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新しい冒険にゃん

 ○ケラス州 仮州都ネオケラス 領主公邸 最上階 ブリーフィングルーム


 夜、オレはネオケラスの領主官邸の最上階にあるブリーフィングルームでビーズクッションに埋もれて猫耳たちと今後の行動計画について話し合っていた。

 ブリーフィングルームと言ってもテーブルも椅子もないカーペット張りの広間だ。そこにオレたちが駄目な感じになっていた。

「ビーズクッションを椅子代わりに導入したのは失敗だったにゃん、何かどうでも良くなって来るにゃん」

「「「にゃ~ん」」」

 猫耳たちも同意する。

「だからと言って適当に済ますことが出来ないのが辛いところにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 そんなわけで適当に済ませられない今夜の議題はエクシトマ州の件だ。

「面倒なことにエクシトマ州を後回しに出来なくなったにゃん」

「にゃあ、元転生者の天使様にロックオンされたとあっては、いくらお館様でも無視して探検に出掛けるわけには行かないにゃんね」

「廃帝都に行くのがまずは探検にゃん」

「「「にゃあ」」」

「お館様、相手は転生者ってだけでもヤバいのに天使様にジョブチェンジしてるにゃん、対応は間違えられないにゃんよ」

「そこはわかってるにゃん」

 怒らせたり敵対するつもりは無いが、超強力な力を持ってる相手だ、下手を打って天使アルマまで巻き込んだりしたら世界がただでは済まないことになる。

「最優先は北方監視者様が待ってる廃帝都エクシトマにゃんね」

「にゃあ、エクシトマ州はデカすぎるにゃん」

「まったくにゃん」

 廃帝都エクシトマの探求は探索範囲の広さから高難度のミッションになる。

「後回しにする予定だったからまずは計画の立て直しにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちも声を揃えた。


 実のところエクシトマ州がどんな場所なのかオレたちは何も知らなかった。

 王国の西側沿岸部が全部そうなのはわかっているが、それは地図上での知識でしかない。計算するのも面倒くさいほどの広大な土地は大半が魔獣の森だ。そして西海岸はこの世の地獄とされる砂の海との狭間にある煉獄。

 しかも、先程ディオニシスを動員して超長距離の探査魔法を打ったところ、どうやら西方大陸の三分の一強がエクシトマ州らしいことが判明した。


「にゃお、エクシトマ州が聞いてた話よりかなりデカいにゃん」

「地図を作ったときには既にエクシトマ州が魔獣の森に沈んでいたから正確な測量が出来なかったにゃんね」

 国土省国土管理局境界監視官の魔法でも正確な測量は無理だったか。それとも最初からちゃんと測量してなかったか。

 場所を考えると後者のような気がしないでもない。

「にゃあ、お館さまの支配地域が王宮より大きくなったにゃん」

「ハリエット様がお館様の友だちじゃなかったら内戦の危機だったにゃんね」

「人間の数が少ないからその辺りはセーフにゃん、廃領を貰って喜んでる子供を装うにゃん」

「「「にゃあ、流石にそれはもう無理にゃん」」」

 猫耳たちから総ツッコミを受ける。

「いい方向に考えれば、この世の地獄の海より距離があるのはいいことにゃん」

「にゃあ、お館様、純粋に面積が増して廃帝都探索の難易度が上がったにゃんよ」

「そうにゃんね」

「ほとんど手付かずの状態だったからこれから大変にゃん」

「まずは現状にゃんね」

 オレたちの中でもっとも西にある旧貴族派領地オーリィ州の拠点にいる猫耳に念話を入れた。


『にゃあ、オレにゃん、エクシトマ州の現状はどんな感じにゃん?』

『こちらオーリィ拠点にゃん。エクシトマ州は境界線から五〇キロまでオートマタを投入して魔獣を狩ってる最中にゃん』

『これは廃帝都探索とは無関係の侵攻予防策の一環にゃん』

『しかも、まだすべての境界線はカバーしてないにゃん』

 オーリィ拠点の猫耳たちから念話が返って来た。

『するとこれから追加投入にゃんね?』

『にゃあ、どんどんブチ込むにゃん』

『明日までに三〇〇万体はブチ込むにゃん』

 魔法ならではの数字感である。オートマタは魔獣の一〇倍は突っ込むのがオレたちの方針だ。

『これまでのところでヤバい魔獣はいたにゃん?』

『いまのところいちばんヤバいのは、頭がレーザー砲の砲台になってるゾウみたいな魔獣にゃん』

『にゃ、頭が砲台にゃん?』

『半径五キロ圏内に入ると無差別に攻撃してくる厄介なヤツにゃん、しかも高度限界のレーザー並に強力にゃん』

『にゃお、半端ないにゃんね』

『それでも射程圏外からの攻撃には弱いから何とかなってるにゃん、それとレーザー砲は使えそうだから研究拠点に回したにゃん』

『にゃあ、助かるにゃん、オートマタと専用魔法馬のレーザー砲を強化できるにゃん、それと戦艦型にも搭載したいにゃんね』

 オレたちもレーザー砲をいろいろ取り揃えてはいるが、高度限界のレーザーほどの出力が出せるのはディオニシスのみだ。

『わかったにゃん、オートマタをどんどん突っ込んで欲しいにゃん』

『『『了解にゃん』』』

『頼んだにゃん』

 オーリィ拠点の猫耳たちとの念話を終えた。再びブリーフィングルームの猫耳たちとのミーティングに戻る。


「お館様、廃帝都探しは普通にやっても時間が掛かりそうにゃん」

「にゃあ、こればかりは仕方ないにゃんね、やれるところから調査にゃん」

 廃帝都に関するまともな資料がないので、魔獣の森を解放しつつ遺跡を探すしかない。誰も足を踏み入れてない場所なので、どんな危険があるのか未知数だ。北方監視者の天使様が待っているとは言っても慎重に事を進めたい。

「オートマタがある程度エクシトマ州内に浸透してから本格調査を開始にゃん」

「「「にゃあ」」」

「エクシトマ州には陸路で移動するにゃん、途中いろいろ顔を出したいところがあるにゃん」

 プリンキピウムとかプロトポロスとか、皆んなの顔をみたい。

「わかったマコト! 先行調査は私に任せろ!」

 さっきまで居眠りしていたミマが立ち上がった。

「いいけど、危ないからオートマタが魔獣を退治した地域だけにゃんよ」

「無論、わかっている」

「だったらいいにゃん」

「実在が確約されてるならそれほど難しい調査にはならないはずだ、これまで最大の障害だった魔獣が排除されたのだ、これは乗り込むしかないだろう!」

 興奮するミマの横で猫耳のセリが腕を組んで頷いている。

「わかったにゃん、先行調査は任せるにゃん」

「では、ドラゴンゴーレムを借りるぞ」

 ブリーフィングルームを出て行くミマとセリ。

「にゃあ、もしかして直ぐに出るにゃん?」

「当然だ、調査は早ければ早いほどいい、特に今回のような明確な資料が無く五里霧中の場合はそうだ」

「了解にゃん、安全第一で頼むにゃん」

「ああ、ヘマはしない、せっかく犯罪奴隷を使わずとも発掘が可能になったんだ、犠牲者無しで進めたい」

「にゃあ、そこはミマも犠牲者にならないように頼むにゃんよ」

「無論だ」


 ミマとセリが退出してエクシトマ州の議題は一旦終了だ。


「お館様、ついさっきカンケル州内の魔獣の殲滅が完了したにゃん」

 カンケル州はケラスの南方に位置するオレが所有する廃領の一つだ。隣国フィーニエンスと国境を接しており、オレの持っている辺境伯の称号の根拠となってる。

「魔獣を一掃したならフィーニエンスとの国交も再開も視野に入れる必要があるにゃんね」

「にゃあ、フィーニエンス側の魔獣の森が手付かずなのと現在のあちらの状況を確認する必要があるにゃん」

「お館様、ラウラとギーゼルベルトはフィーニエンスとの道が開いたら間違いなく攻めて来ると言ってるにゃん」

「にゃ、そうにゃん?」

 三〇〇年前、彼の地から逃れた王宮刻印師の一族だったラウラ・ピサロと二一四年前に転移の実験に失敗してオパルスとプリンキピウムの間にある岩に融合したフィーニエンスの宮廷魔導師ギーゼルベルト・オーレンドルフが同意見だった。

「ギーゼルベルトが研究していた転移魔法だって、最終目的は魔獣の森を飛び越えてのアナトリ王国への侵攻にゃん」

「戦争は魔獣とだけやって欲しいにゃん」

「当時はそれもやっていたっぽいにゃん、魔獣をある程度倒せる実力はあるみたいにゃんね、それでもいまだ攻めて来ないところをみると現在も魔獣の森を解放するには至ってないみたいにゃん」

「伝説の魔の森はどうにゃん?」

 魔獣の無限湧きとか、実在したらシャレにならないシロモノだ。記録というか『魔獣の森探検記』に記されてる場所はまさしくフィーニエンスとの国境付近だった。

「結論から言うと今回の作戦では発見出来なかったにゃん」

「すると『魔獣の森探検記』の作者の創作だったにゃんね」

「ただ、フィーニエンスの国境地帯にある直径五〇キロの巨大な円形地帯に薄い結界が張ってあったにゃん、マナの濃度も魔獣の森のほぼ倍はあるにゃん」

「場所的には魔の森でもおかしくないにゃんね」

「にゃあ、場所はドンピシャにゃん」

「魔の森では無いにゃん?」

「にゃあ、ウチらの探査魔法ではそのエリア内に魔獣の反応が一つも見当たらなかったにゃん」

「無限湧きどころか、魔獣の森のど真ん中なのに魔獣が一匹もいないにゃん?」

 フィーニエンスの国境地帯には魔獣の森が両国に等しく広がっている。巨大な円形地帯はそのど真ん中に有った。

「そうにゃん、しかも魔獣だけじゃなく獣の反応も一切なかったにゃん」

「マナの濃度が高いと言っても魔獣の森の倍程度では、魔獣が引き寄せられることは有っても忌避されることは無いにゃん」

「問題は、オートマタが追い込んだ魔獣がそのエリアに入り込んだ途端、消えたことにゃん」

「結界に触れて分解されたにゃん?」

「それが反応が違ってたにゃん、まるで何かに喰い殺されたみたいだったにゃん」

「魔獣が喰い殺されたにゃん?」

「反応はそうなっていたそうにゃん」

「詳細なログは自分で確認するとして何が魔獣を喰い殺したのかはわかったにゃん?」

「さっぱりにゃん、いずれも問題のエリアに入り込んだ瞬間に一瞬で喰い殺されたことしかわかってないにゃん」

「にゃあ、そうにゃんね、探査魔法のログでもそうなってるにゃんね」

 分解魔法と違って頭からガブリとやられたらしい。探査魔法のログからは残念ながらそれ以上のことは読み取れなかった。

 しかも単体ではなく、問題のエリアに逃げ込んだ魔獣約三〇〇がほぼ同時に喰い殺されている。

 それだけのことが起こりながら、魔獣を喰い殺した何かの姿はまったく見えなかった。

「まるで幽霊にでもヤラれたみたいにゃん」

「流石お館様は鋭いにゃん、魔獣を喰い殺したのは幽霊の仕業で決まりにゃんね」

 こっちでは本当に幽霊が人を殺すから無い可能性ではない。

「にゃあ、まず結界から魔獣を殺した何かが外に出ないかを確認するにゃん、明日、エクシトマ州に向けて出発するからその途中で寄ってみるにゃん、どうせ寄り道の多い旅にゃん」

「了解にゃん」

「気軽に立ち寄るとは言え、魔獣を食い殺す何かが守ってる場所にゃん、何かヤバいものが隠されてるかもしれないにゃんね、おまえらも十分注意するにゃんよ」

「下手を打つとアウルムみたいに濃いマナが吹き出したりするにゃんね」

「それぐらいで済むなら問題ないにゃん、アウルムよりヤバいものが埋まってる可能性だってあるにゃん」

 アウルムよりデカい甲虫の蛹が埋まってるぐらいなら対処可能だが、それ以上の何かだと厄介だ。

「まずは距離を置いて探査魔法を撃ちまくるにゃん」

「にゃあ、それがいいにゃんね」

 問題のエリアにいったい何があるのかヒントでも拾えれば、その後の対策も立てやすくなるだろう。

「寝た子を起こすようなことが無いように慎重に進めるにゃん」

「「「にゃあ、了解にゃん」」」

 ここ数百年の間、安定した状態だったのだから事態の急変は無いだろう。オレたちがヘマをしなければだが。


 フラグじゃないにゃんよ。


 ミーティングの後は明け方まで恒例のオレの抱っこ会が開催された。猫耳たちのやる気の元と言われては断れないにゃん。当然、猫耳ゴーレムも一緒に並んでいた。



 ○帝国暦 二七三〇年一〇月二四日


 ○ケラス州 仮州都ネオケラス 領主公邸 車寄せ


「にゃあ、後のことは頼んだにゃん」

「お任せくださいませ」

 アガサが請け負ってくれる。表向きのケラスの運営はすべて丸投げだ。

「「「行ってらっしゃいませ!」」」

「「「にゃあ」」」

 翌日、オレたちは皆んなの見送りを受けて予定通りネオケラスから元転生者の北方監視者が待つエクシトマ州に向けて出発した。まだ待ち合わせ場所が発見されてないから実際に会うのは暫く先だ。



 ○ケラス州 アルカ街道 新道


「ところで、何でレーシングカートにゃん?」

 隣を走る猫耳に聞く。

 猫耳たちが用意したのは、ジープでもトラックでもなく人数分のレーシングカートだった。

「楽しそうだからにゃん、駄目にゃん?」

 猫耳は上目遣いに見る。

「にゃあ、最高にゃん!」

「「「にゃあ♪」」」

 昨日ドラゴンゴーレムで上空を飛んだ道を今日はレーシングカートを連ねて走る。真新しい道路はオレたちしかいないのでアクセルベタ踏みで速度を上げた。内燃機関じゃないから音は静かだ。

『ニャア』

 しっかりメタルな猫耳も生えてる。マナ変換炉をブチ込むと何故かそうなるのだ。研究を続けているがいまだ解明されてない謎の一つである。

「「「はやーい!」」」

 メンバーはどうしても付いてくると言って聞かないチビたちと旅の途中のグルメに期待を寄せる天使様と妖精たち。

 天使様もしっかりハンドルを握ってる。笑みを浮かべてるから反応は上々だ。

「「「にゃあ、速いにゃん!」」」

 それに猫耳たちがいっぱい。

 オレとチビたちは自分の身体に合わせて作ったカートだった。チビたちもアクセルベタ踏みでオレをぶっちぎって行く。

「気を付けて走るにゃんよ」

「「「はーい」」」

 もう、米粒ほどに大きさになった。大きさは同じだが何かオレのカートよりずっと速いんですけど。

「最近の五歳児と四歳児はスゴいにゃんね」

 ドラテクもオレより上だ。

「スゴいのはチビたちに力を与えたお館様だと思うにゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちのカートに囲まれる。オレやチビたちのカートと比べると一回り以上大きいが同じく猫耳装備だ。

『ニャア』

 鳴き声も同じだ。

「にゃお、オレだけのせいにするのは良くないにゃんよ、チビたちのカートを用意したのはおまえらにゃん」

 どう見てもオレのより高出力だ。

「当然にゃん、チビたちには最高のマシンを使わせてやりたいにゃん」

「小さい頃から本物を使うのはいいことにゃん」

「必要なのは本物にゃん」

「にゃあ、おまえらチビたちのカートにマナ変換炉を幾つ入れたにゃん? 怒らないから白状するにゃん」

「……四つにゃん」

「にゃあ! 四つも入れたにゃん!?」

「「「入れたにゃん」」」

 猫耳が開き直った。

「それでもお館様がチビたちにあげたドラゴンゴーレムに比べたら、カートなんてオモチャみたいなモノにゃん」

「マナ変換炉が四つでオモチャなんてことはないにゃんよ」

 王都の魔導具をすべて動かしてもまだ余るほどの魔力だ。刻印の魔法式を書き換えたら空だって飛べる。

「それにドラゴンゴーレムはチビたちの命を守るものにゃん、最高レベルのモノをあげるに決まってるにゃん」

「「「当然にゃん!」」」

 猫耳たちは声をそろえる。

「近い将来チビたちは転生者並みかそれ以上の魔法使いになるから、いまから強力な魔導具を使いこなせる様にするにゃん」

「それも一理あるにゃんね」

 だからといって、やっぱりやりすぎな気がしないでもないが。

 オレも含めてか。


「マコト、これはなかなか面白い」

 次に横付けして話し掛けて来たのは天使アルマだ。天使様のカートも猫耳たちのと同じタイプだ。

「にゃあ、気に入ってくれて嬉しいにゃん」

「あたしも気に入ったよ」

「ミンクもなの」

 ご機嫌な天使様の肩に風に髪をたなびかせたリーリとミンクが乗っている。

「ところでマコト、エクシトマは西の方角では無かったのか?」

「にゃあ、まずは南に行くにゃん」

「南?」

「ネオケラスから南下してこの前まで魔獣の森だったカンケル州に入るにゃん、そこにある魔の森の領域らしき場所を調査するにゃん」

 天使様たちに魔の森のことを語る。

「それも面白そうだ」

「天使様は何か知らないにゃん?」

「感じからすると世界が大きく様変わりする以前のからくりのようだ、それが何なのかは不明だ」

「にゃあ、かなり古いものにゃんね」

「それに完全な形ではあるまい」

「壊されたにゃんね」

 文明の終わりに壊されたのだろう。

「人間が変化した魔木というのも実際に存在するなら見てみたいものだ」

 魔獣の森探検記に記載された内容も伝えるとより一層、興味を持ったらしい。

「にゃあ、禁呪を使えば人間を苗床にすることはそう難しくないにゃん、でも探査魔法で探った感じからするとそういったしょぼい魔法とは違うみたいにゃん」

 薄い結界で覆われてる魔の森の領域だが、かなり高度な魔法式が刻印に刻まれているのが判明している。

 人間をどうこうするだけの嫌がらせとは次元が違っているので、本当に魔木になったとしてもそれは副作用的な現象では無いかと思う。

「最悪の場合は天使様に吹き飛ばして貰うにゃん」

 オレたちでは手に負えないものが埋まってる可能性も低くはない。天使アルマが近くにいてくれるのは幸いだ。

「面倒だから今すぐ吹き飛ばしてもいいぞ」

 天使様は本気だ。

「にゃあ、天使様はオレたちの切り札だから、攻撃は最後の最後にゃん」

「ふむ、そうだったな」

 以前と同じ説明に天使アルマは頷いた。

 手に負えない可能性があっても調査前に吹き飛ばすわけにはいかない。天使様の出番はオレたちがヘマをやらかした時だ。


 オレたちのカートは速度を上げて新しく造成したカンケル州へと南下するアルカ街道を突っ走る。

 石畳ではなく太古の道準拠のコンクリートみたいな継ぎ目の無い舗装された路面で、道幅も同じく片側二車線分ほど確保した。

「お館様、カートにはやっぱり太古の道にゃんね」

「にゃあ、魔法の補正無しでタイヤを転がして走る感覚は最高にゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちも魔法を使わずとも滑らかに走行できる路面にご満悦だ。

 魔獣の森で発見した太古の道は、オリエーンス連邦時代のハイウェイに近い道路らしく大陸を東から西へと横断している。実際に走って調べたわけじゃないが超長距離の探査魔法がどこまでも飛んでいったのでたぶん海まで通じている。

「人間の住んでる場所に道が残ってないのに、魔獣の森にいい状態で残ってるなんて皮肉なものにゃん」

 同じ先史文明の遺構でも一般道は石畳が基本だったらしく、人為的に剥がされやすいのも荒廃に拍車を掛けた様だ。

 本来は魔力を与えるだけで自動修復される上にマナを勝手に吸って魔力を作り出すので完全に破壊されない限り、半永久的に維持される日本にあったら土建屋のおっちゃんが真っ青になるシロモノだ。

 オレたちが知る限り王国内の遺構系の道路はいずれも破壊が修復する速度を上回ったらしく魔導具としては死んだ状態だった。

 その点、太古の道は剥がしにくい材質と魔獣の森の濃いマナの二点が相まってかつての姿を残しているのだろう。魔獣避けも効いてるみたいだし。


「マコトさま、これからまじゅうのもりにいくのですか?」

 ビッキーがカートの速度を緩めて横付けした。残りのチビたちも速度を落としてオレのカートを囲んで並走する。

 チビたちのカートはマナ変換炉四発搭載とあって、そこいらの魔獣よりヤバい。

「にゃあ、元魔獣の森にゃんね、いまは違うにゃん、オートマタで魔獣を退治して大部分がマナもゼロ地帯になってるにゃん」

「まのもりは?」

 チャスが反対側に横付けする。

「これから調査にゃん」

「「「わたしたちもちょうさする!」」」

 シアとニアとノアの四歳児たちが声を上げた。

「危ないからまずはオレからにゃん」

 何があるのか全くわからない状態でチビたちを前に出すつもりは無い。猫耳たちだって駄目だ。

「「「え~っ」」」

 チビたちから不満げな声が上がる。

「にゃあ、オレの次なら探査魔法を打ってもいいにゃん、でもちゃんと猫耳たちの指示に従って打つにゃんよ」

「「「はい!」」」

 チビたちを甘やかせてはいるが、その分ちゃんと働いて貰うにゃん。


 昨日作ったばかりのアウルムの巨大ピラミッドの横でのBBQな昼食後は、チビたちのお昼寝タイムになってレーシングカートからいつもの六輪トラックに分乗して出発した。全部で三台のトラックが並んで走り出す。

「運転とは面白いモノだな」

「にゃあ、そうにゃん運転は楽しいにゃん」

 先頭のトラックを運転するには天使様だ。すっかり運転が気に入った天使アルマはカートに引き続きトラックのハンドルを握っている。

 オレはボンネットに座りたいところだが、チビたちが真似すると猫耳たちに怒られるので自重して天使様の隣にチャイルドシートを据え付けておとなしくしていた。

 トラックの運転席はベンチシートなので更に猫耳がふたりほど収まっている。荷台のスペースにはクッションに埋もれたチビたちがお昼寝中だ。

「このまま南下すればいいのだな?」

「にゃあ、道なりに進めば暗くなる頃にはカンケルとの境界門に到着するにゃん、そこが今日の終点にゃん」

 先行してる猫耳たちがそこに新しい拠点を建設してる。

「ふふ、今日の運転は我に任せるがいい」

「にゃあ、お任せするにゃん」

 天使様は喜んで目的地までトラックを転がしてくれるようだ。


 アウルムから一時間ちょっとも走った辺りから先がケラスでも魔獣の森に沈んでいた領域になる。

 道路の両側は鬱蒼とした森で魔獣の森の頃と風景は何ら変わりないが、夜になれば下草と置換された月光草が青く光り幻想的な風景を生み出すはずだ。

 実はマナゼロを実現しても森の木々がマナを生産してる為、切り倒さない限りまた濃度が高まってしまう。月光草は魔獣の森の解放には必須のアイテムなのだ。

 伝承の魔木じゃなくてもこっちの世界の樹木はマナを作り出す機能があり、夜になるとマナを吐き出していた。だから森はマナの濃度が高めなのだ。

「魔獣が消えたらすぐに獣が入り込んだにゃんね」

 軽く探査魔法を打っただけで幾つもの反応があった。

「にゃあ、ウチらが青色エーテル機関の虫系も隔離したから普通の獣は怖いもの無しの状態にゃん」

 青色エーテル機関持ちはかつての家畜の姿を取り戻している。皆んな可愛い奴らだ。

「このまま放置したらプリンキピウムの森ぐらいになりそうにゃんね」

 獣たちは続々と数を増している。こっちの獣の繁殖力は半端ないし、それに人間が大好き過ぎる。

 餌として。

「それはウチらがさせないにゃん」

「獣は危険な存在でも、狩ればいろいろ役に立つので上手く共存したいにゃんね」

 家畜として飼わなくても肉が採れる。しかもなかなか美味しい。冒険者のおっさんたちも仕事が増える。


『マコト、ずるいぞ!』

 いきなりミマからクレームの念話が入った。まだエクシトマ州には届いてないらしい。ドラゴンゴーレムの上からだ。

『にゃあ、何の話にゃん?』

『魔の森だよ! そんなモノが実在するなら私も調査に加わりたかったぞ!』

『ミマが飛び出した後に調査が決まったにゃん、それにミマ好みの都市遺跡じゃなさそうにゃんよ』

『そうなのか?』

『良くてゴーレム型にゃんね、またでっかいさなぎかもしれないにゃん』

『おお、蛹か』

『それに調査したいなら戻ってくればいいにゃん』

『無理を言うな、こっちは夜通しドラゴンゴーレムの背中の上にいたんだぞ』

『寝心地は悪くないにゃんよ』

『高度限界ギリギリの高さを剥き身で飛行してるんだ、いくら安全と言われても寝られるわけがない』

『そこまでは責任は負えないにゃん』

『いや、それはわかってる、とにかく無理だ、私はこのままエクシトマを目指す』

『だったら適当なところに着陸して休むといいにゃん、それにこっちの調査結果ならリアルタイムでセリに教えて貰えばいいにゃん』

『そうなのか?』

『オレたちは思考共有をしてるにゃん』

『それはずるいな』

『ミマがやったら頭がパンクするにゃんよ』

『わかってる、調査結果はセリに聞く、戻るのは無理だから私は廃帝都エクシトマの探索を優先させる』

『そっちは間違いなく都市遺跡にゃん』

『それはわかってる、見つけることができれば世紀の大発見だ、廃帝都エクシトマの存在に懐疑的な歴史学者も多いからな」

『なんでにゃん?』

『エクシトマが国の中心から西に寄り過ぎてるからだそうだ』

『それを言うなら王都タリスは東に寄り過ぎにゃん』

『それと王都タリスこそが帝都エクシトマであるという説が現在の主流だ』

『にゃあ、それはないにゃん』

『同感だ、王都タリスを帝都エクシトマにするには時代が合わない、少なくとも二五〇〇年前から一〇〇〇年間の遺構が無くては話にならない』

 現代の文明と直接繋がるオリエーンス帝国は二五〇〇年前に成立し、魔獣の大発生によって一〇〇〇年前には現在の国家であるアナトリ王国とフルゲオ大公国それとフィーニエンスに分裂したとされている。

『そうにゃんね、タリス城は二五〇〇年前より古くて城壁は一〇〇〇年前より新しいにゃん』

『王都タリスはアナトリ王国の成立とほぼ同時期に造られたものだ。建国記の記述が正しい』

『にゃあ、本物の帝都エクシトマが見付かれば皆んな納得にゃん』

『問題は広大な魔獣の森の何処に在るかだ』

『ミマは見当が付いてるから飛び出して行ったのと違うにゃん?』

『いや、廃帝都エクシトマ実在の報に居ても立ってもいられなくなっただけだ』

『一回死んでも後先考えないところは治らないにゃんね』

『マコト、私からすると廃帝都エクシトマが実在すると聞いてのんびり出来る方が異常だと思うぞ』

『見解の相違にゃんね』

『魔獣の森に入り込めるのだ、無策でもいずれ見付けられるだろう、人間に見えないモノだと難しいが』

『概念上の帝都とかは辞めて欲しいにゃんね』

『そこまで行くと遺跡じゃない』

『そうにゃんね、でも、見えないぐらいはありそうにゃんね、どぎつい認識阻害の結界が仕込んであったら簡単には見つからないにゃん』

『認識阻害の魔法を探すのが定石だったりするが』

『にゃあ、エクシトマのクラスだったら普通に認識阻害の魔法を探査しても効果がないと考えた方がいいにゃんよ』

『マリオンをさらって来るべきだったか』

『本当にやりそうで怖いにゃんね、探査魔法だったら猫耳なら誰でも使えるにゃんよ、精霊魔法をミックスすれば場所の特定はそう難しくないかもしれないにゃん、問題は認識阻害が掛かってない場合にゃんね』

『それもあるか?』

『朽ちた状態だとわかりづらいにゃん』

『逆に難しくなるか』

『にゃあ、それでも帝都なら王都並みにデカいはずにゃん』

『伝承によれば帝都を横断するのに魔法馬で丸三日掛かったそうだ』

『にゃあ、かなりの大きさにゃんね』

『盛りまくるのが普通だから何処までが本当かはわからん』

『話半分でも魔法馬で一日半の距離にゃんね』

『ありえなくは無いが、当時そこまでの都市が必要なほど人口があったのかは疑問だな、ふわ~あ』

 念話なのにあくびが伝わって来る。

『にゃあ、いったん地上に降りて一休みするといいにゃん、セリはロッジを設営出来そうな場所を見付けたら着陸するにゃん』

『了解にゃん、いまはヌーラの森林地帯だからすぐに降りるにゃん』

 オレが所有しているヌーラはアナトリの中央に位置する魔獣の森と森が複雑に入り組んでいる四領分の広さがある無人の領地だ。

 その境界は大いなる災いを封じる為の城壁によって囲まれてるが刻印的には特に見るものは無い。むしろオレたちが強化した。

 それでもってちょっとした災いのミマが降り立つ。

『私はまだ大丈夫だぞ』

『にゃあ、だったらヌーラの大いなる災いの謎も探って欲しいにゃん』

『そうか、ここがあのヌーラか』

『にゃあ、魔獣がいるから気をつけるにゃん』

『オートマタを投入したんじゃなかったのか?』

『一〇〇万体を投入して刈り取ってる最中にゃん、でもヌーラはヤバいぐらい広いからまだ殲滅には程遠い状態にゃん』

『マナはゼロに近いのだろう?』

『にゃあ、月光草はヌーラの地表をほぼコンプリートしてあるにゃん』

 残念ながらその過程でも大いなる災いに関与していそうな遺跡的なモノにはぶち当たらなかった。街の遺構らしきものは在るには有ったが、ほんの痕跡程度だ。少なくともオリエーンス連邦のモノより新しい。

『ヌーラの魔獣どもは、揃いも揃って低濃度のマナに耐性があることがわかったにゃん、ヌーラの領内ならどこでも移動と生息が可能にゃん』

『すると全部が魔獣の森と考えた方がいいな』

『そうにゃん』

 先人が大いなる災いと一緒に行動範囲の大きい魔獣たちを城壁で隔離したのは大英断だったわけだ。

 もしヌーラを隔離する城壁が無かったら魔獣の森は確実に境界を超えて大きくなっていたに違いない。あいつらに州を隔てる境界の結界なんて通用しないからな。

『大いなる災いは人型魔獣じゃないのか?』

『人型魔獣だとあれにゃんよ、最後は爆発するから封じる必要もないにゃん、それ以前にあの城壁で隔離は無理にゃん』

『マコト、そこに転生者がいたとしたらどうだ?』

『一緒に吹っ飛んで仲良く天に還ったと違うにゃん』

『いや、そうじゃなくて人型魔獣の封印に成功したのではないかということだ、現に自爆した跡も無いのだろう?』

『そうにゃんね、いまのところは見付かって無いにゃん』

 研究所の跡は直径二〇〇メートル、深い場所で三〇メートルのかなり大きなクレーターなのだが、人型魔獣が自爆したらもっとスゴいことになる。

 そんなものが発見されれば間違いなく報告が上がってくるのでいまのところは無いと考えていいだろう。

『マコトにしたって人型魔獣を始末してるわけだし、天使になった転生者がいるぐらいだから、封印に成功したヤツがいたとしてもおかしくはあるまい?』

『推測としては悪くないにゃんね』

 過去に転生者がいたのも事実だ。

 一〇〇〇年前に活動していた魔法絵師のレオナルド・ダ・クマゴロウあたりは名前からしてそうだろうし、北方監視者になった転生者は更に時代をさかのぼる。

『まずはヌーラの大いなる災いの正体を探ってみるのも悪くないか、エクシトマを発見する予行演習になる』

『そう簡単な仕事じゃないはずにゃんよ』

『わかってるが、新しい身体での本格的な調査だ、しかも誰の手も入ってない遺跡の探索だ、全力を上げてやらせもらおう』

『にゃあ、了解にゃん、その代り魔獣が何処に潜んでるかわからないから気をつけるにゃんよ』

『なに、これでもこっちにいる時間はマコトより長いんだ、魔獣の怖さは十分に理解してるつもりだ』

『それならいいにゃん』


 ミマたちはノーラの魔獣の森では無い森林地帯に降り立ってロッジで一休みすることになった。寝ぼけた頭を魔獣にまるかじりされては困るのでしっかり休んで、大いなる災いを発見して欲しい。


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