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魔の森の魔法式にゃん

 ○カンケル州 カンケル第二拠点 発着場


 カンケルの第二拠点は地下だが、地上部には木々を伐採してオレたちの為のドラゴンゴーレムの発着場が造成されている。

 発着場の口が開いて半径二〇メートル深さ一〇〇メートルほどの地下への縦坑が姿を現す。無駄に秘密基地っぽい演出は嫌いじゃない。

 頭の中でBGMが流れる♪

 かと思ったら、本当に流れていた。いや、着陸にはいらないだろう。

 そのままドラゴンゴーレムを降下させ地下の駐機場に降り立った。

 オレに続いて次々と降りて来る。

『お疲れ様にゃん』

 猫耳ゴーレムの身体を持つギーゼルベルトが出迎えてくれた。

「にゃあ、変わりはないにゃん?」

『にやあ、ミーティングの後、同じ実験を一〇〇回ほど繰り返し試したにゃん、結果に変化はなかったにゃん』

「一〇〇回は頑張ったにゃんね」

 それだけやっても変化なしとは大容量の魔力が安定して供給されてる証拠だ。

「アウルムよりもっと大きな甲虫のさなぎが埋まってるかもしれないにゃん」

『にゃあ、結界を維持するだけでも莫大な魔力を消費するから、在ってもおかしくはないにゃん』

「魔の森を形成する魔木で賄ってる可能性もあるにゃん」

「結界の燃費によるにゃんね」

『あと考えられるのは、地上にあった重要な施設が消えて、いまは結界とそれを維持するシステムだけが地下に残ってるぐらいにゃんね」

『地下に付随施設が残っているとウチらは嬉しいにゃん』

「にゃあ、直ぐに確かめてみるにゃん」

 歩き出したオレの後ろをチビたちがぞろぞろ付いて来る。

「皆んなは、ここのブリーフィングルームで待機してるにゃん」

「「マコトさまといきます!」」

「「「おやかたさまといっしょ!」」」

「にゃあ、それは駄目にゃん、これから危険な場所に行くにゃん」

「「「へーき!」」」

 チビたちが声をそろえた。

「いや、平気じゃないにゃん、ヤバいのがいっぱいにゃん、下手をすると頭から丸かじりされるにゃん」

「「「まるかじり?」」」

 首を傾げるチビたち。いまいちピンと来ていないようだ。

 チビたちは昨夜の解析実験の様子を見ていない。

「にゃあ、こんな感じにゃん」

 空中に出した四六インチぐらいの画面に実験の様子を映し出す。

「「「……!」」」

 息を呑むチビたち。普通の子供なら泣き出すレベルだ。

「わかったにゃん? こんな感じでとっても危ないにゃん、だから距離を置いて待機にゃん」

 チビたちに言い聞かせる。

「「「……へいき」」」

 目に涙をためてあまり平気な様子ではないが。それでもオレにくっついた。

「みゃあ」

 チビの涙はオレの弱点のひとつ。

 オレまで泣けてくる。

「にゃ、にゃあ、わかったにゃん、でも下がった場所にいるにゃんよ」

「「「はい!」」」

 さっきまでの泣きべそが嘘のようないい笑顔になった。

「あいかわらずマコトはチビたちに弱いね」

 オレの頭の上に寝そべったリーリがくつろぎつつコメントをくれる。

「にゃお、それは重々わかってるにゃん」

 チビたちに押しくら饅頭されてる状態に幸せを感じてしまってる。心を鬼にして安全地帯に置くのが本当の優しさなのだろうけど。

 オレは自分に甘い六歳児にゃん。

「マコトの側がいちばん安全なの、だからチビたちを近くに置くのは正解なの!」

 ミンクがオレの胸元から顔を出して力説。

「にゃあ、安全なら問題ないにゃんね」

「問題ない、すべて我も守ってやろう」

 天使様に頭を撫でられる。

「にゃあ」

 天使アルマが請け負ってくれるなら安心だが、ただ一点だけ勢い余って全部を吹き飛ばさないかだけが懸念だ。



 ○カンケル州 魔の森 物理障壁


『にゃあ、これより魔の森の結界に接触実験を開始するにゃん、各猫耳は不測の事態に備えて拠点の防御結界の展開よろしくにゃん、やばくなったら即行逃げるにゃんよ』

 物理障壁の内側、魔の森の境界ギリギリに立ったオレは猫耳たちに念話で指示を出す。

『『『にゃあ!』』』

 猫耳たちは既にスタンバイOKらしい。

「チビたちもいいにゃんね?」

「「「はい!」」」

 チビたちはオレの防御結界の中に入れている。

「こちらもいいぞ」

「にゃあ、了解にゃん」

 天使様がチビたちの後ろに立つ。リーリとミンクはオレの頭の上だ。

『始めるにゃん!』

 念話で宣言してから右手を正面にかざした。


 魔の森の結界の表面に触れる。物理的な接触ではなく魔力的な接触だ。

「大丈夫にゃん」

 例の化け物は起動しない。

 でも、まだ魔法式が見えて来ない。まるでラジオのチューニングをしてる様だ。


 オレは解析実験で拾い集めた魔法式の残滓を参考に追い込んでいく。


「にゃあ、捕まえたにゃん」

 魔の森の結界の魔法式の尻尾を捕捉した。

 魔法式から形式を割り出す。

「にゃ?」

 解析を行って一応の推論を出す。どうやらこれは本物のオリエーンス神聖帝国時代のモノっぽい。

 転生者の術式にありがちな混ざりモノが無い。

 まだ実際に魔法式全体を確かめたわけじゃないから結論は出せないが、今回もミマの意見が的中かも。

 本人が遠いところにいるのが残念だ。

『お館様、魔の森はオリエーンス神聖帝国時代の遺跡にゃん?』

 猫耳の声が期待に弾む。念話だけど。

『にゃあ、可能性は大きくなったけど実際に中を確認するまでは判定できないにゃん』

 結界だけがオリエーンス神聖帝国時代のモノかもしれないし、残っていたのは結界だけで後は何もなんてことも有り得る。

 オリエーンス神聖帝国時代の貴重な結界を壊したくないので、そのまま解析を進める。

 精霊情報体の知識をフルセット持ってるのと猫耳たちのバックアップがあればこそ出来ることだ。

 知識はあるからひとりでやれないことも無いが、どれほど時間が掛かるかわからないぐらい膨大な魔法式だった。


 見付けたにゃん!


 管理者用のウインドウが立ち上がる。

 おお、この基本システムは1万年以上前に作られたモノだ。

「マジモンだったにゃんね、しかも魔法式が無傷にゃん、刻印が劣化してないってことにゃんね」

 管理者欄にオレの名前を入れて、入場の許可を出すのは猫耳とチビたちそれにミマ、天使様と妖精たちにはそもそも結界が発動しない。猫耳ゴーレムたちはオレの所有物に分類されるので問題なく通過できる。ドラゴンゴーレムや猫耳ジープもしかり。


『アクセス成功にゃん!』

『『『にゃあ!』』』

「「「やった!」」」

 猫耳とチビたちが歓声を上げた。

『にゃあ、弾かれていた探査魔法が通るにゃん!』

 そりゃそうだ。

『『『にゃ!?』』』

 猫耳たちが戸惑いの声を漏らした。念話だけどな。

『どうしたにゃん?』

『お館様、魔の森の領域に人工物が見当たらないにゃん』

『『『にゃあ、何も無いにゃん』』』

 猫耳たちの落胆した声が響いた。

『それでいいにゃん、遺跡はすべて分解されて魔法式の中に格納されてるにゃん』

 そのせいで魔法式が膨大な量になっているのだ。

 オレたちみたいに格納空間に丸ごと仕舞ってしまえば話は早いのだが、それもまた現実的ではなかったりする。

 オレが言うのもなんだが。

『お館様、格納されているということは外に出せるにゃん?』

『出すというより再生する感じにゃん』

『マコト! いったい何が再生されるんだ!?』

 興奮したミマが念話に割り込んだ。

『魔法式からすると地下都市にゃんね、しかも規模が大きいにゃん』

 これまでオレが掘り出した地下都市が地方の街クラスなら、今回のは州都クラスだ。

『な、何だって!? わかった直ぐに戻る!』

『にゃあ、再生はこれから始めてもそれなりに時間が掛かるにゃんよ、魔力コストも半端ないから気長に待つにゃん』

『なんだ、直ぐには調査できないのか』

 しょぼんとするミマ。

『少しの我慢にゃん、アウルムから魔力をパイプライン経由で送るからそれなりに短縮できるはずにゃん』

 直径五〇キロでそれが幾層にも重なってる巨大な地下都市だ、それを一から再生するのだから時間はそれなりに掛かる。ロッジの再生みたいに一瞬では行かない。

『魔力を上限まで突っ込めば再生は早くなるみたいにゃんね』

『おお、どんどん突っ込め』

『にゃあ、言われなくてもやるにゃん』

「魔力が必要なのか?」

 天使アルマが前に出た。

「にゃあ、そうにゃん」

「では、私が都合してやろう」

「にゃあ、それは助かるにゃん」

「なに、大したことはない」

 天使アルマが手を翳す。

「天使様、ちょっと待って欲しいにゃん、魔法式が壊れない程度に絞らないといけないからまずはオレが引き受けてそれから魔の森に流し込むにゃん」

「我は構わないぞ」

「にゃあ、オレが破裂しない程度でお願いするにゃん」

 破裂してもオレの場合、自己修復可能だが、目の前で見たチビたちがPTSDに陥りそうだから危ないことはしないで欲しい。

 オレは天使様と手を繋ぎ、もう一方の手を魔の森の結界に向けた。

「天使様、お願いするにゃん」

「ああ、行くぞ」

 魔の森のシステムに再生開始のスイッチを入れた。

 同時に天使様から魔力が流れ込んだ。

「……!」

 案の定、魔法式が吹き飛ぶ量の魔力だった。

 オレもチビたちが見てなかったら『みぎゃああああ!』と叫んでいたところだ。

 魔の森の魔法式が壊れない程度の魔力をそのまま流し込み、残りは格納空間に留め置く。残りと言っても通過分の二〇倍はある。

 天使アルマは容赦なしだ。

『にゃあ、お館様、地下都市の再生が開始されたにゃん』

 監視塔に詰めてる猫耳から報告が入る。

『いい感じにゃん』

 天使様から三〇分ほど魔力をもらっただけで、オレの格納空間には魔の森の結界が受け入れられる限界値の一ヶ月分が溜まった。


 魔の森の解放が済んでお昼ご飯になった。



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 ビュッフェ


「にゃあ! 研究拠点三箇所にも応援要請にゃん!」

「魔法蟻も増産にゃん!」

「パイプラインが最優先で頼むにゃん!」

 猫耳たちは魔の森の魔法式の解析で忙しくなりビュッフェでのんびりしてるのはオレとチビたちと天使様だけだ。

「こっちも美味しいよ!」

「どれどれなの」

 リーリとミンクは別の目的で忙しく飛び回っていた。

「マコトは、この後どうするのだ?」

 天使様はリーリとミンクが品定めした料理を猫耳ゴーレムに取って来て貰っていた。

「少し魔の森の再生の様子を見てから出発するにゃん、次の目的地はプリンキピウムにゃん」

「プリンキピウムとはマコトのホテルがある場所だな、あそこのソフトクリームは最高だった」

 天使様はリーリとミンクを連れてプリンキピウムにも食べ歩きに来ていた。

「にゃあ、料理も最高にゃん」

「ふふ、それは楽しみが増えた」

 アトリー三姉妹が頑張っていると支配人のノーラさんから聞いている。三人をホテルの料理人に抜擢したオレの目は確かだったわけだ。

 三人には最初に数年分の技術と知識を凝縮して伝授してあるから、後は実際の経験が追い付けば、もう一段いい料理人になれると思う。頑張れ!



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 ブリーフィングルーム


 午後になってオレはブリーフィングルームで魔の森の結界の魔法式について猫耳たちと協議をする。

 チビたちは魔法馬に乗って元魔獣の森を走り回り、天使様と妖精たちは拠点のお風呂でくつろいでいた。

 魔の森の結界にはオレに代わって別の猫耳たちが魔力を格納空間から流し込んでいる。安全なマージンを取ってるので六人のチーム編成だ。

「にゃあ、魔の森はあれにゃんね、魔法式は捕まえても刻印が何処にあるのかさっぱりわからないにゃん」

「お館さまがわからないならウチらもお手上げにゃん」

「「「にゃあ」」」

 オレたちはいまに至っても魔の森の結界を維持してる刻印を見付けられなかった。

 普通、魔法を継続使用するには、魔法式を物理的に刻み込んだ『刻印』が必要になる。

 例外的に空中刻印などもあるが、あれは触れるので空中に物理的に刻まれてるし、通常の刻印より耐久性が劣るので通常は使われない。

 エーテル機関も魔法式の登録が出来る刻印的な使い方ができるが、基本は刻印と同じで物理的に刻まれている。

「刻印がまったく見当たらないということは、魔法式が単体で状態を維持してることになるにゃんね」

「にゃあ、お館様、いまのところ精霊情報体にも無い感じにゃんよ」

「そうにゃんね、オレも見たことが無い事例にゃん」

 膨大な情報量を誇る精霊情報体だから検索漏れはあるかもしれないので、現在も引き続き猫耳たちが調査している。

『お館様、フィーニエンスでは刻印を必要としない永久魔法式の研究を行っていたにゃん、その後、成功したかどうかは不明にゃん』

 ギーゼルベルトから新しいけど二〇〇年前の情報を得た。

「にゃあ、永久魔法式とは面白い研究をしてたにゃんね」

「刻印はその性質上どうしても劣化を免れないにゃん、その弱点を克服するのが永久魔法式にゃん』

 刻印は物質に刻まれるので劣化は免れない。それでも遺跡からの出土品は数百年は持つのだが、現代のものは一〇年持たないモノが多い。むしろ劣化してるのは魔法使いの技術だろう。

「実用化されたら刻印師は全員失業にゃんね」

『それは無いと思うにゃん、刻印のすべてを永久魔法式に置き換えるのは無理にゃん』

「適材適所にゃんね」

 無いものの心配をする必要もない。

『にゃあ、お館様、永久魔法式は実在するっぽいにゃん』

 レオの研究拠点から念話が入った。

『魔の森の魔法式はそうにゃん?』

『可能性大にゃん』

『永久魔法式だったから壊せないし運べなかったにゃんね』

『お館様が来るまでシステムに入り込めなかったからそのまま残ったにゃん』

『オリエーンス連邦時代には研究されなかったのは不思議にゃん』

『たぶん当時からここには何も無かったにゃん、こういう案件にお偉いさんはお金を出さないと相場が決まってるにゃん』

『いつの時代も世知辛いにゃんね』

 一方的な決めつけだがオレにもそれが真実に思えた。

『引き続き、魔の森の魔法式の解析を頼むにゃん、オレたちの魔法式の改良のヒントにするにゃん』

『『『にゃあ』』』



 ○カンケル州 カンケル第二拠点 天辺


 魔の森が不用意に触らなければ危険は無いことがハッキリしたので、地上部に小ぶりの猫ピラミッドを設置した。


 オレは拠点の猫ピラミッドの天辺に登って南にあるフィーニエンスに向けて超長距離の探査魔法を打った。

 王国の政変に乗じて一気に攻め上がる作戦が始まるとの情報を王都に駐在する猫耳がベイクウェル商会から入手したからだ。

『にゃあ、情報どおりにゃん、フィーニエンスの軍隊っぽいのが魔獣の森に近い城塞都市に集結してるにゃん』

 いまのところ二万ちょっといる。入場が続いてるからまだ増えるみたいだ。

『『『戦争にゃん!?』』』

 猫耳たちから声が入った。

『お館様、その街はディアボロスと違うにゃん?』

 王都に駐在している猫耳から念話が入った。

『地図と照らし合わせるとそうにゃん、ディアボロスにゃん』

 地図はギーゼルベルトとラウラの情報を元に作ったモノだ。二〇〇~三〇〇年前の情報だが街の位置と名前はそうそう変わらない。

『それもベイクウェル商会の情報どおりにゃん』

 ベイクウェル商会はオレたちが取引している大商会だ。元支店長が猫耳の中にいるので贔屓にしていた。

『にゃあ、ベイクウェル商会は魔獣の森の向こうとも商売してるにゃんね』

『フィーニエンスにある分家筋の商会と情報のやり取りで稼いでるみたいにゃん』

『流石にゃん、でも政変は収まったにゃんよ』

『魔獣の大発生で深刻な被害を受けたことと王国軍が組織改革で弱体化されてると判断されたみたいにゃんね、お館さまの存在はアーヴィン様の傀儡かいらいとされて考慮されてないにゃん』

『常識的な判断にゃん』

 オレだって六歳児が革命を主導したと聞いても信じない。誰だってアーヴィン様の傀儡だと判断するだろう。

『黒幕に付いてはまったく情報が流れてないから当然そうなるにゃんね』

 黒幕の存在に関しても表沙汰にはなってない、外からは国王派主導のクーデターによる国王の交代にしか見えないだろう。

『にゃあ、それとウチらのオートマタの存在も知られてないにゃん』

『それこそ誰も信じないにゃん』

 一〇〇万単位で戦闘ゴーレムみたいな機械人形を出すとか、この世界の常識から大きく外れてる。

『にゃあ、それでフィーニエンスの連中は魔獣の森を越えられるにゃん?』

『聞いたところでは、いままではすべて失敗してるみたいにゃんね、でも、今回は王国が弱体化してる千載一遇の好機とあって魔法兵の精鋭部隊を投入とか気合が入ってるみたいにゃん』

『これまで何度か挑戦してるにゃんね』

『にゃあ、だいたい五年に一回はある恒例行事にゃん、前回は七年前で国境まで来たらしいにゃん、そこで境界門を見付けられずに撤退したらしいにゃん』

『それは随分といいところで失敗したにゃんね』

『にゃあ、境界門の位置をちゃんと確認しないとか、おちゃめなヤツらにゃん』

『境界門は三〇〇年前にラウラたちが逃げてきた魔獣の森の狭間方面にゃんね?』

 オレの探査魔法だとここからかなり東の方向に反応がある。ネオケラスよりアウルムに近い。

『どうもニセ情報を掴まされていたみたいにゃん、ここから西の辺りをさまよってかなりの死傷者を出したらしいにゃん』

『随分と離れてるにゃんね、単なる間違いと違ってニセ情報にゃん?』

『にゃあ、ラウラの時代でもフィーニエンスでは王国への道は、逃亡する人たち向けの秘匿された道だったにゃん、本当の道は隠され偽の情報が流布されていたみたいにゃん』

『それで偽情報を掴まされたにゃんね』

『にゃあ、そうみたいにゃん、その時の作戦を指揮している将軍が懇意の商会から軍の金で買ったらしく、詳細な検証をせずに作戦を立案したみたいにゃん』

『検証をしなかったのはマズかったにゃんね』

『適当なところで撤退するつもりが、運良く国境に届いたのが裏目に出たにゃん』

『運が悪かったとも言えるにゃんね』

『それと将軍が商会から裏金を受け取っていたのもマズかったにゃん、軍法会議に掛けられて将軍は処刑、商会はお取り潰しになったにゃん』

『軍法会議なんてあるにゃんね』

『いまのフィーニエンスは国民皆兵の軍事国家にゃん、国そのものが軍隊にゃん、七年前だって普通に攻め込まれたら王国に勝ち目は無かったにゃんよ』

『にゃあ、すると前回は王国にとってはラッキーだったにゃんね』

 国境を越えて攻め込まれていたら一気に王都を落とすのは無理でもケラスの占領は簡単に出来たはずだ。守るべき諸侯軍はいなかったわけだし。

 領民もあまりいないけど。

 カズキもアルボラに手を出さなければ怒らないだろうし。それ以前に毒を吐く虫がいるからアルボラへの侵攻は難しいか。

『それで今回はどうにゃん?』

『にゃあ、今回はちゃんと境界門と魔獣の薄い魔獣の森の境界の情報を手に入れたみたいにゃん』

『魔獣の森の境界は森に沈んで消えたと違うにゃん?』

『痕跡は残ってるみたいにゃん、そこだけマナが薄いのと認識阻害の効きがいいらしいにゃん』

『すると今回の越境は間違いなしみたいにゃんね』

『にゃあ、しかもお館様、今回は超強力な魔法兵がいるらしいにゃん、平民の出なのに入隊して三年で少尉様にゃん』

『もしかして転生者にゃん?』

『にゃあ、情報によればひとりで魔獣を相手にできるらしいから、可能性は十分にあるにゃん』

『厄介な転生者だと嫌にゃんね』

『まったくにゃん』

『王都では引き続き情報の収集を頼むにゃん、特に転生者らしき少尉様のネタをお願いにゃん、こっちは迎撃の準備をするにゃん』

『了解にゃん』


 ラウラが弟を連れて王国に逃れた三〇〇年前、フィーニエンスは魔獣の森の解放とオリエーンス帝国の復興が国是だった。

 平たく言うと魔獣の森を潰して王国を侵略しよう!というわけだ。

 攻め込む金があるなら人のいない土地を耕せよと思うのだが、あちらは魔獣の森が王国と違って生活圏の直ぐ近くにあり、遊んでる土地はなかった。

 フィーニエンスの南には西南大陸があるのだが、人はいないが魔獣の大陸と化してるので、ここ数百年は魔獣の森の解放に比べたら簡単そうな王国に焦点を当てている様だ。

 獣がいても王国の土地は魅力的に映るのだろう。魔獣に比べたら獣の特異種なんて可愛いものだから。

 オリエーンス帝国の正統後継者を自認するのは構わないが、王国のモノは俺のモノ的なジャイアニズム丸出しの超理論はちょっと理解できない。

 国是は三〇〇年が過ぎた現在も変わらぬ様で国境を有するオレとはお友だちになれそうになかった。

 ラウラの時代、既に魔獣の森から越境した魔獣を狩る技術が確立しており、魔石いわゆるエーテル機関を躯から取り出す必要があることも知られていた。

 王国では魔獣を狩る技術も知識も綺麗サッパリ無くなっているのとは対照的だ。

 三〇〇年前でそこまでの技術が有りながら、いまだ王国に届かないのだから魔獣の森を越えることがいかに困難かがわかる。

 魔獣の森では魔獣と戦ったら負けなのだ。

 やっと七年前、その事実に気付いたらしいが境界門の場所を間違えて敗走するとか、もう少し真面目にやれといいたい。


「にゃあ、連中が動き出すにはまだ時間が掛かりそうにゃん」

 フィーニエンスの前線基地になってる城塞都市ディアボロスでは兵士の入城が続いている。

 ディアボロスは王国の城塞都市に比べるとずっと軍事基地っぽく、商店などもほとんどない、兵舎と武器庫などが大半を占める。雰囲気的には軍の駐屯地でも少しもおかしくなかった。

「この距離では見付けられないかと思ったけどいるにゃんね、魔力が桁違いだから直ぐにわかったにゃん」

 少尉は城塞都市のほぼ中央にいた。

 防御結界は貧弱で認識阻害の展開もない。オレなら十分ここから狙撃できるがまだ攻めて来たわけじゃないから先制攻撃は無しだ。

「侵略なんてバカなことはヤメてその分、税金を安くすれば国民も喜ぶにゃんよ」

 それが出来たら皆んな苦労はしないか。魔獣の森を縦断するおバカな作戦でも利益を得られる人間がいる限り続くのかもな。


 最大の問題は、転生者かもしれない少尉様だ。話の通じる相手ならいいけど期待はしないでおこう。


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