フィーニエンスを出発にゃん
「「「お館様!」」」
「「マコト様!」」
「にゃ!?」
オレの視界が全部肌色になる。
「「「お館様、ちっちゃくなった!」」」
「「違う、マコト様は変わってない」」
「「「そうか!」」」
「にゃにゃ?」
オレは五人の裸の少女たちに囲まれて抱っこされていた。
良く見るとこの子たちの顔に見覚えというか見知った顔の面影があった。
にわかには信じられないけどそれが真実か?
「にゃあ、ビッキーとチャス、それにシアとニアとノアにゃん?」
「「「そうだよ!」」」
「「そうです!」」
チビたち五人全員が猫耳たちぐらいに成長していた。
「何でこんなに大きくなってるにゃん!?」
「チビたちがチビじゃなくなってるね」
再びリーリがオレの頭に乗っていた。
「天使様が大きくしたの」
ミンクも乗ってる。
「にゃー」
天使様のカプセルがチビたちを成長させたのは間違いない。
「何で成長させたにゃん?」
訳がわからない。チビたちはオレや猫耳たちが守っているのだから無理に成長させる必要なんて無い。
「何か問題か?」
天使アルマが現れた。
「にゃお、天使様、チビたちが大きくなってるにゃん!」
「そうだな」
頷く天使アルマ。
「にゃお、何でにゃん?」
「この子たちがそう願ったからだ、ダメなら元に戻すが?」
天使アルマは困った顔をする。
「「「戻しちゃダメ!」」」
「「ダメです!」」
オレが返事をするよりも早く元チビたちが反対した。
「にゃあ、何でにゃん? 子供じゃなくなるにゃんよ」
「だからいいの」
「子供だとお館様を守れないもの」
「にゃ、オレを守るにゃん?」
「そう、だから子供じゃダメなの」
シアとニアとノアが理由を語る。
「ダメにゃん?」
「「ダメです!」」
ビッキーとチャスも声を揃えた。
「それにちっちゃいとお館様を抱っこできないでしょう?」
「「そうそう」」
改めてシアとニアとノアに順番に抱っこされる。
「「あっ、ズルい!」」
ビッキーとチャスも参入する。
「にゃあ、その前に全員、服を着るにゃん!」
「「「きゃあ!」」」
軽く全員をビリっとさせた。
チビたちがオレのことを思って成長を願ったからこうなったということはわかった。天使アルマには見当違いの怒りをぶつけたことを謝罪した。
オレとしてはもっと子供時代をエンジョイして欲しかったが、考えてみれば保護するまでのチビたちは幸せとは言い難い境遇に置かれていた。だから『子供がいい』とオレが言ってもピンと来ないのだろう。
本人たちが拒否しているからあえて元に戻すのはヤメた。しかしチビたちにそこまで心配されていたとは、オレは自分が情けない。
「にゃあ、それで身体に違和感は無いにゃん」
「「「大丈夫!」」」
「「問題ありません」」
「天使様の仕事に抜かりはないにゃんね」
天使様たちは拠点に用意してある寝床に戻っていた。本当に睡眠が必要なのかはわからないが眠ってる。その辺りは妖精たちと同じっぽい。
「今後のことは明日にゃんね」
「今からでも大丈夫」
「もう子供じゃないから平気」
「うん、ぜんぜん平気だよ」
「「平気です」」
ビッキーとチャスは頷いてオレを順番に抱っこして頬擦りする。いつもならぐっすり眠ってる時間だが、大きくなったチビたちは元気いっぱいだ。
「にゃあ! ダメにゃん、お館様はウチらに返して貰うにゃん」
猫耳はオレのことを元チビたちの腕から奪った。
「「「あっ、ダメ!」」」
「ダメじゃないにゃん、もうチビたちはチビじゃないから、お館様に対する優先権は失われたにゃん」
「「「にゃあ!」」」
猫耳たちが鳴き声を上げる。
「これから中断したお館様の抱っこ会を再開するにゃん、チビたちはもう寝るにゃん」
オレは猫耳たちに次々とパスされて、床に足を着けることなく拠点の抱っこ会会場へと運ばれたのだった。
○帝国暦 二七三〇年十一月〇三日
○首都アルカ 王宮スペルビア城内 謁見の間
「そなたが、アルトリートか?」
がらんとした謁見の間で昨日権力を失ったばかりのフィーニエンス元国王グレゴリウスは初めて見る息子の名前を確かめる。刻印的にもう玉座に座ることは許されない。
「はい、初めてお目にかかります、陛下」
「その顔、確かにハイディマリーの子だ、私の息子に相違あるまい、既に我は王では無い、ただ父と呼ぶがいい」
「母を覚えておられるのですか?」
「あれほど美しい女を忘れるわけはなかろう? それにハイディマリーに触れた瞬間、この光景は見えていたのだ」
「見えていたのですか?」
「我の息子が化物を駆って国を滅ぼしに来るのだ、愉快ではないか? 詳細は少々違っていたようだが」
元国王グレゴリウスも王太子に近い予知能力を持っていた。息子と違って千里眼の素養はなく、未来を一瞬だけ幻視する。それでも息子と同等にヤバい能力だ。
グレゴリウスのエーテル器官のサーチは既にこっそり済ませている。いまは研究拠点の猫耳たちは天使様の三型マナ変換炉の解析に掛り切りだから、未来視する魔法の研究は暫く先になりそうだ。
「陛下、化物は魔法省の連中が掘り出したものです、私やマコトたちは無関係ですからお間違えなく」
「らしいな、マコト殿が説明してくれた」
「陛下はこれからどうされるおつもりですか?」
「父と呼べ、アルトリート」
「では、父上、フィーニエンス国王としてこれからどうされるおつもりですか?」
「革命は成就され、我は既に国王としての力は無い、マコト殿に悪魔の森と魔獣の森に沈んだ三つの行政区を下げ渡し、この国でも公爵になって貰ったのが最後の仕事だ。それも先程終えた」
王としての魔法は使えないが、国家元首としての権力はアルトリートが戴冠するまでの間は維持される。
「革命はこの国を歪めていた大臣たちを一掃する方便に過ぎません、いまなら父上に王位を継続していただくのが良いかと」
「無理を言うでない、窮屈な王位から解放されるのだ。後はお前に任せる」
「にゃあ、陛下の決意は固いにゃん」
グレゴリウスとの面談は朝のうちに済ませている。そこでフィーニエンスでも公爵の位を授爵した。
元国王はアナトリ王国行きを希望している。王都タリスで暮らしたいそうだ。数年前に奥方を亡くした元国王のちょい悪オヤジならモテモテだろう。
「出来れば俺も勘弁して貰いたいのですが。では、ここは健康を取り戻した兄上がそのまま王位に就かれるのが良いかと」
「アリはここに来て怖気づいたにゃん?」
「いや、そういうわけじゃない、客観的な事実として俺よりもずっと優れた兄上に任せるのがこの国の為だと思っただけだ」
「いや、私よりも革命を成し遂げたアルトリートに対する民の信頼と期待は大きい。そこに私が割って入れば間違いなく要らぬ混乱を招く」
王太子からも拒否される。
「しかし兄上、私は先日まで魔法軍の一兵卒で政のことなど何も知りません」
「心配するな、ハーゲンを使えばいい」
「宰相殿をですか?」
アリは宰相ハーゲン・デーレンダールを見る。
「お待ち下さい殿下、私は今回の件の責任を取らねばなりません、ですからアルトリート様のお手伝いは出来ないかと」
「今回の遠征は、宰相殿が始めたことではないのでは?」
「いいえ、アルトリート様、計画したのも進めたのも私でございます」
「宰相殿が一人で?」
「にゃあ、間違いないにゃん、あの枢密院の大臣どもに二〇万の侵攻軍を組織できると思うにゃん? しかも確実に全滅させるコースを選ぶにゃんよ」
「そこまでおわかりでしたか?」
ハーゲンは笑みを浮かべる。
「オレの予想だとここには悪魔の森の詳細な地図があるはずにゃん」
「はい、ございます」
あっさり認める宰相。
「宰相殿、それは本当ですか!?」
「本当でございます、アルトリート様」
「にゃあ、大量に死霊を呼び起こしたり雨を降らせたりさせるには、刻印の埋まってる場所を正確に踏まないとダメにゃん、なかなか難しいにゃんよ」
「仰せの通りでございます」
「やはり全滅が目的だったのか、ですがそれほどの情報があるなら侵攻軍で魔の森を渡ることが出来たのでありませんか?」
アリがもっともな質問をした。
「無理であることは歴史が証明しております」
「そうなのか?」
アリはオレを見る。
「刻印に引っ掛からなくても侵攻軍が悪魔の森を抜けるのは不可能にゃんね、例え全滅を免れても生存者はわずかだったはずにゃん」
「だろうな、魔獣への偽装がそう長くもったとは思えないからな。それにあのルートは最短に近い。例え上から示されなくても似た場所を通っていたはずだ」
一緒に連れて来られたヘンゼルが同意する。
「やはりそうなるのか」
アリも渋々同意した。
「宰相殿、人減らしは絶対に必要なことだったのですか?」
「必要でした」
「この国は定期的に人減らしをしないとやっていけない状況だったのは間違いない、無策の責は私も父上も同じだ」
王太子も同意する。
「にゃん、例え間違った方法でも、ハーゲンの立場なら他に選択肢が無かったのも事実にゃん」
「だったら、戦犯の決定は覆らないのか」
「にゃあ、枢密院の主要メンバーを無罪放免にするのは無理にゃんね、オレが良くてもフィーニエンスの国民が赦さないにゃん」
「国民か、これから情報が侵攻軍の帰還兵によって広がるか」
アリが呟く。
「秘密警察が無くなった今は何が起こるかわからないと言ったところだな」
王太子は早くも情報を引き寄せたようだ。猫耳にしたところはバレてない。
「マコトは宰相殿をどうするつもりだ?」
「にゃあ、ハーゲンは戦犯としてオレが身柄を確保するにゃん」
「マコト殿、出来ることならハーゲンは生かしておいてくれまいか」
元国王グレゴリウスが頭を下げる。
「そこは問題ないにゃん、ハーゲンは働かせるにゃん」
「宰相殿を戦争奴隷にするのか?」
アリは納得がいかないようだ。ハーゲン・デーレンダールがまともな人間であると僅かな時間だがわかったのだろう。
「にゃあ、表向きはそうなるにゃん」
「宰相殿はそれでいいのですか?」
「アルトリート殿下、私に選択権はありません」
「どうにかならないのか、マコト?」
「アルトリート、ハーゲンがマコト殿の所有となれば、この国の人間は手を出せなくなる、つまり安全が保証されるのだ」
王太子が補足してくれた。
「ハーゲンには、王太子殿下の仰っていた様にアルトリート殿下の補佐をして貰うにゃん」
「普通の奴隷では無いのですか?」
「そんな勿体ないことはしないにゃん」
「そうであろうな、ハーゲンに普通の犯罪奴隷の仕事は無理であろう」
「確かにそうではございますが、犯罪奴隷は懲罰でありますから」
「にゃあ、犯罪奴隷にならなくてもハーゲンは楽はできないから、懲罰とたいして変わらないにゃんよ」
「覚悟の上です」
そうは言っても元大臣の猫耳たちが補佐をするからハーゲンが潰れるような事態にはならないはずだ。
「侵攻軍のうち一〇万人が革命軍として動かせるにゃん、それにオレが引き取った五万人をケラス軍に編入させて境界軍にしたにゃん、だから多少のことがあっても国内が乱れることにはならないからにゃん」
侵攻軍二〇万の半分一〇万が革命軍に参加を選び残り一〇のうち五万は帰還を選び、最後の五万は素行に問題があるので、強制的にケラス軍に編入して国境を越えて活動する境界軍とした。
「兄上はどうされるのですか?」
アリは改めて王太子に顔を向けた。
「私も父上に付いて行くつもりだ」
「兄上まで王国に行かれるのですか?」
「この国に私の居場所はあるまい」
「そんなことはないとはと思いますが」
「いや、出来れば私はあのまま死んだことにして貰いたい、その方がアルトリートの為にもなろう」
「にゃあ、そうにゃんね、実際に半年前に一度死んでるから嘘ではないにゃん」
「だからといって兄上を王国に追放するのは違うのではないか?」
「自分の意思での出国は追放とは言わないぞ」
「それはそうですが」
「外から見れば贅沢な暮らしだったのかもしれないが、私も父上と同じく牢獄のような城から解き放たれ自由になりたいのだ」
「にゃあ、いずれにしろ革命が成就した以上、国王と王太子は王宮には残れない決まりにゃん」
「決まっているのか?」
「にゃあ、王国の革命でも国王と王太子は王都を出たにゃん」
いまはアーヴィン様の領地で落ち着いてるはずだ。ゆくゆくは遠い隣国のケントルム王国に向かうのかもしれない。
「王宮を出ないと刻印的に何かあるのか?」
「王の刻印が使えなくなるぐらいにゃん、問題は刻印よりアリにゃん」
「俺が何だというんだ?」
「にゃあ、元国王と王太子が近くに居たら将来的にアリの子供や奥さんとトラブルになる可能性が高いにゃん」
「待て、俺に嫁も子供もいないぞ」
「将来的な嫁と子供にゃん」
「俺は父上と兄上と事を構える様な女を嫁にする気は無いが」
「にゃあ、女は子供が出来ると変わるそうにゃん」
「そうなのか?」
カズキが何度もそう言っていた。
「そういうことも無くは無いな」
元国王が頷く。
「変わるのか」
何故か、王太子が興味を示していた。
「マコト公爵、俺はそろそろ故郷に帰っていいか? 魔法馬は貸してくれるんだろう? ドラゴンゴーレムで送ってくれるのは無しな」
ヘンゼルがオレを突いて囁く。ピルゴナから首都に来るのにもドラゴンゴーレムを使ったのがダメ押しになって苦手意識が植え付けられたらしい。
「ダメだ、ヘンゼルは俺の補佐なんだからもう少し付き合って貰うぞ」
オレが返事をする前にアリがダメ出しをした。
「補佐って言っても俺にはまだ仕事は無いだろう?」
「ヘンゼルには主席宮廷魔導師をやらせる」
アリが断言する。
「えっ、本気だったのか?」
「ヘンゼルにはちょうどいいポストだ」
「ちょっと待て、俺に宮廷魔導師なんて無理に決まってるだろう」
ヘンゼルが抗議の声を上げる。
「いまの主席宮廷魔導師は魔法が使えないにゃん」
「いや、魔法省があるんだから、宮廷の主席魔導師と言えど魔法は重要ではないのではないか?」
「宮廷魔導師は王宮内の刻印を管理する重要な仕事があるにゃん、魔法が使えなかったらお話にならないにゃん、ついでにいまの主席宮廷魔導師は悪さをしていたからオレのところで処分したにゃん」
「処分したのか?」
「にゃあ、だからいまは空席にゃん」
「宰相殿、主席宮廷魔導師の後任はヘンゼル・ボームで頼みます」
「かしこまりました」
宰相ハーゲン・デーレンダールはうやうやしく礼をする。
「にゃあ、これでぶっ壊れた王宮も直るにゃんね」
「そいつは良かった」
アリも満足気だ。
「えっ、俺が王宮を直すのか? 塹壕掘りぐらいしか経験はないぞ」
「猫耳たちも手伝うからそこは問題ないにゃん、それに基本の刻印は既にあるにゃん」
「だったら最初から猫耳に全部やらせればいいんじゃないか?」
「にゃあ、それはダメにゃん、宮廷魔導師が刻印をコントロールしないと王宮がオレのモノになるにゃん」
「そういうわけだから頼むぞヘンゼル」
アリとしても側近を信用出来る人間で固めれば安心できるだろう。
「仕方がないか」
ため息を吐きつつも引き受けるヘンゼル。
「魔法軍の一兵卒から主席宮廷魔導師になったと聞いたら母さんが驚くな」
それは間違いないだろう。
「魔法省もヘンゼルが面倒を見てやってくれ」
「面倒って、魔法省は宮廷魔導師とは犬猿の仲だぞ、俺が良くてもあちらさんが受け入れないだろう」
「主席殿、それは問題ございません、魔法省は人員の多くが死亡したとの報告をマコト様より戴いております」
ハーゲンが説明する。
「魔法省で生き残ったのは事務方の人間だけにゃん、ヘンゼルに楯突くようなヤツはいないから安心していいにゃん」
「飛行戦艦にやられたのか?」
「そうにゃん、魔法省の連中は自分で掘り出した飛行戦艦で壊滅したにゃん」
「他の宮廷魔導師はどうなっている?」
「そこも安心していいにゃん、いま宮廷魔導師はヘンゼルだけにゃん」
「えっ、俺だけ?」
ただの使えない人間の集まりになっていたフィーニエンスの宮廷魔導師たちは、漏れなく犯罪奴隷相当の罪を犯していた。当然、猫耳の刑に処せられている。
「にゃあ、宮廷魔導師と魔法省の人員はフィーニエンス国内から猫耳たちが選抜しているから、そう時間は掛からずに充足されるにゃん」
「わかった、細かいことは任せる、アリもそれでいいか?」
「俺は問題ない」
「アリもヘンゼルも困ったことがあったら近くの猫耳に相談するといいにゃん」
「ああ、助かる」
「マコトは王宮に残らないのか?」
「にゃあ、オレはこれから行くところがあるにゃん、国王陛下と王太子殿下は今日中に出発するから準備を頼むにゃん」
「わかった」
「私は何も持ち出すつもりは無いがそれで良いだろうか?」
「問題ないにゃん、ふたりの財産は後ほど計算して送るにゃん」
「財産などあるのか?」
「革命の成就の後の前国王や王太子に対する財産分与は法で決められてるにゃん、だからそのまま貰えばいいにゃん、それに文無しでは王国には住めないにゃんよ」
「決められたことなら、それに従うまでだ」
「私も従おう」
前国王と王太子は本日中に王宮を出ることになり、革命を成し遂げたアルトリートが国王として即位した。
○首都アルカ スペルビア城 戦艦型ゴーレム(天使建造艦) 艦橋
オレはアリたちに見送られてスペルビア城のベランダから城に横付した戦艦型ゴーレムに飛び移った。
「にゃあ、オレの知ってる戦艦型ゴーレムと違うにゃん」
天使様にチューニングされて艦橋まで進化していた。
「マコト様はこちらにお座り下さい」
ビッキーに抱っこされて艦長席に降ろされた。
「にゃあ、ここは艦長のビッキーの席と違うにゃん?」
「いいえ、マコト様が乗艦された際はこちらがお席になります」
ビッキーはオレの傍らに立つ。
「わかったにゃん」
お言葉に甘えて艦長席から戦艦型ゴーレムのシステムにアクセスする。天使様が造ってくれたシステムだがオレたちにも問題なく読むことが出来る為、既に猫耳たちが調査していた。
「これからシステムをちょっと最適化するにゃんね」
「最適化ですか?」
「にゃあ、天使様が造ってくれたままの状態だと乗員からの魔力の吸い上げが無駄に多いにゃん、まずはこれを修正するにゃん」
そこを直さないと成長したとは言え、元チビたちはまた倒れることになる。
システムの修正は猫耳たちと作り終えていたので流し込むだけの数秒の作業だ。
「にゃあ、終わったにゃん」
三型マナ変換炉が使い切れないほどの魔力を生み出してくれるのでカリカリに設定を追い込む必要はない。
「お館様、行き先は何処ですか?」
操舵担当のシアが質問する。
「言ってなかったにゃんね、行き先はヌーラにゃん」
「ヌーラ了解です」
ヌーラにはミマとセリを回収しに行く。
あいつらが大いなる災いみたいなものだから、いつもならヌーラに放置するのだが、オレたちは廃帝都エクシトマを探さなくてはならない。遺跡に鼻の効くふたりを大迷宮で遊ばせておく暇はないのだ。
大いなる災いの探求も重要だが、天使は時間の感覚が人間と違うとはいえ元転生者の北方監視者をあまり待たせるのは得策ではない。
「にゃあ、その前に城塞都市ディアボロスに寄って行くにゃん」
「城塞都市ディアボロス了解」
戦艦型ゴーレムがスペルビア城から離れる。認識阻害の結界を張りその巨体を空に溶け込ませた。
○シイラ行政区 城塞都市ディアボロス
シイラ行政区は協議の結果、オレとフィーニエンス王宮の共同所有になった。
元フィーニエンス侵攻軍の革命軍と境界軍の兵士を乗せたトラックが悪魔の森を通り抜けて城塞都市ディアボロスに入城する。
帰還兵を乗せたトラックは城塞都市に入らずそのまま猫耳たちが各地に送り届けるべく修繕したばかりの道に抜けた。
それから少し遅れてディアボロス上空に戦艦型ゴーレムが姿を現した。
「マコトだな」
「うん、マコトだね」
「マコトなのです」
ディアボロスの塔の一つに戦艦型ゴーレムを横付けした。出迎えてくれたケラス軍改め境界軍のクレア・アランデル司令と王国軍のキャリーとベルが戦艦型ゴーレムを見上げて口をあんぐりさせていた。
逆に境界軍のフェリシア・ブルーマー副司令と革命軍のヘルムート・ダンジェルマイア司令とオトフリート・グライス副司令は特に驚いていない。オレに関しては何でも有りだと思っているようだ。
○シイラ行政区 城塞都市ディアボロス 革命軍境界軍合同発令所
「にゃあ、戦艦型ゴーレムはオレが一から造ったわけじゃないにゃんよ、魔獣の森で見付けた魔獣が原型にゃん」
発令所の席に座ってまずは言い訳をする。
「普通は魔獣の森にだって入らないぞ」
クレア司令から突っ込まれる。
「そういうクレア司令だってちょくちょく魔獣の森に入ってたと違うにゃん?」
「ちょくちょくは入ってないぞ、私の場合は必要に迫られて魔獣のいないルートで通り抜けただけだ」
「やぱり魔獣の出ないルートは存在するのですね」
オトフリート・グライス革命軍副司令は興味があるようだ。
「魔獣が出ないというだけで普通の人間には通れない道だ、今回の侵攻軍のルートからも大きくは離れていない」
「そうなのですか?」
「最大の違いは人員の数だな」
「やはり人数ですか」
「にゃあ、でも魔獣の集合体に偽装するのは良かったにゃんよ」
「途中で破綻しましたが」
「それでも持たせた方にゃん」
「アルトリート殿下とヘンゼル・ボーム少尉が有能でしたから」
「そうにゃんね、ふたりは優秀にゃん」
アリの探知能力の高さは王家の血が関係しているのかもしれない。
「それでマコトはこんなモノを引っ張り出してどうするつもりだ?」
「にゃあ、ひとまずヌーラに行くにゃん」
「ヌーラ?」
クレア司令が首を傾げる。
「マコトの領地の一つだね」
「実態は王国軍でも謎の場所なのです」
「にゃあ、オレたちにとっても謎にゃん」
「謎を解きに行くのか?」
「今回は遭難している仲間を救助に行くにゃん」
「遭難だって、悠長にしてていいのか?」
「にゃあ、大丈夫にゃん、あいつらは自分たちが遭難したことに気付いてないにゃん」
「マコトの仲間だけあって剛気だね」
「普通じゃない感覚なのです」
「にゃあ、オレの仲間になる前からそんな感じにゃん」
王子と教授だった頃から常識無用の連中だ。いまも嬉々として大迷宮の中をさまよっている。
「私も一緒に行きたいが、そうもいかんか」
「にゃあ、クレア司令と辺境軍は革命軍と一緒にフィーニエンスの治安維持活動を頼むにゃん、先行して猫耳たちが入って道路の修繕と食料の配給を開始しているから、問題は盗賊ぐらいにゃん」
「盗賊か、フィーニエンスにもそれなりにいるらしいな」
「お恥ずかしながら」
ヘルムート・ダンジェルマイア司令は苦い表情を浮かべた。
「にゃあ、実際のところは秘密警察の下請けみたいな存在が大半にゃんね、だから捕まるわけが無いにゃん、ただ中には秘密警察のコントロールを離れた魔法使いを多数抱えたバイネス狩猟団みたいなヤバいのもいるから油断は禁物にゃんよ」
「バイネス狩猟団というとケラスでマコトが潰した盗賊団か」
「そうだね」
キャリーが頷いた。
「マコトたちの実力を知らしめた件なのです」
「王国の脅威になるか極秘に調査が始まった頃だな、王国軍による討伐が検討されていたが途中で中止された」
「オレは何もしてないにゃんよ」
「動いたのはアルボラの領主殿らしい」
「にゃあ、カズキにゃんね」
「マコトにちょっかいを出そうとした王都の法衣貴族が数人姿を消したとか」
「犯罪ギルドの幹部も数人消えたのです」
「そんなことがあったにゃん?」
「動いたのは領主殿だけではないということだ」
クレア司令がニヤリとした。
オレはいろいろな人たちに守られていたらしい。
いまもそんなには変わってないか。オレの後ろにはビッキーとチャスが控えているし、シアとニアとノアはもしもに備えて戦艦型ゴーレムの艦橋で待機中だ。
森にはオートマタたちが駆け回り猫耳が城壁を固めているディアボロスにもしもの時があるとは思えないが、元チビたちは慎重だ。
「マコト様、そろそろお時間です」
ビッキーが告げる。
「失礼します」
チャスに抱き上げられる。
「にゃあ、周辺の魔獣の森はオレたちでどうにかするから、フィーニエンス国内のことは頼むにゃん、後でネコミミマコトの宅配便の連中も到着するから連携を頼むにゃん」
「わかった」
代表してクレア司令が応えた。
「私たちは、一度王都に報告に帰らないといけないから今回はここでお別れだね」
「出来れば離れたくないのです」
キャリーとベルが立ち上がった。
「にゃあ、王都には直ぐには戻れないけどまた会いに行くにゃん」
「待ってるよ」
「待っているのです」
キャリーとベルにギュッと抱き着いた。
戦艦型ゴーレムは城塞都市ディアボロスを離れ、ヌーラの大迷宮に艦首を向けた。




