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ポレックス村の夜にゃん

 ○ポレックス村 ダイナの実家 裏庭 ロッジ


 シャンテルとベリルはソファーに座ってうつらうつらしていた。

「にゃあ、まずは夕ご飯にするにゃん」

 冷たいジュースを出してやる。

「お肉は嫌いじゃないにゃん?」

「お肉好き!」

 ベリルが手を上げた。

「シャンテルはどうにゃん?」

「私も好きです」

 ストレートな妹に比べて、お姉ちゃんはちょっと恥ずかしそうに答えた。

「リーリは?」

「マコトの作るものだったら何だって大好きだよ!」

 リーリは食い気味に声を上げた。

「にゃあ、わかったにゃん、いま焼くにゃん」

 三人にはクロウシを出してやる。

 こっちの世界でもポピュラーなステーキだ。

 オレの焼くステーキには、新型ウルフソルトが掛かってるけどな。それとマダラウシのミルクから作ったバターだ。

「「「美味しい!」」」

 三人は声をハモらせた。

 リーリはナイフとフォークを魔法で操って自分より大きいステーキを食べてる。質量保存の法則はこの世界では息をしていない。

「マコトさん、このお肉は何ですか?」

「これはクロウシにゃん」

「クロウシ、美味しいね」

「うん、何度食べてもマコトの焼いたクロウシは最高だよ」

「にゃあ」

 いつの間に何度も食べられたのか全くわからないけどな。

「とても高いお肉だと聞いたことが有ります」

「そうらしいにゃんね、オレの場合は自分で捕まえたから幾らで売られてるかまではわからないにゃん」

「貴族か大金持ちしか食べられないよ、それと妖精かな」

 リーリ以外の妖精も盗み食いをしてるのだろうか?

「野菜もちゃんと食べるにゃんよ」

 サラダも出してやる。

「野菜も好き!」

 ベリルはいい子だ。

「にゃあ、バランス良く食べるにゃん」

 前世では肉といえば牛丼中心だったオレが何を言うかって感じだが、アラフォーと子供を一緒にはできない。

 食べ終わったら、ふたりは直ぐに眠くなったみたいだ。やはり馬車に一日乗って疲れたのだろう。

 ベッドに運んでやる。

 こういう時にウォッシュの魔法は便利でいいにゃんね。


 オレはリビングに戻って牛丼を作る。

「思い出したら食べたくなったにゃん」

 実際には精霊情報体にある似た料理をアレンジしてるわけだが中々の再現度だ。

 五千年前に滅んだオリエーンス連邦、図書館の記憶石板を遺した時代より一万年前に滅んだオリエーンス神聖帝国、つまり精霊情報体の時代の方が日本ぽいモノがある。

 日本からの転生者が多かったのだろうか?

 証拠も何もないので真相は不明だ。

 この世界の歴史にはあまり興味がないが、過去こっちに来た転生者がどんな人生を送ったのかは気になるところだ。

「にゃあ、牛丼、美味いに~ゃん♪」

 尻尾の先から耳の先端まで幸せが染み渡る。

「あたしも食べたい!」

「にゃあ、リーリはまだ食べられるにゃん?」

「まだまだ行けるよ!」

 力強く宣言する。

 リーリには食べやすい様に皿に盛ってあげた。

 普通の大きさのスプーンがシャベルみたいだったが、それを魔法で操って綺麗に平らげた。


 牛丼の後はふたりそろってお茶を飲む。

 コンコンと入口をノックする音がした。

 ダイナと父さんだ。

「にゃあ、どうしたにゃん?」

「うわ、ウチより立派」

「入口で靴を脱いで入って欲しいにゃん」

 入口のウォッシュが効いてるので靴のままでも問題ないが、日本人として土足で家の中を歩くのは有り得ない。

「ジュースでいいにゃん」

「あっ、いや、お構い無く」

 ソファーに並んで座ったふたりは室内を見回す。

「これってネコちゃんのお家なの?」

「にゃあ、そうにゃんよ」

「魔導具も満載だし」

「このロッジ自体が森の中で使う魔導具にゃん」

「はあ、スゴすぎて何て言っていいかわからないわ」

「ダイナは魔導具に詳しそうにゃんね」

「うん、あたしの旦那は魔導具を修理する職人なの、まだ独立もしてないけどね」

「にゃあ、だったら詳しくて当然にゃんね」

 オレのロッジは刻印じゃなくてエーテル機関で動かしてるから、この国の魔導具とはちょっと違ってるけどな。

「実は、マコトさんにお願いがあって参りました」

 ダイナの父親が急に改まって話し出した。

「村の中に何人か重い病を患ってる者がいまして、マコトさんに診ていただけないかとお願いに上がった次第です」

「ウチの父さんね、こう見えてこの村の村長をしてるの」

「にゃあ、見たままだと思うにゃん」

 いかにも村長さんって感じの貫禄だ。

「どうでしょうか?」

「診るだけなら構わないにゃん、でも、治せるかどうかまでは保証できないにゃん」

「もちろんです、お礼もできる限りのことはさせて頂きます」

「出来ればお金以外で」

 ダイナが付け加える。

「にゃあ、野菜でもちょっと貰えればそれでいいにゃん」

「野菜なら任せて下さい」

 ダイナパパが胸を張る。おお、これは期待できそうだ。

「にゃあ、直ぐに始めるから案内して欲しいにゃん」

「いまからでもよろしいのですか?」

「にゃあ、オレとしてもプリンキピウムに行く予定は変えたくないにゃん、だから今晩中に終わらせたいにゃん」

「そうだよ父さん、ネコちゃんは旅の途中なんだから時間はあまりないんだよ」

「出来ればでいいにゃんよ」

「わかりました、息子のチェルノに先に村を回らせて、わかってるところは私が案内しましょう」


 そんなわけで夜の往診に出ることになったオレは馬に乗って出発した。

 リーリは興味がないらしくロッジで寝てるそうだ。



 ○ポレックス村 村内


 村長に案内されて最初に行ったのは近所の家だ。

 村長の家に比べると小ぢんまりした普通の農家って感じがする。

「開けてくれ、俺だ」

 ダイナパパが入口の扉を乱暴にノックする。

「村長さん、こんな時間にどうしたんですか?」

 年の頃三〇歳ぐらいの男が出て来た。

「治癒魔法の使い手を連れて来た、詳しい話は後だ、とにかく娘を診て頂くぞ」

「治癒魔法ですか? わかりました、とにかく入って下さい!」

「にゃあ、病人はこっちにゃんね?」

「は、はい、そちらですが」

 病人のいる場所は、案内されなくても臭いでわかるのでズカズカ行かせて貰う。

「ひと月前に怪我をしてから悪くなる一方でして」

 寝台に寝かされた娘は、年の頃一二歳ぐらいで酷く衰弱していた。

 弱々しく呼吸してる。

「……誰?」

 娘は薄く目を開けた。

「オレはマコトにゃん、治癒魔法が使えるにゃん」

「あたしを治してくれるの?」

「にゃあ、そうにゃん」

 ダイナと同じく足の怪我が原因の様だが症状はずっと重篤だ。

 片足が壊死を起こしてる。

 でも、治せない症状ではない。

「始めるにゃん」

 直ぐに治療を開始する。

 治癒の青い光が部屋を満たす。

 エーテル器官に魔力を送りつつ身体の時間を戻す。

 たぶん一ヶ月程度の巻き戻しで間に合うはずだ。

 ついでに室内ごとウォッシュして汚れと臭いを消した。

 病原菌は少ないに限る。

「にゃあ、これで治ったはずにゃんよ」

「もう、治ったんですか?」

 父親は半信半疑だ。

「はぁ、はぁ、あれ? 苦しくないし、足も痛くない」

 娘が寝台から身体を起こす。

「本当に治ったのか?」

 父親が恐る恐る聞く。

「うん、治ったんだと思う、足も前より綺麗になってる」

「本当に治ったんだな!?」

 父親は女の子の足を見たり触ったりする。あと数年したらぶん殴られるにゃんね。

「本当だ、本当に治ってる! 魔法使い様、村長ありがとうございます!」

「ありがとうネコちゃん!」

 娘に抱き付かれた。

「悪いところは治ったけど、体力は低下したままなので無理をさせない様にして欲しいにゃん、にゃあ、次に行くにゃん」

「休まなくて大丈夫なんですか?」

「問題ないにゃん」

 直ぐに馬に飛び乗って次の病人の所に行った。


 ダイナの兄貴のチェルノが村の中を走り回ってくれたおかげで、効率よく治療して回ることが出来た。

 全部で七人、このうち五人が子供で、大人ふたりはいずれも過去の病気や怪我の後遺症だった。

 ずっと動けない息子さんの面倒を見ていた年老いたお母さんが、息子が治った途端、驚いて気絶したのにはオレも驚いたにゃん。


 明け方にはロッジに戻って寝た。



 ○帝国暦 二七三〇年〇四月二九日


 ○ポレックス村 ダイナの実家 裏庭 ロッジ


 いつもの時間に起きて朝食を作り始める。ソーセージとパンとサラダにゃん。

「「おはようございます」」

 シャンテルとベリルが起きてきた。

「おはよう!」

 リーリはもう食べてる。

「おはようにゃん、朝ごはんが出来てるから食べるにゃん、オレはちょっと風呂に入って来るにゃん」


 ひとっ風呂浴びて目がシャキっとしたところで出発の準備を開始する。



 ○ポレックス村 ダイナの実家前


 ロッジを仕舞って代わりに馬車を出した。

 シャンテルとベリルを乗せて馬車を裏庭から表に回す。

 リーリはオレの頭の上が定位置になりつつ有る。

「にゃあ、皆んなに挨拶してから行くにゃん」

 御者台を降りて、村長宅の扉をノックする。

「おはようにゃん、オレたちはそろそろ出掛けるにゃん」

「ネコちゃんたち、もう行っちゃうの!?」

 ダイナの義姉タリアさんが出て来た。

「にゃあ、予定通りにゃん」

「ちょっと待ってて、皆んなを呼んでくるから」

 家の中に駆け込んで行った。

 オレは馬車の御者台に戻った。

「もう出発するの? まだちゃんとお礼もしてないのに」

 ダイナが赤ちゃんを抱えて出て来た。

「にゃあ、また州都に来ることもあるから、その時に寄らせて貰うにゃん」

「絶対だよ」

「にゃあ、約束にゃん」

「マコトさん! 野菜を集めるだけ集めたのでお持ち下さい」

 村長が出て来た。

 納屋に白菜っぽい野菜が積んであった。

 八宝菜にしたらおいしそうだ。

 それと市場で買ったことのあるジャガイモ風の芋。

「にゃあ、ありがたく頂戴するにゃん」

 全部格納した。


「ネコちゃん待って、これを持って行きなさい」

 いよいよ出発というところでダイナのお母さんが走ってきた。

「にゃあ、これは何にゃん?」

「お弁当、皆んなで食べてね」

「ありがとうにゃん」

「おばちゃん、ありがとう」

「ありがとうございます」

「ありがとう!」

 シャンテルとベリルそれにリーリもお礼を述べる。

「ネコちゃん、また来るんだよ」

 ばあちゃんも出て来てくれた。

「にゃあ、また顔を出すにゃん」

 オレは馬車を走らせた。



 ○ポレックス村


 街道に出る途中でも村人たちが手を振ってくれる。

 病気や怪我の後遺症の治療はいい経験になった。

 この世界は魔法のせいで医療技術が発展してないのは間違いない。

 魔法は便利過ぎる。

 科学と魔法が融合したのが過去の文明で、現在はまだその域に達してない。

 むしろゆるやかに下降してる。

 この世界に来たばかりの新参者が偉そうなことは言えないけどな。



 ○プリンキピウム街道


「右よし、左よし」

 左右を確認してから街道に戻った。

「やっぱり街道の方が走りやすいにゃん」

 ただの砂利道とはタイヤのグリップ力が違う。自然と速度が出る。

 ボロボロの馬車を幾台か追い抜いて先に進む。州都を離れるほどにポンコツ度合いが上がってる。近所を走るだけの存在なのだろう。

 俺の馬車は魔法車なので、時速一〇〇キロ程度は軽く出せるが、こっちの馬車は時速一〇キロちょっとも出てればいい方なので流石に危なくて昼間は速度を出せない。


 しばらく走るといよいよ人家が少なくなり、木々の密度が濃くなってきた。街道を行く馬車や馬の姿も少しずつ減り、やがてオレたちの馬車だけになる。

 農村と森の境界を越えたのだろう。

 何処かしら懐かしい気持ちになるのは、この世界に落ちて来たのが森だからだろうか?



 ○プリンキピウム街道脇


 街道脇の空き地に馬車を乗り入れて停めた。

「にゃあ、ここでお昼にするにゃん」

「やった!」

 リーリのテンションが上がる。

 荷台に移ってテーブルを出した。

 お茶の間の丸テーブルにクッションでちっちゃなリビングの完成だ。

「ネコちゃん、おしっこに行っていい?」

「にゃあ、トイレなら馬車にあるからちょっと待つにゃん」

 荷台の後方にある床のハッチを開けるとそこに階段が現れた。高速バスみたいなレイアウトだね。

「降りた先にトイレがあるにゃん、使い方はロッジと同じにゃん」

 拡張した空間なのでお風呂も付いてる。ちょっとしたキャンピングカーだ。

「お姉ちゃん、一緒に来て」

「うん」

 ふたりが階段を降りて行った。

 これまでは休憩の度に外にトイレを個室ごと出していたが、ここから先は無闇に馬車から離れないほうがいい。

「にゃあ、獣の気配が濃くなってるにゃん」

「うん、いっぱいいるね」

「リーリもわかるにゃん?」

「わかるよ、あっちとこっちにオオカミがいる」

 リーリの指差した先にオオカミの群れがいた。

 二つの群れがこちらの様子を伺ってる。

 まだ昼間から獣が大きな顔をして歩き回る地域には達してないのに。

 道端に停まっているから自走不能と思われたのかも、しかもこちらは子供だけだ。

「こっちに狙いを付けたみたいにゃん」

 オオカミの群れは扇状に拡がってヤブの中に身を潜め少しずつ距離を詰めて来る。

 共同戦線と言うよりは先を争ってって感じか。

 子供ばかりのオレたちを完全に舐めて掛かってる。隠れ方が雑だし、唸り声を漏らしていた。

 群れのボスたちは、もうちょっと慎重になるべきだったな。

 全部で十二頭か。

「にゃあ、舐めた真似は許さないにゃん」

 オレは銃を取り出し連射する。

 二つの群れのボス以外を一瞬で倒した。

「おお、やるね」

「にゃあ、次はボスと勝負にゃん」

 ボスたちはクルッと反転すると素知らぬ顔で離脱しようとした。

「にゃあ」

 もちろん一撃で倒して二つの群れをまるごと回収した。


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