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キャリー・バックス小隊&ケラス軍にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年一〇月二七日


 ○ケラス州 仮州都ネオケラス ケラス軍司令部 車寄せ


 ネオケラスのピラミッド群の一つ、オレの持つ諸侯軍であるケラス軍司令部の車寄せに六輪トラックが停車した。

「「マコト!」」

「にゃあ!」

 オレはトラックから降りたキャリーとベルに駆け寄って抱き着いた。やっぱりふたりの近くがいちばん落ち着く。

「王都からの旅はどうだったにゃん?」

「快適だったよ! マコトの魔法車は本当に速いね、もうネオケラスに着いちゃった」

「普通ならどんなに早くても一ヶ月半は掛かるのに驚きの速さなのです」

「にゃあ、以前とは道がちがうにゃんよ」

 キャリーとベルの小隊を乗せたトラックは王都を出た後、まる一昼夜走って午前中のうちにネオケラスに到着した。レークトゥス州に造った王都からケラスに抜けるバイパスのおかげで大幅に時間が短縮出来たのが大きい。

「にゃあ、早速で悪いけどキャリーとベルにはケラス諸侯軍との打ち合わせをお願いするにゃん」

「小隊の皆んなは休憩させてもいい?」

 小隊の隊員は既に整列している。

「いいにゃんよ、部屋は用意してあるから案内させるにゃん」

『ニャア』

 案内役の猫耳ゴーレムが待機している。

「「部屋ってホテル?」」

 キャリーとベルが目をパチクリさせる。

「にゃあ、何か問題があるにゃん?」

「「「ありません!」」」

 隊員たちが声を揃えた。



 ○ケラス州 仮州都ネオケラス ケラス軍司令部 総司令執務室


 ケラス軍総司令執務室で、キャリーとベルは軍の司令と副司令の顔合わせをする。

「久しいな、キャリーそれにベル」

 ふたりを出迎えたのはクレア・アランデル元王国軍少尉で現ケラス軍総司令だ。王国軍との連携が不可欠なのでオレがヘッドハンティングした。

「ただいまキャリー・バックス小隊、到着しました」

 出迎えてくれたクレアに敬礼するキャリーとベル。

「ご苦労」

「にゃあ、副司令このふたりがキャリーとベルにゃん」

 副司令のフェリシア・ブルーマーにふたりを紹介する。フェリシアは猫耳一号被験者のアール・ブルーマーの妹だ。

「お噂は総司令から聞いております。ケラス軍の副司令を拝命しておりますフェリシア・ブルーマーです」

「王国軍特務中隊所属キャリー・バックス少尉であります」

「同じくベル・ベリー魔法少尉であります」

「こいつらは私の妹分でしっかり仕込んであるし、マコトの信頼も厚い、仲良くして損は無いぞ」

 フェリシアが王国軍に入ったのは新軍を組織するタイミングだったからキャリーとベルとは初対面だった。

「マコト様のですか?」

「にゃあ、キャリーとベルはこっちで出来た最初の友だちにゃん」

「お友だちなんですね」

「仲良くさせて貰っています」

「身分の違いは目を瞑って欲しいのです」

「にゃあ、オレたちの友情に身分は関係ないにゃん」

 実際、空から落ちて来た時には住所不定無職の六歳児だったわけだし、身分という観点からすると元はオレの方が数段怪しい。


 顔合わせの後はブリーフィングルームに場所を移した。



 ○ケラス州 仮州都ネオケラス ケラス軍司令部 ブリーフィングルーム


「にゃあ、これよりフィーニエンス対策会議を始めるにゃん」

 猫耳の進行で会議が始まる。

 出席者は王国軍から派遣されたオレとキャリーとベル。ケラス軍からはクレア司令とフェリシア副司令そして大隊長を務める一〇人の猫耳たち。そして領主のオレだ。

「昨日、フィーニエンスのシイラ行政区にある城塞都市ディアボロスより二〇万人を超える侵攻軍の将兵が、我が国カンケル州に向かって進軍を開始しました」

 フェリシア副司令が情報を読み上げた。

 クレア司令が独自に集めた情報とオレたちの観測の結果から、将兵の数はほぼ確定といっていいだろう。

「一週間前後で、カンケル州の境界門に到着すると思われます」

「にゃあ、ヤツらの魔獣の集合体に見せる偽装が最後まで上手く行けばの最短到達時間にゃんね」

「マコトはその偽装どう見るの?」

 キャリーが尋ねる。

「普通に考えればかなり無謀にゃん、でも勝算があって進軍を開始したはずだから突発的な事態が発生しない限りは来ると思うにゃん」

 観測結果からすると三日も持てば上等なお粗末な偽装だが、まさか二〇万の将兵を連れての無理心中も無いだろう。

「二〇万人の将兵に大型のゴーレム、それに魔法兵か、普通に考えればこちらに勝ち目はないな」

 クレア司令はニンマリする。圧倒的に不利な状況だが楽しそうだ。

「にゃあ、ウチらケラス軍の四倍以上にゃんね」

 師団長の猫耳のひとりヌコが発言する。

 知識と経験が共有化出来る猫耳たちは頻繁に役職を交換している。今回は元近衛軍の悪霊チームで固めているが、明日は別の顔ぶれになっている可能性もある。

「現在のケラス軍は、一般兵が四万九千ちょっとだったにゃんね」

 一般兵は、いずれも元は王国軍の新軍だ。ほとんどチンピラだったが根性を魔法的に叩き直したので特務中隊ほどヤバくはないが使えるレベルになっている。

 これに中隊長以上を務めるオレの配下の猫耳たちが加わる。

「現実的なところでは、国境の結界の強化と境界門の閉鎖だろうな、私の情報提供者も急な行動で全容を掴めていないらしい」

 クレア司令が肩をすくめる。

「にゃあ、やっぱり急な出兵にゃんね」

「今回は、王国の革命の混乱に乗じた火事場泥棒みたいな侵攻作戦だからな、準備不足もいいところらしい」

 クレア司令はフィーニエンス内に複数の情報提供者がいるらしい。謎に顔が広い。

「飛行戦艦はどうにゃん?」

「今回の出兵の切り札として、一般兵にまで知られている様だが詳細は噂レベルだな、ただ実在するのは間違いないようだ」

「出て来たら厄介にゃんね」

「マコトがドラゴンゴーレムを軍に貸与してくれれば、状況は変わるぞ」

「にゃあ、あれは魔法使いじゃないといまいちにゃんよ」

「いや、問題ない」

 断言するクレア司令。

「わかったにゃん、ただ今回は無理にゃんよ、それなりに訓練が必要にゃん」

「いいだろう」

「司令、先のことよりフィーニエンスの対策ですが」

 フェリシア副司令が脱線した軌道を修正する。

「にゃあ、そうにゃんね、オレとしては戦闘を避けたいのが本音にゃん」

「二〇万の軍勢だからな、普通に考えればそれは無理だろう」

 クレアが一言で否定する。

「私もクレア司令の意見に賛成、話し掛けたところで撃たれて終わりだよ」

「なぜなら最前線の兵士に行軍を止める権限など無いのです」

「にゃお、それもそうにゃんね」

 通信の魔導具がある以上、指揮系統の上位者はかなり後ろに引っ込んでるか。

「戦争なんてしたくないけど仕方ないにゃんね」

「相手が攻めて来る以上は仕方あるまい、我らはヤツらが二度と攻める気が起きないぐらいの教育をしてやろう」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちも賛同する。


「今回のフィーニエンス、私たちが止めようか?」

 キャリーが手を挙げた。

「にゃ、キャリーの小隊が止めるにゃん?」

「魔獣の森の中なら十分勝ち目があるのです」

 ベルも勝算があるらしい。

「お館様それにゃん、キャリー小隊を出せば、フィーニエンスに十分混乱させられるにゃん」

「エーテル機関を背負っている兵士を狙撃すればそれで終わりにゃん」

「魔法兵もゴーレムも、探査魔法の外からの狙撃には無力にゃん」

 猫耳たちは賛成らしい。

「そう、それ」

「狙撃して魔獣の擬態を解くのです」

 キャリーとベルの策も猫耳たちが示した手法と同じみたいだ。

「にゃあ、魔獣の森にゃんよ、流石に遠距離からの狙撃は無理があると違うにゃん?」

 物理的に見通せない。

「問題ないよ」

「問題ないのです」

「うん、問題ない、キャリーのところのフランカとイルマならやれる」

 クレア司令も太鼓判を押す。

『にゃあ、お館様、特務中隊を舐めちゃ駄目にゃんよ、かつてのスラムで長距離狙撃をしてたにゃん』

『ウチの友だちも隠れ家で頭を撃ち抜かれたにゃん、弾道が曲がるとか反則級の狙撃技術にゃん』

 猫耳たちは念話で補足する。特務中隊の詳細は知らないことになっているので声には出さない。

『弾丸を曲げるって魔法と違うにゃん?』

『半エーテル体の弾丸を有線でコントロールするみたいなものにゃん、魔法というより銃の性能にゃん』

 弾丸を直にコントロールか、それはそれで凄い技術だ。

『だからって、スラムのチンピラとフィーニエンスの兵士を一緒にしたら駄目にゃんよ、ヤツらには防御結界もあるにゃん』

『防御結界はウチらと違って一面しか保護されないにゃん、だから角度を変えれば抜く必要も無いにゃん』

『防御結界で守られた人間を狙撃するのが本来の任務にゃん、対策は抜かりないはずにゃん』

 猫耳たちは出来ると信じているようだ。

「にゃあ、本当に出来るにゃん?」

「問題なのです」

「キャリーの小隊にいるフランカとイルマのふたりが狙撃手にゃん?」

「そうだよ」

 確かフランカは痩せすぎの娘でイルマは人見知りしないフレンドリーな娘だ。

「にゃあ、わかったにゃん、二人の技量を疑っているわけじゃないけど許可はできないにゃん」

「駄目なの?」

「何が問題なのです?」

「理由は簡単にゃん、フィーニエンス内で仕掛けるとオレたちから侵攻したことになるにゃん、出来れば大義名分はこっちに欲しいにゃん」

「なるほど」

「シンプルなのです」

「それと宮廷魔導師級の魔法兵の存在がヤバいにゃんね、まずはそいつの確保が優先にゃん」

「宮廷魔導師レベルだと、確かに正面からやり合うのは不利かな」

「不意打ちも難しいのです」

『にゃあ、特務中隊なら宮廷魔導師でも後ろから首を掻っ切るぐらいはやるにゃん』

 猫耳がなんか言ってる。

「実際に狙撃が上手く行って偽装が解けると直ぐに魔獣が来るにゃん、離脱はかなり難しくなるにゃんよ」

「そうか、魔獣が複数来るのか、そうなると確かに離脱は難しいかも」

「複数の魔獣は対応できないのです」

「するとやはりカンケルの境界門に引き入れて迎え撃つことになるか」

 クレア司令も元のプランに戻る。

「にゃあ、そうなるにゃん」

「王国の領地に侵入した時点で宣戦布告とみなすが、この場合、そこまで厳密にやらんでも構わんだろう、お行儀を良くしても負けたら終わりだ」

「世知辛いにゃんね」

「外国との戦争だから仕方ないよ」

「王国のルールは通用しないのです」

 国際法は無いにゃんね。

『無いにゃん』

『勝ったヤツがルールにゃん』

『勝てば官軍にゃん』

『にゃお』


「それでマコトはケラス軍をどう動かしたいんだ?」

 クレア司令はオレの意見を訊く。

「にゃあ、カンケル州の境界門付近に展開して迎撃の準備をして欲しいにゃん」

「先制攻撃をしないのか?」

「にゃあ、相手は二〇万人にゃん、待ち伏せが効果的だと思うにゃん」

「待ち伏せか」

「実際の戦力がわからないから、まずはじっくり探りたいにゃん」

「悪くない手だ、特に魔法兵と飛行戦艦の全容が知れないことにはうかつにドンパチは避けた方がいいか」

「そうにゃんね、でもフィーニエンスの兵士がカンケルの境界門を抜けたら一気に行くにゃん」

「了解だ」

「にゃあ、それと出来れば生け捕りにしたいところにゃん」

「二〇万だからな、無理は出来ないぞ」

「にゃあ、出来ればでいいにゃん、最優先は撃退にゃん」

「わかった、余裕があれば捕虜にしよう」

「頼むにゃん、フィーニエンスの侵攻軍を無力化するまでは、オレたちが中心でやるつもりにゃん、捕縛が可能な場合はケラス軍に任せるにゃん」

「問題ない」

「オレたちは、その後は一気にフィーニエンス側の魔獣の森を占領するにゃん」

「フィーニエンス側の魔獣の森をですか?」

 フェリシア副司令が尋ねる。

「そうにゃん、賠償金代わりに頂戴するにゃん」

 魔の森の関係があるので、余計なチャチャは省きたい。

「だったらあちらのシイラ行政区ごと併合がいいんじゃないか? 城塞都市ディアボロスを残すとまた攻めて来るぞ」

「にゃあ、わかったにゃん、シイラ行政区も頂きにゃん」

「おお、マコトがフィーニエンスを教育してやれ」

「「「にゃあ!」」」

 オレじゃなくて猫耳たちが返事をした。

「ですが、何百年にも渡る国是です、そう簡単には曲げないのではないですか?」

 フェリシア副司令が質問した。

「そこはあっちのお偉いさんと直談判にゃん」

「出来るの?」

 キャリーが尋ねる。

「マコトは本気なのです」

 ベルが頷く。

「にゃあ、シイラ行政区まで占領出来ていれば可能にゃん」

 逆にケラスまで押し込まれたら、オレたちも総力戦だ。魔獣より強い相手に手加減など出来るはずもないので、どんな手だって使う。

「フィーニエンスの戦力は銃が中心だから、戦力的にはこちらに分があるだろう、後はヤツらの隠し玉いかんだな」

 クレア司令が腕を組んで椅子にもたれる。

「オレたちが確認したところではストーンゴーレム一〇体、それに起動させた魔獣の魔石が複数、魔法兵が多数にゃん、未確認では飛行戦艦にゃん」

「わかってるだけでも盛りだくさんだな」

「にゃあ」

「刻印技術の進んでいるフィーニエンスなら何が出てきてもおかしくないのです」

「やっぱり要注意は魔法兵だね」

 ベルのキャリー言う通りだ。

「フィーニエンスは、王国の宮廷魔導師と違って組織で動くから、魔獣も狩れるのだろう」

「にゃあ、王国の宮廷魔導師はしょっぱくて参考にはならないにゃん」

 宮廷魔導師は、この前の事件でもまるで役に立たなかった。

 主席になったマリオンを中心に組織改革中だが、実は魔力が強いだけで大した魔法が使えないなんちゃって魔導師がかなり混じっていて、頭を抱えているとか。

 まあ、頑張れ。

「フィーニエンスの魔法兵は七年前の遠征でかなりの被害を出したせいで、今回の遠征での魔法兵は少年兵が中心だそうだ、つまり経験が七年以下の者が大半になる」

「クレア司令は、本当にフィーニエンスに詳しいにゃんね」

 ユウカ並にあちらの事情に通じている。

「あちらに親しい友人が何人かいるだけだ、いずれも一般人だから機密情報までは探れないがな」

 クレア司令ならユウカと同じであちらに何度か足を運んでいるっぽい。

「少年兵にゃん?」

「少年兵だからって油断は危険なのです」

「うん、魔法使いに年齢は関係ないよね」

「年齢を言ったら、マコトは六歳だろうし猫耳にしたって十五ってところだろう?」

「「「にゃあ」」」

「フィーニエンスは、魔法兵を全面に押し出して来るのは間違いないにゃん、今回も全体の三割が魔法使いにゃん」

 探査魔法でフィーニエンスの軍隊の大まかな構成は判明していた。貴重な魔法使いを大量投入しているのがわかる。

「これはオレたちと戦うというより対魔獣のシフトだと思うにゃん」

「間違いない、ヤツらは我々の存在を知らないか、知っていたとしても以前の情報のはずだ、歯牙に掛けぬに違いない」

「ケラスの諸侯軍が以前の王国軍がベースだったらそうにゃんね」

「アレは酷いよね」

「責任を感じるのです」

「にゃあ、ベルが責任を感じる必要は無いにゃん、責任は不良品を寄越した領主にあるにゃん」

「それもこの前の一件で責任を取らされたから、因果応報だ」

 これまで王国軍に損害を与えた領主は一斉にお取り潰しになっている。

 ハリエットは次の領主を置かず、代官を派遣していずれも王宮の直轄領とすると決めていた。中央集権国家を目指すというより敵対した領主一族を支配者層から一掃するのが目的らしい。

 法衣貴族も大幅に数を減らしているが、そちらはブルーノ・バインズに操られた近衛によって粛清されたせいだ。

「一般兵士以外は、マコトたちに頼むしか無さそうだ」

「にゃあ、任せて欲しいにゃん」

「ケラス軍の詳細な迎撃作戦のプランは、カンケルの境界門に到着までに決めるとしよう」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちが敬礼する。

「オレからは、新しい装備を支給するにゃん」

「新しい装備?」

「魔獣の森を駆ける魔法馬と魔獣を沈める銃にゃん、魔石は魔法馬の格納空間に収められるけど、基本は猫耳も一緒じゃないと駄目にゃんよ」

「ただの森じゃなくて、魔獣の森を駆けるのか?」

「そうにゃん、魔法馬の防御結界が魔獣の森のマナから乗員を守るにゃん」

「認識阻害も完璧にゃん」

「にゃあ、お館様の作った魔法馬は魔獣より強いにゃん」

「鎧蛇クラスなら蹴り殺すにゃん」

 猫耳が得意げに語る。

「マコトの魔法馬なら十分ありそうだ」

「だね」

「想定内なのです」

 特に誰も驚かない。

「だからって、勝手に魔獣を狩りに行っては駄目にゃんよ、あれは後片付けが重要にゃん、躯を放置したら大変なことになるにゃん」

「では、状況が落ち着いたら頼む」

「にゃあ、了解にゃん」

「マコト様、その様な強力な魔法馬を我々が使えるのですか?」

 オレと付き合いの浅いフェリシア副司令だけが現実的な質問をした。バカな兄貴に苦労させられた常識人なだけはある。

「にゃあ、問題ないにゃん、むしろ前より乗りやすくなってるにゃん」

 オレに代わって猫耳が答える。

「強くなったのに前よりですか?」

「「「そうにゃん」」」

 猫耳たちは声を揃えた。

「改めた装備はどうだ?」

「銃も使い勝手は以前と変わらないにゃん」

「にゃあ、アイツらなら直ぐに使いこなせるにゃん」

「ウチらがそう仕込んだにゃん」

「直ぐに出られるにゃん」

「「「にゃあ」」」

「わかった、では予定通り直ぐに出るとしよう、それで新しい装備は私にも渡してくれるんだろうな?」

 クレア司令がオレを見る。

「装備は既に全員分を入れ替えてあるにゃん、キャリーの小隊の分も切り替わってるはずにゃん」

「おお、本当だ」

「まったく気が付かなかったのです」

 キャリーとベルも格納空間をあらためて驚いていた。

「これで魔獣を狩れるのか」

 クレア司令は魔法馬が提供している格納空間から銃を取り出して眺める。

 形は以前と変わらない小銃タイプ。大きく違うのは中身だ。エーテル機関が二つほど突っ込んである。戦争でもするのかと猫耳たちに突っ込まれた仕様だが、戦争なので問題ない。

「直ぐに試せないのが残念だ」

 本当に残念そうなクレア司令。

「にゃあ、そうにゃんね、オレの領地で魔獣が残ってるのはヌーラとエクシトマだけにゃん、残りはほぼ狩り終えているにゃん」

 オートマタの数で押して狩りまくったのでヌーラとエクシトマ以外は、ほぼ安全な場所になっている。

 獣が入り込んでるのと月光草でマナの濃度を抑え込んでいる状態なので、安定しているとは言い難く一般人には危険だけどな。

「なに、そこまで行かなくてもフィーニエンスで狩れるだろう」

「にゃあ、もしかしてクレア司令も国境に行くにゃん? 指揮ならここで取れるにゃんよ」

「司令である私が戦いの先陣を切らずどうする?」

 心底不思議そうな表情をする。

「普通は司令部にいるものにゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちもうなずく。

「問題ない、マコトの魔法馬なら何処にいても状況の把握は可能だ。そのまま指揮も執れる」

 横目でフェリシア副司令を見ると小さなため息を吐いて頷いた。

「わかったにゃん」

 クレア司令ならそれも有りだろう。普通は無いけど。


 準備は一瞬で終わったので、ケラス軍の移動が開始されることになった。



 ○ケラス州 仮州都ネオケラス ケラス軍司令部 前


 トラックは使わずそのまま魔法馬でまずはカンケルとの境界門を目指す。フィーニエンスが侵攻ルートに選んだ従来の境界門は、オレたちがアルカ街道を延長させたルートよりもずっと東側に位置する。

「では、行くぞ!」

 無論、先頭はクレア司令だ。

 約四万九千人のケラス軍は全軍で移動する。まずはケラスとカンケルの古い境界門近くにさっき作ったケラス第一地下要塞が目的地だ。

 そこに半数を駐屯させ、残りの半分がカンケルとフィーニエンスの境界門まで移動し、そこで侵略者を待ち受ける予定だ。

 キャリー小隊とクレア司令とオレが一緒に行動する。それとチビたちが一緒だ。猫耳たちとお揃いの戦闘服を着ている。

 王国軍特務中隊所属の小隊とケラス軍の首脳が行動を共にすると傍からいろいろと憶測を呼びそうだが、この情報が外に漏れることは無い。

 式神だろうが探査魔法だろうが、調査結果はいずれも限界集落だった頃のネオケラスが見えることになっている。

「マコトも一緒に行けるんだね」

「にゃあ、キャリーとベルと一緒にゃん」

「マコトと魔法馬を並べて走るのは久し振りなのです」

「そうにゃんね」

 一緒に魔法馬で長距離を移動するのは、プリンキピウムからオパルスに行って以来だ。トンネルの方が隠密性が高いのだが今回は使用しない。

 キャリーやベルたちを信用してないわけではないが、トンネルのことはいまだ外部には秘密にしている。

 それ以前にトンネルは魔法蟻たちの移動に特化した作りになってるので、人間の移動には向いていない。王宮に在ったモノレールなら導入可能だが、この距離ならそんなものでちまちま移動するより魔法馬で駆け抜けた方が面倒が無い。



 ○ケラス州 元魔獣の森 旧アルカ街道


 ネオケラスからカンケルとの古い境界門に移動する為、元魔獣の森にわずかに痕跡が残る旧アルカ街道を突っ走る。

 もともとのケラスとカンケルの境界門は、魔獣の森に沈んでいた場所にあり何処もかしこも森の中だ。

 旧道に関しては、今後も利用するシーンが無い上に敵が来るかもしれないので舗装はせず現状維持とした。


「新しい魔法馬、森の中を走ってるのにめちゃくちゃ速いね」

 キャリーは感心してオレを見る。

「しかもここは魔獣の森だったはずなのです」

 ベルが言葉を続ける。

「にゃあ、オレたちが作った魔法馬ならどんな場所でも関係無しにゃん」

「マナが薄いのに植生は間違いなく魔獣の森なのが不思議だね」

「にゃあ、キャリーは実際の魔獣の森に入ったことがあるにゃん?」

「うん、王国軍でも魔獣の森だってまったく入らないわけじゃないから」

「そうにゃん?」

「魔獣の森を抜けた方が近道なんてことがあるのです」

「正規軍もやる時はやるにゃんね」

「ただし二、三人のチームで、護符をてんこ盛りだけどね」

「するとベルも潜ったことがあるにゃん?」

「嗜み程度なのです」

 特務中隊は王国軍の中でも別格なのは間違いないようだ。


「フィーニエンスも魔獣の森を走る魔法馬を使ってるが、マコトの魔法馬ほどの性能はないな」

 クレア司令は、フィーニエンスが使っている魔法馬の性能まで知っていた。

「にゃあ、当然にゃん、フィーニエンスの刻印の技術がいくら進んでいようともお館様の魔法馬には敵わないにゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちが胸を張る。

 マナ変換炉とエーテル機関を突っ込んだ魔法馬だからな。

「馬が優秀過ぎて乗り手の技量が試されないのは少々つまらんが」

 クレア司令が苦言を呈する。

「そうにゃん? 馬の能力を引き出すのはやっぱり乗り手の技量にゃんよ」

 木々の間を縫ってジグザグに走る。ギリギリで避けるのがみそだ。

「おお!」

 クレア司令は歓声を上げた。

「なるほど、マコトの言う通りだ」

 クレア司令もジグザグに馬を走らせてご満悦だ。たぶん曲乗りならこの人がいちばんだろう。

「「「わぁ♪」」」

 案の定、チビたちも真似している。もしかするとオレより上手いかも。

「道具は使いやすさが重要にゃん」

 今回、確認したフィーニエンスの魔法馬も道具としてかなり優れている。王国の既存の工房でも作れるかもしれないが、制作期間と値段が現実的じゃないな。

『ウチらのプリンキピウムの工房ではもっと上を目指すにゃん!』

『にゃあ、負けられないにゃん』

『刻印の天才ラウラに手伝って貰うにゃん』

 プリンキピウムの工房に詰めている猫耳たちが対抗心を燃やしていた。

『一般に売れるレベルで頼むにゃん』

 と、だけ返事をしておいた。


 クレア司令とチビたちがジグザグしている間にまたキャリーとベルが寄って来た。

「カンケルにも魔獣はいないんだよね?」

「にゃあ、いないにゃん」

「どうやって、マナを低下させたのです?」

「にゃあ、この前の魔獣の大発生に対応するのに魔力に変換して使いまくったにゃん」

 と、いうことにしておく。

 キャリーとベルは友人だが、全部の情報を開示するわけにはいかない。

 絶賛稼働中の蛹型のマナ生成プラントにマナ変換炉をくっつけて、ゴリゴリ魔力を生産しているとかは秘密だ。

「魔獣の大発生でしょう、話には聞いたけど、実際に見てないからピンと来ないんだよね」

「実際に見たら見たでトラウマになること請け負いなのです」

「法衣貴族の中には、魔獣の大発生なんて嘘だって公言している人もいるみたいだからね、それは流石にどうかと思うけど」

「にゃお、そんな嘘を吐いて何の得があるにゃん?」

 法衣貴族の面倒くさいヤツらは絶滅したか思ったが、しっかり生き残っているらしい。G並の生命力にゃん。

『ウチらで始末するにゃん』

『にゃあ、いきなりそれは駄目にゃん、でも、悪さをしていたらその限りじゃないにゃん』

「城壁の内側しか知らない人間は、そういうものなのです」

「にゃあ、城の壁を這い回っていたのも魔獣にゃんよ」

「えっ、あれって戦闘ゴーレムじゃなかったの?」

「にゃあ、厳密には魔獣にゃん、人型のゴーレムが戦闘用にゃん」

「ああ、城内で壊れてたヤツね」

 人型の戦闘ゴーレムは、いくらも動かさないうちにどれも自壊したらしい。検分もしたけど、かなり微妙な代物だった。たぶん本物は過去の宮廷魔導師辺りが売っ払ってしまったのだろう。

「革命は、マコトのお屋敷でのんびりしているうちに全部終わってしまったのです」

「うん、危うく小隊全体が腑抜けるところだったよ」

「快適過ぎるのも問題にゃんね」

「問題なのです、ある意味、森林踏破訓練よりキツいのです」

「訓練場も作っておけば良かったにゃんね、今度、作っておくにゃん」

「それだ!」

「でも猫耳に頼めば、根性を叩き直してくれるにゃんよ」

「それもいいね」

「今後、小隊でマコトのお屋敷にお邪魔する機会はないので大丈夫なのです」

「だったら休暇のときにでも使えばいいにゃん」

「おお、いいね」

「でも、貴族街の上級地区はかなり行きづらいのです」

「ああ、それはあるかな」

「入りづらいという気持ちもわからないでもないにゃん、オレも庶民の出だから、あまりきらびやかなのは落ち着かないにゃん」

「それにしてはキラキラだったのです」

「あれは修復の結果にゃん、オレが作り上げたわけじゃないにゃん」

「それもそうか、元は大公のお屋敷だもんね」

「貴族街があれなら、王都の隣のオルビー領のホテルだったら、窮屈な感じはしないにゃんよ、キャリー小隊の貸し切りにしてもいいにゃん」

 魔力を消費する為にホテルもあちこち作ったが、大部分は使っていない。

 避難者は宿泊施設を使って貰ったし、いまは王都への帰宅も進んでいる。

 移住希望者もいるので、そこは別に都市計画を策定中だ。

「「「ホテル!」」」

 キャリーとベルよりも小隊のメンバーが先に食いついた。

「中将閣下のホテルを使わせて頂けるのですか!?」

 魔獣の森でも狙撃が出来るらしいイルマだ。

「にゃあ、休暇の時に使っていいにゃんよ」

「ありがとうございます!」

「腑抜けになったら、猫耳に根性を叩き直させるから、心置きなく腑抜けになっていいにゃん」

「そこは自分で気を付けますから大丈夫であります!」

 ビシっと敬礼した。

「「「大丈夫であります!」」」

 他の隊員も続いた。


「マコト、近くに魔獣の反応が複数あるのです!」

 探査魔法を打ったベルが手を手を挙げて注意を促す。

「にゃあ、それは猫耳たちが放した毛虫にゃん、探査魔法だと魔獣と同じ反応があるにゃん」

「「「毛虫?」」」

 小隊のメンバーが声を揃えた。

「そうにゃん、あの毛皮の採れる毛虫にゃん」

「毒を吐く毛虫でしょう?」

「オレのところの毛虫は改良してあるから毒は吐かないにゃん、人懐っこいかわいいヤツらにゃん」

「人懐っこいの?」

「にゃあ、そうにゃん、実は毒を出してる時から人懐っこかったにゃん」

「毒を吐きながら近付いて来るのは嫌すぎなのです」

「いまはほぼ全部、改良したから大丈夫にゃん」

「それなら安心なのです」

 毒が無くなったいまは、獣にも襲われるぐらい弱い存在なのでしっかりと防御結界を張れる能力を与えている。

「毛虫で魔獣を偽装するとは考えたね」

「有効な手なのです」

「にゃあ、王国側に魔獣がいないとわかったらフィーニエンスのヤツらが活気づくにゃん」

「そこまでサービスする必要はないよね」

「ないのです」

「マコトは、王国の他の魔獣の森は解放しないのか?」

 クレア司令が戻って来た。

「解放したと言っても、現在は魔獣がいないだけで本当に問題ないかどうかはまだわからないにゃん」

「魔獣がいないだけで十分凄いけどね」

「にゃあ、まずはオレのところの魔獣の森で様子を見るにゃん、他は実害が無い限り後回しにゃん」

「どこに帰属するのかも問題なのです」

「王国法では、魔獣の森の解放者に与えられるだったよね」

「そうなのです」

「マコトの領地は既にかなりの面積だったな、するとこれ以上はいろいろ難しい問題が出て来るからいまはヤメておくのが正解か」

「魔獣があふれ出さない限り他の場所は現状維持にゃんね、その代わりフィーニエンスの魔獣の森はオレが頂くにゃん」

「それがいいだろう、フィーニエンスのヤツらも魔獣の森が解放されて泣いて喜ぶに違いあるまい」

 クレア司令が意地悪な笑みを浮かべた。


「マコトのところのおチビちゃんたちは大丈夫なの?」

 キャリーがオレの後に続くチビたちを見る。

「にゃあ、大丈夫にゃん」

 最初はクレア司令と一緒にキャッキャと騒いでいたチビたちも、いまは馬上で気持ち良さそうに眠っている。

「オレの馬だから問題ないにゃん」

 魔法馬が騎乗している人員を守っている。

「マコトが馬の上で寝てるのは見たけど、おチビちゃんたちも同じなんだね」

「にゃあ」

「おチビちゃんたちも魔法で身体を固定してるのです」

「えっ!? おチビちゃんたちも魔法を使えるの?」

「にゃあ、使えるにゃんよ」

「五人全員が上位の宮廷魔導師並の魔力を有しているのです」

「スゴすぎるよ」

「皆んないい子にゃん」

「マコトもいい子だよ」

「にゃあ」


 キャリーとベルと雑談しながら、カンケルのカンケル第三拠点に先行して詰めてる猫耳たちに念話で声を掛けた。


『どんな調子にゃん?』

 カンケル第三拠点は、フィーニエンスが侵攻予定の古い境界門に近い地下深くに設営されてる。

 ちなみにカンケル第一拠点は、新しく作った境界門の前の猫ピラミッド。

 カンケル第二拠点は、魔の森の北側。地下+猫ピラミッドのことだ。

『フィーニエンスの連中は、雨の中を休憩なしで動いてるにゃん』

 オレにも超長距離の探査魔法の結果が伝わった。

『あっちは雨が降ってるにゃんね』

『この時期にしては、かなり冷たい雨にゃん、剥き出しの荷台に詰め込まれているにゃん』

『風邪でも引いてそのまま帰ってくれると最高にゃん』

『まず無理にゃん、ぶっ倒れるまで働かせて、使えなくなったら置き去りがヤツらのスタンスにゃん』

『ブラックにゃん』

所詮しょせん、下っ端の兵士は使い捨てにゃん』

 この世界に限ったことではないけどな。

『馬車での移動だからって、無茶をするにゃん』

 馬車と言ってもストーンゴーレムが無理やり切り開いた道だ。荷台に身体を固定しないと振り落とされるほど揺れる。

 絶叫マシンより揺さぶられる乗り物にノンストップで乗車し続けるのだ。前世のオレだったら三〇分も持たない。

『ヤツらも時間との戦いだから仕方ないにゃん』

『魔獣の集合体を偽装する魔導具にゃんね、ここから見る限りかなり不安定な代物にゃんね』

 王国なら犯罪奴隷に使わせるレベルだ。

『にゃあ、ヤツらの命綱は長い時間は維持できない荒業みたいにゃん』

『それに魔獣の森で立ち止まるリスクはかなり大きいにゃん、偽装を見破られる可能性があるにゃん』

『魔獣の森に入る以上、その辺りの対策は取ってあるのと違うにゃん?』

『見たところそんな感じは無いにゃん』

『マナに対しても魔法兵以外は簡易防御の結界札を持ってるだけにゃん、思いの外、実情はしょぼいみたいにゃん』

『かなり危ういバランスで成り立ってる作戦にゃんね』

『にゃあ、ちょっとしたトラブルで簡単に偽装が消えるにゃん』

『ヘタをすると全滅にゃん』

『オレの領地に届く前にありそうにゃん』

『にゃあ、お館様、その時はどうするにゃん?』

『介入するにゃん、二〇万人からの貴重な人命を失うわけにはいかないにゃん、魔獣に食わせるぐらいならオレが頂くにゃん』

『『『にゃあ』』』

 猫耳たちも頷く。

『にゃあ、お館様からのフィーニエンスに宣戦布告にゃんね』

『状況によっては仕方ないにゃん、本当はやりたくないにゃん、それでも人命が上にゃん』

『その場合どうするにゃん?』

『オレたちがケラス軍を率いて首都のアルカまで一気に攻め上がるにゃん』

『どっちが侵略者かわからなくなるにゃんね』

『二度とバカな真似をしないようにクレア司令と一緒にフィーニエンスのヤツらを教育するにゃん』

『『『にゃあ!』』』

 出来れば全滅する前に自主的にお引取り願いたいが、やる気満々のフィーニエンスの兵士たちだ、何が有っても戻ることはなさそうだ。

『飛行戦艦はまだ出て来ないにゃん?』

『いまのところ反応は皆無にゃん』

『侵攻が始まってるのにそれらしいのは飛んでないにゃん』

『発掘はしたけどまだ飛べて無いにゃんね』

『使えるなら、わざわざ危ない橋を渡らないで馬車に先行して飛ばすはずにゃん』

『そうにゃんね、後は禁呪を使ってとんでもないことになって無いことを祈るのみにゃん』

『にゃあ、スゴくありそうにゃん』

『フラグにゃん』

『禁呪でも使わないと刻印だけでは、そう簡単に空なんて飛べないにゃん』

『にゃあ、そうにゃん』

『また人間の魂をおもちゃにしてたら赦さないにゃん』

『スズガ・ケイジにゃんね』

『あのおっさんマメに手広くやっていたから、フィーニエンスにも手を出していたかもしれないにゃん』

『『『にゃあ』』』

『お館様、スズガ・ケイジの息が掛かってるにしては、準備に手間取り過ぎてると違うにゃん』

『確かにスズガ・ケイジが飛行戦艦を仕組んだにしてはタイミングがずれてるにゃん』

 ヤツのタイムスケジュールではフルゲオ大公国での死霊の大発生を皮切りにアポリト州でのグールが加わり、今時分は人型魔獣が暴れまわってる頃合いだから、飛行戦艦が出てきても消去されて終わり。ご苦労様でしたになる。

 それとも人型魔獣VS飛行戦艦になるのだろうか?

 わけがわからない。

『スズガ・ケイジがわざわざ手を出さなくてもフィーニエンスは近い将来、自滅しそうにゃん』

『そうにゃんね、ここ三〇〇年でも人の住める領域が大きく目減りしているにゃん』

『国境側の魔獣の森もかなり大きくなっているにゃん』

 当時を知るラウラの記憶と比べてるので間違い無い。

 いまにも魔獣の森に飲み込まれそうな城塞都市ディアボロスが、三〇〇年前には森から数キロ離れていたのだ。

 無謀な侵攻作戦が魔獣の森の拡大に拍車を掛けたのだろうことは想像に難くない。魔獣の森は人間が入れば入るだけ魔獣が活性化するのだから。


 ケラス軍は、夕暮れ前に地下要塞に到着し全員が地下に潜った。



 ○ケラス州 ケラス地下要塞 市街フロア


「これはスゴいね」

 キャリーが地下要塞のメインの空間に足を踏み入れて声を上げた。

「地面の下に街が出来上がってるのです」

 ベルも周囲を見回す。

 ケラスとカンケルの境界門近くに作った地下要塞は、ほとんどフェルティリータ連合で住民の避難に使った地下都市の流用だ。

「街じゃなくて、駐屯地にゃん」

 地下都市そのものだと何かあったときに不便なので駐屯地を模した造りになっているが、ここまで入り込むようなヤバい相手なら、さっさと放棄して逃げるのが正解だ。

「ケラス軍の半分はここに残して、もう半分はカンケルとフィーニエンスの境界門に向かう、マコトの魔法馬だとここから三日だったな?」

 クレア司令が確認する。

「そうにゃん、カンケルを縦断するから三日は見て欲しいにゃん」

 ケラスとフィーニエンスの間にはこの前まで魔獣の森に沈んでいたカンケル州が挟まっている。東西に長い形なので南北はそれほど厚くない。

「ヤツらの進行速度からするとギリギリか」

「にゃあ、ヤツらの進行速度がこのままなら五日後に国境の境界門を抜けるにゃん」

「迎え撃つ分には問題ないか」

「ここと同じような地下要塞は準備出来てるにゃん」

「もう準備してあるのか?」

「にゃあ、抜かりはないにゃん」

 カンケル第三拠点と同じくカンケル地下要塞も出来上がったばかりだけどな。


「「マコトさま!」」

「「「おやかたさま!」」」

 チビたちがジープ二台に分乗してやって来た。それぞれビッキーとシアが運転している。チャイルドシートは偉大だ。

「「「おむかえ!」」」

「にゃあ、ご苦労にゃん、司令部まで頼むにゃん」

「「「はい」」」

「皆んなも乗るにゃん」

「お、おお」

「うん、チビちゃんは運転も出来るんだね」

「にゃあ、出来るみたいにゃん」

 オレもいま知ったところだ。

「マコトも運転するのですから不思議は無いのです」

 チビたちの運転するジープに分乗してオレたちは地下要塞の司令室に向かった。



 ○ケラス地下要塞 司令室


「遅かったな」

「待ってたよ」

「美味しいの」

 司令室には既に天使様と妖精たちが来ていて、地下要塞オリジナルのケーキを食べていた。


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