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獣の領域にゃん

「どうかしたの、ネコちゃん?」

 ベリルがトイレから戻って来た。

「オオカミが来たから退治しただけにゃん」

 既に全数を分解して格納済みだ。

「ネコちゃんは、スゴいね」

 ベリルが尊敬の眼差しでオレを見詰める。

「にゃあ、オレは冒険者が本職だから大したことないにゃん」

「お姉ちゃん、ネコちゃんスゴいんだよ!」

 ベリルは戻って来たお姉ちゃんにもオレのスゴさを語る。

 尻尾がこそばゆいにゃん。

「ふたりともここから先はプリンキピウムに着くまで馬車から離れないようにして欲しいにゃん」

「どうしてですか?」

「にゃあ、獣にゃん、この馬車には防御結界が張ってあるから安全だけど離れると効かなくなるにゃん」

「獣ってオオカミ?」

「もっといろいろいるにゃん、どいつもこいつも人間を好んで食べる奴ばかりだから気を付けるにゃん」

「危険がいっぱいなんですね」

「そうにゃん、でもこの馬車にいる限りは問題ないにゃん、それとロッジは最強にゃんよ」

 防御結界は厚めに展開だ。

「居心地も最高だよね」

 リーリも気に入ってるらしい。

「それはそうとお弁当だよ」

 妖精に急かされる。

「にゃあ、ダイナのお母さんが作ってくれたお弁当にゃんね」

 何だか重くて硬いが本当に食べ物なのか?

 これはオレの知ってる弁当じゃない。

「お弁当を開けるにゃん」

 包みを開けて中身を出して見た。

「わあ、干し肉と硬いパンだ」

 どっちも一〇センチ四方の立方体で、ぎっしり詰まってる。

 肉とパンで一セットらしくそれが四つずつ入っていた。

「これはどうやって食べるといいにゃん?」

「ナイフで削って食べるのが一般的だと思います」

 シャンテルが教えてくれた。

「つまりスライスするにゃんね」

 自分の分を一度分解して格納空間でスライスしてみた。どちらも向こう側が透けて見える厚さにして再生する。

「味見にゃん」

 パンと干し肉を合わせてパリっと食べた。

「にゃあ! これは美味しいにゃん!」

 こっちに来て初めて美味しい料理に出会った。

「本当に? 本当に美味しいの!? あっ、本当に美味しい!」

 興奮気味のリーリは横からオレのに食い付いた。

「ふたりの分もスライスするにゃん?」

「お願いします」

「ネコちゃん、あたしのも!」

 ふたりの分をスライスしてから野菜スープとジュースを用意する。

「マコト、あたしのもスライスして!」

「にゃあ、リーリは自分でできると違うにゃん?」

「自分じゃダメなの! マコトじゃないとダメなの!」

 妖精が駄々っ子になる。

「にゃあ、わかったにゃん」

 リーリの分もスライスしてやった。

「美味しい!」

 リーリは直ぐにかぶり付いた。

「ベリルとシャンテルはどうにゃん?」

「美味しいよ、ネコちゃん」

「とっても美味しいです」

 もしかして、街と違って農村には美味しいモノが有るのかも。これはまた行ってみる価値ありだ。



 ○プリンキピウム街道


 まったりとした昼休みを終えて馬車を出す。

「にゃあ、ここからは本格的に森になるにゃん、獣が襲い掛かっても馬車の結界が守ってくれるから慌てなくていいにゃんよ」

「マコトさん、馬車って皆んなそうなんですか?」

 シャンテルが質問する。

「防御結界は普通はないと思っていいよ、その代わり乗合馬車の御者はメチャクチャ強いから、オオカミなんか尻尾を巻いて逃げちゃうかな」

 リーリが代わりに答えてくれた。

「にゃあ、確かに強そうだったにゃん」

 いずれも筋肉質のゴツいオヤジが御者をしていた。オオカミ程度なら素手でイケそうな感じだった。

「わたしたちマコトさんの馬車に乗れて本当に良かったです」

「ネコちゃんありがとう」

「にゃあ、礼には及ばないにゃん」

 抱き着いたベリルの頭を撫でてあげた。オレと余り大きさが変わらないけどな。やっぱオレはちっちゃいみたいだ。


 午後も馬車は何事も無く森の中を進む。

 シャンテルとベリルは仲良く寝てしまった。

「マコトあっちにイノシシがいるよ」

「にゃあ」

「こっちはオオジカ!」

「にゃあ」

 オレは御者台から銃を使ってリーリが察知した獣を片っ端から狩る。

 どいつもこいつもこちらが子供だけなのをしっかり確認して近付いて来るみたいで入れ食いだった。

 乗合馬車のゴツい御者と比べたら楽勝の獲物に見えるのだろうが、オレからしたら狩りがしやすくて好都合だ。

 プリンキピウムの森の奥みたいに特異種が出たりすることは無かったが、デカい熊だのは普通にいた。

 シャンテルとベリルが起きてからは、オレは馬の背中に飛び乗って銃を使う。

 馬車も自動運転レベル5なので問題ない。

「マコト、あっちからオオカミの群れだよ!」

「にゃあ、オレも確認したにゃん!」

 銃を群れのいる方向に向けた。

「オオカミがいるんですか?」

 シャンテルは見付けられないでいた。

「にゃあ、今日は特に多いにゃん」

 今度はヤツらに囲まれる前に銃を撃ちまくる。

 さっきよりも多いオオカミを手に入れた。

「この感じからすると獣たちが森の奥から街道の方向に移動してるのかもね」

 リーリが周囲を見回す。

「にゃあ、獣の移動って良くあることにゃん?」

「珍しくはないよ」

「危険じゃないんですか?」

 シャンテルは、ちょっと心配そうにしてる。

「にゃあ、どうにゃん?」

 リーリに聞く。

「普通の人間からしたら危険かな、でもいまはマコトと一緒だから問題はないんじゃない?」

「にゃあ、オオカミの群れならどんなに囲まれても平気にゃん」

「マコトさんは本当に強いんですね」

「あたしほどじゃないけどね!」

 リーリが、オレの頭の上に仁王立ちで威張る。

 妖精が実際どれほどの力を持ってるのかは皆目不明だ。本当にオレより強くても少しも不思議じゃない。

 なんたってオレには全く感知できない妖精魔法を使うわけだから。



 ○プリンキピウム街道脇


 夕方ちょっと前に森の中に野営できそうな野原を見付けた。

 帰路はテントは使わず全部ロッジで行く。

「にゃあ、ちょっと早いけど今日はここまでにするにゃん」

 勝手に野原までの道を作って森の中に馬車で入り込んだ。

 木々に囲まれたそこは、サッカーコート一面分ぐらいの広さがあるいい感じの場所だ。

 森が開けた理由は火事らしい。

 随分まえのことらしくいまは黒焦げの木片は芝生の様な草に覆われていた。

「これって芝生じゃないにゃんね」

 手入れされてない芝生みたいな草は、州都の図書館の記憶石板の知識によれば名前は月光草。マナを吸い取る性質があるそうだ。しかもこれって本物の植物じゃない。ゴーレムに近い人工物だ。

 ちょっと頂くにゃん。コピーして格納した。

「ここで野営するにゃん」

 ロッジを出して野原を覆う様に背の高い塀を作った。出入口はない。

「ふたりとも塀の中なら歩いてもいいにゃんよ」

 シャンテルとベリルは馬車を降りた。

「本当に森の中なんですね」

「木がいっぱい!」

「明日は、もっと大きな木がいっぱいにゃん」

 プリンキピウム巨木群が直ぐそこから始まる。

「プリンキピウムは森の中にあるんですか?」

「にゃあ、森に囲まれてるにゃん、城壁の中は州都みたいに大きくはないけど獣も出ないし、いたって普通の街にゃん」

「普通なら安心です」

 あまり遠くない位置でオオカミの遠吠えが聞こえた。

「またオオカミが集まって来たね」

 リーリが高く飛んで周囲を見てくれる。

「にゃあ、オレはオオカミを狩るから、ふたりはここで遊ぶなりロッジに入るなり好きにしていいにゃん」

「マコトさんは塀の外に出るんですか?」

「どちらかと言うと塀の上にゃん」

 オレは高さ五メートルほどの塀に飛び乗った。

 木々の間からオオカミが一頭、こちらの様子を伺っていた。

 先に始末しようかと銃を構えた。

「待って、なにか来るよ」

 肩に乗ったリーリが教えてくれる。

「にゃ?」

 地鳴りだ。

 オオカミも何かを感じ取ったのか尻尾を巻いて逃げ出す。

 もちろんトリガーを引いて仕留めた。

 オオカミを収納すると直ぐに地鳴りの正体が現れた。

「イノシシ?」

「違うみたいだよ」

 なるほどイノシシとは違う醜悪な顔。

「にゃあ、ブタにゃん!」

 しかも群れでいる。


『『『ブモオオオオオッ!』』』


 全部で十五頭、いずれもイノシシよりも大きくてまるまると太っていた。

 口の周りが赤いのは、いまさっきオオカミの群れを襲ってむさぼり食ったからか。

 オレを見付けたブタどもは塀に向かって突っ込んで来た。

「にゃお、このブタ肉はオレが頂戴するにゃん!」



 ○プリンキピウム街道脇 ロッジ


 衣を着けたブタ肉を油に入れる。

 ジュワッ!と音だけでもおいしそうだ。

「これは何てお料理なの?」

 リーリは興味津々だ。

「にゃあ、とんかつにゃん、美味しいにゃんよ」


 皆んなでとんかつをたっぷり食べた。


『にゃあ、いま大丈夫にゃん?』

 キャリーとベルに念話を送った。

『マコト!』

『こちらはテントの中なので大丈夫なのです』

『オレもロッジの中にゃん』

『マコトも旅は順調みたいだね』

『にゃあ、問題ないにゃん』

 心配させる様なことは口にしない。それに本気で困るような状況には一度も陥ってないのは本当だ。

『にゃあ、ふたりにちょっと聞きたい事があるにゃん、妖精について何か知ってたら教えて欲しいにゃん』

『『妖精?』』

『にゃあ、実はいま妖精と一緒にいるにゃん』

『妖精を拾ったの?』

『ちょっと違うにゃん、オレが空から落ちて来た日からずっと見ていたらしいにゃん、それがこの前、姿を現したにゃん』

『妖精って珍しいね、王都だったらたまに連れてる人がいるけど、地方では見たことないかな』

『妖精は気まぐれなのです』

『幸運を運んでくれるって言われてるね』

『にゃあ、それは本人が否定していたにゃん』

『本当は妖精の使う妖精魔法の恩恵を受けてるというのが、研究者の間での通説なのです』

『にゃあ、妖精もそんなことを言ってたにゃん』

『妖精についてわかってるのはそれぐらいです、もともと詮索好きの人間の前には姿を現さないのです』

『にゃあ、妖精魔法については何か知らないにゃん?』

『存在が知られてる程度かな』

『人間の使う魔法とは全く違う系統と言われてるのです、それでさえちゃんと研究されてはいないのです』

『にゃあ、人間には認識できないから仕方ないにゃんね』

『認識できないの?』

『にゃあ、キャリーとベルも妖精の存在に気が付かなかったと思うにゃん』

『えっ、妖精がいたの?』

『にゃあ、オレたちのご飯を盗み食いしていたみたいにゃん』

『本当にマコトが落ちた時からいたんだ』

『まったくわからなかったのです』

『にゃあ、認識できないから人間には手も足も出ないにゃんね』

『王都の研究者よりもマコトの方が知識を持ってるかもなのです』

『にゃあ、そういう可能性もあるにゃんね』

『たぶん、それが真実なのです』



 ○アルボラ街道 野営地


 キャリーとベルはマコトからの連絡にほっとした。

「妖精と知り合うとは予想外だったね」

「盗賊を討伐しまくってるかと思ったのです」

「だよね」

「盗賊の討伐はやったような気がするのです」

「ちっちゃい子がひとりで魔法馬に乗っているのです、悪い考えを起こす輩は少なくは無いのです」

「それで酷い目に遭うと」

「そうなのです、マコトにはさんざん脅したけど、その辺りの盗賊がどうこう出来る存在では無いのです」

「だよね、マコトは強いもんね」

「そうなのです、誰よりも強いのです、それは間違いないのです」



 ○帝国暦 二七三〇年〇四月三〇日


 ○プリンキピウム街道


 翌日は、朝霧の中を出発する。

 昨日のブタを狩ってからは、獣の動きは一段落したらしくオレの探査魔法にはこれといった獣は引っ掛からなかった。

 獣たちはブタから逃げて街道まで来たのだろうか?

 視界が一〇メートルほどの濃霧なので速度は抑え気味だ。人間よりずっと眼がいい魔法馬の引っ張る自動運転だから、この程度は問題ないのだが一応、念のため。

 いまのところ他に走っている馬車も魔法馬もいない。魔法使いでもなければわざわざこんな状況のなか走らせはしないか。

 そもそもの交通量が少ない。

 結界が、霧の粒子を弾き馬も馬車もオレたちも濡れること無く進む。

 ひんやりとした空気に晒されることもない。

 霧の中に人影が見える。

 でも、森の中にいるそれは人間じゃないのでここは無視しておく。

 リーリも眼で追ってるが何も言わない。

 シャンテルとベリルは全く気付いて無かった。

 あれもまた森の精霊的なものなのか?

 元の世界にいるかどうかわからないが、こちらはマナの影響なのか、不思議な存在が実在していた。

 稀人のオレなんかはその最たるものだし、妖精も頭の上にいる。



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群


 霧の領域を抜けても森の中にいることに何ら変わりはない。いや、これって森って風景とはちょっと違ってる様な。

「にゃあ、プリンキピウム巨木群に入ったにゃん」

 元の世界では、まず有り得ない大きさの巨木の前を通る。視界が全部が一本の樹の幹だよ。

 二度目でもこの異世界丸出しの風景はビビる。

「お姉ちゃん、すごく大きな木だよ!」

「そうだね、大きいね」

 キャリーとベルは大した関心を示さなかったので、こっちの人間的には大して珍しくないものなのかと思ったが違っていた様だ。

 あのふたりは王都から一ヶ月もの旅をする間に珍しいモノをたくさん見て、大きな木ぐらいでは驚かなくなったのかもな。

 羨ましいにゃんね、絶対にオレもそのうち王都に遊びに行くにゃん!


「マコト、前方に人がいるよ」

 リーリが馬車の進行方向を指差す。

「にゃあ、盗賊ではないみたいにゃんね」

 路肩に壊れた馬車と途方に暮れてる感じの人が三人いた。

 隠れてる人間はいないし盗賊の演技ではなさそうだし森の精霊とも違う。ちゃんとした人間だ。

 見覚えのある人がいるし。

「ネコちゃん、あの馬車、壊れてるの?」

 ベリルも前方を指差した。

「にゃあ、そうみたいにゃんね」

 やはりベリルはかなり目がいい。

「にゃあ、三人のうちふたりはプリンキピウムの冒険者ギルドの職員にゃん」

「マコトさんのお知り合いですか?」

「にゃあ、そうみたいにゃん」

「冒険者ギルドの受付の娘がいるね」

 オレのストーカーだけあってリーリも知ってる。

 馬車は後輪の片方が外れていた。

 車軸が折れたみたいだ。

 それでも後輪だったのは不幸中の幸いだろう。

 三人もこっちの馬車に気が付いたみたいで手を振ってる。

 ギルドの受付嬢のセリア・ベイルと職員のデニス・バレットのふたりは知ってるが、もう一人の若い男は知らないにゃん。

 ギルドの職員みたいだが見た憶えはない。

 壊れた馬車の後方に馬車を停める。

「壊れたにゃん?」

「そうなの……って、ネコちゃん!?」

 セリアは馬車が停まって初めて御者台のオレに気付いた様だ。

「帰って来たにゃん」

「魔法馬でオパルスに行ったって聞いてたけど、馬車でお帰り?」

「そうにゃん」

「お願いネコちゃん、私たちをプリンキピウムまで乗せて行って!」

 デニスにお願いされる。

「にゃあ、それは構わないにゃん、でもそこの馬車は直さなくていいにゃん?」

「いいんじゃない、こんなオンボロ」

 デニスが冷たい目で若い男を見た。

「あっ、ひでえ、これでもデニス姉さんの為にいちばんマシな馬車を選んだんすよ」

 若い男は年の頃十七歳ぐらいか。

「あのねピート、半分も走ってないのに走行不能になる馬車のどこがマシなの!」

 若い男はピートと言うらしい。

「これでも一日掛けて綺麗にしたんす」

「だからねピート、雑巾がけの前にちゃんと整備をしなさい」

 セリアにもツッコまれてる。

「セリア姉さんまで酷いっす」

 別に酷くはないと思うが。

「とにかく応急修理するにゃん」

 魔法を使って折れた車軸を元に戻した。

「うぉ! 一瞬で直ったっす、スゲえっす! あんた何者っすか?」

「ネコちゃんはウチの冒険者だけど」

 セリアが前に出た。

「こんなにちっちゃいのに冒険者なんすか、スゲえっす!」

「にゃあ、スゴくないにゃん、馬車は車輪を戻しても車両全体が歪んでるし、部品も耐用年数を過ぎてるから、戻ったら廃車にした方がいいにゃんよ」

「えー、大丈夫っすよ」

「これに乗るときはピートひとりで乗れよ」

 デニスは冷たく言い放つ。

「さあ、デニス姉さんもセリア姉さんも乗って下さい、出発するっす」

「こいつ、人の話を聞いてない!」

「私たちはネコちゃんの馬車で帰るから、ピートはこのままコルムバの支部に帰りなさい」

 コルムバはプリンキピウムと州都の間にある街では最大らしい。街道から東に入った場所にあるので、用事もないから素通りしている。

「えー、せっかくの遠出なのにそれはないっすよ」

 唇を尖らせるピート。

「何で私たちがあんたの楽しみのために命を賭けなきゃならないの! さあ、とっとと帰れ!」

 デニス切れてる。

「わかったっす、帰るっす、その前にひとつお願いが有るっす、武器をひとつ貸して欲しいっす」

「あんた、まさか街道を走るのに丸腰で来てたの!?」

「デニス姉さんとセリア姉さんが一緒っすから問題ないっす」

「あんた、帰りはどうするつもりだったの?」

「いま気付いたっす」

 肩をすくめるピート。

「ピート、あんたが勝手に早死にするのは構わないけど、他の人を巻き込まないで!」

「巻き込まないっす、それに俺はこう見えてかなり強いっすよ」

「無手で強いにゃん?」

「武器がないと無理っすね」

「仕方ないにゃんね、これを使うといいにゃん」

 オレは盗賊退治で手に入れた剣を一本出してやった。

「えっ、いいんすか? これ新品じゃないっすか!?」

「新品ではないにゃん」

 オレが新品同様に直したのだ。

「コルムバの支部に到着したら、その剣はギルドの定期便でプリンキピウムに送ること、忘れたり借りパクしたら犯罪奴隷にするからね」

 セリアが条件を付けた。

「わ、わかったっす、ちゃんと返すっす」

「わかったら行きなさい、ちゃんと野営地を使いなさいよ」

「大丈夫っす、姉さんたちの使った毛布に埋もれて寝るっす」

「さっさと行け!」

 ピートは、追い払われる様に馬車をUターンさせて支部のあるコルムバの街に戻って行った。

「あー最初から自分で馬を走らせてくるべきだったわね」

「楽しようとして、スゴく疲れた」

 ふたりは、げんなりとした表情を浮かべていた。

 その間に荷台のクッションを片付けて、乗合馬車みたいな横長のベンチシートを左右に取り付けた。

「デニスとセリアも乗っていいにゃん、オレたちも出発するにゃん」

「私たちは後ろに乗ればいいの?」

「そうにゃん、靴を脱いでくつろいで欲しいにゃん」

「靴を脱いじゃうの?」

「にゃあ、土足厳禁にゃん」

 オレの馬車は土禁だ。

「ネコちゃんの馬車なら壊れたり傾いたりしないから大丈夫じゃない?」

「それもそうね」

 デニスとセリアのふたりを後ろに乗せて馬車を出発させた。


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