死闘! 飛行戦艦にゃん
○首都アルカ 王宮スペルビア城内 北の塔
強い衝撃音と共に塔全体が揺れた。
「きゃ」
普段は、人形の様にまったく感情を出さない側仕えの若い女が小さく声を漏らした。宰相ハーゲン・デーレンダールはむしろそちらに驚いた。
「始まったようだね」
王太子アナスタージウスの声がカーテンの向こうからする。半日振りの声だ。
「王国の攻撃でしょうか?」
「いや、魔法軍だよ」
「魔法軍でございますか、では飛行戦艦?」
「たぶん、そうであろう、魔法省の連中が何かしくじったのであろう」
「飛行戦艦が動いたとなるとコンラート殿下は」
「天に還ったに違いあるまい」
「申し訳ございません、私がもう少し早く動いていれば」
飛行戦艦の起動キーが王族の血であることを察知したハーゲンは、王太子アナスタージウスを守るため北の塔に籠城していた。
同時にコンラートの保護も試みたが間に合わず連れ去られてしまっていた。
「いや、私の責任だ。私がこんな体たらくのせいで、あれには可哀想なことをした」
「コンラート殿下はお優しい方でしたから」
「私を廃嫡させまいと無能を装っていたが、まさかこの様なことになろうとは」
王太子は深い溜め息をつく。
「残念なことです」
ハーゲンもうなずいた。
「私も間もなく天に還るゆえ、出来ればまた兄弟として生まれ、次こそはあれのいい兄になりたいものだ」
「何をおっしゃいます、殿下なくてこのフィーニエンスは治まりません」
「アルトリートがいるではないか? まだ見ぬ弟だがアナトリ王国のマコト・アマノ公爵が後ろ盾なら心配することもあるまい、ハーゲンも協力してやってはくれまいか?」
「お言葉ですが殿下、私など戦犯として良くて晒し首でしょう、この有様ではそれまで生き残れるかも危うい状況ですが」
先程から激しい震動と人々の悲鳴が聞こえる。
北の塔は窓が無い為、外で何が起こっているか直接確かめることが出来ないが尋常じゃない事態に陥ってることは想像に難くない。
「どうやら飛行戦艦とやらは魔獣と変わらぬ化物のようだ」
「殿下にはおわかりになるのですか?」
「目は見えなくなったが、その代わり魔力の動きが手に取るようにわかるようになった、いまの私には視力よりもありがたい」
「殿下」
「私のことは心配いらぬ、いままで生き延びたことが奇跡なのだ」
「ではお聞きします、外の様子をお教え下さい」
「状況はかなりマズい、飛行戦艦が城の人間を手当たり次第に喰い殺している」
「飛行戦艦が人間を喰い殺しているのですか?」
「そうだ、我らは自らの手で厄介な敵を復活させたようだ」
「魔法省の連中にも止められないと?」
「研究員の多くは既に喰われたのだろう、連中の気配がまったく感じられぬ」
「止める術を失ったということでありますか」
「全ては大臣たちの暴走を抑えらなかった私と父上の責任だ、もしマコト公爵に会うことが出来たら罪なき者たちの助命を頼む」
「かしこまりました、殿下のお気持ちは必ずや公爵様にお伝えします」
また強い衝撃が塔を揺らした。
防御結界が大きな崩落を防いでいたが、そう長く持たないことは誰の目にも明らかだ。
「殿下、避難のご準備を」
「ハーゲン、皆のことを頼む、私は既に動ける身体ではない」
「嫌でございます! 殿下が避難なされないなら、ここにいる者すべて殿下と運命を共にいたします!」
声を上げたのは側仕えの若い女だ。他の側仕えたちも同じらしい。
「どうにかならぬかハーゲン?」
こんな時なのに王太子のいつもと違う困った声にハーゲンは吹き出しそうになった。
「殿下、諦めて下さい」
「ハーゲン!?」
「殿下を置いて逃げては誰もがこの先、一生悔やんで生きていかなければなりません、どうか諦めて下さい」
「私はもう長く無いのだぞ」
「だから何だというのですか?」
「困ったヤツらだ、それではいつまで経っても天に還れぬではないか」
困惑している王太子アナスタージウスの声は優しげに聞こえた。
○首都アルカ 王宮スペルビア城内 国務大臣執務室
衝撃音の直後、子飼いの騎士団副隊長が国務大臣の執務室に飛び込んできた。
「閣下! ご無事でありますか!?」
「何事であるか!」
「敵襲です閣下! 直ぐに避難を!」
「敵襲であると?」
「空を飛ぶ奇っ怪な化物であります! 魔獣ではないかと思われます!」
「魔獣!? ここは強固な防御結界に守られた王宮であるぞ! 魔獣ごときに破られるわけがあるまい、何かの間違いではないのか?」
「事実であります! 既に王宮は一〇体の化物で囲まれております!」
「一〇体だと?」
国務大臣の中でその数に思い当たる節があった。
魔法省がロサ遺跡から掘り出し王族の血という多大な犠牲を払ったあれだ。全部で一〇だったはず。
「魔法軍の飛行戦艦ではないのか?」
「あれが飛行戦艦でありますか? 兵士を何人も喰い殺しております、友軍の所業ではありません」
「喰われたと? 魔法省の連中め、何かしくじりおったな」
直ぐに魔法省大臣に連絡を入れる。
『……』
しかし、通信の魔導具に返答は無い。無音のままだ。
「ヤツらは何をしておるのだ?」
魔導具を懐に戻す。
悲鳴に怒号、それに激しい震動が続く。
「これでは本当に敵襲ではないか?」
席を立つ。
「これが王国の者たちの襲撃なら諦めもつくのだが」
最後の最後で自らの下した判断で国が滅ぼうものなら、救いようのない愚か者として歴史に名を刻むことになる。
この調子では、記録する者も残らぬかも知れぬが。
「私はここに残る、お前たちは好きにするが……」
「ひゃあああああ!」
副団長の悲鳴が大臣の言葉に被った。
「……っ!?」
廊下側から伸びた幾本もの蛇のように曲がる長い腕が副団長の身体に絡みついていた。人間の腕に形は似ているが明らかに違う。
それが何なのかはわからないが国務大臣は本能的に腕から逃れようと後ずさる。
腕に絡みつかれた衛兵は抵抗も虚しく廊下に引きずり出された。悲鳴が遠ざかる。
部屋の中にはまだ腕が数本残っており、空中を蛇のようにくねりながら獲物を探している。
国務大臣は息を殺して緊急避難用の隣室に逃れた。
震える手で鍵を掛け息を吐く。
「あれが飛行戦艦の腕なのか?」
国務大臣の疑問に答える者は誰も居ない。
「……」
背中に焼き付くような視線を感じた。
振り返ると誰もいない。
当然だ。
ここは特別な防御結界で守られている。飛行戦艦であってもこの結界は破れまい。
「破れるはずがないのだ」
この結界は現代の腑抜けた刻印師の仕事とはわけが違う。
「……ひっ」
音もなく分厚い壁が紙の様に切り裂かれ光が差し込む。
「バカな、結界が効かぬというのか?」
壁の一角が崩れ、大臣は腰を抜かしてへたり込む。
そこから巨大な顔が覗き込んでいた。
○首都アルカ 王宮スペルビア城内 北の塔
「兄上は無事にゃん!」
突然、最上位の防御結界をぶち破って何かが飛び込んで来た。護衛の騎士がふたりまとめて扉と一緒に吹き飛ばされてしまった。
「何者か!?」
ハーゲンの誰何に顔を上げる。
それは猫耳と尻尾の魔導具を装着した小柄な娘だった。兵士の様な服装だが、かなり高級な布地が使われている。
ハーゲンにも何者なのか見当が付かなかった。
「にゃ、ウチはコンラートじゃなくてコーラにゃん、敵じゃないにゃんよ、コンラート殿下に王太子殿下のことを頼まれたにゃん、それにこっちもちゃんと治すにゃん」
慌てた様子で倒れた騎士たちに治癒魔法を使って敵じゃないことをアピールしていた。可愛らしい容姿とは裏腹にかなり高度な治癒魔法を片手で操っている。
「コンラート殿下に?」
「にゃあ、それにちゃんとお館様にも許可を貰ったにゃん」
そう言って猫耳の娘は得意げに胸を張る。
「お館様?」
「アナトリ王国のマコト・アマノ公爵にゃん、ウチのお館様にゃん」
「では、お前は王国の者か?」
「にゃお、王国じゃなくてウチは、お館様の忠実なる下僕にゃん、一緒にされては困るにゃん」
迷惑そうな顔をする。
「公爵が独自に動いているということか?」
「にゃあ、今回の件はお館様とフィーニエンスの戦争にゃん、王国は最初から関与してないにゃん」
「殿下の仰っていた通りだったわけか」
「さすが兄上にゃん」
「兄上?」
「にゃ、何でもないにゃん、噛んだだけにゃん」
「まさかアルトリート殿下の他にまだ知られていない王女殿下までいるのではないだろうな?」
「それはないにゃん」
ハーゲンの疑問に首を横に振る猫耳の娘。
また強い衝撃が塔を揺らす。
「にゃお、時間が無いにゃん、王太子殿下の治療を急ぐにゃん」
仕切りのカーテンに近付く猫耳の娘。
「なりません! 誰であってもここを通すわけにはまいりません!」
側仕えの若い女がカーテンの前に立ちはだかった。
「にゃお、本当に時間が無いんだから邪魔しちゃダメにゃん!」
「例え切り捨てられようとも退くことは出来ません!」
「みゃあ、こんなことをしてる間に殿下が本当に死んじゃうにゃん!」
少女の叫びに側仕えの顔色が変わった。
「本当に死ぬとは?」
首を傾げるのはハーゲン。
「にゃあ、詳しいことは後にゃん! とにかく退くにゃん!」
「なりません!」
ふたりが睨み合ってる。
「にゃあ、そこまでにゃん」
扉の壊れた入口から子供の声がした。
オレが北の塔の王太子の部屋に到着すると元コンラートの猫耳、コーラがメイドさんと睨み合っていた。
「にゃお、時間が無いにゃん、王太子殿下が既に死んでるのを隠したいのはわかるにゃん、でも、いま邪魔すると本当に死ぬにゃんよ」
オレが割って入った。
「あなたは誰ですか!? 何故そのことを!」
メイドさんは悲痛な声を上げる。
「にゃあ、オレはマコトにゃん、殿下が生きてるかどうかぐらい気配でわかるにゃん、それに完全に死んだわけじゃないのもわかるにゃん」
「マコト!? では、あなたが王国のマコト公爵様であられますか?」
ハーゲンがオレを見つめる。
実際に会うのは今回が初めてだが国務大臣の記憶を覗き見したから顔は知っていた。
「そうにゃん、オレのことにゃん、このなりを見ても驚かないにゃんね」
「ええ、公爵様のお話は殿下よりお聞きしていましたから」
「にゃあ、そちらは宰相ハーゲン・デーレンダール閣下にゃんね?」
冷酷な貴公子との噂だったが、いまはかなりお疲れのようで、あまり厳しい感じはしなかった。疲れてもイケメンだけどな。
「はい、私がハーゲン・デーレンダールでございます、公爵様」
「にゃあ、六歳児に敬語は不要にゃん」
「王国の公爵様が何をおっしゃいます? それよりも殿下のことは本当でございますか?」
「にゃあ、王太子殿下は重い彫像病を患っていたにゃんね?」
「ご存知でしたか」
秘匿はされていたが公然の秘密だったのは国務大臣のオツムの中を覗いた時に判明している。
「殿下はいつ亡くなられたのだ?」
ハーゲンはメイドさんに質問する。
「殿下が息を引き取られたのは半年前でございます」
「そんなに前であったか」
まったく気付かなかったことを悔いているようだ。
「にゃあ、嘆くことは無いにゃん、コーラの言う通り王太子殿下はまだ完全に死んでないにゃん」
「本当に殿下は完全に死んでいないのですか?」
「彫像病でも急激に金属化が進んだ場合、魂が体内に閉じ込められ仮死状態のまま保存されることがあるにゃん」
「仮死状態でありますか?」
「そうにゃん、王太子殿下の場合もそれに当てはまるにゃん、肉体を金属から元の状態に戻せば復活するにゃん」
「しかし、金属と化した肉体を元に戻すなど不可能と聞いております」
「にゃあ、オレたちなら出来るにゃん」
「そうにゃん、ウチに任せるにゃん」
「本当でございますか!? 王太子殿下は助かるのですか?」
メイドさんがオレの前に跪く。
「にゃあ、でも、時間が無いのも本当にゃん、この半年の間、魔導具を使って元の人格を偽装した為に殿下の魂はかなりすり減ってるはずにゃん」
「魂をすり減らすのですか?」
「そうにゃん、魂が大きくすり減ると天に還ることなく消滅するにゃん」
「消滅でありますか?」
「完全な死にゃん」
「にゃあ、そんなことはウチが絶対に阻止するにゃん!」
「コーラ、王太子殿下の治療を開始するにゃん」
「了解にゃん!」
猫耳のコーラは敬礼すると仕切りのカーテンを消し去った。
隠されていたすべてが明らかになる。
床に刻まれた防御結界の刻印が王太子のベッドを囲んでいる。それが魂を体内の中に留めるのに一役買った様だ。
「ああ、殿下」
ハーゲンはまさに彫像のような王太子の姿に声を漏らす。王太子の病状を知っていてもこの姿は衝撃だったのだろう。
『嘆くことはないハーゲン、人は誰しも天に還るものだ』
偽装の一部が解けて魔導具の発する念話だと簡単にわかった。
「いま話されたのは殿下ではないのですか?」
「にゃあ、王太子殿下が予め設定した内容にゃん、かなり高度な魔法式を組んでるから魔導師でもあったにゃんね」
「殿下が魔導師なのですか?」
ハーゲンは知らなかったようだ。
「間違いないにゃん、メイドさんにでも訊いてみるといいにゃん」
「公爵殿のお言葉は本当なのか?」
メイドさんに尋ねる。
「はい、刻印と魔法式の研究をされておりました。時間潰しの趣味と仰せでしたが」
「趣味にゃんね、確かにこの無駄に凝った魔法式はそんな感じにゃん」
オレたちが話してる間に猫耳のコーラが王太子の作った防御結界の中に入り込んだ。
「にゃあ、やっと兄上の役に立てるにゃん」
コーラはそう呟くと治癒魔法の青い光で塔の部屋を満たす。
金属を本来の血の通った肉体に戻すのはオレが何度かやってる。治癒の手法は確立しており、オレと知識を共有している猫耳だったら目を瞑っても出来る。
「にゃあ、ウチは頑張るにゃん」
オレは黙って見守ることにした。
『飛行戦艦か、面白いものを持って来たものだな』
『にゃあ、興味深いにゃん』
唐突にミマと元セザール・マクアルパインの猫耳セリからの念話が入った。
『オレからすると興味深くても不気味にゃんよ』
『通常兵器と魔獣の中間みたいなものだからな、不気味な外観も仕様だろう』
『わかるけど嫌な仕様にゃん、頭がいっぱいとか趣味が悪いにゃん』
『頭が複数あるデザインなのは、空を飛ばす為の魔法式を走らせるのに都合がいいからだ』
『だからって頭を繋げるのは乱暴にゃんね』
『実験的な要素が大きかったんじゃないか?』
『埋められていたぐらいだから失敗作だったのかも知れないにゃん』
『それか実験が終わって廃棄されたか』
『どっちでもウチらには興味深いにゃん、魔獣の成り立ちを知るのに重要な資料になるにゃん』
『兵器が何処から生き物に変化したのかがわかるかもしれない』
『にゃあ、この後、人型魔獣を造ったのと違うにゃん?』
『いや、遺跡の年代からすると今回のロサ遺跡と人型魔獣の苗床だったクーストース遺跡群では一〇〇〇年は離れているから、アーキテクチャ的な繋がりは薄いんじゃないか』
『一〇〇〇年とは随分と離れてるにゃんね、どっちが古いにゃん?』
『もちろんロサ遺跡だ、時代は離れているが飛行戦艦も人型魔獣も人の手が深く関わっている点は共通だな』
『そうにゃんね、普通の魔獣と違って一から人間が造り出したモノにゃん、それに勝手に増えないはずにゃん』
『現在の魔獣が人の手で生み出したモノなのか、それとも兵器だったモノが勝手に進化したのか、いまでも研究者の間で議論になってる』
『魔獣は個体差が大きくて、勝手に進化してる感じがするにゃんね、でも実際には最初からプログラムされてるにゃんよ』
『魔獣の進化は人間によってプログラムされたものだったと?』
『にゃあ、エーテル機関を見る限りそうにゃん、より多様性を求める設計にゃん、おかげでこの先もまだまだ困ったことが起きそうにゃん』
『研究者たちの長年の論争に一瞬で結論が出た』
『にゃあ、調べれば一発にゃん』
『魔獣相手にそれが出来るなら苦労はしないよ』
『そうにゃんね』
ミマとセリが頷き合う。
『ところでミマたちはいま何処にいるにゃん?』
『まだ、ヌーラだが』
『随分と暗いにゃんね、ヌーラだったらそこまでの時差は無いはずと違うにゃん?』
猫耳のセリの目を通してミマたちのいる場所を眺める。
『ここは地下だよ』
『なんでふたり揃ってヌーラの地下にいるにゃん?』
『決まってるだろう、ここが遺跡だからだ』
『遺跡があったにゃん?』
『かなり大規模な遺跡だ、我々もいまだ全容を掴めていない』
『お館様、ここは迷宮にゃん、ヌーラの地下には大迷宮があったにゃん』
『ヌーラに迷宮にゃん?』
『にゃあ、ミマが見付けたにゃん』
『相変わらず遺跡に関してだけは超一流にゃん』
『今回は違うぞ。魔獣に追い掛けられて偶然、穴に落ちたらそこが遺跡だっただけだ』
『転んでもただじゃ起きないにゃんね』
『にゃあ、ウチも驚きの引き寄せにゃん』
『セリも基本は私と同じだと思うぞ』
『ミマには敵わないにゃん』
どっちもどっちだとオレは思う。
『遺跡を見付けたのはお手柄にゃん』
『遺跡は遺跡だがアトラクションの迷路をバカでかくしただけのただの迷路だぞ、三日ほど潜ったままだが、いまだ通路のみだ』
『その代りここはマナの濃度が半端ないにゃん』
『プリンキピウム遺跡と同じく通路の壁が濃いマナの影響で白くなってる』
迷宮は乳白色の大理石の様に見えるが、高濃度のマナによって変化したものだ。プリンキピウム遺跡のように人間が呑み込まれた跡はない。
『にゃあ、床がツルツルしてるから魔法蟻に乗って移動してるにゃんね』
『それもあるけどこのマナの濃度だ、普通に歩いたらあっと言う間にカチンコチンの彫像だよ』
『猫耳ゴーレムを乗せた魔法蟻たちを引き連れていっぱいマナを吸わせてもギリギリの濃度にゃん』
『マナがそのレベルとはかなりヤバいモノが有りそうにゃんね』
『大いなる災いだな』
『それらしいモノの気配はあったにゃん?』
『このバカみたいにデカい迷路からして、何かヤバいモノを隠してる感は半端ないね』
『にゃあ、半端ないにゃん』
セリもうなずく。
『無理しないで危なくなったら逃げるにゃんよ』
『わたしも逃げ足は速いから心配ない』
『にゃあ、ウチもお館様譲りの逃げ足があるから大丈夫にゃん』
『『『……』』』
『『『ニャア!』』』
魔法蟻たちが口をカチカチさせ猫耳ゴーレムたちも声を上げた。どちらも抜かり無しだそうだ。
『何か見付けたら連絡する』
『了解にゃん』
ミマたちとの念話を終えるとコーラは治療の山を越えていた。こちらはもう大丈夫そうだ。
「にゃあ、完了にゃん」
治癒魔法の青い光が収まりコーラは額の汗を拭う。
「お疲れにゃん、完璧にゃん」
「にゃあ、これもお館様がウチに知識と魔力を授けてくれたからにゃん」
コーラは涙目になってる。
「奇跡の御業でございます、殿下を救っていただき感謝いたします」
ハーゲンは片膝を着いて頭を下げる。他の家臣たちもそれに倣う。
王太子アナスタージウスが目を覚ました。
「ここは何処だ?」
アナスタージウスがベッドから身体を起こす。
「にゃあ、北の塔の殿下の部屋にゃん」
「そなたは、マコト公爵殿か?」
「そうにゃん」
「そして、そちらがコーラ」
「にゃあ」
「済まない、私が至らぬばかりにそなたにも苦労を掛けてしまった」
魔導具からのフィードバックとアナスタージウスの未来視に近い千里眼の能力がコーラの正体を看破していた。
この予知能力は脅威だ。アナスタージウスは善良な人間だがこの能力がイカれた特異種あたりと結び付くと厄介なことになる。何かしらの対策が必要だろう。アナスタージウスのエーテル器官はコーラが治療してる間に読み取ってるのでじっくり解析させて貰おう。
「少し眠ってる間に、私の部屋は随分と見晴らしが良くなったのだな」
アナスタージウスは周囲を見渡す。
治療の最中に周囲の壁はすべて崩れ去って残っているのは床だけになっていた。
「壊したのはオレじゃないにゃんよ」
「魔法省が発掘した飛行戦艦の仕業であることは、私も承知している。連中もバカなものに手を出したものだ」
巨大な顔がせり上がって来る。口の周りが血で汚れ何本もの細く長い四~五メートルはありそうな腕がウネウネしている。
「きゃ」
メイドさんが後ずさってコケてしまう。パンツが見えてるにゃん。
「壁が無いから下手に動くと危ないにゃんよ」
「申し訳ございません」
慌ててスカートを直す。
「にゃあ、ここは安全だから慌てなくていいにゃん」
城の内側を防御結界で囲んであるので、外に出ない限りは安全だ。結界の外に出たら墜落するけどな。
「ハーゲン、この化物は止められぬのか?」
「魔法省の大臣も逃げてしまったらしく、対抗できる力は王宮には残って無いかと」
大臣の大半は既に逮捕済みだ。いずれも犯罪奴隷相当の罪を犯していた。
「お館様、ウチらがやっつけちゃダメにゃん?」
猫耳を代表しててコーラが手を挙げた。
「ダメじゃないにゃんよ、手を出して無かったのは王宮内の悪いヤツの逮捕を優先していたのと飛行戦艦のデータを取っていたからにゃん、もう潰してもいいにゃん」
「にゃあ、だったらやるにゃん!」
「頼むにゃん、そろそろこっちに引き付けないと市街地に流れそうにゃん」
飛行戦艦は城内にいる敵の掃討をほぼ完了したと判断したようだ。いまは城下の市街地をサーチしていた。
問題はこのデカ頭たちには敵兵と一般市民を区別出来てない点だ。攻撃する者はわかるとして、逃げる人間も敵と見なす。こんな化物が迫って来て次々と人間を食べ出したら普通は逃げるだろ。
「にゃあ! 飛行戦艦はウチらにお任せにゃん! 戦闘開始にゃん!」
「「「にゃあ!」」」
猫耳たちが壁の崩れた王宮のあちこちから顔を出した。
直ぐに王宮を囲んでいた一〇艦の飛行戦艦は市街地のサーチを中断し猫耳たちに注意を向ける。
猫耳たちを掴み取ろうと飛行戦艦を構成するデカ頭の口から触手のような腕が伸びた。敵か味方かとりあえず食べてみることにしたらしい。味で判断するのか?
掴み掛かる手が猫耳たちの防御結界に触れてバチッと盛大に火花が散る。
危険を察知したのか飛行戦艦たちは少し距離を取る。雑魚の魔獣なら大ダメージなのだが、コイツらには効いた様子は無かった。少し煤けただけだ。
「「「にゃあ!」」」
猫耳たちは電撃をお見舞いする。稲光と共に飛行戦艦の表面で再度火花が弾けた。まるで仕掛け花火の様だ。
火花が収まる。
「どうにゃん?」
「にゃあ、ダメにゃん、効いてないにゃん」
コーラが返事をする。
飛行戦艦の防御結界を抜いたが、やはり損傷は無かった。
「にゃお、やっぱり硬いにゃん」
「予想通りにゃん」
コーラが王太子を治療している間に行った探査の結果、飛行戦艦はかなり硬いことが確認されている。攻撃は体当たりと捕まえた人間を貪り食うだけだが、無駄に頑丈に造ってある様だ。こんなのに襲われたら防ぎようがないので普通の城塞都市クラスだったらじわじわ蹂躙されてしまう。
何でもかんでも消し去る人型魔獣ほどの大きな被害は無いが、厄介なヤツらだ。
「造った人間も壊せなくてそのまま埋めたっぽいにゃんね」
「にゃあ、ウチとしては掘り出さないで欲しかったにゃん」
「まったくだ、魔法省の人間はあの化物を本気で操れると思ったのだろうか?」
王太子がベッドから立ち上がる。おぼつかない足取りだったがメイドさんの補助を断り一人で立った。
「にゃあ、発掘の関係者が飛行戦艦に操られていた可能性があるにゃん」
「あれ自身が人を操って復活したと?」
「にゃあ、デカいだけあって頭は悪くないみたいにゃん」
「しかも六個も連なってれば賢くもなるか」
「王太子殿下はこの先のことって見えないにゃん?」
「残念ながら、飛行戦艦についてほとんど知らぬゆえ、先を見通すことは困難だ。だが、公爵たちなら何とかするのであろう?」
「当然にゃん」
「もちろんにゃん!」
突然、赤い熱線が飛行戦艦の頭を貫いた。
飛行戦艦は何処も頭だったか。炎を上げた頭だけ連結が解けて墜落する。猫耳が地上に落ちる前に分解して格納した。
「にゃ?」
「お館様、戦艦型ゴーレムにゃん!」
コーラが西の空を指さした。
『ニャア』
かなり距離はあるがあの鳴き声は紛れもなく戦艦型ゴーレムだ。
「にゃあ、戦艦型ゴーレムの火力の前には飛行戦艦の石頭も紙と同じにゃん、ところで誰が動かしてるにゃん?」
猫耳たちからは戦艦型ゴーレムを出す話は出てなかったはずだが。
『お館様、戦艦型ゴーレムを出して来たのはチビたちにゃん』
チビたちを置いて来たはずのピルゴナ拠点の猫耳から念話が入った。
『にゃ!? チビたちにゃん!』
『お館様のいるアルカに飛行戦艦が向かっているのを知って、戦艦型ゴーレムを再生して飛んで行ったにゃん』
『何でチビたちが戦艦型ゴーレムを再生できるにゃん?』
流石にそこまでの魔力は無かったはずだが。そもそもオレたちの格納空間には接続していない。
『にゃあ、天使様たちが協力したにゃん、チビたちでも動かせる改良型のマナ変換炉を搭載した別物の戦艦型ゴーレムにゃん』
『にゃ、天使様の新型のマナ変換炉にゃん?』
『にゃあ、これまでの初代や二型と違うアーキテクチャみたいにゃん、研究拠点がいま大騒ぎしてるにゃん』
『つまり三型の登場にゃんね』
『いま判明しているスペックと大きさからするとかなり魔力炉に近いにゃん』
『にゃー!?』
魔力炉はいまだ手に入れられてはいないオレたちが追い求めている究極の魔力生成装置だ。
『それを天使様はポンとチビたちに渡してくれたにゃんね』
『にゃあ、そうなるにゃん』
『流石、天使様にゃん』
『ウチらはそのオコボレを頂戴して、新型マナ変換炉を解析中にゃん』
オレたちが新型マナ変換について話してる間もチビたちは飛行戦艦の頭を一つずつ丁寧にレーザーで焼いていた。
「てき3ばんかんにしょうじゅんあわせ!」
戦艦型ゴーレムの艦橋では艦長はビッキーだ。
オレは一緒に乗艦している猫耳と視界共有で様子を見ている。
「てき3ばんかんにしょうじゅんあわせ! ヨーソロ!」
砲手長はチャスが務める。ヨーソロはたぶんオレの中途半端な知識から引用してると思われる。
「「しょうじゅんあわせ! ヨーソロ!」」
ニアとノアが砲手担当。チビたち全員が海軍風の制服を着ていてかわいい。この辺りは猫耳たちが用意した様だ。仕事が早いにゃん。
「うて!」
「「ヨーソロ!」」
戦艦型ゴーレムの主砲から発射されたレーザーが標的のデカ頭を撃ち抜く。切り離されて墜落する頭の回収は近くにいる猫耳が担当した。
「ぜんそくぜんしん!」
「ぜんそくぜんしん! ヨーソロ!」
操舵はシアが担当している。
『ニャア!』
鳴き声を上げながら近付いて来る戦艦型ゴーレム。直ぐに首都の城壁上空を通過し停止した。
「革命権を行使されているから防御結界が反応しないのですか?」
ハーゲンが王太子に質問する。
「いや、一瞬で刻印の魔法式を書き換えた様だ」
「書き換えた? そんなことが可能なのですか」
「可能も何も現にやり遂げている」
「真実なのですね、私の思考が追いつきません」
「なに私もだ。恥じ入ることもあるまい、公爵殿の前では誰もが等しく何も知らぬ愚か者を演じさせられる」
「仰せの通りかと」
そんなに大層なものではないのだが。戦艦型ゴーレムの出現にはオレも一緒になって驚いているわけだし。
接近する戦艦型ゴーレムに飛行戦艦の全艦が反応する。デカ頭の連結を解いて戦艦ゴーレムにすべての顔を向けた。
『注意するにゃん、飛行戦艦のデカ頭がバラけたにゃん、内部の魔法式も切り替わってるにゃん、何かするつもりにゃん』
猫耳たちに注意喚起する。
『お館様、飛行戦艦の連結が解けた途端、エーテル機関の反応が出たにゃん、人工エーテル機関じゃなくて本物にゃん」
『デカ頭が魔獣化したにゃん?』
『そうにゃん、王宮周辺のマナの濃度が急激に上昇にゃん』
『にゃあ、デカ頭内部の魔力も増してるにゃん、分解魔法と自爆に注意にゃん』
オレは猫耳たちに指示した。
『『『にゃあ!』』』
バラけた飛行戦艦のデカ頭が一斉に口を開ける。
『『『アアアァァァァァ……』』』
口からビームでも出すのかと思っていたが違っていた。ハミングのような歌声が響く。綺麗な音だが尻尾がざわつく。
『お館様、飛行戦艦の歌に魔法式が載ってるにゃん』
『エーテル器官に直接書き込む洗脳系の禁忌魔法にゃん!』
猫耳たちから報告が上がる。
『にゃお、戦艦型ゴーレムの乗員を操る作戦とはなかなか考えてるにゃん』
『頭がいっぱいあるだけはあるにゃん』
『残念ながらウチらにもチビたちにも効かないにゃん』
『アイデアは評価するが使ってる魔法がお粗末にゃん』
『例えお粗末じゃなくてもお館様が改良を重ねたウチらの封印結界は抜けないにゃん』
不測の事態に備えて既に猫耳たちが飛行戦艦のいる空間を封印結界で囲っている。歌は聞こえても魔法式が封印の外に出る事はない。
「これよりひこうせんかんのせんめつをかいしする!」
「せんめつかいし! ヨーソロ!」
「「「ヨーソロ!」」」
「うちかたじゆう! うて!」
「「「ヨーソロ!」」」
戦艦型ゴーレムは飛行戦艦がいる王宮周辺を中心にして旋回しながらレーザーで次々とデカ頭を撃墜する。
チビたちにとってデカ頭はただの大きな的だ。
いまになって生き残ったデカ頭は王宮周辺からの離脱を図るが、既に時遅く封印結界から逃れることは出来ない。
魔獣化していても魔力を効率的に使ってるとは言い難く、切り札を結界で封じられ物理的な遠距離攻撃の術も持っていない飛行戦艦に反撃の力はなく、僅かな時間で殲滅は完了した。




