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お久しぶりのプリンキピウムにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年一〇月二六日


 日付が変わる頃に降り出した雨がフィーニエンスの城塞都市ディアボロスを濡らし始めた頃、軍隊の移動が完了したらしく北上する人の流れが止まった。

 フィーニエンスもまた魔法馬の曳く馬車が移動の基本らしいが、ディアボロスまでは馬車鉄道が導入されている。

 その辺りも王国より進んでいたが、全ては軍の為って感じだ。もっと人が幸せになる方向に技術を使えばいいのにと外野の人間は思ってしまう。


『お館様、動き出したにゃん』

『にゃあ』

 抱っこ会が終了した明け方、城塞都市ディアボロスから魔獣の森へと大きな影が複数動くのを猫耳たちが察知した。

 大きな影に続いて軍隊も動いている。

『フィーニエンスの侵攻開始にゃん』

 いずれも城塞都市から魔獣の森を北に進む。カンケルとの境界門を目指してると思われる。

『先頭を切ってフィーニエンスの魔獣の森に入り込んだのは何にゃん?』

 身長一〇メートルかなりずんぐりむっくりのプロポーションで魔獣の森の木々をなぎ倒して進む二足歩行の巨人。

『全部で一〇体いるにゃんね、エーテル機関の反応は無いから少なくとも魔獣じゃないにゃん、森に入ったところで認識阻害の結界を解いたみたいにゃんね』

『お館様、あれだけ派手に魔獣の森を切り開いたら認識阻害も有ったものじゃないにゃん』

『それもそうにゃんね』



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 ブリーフィングルーム


 オレは猫耳に抱っこされたままブリーフィングルームに運ばれた。

『一〇体の巨人は軍隊の為に道を造ってるみたいにゃん』

『するとあそこが魔獣の森の境にゃん?』

『にゃあ、わずかにマナの濃度が薄いみたいだから可能性はあるにゃん』

『魔法使い以外には重要にゃん』

 そこはかつてふたつの魔獣の森の間にあったわずかな間隙の名残だ。魔獣の森を渡る定番のルートでもある。

 今回は巨人が派手に木々を排除して道を造っている。その後を軍隊の馬車と魔法馬が続く。どうやら徒歩の兵士はいないらしい。速度重視の進行計画なのだろう。

『結局の所、森を切り開いてるアレはいったい何にゃん?』

 ブリーフィングルームでも他の場所にいる猫耳たちの為に念話での会話を続ける。

『ウチらが見たところゴーレムだと思うにゃん』

『にゃあ、お館様、あれはまごうことなきストーンゴーレムにゃん』

 猫耳たちは、フィーニエンスのそれを人工物のゴーレムと判定した。

『確かに石で出来てるにゃん』

 ゴーレムならマナの濃い魔獣の森でならその真価が発揮されるだろう。

『フィーニエンス製だけあって刻印はなかなかのモノにゃん、でも戦闘ゴーレムというわけではなさそうにゃんね』

『にゃあ、飛び道具を持ってないから兵器というよりは重機にゃん』

『飛び道具を持たなくても巨木をなぎ倒して進むストーンゴーレムは十分な戦力になるにゃん』

『重機としての使い勝手も良さそうにゃん』

 猫耳たちはオレと思考を共有してるので重機の知識もある。

『お館様、ストーンゴーレムに刻印されてる魔法式からすると現代モノにゃん』

『フィーニエンスの技術はオレの予想よりもずっと進んでるにゃん』

 馬車鉄道しかり重機ゴーレムしかりだ。

『この侵攻速度だと一週間掛からずにカンケルとの境界門を突破出来そうにゃん』

『マナが薄くて魔獣のいなくなったカンケルなら更に侵攻速度が上がるにゃん』

『ストーンゴーレムの効率が悪くなるからどっちもどっちにゃんね』

 ストーンゴーレムの刻印を見ると魔獣の森のマナの濃度に最適化されていた。魔導具としてはかなり燃費が悪いので、市街地ではまともに動かないと思われる。

『カンケルでお出迎えが良さそうにゃんね』

『『『にゃあ、準備するにゃん』』』

『地上に目立つモノを造っちゃダメにゃんよ』

『にゃあ、わかってるにゃん、それと狩り尽くした魔獣の代わりに毛虫を放牧しておくにゃん』

『そうにゃんね、毛虫なら魔獣と似た反応になるにゃん』

 青色エーテル機関を元の家畜モードに戻すと探査魔法での反応はほとんど魔獣と変わらなかったりする。

『魔獣と言えば不思議と軍隊にもストーンゴーレムにも寄って行かないにゃんね』

『にゃあ、あれだけ派手に道を造っていたら普通は魔獣が集まって来るにゃん』

 いまのところ魔獣たちに動きはない、それどころか軍隊から距離を取ってる感じすらある。ストーンゴーレムに高性能な魔獣除けの刻印を刻んだか?

 じっくりフィーニエンスの軍隊の様子を観察する。

 不自然な魔力をいくつも感じた。

『にゃあ、魔獣除けの刻印の仕事ではないにゃんね』

 魔力の塊が三つほどストーンゴーレムを先導する様に移動している。魔法馬に乗った三人の兵士が魔力の発信源を背負っていた。

 この魔力の反応には馴染みがある。出力は低いが危険な波動を伴っていた。

『にゃお、エーテル機関にゃん』

『『『にゃ?』』』

『一〇体のストーンゴーレムを先導してる三人がそれぞれエーテル機関を起動させて背負ってるにゃん』

『エーテル機関を動かしているにゃん?』

『にゃあ、動いてると言っても魔力を少し放出してるだけにゃん』

『何でそんな事をしているにゃん?』

『そうにゃんね、密集してエーテル機関があるということは魔獣からするとヤバい集合体に見えそうにゃん』

『にゃあ、魔獣の集合体に擬態してるにゃん」

「間違いないにゃん、魔獣は自分より大きな個体や集合体には近づかないにゃん」

 集合体は複数の魔獣が集まって巨大な身体を作り一つの個体のように振る舞う。厄介さは折り紙付きで出来ることなら相手にしたくない。魔獣もその辺りは同じ様だ。

『にゃあ、ストーンゴーレムの後ろにもエーテル機関を持った人間がいるにゃんね』

 何人もの人間がエーテル機関をそれぞれ起動させている。魔法馬に乗った彼らはほぼ等間隔に配置されていた。

『今回の魔獣の森を渡る方法が軍隊を魔獣の集合体に見せる方法だったにゃんね』

『確認したにゃん、兵士のバックパックにエーテル機関を動かすだけの魔導具が入ってるにゃん』

『仕組みはかなり原始的にゃん』

『フィーニエンスの連中は、お館様みたいにエーテル機関を有効活用しないにゃんね』

『それは無理にゃん、お館様の魔力と精霊情報体の知識があって初めて出来る奇跡の技にゃん』

『おまえらだって出来るにゃんよ』

『それもお館様のおかげにゃん』

『『『にゃあ♪』』』

 猫耳たちに撫でられて喉をゴロゴロさせてしまったが、フィーニエンスの作戦には一つ大きな穴があった。

『起動させたエーテル機関を生身の人間が背負うなんて、一つ間違うと大変なことになるにゃん』

『間違わなくても普通に大変なことになるにゃん』

 エーテル機関から放出されるナマの魔力は、例えその出力が低くても人体、特にエーテル器官に深刻な影響をもたらす。

『にゃあ、あのエーテル機関の波長はまずいにゃん、人間をグール化するにゃん』

 オレたちは人をグール化させるメカニズムを既に解明してるからわかるのだが、ヤツらだってぶっつけ本番じゃないだろうから危険性は知っているはずだ。それでもなお使っているのだから何か対策を取っているのだろう。

 無策にグールになるまで使い潰しては兵士がいくらいても足りなくなるし、被害も出る。その辺りはもうオレが心配することでもないが、無駄な人死は今後の為にもなるべく避けて欲しい。

『飛行戦艦はどうにゃん?』

 オレの探査魔法に噂の飛空戦艦は引っ掛かって無かった。

『にゃあ、ウチらもまだ跡形も見えないにゃん』

 猫耳たちも超長距離の探査魔法を打っているが、やはりそれらしきモノは発見できなかった。

『にゃあ、情報が無いに等しいにしても飛行戦艦なのだから空は飛んでないとおかしいにゃん』

『超低空飛行かもしれないにゃんよ』

『それで飛行戦艦を名乗るのはどうかと思うにゃん』

『まだ飛ばせない状況と違うにゃん?』

『発進に手間取ってるにゃんね』

 空を飛ぶモノは整備に時間が掛かるものだ。ドラゴンゴーレムだって毎回再生しているのでいつも新品だ。


 魔の森に魔力を注ぎ込むお仕事とフィーニエンスの軍隊の動向の観察とカンケルでのお出迎えの準備を猫耳たちに任せてオレは天使様たちとチビたちを連れて朝食に出掛けた。


 ドラゴンゴーレムでプリンキピウムだ。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 発着場


「「「マコト様! お帰りなさいませ!」」」


 ドラゴンゴーレムには驚いていたが、新しく作った発着場にはプリンキピウム・オルホフホテルの従業員一同が出迎えてくれた。それほど長く空けたわけでは無いが、とても懐かしく思えた。

「にゃあ、ただいまにゃん」

「お帰りネコちゃん」

 最初にオレに飛びついたのがベリルだ。オレより二個下のはずだが、そんなに大きさが変わらない気がして地味にショックを受ける。

「にゃあ」

「ベリル、公爵様に失礼ですよ」

 ベリルをたしなめたのは姉のシャンテルだ。ちょっと見ない間にお姉さん度に磨きが掛かった。

 ドアマンの制服もすっかり馴染んでいる。

「にゃあ、オレに対しては以前のままでいいにゃん、その代わり他の貴族には気を付けるにゃんよ」

「わかった」

 オレに抱き着いたままのベリルはうなずいた。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル プレミアムフロア レストラン


 挨拶はじっくりしたかったが、まずは天使様たちを連れてプレミアムフロアのレストランに案内した。チビたちは寄宿学校の仲間たちのところにシャンテルとベリルと一緒に走って行った。

 既にアトリー三姉妹が待機している。

「「「おはようございます」」」

 おお、初めてあった時とはまるで別人だ。

「にゃあ、おはようにゃん、早速頼むにゃん」

「何かご希望はございますか?」

 アニタが代表して訊く。

「そうだね、希望はないけどクロウシとマンモスのステーキは欲しいかな、それとここに来たらもつ煮は外せないよね」

 リーリは希望がないと言いつつつらつらと注文を述べる。

「ミンクはデザートにソフトクリームを希望なの!」

「我も皆と同じで頼む」

「承りました」

 朝食だけど天使様と妖精たちはガッツリ行く様だ。

「にゃあ、オレはハムエッグで頼むにゃん」

「あたしも追加で」

「ミンクも」

「我も頼む」



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー


 朝食の後は天使様と妖精たちはペントハウスのジャグジーに浸かり、オレは支配人のノーラさんやコレットやフェイに挨拶をしてからホテルの向かいにある冒険者ギルドを訪ねた。


「ネコちゃん、いらっしゃい」

 以前と同じくセリアが出迎えてくれた。久し振りに見たが相変わらずのおっぱいだ。冒険者のおっちゃんたちは以前と比べると身ぎれいになっている。

 ほとんどが剣では無く銃を背負ってるのはマホニー武器店を介して武器の貸与が始まっているからだ。

「にゃあ、デリックのおっちゃんはいるにゃん?」

「ええ、いるわよ」

「ちょっとあんた、公爵様になんて口を利いてるの!」

 デニスが飛び出して来た。

「マコト様、失礼いたしました」

 デニスはゴン!と音がするほどセリアの頭をカウンターに押し付けてお辞儀させる。

「にゃあ、堅いことは抜きで頼むにゃん」

「でしょう? ネコちゃんは前からいつもどおりでいいって言ってたんだからね」

 額を赤くしたセリアが顔を上げた。

「それは前でしょう? いまのネコちゃんは公爵様なのよ」

 デニスもネコちゃんと言ってるわけだが。

「にゃあ、デリックのおっちゃんがいるなら会って来るにゃん」

 オレは揉めてるふたりを放置してギルマスの執務室に向かった。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室


「おお、マコトか、無事で何よりだ」

 プリンキピウムの冒険者ギルドマスターであるデリック・オルホフはオレの無事を喜んでくれた。

 オレは勧められてソファーによじ登って座る。

「にゃあ、デリックのおっちゃんにはいろいろ頼んで苦労かけたにゃん」

「いや、マコトのところの猫耳たちが動いてくれたから思ったほどでも無かったぞ」

「にゃあ、それなら安心にゃん」

「王都が機能不全に陥ったらしいが、こちらは平和なものだったぞ、魔獣の林檎の出荷も滞りなく進んでいるし、むしろ出荷量は増えたぐらいだ」

「魔獣の林檎は値段を下げたのが功を奏したにゃんね」

 貴族のデザートから庶民のごちそうぐらいで落ち着いている。

「出荷もマコトのところの宅配便の連中が請け負ってくれてるから、こちらは人員を割かなくてもいいので助かっている」

 ネコミミマコトの宅配便は国境を越えプリンキピウムにも活動を広げている。多国籍企業になっていた。

「フリーダが売上をプリンキピウムに抜かれたって嘆いていたぞ」

「にゃあ、オパルスだったらカズキを使って売上を上げればいいにゃん」

「カズキ様なら、わざわざ冒険者ギルドを通さなくても儲けられるから、引きずり込むのは難しいんじゃないか?」

「だったら、仕方ないにゃんね」

 現在のプリンキピウムは州としてアルボラから独立しているので、冒険者ギルドも支部から本部になっていた。

 カズキに遠慮することも無くなったので、猫耳たちがプリンキピウムからコルムバまで街道の修復や下水道の工事などやりまくって日本の田舎町程度の快適さが確保されている。

 更に空からオレが落ちてきた降臨の地には、いまは猫ピラミッドを中心とした州都機能を持つ新プリンキピウムが稼働を開始していた。

「オレもプリンキピウムのことは特に心配していないにゃん」

「ああ、いまのところは順調だ」

「ただカンケルでフィーニエンスとドンパチがあるから一応伝えておくにゃん」

「カンケルか、マコトの領地になってるほぼ全体が魔獣の森の廃領地だったな」

「にゃあ、いまは魔獣は一匹もいないにゃん、ただマナはまだ濃いにゃんね」

「マナはともかく魔獣がいないのはフィーニエンスの連中からしたら好都合か、魔獣の森を越えて来る連中相手に大丈夫なのか?」

「まだ何とも言えないにゃん」

「わかった、俺からも親父殿に報告しておこう、何か有用な情報があったら近くの猫耳に伝言を頼んでおく」

「そうにゃんね、アーヴィン様なら別の情報を持ってるかもしれないにゃんね」

「ああ、情報だったら頼りにしてくれていいぞ」

「にゃあ、デリックのおっちゃんも気を付けて欲しいにゃん、フィーニエンスでは空を飛ぶ飛行戦艦なんてのが用意されてるらしいにゃん、まかり間違ってこっちに流れてくる可能性もゼロじゃないにゃん」

「飛行戦艦か、本当にそんなモノがあるのか?」

「あると仮定した方がいいにゃんよ」

「確かに何を考えてるかわからないフィーニエンスの連中が相手では、備えるに越したことはないか」

「にゃあ、気が変わってプリンキピウムに攻めて来るかもしれないにゃん」

「有りそうで怖いな」

「にゃあ、ヤツらが来たときは直ぐに城壁内か避難用のロッジに逃げ込むよう勧告して欲しいにゃん」

 避難用のロッジは冒険者ギルドで貸し出してる魔法馬の利用で行動範囲が広がった冒険者の為にプリンキピウムの森の要所要所に設置されている。

「わかった、そこは任せておけ」

「頼んだにゃん」

「マコトも王宮のゴタゴタの後はフィーニエンスと休む暇がないな」

「にゃあ、そうにゃん、勘弁して欲しいにゃん、そうでなくても予定が立て込んでるにゃん」

 オレには戦争大好きなヤツらと遊んでる暇なんてない。まだ何処かにあるかわからない廃帝都エクシトマを探して元転生者の天使に会うという大事な用があるのだ。

 あちらは人間とは違った時間感覚だろうから数年遅れても機嫌は損ねないと思うが早く会うに越したことはない。

「フィーニエンスの連中の狙いはケラスなんだろう? こう言っては何だが、魔獣の森を越えて攻め込むほどの価値は無いんじゃないか?」

「それはオレも同感にゃん、ヤツらが欲しいのはケラスというより魔獣の出ない土地みたいにゃんね」

「獣はいいのか?」

「にゃあ、ヤツらの土地には大した獣がいないみたいにゃんね、知らないからわざわざ王国の土地を狙って来るにゃん」

「ご苦労なヤツらだな」

「でも、刻印の技術は数段上にゃん、普通に戦ったら王国に勝ち目はないにゃんね」

「マコトの場合はどうだ?」

「まだ、何とも言えないにゃん」

 負けるつもりは無いのだが、出来ることなら人間相手にやり合いたくない。

「相手がどうであれ、王国の窮地にかこつけて侵略なんて卑怯なことをやらかす連中だ、手加減する必要はないぞ」

「そうにゃんね」

 ただ相手が盗賊では無く命令で動いてる兵士だということが引っ掛かった。盗賊なら容赦はしないのだが。



 ○プリンキピウム プリンキピウム寄宿学校


 デリックのおっちゃんとの情報交換の後は、買取り担当のザックをいじってから寄宿学校に顔を出した。

「「「ネコちゃんだ!」」」

 ちっちゃい子たちが駆け寄って来る。それから大きな子たちも続いた。それから一足先に合流したチビたちも一緒だ。

「にゃあ、皆んな元気だったにゃん」

「「「げんき!」」」

「にゃあ、何よりにゃん」

 アシュレイが前に出る。痩せっぽちだった身体も健康な感じにふっくらとしていた。

「ありがとうございます、マコト様もご無事でなによりです」

「そんなに改まらなくていいにゃん、オレの中身は何も変わってないにゃん」

「ですが」

 困り顔のアシュレイ。

「にゃあ、そうにゃんね、他の人間がいないところなら前と同じで頼むにゃん」

「はい」

 今度はいい笑顔を浮かべる。

「ネコちゃん、あのね、あのね」

 オレにくっついたメグが、留守にしていた間のことをいろいろ教えてくれる。

 バーニーたちが魔法馬で街の外を走り回ってることや勉強の進捗具合など。それからアシュレイを始めとする何人かが冒険者ギルドのお手伝いをしていることを話した。

「にゃあ、頑張ってるにゃんね」

「公爵になったマコトほどじゃないよ」

 バーニーも背が少し伸びたみたいだ。

「にゃあ、公爵は成り行きにゃん、狙ってなったわけじゃないにゃん」

「プリンキピウムも独立させるとかスゴいよ」

 ブレアはちょっとふっくらしすぎだ。

「魔法は上達したみたいにゃんね」

「うん、猫耳さんたちが教えてくれたから」

「にゃあ、頑張れば宮廷魔導師もイケるにゃん」

「本当に?」

「にゃあ」

「いいな、ブレアは」

 羨ましそうにしてるのはカラムだ。

「にゃあ、カラムは勉強をすることにゃんね」

「勉強か」

「何事も考え無しでは務まらないにゃん」

「俺を見るな、俺だって前とは違うんだ、それぐらいわかってる」

 バーニーは唇を尖らせた。

「にゃあ、ちゃんと知ってるにゃんよ、バーニーは良くやってるにゃん。魔法馬で森の中を走れるようになったにゃんね」

「猫耳さんが貸してくれた魔法馬でだけどな」

「普通の魔法馬で森に入るなんて無理だよ」

「うん、普通の魔法馬では普通に走るのでさえ難しい」

 ブレアとカラムが付け加える。

「普通の魔法馬も乗ったにゃんね」

「猫耳さんたちが用意してくれたんだ、お館様の魔法馬で慣れると他の魔法馬に乗れなくなるって」

「そうにゃんね、オレのところの魔法馬と普通の魔法馬はまったく別の乗り物にゃん」

 乗り手の技量に左右されるのが普通の魔法馬で、オレのは誰が乗っても一定のパフォーマンスは保証される。

 それと普通の魔法馬で森の中に入ったら少なくとも走るのは無理だ。牽いて歩くのがやっとだろう。

「チーズと果樹園はどうにゃん?」

「どっちもいまは大人がメインかな、子供は勉強の時間だって猫耳さんたちがあまり手伝わせてくれないんだよね」

「にゃあ、勉強ができるならそれに越したことはないにゃん」

「働かなくていいのか?」

「勉強も働いてるようなものにゃん」

「確かに同じぐらい大変だ」

 バーニーは深くうなずいた。


 想定よりも早く社会がオレの知ってる現代に近くなってる。オレたちが推し進めてるわけだが、猫耳たちが積極的に動いてるおかげだ。

 現在、プリンキピウムの城壁の外に魔法馬の工場を建設中だし、将来的には魔導具の生産地にする予定だ。

 職業選択の幅が広がれば孤児たちも無理に危険な冒険者一択の将来から解放できる。冒険者も楽しい稼業なのだが、魔法が使えないと危険でキツいだけだからオレとしてもオススメはしたくない。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス


 子どもたちと久し振りに交流した後は、オレもペントハウスに戻って久し振りにジャグジーを満喫する。

「にゃあ、最高にゃん」

「最高だね」

「最高なの」

「ここのソフトクリームは最高だ」

 天使様と妖精たちはジャグジーの縁に座ってソフトクリームを楽しんでる。

「平和にゃん」

 フィーニエンスのヤツらがおとなしくしてくれてれば、もっとゆっくり出来たのに。こちらから先制攻撃ってわけにもいかないのが歯がゆいところでもある。

 ヤツらの現在の進行速度からすると五日後にはカンケルに届く。

「嵐の前の静けさ?」

 リーリが問い掛ける。

「にゃあ、まずは帰るように勧告するにゃん、話し合いで解決出来るならそれに越したことはないにゃん」

「話し合いか」

 リーリはいぶかしげな表情をする。

「何事もチャレンジにゃん」

「だったら、美味しいものを食べて仲良くなるといいよ」

「それならミンクも仲良くなれそうなの」

「にゃあ、ヤツらの求める美味しいモノは食べ物じゃないにゃん、土地にゃん」

「人間はつまらぬモノを欲しがるのだな」

「そうにゃんね、だから厄介にゃん」

「マコトに仇なす者は吹き飛ばしてもいいぞ」

「にゃあ、天使様のお手を煩わせるほどでもないにゃん」

 フィーニエンスの兵士は盗賊ではないので、出来ることなら傷つけたくない。なんて余裕をこいていられるのは、オレが絶対有利な場合だけだが。


「「ネコちゃん!」」

 見知ったふたりがペントハウスに顔を出してくれた。レベッカとポーラだ。ランチに出掛けた天使様と妖精たちと入れ替わるようにやって来た。

「にゃあ、久し振りにゃん、元気にしてたにゃん?」

「あたしたちはいつだって元気だよ」

「ネコちゃんが帰って来たと聞いて駆け付けましたわ」

 ポーラは以前より華やかな感じで貴族っぽさを増していた。

「猫耳ちゃんが貸してくれた銃と魔法馬のおかげでどっさり稼いじゃってるよ」

 銃の貸出窓口はアンのところのマホニー武器店だけどな。カスタマイズは職人のチャックがやってくれてる。

「にゃあ、それでふたりそろって小奇麗になったにゃんね」

「それって前は汚かったってこと?」

「オレの前に現れる時は血まみれだったりずぶ濡れだったしたにゃんよ」

「そうでしたわね、いまとなってはいい思い出ですわ」

 オレからしたらPTSDを発症しそうな光景だったけどな。

「お金が稼げてるならなによりにゃん」

「うん、いまやBランクだよ」

「わたくしたちの実力では無くてあの銃と森の中を走れる魔法馬のおかげですわ、もう反則と言っていいほどですわ」

「おかげで借金も無事完済したよ」

「それは良かったにゃん」

 余裕が出来たおかげで身綺麗になったらしい。

 レベッカとポーラも一緒にジャグジーでじゃぶじゃぶしながらプリンキピウムの冒険者の動向を聞いた。

「ネコちゃんのところの魔法馬と銃で、皆んな怪我をしないでそこそこ稼げる様になったよ、あたしたちほどじゃないけどね」

「他の冒険者は馬に乗せて貰ってる感じで、優雅さに欠けますわ」

 世紀末伝説ばりのゴツいおっさんとか、ダンボールハウスの自由人ぽい人ばかりだから最初から見た目のハンデが大きい。

「優雅さとは無縁のおっちゃんたちにゃん、大目に見るにゃん」

 前世のオレより若いヤツらが大半だけどな。冒険者は四〇を過ぎてやるのはキツい仕事だ。

「皆んな前よりは小ざっぱりしてるよ、ジャックさんとバッカスの宿があるからもうお金が無くても野宿しなくていいからね」

「にゃあ、おっちゃんたちにも幸せになって欲しいにゃん」

「ネコちゃんの思いも知らず、魔法馬と銃を持ち逃げしたバカもいましたけど」

「オレのことを知っていて、それでも掻っ払うとはなかなかの大物にゃん」

「ただのバカだと思うよ」

「ネコちゃんのことを知ってると言っても、直に見たことがない最近プリンキピウムに来た流れ者だったみたいですわ」

「それでどうなったにゃん?」

「街道で素っ裸になって落ちてるところを発見されて捕まったよ」

「オレの予想を裏切るような結末じゃないにゃんね」

 素っ裸で倒れるとか普通すぎて面白くない。面白いヤツだったらいきなり持ち逃げなんてつまらない事はしないか。


 レベッカとポーラが帰った後は、猫耳たちとプリンキピウム州としての今後に付いて協議する。


「住民たちの要望は生活圏からの獣の排除にゃんね」

「お館さまがプリンキピウムに来てからは、一帯の獣の被害は激減してるとはいえゼロじゃないにゃん」

「にゃあ、万単位で狩ったから数が減ったにゃんね、プリンキピウムにいる頃はまったく実感出来なかったにゃん」

「森の中はいまも変わらないにゃん」

「深いところはいまもヤバい特異種が出るにゃんよ」

「特異種は厄介にゃんね」

 魔獣ぽいのも混じってるから危険だ。

「にゃあ、最近は調子こいたおっさんが深く入り込んだ挙げ句、特異種に遭遇して命からがら逃げ帰る事案が連続したにゃん」

「可能な限り深く突っ込むのは冒険者の本能にゃん、死ななければ大丈夫にゃん」

「にゃあ、ちょっと危なかったけどちゃんと魔法馬が連れ帰ったにゃん」

「手足が無くなっても生きてればなんとかなるにゃん」

「特異種は何をするかわからないから対策の立てようがないにゃんね」

「その代わり人間の集落まで出てくるのは稀にゃん」

「今後は特異種発生の原因を解明して、発生を抑える努力が必要にゃんね」

「それかウチらが狩り尽くすことにゃんね」

「にゃあ、オレたちにはそっちの方が簡単にゃん、それでも将来の為に調査は必要にゃん」

「了解にゃん、研究拠点と協力して進めるにゃん」

「それと人の生活圏に入って来る獣の対策にゃんね」

「人間の生活圏に入り込めない様に結界を敷設するのが現実的な対応にゃん」

「ウチらが狩るにしてもすべてを狩り尽くすのは無理にゃん」

「獣もオレたちの大事な資源にゃん、棲み分けと人間を食べたがるヤツらの性質も叩き直したいところにゃん」

 人間を襲う不自然な攻撃性は人工的な感じが否めないが、これといった証拠もない。

「ウサギの方から襲って来るとか、こちらでは当たり前だがオレの中の常識だと有り得ないにゃんよ」

「にゃあ、併せて研究するにゃん」

「頼んだにゃん」

「後は寄宿学校の拡充にゃんね、お館さまの意向で無条件でなおかつ無料ということで募集をかけてるにゃん」

「無条件でなおかつ無料って、冷静に考えると胡散臭いにゃんね」

「にゃあ、その点は心配ご無用にゃん、お館様のことは広く知れ渡ってるしウチらが直接募集してるにゃん」

「応募状況はどうにゃん?」

「なかなか渋いにゃんね、子供は重要な働き手だから親が手放さないにゃん」

「その辺りは想定内にゃんね、奨学金を設けるのが最もシンプルな解決方法にゃん」

「そうにゃんね、勉強の大切さなんてなかなか理解されないにゃん」

「本当に年齢の制限も無しでいいにゃん?」

「にゃあ、ゼロ歳でも百歳でも構わないにゃん」

「奨学金も出るにゃんね」

「そうにゃん、もちろん卒業後はプリンキピウムでしっかり働いて貰うにゃん」

「何処も人手不足だから助かるにゃん」

「他の領地でも展開するにゃん?」

「そうにゃんね、人のいる領地だったら展開するといいにゃん」

「既に働かされてる子供はどうするにゃん」

「基本は金で解決にゃん、違法な契約だった場合はその限りじゃないにゃん」

 王国の法律は意外と公明正大だったりするが、各領地は領主の意向が最優先なので法の運用はかなりいい加減だ。

「オレの領地は王国法とうろ覚えの前世の法律基準にゃん」

「お館様の適当なところがしびれるにゃん」

「「「にゃあ」」」


 プリンキピウムの防御の徹底を指示した後は、またジャグジーでのんびりブクブクする。シャンテルとベリルも一緒だ。

「ホテルの仕事はお休みして学校の勉強に専念するのですか?」

 困った顔のシャンテル。

「がっこう?」

 ベリルは良くわかってないらしくニコニコしている。

「にゃあ、手伝い程度なら続けていいにゃんよ、でもシャンテルとベリルには、もっといろいろ学んで将来の幅を広げて欲しいにゃん」

「ホテルの仕事じゃダメなんですか?」

「ダメじゃないにゃん、学校を卒業してからシャンテルがホテルでの仕事を望むならそれも有りにゃん」

「今じゃなくて、卒業したらなんですね」

「そうにゃん、学校を卒業する、それが条件にゃん」

「わかりました」

「わかった!」

「ホテルの仕事をするにしても学校の勉強は役に立つにゃん」

「ホテルの仕事にですか?」

「にゃあ、ホテルの仕事は本来かなり難しい仕事にゃん、子供には無理にゃん」

「そうですね」

「シャンテルとベリルがノーラさんを助けたい気持ちはわかるにゃん、そのためにもしっかり勉強するにゃん」

 上から目線の説教臭いことを六歳児のオレから言ってしまったが、シャンテルとベリルはわかってくれた。

 出来ればシャンテルとベリルには自分で将来を選んで欲しい。


 暗くなるまでプリンキピウムを満喫したオレはキャリーとベルたちと合流する為、一端ネオケラスに戻ることにした。

 オレに付いて来るのはチビたちだけで天使様と妖精たちはもう少しペントハウスに滞在してアトリー三姉妹の料理を堪能するそうだ。

 ほとんど瞬間移動と言える空間魔法を操る天使様たちに距離は関係ないので何処にいても一緒だけどな。


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