ヌーラの大迷宮にゃん
○ヌーラ 地下迷宮に繋がる穴
迷宮に繋がる穴は垂直ではなく、螺旋を描いていた。
「にゃあ! グルグルにゃん!」
「これは面白いにゃん!」
「最高にゃん!」
「にゃははは!」
早くも壁面はマナの濃い遺跡に見られる乳白色の白い壁を確認した。
ミマもセリも防御結界を展開していたから怪我をせずに済んだが、普通の人間だったら即死レベルのマナの濃度だ。
オレたちを乗せた魔法蟻たちは、螺旋の穴をクルクルと回転して降りる。
「かなり深いにゃんね」
魔法蟻の巣なみになかなかキツい螺旋が延々と続く。
「この穴、換気口にゃん?」
「可能性としてはあるにゃんね」
オレの問いにアルが同意する。換気の必要があるのかがわからないけどな。
「少なくとも人間が出入りする穴じゃないにゃん」
「落とし穴の類でもなさそうにゃん」
ロアとヨウも検証する。
グルグル回りながら話し合う。
「どうも遺跡のシステムのバグっぽいにゃん」
「バグにゃん?」
首を傾げる。
「本来は不要なはずの換気口が、消されずに残ったにゃん」
「にゃあ、だからこんな中途半端な感じにゃんね」
「中途半端だけどちゃんと完成してるにゃん」
「確かにこれはこれで、完成した形にゃん」
正解はこの遺跡のシステムを調べないことにはわからない。
『お館様、報告があるにゃん』
王都の猫耳から連絡が入った。
元王国宰相のニエマイア・マクアルパインだったエマだ。フェルティリータ州の州都カダルから王都に戻っていた。
『何かあったにゃん?』
『にゃあ、フレデリカ元第一王女様とアイリーン元第二王妃様のケントルムへの帰国が急遽早まったにゃん』
『にゃ、随分と急にゃんね、春になってからの移動じゃなかったにゃん?』
ケントルム王国には極地に近いグランキエ州の大トンネルまで移動しなくてはならないから冬の旅路はかなり過酷だ。
『当初の予定ではケントルム王国から迎えの使者が、王都まで来ることになっていたにゃん、それがさっき、大使館の人間が迎えに来たにゃん』
『すると今日出発にゃん?』
『にゃあ、あちらの王命だそうにゃん』
アイリーン様たちは今朝、ケラスから戻ったばかりなのにケントルム国王の命令となれば拒否は出来ないか。
早く情報が欲しいだけなのかもな。
『大使館の人間がケントルムまで送って行くにゃん?』
『グランキエの大トンネルまでにゃん、そこでケントルムの迎えの使者と合流するらしいにゃん』
『冬道にゃんよ、大丈夫にゃん?』
『にゃあ、護衛としてキャリー小隊それにハリエット陛下の名代としてアーヴィン・オルホフ侯爵の派遣を決めたにゃん』
『アーヴィン様にゃん? いま王都にはいないはずにゃん』
『領地のニービス州から途中で合流するにゃん』
『了解にゃん、それで護衛はキャリー小隊とアーヴィン様だけにゃん?』
『キャリー小隊の派遣は、最初ケントルム側から拒否られたけどアーヴィン卿の護衛として王国軍がねじ込んだみたいにゃん、それと元からの守護騎士がふたりにゃん』
『キャサリンとエラにゃんね』
『にゃあ』
『何処まで護衛するにゃん?』
『ケントルム王国の王都フリソスにゃん、アーヴィン様はハリエット陛下の親書を届ける役目を担っているにゃん』
『にゃあ、キャリー小隊とアーヴィン様たちだけでケントルムまで行くにゃん、大丈夫にゃん?』
『全員、お館様から魔法馬を下賜されてるにゃん、しかもキャリー小隊は特務中隊のエリートにゃん、並の転生者より強いにゃん、アーヴィン卿に至っては魔獣も狩れそうにゃんね』
『キャリー小隊がそこそこ強いのは知ってるにゃん、でもアーヴィン様と違ってピンと来ないにゃん』
『キャリーとベルがお館さまの友だちだからにゃんね』
『そうにゃん』
いろいろ装備は渡してあるがキャリーとベルの印象は、オレの中では初めて会った時のままだ。
『にゃあ、バックアップはウチらが万全を期すにゃん、それとブラッドフィールド傭兵団にケントルム国内の調査依頼を出したにゃん』
『ユウカのところにゃんね』
『にゃあ、アイリーン様たちの帰国が早まった理由を知る必要があるにゃん』
『そうにゃんね』
『ケントルムの国王ハムレット三世は、アイリーン様の輿入れを最後まで渋っていたにゃん、だから直ぐに呼び戻したのもその辺りが理由だとは思うにゃん、でも、ウチらの情報を欲しているフシも有るから念には念を入れるにゃん』
『輿入れを渋ってたにゃん?』
『にゃあ、遠方に嫁がせるぐらいなら手元に置いて置きたかったみたいにゃん』
『王様でも親にゃんね、でも、結局は娘を送り出すあたりは国王にゃん』
『ケントルム王国は、アナトリで言うところの貴族派だけで構成されてるような国にゃん、貴族たちの意向には逆らえないにゃん』
『そりゃ大変にゃんね』
『その代わり、貴族たちからかなり巻き上げたらしいにゃん、アナトリからも随分払ったにゃん』
『にゃあ、したたかにゃんね』
『まとまりのないケントルム王国を存続させてるだけはあるにゃん、きっとアイリーン様が帰国したら慰謝料の請求があるにゃんね』
『ハリエット様は、払うにゃん?』
『言い値では払わないにゃん、でも、それなりの金額は覚悟にゃんね』
『にゃあ、いい感じにまとめて欲しいにゃん、それと宰相が空席の分、ハリエット陛下の補佐を頼んだにゃん』
『お任せにゃん』
現在、落下中なのでキャリーとベルに連絡を入れるのは控えるが、小隊の現在位置だけは確認した。
なるほど王都タリスを抜けて西隣のタンピス州に移動している。フィーニエンスから戻ったばかりなのに大変にゃん。
元国王の関係で一時的に自領のニービス州に戻っていたアーヴィン様たちも途中で合流するべく移動を開始していた。
ルート的にはタンピス州から更に西に抜けてクプレックス州に抜けて、オレの領地になった旧フェルティリータ連合を抜けて大トンネルのあるグランキエ州に行くのだろう。
いずれも魔獣に荒らされた地域だが、猫耳たちの努力と奮闘で道路は完全復旧しているから通行は問題ないはずだ。
ただ街は別の場所に新しく作り直してるので、野営は必須かもな。危険な獣や盗賊の類はいないので安全面は問題はないだろう。ただ寒いけどな。
「にゃ!?」
キャリーとベルの位置を確認したところで、僅かな違和感を尻尾に感じた。
魔法蟻は変わること無くグルグルなわけだが、空気とマナの濃度が一気に変わる。
「これは空間圧縮魔法にゃん?」
「にゃあ、お館様そうみたいにゃん、一気に八〇〇〇メートルほど下がったにゃん」
アルが確認する。
「八〇〇〇メートルとは、随分と深く潜ったにゃんね」
ミマとセリの落ちた迷宮が、魔法蟻のトンネルに引っ掛からなかったことから、空間圧縮魔法を併用しているんじゃないかと予想はしていたが、想像を越えた深さだった。
「流石の魔法蟻のトンネルも深度八〇〇〇メートルは手付かずにゃん」
「ぶつからないわけにゃん」
「にゃあ」
ロアとヨウも頷く。
『『『……』』』
魔法蟻たちが口をカチカチさせる。
「にゃあ、そうにゃんね、その深さは用事は無いにゃんね」
『『『……』』』
「やる気になればその倍は軽く潜れるにゃん?」
「すると深度一万六千にゃん?』
「それは凄いにゃん」
猫耳たちも感心する。
『『『……』』』
「謙遜しなくていいにゃんよ」
「「「にゃあ」」」
マナの濃度は、普通の人間が即死してもお釣りが来る濃さになってる。
「まだ底に着かないにゃん?」
「もう少しあるにゃんね」
「マナの濃さが尻尾にビリビリするにゃん」
「にゃあ、底はもっとビリビリしそうにゃん」
「オレならビビって途中で降下を中止するレベルの濃さにゃん」
「ミマとセリは、一味違うにゃん」
「遺跡最優先にゃん」
「にゃあ、二人だって一歩間違えば、またカチンコチンの彫像になる濃度にゃんよ」
「一度、カチンコチンになってるのに懲りない連中にゃん」
「でも、慎重なミマとセリというのも違和感があるにゃん」
「「「にゃあ」」」
アルの言葉にオレたちも同意の鳴き声を上げた。
「二人が何かやらかす前に行くにゃんよ!」
『『『……!』』』
ロアの号令に魔法蟻が加速する。
「にゃああああ! 速度は上げなくていいにゃん!」
遠心分離機並にグルグルされてやっと迷宮らしき場所に到着した。
○ヌーラ 地下迷宮
「にゃふぅ~、やっと迷宮にゃん」
途中、空間圧縮で短縮されたとは言え、目が回りそうなほどグルグルされた。
「なかなか立派な迷宮にゃん」
降り立った場所は、片側二車線のトンネルぐらいありそうだ。ただかまぼこ型じゃなく筒のままのチューブ状なので形は魔法蟻のトンネルに近い。
右も左も魔法蟻のライトが届かないぐらい真っ直ぐ通路が伸びている。
「どっちも長そうにゃん」
「ここがミマとセリの落ちた場所にゃん?」
「そのはずにゃん」
アルたちもキョロキョロする。
セリの視界に残された映像を共有してるが、マナの濃い遺跡特有の白い空間なので、何処も一緒に見える。
「少なくとも念話が来た座標はここで間違いないにゃん」
「深度八三〇〇メートルにしては、マナが濃い以外、環境は悪くないにゃんね」
言われなければ、そんなに深い場所にいるとは思わないだろう。
エアコンが効いてる感じだ。
マナが即死レベル以上だけどな。
「にゃあ、お館様、どっちに行くにゃん?」
アルが左右を見る。
「右にゃん?」
ロアが右を指差す。
「左にゃん?」
ヨウが左を指差す。
「ここはショートカットにゃん、いまからミマとセリを馬鹿正直に追い掛けても追いつくのに何日も掛かるにゃん」
「にゃあ、でも、迷宮に穴を空けて大丈夫にゃん?」
アルが心配するのはもっともだ。
下手に傷をつけると防御機能が発動して面倒臭いことになる。
「迷宮のシステムに侵入して穴を空けるにゃん」
幸いこの迷宮のシステムは単純なのでハッキングは簡単だ。
『そういうわけでミマとセリは止まるにゃん!』
暫く放置していた二人に念話を入れた。
『おっ、マコトか? 久しぶりだな』
『にゃあ、面倒事が片付いたから助けに来たにゃん』
『もうちょっと遅くても構わなかったぞ』
普通の人間なら死んでる環境だが、ミマにブレは無い。
『お館様、この遺跡は二五〇〇年前ぐらいのものみたいにゃんね、ヌーラの謎に一歩近付いたにゃんよ』
念話でもセリの興奮が伝わる。
『にゃあ、二五〇〇年前と言うとオリエーンス帝国の出来た頃にゃんね』
『だからヌーラのこの遺跡は、オリエーンス帝国の皇帝もしくは、それに近い人間の墓所ではないかと推察される』
『墓所にゃん?』
『オリエーンス連邦時代の遺跡なら、他の用途も考えられるが、二五〇〇年前だと墓所以外に迷宮は無いな』
『ウチもそう思うにゃん、しかもこの規模感からするに他の人間とも考えられないにゃんね』
ミマとセリが断言する。
『ここで棺でも発見したにゃん?』
『いや、それはまだだ』
『にゃあ、残念ながらいくら進んでも風景が少しも変わってないにゃん』
『ずっと遺跡の中を彷徨っていたにゃんね』
『常識はずれの大きさだ』
『同じところをグルグルしてたと違うにゃん?』
『これが同じところは通ってないにゃん』
『それは本当に常識はずれにゃんね』
『何日もずっと遺跡の中に居られるのは、最高にゃん』
『うん、最高だ』
念話でも楽しそうなのが伝わる。
『オレには良くわからない感覚にゃん、とにかく今から回収するから隊列を止めるにゃん』
『マコト、この遺跡を出る前に玄室を確認させて欲しい』
『にゃあ、ウチからもお願いするにゃん』
ミマとセリからおねだりされた。
『ご遺体に対面したら、ツタンカーメンみたいに呪いとかあると違うにゃん? こっちのは本当にあるから困るにゃん』
『呪いか? 有ったとしてもマコトの持ってる封印図書館に比べたら児戯に等しいってヤツだろう』
『オリエーンス帝国黎明期なら、連邦時代と比べて呪いのレベルはガタ落ちにゃん』
封印図書館に限らず現代魔法は確かに矮小化している。
『にゃあ、だからって油断は禁物にゃんよ』
ミマとセリに釘を刺したが、とは言え、封印図書館に収集された呪い以上のモノがあったら驚きだし、そんなヤバいモノは絶対に潰す必要がある。
『玄室にこの遺跡の謎のすべてが隠されているはずだ、これは解明するしかない!』
『にゃあ、だから行くべきにゃん!』
ミマもセリも鼻息が粗い。
『わかったにゃん、何があるかオレも興味があるから調べるにゃん、でもヤバいのが出て来たら問答無用で潰すにゃんよ』
『了解だ』
『本当に大丈夫にゃん?』
『ギリギリまでは調べさせて貰うけどな』
『にゃあ』
死んでも根本は変わらないミマとセリだ。
オレたちも魔法蟻を止めてヌーラの大迷宮のシステムに侵入する。
「にゃあ、簡単な魔法式が使われているけど、増殖を繰り返して刻印自体が膨大な数に膨れ上がってるにゃん、これは穴を空ける度にハッキングしないと駄目にゃんね」
「それでも遺跡の大雑把な全容を引き出すことは出来そうにゃん」
アルは迷宮のシステムに偽装した探査魔法を混ぜて遺跡の外周を探索する。
その結果、遺跡は巨大な球形をしており、空間圧縮の魔法で実際の迷宮はその数十倍の大きさになっていることがわかった。
「完全に生きてる遺跡にゃんね」
活発に自動生成されており、いまも大きさを増している。おかげで迷宮として意味をなさないほど異常な大きさになっていた。
「貴重ではあるけど、残念ながら転用が効かない代物にゃん」
「大きすぎて迷宮としても使えないにゃん」
「空間圧縮もごくオーソドックスにゃんね、見るべきものは無いにゃん」
「遺跡と言っても二五〇〇年前だから仕方ないにゃん」
「にゃあ、見どころは迷宮よりもそれを構成する刻印にゃん、どれも雑味のない綺麗な魔法式が使われてるにゃん」
元魔法使いのロアらしい見どころだ。
「それと他の遺跡と違ってマナの生成は遺跡自体では行ってないにゃんね、魔獣の森から吸い取ってるみたいにゃん」
確かにロアの言う通り迷宮にはマナを生成する機能は無かった。
「余計なマナを消費することはいいことにゃん」
アルは腕を組んで頷く。
「にゃあ、消費だけじゃなくて相当溜め込んでるにゃんね、中心に近いほど凄いことになってるにゃん」
ヨウが白い壁を指差す。
濃いマナのせいで白く変質した石壁が厚みを増している。
「封印の刻印が無いのも他との違いにゃんね」
閉じ込める系の結界はなかった。
「にゃあ、そうにゃんね、何も封じ込めてないにゃん」
オレも魔法式を確認する。
「わざわざ封じ込めなくても、ここから逃げようにも簡単には逃げ出せないにゃん」
「封印は不要にゃん」
「遺跡に使われてる結界の刻印は、どれも防御系にゃんね」
「厄難じゃ無くて何か大事なモノを隠している感じにゃん」
「ミマたちの考察した墓所だという想定が合うにゃん」
「やっぱりオリエーンス帝国の皇帝あたりにゃん?」
「セリの知識から引用すると確かにオリエーンス帝国黎明期に造られたと思しき形式が散見するから間違い無さそうにゃん」
ミマとセリの見立てに間違いないらしい。
「まさに二五〇〇年前にゃん」
「約一〇〇〇年前に造られた城壁とは時代が違ってるにゃんね」
「大いなる災いと迷宮は直接の関係はなさそうにゃん」
「ヌーラの城壁は、人間にとっての最大の災いである魔獣の森を囲っているので、そちらが正解かもにゃん」
「一〇〇〇年前に栄えていた四つの州が魔獣の森に沈んだって話も時代が修正されそうにゃんね」
「にゃあ、いくら八〇〇〇メートルの地下でも街の真下にこんな迷宮を作ったら、必要なマナまで吸われて人間が住めなくなるにゃん」
マナゼロの環境でも人間は問題なく生活できるが、体内のマナまで吸い取られると身体を動かせなくなり、更にエーテル器官が機能を停止して魔法も使えなくなる。
「そうにゃんね、この迷宮が造られた後に魔獣の森が出来たとは思えないにゃん、順番としては街の後に魔獣の森で最後に迷宮にゃん」
「それじゃないと成立しないにゃん」
「すると城壁の年代も怪しいにゃんね」
「にゃあ、ただ遺跡とは使われてる刻印の様式が違うから、直接的な繋がりは無さそうにゃん」
「少なくとも別の人間の作にゃん」
ロアが断定する。
「城壁が無かったら、隣接する大公国やアブシント州なんかが魔獣の森に沈んでいた可能性が高かったにゃん、やっぱり魔獣の森を封じ込める為に造られた感じにゃんね」
「この迷宮もかなりのマナを吸い取っているから、結果として魔獣の森の活性化を押さえるのに一役買っているにゃん」
「にゃあ、膨大な量のマナを消費してるのにまだ魔獣の森が維持してるぐらいにゃん、遺跡がなかったらマジでヤバかったにゃんね」
「城壁だけじゃ到底、抑えられないレベルになっていたはずにゃん」
「少なくとも迷宮も城壁も人間の役に立ってるにゃん」
「人間の味方にゃん」
「味方にしては中に入った人間を生かして帰すつもりが微塵も感じられないにゃんよ」
ヨウの疑問がもっともだ。
「遺跡は大抵そういうものにゃん、盗賊に優しい遺跡なんてこの世には存在しないにゃん、少なくともウチらは当たったことがないにゃん」
「そうにゃんね」
「危なく死にそうになったのもいまとなってはいい思い出にゃん」
アルたちは遺跡荒らしもやっていた様だ。
「侵入者は全員盗賊ってくくりになるにゃん」
「遺跡には荒らす人間しか来ないから、自然とそうなるにゃん」
「まずは遺跡荒らしの大御所ミマとセリに合流にゃん」
「「「にゃあ」」」
○ヌーラ 地下遺迷宮 横穴
システムに介入して壁に魔法蟻が通り抜けられる穴を穿ち、向こう側の通路に繋げる。
「壁の厚さは一〇メートルってところにゃんね、遺跡の材質はコンクリートもどきに似てるにゃん」
「魔法以外で穴を空けるのは無理そうにゃん」
「迷宮は生きてるから、魔法でも打撃でも攻撃したら反撃されるにゃん」
「にゃあ、ミマたちが下手なことをしなかったのは幸いにゃん、危なく生き埋めになってるところだったにゃん」
『我々が遺跡に傷を付けるとか、そんな素人臭いことをするわけなかろう?』
念話でミマから物言いが入った。
『にゃあ、死んでる遺跡でも傷を付けると危険にゃん、発掘に犯罪奴隷を使うだけの理由があるにゃん』
『一応、専門家なだけはあるにゃんね』
『一応じゃくて、ちゃんとした専門家だ』
『にゃあ、その専門家に聞くにゃん、開けた穴は塞いだ方がいいにゃん?』
『原状回復は当然だ』
『だったら、埋めるにゃんね』
通り抜けた穴を埋め、新たに前方の壁に穴を開けて進む。
「にゃあ、お館様、止まれって言ったのにミマとセリが移動してるにゃん」
最初に気が付いたのはヨウだ。
「これだからフィーバー中の専門家は困るにゃん」
「進路を修正にゃん」
ロアが魔法蟻たちに指示を出す。
「お館様、ヤツらの動き方が変にゃん、斜めに動いてるにゃん」
アルがミマたちのいるであろう方向を指差す。
ミマたちの反応が斜め上に動いている。
「にゃ!? どうなってるにゃん?」
『……』
「お館様、あっちの魔法蟻は停止してるそうにゃんよ」
ヨウがミマたちの魔法蟻の言葉を教えてくれる。
「にゃあ、すると迷宮が動いてるにゃん?」
「そうみたいにゃん」
「システムに侵入した時にはぜんぜん気が付かなかったにゃん」
「にゃあ、遺跡のシステムと言っても統一されてるわけじゃないから仕方ないにゃん」
「生きが良すぎる迷宮にも困りモノにゃん、ミマたちに近付くはずが離れてるにゃん」
「面倒くさいから、このまま二人を置いて帰るのはどうにゃん?」
「ミマとセリは放って置いても大丈夫にゃん」
「にゃあ、問題ないにゃん」
「ヤツらにとっては本望にゃん」
猫耳たちの提案は魅力的だ。
「オレも賛成にゃん」
『良くないぞ!』
ミマからクレームが入った。
『にゃあ、冗談にゃんよ』
『本当か?』
『本当にゃんよ、でも、このままじゃ永遠に追い付かないにゃん』
『ああ、確かに動いていたな、振動も無かったので私たちも最初は気付かなかった』
『にゃあ、遺跡が桁外れに大きいのがいちばんの要因にゃんね』
他人事みたいなミマとセリ。
『お前らも気付いていたなら、ちゃんとオレに教えるにゃん』
『ここまで規模が大きく動くのは珍しいが、良くある仕掛けだからな、知ってるものだと』
『にゃあ、報告する必要があるとは夢にも思わなかったにゃん』
『これだから専門家は困るにゃん』
『素人で遺跡に入るのは、駆け出しの盗賊と新入りの犯罪奴隷ぐらいだからな』
『迷宮が動くのは反則と違うにゃん?』
『ルールは迷宮側にある』
『盗賊は迷宮の養分にゃん』
『にゃあ、この遺跡の場合は、中が動くのは盗賊対策というよりマナを消費する一環ぽいにゃんね』
『これだけの大きさの遺跡が動くとなればかなりの量を消費するだろう』
『膨大にゃん』
『だからこうやって話してるうちに大きく引き離されるにゃん、ミマたちもこっちに向かって動くにゃん』
『私たちからもか?』
『にゃあ、セリに座標を送ったにゃん、どちらも移動しているから、毎回角度を変えて立ち止まらないように頼むにゃん』
『お館樣の座標を受け取ったにゃん』
『それと魔法蟻をバージョンアップするから、二人が乗ってる以外の魔法蟻とセットの猫耳ゴーレムは格納するにゃん』
『これまで一緒に来たのに格納するのか?』
『寂しいにゃん』
『一時的に格納するだけにゃんよ、いまの状態だと数が多すぎて迅速に移動できないにゃんよ』
『それもそうか』
『格納するにゃん』
セリが二〇〇からの魔法蟻とセットの猫耳ゴーレムを格納した。
『魔法蟻をイジるにゃんよ』
『魔法蟻?』
ミマが首を傾げた。
『にゃあ、直ぐにわかるにゃん』
オレはミマたちの乗ってる魔法蟻をバージョンアップさせた。
内蔵した特製の二型マナ変換炉が、直ぐにミマたちの周囲にあった大量のマナを吸収する。
『にゃあ、いきなりマナが通常レベルまで下がったにゃん』
セリが驚きの声を上げた
『そうなのか?』
ミマはピンと来ないみたいだ。
『息苦しさが無くなったにゃん』
セリがわかりやすく説明する。
『おお、言われてみれば』
深呼吸して確認する。
二〇〇の魔法蟻と猫耳ゴーレムが担っていた以上のマナの変換を二匹で処理する。
『にゃあ、ミマとセリからもショートカットで移動を頼むにゃん』
『了解した、合流はどうする?』
『遺跡の中心に向かってくれればいいにゃん、後はオレたちから追いつくにゃん』
『了解した、その後に玄室を探すぞ』
『にゃあ、玄室だったらこれから向かう遺跡の中心にゃん』
『玄室は中心なのか?』
『それは珍しい構成にゃんね』
『にゃあ、この遺跡の構造は単純にゃん、玄室を守るように迷宮が展開してるにゃん、普通は違うにゃん』
『最下層のいちばん奥まった場所に玄室に限らず重要なモノがある場合が多い』
『例外はほとんど無いにゃん』
『にゃあ、迷宮が自動生成されるせいで中心になってるにゃん』
『興味深い構造にゃん』
感心するセリ。
『目標の座標を再設定したにゃん、先に玄室前に到着しても二人で突入しちゃ駄目にゃんよ』
目をキラキラさせてるミマとセリに念を押す。
『大丈夫だ』
『問題ないにゃん』
即答するがかなり怪しい。
『にゃあ、わかってるならそれでいいにゃん、もし変なことをしようとしたら、こっちからコントロールして玄室前から地上に強制排除するにゃんよ』
『無論だ』
『無論にゃん』
ミマとセリは力強く返事をした。
何かあっても最悪二人がカチンコチンの彫像になる程度で留めて貰いたい。




