表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
264/357

フィーニエンスの侵攻情報にゃん

『マコトか?』

『そうにゃん、オレにゃん、ハリエット様に緊急の報告にゃん』

 猫ピラミッドの天辺から滑り降りたオレは魔の森に魔力を送る猫耳たちを見守りながら直接ハリエットに念話を入れた。

『何かあったのか?』

『にゃあ、フィーニエンスが王国に対して軍事行動を開始しようとしているにゃん』

『フィーニエンスが動くのか?』

『魔獣の森に接している城塞都市ディアボロスに兵士を集結させているにゃん』

『ルートは?』

『まだわからないにゃん、最短ならカンケルからケラスを通るルートにゃんね、他は距離が有り過ぎて現実的ではないにゃん』

『最短ルートでも領地三つ分は余裕で有りそうだな』

『にゃあ、あるにゃんね』

『相変わらず無謀な真似をするのだな、自国から出なければ我が国からとやかく言う筋合いはないのだが』

『ハリエット様はフィーニエンスの遠征のことを知ってるにゃん?』

『毎回失敗して国力を擦り減らしてる辺りは知っている、マコトが連絡をくれたということは今回は違うのか?』

『フィーニエンスの連中は勝算ありと踏んでいるみたいにゃん』

『何か切り札があるというわけか?』

『にゃあ、魔獣の森を抜ける道と超強力な魔法兵を揃えたみたいにゃん、今回はケラスまで来そうにゃん』

『ケラスがマコトの領地なのは、王国にとって不幸中の幸いだ』

『国境を守るための辺境伯だからきっちり返り討ちにしてやるにゃん』

『その辺りはマコトに任せよう、無理の無い範囲で頼む』

『にゃあ、頼まれたにゃん』

『こちらからケラスに兵員を送らなくていいのか?』

『ケラス諸侯軍がいるにゃん、それに王都の守りはおろそかに出来ないにゃん』

 王国軍の新軍はケラス諸侯軍に看板を付け替えて、現在はレークトゥス州との境界門に面して造られた城壁都市アウグルに駐屯している。

『警備だけでは身体が鈍るだろうから、フィーニエンスからお客さんを出迎える仕事をして貰うにゃん』

 敵の予想進行ルートである旧州都アウルム寄りにあるカンケルとの境界門近くに陣を張るのがいいだろう。

 トラックでの移動だから時間もそうは掛かるまい。以前と違って品行方正なヤツらだし。兵站も十分に機能している。

『マコトのケラス諸侯軍なら戦力として十分か』

『にゃあ、抜かりはないにゃん、フィーニエンスをハリエット様に献上するにゃん』

『いや、気持ちだけ貰っておく』

『遠慮しなくていいにゃんよ、隣国が王国しか無いのに軍事国家とかふざけたヤツらは潰すに限るにゃん』

『マコト、そうは言ってもフィーニエンスを潰すのは大変だぞ』

『そうにゃん?』

『毎年、少なくない魔獣の被害を出している故の国民皆兵の軍事国家だ。最後の一兵卒まで戦うらしいぞ』

『にゃあ、国民一丸てことにゃんね』

『何処まで本当かはわからんが』

 試すまでもなくヤバい国なのはわかる。

『陛下はフィーニエンスに詳しいにゃんね』

『王国軍もそれなりにフィーニエンスの情報は集めていたからな、最近はそれどころでは無かったので放置気味だったが、手持ちの情報はマコトの屋敷に届けさせよう』

『にゃあ、助かるにゃん』



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 大浴場


 続けて王国軍の司令部にいるキャリーとベルにも念話を入れて間もなくフィーニエンスの侵攻が始まることを伝えた。

 ちなみにオレの身体は猫耳ゴーレムに抱えられて大浴場に運ばれている。


『また戦争になるの?』

『由々しき問題なのです』

『にゃあ、オレもそう思うにゃん』

『勝てそうなの? 私たちも応援に行こうか』

『加勢するのです』

『にゃあ、キャリーとベルが加勢してくれるのは心強いにゃん、でも王都を離れられるにゃん?』

『それは大丈夫、私たちの小隊はマコトとの連携も任務のひとつだから』

『そう言えばキャリーが小隊長になったにゃんね』

『ベルが副隊長だよ』

『前の小隊長はどうしてるにゃん?』

 狙撃が洒落にならないぐらい上手いメガネっ娘だったが。

『司令部でヒーヒー言いながらデスクワークしてるのです』

『にゃあ、もうちょっと適材適所に配置しないとダメにゃんよ』

『前のアーヴェ小隊長はやりくりの達人だったから主計局に連れて行かれたんだよ』

『帳簿の魔術師なのです』

『にゃあ』

 帳簿に魔術を使ってはいけない気がするが。

『マコトは、今回の侵攻をどう見てるの?』

『魔獣の森を越えてオレの領地にくる連中だから、用心しないとヤバいのは間違いないにゃん』

『マコトがいなかったら危なかったのです』

『どの程度の戦力がオレの領地に入り込むかはまだまったく見えないにゃん』

『魔獣の森を渡る時点で大人数は難しい気がするけど』

『普通はそうにゃんね』

 ギーゼルベルトの時代でも魔獣の森に大人数で入り込むことは無かったのだが、二〇〇年の間に魔獣の森を渡る技術は着実に進歩を遂げたのだろうか。別のことに力を入れていればもっと幸せになれたと思うのだが。

『にゃあ、自分の国の魔獣の森で遊んで欲しいにゃん、わざわざ王国に来てもそれほど変わらないのにご苦労なことにゃん』

 王国もまたゆっくりと衰退する老人の様な国だ。侵略が最終目的のヤツらにその後の青写真は描けまい。農地の隣に魔獣の森が無くても人間を大好きな獣が家の中まで入って来るのだ。

『マコト、他人の持ち物は良く見えるものだよ』

 隣の芝生は青いか。

『フィーニエンスの軍隊が魔獣の森を越えて王国を侵略出来るとは思えないのです、魔獣の森を越えての補給など無理が過ぎるのです』

『その辺りは考えているんじゃないの?』

『略奪に走った王国軍みたいになりそうなのです』

『あちらさんは最初からそのつもりなんじゃない? だって王国が豊かでユルい国だと思ってるんでしょう』

『実際には貧乏でユルい国なのです』

『マコトの領地は例外だけどね』

『マコトのところは豊かでユルくないのです』

『確かに下手に手を出したら火傷をするよね』

『火だるまなのです』

『だよね』

『にゃあ、否定はしないにゃん、でも補給は何かしら手があるはずにゃんよ、これまで何度も魔獣の森を侵攻してるにゃん、いくらなんでも失敗をフィードバックしてるはずにゃん』

 まさか、毎回全滅はないだろうし。

『すると侵攻は間違いなしか』

『直ぐに移動する必要があるのです』

『そうだね、私たちは今夜にでも出発するよ』

『にゃあ、だったらネオケラスに入るといいにゃん、近くにいる猫耳に言えばトラックを用意するにゃん』

『マコトの魔法車なら移動も楽なのです』

『必要なモノはこちらで用意するから手ぶらでいいにゃんよ』

『了解、すぐに小隊のメンバーを集めるよ』

『急いで行くのです』

『にゃあ、慌てなくてもフィーニエンスの軍隊が魔獣の森を越えるにはそれなりに時間が掛かるはずにゃん』

『マコトみたいに空を飛んで来るかもしれないよ』

『あるかもしれないのです』

『にゃあ、それは警戒しておくにゃん』

 空も無いとは言えない。なにせ転生者が絡んでるかもしれないのだ。

 スズガ・ケイジ以上の変態はいないと思うが、オレの領地に攻め込んでくるヤル気満々のヤツらの中に潜んでる。油断大敵だ。

『じゃあ、ネオケラスで会おう!』

『会うのです!』

『にゃあ!』



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 ビュッフェ


 次にカズキとユウカに連絡を入れて情報提供を求めた。それでもってオレの身体は大浴場から夕食の会場に運ばれる。お肉大好き天使様と妖精たちの前で鉄板で腕を振るう。魔獣のお肉は外には出せないがなかなか美味だ。


『へえ、フィーニエンスはもう動くんだ、一〇年は掛かると思ったのに七年で攻めてくるとはね、何かいい遺跡でも見付けたのかな?』

 カズキもフィーニエンスの侵攻を知っていた。

『にゃあ、オレが掴んだ情報だと転生者がいるみたいにゃん』

『なるほど転生者か、能力いかんでは厄介なことになりそうだね』

『カズキはフィーニエンスの侵攻を知ってたにゃん?』

『前回と前々回のはね』

『カズキなら近くで見てたのと違うにゃん?』

『ボクはマコトと違ってわざわざ魔獣の森に入ったりしないよ、プリンキピウムの森から探査魔法を何度か打ったぐらいだよ、それとフィーニエンスには念話で繋がった友人が何人かいるから情報はそれなりに入って来るんだよ』

『念話で繋がった友だちにゃん?』

『ネン友だね』

『にゃあ、魔獣の森に分断されていても思っていた以上に情報のやり取りがあるにゃんね』

『念話もあるし、たまに魔獣の森を突っ切っての移動も少数ながらあるからね』

『念話はともかく人の行き来があるにゃん?』

『魔法使いがいるんだもん、そのぐらいはあるよ、数も多くないし荷物も運べないなから諜報関係の人間がこっそりね』

『それにしてはフィーニエンスの連中は、王国の土地に夢を見すぎてるにゃん』

『フィーニエンスもここ数年、農作物が壊滅的な不作が続いてかなり広い地域で飢饉が発生しているそうだよ』

『王国も大して変わらない状況にゃん』

『去年まではそうだったけど、今年は違う、マコトの小麦が流通して食糧事情は劇的に改善されている』

『にゃあ、転生者の力を以てすれば小麦の促成栽培なんてそんなに難しくないにゃんよ』

『マコトと同列に語られても困るけど。食料の生産に注力した転生者はいないね』

『カズキは米を作ってると違うにゃん?』

『ボクの場合はお金を出して作らせているんだよ、それに自分で食べる為だし』

『にゃあ、カズキは領主としてちゃんとやってるにゃん』

 アルボラ州は餓死者など出していない。盗賊はいっぱいいたけど。

『一応、ボクも領主だからね、領内が荒れるといろいろ面倒なことになるから最低限のことをしているに過ぎないよ』

『オレみたいに過干渉じゃないのがいいにゃん』

『領民に対するスタンスは領主それぞれだよ、正解も不正解も無いんじゃないかな?』

『にゃあ、領民を無策で殺すのはダメと違うにゃん?』

『それは無能に領主の地位を与えている王宮の失策だね』

『今後は、ハリエット陛下がビシッとやってくれるにゃん』

『マコト公爵がバックに付いてる王宮に楯突くヤツはいないよね、それに貴族派は事実上瓦解してるわけだし』

『にゃあ、先日の件で敵対行動を取った領地はお取り潰しみたいにゃん』

 フェルティリータ連合に同調して騎士団を動かした領地が対象になっていた。これはハリエットというよりアーヴィン様主導で進められるようだ。

『二年前に暗殺されたハリエット陛下の父君が目指していた王の権力の強化が、娘の代で成し遂げられそうだね』

『にゃあ、国が安定するのはいいことにゃん』

『あちらの国も安定はしてるんだけどね』

『そうにゃん?』

『国家の存亡の危機を煽って国民をまとめ上げてるんだよ、しかもネン友の情報ではケラスの併合が既に決まったそうだ』

『にゃあ、オレに断りもなくいい度胸にゃん』

『現状のケラスの状態を知らないみたいだね、魔獣の森さえ渡りきれば占領は楽勝と判断しているんだよ、マコトのケラスでの情報封鎖が上手く行ってる証拠だね』

『フィーニエンスに対してやったわけじゃないにゃん』

 ケラスの新しい玄関口アウグルまでで門を閉ざしたのは、黒幕の手の者がケラスに侵入するのを防ぐのが目的だったが、知らないうちにフィーニエンスのスパイまで弾いていたらしい。

『フィーニエンスの連中も切り札なしで攻めて来るとは思えないから、準備は十分にした方がいいよ』

『にゃあ、人型魔獣以上のモノが来るとちょっとヤバいにゃんね』

『そこまで強力なら魔獣の森の解放を先にやってるんじゃないかな』

『にゃあ、確実な方を選んだのと違うにゃん?』

『あるかもね』

『勝てないと判断したらオレたちは逃げるにゃん』

『そこは転生者のスペックいかんだろうね。まだ転生者がいるとは決まったわけじゃないけど、マコトでダメならボクだって逃げるよ』

『にゃあ、十分に警戒するにゃん』

『フィーニエンスの件が片付いたらオパルスにも寄って欲しいな、息子のコナンが帰って来るから挨拶させるよ』

『にゃあ、王都にいた息子さんにゃんね』

『恋人を連れて里帰りだよ、ボクもそんな歳になっちゃったんだね』

『息子の恋人に変なことをしちゃダメにゃんよ』

『ボクがあっちで描いた漫画じゃないんだからそんなことはしないよ』

『クリステル様にバレたら殺されるにゃんね』

『その前に息子に殺されるよ』

『にゃあ、品行方正で頼むにゃん』

『ボクは至って真面目だよ、それにいまいる彼女たちで手一杯だし』

『どの辺りが真面目なのか聞かせて貰いたいにゃん』

『ちゃんと一線を引いてるってことさ、それにコナンの恋人ならマコトも知ってるんじゃないのかな? ロマーヌ・ピサロ、レークトゥスの領主のお嬢さんだよ』

『にゃあ、ロマーヌなら知ってるにゃん』

 あのロマーヌを恋人にするとはカズキの息子コナン・ベルティは、親父を超える大物に違いない。

『そんなわけだから立ち寄ってくれると嬉しい』

『にゃあ、寄らせてもらうにゃん』

『あ、そうそう、最新情報なんだけど、フィーニエンスの連中、飛行戦艦を発掘したって話だよ』

『にゃ、飛行戦艦にゃん?』

『あくまで噂だから詳細は不明だけど実在するとちょっと厄介だよね』

『魔獣の森を越えるのも容易になるにゃんね、補給の問題も解決されるにゃん』

『可能性の一端として認識してくれればいいかな、実在したとしても魔力とかバカ食いしそうだし』

『それは間違いないにゃんね』

 ドラゴンゴーレムや戦艦型ゴーレムなど飛ぶ系のモノは魔力の消費量が半端ない。例え発掘に成功したとしても運用まではかなりの労力を要すると思われる。

『にゃあ、フィーニエンスが国を挙げて今回の侵攻を計画してるなら用心するに越したことは無いにゃんね』

『国を挙げてるのは毎回みたいだけどね』

『にゃお』

 オレが戦艦型ゴーレムを持っている以上、他所が持っていないとは言い切れない。最悪、戦艦型ゴーレムと飛行戦艦の艦隊戦なんてことも有り得るわけだ。

『フィーニエンスは、刻印に関してだけは王国のかなり先を行ってるから、その点は怖いよね』

『その技術力を食糧生産に生かさないのがオレからしたら不思議にゃん』

『持てるリソースのすべてを軍事力の強化に捧げて来た国だからね、でも、そこは王国も大して変わらないよ、魔力を農業に使うなんてとんでもないって思ってる人間が大半だから、ボクですらかなり言われたから』

 たぶん奥方のクリステルあたりに苦言を呈されたのだろう。前世の同僚も趣味のモノを全部、嫁さんに捨てられたって凹んでいたし。

『にゃあ、オレの場合は苦言を呈する人間が近くにいなかったのと成果物の恩恵が大きかったからにゃんね』

『大公国で始められたのが幸運だったね、マコトのところの小麦で作ったパスタは絶品だよ』

『最近は乾麺にして出荷してるにゃん、ミートソースの缶も好評にゃん』

『うん、知ってる、ウチの料理長が青くなってた』

 缶と言ってもセラミックみたいなモノだ。茹でた麺に混ぜるだけで美味しくいただけるので貴族から庶民まで人気を博している。小麦と同じく実質的な転売の禁止措置で価格が抑えられているのも大きい。

『フィーニエンスの件、マコトの領地だったのが不幸中の幸いだったと思ってる、あちらさんにはご愁傷様としか言えないけどね』

『まだ安心するのは早いにゃんよ』


 カズキに釘を刺してからユウカに念話を入れた。情報に関してはこちらが本職だけ在って有料だ。天使様はお腹いっぱいになったが、妖精たちはパスタを欲しがったので出してやった。


『マコト、また戦争をするそうだな?』

 ユウカが呆れてるのが念話でも伝わって来る。

『にゃお、オレだってやりたくてやるわけでは無いにゃんよ』

『それもそうだ、しかし相手が弱ってるところを叩くのがセオリーだからな、フィーニエンスがヤル気になるのも仕方あるまい』

『王国の情報が筒抜けにゃんね』

『私もフィーニエンスの斥候が、今年の初めまでケラス経由で王都に入り込んでいるのは確認している』

『にゃお、もう既に魔獣の森を渡っていたにゃんね』

『魔獣の森での作法とルートを把握していれば、ちょっとした魔法使いであれば、それほど難しくはない、現に私も二度ほどフィーニエンスに侵入しているぐらいだ』

『ユウカも行ったことがあるにゃん?』

『王国にはかなり昔からフィーニエンスの有能な人間をこちらに逃がす組織が存在していたんだ、それをいまはウチが引き受けてる、その絡みだ』

『お互い、頻繁に行き来していたにゃんね、それでいてなんで前回の侵攻ではわざわざ別ルートを使って失敗したにゃん、既存ルートじゃダメだったにゃん?』

『あれは王国側の用意した偽情報に引っ掛かった結果だ』

『にゃあ、偽ルートの出処は王国だったにゃん?』

『魔獣の森を少人数の魔法使いで移動するのと大人数の軍隊で移動するのでは根本が異なる、偽情報のルートは大人数がある程度安全に移動出来る太古の道の支線という触れ込みだった、実際その点に偽りはない』

『国境までは、ちゃんとたどり着けるわけにゃんね』

『その通り、使えないのは境界門に繋がっていない一点だけだ』

『巧妙にゃんね』

『そこまでやらないと欺瞞にならない、七年前はそれで乗り切れたが今回は難しいだろう、王国側に策がない。マコトが正面から迎え撃つしかあるまい』

『オレにケラスを売り渡したのは、そんな背景があったにゃんね』

『いや、王国軍上層部としては、ケラスを廃領にせず演習地を維持できる相手なら領主は誰でも良かったはずだ』

『演習地にゃんね、王国軍が執着していた理由がわかったにゃん』

 だからと言って当時の王国軍に侵攻するフィーニエンスの軍隊を止められたかは甚だ疑問だ。王都からケラスの演習地に移動もままならない腑抜けた集団なわけだし。

『幸いなことにマコトの情報はあちらには渡ってない、いまも連中はケラスが廃領寸前の見捨てられた領地だと思っている』

『にゃあ、オレの領地になってからは魔獣の森側からの斥候の侵入は無かったにゃん』

 広大なケラスであっても魔獣の森から人間が出てくれば直ぐにわかるように警戒をしていた。漏れはないはず。

 黒幕の手下の宮廷魔導師を想定していたから、高度な認識阻害でもまず抜かれることは無い。

『にゃあ、それと飛行戦艦について知っていたら教えて欲しいにゃん』

『ああ、飛行戦艦か、まだ実物は確認していないが空に浮くモノはあるらしい。戦艦と名前が付いているが貨物運搬用の飛行船では無いかと思われる』

『魔獣の森を超えるには良さそうな道具にゃんね』

『そうだ、今回の侵攻作戦ではフィーニエンスの切り札といっていい』

『便利そうにゃんね。鹵獲決定にゃん』

『使えるならウチにも回して欲しいが、空の移動は目立ちすぎるか』

『にゃあ、それ以上に高度限界を考えると運用は限定的にゃん』

『やはりそうなるか、必要なときだけマコトから借りるのが最適か』

『どうせ、魔力バカ食いに決まってるにゃん、自前で持つのはコストに見合わないにゃん』

『だろうな』

『もう一つの切り札になりうる転生者の情報はどうにゃん?』

『転生者の存在については確認が取れていない、少なくとも日本人らしき名前は見当たらない様だ』

『にゃあ、平民出身の強力な魔法兵はどうにゃん?』

『ヘンゼル・ボーム少尉のことか?』

『にゃあ、名前は知らないにゃん、何でも入隊して三年で少尉に昇進したそうにゃん』

『それなら間違いない、名前と経歴からすると私たちの仲間ではなさそうだが、生まれ変わりの完全な転生の可能性はあるな』

 オレやカズキ、ユウカのようにある程度年齢が行った状態での転生なら、自分から名乗れもするのだが、テレーザやエドモンドのように完全に生まれ変わった状態だと名前に面影がない。

『転生者なら前世の記憶があるかないかで対応が変わるにゃんね』

『対話が可能なら話し合いも悪くないが、敵である以上はあまり期待しないほうがいい、あちらの価値観に染まってれば躊躇せず殺しに来る』

『やっぱりそうなるにゃんね、淡い期待はなしにするにゃん』


 ユウカの情報からも今回のフィーニエンスの侵攻は、ほぼ間違いなくオレの領地にまで到達する。オレはさっさとエクシトマ州に行きたいのに状況がそれを許さないのだった。



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 地下大ホール


 夜は遅くまでオレの抱っこ会が開催された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ