ヌーラに向かうにゃん
○悪魔の森 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
「フィーニエンスからとヌーラまで全部オレの領地を通って行くにゃん」
オレには大きな艦長席で足をぶらぶらさせながら傍らに立つビッキーに指示を出す。
「するとカンケル州から西のレオ州に抜けて、北のアルボラ州には入らずにそのまま西のウィルゴ州に入るのですね?」
「そうにゃん、アルボラと大公国は通らないで行くにゃん」
最短ならレオからアルボラと大公国を斜めに通り抜けるコースなのだが、今回は使わない。
「最短じゃないんですね」
「にゃあ、アルボラと大公国はどうしても人の上を通過するにゃん、認識阻害の結界を使っても戦艦型ゴーレムで速度を出して飛ぶと危険にゃん」
高度たった三〇〇メートルだから巻き起こす風だけでもヤバい。
「誰もいない魔獣の森上空を気兼ねなくぶっ飛ばした方が速いにゃん」
「了解しました」
空間圧縮魔法を使えば下に人家があろうが馬車が通っていようが関係は無いのだが、この戦艦型ゴーレムにはまだ実装していない。
戦艦型ゴーレムごと空間圧縮魔法を使うには、成長したとは言えビッキーたちだけでは荷が重い。
と言うかオレか猫耳じゃないとたぶん無理だ。
それ以前に今回はそこまでは急いでいないし。
ミマとセリならもう暫く放っておいても問題はないし、北方監視者の天使様も待ってくれるだろう。
急いでるならあっちから来るだろし。
そもそも待ち合わせ場所が伝説の地なわけだから、どんなに急いでも数ヶ月は掛かる案件だ。
艦長のビッキーの指示の下、魔の森の先史文明の都市を再生中の境界に沿って戦艦型ゴーレムを飛行させる。
まずは西にあるレオの研究拠点だ。
レオの研究拠点で三型マナ変換炉を調査する猫耳が大挙して乗艦することになってた。初のコピーガード付きの研究対象に猫耳たちは闘志を燃やしている。
そこには紛れもなく天使様の生の魔法が刻まれているわけで、オレたちには未知の世界が拡がっている。
「レオの研究拠点で猫耳たちを拾ったら、ウィルゴに抜けてエクシトマ経由でヌーラに入るにゃん」
ビッキーに告げる。
「了解です」
途中、本来の目的地であるエクシトマを通り抜けるという無駄な行程を踏むのだが、今回は致し方ない。どうせだから飛びながらオートマタの配置を行う予定だ。
既に隣接するオレの領地境界線から五〇キロ圏内には、オートマタが展開して魔獣の掃討とマナゼロ化が進められてるが、残念ながら廃帝都の手掛かりは何一つ発見されていない。
当初の予定は、ケラスからカズキのいるオパルスを経由して大公国に抜け、それからヌーラをかすめて旧貴族派の領地を幾つかを通ってエクシトマに入る王国の東から西に向かって横断する猫耳ジープで行くまったり旅だったが、フィーニエンスの一件でスケジュールが大きく変わってしまった。
遺跡大好きのミマとセリは似たような状況に陥ってる可能性が高いが、それでも戦艦型ゴーレムを引っ張り出したりチビたちが大きくなったりしなかったはずだ。
おかげでオレがまた一番ちっちゃくなった。
眼下では悪魔の森では、オートマタたちが走り回っているのが見える。まだマナの濃度が高いので何処からともなく魔獣が湧き出す状態だ。
魔獣が格納空間に自分を仕舞ってるのは確認されたが、すべてがそうなのかまだ断定できていない。
どれだけ湧き出そうとオレたちが駆逐するだけだが、そうは言っても魔獣も資源として見れば悪くない。魔獣は資源の宝庫なのだ。
オレたちが太刀打ちできないヤバいのが湧き出す可能性も否めない為、引き続き研究を進めている。
オレの領地に限ってもまだまだ手付かずの地域が大きい。
○レオ州 研究拠点 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
日没すぎ、オレたちを乗せた戦艦型ゴーレムは、ほんの数時間でレオの研究拠点に到着した。
研究拠点では昨日のうちに猫耳たちの手によってコピーした三型マナ変換炉が搭載された戦艦型ゴーレムの一番艦がライトを浴びて浮かんでいる。
オレたちは原理がわからなくてもひとまず触ればコピー出来るのだ。
『ニャオ』
一番艦は、なんか不機嫌そうな鳴き声を漏らしていた。コピーとは言えオリジナルと寸分違わぬ代物だ。
不機嫌になる要素など無いと思うのだが。
『どうかしたにゃん?』
一番艦にいる猫耳たちに念話を飛ばした。
『にゃあ、お館様がいないから拗ねてるにゃん』
『何でオレがいないと拗ねるにゃん?』
『ウチらの抱っこ会や猫耳ゴーレムのお風呂会と一緒にゃん、お館様と触れ合うことが三型マナ変換炉の最終的な起動キーになってるみたいにゃん』
『何で三型マナ変換炉にそんな面白機能が付いてるにゃん?』
「簡単だ、人間への技術移転の防止策だ」
天使アルマがオレの傍らに現れた。
「オレたちにはいいにゃん?」
「マコトたちなら問題はない、だが無条件とはいかないので、マコトをキーに使ったのだ」
「にゃあ、了解にゃん、天使様には迷惑を掛けない様に気を付けるにゃん」
「頼んだ」
天使アルマの姿が消えた。反応は一瞬でプリンキピウムのホテルに移動していた。何度見てもオレたちがいまだ解明出来てない瞬間移動の魔法だ。どう見ても空間圧縮じゃないし。
『にゃあ、お館様にはひとまずこっちに来て艦長席に座って欲しいにゃん』
研究拠点の猫耳からお願いされた。
『了解にゃん……にゃ?』
『ニャア、オ館様ヲ確保ニャン』
猫耳ゴーレムに抱き上げられた。
『いま、迎えをやったにゃん』
『念話より早く到着したにゃん、瞬間移動並みにゃんね』
『にゃあ、格納空間からお館様の近くで再生したから瞬間移動みたいなものにゃん』
念話をしてる間に猫耳ゴーレムに抱っこされたまま艦橋から運び出され、甲板に出たところで一番艦に向かって放り投げられた。
「にゃああああ!」
『確保ニャン』
しっかりキャッチされたが扱いは雑だ。
○レオ州 研究拠点 戦艦型ゴーレム一番艦 艦橋
戦艦型ゴーレム一番艦の艦長席に降ろされると一番艦全体が微振動した。
『ニャアア!』
なんか力がみなぎるといってるみたいだ。
既に新しい艤装は終了しているので、全体的に天使アルマ謹製の戦艦型ゴーレムとほぼ同じになってる。
『ニャア』
『ニャア』
いまも戦艦型ゴーレム同士でデータのやり取りを行っている。
ノルドで就航中の戦艦型ゴーレムと空母型ゴーレムにも搭載予定なので、近い内にまた艦長席に座らされることになるのだろう。
「にゃあ、準備はいいにゃん?」
エクシトマ州経由でヌーラに向かう戦艦型ゴーレムには三型マナ変換炉の解析班である二〇〇人の猫耳たちが乗艦することになっていた。
何でもかんでも同時進行しないといろいろ間に合わなくなってる。
同時進行でいろいろ事件が発生してるせいでもあるが。
「にゃあ」
オレは抱っこされてただ運ばれているだけなので、体感的に忙しいとかはない。
○レオ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
元の戦艦型ゴーレムの艦長席に戻されて、レオの研究拠点から慌ただしく出発した。
レオは既に魔獣の森が完全排除されているので、戦艦型ゴーレムで地上に大ダメージを与えながらの飛行は出来ないのでそこそこの速度で進む。
「にゃあ、ドラゴンゴーレムの時は気にならなかったけど、戦艦型ゴーレムに三〇〇メートルはやっぱ低いにゃんね」
「大きいですから仕方ありません」
○ウィルゴ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
いまはもう小さくない元チビたちと話しながら、何事もなくレオからウィルゴに抜ける。特に視界にかわりは無いが、日が落ちて月光草で青く光る大地を空から見下ろすのはやっぱり新鮮だ。
「にゃあ、そろそろ寝る時間にゃんよ」
元チビたちに声を掛ける。
「「「はい」」」
「「「お館様、一緒に寝よー」」」
「にゃあ、いいにゃんよ」
仕事を猫耳たちと交代したいまはもう小さくないシアに抱え上げられた。
甘えて頬擦りする辺りは大きくなっても変わらない。
ニアとノアにも頭を撫でられたり。
猫耳たちの尻尾の動きが激しくなってる。
次は自分たちの番だと思ってる様だ。
○ウィルゴ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 船室
フェーリーの二等船室みたいなカーペット敷きの部屋に運ばれる。こんな船室があったんだ。
「「マコト様、まずはお風呂です」」
「にゃあ」
隣が大浴場になってる。
ビッキーとチャスに手を繋がれてFBIに捕まった宇宙人的な絵面で大浴場へ。
○ウィルゴ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 大浴場
「にゃあ、みんな本当に大きくなったにゃんね」
裸になった五人の身体を眺めてしみじみ呟く。
ちゃんと女の子の身体になってる。
みんな美人さんにゃん。
チビと呼ぶのはもう失礼な感じだ。
「ビッキーは大きくなった身体はどうにゃん?」
「大きいほうが便利です」
オレの頭をシャンプーしてくれながら答えてくれる。
「私も便利です」
チャスが尻尾を洗ってくれてる。
「にゃあ、便利ならなによりにゃん」
誰かに洗って貰うのはやっぱり気持ちいいにゃんね。
「風呂は気持ちいい」
「にゃ?」
大浴場の湯船には、いつの間にか天使アルマが浸かっていた。いまだその瞬間移動の魔法の原理がまったく掴めない。
天使様とお風呂に一緒に入ると何かご利益が有りそうだ。
「お風呂の後のソフトクリームは最高だよね」
「ミンクもそう思うの」
リーリとミンクの二人の妖精がチャポンとオレ近くで着湯した。
「そうにゃんね、最高にゃん」
妖精の意見にオレも賛成する。前世であれば風呂上がりのビールが至高だったがこっちに来てからはアルコールを受け付けない身体になっていた。
それに苦味も弱い。
「風呂の後のソフトクリーム?」
天使様がピクっと反応した。
「にゃあ、天使様はまだ風呂上がりのソフトクリームは食べてないにゃん?」
「まだ試してない」
コクコク頷く。
「だったら、試すにゃん」
「無論だ」
天使様は即答する。
「「「ソフトクリーム!」」」
ビッキーたちもソフトクリームの前にはチビに戻る感じだ。
「にゃあ、お風呂の後はソフトクリームで決まりにゃんね」
「「「やった!」」」
○ウィルゴ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 船室
久しぶりにソフトクリームの機械を再生した。
「冬場でも風呂上がりのソフトクリームは最高にゃんよ」
まずは、風呂上がりソフト初体験の天使アルマに濃厚ミルクのソフトクリームを差し出した。
「風呂上がりのソフトクリームか」
ペロンと一舐めするのをみんなで見守る。
「おお、これは美味しい」
驚きの表情でオレを見た。
「にゃあ、美味しいなら何よりにゃん」
続いて、チビたちや妖精たちに振る舞った。
『次ハ、うちラガオ館樣トオ風呂ニャン』
猫耳ゴーレムがオレのことを元チビたちから奪った。
「「「あっ、ダメ!」」」
「だめジャナイニャン、モウちびタチハちびジャナイカラ、オ館様ニ対スル優先権ハ失ワレタニャン」
「「「ニャア!」」」
何処かで聞いた台詞と共に猫耳ゴーレムたちはオレを抱えて大浴場になだれ込んだ。
猫耳ゴーレムの後は、猫耳たちが待っていた。
○帝国暦 二七三〇年十一月〇四日
○エクシトマ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦)
翌朝、戦艦型ゴーレムはエクシトマ州上空に達していた。
「にゃあ」
例の船室はチビや猫耳や猫耳ゴーレムで足の踏み場のない状態になっていた。
猫耳ゴーレムは睡眠は不要だが、自己メンテナンスを行ってる。
もそもそと起き出したオレは食堂に向かった。その後を元チビたちが付いて来る。
○エクシトマ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
簡単な朝食の後は艦橋に戻った。
「どうぞ、マコト様」
また艦長席に座らされた。
眼下のエクシトマ州は、広大な上にそのほとんどが魔獣の森だ。
オートマタを大量投入&マナ変換炉の設置でかなりマシになっはいるがそれはまだほんの一部であり、そこですら人間が住めるレベルにはなってない。
「にゃあ、オートマタとマナ変換炉を追加投入にゃん」
「「「にゃあ!」」」
オレと猫耳は、戦艦型ゴーレムの艦橋からエクシトマ州の大地にオートマタと自走式のマナ変換炉を再生する。
「ついでに帝都エクシトマの探索も頼むにゃんね」
オートマタと自走式マナ変換炉が散って行く。
魔獣はマナの濃度が薄くなった森で動きを鈍くしオートマタによって簡単に狩られる。
「ここから確認出来るだけでも西側のマナの濃度は半端無いにゃんね」
「海があるにしてもまだ地平線の彼方なのに影響は大にゃん」
「砂の海、この目で一度確かめてみたいにゃん」
猫耳たちと話しながらオートマタとマナ変換炉を投入した。
「にゃあ、この厄介事が終わったらオレは西海岸の探検をするにゃん」
「「「にゃあ!」」」
死亡フラグだったか?
○ヌーラ州 上空 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
「にゃあ、ここからヌーラにゃん」
城壁に臨時の境界門を設定してその上空を戦艦型ゴーレムが通過する。
「マコト様、ヌーラのどの辺りに向かいますか?」
「にゃあ、ここを頼むにゃん」
空間上にヌーラの地図を表示し、現在地とミマたちが遭難した場所をマークする。
「目標となるものは何かありますか?」
「何もないにゃんね、ただの魔獣の森にゃん」
「ミマは良くわかりましたね」
「にゃあ、かなり高度な隠蔽用の結界を難なくブチ破るミマの引き寄せの強さは、半端ないにゃん」
あの広大なヌーラの中で、どうやらたった一箇所だけ空いていた結界の穴を通り抜けて遺跡に落ちたのだ。
オレだったらたぶん見付けられなかった。
魔法蟻も縦横無尽にトンネルを掘りまくっているが、その巨大な謎遺跡に接触していない。
高度な隠蔽魔法に併せて空間圧縮魔法を使ってる可能性が高い。
「ここからはオレの指定した座標に向かって、遠慮無しでぶっ飛ばしていいにゃんよ」
艦長のビッキーに指示した。
エクシトマではオートマタとマナ変換炉の配置を行ったので速度を落として貰ったが、ここからは遠慮なしでOKだ。
「了解しました、全速前進!」
「全速前進! ヨーソロー!」
操舵担当のシアが復唱して戦艦型ゴーレムの速度を上げる。
高度限界ギリギリの高度だったが、それでも真下の木々が押し潰される。
オートマタはあらかじめ退避していたが、まだ残っていた魔獣が木々と一緒に押し潰される。
「魔獣がまだいるにゃんね」
潰した魔獣も逃げ出した魔獣も分解して回収する。
「空間拡張に隠れてたにゃんね」
いずれ近いうちに魔獣の生態もはっきりするだろう。
○ヌーラ 地下遺跡 上空
戦艦型ゴーレムは午前中のうちにオレが指定した場所の上空に到着した。
ミマとセリが魔獣に追い掛けられて遺跡の穴に落ちた場所だ。
上空からはわずかにミマとセリを追い掛けた魔獣の痕跡が残されているだけだ。
それも風雪で近いうちに消えてしまうだろう。
「到着にゃんね、オレたちは遺跡に潜るから、戦艦型ゴーレムはヌーラ拠点に移動して待機にゃん」
「「「了解です」」」
○ヌーラ 地下遺跡 入口
甲板から地上に降り立ったオレたちは、元チビたちと研究拠点所属の猫耳二〇〇人が乗った戦艦型ゴーレムを見送った。
気温は低く風が冷たい。
冷たいと言えば、天使様と妖精たちだがいまは各拠点のお風呂とソフトクリームを楽しんでいる様だ。
「ここがミマとセリが落ちた穴にゃんね」
オレは枯れ葉の積もった地面を指差す。
「にゃあ、ウチらでも肉眼だとまったくわからないにゃん」
猫耳たちも地面に目を凝らすがやはり見付けられない。
「隠蔽の刻印はしっかり機能しているみたいにゃん、ただ、見えない穴が空いてるだけにゃん」
「見れば見るほど、どうやってここにピンポイントで落ちたか不思議になるにゃん」
今回、ミマたちの救出に同行させる猫耳は三人。
古参のアルとロアとヨウだ。
「魔力もほんのちょっとしか漏れてないにゃん」
「これを検知するのは、至難の業にゃん」
「探査魔法でもそこに穴があるとは、まずわからないにゃん」
ミマとセリの引き寄せ能力の凄さを改めて驚かされる。
「にゃあ、では行く前に念の為、ここを覆っておくにゃん」
穴とオレたちを囲むようにドームを作る。
魔獣が入り込むことは無いと思うが、穴を開けっ放しにしておくのは問題だ。
オレも含めて合計四人は、それぞれ魔法蟻に乗る。
いずれも特製の二型マナ変換炉を搭載しているから、どんなマナでもどんどん魔力に変換してくれる。
「行くにゃんよ」
「「「にゃあ」」」
「「「……」」」
魔法蟻たちも口をカチカチさせてやる気をアピールする。
侵入開始だ。
 




