王宮最深部にゃん
○王都タリス 城壁内 タリス城 最深部
最深部にもちゃんとモノレールで行けるのが偉い。セキュリティチェックはあるけどオレたちの場合は顔パスだ。
ハリエットには悪いけど王宮の復旧にはオレたちの使いやすさを最優先にしている。
それに防御結界も次なるスズガ・ケイジが現れても半自動的に撃退されるぐらいにはしたい。王宮の本来のスペックからすれば十分にイケるはずだ。
ミマのいる場所はモノレールの駅からかなりの距離がある。
「にゃあ、本当に王宮の最深部みたいにゃんね」
王宮の最深部は円形の迷宮になっている。これもまた今回の修復で出てきたシロモノだ。なんたってモノレールに乗らないと行けないのだから。
『ニャア』
猫耳ジープが迷宮を進む。迷宮と言ってもモンスターが出たり罠が有ったりはしない、ただの迷路だが半径五〇〇メートルほどある。なかなかの大きさで探査魔法を使ってもミマのいる迷宮の中央には一五分ほど掛かった。
「こっちだ」
ミマが片手を挙げる。
「にゃあ」
迷宮の中央はちょっとした円形の広間になっていた。その真ん中に直径三メートルほどの柱が立っている。
青白く光るそのぶっとい円柱がミマの見つけた面白いものだろうか?
ジープを降りたオレに続いてチビたちがゾロゾロ降りる。護衛はどこまでも付いて来るそうだ。
妖精たちと天使様はいま朝食のビュッフェ会場に張り付いている。
「かなり高度な刻印が刻んであるにゃんね」
大理石のような石材の中に刻印が沈んでいる。
「この中に人柱が埋め込んである」
「にゃ? そんなものがこっちにもあったにゃん、しかも柱の中に人柱って、そのままにゃんね
「うん、日本の昔話に出てくる生贄とは違ってるけどね」
「にゃあ、どうやら刻印の一部に組み込まれてるにゃん」
そう言ったのはミマと一緒に調査していた元セザール・マクアルパインの猫耳セリだ。
「にゃお、禁呪にゃん?」
「それとは違う感じだ」
柱を覗き込むミマ。
「どう違うにゃん?」
オレも柱を覗き込む。魔法式は柱の中心に向かって渦を巻いてる。その中心に確かに人がいた。
「術者本人が入ってるみたいだ、だから禁呪じゃないんじゃないか?」
「その辺りの定義は良くわからないにゃん」
「人様に迷惑を掛けるのが禁呪だ、だから今回は違う」
「人柱は主に絶対防御の結界に繋がってるみたいにゃん」
セリは刻印の魔法式の流れを追っていた。
「絶対防御の刻印は完成までに百年を要したと聞くから、刻印師が自ら人柱となって刻印を打ち続けていたのかもしれない」
「にゃお、そうだとするとレークトゥスの初代領主ってことになるにゃんね、チャドのご先祖にゃん」
「初代ピサロ伯爵か、しかし領主が人柱というのもどうなんだ?」
「オレに訊かれても知らないにゃん。でもあそこのロマーヌの気質を考えるとやらかしてもおかしくはないにゃん」
「ああ、ロマーヌ・ピサロな」
「いい研究者にゃん」
ミマとセリが頷く。ロマーヌは魔法大学の准教授だから、エドモンドとセザールの同僚ということになる。
「「「おんなのひと」」」
チビたちが柱を覗き込んでいた。
「女の人にゃん?」
「「「はだかのおんなのひと!」」」
「精霊魔法の方がよく見えるらしいな」
ミマも柱に向かって目を細める。
「にゃあ、人柱が女ってことはチャドのところの初代様じゃないにゃん?」
「たしか初代ピサロ伯爵は王女を娶ったはずにゃん」
セリはその辺りの歴史を知っていた。
「すると人柱は誰にゃん?」
「絶対防御結界を打った人間だろう、初代ピサロ伯爵の関係者じゃないのか?」
「問題はそこにゃん」
「チャドのところの初代様は手柄を横取りしたにゃんね」
「せこいのは初代からにゃん」
オレとセリはそう決めつけた。
「普段の行いからするとそうかもしれないが、本人に聞いてから糾弾したら?」
「ミマのくせに意外と常識的にゃん」
「にゃあ、そうにゃんね」
「私は生まれ変わったからな、いつまでも馬鹿な第二王子ではない」
「「にゃ!?」」
「何か文句があるのか?」
「別に無いにゃん」
真面目なミマは面白みに欠けるにゃん。
「「「きくのむり」」」
柱を見ているチビたちが声を上げる。
「にゃあ、そうにゃんね、人の形と言っても残ってるのはシルエットだけにゃん、柱に魂以外のほとんどが融合してるにゃん」
「確かにこれでは会話は無理にゃん」
セリも柱に向かって目を凝らした。
「ギーゼルベルトみたいに念話でも送ってくれれば意思疎通が出来るのに残念にゃん」
「ギーゼルベルト?」
「にゃあ、ギーゼルベルト・オーレンドルフは転移実験に失敗してオパルスとプリンキピウムの間にある岩に融合してしまったフィーニエンスの宮廷魔導師にゃん」
「フィーニエンスの宮廷魔導師!?」
「そうにゃん、偶然発見したオレたちが岩から魂を猫耳ゴーレムの身体に移したにゃん、いまは研究拠点でブイブイ言ってるにゃん」
いまのオレたちならば猫耳に換えることも出来るのだが本人が猫耳ゴーレムの身体を気に入っているのでそのままだ。
「へえ、マコトの魔法もスゴいな、それにフィーニエンスの宮廷魔導師というのもスゴい」
「にゃあ、ギーゼルベルトの話は面白いにゃんよ」
「私も会ってみたいものだ」
「直ぐに会えるにゃん」
「そうだな、マコトの拠点なら距離は有ってないようなものか、それで人柱はどうする?」
「にゃあ、絶対防御結界に改造を加えたいからここで頑張られると困るにゃん」
「ギーゼルベルトみたいに外に出すことは可能か?」
「出来ないことはないにゃん」
「にゃあ、ウチも柱から引っ張り出すのがいいと思うにゃん」
「「「さんせい!」」」
チビたちもセリの意見に賛成らしい。
「それがいちばん平和的な解決法にゃんね」
「ロマーヌ・ピサロの縁者ならお館様の支配下に置ける猫耳にしたほうが安全だと思うにゃん」
「確かにロマーヌみたいのが出て来るかもしれないとなると、そのまま世に放つのは危険にゃんね」
「ひどい言いようだが、納得してしまう」
ミマも頷く。
「「「ねこみみにさんせい!」」」
全会一致で人柱は猫耳化することが決まった。
「一応、本人に聞いてみるにゃん」
「出来るのか?」
「にゃあ、精霊魔法を使えばコンタクトできると思うにゃん、言葉じゃなくて魔法式でのやり取りになるにゃん」
「私には理解不能な領域だ」
ミマは早々に理解を放棄する。興味がないだけだ。
「にゃあ、そんなに難しいことはないにゃんよ、質問の魔法式を刻印の魔法式に割り込ませるだけにゃん」
「割り込みの制御は精霊魔法の得意とするところにゃん」
「「「とくい!」」」
「なるほどな」
頷いてるが絶対にテキトーだ。
「実際にはすり抜けてるにゃん、にゃあ、返事が来たにゃん」
返事も言葉ではなく魔法式だ。
「なんて言ってる?」
「柱から出るのを渋ってるにゃん」
「だったら餌を用意すればいいんじゃないか?」
「餌にゃん?」
「にゃあ、お館様、ロマーヌ・ピサロの縁者なら精霊情報体をちょっと見せれば釣れるにゃん」
「やってみるにゃん」
セリが言ったとおり精霊情報体をほんの少し見せた。返事はすぐに来た。
「釣れたにゃん」
「早っ!」
「にゃあ、そんなものにゃん」
本人が同意したので人柱を引っこ抜く作業に入る、抜けた跡には代わりに人型魔獣から回収した聖魔石を加工して突っ込めばいいか。
「にゃあ、始めるにゃん」
善は急げだ。人柱の娘が本当に絶対防御結界を作ったというなら、是非その話を聞いてみたい。
「お館様、バックアップは任せるにゃん」
「「「じゅんびOK!」」」
チビたちも一緒に円柱を囲む。
「始めてくれ」
ミマは何もしないが偉そうだ。
聖魔法の青い光で迷宮のホールを満たす。円柱の光が増した。
人柱のシルエットが見える。
こうしてみるとピサロ家の長女パメラよりは少し大きく次女のロマーヌよりは小さいから猫耳たちぐらいか。
「にゃあ、融合した円柱から肉体と魂の分離を開始するにゃん」
シルエットにオレが流し込んだ魔法式を絡めた。
「確保にゃん」
チビたちとセリのバックアップでオレは魔法式のコントロールに集中する。
当然、魂には猫耳に相応しい制約を与えた。
大きな力を渡し仲間にするのだから好き勝手は困る。オレだっていまは猫耳たちに説教されるので前ほど好き勝手は出来ない。今朝もケラスの旧州都アウルムに単独で突っ込むつもりだったが計画の時点で説教された。
冒険に危険は付き物にゃんなんて言い訳は猫耳たちには通用しない。強制的に大規模な作戦が立案されてしまった。
余計なことを考えつつも元人柱を引っ張り出す。
ニュルッと光に包まれたシルエットが柱から出た。床に手を付いた状態だがまあ大丈夫だろう。
「成功にゃん」
光が収まって裸の猫耳がひとり現れた。
「にゃあ、ここは何処にゃん?」
周囲をキョロキョロ見回す。
「ここは、おまえが入っていた柱の前にゃん」
「にゃお、こんなに明るくて綺麗な場所じゃ無かったにゃんよ、それに死霊がうようよいたはずにゃん」
「そんなのは聖魔法で一発にゃん」
「にゃあ」
驚きの声を上げる元人柱の猫耳。
「名前を教えて欲しいにゃん」
「ウチの名前にゃん?」
「そうにゃん、それと服を着るにゃん」
猫耳の戦闘服を一式出してやる。
「にゃ、裸だったにゃん、これは失礼したにゃん、ウチはラウラ・ピサロにゃん」
自己紹介をしながらパンツを穿く。
「やっぱりピサロ家の人間だったにゃんね」
「にゃあ、そうにゃん、ウチの弟が領地を貰ったあたりまでは知ってるにゃん、その後は良くわからないにゃん」
「三〇〇年ちゃんと続いてるにゃん」
「にゃあ、引っ込み思案だった弟のレアンドロが上手く領地を経営できたにゃんね、それは何よりにゃん」
後年レークトゥスはセコい人間の代名詞になったが、それは初代様のせいではないと思いたい。
「名前はそのままラウラでいいにゃんね」
「了解にゃん」
「ラウラは、オレのことはわかるにゃん?」
「お館様にゃん、ウチの結界に悪さしたヤツを倒してくれた恩人にゃん、それにたくさんの知識も下げ渡してくれたにゃん」
「にゃあ、悪さと言えば二〇〇年前にもずいぶんと結界をイジられたみたいにゃんね」
「そうにゃん、おかげで今回の騒動でもポテンシャルの半分も発揮できずに危なく王宮を壊されるところだったにゃん」
憮然とするラウラ。
「おかげでラウラを見付けられたのは不幸中の幸いにゃん」
「にゃあ、ウチもお館様たちに王宮を修復してくれなかったらマジで危なかったにゃん、魔力が尽きて天に還るところだったにゃん」
「ラウラはフィーニエンスの宮廷刻印師だったのか?」
早速ミマが質問する。
「ウチの父上がそうだったにゃん、その後を弟が継ぐはずだったにゃん、でも叔父が邪魔をしたにゃん、父上を殺した後、ウチらを亡き者にしようとしたにゃん」
「それで弟を連れてアナトリに逃げたと?」
「にゃあ、叔父の手の者に追われてそれ以外の道は無かったにゃん」
「伝統的に血で血を洗うお家騒動を繰り返してるのは本当だったか」
「お恥ずかしながら本当にゃん」
三〇〇年前の話なのでいまはどうなってることやら。
オレたちは、新たにフィーニエンスの宮廷刻印師の技術を持つ猫耳を仲間に加えた。
○王都タリス 城壁内 タリス城 発着場
午後イチでオレはチビたちを連れて王宮を出発する。行き先はケラスの旧州都アウルムだ。
ミマとセリとラウラはトンネル経由で既に出発している。ミマとセリはアウルムでラウラには研究拠点に向かって貰った。
「マコト、今回も世話になった」
王宮の大きなテラスでこの国の女王となったハリエットが礼を述べる。
「マコトがいなかったらこの国は滅んでいたのである」
アーヴィン様はオレの頭を撫でる。
「親父殿、いくらなんでも公爵様の頭を撫でるのはマズいんじゃないか?」
ドゥーガルド副司令がハラハラしている。
「にゃあ、前のままでいいにゃん」
その前にアーヴィン様も公爵に対しての礼を取ろうとしたので勘弁して貰った。敬語も不要だ。
アーヴィン様は、面倒事も持ち込んでくれたがいろいろ世話になった恩人だ。変な貴族に絡まれなかったのはアーヴィン様とカズキのおかげだし。
「ハリエット様は、これからが大変にゃんね」
「ああ、わかってる、それでもマコトのおかげで民を飢えさせずに済むのは幸いだ」
貴族派のヤバいところはオレの領地になったので餓死者を出すようなことはない。
領民のいる領地経営に関しては、猫耳たちの意見を取り入れつつ進める予定だ。領民がいないところは好き勝手にやるけどな。
「マコト様、私からもお礼を言わせて下さい、ありがとうございました」
マリオンが頭を下げた。
「にゃあ、これからはマリオンが宮廷魔導師の主席になるにゃんね」
責任から逃げ回っていたが、ここに来て観念した様だ。
「はい、マコト様や大公国の皆さんを見習って王国の復旧に全力を上げます」
「にゃあ、そうにゃんね、魔法は有効に使って欲しいにゃん」
インフラの整備こそ魔法の使い所だ。
「期待に添えるよう努力いたします」
マリオンが宮廷魔導師を率いてくれるなら大丈夫だろう。
「「マコト!」」
キャリーとベルが見送りに駆け付けてくれた。
「「「マコト様!」」」
小隊の娘たちも一緒だ。
「にゃあ!」
キャリーとベルに順番に抱き着いた。
「せっかく王都に来てくれたのにまた行っちゃうんだね」
「マコトは六歳なのに忙しすぎなのです」
「「「にゃあ」」」
そこは猫耳たちも同意する。
「にゃあ、オレは忙しくしているつもりはないにゃん、そこに冒険があるから行くだけにゃん」
決まったにゃん。
「そうだね、マコトは偉いね」
「偉いのです」
「「「にゃあ♪」」」
皆んなに頭を撫でまくられた。
「にゃあ、また来るにゃん!」
たくさんの人に見送られながら、王宮の元は何か空を飛ぶモノの発着場と思われるベランダからドラゴンゴーレムで離陸する。
今後はここを正式に発着場と定めて貰った。
「キャリーとベルも連れて来れば良かったのにね」
「そうなの、遠慮は不要なの」
リーリとミンクに天使アルマは飛び立つ瞬間にオレのドラゴンゴーレムに飛び乗った。「別に遠慮はしてないにゃんよ、ふたりが希望するなら連れて来るにゃん、でもいまはそうじゃないにゃん」
「猫耳にすればいいのではないか?」
手を振るキャリーとベルを見てとんでもないことを言う天使様。
「にゃあ、何処も問題のない人間を猫耳には出来ないにゃん、それに猫耳だと友だちではいられなくなるにゃん」
「人間はいろいろあるのだな」
「にゃあ、天使様のところは揉め事とかないにゃん?」
「揉めるもなにも仲間とは一〇〇年以上顔を合わせてないから揉めようもない」
「オレたちとはスケールが違うにゃん」
○王都タリス 上空
王宮上空を旋回してからオレとチビと猫耳たちが操るドラゴンゴーレムはまずはレークトゥス州に向けて速度を上げた。
本日のフライトはレークトゥス州上空を通りアポリト州に抜けケラス州に入るコースを取る予定だ。
○レークトゥス州 アルボラ街道 上空
王都を抜けレークトゥス州の境界門上空を通過する。いま上空を飛んでいるアポリト州に抜けるアルボラ街道はかろうじて無事だが、もっと西側は魔獣に街も何も踏み潰されて酷いことになっている。
州都をやられたタンピス州とは違ってはスマクラグは残ったが、被害を大きくしたのは領主一族が原因だった為、今後責任を問われるだろう。
自分のところの不始末は、自分たちでどうにかして貰うしかない。
眼下の街道は多くの人が行き来していた。
これだけ人がいるなら復興もなんとかなるんじゃないか。たくましいレークトゥスの人々なら転んでもただでは起きないだろうし。
起きないと言えばチビたちはそれぞれのドラゴンゴーレムの背中で眠っていた。将来、大物になること間違いなしだ。
レークトゥスの街道を南下して境界門上空を抜けてアポリト州に入った。
○アポリト州 アルボラ街道 上空
アポリト州の大地にはもうグールもオーガも存在しない。境界門を封鎖してるので猫耳以外の人間もいない。
隣接する大公国やレークトゥス州それにケラス州とアルボラ州と接続する街道の整備は既に終わってる。
まだ混乱が続いてるレークトゥス以外の境界門は近々開かれる予定だ。それに州外に逃れていた人たちの帰還の要望があるので許可するつもりだ。
真新しい街道の上空を飛ぶ。目的地には夕方までに到着すればいいのでショートカットせず街道の上空を行く。
オレもちょっと眠くなってきた。
「マコト、ドーナツ食べたい」
「ミンクもなの」
「ドーナツか、興味深い」
天使アルマも食べたいらしい。それぞれにドーナツを渡す。
「うーん美味しい、やっぱりマコトのくれるドーナツは一味違うね」
「そうなの、これなの」
妖精ふたりがオレの頭に砂糖の雪を降らせる。
「これがドーナツか、うん、気に入ったぞ」
「にゃあ、それは何よりにゃん」
後ろに続く猫耳たちや、まだ寝ぼけてるチビたちにもドーナツを振る舞った。
○アポリト州 東方街道 上空
ドラゴンゴーレムは、アルボラ街道からケラスのアルカ街道に接続する東方街道に入る。
以前は魔法馬がなんとか通れるぐらいの名もなき獣道だったが、いまは太古の道規格で暫定的に名前が付けられた。
仕様が太古の道なので、間違って魔獣が入り込もうものなら干からびるほどマナが抜かれるにゃん。
この調子なら予定どおり日が沈む前にアウルムの拠点に入れそうだ。




