、シャンテルちゃんとベリルちゃんもそれに妖精さんもそう思うでしょう?」

「思います、どれもとっても美味しいです」

「あたしも!」

「マコトのご飯だからね、当然だよ!」

「にゃあ」

 オレの認識では、こっちの食い物が不味いだけだ。

 ただ、美味しいものの存在が証明された農村はあなどれないけどな。

「ネコちゃんて、本当は貴族様なんじゃないの?」

「にゃあ、詳しくは知らないけど、貴族は自分でご飯を作ったりしないと思うにゃん」

「だったら没落した貴族で、いまは冒険者に身をやつしてるとか?」

「悪くないにゃんね、でもこれだけ稼いでたら普通は没落しないにゃんよ」

「そうよね」

「ところで貴族は美味しいものを食べてるにゃん?」

「食べてるんじゃない、貴族に知り合いがいないから本当のところは知らないけど」

 セリアが肩をすくめた。

「ギルマスが貴族出身だから聞いてみたら?」

 デニスから衝撃の事実が告げられた。

「にゃ!? デリックのおっちゃんがそうにゃん? 貴族にあるまじき筋肉にゃん」

「ギルマス本人は家督を継いてないから、いまは平民だって言ってるけど」

「デリックのおっちゃんでは、料理の味は知っていても作り方は知らなそうにゃん」

「ああ、それはあるかも」



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群


 本日も巨木群を走る。

 二頭立て+魔法車の馬車は速度も乗り心地も十分だ。

 おかげでオレ以外は全員が居眠りしてる。

 それもまた気楽でいいにゃん。

 しかしさっきから後を付けられてる。速度を上げてもしっかり付いて来る。

「付いて来なくてもいいにゃんよ」

 デカいオオカミの群れが左右から追って来ている。

「どうもオレはこっちのオオカミに好かれる体質みたいにゃん」

「そうみたいだね」

 頭の上ではリーリが寝そべってくつろいでいる。

「特異種では無さそうだけど、どれも普通のオオカミより大きいにゃん」

「マナが濃いところには結構にいるよ、こんな薄いところには来ないんだけどね」

「普段は森の奥にいるヤツらにゃんね」

「そういうこと」

 右側に五頭、左に五頭、真後ろに三頭の十三頭の群れだ。

 オレは両手に拳銃を再生して握った。

 そして御者台に立ち上がり一気に連射して全部を仕留めた。


「いま、何か音がしなかった?」

 セリアが目を覚ました。

「にゃあ、別になにもしてないにゃんよ」

「ごめんねネコちゃん、いつの間にか寝ちゃった」

「いいにゃんよ、何か有ったら起こすにゃん」

「ううん、大丈夫」

 そう言ったが一〇分も経たぬ間にまた寝息が聞こえた。

 そして森の中を並走する足音も。

「にゃあ、また来たにゃんね、にゃ!? 金色にゃん」

 金色の狼だった。

「珍しいのが来たね」

「金狼にゃんね、これまたデカいにゃん」

 これまでと違って完全に待ち伏せされていた。

「にゃあ、でもオレの馬車が止まると思ったら大間違いにゃんよ」

 左右を三頭ずつ、前方を五頭の金狼が固めている。合計十一頭だ。

 どれも牛ほど大きい。

 オレは馬車の速度を緩めること無く金ピカ狼に突っ込む。

 前方の金狼は馬を避けて馬車を襲うつもりらしいがそうはいかない。

「にゃあ!」

 避けるモーションに入った金狼を馬車の防御結界が弾きオレの拳銃でとどめを刺した。そして地面に落ちる前に分解する。

 並走していた金狼たちも全ていただく。

 金ピカの毛皮、オレは恥ずかしくて使えないけど需要はありそうだ。



 ○プリンキピウム街道 街道脇 ロッジ


 結局、プリンキピウム巨木群を抜け、夕方になって馬車を停めるまでにオオカミの群れを三つばかり葬り去った。


 夕食はオオカミのハンバーグを出す。

 こっちのオオカミは癖がなくて美味しいにゃん。

 いや、日本にいる時に食べたことはないけどな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ