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フィーニエンス侵攻作戦にゃん

 オレは、会議室にアリとヘンゼルを残した。

「俺が王家の人間だと何故、王国の公爵様にバレてるんだ? 俺と養父しか知らない秘密だったのに」

「簡単にゃん、エーテル器官を見れば王国の王族や大公国の大公と特徴が似てるので王族とわかるにゃん、それに皇帝の紋章が刻まれているにゃん」

「そんなものが刻まれているのか」

「にゃあ、代々対象者に自動的に刻まれる系統魔法にゃん」

「まるで呪いだな」

「人によってはそうにゃんね、でもエーテル器官を読める人間はそう多くないから安心していいにゃん」

「いや、他人に知られた以上もう手遅れだ」

「良く始末されなかったな」

「王妃の側仕えとして王宮に上がっていた俺の母親は現国王の戯れでお手付きになり、その後、実家に戻ってから懐妊に気付いたらしい。宮廷によって母子ともども処分されるのを恐れた祖父が母の懐妊を伏せて極秘裏に出産したが、母はその時に亡くなった。そして母の兄の実子として育てられた、だから王宮の人間は誰も俺の存在を知らないはずだ」

「賢明な判断にゃん」

「だからって俺が国王になるかどうかは別の話だぞ」

「にゃあ、この際アリが国王になるかはどうでもいいにゃん、ただ王宮に行くまで手を貸して欲しいにゃん」

「嫌だと言ったら?」

「防御結界を壊すだけにゃん、そうなると首都アルカは防御機能を完全に喪失するにゃん」

 いまもちゃんと機能していればだけどな。

「そいつは後が大変そうだ」

 ヘンゼルがボソっと呟く。

「それに遠征のからくりが、国民に知れ渡れば宮廷貴族はただじゃ済むまい」

「待て、まだ遠征が全滅前提の人減らしが目的と証明されたわけじゃないぞ」

「アリは往生際が悪いにゃんね、証明なんて誰も必要としてないにゃん、国民が信じればそれが真実にゃん」

「公爵様の推測は間違いなく侵攻軍に全体に広まる、いくら秘密警察が目を光らせても帰還兵から一気に知れ渡るんじゃないか?」

 実際、本当のことだしな。

「フィーニエンス国内の秘密警察は根こそぎ潰す予定にゃん、だから情報が阻害されることは無いにゃん」

「秘密警察まで潰すのか?」

「にゃあ、今後のフィーニエンスには不要な組織にゃん」

「秘密警察の重しがなくなるのか、下手をすると内乱に陥るな」

 アリだけが深刻な表情を浮かべていた。

「にゃあ、そこは元奴隷部隊の人たちは有能な人たちが多いから、上手く使えば国を混乱せずに治められるにゃん」

「俺が王位に就くかどうかはともかく、国が大きく混乱しないように手を貸してくれると助かる」

「それは問題ないにゃん」

 フィーニエンスの情報に明るい猫耳を数多く用意できるから、内戦は阻止できる。

「どうせなら公爵様がフィーニエンスの国王になればいいんじゃないか?」

「ヘンゼルは気楽に言ってくれるにゃん、国王なんて六歳児には荷が重い仕事にゃん」

「マコト公爵なら年齢は関係ないんじゃないか?」

「原則は、この国のことはこの国の人間が決めるべきにゃん、また王国に攻め込もうとかバカなことをしない限り、オレとしても干渉したくないにゃん」

 もともと寄り道なのでフィーニエンスごときに長く時間を割くつもりは無い。オレは忙しいのだ。

「確かにこの国のことはこの国の人間が決めるべきか、頼んだぞアリ」

「俺かよ!」

「他に貴族の知り合いもいないしな」

「俺が国王になる時には、マコトもこっちの公爵になって貰うからな」

 アリは不機嫌そうな表情を隠しもしない。

「にゃあ、それぐらいなら引き受けてやるにゃん」

 貴族の称号は何かと便利なのでくれるなら貰っといて損は無い。

「それとヘンゼル、お前も何かやらせるからな」

 友人も巻き込むつもりらしい。

「えっ、俺もなのか?」

「この魔法バカには主席宮廷魔導師あたりがいいと思うにゃん、たぶん他のことは無理だと思うにゃん」

「ヘンゼルが宮廷魔導師か、悪くない、それで決まりだ」

「お前らで勝手に決めるなよ、だいたい俺は何で呼ばれたんだ? 王族でもなければ秘密警察でもないぞ」

 ヘンゼルは自分を指差した。

「ヘンゼルの父方の曾祖父さんに付いて訊きたいことがあって呼んだにゃん」

「俺の曾祖父?」

「にゃあ、たぶんオレと同郷にゃん」

「「同郷!?」」

 アリも一緒に声を上げた、

 エーテル器官からヘンゼルが転生者の子孫であることがわかった。転生者本人じゃなくてもオレ的には保護&監視対象だ。

「俺の曾祖父さんは王国出身だったのか?」

「にゃあ、王国じゃなくてもっと遠いところにゃん」

「もっと遠いって想像も付かないが」

「想像も付かないほど遠いところにゃん、それでヘンゼルは曾祖父さんに付いて何か知らないにゃん」

「いや、聞いたことが無い、俺は六歳で軍の魔法兵養成学校に入れられたからな、でも爺さんや親父は魔法を使えたが大した魔力は持って無かったぞ」

「曾孫に強い魔力が現れたのは母方の血にゃんね、過去に魔導師クラスの人がいたみたいにゃん」

「それも初耳だ」

「何代も前のご先祖だから伝わってなくても不思議は無いにゃん」

「公爵様は俺の曾祖父さんのことを調べてどうするんだ?」

「会ってみるつもりにゃん」

「会うって、えっ、いまも生きてるのか?」

「オレと同郷なら生存している可能性が高いにゃん」

「魔力が強いからか?」

 アリが質問する。

「にゃあ、そうにゃん、桁外れの魔力を有してるからほとんど歳を取らないように見えるにゃん」

 不老だが不死ではない。殺そうとしても簡単には死なないけどな。

「生きているなら俺も曾祖父さんに会ってみたい」

「見付けたら知らせるにゃん」

「お袋なら親父や爺さんから話を聞いて何か知ってるかもしれないな」

「にゃあ、だったら近い内にヘンゼルを連れて会いに行くにゃん」

「俺も行けるのか?」

「どうせ軍隊はしばらく開店休業にゃん」

 再編成が終わらないとフィーニエンスの軍隊は使い物にならないし、軍隊の規模も大幅に縮小させる予定だ。侵攻軍のうざい定期便は今回をもって終了だからな。

「宮廷のゴタゴタが片付いたら許可してやる」

「アリがやる気になったにゃんね」

「親父を一発殴ってもいいなら、協力してやってもいい」

「アリの親父って国王のことか?」

「晒し首にしないだけマシだと思ってくれ」

「宮廷の犯罪奴隷相当なヤツらは全員オレがいただくにゃん」

「それは構わないが、宮廷の大部分がそれに当たるんじゃないのか?」

「その時は全員しょっ引くだけにゃん」

「宮廷が無人になるな」

「にゃあ、オレのところから猫耳を派遣するから、国を動かすのは問題は無いにゃん」

 フィーニエンスの表も裏も知り尽くした猫耳を同じ数だけ用意するから、国政の運営はスムーズに進むはずだ。

 それに元奴隷の人たちも前職はなかなかのラインナップだ。

「やっぱり公爵様が国王になるのがいいんじゃないか?」

「にゃお、だからオレは他所の国の王様をやってるほど暇じゃないにゃん」

「だったら俺は暇なのか?」

「魔法軍が開店休業状態だからな」

 ヘンゼルに突っ込まれていた。



 ○フィーニエンス首都 アルカ 王宮スペルビア城


 首都アルカの中央に位置する王宮スペルビア城。アナトリ王国のタリス城と違い完全な平地に建てられてるが、幾つの巨大な尖塔で構成されておりその高さは高度限界ギリギリまで迫っていた。

 ここもまた数え切れないほどの刻印が使われているが、膨大故に管理修復は困難を極め、また宮廷刻印師の激しい権力闘争もあり技術が散逸。建設当時のきらびやかさは無くいまは夜ともなればその姿は天に届くような漆黒の影となっていた。



 ○王宮スペルビア城内 枢密院議場


 薄暗い議場の中ではフィーニエンスを動かす枢密院の構成員である高位貴族たちが王命によって緊急召集された。

「内務大臣、アナトリ王国からの宣戦布告は本当なのか?」

 会議が始まると同時に陸軍大臣が声を上げた。秘密警察は内務省の管轄であり陸軍は独自の諜報機関を持っていないわけではないが、能力はいまいちだ。

「間違いない、ハリエット女王陛下のお名前で念話による宣戦布告ならびに我が国の第二王子を擁しての革命を宣言された」

「我が国の第二王子!?」

 枢密院のメンバーである大臣の多くがでっぷりと太った青年を思い浮かべた。

「城下の娼館に入り浸っていると聞いていたが、いつの間にそんな大それたことを?」

 貴族たちの間で第二王子は女好きに愚か者との評価だった。

「この中でも第二王子を推してる者がいたな、娼館で他国を引き込んで革命の準備とはやってくれるではないか?」

 陸軍大臣に睨まれたのは刻印師を司る法術省の大臣だ。

「いや、私は何も知らぬ、間違いではないのか?」

 そのとぼけた表情からは真偽が読み取れない。

「コンラート第二王子殿下は既に保護してある、それにアナトリ王国が名前を上げたのは殿下ではない」

 内務大臣は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

「どういうことだ?」

「アナトリ王国が名前を上げたのはアルトリート第二王子殿下」

「「「アルトリート殿下?」」」

 大臣たちは聞き覚えのない名前に首をひねる。

「誰だそれは?」

「我々の知らぬ王子の身柄をアナトリ王国が押さえているということだ」

「でっち上げではないのか?」

「いや、王宮の刻印が反応している」

「革命の手続きは受理されたことからも、アルトリート第二王子殿下は革命権を持つ正当な血統の人間で間違いない」

 内務大臣の言葉を法術大臣は肯定した。

「正当な革命権保持者で間違いないとは厄介な、陛下お心当たりはございませんか?」

 陸軍大臣の言葉に他の大臣たちの目が玉座の国王グレゴリウスに向く。

「ハーゲンに何度も聞かれたが、余はアルトリートなどというヤツは知らぬ」

 不機嫌さを隠そうともしない。

 国王を不機嫌にさせたのは枢密院議長を務める宰相ハーゲン・デーレンダールだ。

「確認ですよ、陛下」

 不機嫌な国王に柔らかな笑みを浮かべる。

「わかっておるが、そなたはしつこい」

 国王は夭逝した友人の忘れ形見でもあるハーゲンに全幅の信頼を寄せている反面、遠慮もなかった。

「魔法大臣、アナトリ王国の軍勢に動きはありますか?」

 議長であるハーゲンの問いに魔法大臣は顔を上げた。魔法省は宮廷魔導師と魔法軍を統括している。

「遠見の術者に悪魔の森を監視させているが、人の姿は皆無との報告だ」

「我軍はいかがですか?」

「こちらかの問い掛けに一切反応しない」

「我軍が全滅したのは間違い無いあるまい」

 陸軍大臣が言葉を付け加えた。

「侵攻軍の全滅の原因が魔獣なのか、それともアナトリ王国の軍隊に依るものなのか、はっきりさせる必要がありますね」

 ハーゲンは枢密院のメンバーの中では最年少だが最も重要な議長を務めている。世襲は勿論だが、彼自身の優秀さがそれ以上に大きかった。

 前回の侵攻作戦からわずか七年で今回の遠征にこぎ着けた。この業績がなかったらフィーニエンスは今度の冬を越せずに大規模な飢饉に瀕していただろう。

「考えるまでもあるまい、アナトリ王国の軍隊が影も形も見えないのなら、魔獣一択に決まっておる」

 陸軍大臣が決め付けた。

「そう考えるのが自然かと」

 魔法大臣も頷く。

「姿が見えないとなるとアナトリ王国の軍隊が本当に来るのか怪しいのではないか?」

 財務大臣が疑問を呈する。

「どうせ革命権の行使もただの脅しであろう? 王国のヤツらに悪魔の森を渡る技術があるとは到底思えん」

 陸軍大臣は椅子にふんぞり返った。

「それでも備えは必要です。我々は侵攻軍で貴重な戦力を失ってしまったのですから」

 宰相が意見する。

「では、国内の防衛は我々に任せてもらおう」

 内務大臣が手を上げた。

 内務省が傘下に置く秘密警察は第三の軍隊と言っていいほどの規模を誇る。

「よろしいでしょうか。陛下」

 宰相が国王にお伺いを立てた。

「よかろう」

 国王の許可が下り、来るとも来ないともわからないアナトリ王国の軍隊への準備が急ピッチで進められることになった。



 ○王宮スペルビア城内 北の塔


 北の塔は王太子アナスタージウスの御所だが、ここ三年ほどは出入りする人間はわずか数人の側仕えと専属の治癒魔導師、そして宰相のハーゲン・デーレンダールのみに限定されていた。

 三日ぶりに目を覚まされたとの知らせを受けハーゲンは面会を申し込んだ。わずかな時間ではあるが許可が下りた。

「アナトリ王国から宣戦布告であるか」

 寝室を仕切るカーテンの向こう側から声がする。ベッドの上で身体を起こしているシルエットが見えた。

「いまだ姿は見せてはおりませんが」

「まさか、私より先に国が滅ぶとはな」

 王太子がこの北の塔に籠もって三年、病状は悪化の一歩をたどっていた。いまだ病状は隠されていたが、彫像病を患ってることは上位貴族の間では公然の秘密だ。

「殿下は、アナトリ王国の軍勢が来るとお思いですか?」

「アナトリ王国の軍勢を率いるマコト・アマノ公爵は控えめに言っても化物だ。我が国など彼女が本気を出せば五分と持つまい」

「確かに控えめに言って化物ですね」

 王太子アナスタージウスの遠見は遥か遠くケントルム王国にまで届く。更に不鮮明ながらも未来の光景を垣間見る未来視の能力を持っている。それを知っているのは宰相のハーゲンだけだが。

「幸いなのはマコト公爵は善良な人間だということだ」

「善良な人間が攻めて来るのですか?」

「王国の善良な人間が、我らにとっても善良とは限るまい?」

「確かに」

「既に悪魔の森はマコト公爵の支配下にある、王国の軍勢が姿を現すのは時間の問題といっていいだろう」

「マコト公爵の軍勢は悪魔の森の魔獣を倒せると?」

「ただ倒すのではない、マコト公爵の軍勢は魔獣を殲滅する」

「殲滅? 本当にそんなことが可能なのですか」

「王国内の魔獣の森の幾つかがマコト公爵の手によって事実上解放されている」

「殿下は以前からマコト公爵の動向を探っていたのですか?」

「いや、以前からではない、マコト公爵の動きが目に入ったのは本当に最近のことなのだ」

「最近でありますか?」

「そう、ほんの数ヶ月で公爵に成り上がった、それまではまったく無名だった様だ」

「代々の貴族ではないのですね」

「まったく違う、私にも公爵の正体は掴めなかった」

「殿下にもわからない者が存在したのですね」

「ハーゲンは私を何だと思ってるんだ?」

 カーテンの向こうで苦笑いを浮かべているのを感じた。

「殿下は、すべてを知るお方だと」

「では、一ついいことを教えてやろう、真の危険はマコト公爵の軍勢ではない、我が国を滅ぼしかねない危険はこの国の中にある」

「殿下、その危険とは?」

「お時間でございます」

 王太子の側仕えによって隔離用の厚い幕が降ろされ、王太子の答えを聞くことは叶わなかった。



 ○帝国暦 二七三〇年十一月〇一日


 ○悪魔の森 フィーニエンス第一拠点


 悪魔の森の地下都市の更に下に造られたフィーニエンス第一拠点の大ホールで日付が変わった辺りから新入り歓迎のオレの抱っこ会が始まった。

「「「にゃあ、お館様にゃん」」」

 猫耳のための魂を浄化させる技術は格段の進歩を遂げ、わずかな時間で大量に処理出来るようになった。

 オレたちは日々進化を遂げているのだ。

 しかし、抱っこ会の時間の短縮はオレの技術を以てしても出来ていない。感触は全員共有してるはずなのが、そういう問題では無いそうだ。

 そんなわけで新入りの猫耳たちに抱っこされたまま悪魔の森での魔獣掃討作戦の報告を念話で受ける。

『いまのところオートマタは順調にゃん』

『にゃあ、ご苦労にゃん』

 オートマタは一〇〇万体の投入が完了したので続けてもう一〇〇万体の投入を行っている。魔獣は純粋に数で押すのが最も効果的な驅逐方法だ。

『変な魔獣もいないにゃん』

『いちばんの変わり種が侵攻軍を囲んでいた目玉だったにゃんね』

『あのビームは、なかなかの掘り出し物にゃん、高度限界のレーザーより強力にゃん』

『早速、オートマタとドラゴンゴーレムにも搭載したにゃん』

『まさにドラゴンブレスにゃんね』

『そうにゃん、ドラゴンと言えばドラゴンブレスにゃん、ファンタジーにゃん』

『『『にゃあ』』』

 現地生まれの猫耳たちはであるがオレの価値観に引っ張られている。

 こちらの世界にもドラゴンの概念はあるが、UFO並に不確かな目撃情報以外に実物も存在は確認されて無いが、何でも有りのこの世界なので何処かに本物がいる可能性も皆無ではない。

『問題があるとすれば悪魔の森のどの辺りまで掃討するかにゃん』

『にゃあ、そうにゃんね』

 実は魔獣の森はフィーニエンスの国土をぐるり三六〇度囲んでおり東西南がそれぞれ何処まで続くのかが不明な状態だ。

 その辺りは王国も変わらなかったりするが、下手をすると現状のフィーニエンスの数倍の規模になる。

 更に南にはほぼ魔獣の森に覆われていると思われる西南大陸があり、そこまで来ると流石にいま手を付ける時間は無い。

『フィーニエンスを囲む魔獣の森を一度に全部掃討するのは現実的じゃないにゃん』

 探検は自分の領地が先だ。

『お館様、悪魔の森はフィーニエンスの北側にある王国との間の魔獣の森を指すから、まずはそこを綺麗にするのが良さそうにゃんね』

『にゃあ、オレも異議なしにゃん』

『最終的には結界でフィーニエンスを囲って魔獣が漏れ出さないようにしないとダメにゃんね』

『まずは簡易的に結界を張っておけばいいにゃん、実際にどうするかはフィーニエンスのゴタゴタが片付いたらにゃんね』

『にゃあ、まずは攻め込むにゃん』

『『『にゃあ!』』』

 猫耳たちはやる気満々だ。

『刻印の国の王宮だけにどんな隠し玉があるかわからないにゃん』

『にゃあ、革命権の行使である程度は発動が抑えられるけど用心に越したことはないにゃん』

『また人型魔獣とかは勘弁にゃん』

『フィーニエンスの連中は、刻印の技術があるだけにとんでもない自爆テロの仕掛けとかありそうにゃん』

『首都ごと敵を吹っ飛ばすとか有りそうにゃんね』

『何故それを魔獣に使わないにゃん? なんてツッコミを入れたくなるのがゴロゴロしてそうにゃん』

『にゃあ、それでもフィーニエンス国内の魔獣の森の飛び地の多さを見れば魔獣も吹き飛ばしたことはありそうにゃんね』

『小規模な魔獣の森の飛び地がそのまま残されてるところをみると、魔獣の森の解放はいまだ出来てないにゃんね』

『お館様、連中にそれが出来るならわざわざ王国まで攻めて来ないにゃん』

『にゃあ、それもそうにゃんね』

 フィーニエンスの刻印は魔獣に対していまひとつ進歩してないらしい。それでも王国よりはかなり進んでるのは間違い無さそうだ。


『お館様、ディアボロスの接収を完了にゃん』

『片付けたにゃん』

『『『にゃあ』』』

 抱っこ会も中盤に差し掛かったところで先発隊の猫耳たちから念話が入った。

『早いにゃんね』

『にゃあ、侵攻軍を送り出した後はほとんど無人に近い状態だったにゃん』

 ディアボロスは悪魔の森に接する城塞都市で悪魔の森攻略の最前線基地だ。猫耳たちの見た映像をそのまま共有しているが、前線基地といってもやたら頑丈な城壁があるだけで、後は小汚い兵舎にだだっ広い倉庫とガラクタが詰まった地下室。特に見るべきものは無い感じだ。ならばやることは一つ。

『ディアボロスをオレたちの前線基地に改造にゃん!』

『『『にゃあ!』』』


 ケラス軍の駐屯地風に改造するのにそれほど時間は要さなかった。


 ディアボロスの地下にはフィーニエンス第二拠点も造られ、今後フィーニエンス国内に流す予定の食料品の生産も一部は第二拠点のプラントで行う。

 小麦は大公国からネコミミマコトの宅配便が運んでくることになるはずだ。慣れてるヤツらにやらせるのが一番だ。

『フィーニエンス国内はどんな感じにゃん?』

 ディアボロスから探査魔法を打ってる猫耳たちに訊く。

『侵攻作戦直後だから魔法軍も陸軍も人員が国内にあまり残ってないにゃん』

『合計で三万を切ってるにゃん』

『組織を維持するための人員だから何人いようとも戦闘力では脅威にはならない連中にゃん』

『要は次の侵攻軍を組織するための人員にゃんね』

『物騒で迷惑な習慣は、今回限りにして貰うにゃん』

『『『にゃあ、当然にゃん』』』


 続けてフィーニエンス侵攻作戦の協議に入る。


『ヤバめの領主を叩こうと思ったらフィーニエンスは州制じゃないにゃんね』

『にゃあ、一応は中央集権国家にゃん』

『国自体が軍隊みたいなもので間違いないにゃん』

『生きるのが窮屈そうな国にゃんね、オレは勘弁にゃん』

 フィーニエンスに落ちないで済んだのは幸いだ。それ以前に魔獣の森に落ちなかったのも良かった。

 テラの地表は人の住めない場所が圧倒的に大きいわけだから、街から徒歩圏内のプリンキピウムの森に落ちたのは奇跡とも言える。

『首都の他に一〇の行政区があるにゃん、そのうち三つは魔獣の森に沈んでいるにゃんね』

『その割に人口は少なくはないにゃん』

『人間が活動可能な領土は王国の三分の一程度だが人口は三分の二程度いるにゃん』

 オレの知る現代日本に比べれば人口密度は遥かに低いが、フィーニエンスの貧弱な食糧生産能力を上回っていた。

『にゃあ、王国より子供の死亡率が低いのが特徴にゃん、治癒系の魔導具がそれなりに充実してるにゃん』

『食料の増産に刻印の技術が振り分けられてたら良かったにゃんね』

『食糧増産の研究がなされなかったわけじゃないけど、秘密警察に潰されたみたいにゃんね』

『国民は飢えているぐらいがちょうどいいと思い込んでる節があるにゃん』

『いびつなまま時を重ねて衰退を加速させてるって感じにゃん』

『ラウラのいた三〇〇年前からギーゼルベルトのいた二〇〇年前、それに現在と時代を追うごとに状況が悪くなってるにゃん』

『王国もヤバいけどフィーニエンスはもっとヤバかったにゃんね、この前までの大公国並のヤバさにゃん』

『ここ数年の深刻な食糧不足が状況を更に悪化させてるにゃん』

『近年の不作はフィーニエンスも同じみたいにゃん』

『農作物の不作は世界的なものみたいにゃん』

『いまやお館様の小麦はケントルム王国にまで流れてるにゃん』

『お館様の小麦が一足先に世界を征服にゃん』

『その言い方だとオレが世界征服を狙ってるみたいに聞こえるにゃん』

『『『にゃ、違うにゃん?』』』

 猫耳たちの念話の声が揃った。

『オレが求めてるのは権力じゃなくて冒険にゃん!』

 大事なことなので力説する。

『世界征服より魔獣の森に埋もれてる西南大陸を探検する方が面白そうにゃん』

『それも魅力的にゃん』

『『『にゃあ!』』』

『エクシトマ州の件が片付いたら、そっちをブラブラするにゃん』

 そちらの案件はフィーニエンス以上に難しそうではあるが。

『西南大陸は何があるか全くわからないにゃんね』

 ギーゼルベルトとラウラの知識にも無い。

 ちなみにギーゼルベルト・オーレンドルフはフィーニエンス国内では現在も偉大な魔導師として崇められていた。

 その子孫も長らく宮廷魔導師として幅を効かせているが、いまはろくに魔法を使えない者が当主を務めているようだ。

 すっかり権力型の魔導師に成り下がっていた。

 反対に宮廷刻印師として栄華を極めていたラウラの実家のピサロ家は一〇〇年ほど前のお家騒動が原因で没落。都を追われ現在は地方で小さな工房を営んでる。

 祖先を同じくするレークトゥス州のピサロ家もこの前の王都の屋敷で家令をしていた領主の弟が魔獣を驅逐するオレたちの邪魔した件と不可抗力とは言え領主が州都に引きこもったことから、領地運営不適格と判断され、つい先日、領地の没収が決まった。

 初動の遅れで州内に甚大な被害を出したのは事実だから仕方がないことではあったし、レークトゥスの商業ギルドのセコさに辟易へきえきしていた人間も多かったのも遠からぬ要因の一つだったようだ。

 財産までは没収されずに済むようなので明日から路頭に迷うことは無いが、バカな親戚を持つと一族郎党が苦労するのは何処の世界も同じらしい。

 それでもチャドたちなら何処でもやって行けるだろうから心配はしていない。

 レークトゥスは国王の直轄領となり、今後は宮廷魔導師が復旧工事に当たるらしい。使えない魔導師はリストラの対象になるので真面目にやらざるを得ないにゃんね。

 王宮はオレたちが直してやったが、他は自分たちでやるそうだ。

 王国のことはハリエットやアーヴィン様に任せて、オレたちは自分の領地の魔獣の森で遊んでいるのが平和でいい。それに税金代わりの小麦と魔導具提供を行っているので、多少無理をしたところで国庫が空になることはないはずだ。

 王宮にも猫耳たちを派遣してるので以前のように横からちょろまかす真似も不可能だ。不正の手口は猫耳たちが精通してるからな。

『魔法蟻のトンネルの掘削は順調にゃん、フィーニエンス国内を網羅するのにそれほど時間は掛からない予定にゃん』

『了解にゃん、フィーニエンスに時間は掛けていられないから、さっさとアリたちを連れて上空から首都アルカに入るにゃん』

『それが良さそうにゃん、秘密警察の念話を傍受したところ犯罪奴隷に爆発する魔導具を背負わせて突っ込ませるみたいにゃん』

『人間地雷にゃん』

『微妙な攻撃にゃんね』

『侵攻だけ考えて反撃されるとは考えて無かったにゃん?』

『そうみたいにゃんね』

『人間地雷なんて持ち出されたら厄介にゃん、予定通り夜が明けたらドラゴンゴーレムで先行してフィーニエンス国内の秘密警察を全部叩き潰すにゃん』

『にゃあ、フィーニエンス宮廷の目と耳を封じるにゃん』

『アリを連れて王宮に突っ込むのはそれからにゃんね』

『にゃあ、普通の警察が無いのに秘密警察があるというのも変な国にゃん』

『フィーニエンスの秘密警察は、世襲の間に特権階級的なものに変化したみたいにゃんね』

 ギーゼルベルトも『あれは駄目にゃん』と言っていたので、二〇〇年前から既に駄目だったらしい。

『中央集権国家なだけに腐敗すると国全体が駄目になるにゃんね』

『王国より進んでるようでそうでもないにゃん』

『国民皆兵でも上の連中がクズだから戦闘意欲はいまいちにゃん』

『それにしては侵攻軍はかなり統制が取れていたにゃんよ』

『にゃあ、あれは侵攻軍の兵士の大部分が魔法と薬で洗脳されていたからにゃん』

『洗脳にゃん?』

『魔力の高い魔法兵の一部には効かないから、ヘンゼルとアリは厭戦気分を丸出しだったにゃん』

『いまはどうにゃん?』

『全員、洗脳から解放してあるにゃん』

『地下要塞入口のウォッシュで簡単に取れたにゃん』

『フィーニエンスで面倒臭そうな秘密警察を潰せば後はこれと言って問題はなさそうにゃんね』

『『『にゃあ』』』

『それで秘密警察は国内にどれぐらいいるにゃん?』

『非公式エージェントを含めると軽く三〇万人はいるにゃんね』

『犯罪奴隷相当はどのぐらいにゃん?』

『少なくとも二割は犯罪奴隷相当にゃん』

『にゃあ、だったら全部いただくにゃん』

『『『にゃあ!』』』

 オレたちにとってフィーニエンスの秘密警察は猫耳のいい供給源だ。新入り歓迎の抱っこ会がどれぐらいの時間になるのか考えたくないが。


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