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解析実験にゃん

『ニャア』

 天使アルマが運転するトラックを先頭に三台は順調に走り続ける。

 日が落ちると道の両側で森の地表を覆う月光草が青く光り幻想的な風景を作り出す。元の世界ならデートスポットだがこっちでは光ったりするのは大概ヤバい場所だ。

「「「きれー!」」」

 チビたちはトラックの荷台で飛び跳ねる。お昼寝の後は探査魔法とついでに距離の在る獲物を狩る練習をしていた。

 チビたちが転生者並の魔法使いになる件だが、転生者並の魔力を持っても変人に育たないように注意しないと。

 ここは常識人であるオレが指導しないといけないにゃん。

「オオカミげっとです!」

 ビッキーが手を挙げた。

「わたしブタをたおしました!」

 チャスが続く。

「わたしウシ!」

 シアはウシ宣言。

「わたしもウシ!」

 ニアもウシだった。

「ウシいっぱい!」

 ノアは両手を挙げた。

「にゃあ、いっぱい狩ったにゃんね」

「「「はい」」」

 チビ一人あたり三桁の獣を遠隔の電撃で狩って格納していた。現在の能力だけでも十分に宮廷魔導師はイケる。

 これだけ魔法が使えれば何をするにしても食うには困らないだろう。この世界、魔力があるに越したことはないのだ。

 後は冒険者をやるもよし、このまま魔導師を目指すのもよし、でも、禁呪の研究だけはヤメて欲しいにゃん。

「こっちの森にはチビたちが狩りまくれるほど獣の流入量が増えてるにゃんね、予想を超えた勢いにゃん」

 オレはチャイルドシートに座ったままざっくりと広範囲に探査魔法を打って再度確認した。獣の移動は予想以上に大規模だ。

 獣たちは魔獣がいなくなった途端の大移動だ。人間相手には威勢がいいのに魔獣相手には意気地のないヤツらだ。

「にゃあ、獣に関してはウチらも狩るから最終的には予想値に落ち着くはずにゃん」

 オレの隣に座る猫耳が請け負ってくれる。

「そうにゃんね、増え過ぎなければ問題ないにゃん、細かいことはおまえらに任せるにゃん」

「にゃあ、任されたにゃん」

「お館様、獣が増えるならこの辺りに冒険者の街を一つ作っても良さそうにゃんね」

 いちばん窓側の猫耳が意見を述べた。

「なるほど、冒険者の街にゃんね、OKにゃんよ、ギルマスのラルフに相談して新しい街にも冒険者ギルドの支部を設置するといいにゃん」

「了解にゃん、他の入植者もウチらで当たってみるにゃん、プリンキピウムより賑やかな街にするにゃん」

「にゃあ、プリンキピウムより辺境の街が誕生にゃんね」

「街の名前はエフティヒアにゃん」

「もう、名前が決まってるにゃん?」

「昔この辺りに在ったらしい街の名前にゃん」

「いまは、無いにゃんね」

「にゃあ、ケラスでは良くある話にゃん」

 昔造られた街の大半が補助金を水増しするための簡易な集落だったとアガサから聞いていた。エフティヒアもそのひとつなのだろう。

「新しい街のことも任せるから好きにやっていいにゃんよ」

「にゃあ、了解にゃん、ウチらでお館さまがびっくりするような街を造るにゃん」

「オレをびっくりさせる事をメインテーマに据えなくてにゃんよ」

「にゃあ、わかってるにゃん」

 隣の猫耳に頭を撫でられ抱っこされる。

「次はウチが抱っこするにゃん」

 窓側の猫耳が予約を入れた。


 新しい街を造ることになってから一時間ほどでオレたちの乗ったトラック三台はケラスとカンケルの境界門にたどり着いた。

 ここで今日の移動は終了だ。



 ○カンケル州 カンケル第一拠点前


 境界門を抜けた先にカンケル第一拠点となる猫ピラミッドが建てられている。月光草の青い光に負けないぐらいピンクに輝いていた。

「にゃあ、お疲れにゃん、天使様も運転ありがとうにゃん」

「なに、このまま三年ぐらいは連続して運転してもいいぐらいだぞ」

「天使様のスケールの大きさにはオレも感服にゃん」

「あたしも感服だよ」

「ミンクも感服なの」

 妖精がふたりオレのセーラー服の胸元から出て来た。午後はずっとオレのお腹に張り付いて昼寝をしていたのだ。

「おまえたちは、ずっと寝ていたのか?」

 天使様はやや呆れ顔。

「マコトのお腹の心地よさは犯罪級だよね」

「犯罪なの」

 昼寝の寝過ぎをオレのお腹のせいにされた。

「にゃ!?」

 いきなり後ろから抱き上げられた。

「お館様、今夜のミーティングは抱っこ会とのコラボレーションにゃん」

「にゃあ、混ぜて来たにゃんね」

「抱っこ会に参加できてない猫耳たちから不満の声が寄せられてるにゃん、だから少しでも時間が欲しいところにゃん」

『『『にゃああ』』』

 念話でも不満の声が寄せられた。

「わかったにゃん」

 前世の悪党時代はともかく、今の猫耳たちはオレの大事な家族だから願い事は出来る限り叶えてやりたい。

 前世の姿を想像するとなかなかの地獄絵図だけどな。

「抱っこ会でのスキンシップはウチらの魔力を安定させるという研究結果が出ているにゃん」

「「「にゃあ」」」

「ちゃんと研究してるにゃんね」

 研究拠点での研究成果らしい。

『お館様、魔の森を囲む物理障壁が完成したにゃん、予定通り結界の解析実験に入れるにゃん』

 先行してカンケルに入っている猫耳から念話が入った。

『了解にゃん、解析実験はミーティングに合わせて開始にゃん』

『にゃあ、準備するにゃん』

『頼んだにゃん』

 魔の森は隣国フィーニエンスの国境のど真ん中にあり円形の領域の半分はあちら側の土地にある。

 故に魔の森から一キロほど距離を取って作った物理障壁は国境までの半円分しかない。越境して工作物を設営するのは宣戦布告と同義だからだ。

 フィーニエンス側もこちらと同じぐらいの魔獣の森が広がっているので越境しても気付かれなさそうだが、ルールは尊重されなくてはならないので越境の許可は出さなかった。

 けっして面倒くさいからじゃ無いにゃんよ。


 物理障壁に造られた監視塔から視覚共有された魔の森とされてる地域を見る。


『見た目は特に魔獣の森と大差ないにゃんね』

 抱っこされてバケツリレーみたいに猫ピラミッドに運ばれてる最中も念話で魔の森を監視中の猫耳と話をする。

『にゃあ、ウチらも感じ取れるのは結界とマナの濃度の違いだけにゃん』

『気付かずに突っ込んだらヤバかったにゃんね』

『追い込んだ魔獣の異変が無かったら、オートマタを失っていた可能性があったにゃんね』

『にゃあ、良かったにゃん』

 安堵の鳴き声を上げるオレ。例えオートマタでも失うのは嫌だ。人間と違ってバラバラにされても復活は可能だが、完全に消されるとどうしようもない。

『結界の魔法式はまだ解析できてないにゃん』

『にゃあ、そこは無理しなくていいにゃん、オレが直接見てみるにゃん』

『危ないにゃんよ』

『おまえらにもバックアップは頼むにゃん、それにオレたちには天使様が付いてるから何かあったら吹き飛ばしてくれるにゃん』

『それはそれで後が大変にゃん』

『そうにゃんね』



 ○カンケル州 カンケル第一拠点 食堂


 夕食はチビたちが狩った獲物の中から美味しそうなところを調理して出す。天使様も妖精たちもステーキが大好きなのでそれも用意した。

 オレはもつ煮の入ったうどんを食べ、チビたちは最近のマイブームであるお子様ランチに舌鼓を打っている。

「にゃあ、うどんがこんなに美味しいとは思わなかったにゃん、たいしたものにゃん」

 うどんを打った猫耳ゴーレムを褒める。

『ニャア、オ館様ノゴ褒美ガ欲シイニャン』

「何が欲しいにゃん?』

『ニャア♪』

 猫耳ゴーレムがオレを抱き上げて頬ずりする。なるほどこれがご褒美か。

「どれどれ、おおこれはイケるね、あたしにも頼むよ」

 オレが食べかけのうどんをリーリが味見していた。

「ミンクもなの!」

「我も頼む、卵追加で」

 天使アルマはなかなか通だった。



 ○カンケル州 カンケル第一拠点 地下大ホール


 猫耳ゴーレムたちとのお風呂の後に猫耳に抱きかかえられてブリーフィングルームではなく地下の大ホールに運ばれた。

 たくさんの猫耳たちがトンネルを経由して集まっている。

「にゃあ、これよりミーティング兼お館様の抱っこ会を開催するにゃん!」

 演壇の猫耳がマイクで開催を宣言した。

「「「にゃあ!」」」

 メインは魔の森で行われる結界を調査する解析実験だけどな。

『にゃあ、準備はどうにゃん?』

『いつでも良いにゃん』

 魔の森の最前線である物理障壁の監視塔には元ギーゼルベルト・オーレンドルフの猫耳ゴーレムも詰めていた。

『ギーゼルベルトは魔の森に付いて何か知らないにゃん?』

『恥ずかしながら、フィーニエンスでは一度も耳にしたことが無かったにゃん』

『ラウラはどうにゃん?』

 元ラウラ・ピサロの猫耳ラウラもギーゼルベルトと一緒に監視塔から投光機で照らし出されている魔の森を見ている。

『にゃあ、ウチも魔の森なんて聞いたことが無かったにゃん』

『ラウラが魔獣の森を抜けたルートとは違うにゃん?』

『にゃあ、ウチらが使ったのはもっと東寄りのルートにゃん、ふたつの魔獣の森の隙間を抜けて来たにゃん』

『それはいまは無いにゃん?』

『にゃあ、実際に確認したけど跡形も無くなっていたにゃん』

『魔獣の森に飲み込まれたにゃんね』

『当時でも、ほとんどそんな状態だったにゃん、ウチらがアナトリ王国に逃げられたのは奇跡的な偶然にゃん』

『にゃあ、そこはラウラの刻印の実力があってこそにゃん』

 ラウラの認識阻害の刻印が無かったら、行動を起こした叔父の私兵に捕まって出国前に殺されていたに違いない。

『刻印と言えば、魔の森の結界の刻印はスゴいにゃん、ウチらにはまったく魔法式が見えなかったにゃん』

『ラウラでも認識できないにゃんね』

『ウチもにゃん、まったく見えなかったにゃん』

 ギーゼルベルトもお手上げだったらしい。

『お館様、これはもしかしてオリエーンス神聖帝国時代の技術が用いられてると違うにゃん?』

『にゃあ、ラウラはなんでそう思うにゃん?』

『前世で一度だけ見た事があるオリエーンス神聖帝国系だと思われる結界に感じが似てるからにゃん』

『ラウラはオリエーンス神聖帝国時代の結界に触れたことがあるにゃん?』

『にゃあ、正確なところはわからなかったにゃん、ウチの父が解析をしようとしてまったく出来なかったモノにゃん、ただ形式がまったく異なっているからオリエーンス神聖帝国時代のモノと当たりは付けていたにゃん』

『正解っぽいにゃんね』

 精霊情報体の知識とラウラの記憶をすり合わせるとオリエーンス神聖帝国時代の結界で間違いなかった。

『ラウラのお父さんはスゴいにゃん』

『にゃあ、ウチから見ても父は天才だったにゃん』

『それでその結界はいつぐらいのモノだったにゃん?』

『当時で七〇〇年前ぐらい前の結界だったはずにゃん』

 するといまから一〇〇〇年前のモノだ。本物のオリエーンス神聖帝国の時代にはまったく及ばない。

『時代からすると転生者が残したモノの可能性が高いにゃん』

 転生者の一部は精霊情報体の魔法を使える。当時は王国とフィーニエンスに行き来が可能だったから、その転生者がどちらを本拠地にしていたかは不明だ。

『当時も転生者がいたにゃんね』

『にゃあ、それはほぼ確定だと思うにゃん』

 いまも生きてる可能性もある。

『転生者の存在はウチらの時代には全く知られて無かったにゃん、いまも王国への侵略が無いということは、いたとしてもフィーニエンスの権力とは無縁な証拠にゃん』

『にゃあ、そのまま無縁でいて欲しいにゃんね』

『『『にゃあ』』』


 念話してる最中もオレはあいかわらず床に足を着けることなく猫耳たちに抱っこされてはパスされるを繰り返している。


「にゃあ、お館様は可愛いにゃん」

「当然にゃん、お館様は可愛いに決まってるにゃん」

「抱き心地も最高にゃん」

 正面の巨大スクリーンには魔の森が物理障壁の監視塔から送られた映像が映し出されていた。もちろん見えるのは投光機の灯りに照らされた木々のみで獣などの姿は無い。


『にゃあ、これより解析実験を開始するにゃん!』

 進行役の猫耳は念話で宣言した。

 監視塔に詰めていた猫耳たちとギーゼルベルトは実験の準備を終えて後方に下がっている。その場にいなくても解析実験には問題ない。

『各自、探査といざという時の防御よろしくにゃん』

 オレも念話で指示する。

『『『にゃあ!』』』

 魔法龍のディオニシスも不測の事態に備えて高高度で待機してもらっている。

 オレは画面に見入りたいところだがコラボレーションの抱っこ会が継続中なので猫耳たちにすりすりされているので画面は目に入らない。

 でも、視覚共有とオレ自身の探査魔法が事象を観察している。視覚に頼ってもエーテルを走る魔法式は見えないから問題ない。

『始めていいにゃんよ』

 オレはGOサインを出した。

『『『開始にゃん!』』』


 監視塔の前で鎧蛇の躯が再生される。挿入された人工エーテル機関が死んだ魔獣に仮初めの命の火を灯す。

『ガアアアアアアアアアアッ!』

 鎧蛇が目を覚ました。

 魔力があれば魔獣は動く。実はかなり雑な造りの生物なのだ。

『行くにゃん!』

 魔獣が動き出す。

 実験は簡単だ。再生した魔獣を魔の森の結界に衝突させるだけだ。

 再生魔獣はまっすぐ加速して魔の森と推定される領域に向かう。

『間もなく衝突にゃん!』

 助走距離の短い物理障壁の内側からの加速なので衝突速度は推定七〇キロ程度。

 鎧蛇は大口を開けて魔の森の結界に突っ込んだ。


『『『にゃっ!?』』』


 その光景に猫耳たちが思わず仰け反った。

 オレも息を飲んだ。

『『『いまのは何にゃん!?』』』

 再生魔獣が魔の森の結界に突っ込むと同時に突如現れた二〇体もの姿形の違う化け物が、もの凄い勢いで齧り付きまたたく間に喰い尽くした。

 魔獣の消滅とともに化け物も消え去る。

 時間にして二~三秒の出来事だ。

 境界には何の痕跡も残されていない。

『とにかく実験を続けるにゃん』

『『『了解にゃん』』』


 五回ほど再生魔獣の種類を変えて実験を繰り返したが結果に変わりは無かった。

 更に地下でもトンネルを使って同様の実験を行ったがこちらも結果は同じだ。被験体の再生魔獣は跡形もなく喰われた。

 魔の森の境界は魔獣が喰われた以外の反応は無く、何かが越境したりマナの濃度が変わることは一切無かった。

 実験の終了とともに魔の森は何事も無かったかの様に静寂を取り戻した。


『確かに化け物は湧いたにゃん』

 オレはあいかわらずのバケツリレー状態だったが、事象はしっかり観察した。

『にゃあ、無限かどうかはわからないにしても斬新な結界だったにゃん』

『ウチらも取り入れたいにゃん』

『趣味はどうかと思うけど、効果は抜群にゃん』

 対人では使えないが、魔獣相手には良さそうだ。

『お館様は、何かわかったにゃん?』

『にゃあ、魔法式が少しだけ見えたにゃん』

 魔獣が喰われた時、わずかに魔法式がノイズのように漏れた。

『『『にゃあ、お館様スゴいにゃん!』』』

『ラウラの予想が正解だったにゃん、結界はオリエーンス神聖帝国時代の技術が使われてるにゃん』

『『『にゃあ!』』』

『マコト! それは本当なのか!? 魔の森にオリエーンス神聖帝国時代の遺跡があるんだな?』

 いまはヌーラにいるミマからも念話が入った。かなり興奮していた。

『にゃあ、そこはまだわからないにゃん、どちらかと言えば過去の転生者が残した可能性が高いと思うにゃん』

『やはりそうか』

『ここは目立つからオリエーンス神聖帝国時代のものだったら、その後のオリエーンス連邦の時代にとっくに掘り出されてるはずにゃん』

 現にオリエーンス神聖帝国時代の遺跡はいまだ発見に至っていない。

『確かに魔獣の森に沈む前であれば目立つ場所か、いや、結界が強力すぎて手を付けられなかったのではないか?』

『にゃあ、可能性としては無くもないにゃんね、でもそれなら地上に何か遺構があっても良さそうな感じにゃん?』

『そこは文明の終わりに全部吹き飛んだとか?』

『にゃあ、それはあるかもしれないにゃんね』

『だろう、地上部が喪失した遺跡は珍しくないのだ、それに魔獣の森形成後に造られたのならそれはそれで気になるではないか?』

『明日、直に結界を調べてみるにゃん、それで時代はハッキリするにゃん』

『大丈夫なのか?』

『触れるだけで、あの化け物は出さないにゃん、それに例え出たとしてもオレの防御結界は抜けないにゃん』

『自信あるな』

『にゃあ、オレが弱かったら人型魔獣の時に分解されてるにゃん』

『マコトは強いのだったな』

『オレは、そこそこ強いにゃん、だから心配ご無用にゃん』


 明け方までミーティング&抱っこ会が続き、猫耳たちがツヤツヤになって各拠点に戻って行ったとか。



 ○帝国暦 二七三〇年一〇月二五日


 ○カンケル州 カンケル第一拠点 発着場


 カンケル第一拠点から先は、まだ道路が無いのでドラゴンゴーレムで一気に魔の森の近くまで南下する予定だ。

 それに陸路だと州を横断するので片道三日の旅になってしまう。風景を楽しめるドライブならともかく樹海のような元魔獣の森を延々と走るだけではオレが退屈する。

「運転はないのか」

 天使アルマがしょんぼり。

「にゃあ、魔の森の件が片付いたらまた直ぐにハンドルを握れるにゃん」

「そうか、我も出来る限りの協力をしよう、何ならいま消し去ってもいいぞ」

「どうしようも無くなったら天使様にお願いするにゃん、何か面白いものが埋まってる可能性もあるからまずはオレたちが調査するにゃん」

 天使様が気を利かせて魔の森を消し去らないように説明する。

 天使様の魔法が炸裂すると王国も隣国のフィーニエンスもただでは済まないことになりそうなので本当に最後の切り札だ。

「美味しいものがあるといいね」

 リーリにブレは無い。


 オレたちはドラゴンゴーレムに乗って離陸しカンケルの南、魔の森の近くの地下に造られた第二拠点を目指す。



 ○カンケル州 上空


「カンケル自体は異常なしにゃんね」

 オレはドラゴンゴーレムの背中に立って元魔獣の森を眺める。本当は頭の上に立ちたいところだが猫耳たちの監視が厳しいので自重した。

 チビたちが直ぐにオレの真似をするので下手なことは出来ない。いまだってそれぞれドラゴンゴーレムの背中に仁王立ちだ。

 猫耳たちがこっちを見てるので背中に座った。チビたちもオレにならう。

 カンケルは地平線まで樹海が続いており、まだ見えてはいないがこの先に在る太古の道を除けば地表の人工物は皆無だ。

 魔獣を狩るのにオートマタが駆け抜けた痕跡も驚きの速さで修復されている。既に目を凝らさないとわからない状態だ。

 魔獣の森を人間の領域にまで解放したいなら、樹木をすべて切り倒さないといけない。その辺りは研究拠点のあるレオで実証実験済みだ。

 いまのところ人間の領域は土地が余ってるので、魔獣の森の解放は魔獣の殲滅とマナの濃度調整で十分だろう。

「マコト、改めて乗るとドラゴンゴーレムも面白いものだな」

 天使様は自分でコピーした白銀のドラゴンゴーレムに騎乗している。自分の意志で操れる面白さに気付いたらしい。

 いつもは瞬間移動の様な魔法を使うから天使アルマにとって乗り物は完全に趣味のモノになる。

「にゃあ、ドラゴンゴーレムも気に入ってくれて何よりにゃん」

「ただ、魔力の流れが今ひとつなのが気になる」

「ドラゴンゴーレムは拾ってから今日に至るまで改造を重ねたから、いろいろ統一されてないのは確かにゃん」

 魔改造を繰り返したので整理が追いついてない部分があっても、この辺りは自分で見直してもわからなかったりする。マナ変換炉が多少のロスを物ともしないので追い込みが甘いのも事実だ。

「我が修正してやろう」

「にゃあ、いいにゃん?」

「なに、そう難しいことではない」

 天使アルマにはディオニシスの魔力の流れも修正して貰っている。あの時も人智を超えた奇跡の御業を操り一瞬で修正してした。

「こんな感じでどうだ?」

 天使アルマの乗った白銀のドラゴンゴーレムに猫耳が生えピンク色に変わった。そしてより生き物っぽい雰囲気に。

『ニャア』

 鳴いてるし。

 魔力の流れが改善され消費する魔力が激減してなおかつ浮力が増している。ディオニシス以上に効率が上がっていた。

 猫耳とピンク色はあいかわらず謎だ。まさか天使様が調整しても出てくるとは。

「こんなところだ」

 ドヤ顔の天使アルマ。

「にゃあ、これはスゴいにゃん!」

 オレも思わず鳴いてしまった。

「オレも天使様のをお手本にならって改修するにゃん」

 まずはオレの乗ってるドラゴンゴーレムからだ。

「にゃあ!」

 ドラゴンゴーレムの魔法式を書き換える。

『ニャア♪』

 それまで無口だったドラゴンゴーレムが猫耳装備のピンク色になってご機嫌な鳴き声を上げた。

 改修のポイントをオレが整理して猫耳たちと共有した。

『『『にゃあ、ウチらも改修するにゃん』』』

『頼むにゃん』

 猫耳たちは自分でできるので、オレはチビたちのドラゴンゴーレムのアップデートを手伝う。

 チビたちがドラゴンゴーレムの魔法式を単独でいじるのは無理だが、オレがサポートすることでそれぞれ自分でやり遂げた。

「「「できた!」」」

『『『ニャア!』』』

 チビたちと五体のドラゴンゴーレムが声を上げた。

「「「せいこう!」」」

 五歳児と四歳児が刻印師の仕事をしたのだから確かにやりすぎな感はあるが、それでもこれから先チビたちが生きて行くには必須の技術なので伝授しておいて損はない。


『『『ニャア!』』』


 オレたちの所有するすべてのドラゴンゴーレムがバージョンアップを果たした。ここまで来るとプリンキピウムの森で拾った頃に比べたら完全に別物だ。


 ドラゴンゴーレムの飛行速度も上がってオレたちは予定よりも早く目的地であるカンケルの第二拠点に到着した。


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