戴冠の儀にゃん
○王都タリス 城壁内 タリス城 入口
「マコト!」
「にゃあ、お疲れにゃん」
オレは本来の王宮の入口であるスロープの前でハリエット一行を出迎えた。
ハリエットは直ぐにジープを降りてオレに駆け寄った。今度はタックルされても大丈夫にゃん。
「王宮は、もうこんなに改修が進んでいたのか?」
ハリエットは王宮を見上げた。煤で汚れた外壁もウォッシュされて綺麗になってるし崩れた塔も修復は完了している。
「にゃあ、魔力がたっぷりあるから簡単に修復できるにゃん、それでもすべての刻印の修復にはそれなりに時間が掛かる予定にゃんよ」
「王宮の絶対防御の刻印は完成まで百年を費やしたそうだ、それなりに時間が掛かるのは当然だろう」
「その代わり本来の絶対防御結界に近い状態に戻せるはずにゃん」
「そうか、王宮の改修など普通にやったら国が傾く、マコトたちの力を借りられたのは幸いだ」
既に為政者の顔だ。
「にゃあ、ついでに後から付け加えられた無駄な魔導具は省いて本来の状態をベースに作り直すにゃん」
「わかった、マコトに任せる」
「にゃあ、任されたにゃん」
王宮はオレのじゃないからエーテル機関の埋め込みまではやらないが、かつて動いていた魔力変換の刻印の復活と強化を行う予定だ。
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内 モノレール
「にゃあ、こっちにゃん」
オレの案内で王宮内を走るモノレールに乗り換える。一両編成の箱型で大きさは小さめの路線バスといったところだ。それが何両も並んでいる。
この時代には合わないオーパーツみたいな代物だが、オレのところの猫耳ジープに比べれば可愛いモノか。
「マコトこの乗り物はいったい何だ?」
ハリエットは興味津々だ。
「にゃあ、これはモノレールという乗り物にゃん、かつてこれが王宮内を走り回っていたにゃんね、修復したら出て来たにゃん」
モノレールを走らせる魔力が途切れたまま時が過ぎて、城の支配者にも忘れ去られてしまった存在だ。
「こんなものが有ったとは驚きである」
アーヴィン様も落ち着き無くキョロキョロする。
「王宮にはそこそこの大きさの街がまるまる一つ収まっていたにゃん、歩いて移動するのは無理があるにゃん」
まずはこれで王宮の奥まった場所にある王室の居住区に行く。
停車駅にはちゃんとホームがあって転落防止用の柵もある。
「ここに出るのか、確かに早い」
王室の居住区はロイヤルファミリーのプライベートな空間だ。今後はハリエットの生活の場となる場所でもある。
「にゃあ、今後はもっと便利になるにゃん」
「通路も以前と比較にならないぐらい明るい」
「前が暗すぎたにゃんね」
複雑怪奇な魔法式で刻印の打ち直しも出来ずにいた照明の魔導具を復活させたおかげで眩しいぐらい王宮内は明るくなっている。
「すでに十分な気がするが、刻印以外にもまだ修復する箇所が残っているのか?」
「にゃあ、いろいろあるにゃん、装飾は手付かずにゃん」
「それは後回しで構わない」
「見苦しくない程度の修復は済んでるにゃん」
「助かる」
オレたちが話してる横でハリエットのお付の使用人たちは直ぐに行動を開始した。まずはハリエットの寝室や執務室を用意する。
王宮の使用人たちはいまバラバラの状態なので、それをまた新たに組織化しなくてはならない。
その辺りは元法衣貴族の猫耳たちが詳しい。
「マコト、伯父上はどうされている?」
「にゃあ、いまはご家族と一緒に来賓用の客室にいるにゃん」
ここよりもっと外側のエリアだ。
「無事なら何よりだ」
実際にはエーテル器官をイジられてあまり無事では無かったが、余計なことは言わないでおく。
「にゃあ、元国王陛下はオレとハリエット様との面会を希望されてるにゃん」
「私もお会いしたい」
「いいにゃん?」
「問題ない」
「わかったにゃん、時間を調整するにゃん」
「ハリエット様、吾輩も同席させてはいただけませんか?」
アーヴィン様も面会に付いて来るつもりらしい。
「いいだろう許可する、それとアーヴィン殿には滅亡一歩手前に追い込まれた王国の立て直しに引き続き手を貸して欲しい」
「かしこまりました」
逃げ回るかと思ったが、しっかり受けた。
「しかし、宰相はご勘弁下さい、吾輩は書類に向かうと死んでしまいます故」
キャサリンとエラが頷く。
確かにそんな感じがしないでもない。
「わかった、だがこれまで以上に働いて貰うぞ」
「老骨にムチを打ちましてお仕え致します」
この状況を作り出したひとりなのだから責任の一端は担って貰わないと困るにゃん。
「にゃあ、暫くはウチの猫耳たちが手を貸すにゃん、信用に足る人材が出てきたらヤラせればいいにゃん」
「そうだな」
ハリエットも頷いた。
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内 来賓用 客室
先々代の国王コンスタンティン二世との面会は、日没後に行われた。
元ロイヤルファミリーは王室の居住区から来賓用の客室に移されている。かつて革命権が頻繁に使用された七~八〇〇年前は、王とその家族は着の身着のままで王宮を追われ、数日後に全員が遺体となって発見されるのが常だったらしい。
生かしておくと禍根を残す上に革命権保持者を野に放つことになるため、命を奪うのが定石だったそうだ。
今回はそこまで血なまぐさい話にはならないだろうし、ハリエットも望んでいない。
「私は伯父上になんと言葉を掛ければいいのだろう?」
ハリエットが客室の扉の前で立ち止まった。
「にゃあ、慰めも謝罪も不要にゃん」
「そうなのか?」
「まずは元国王陛下の考えを知ることが先決にゃん」
「理性を取り戻されたなら、陛下は理不尽なことは仰らないでしょう、その点は吾輩が保証するのでご安心いただきたい」
「わかった」
アーヴィン様の言葉に頷くハリエット。
護衛役の騎士が扉を開いた。
「おお、ハリエット、無事であったか」
元国王コンスタンティン二世はソファーから立ち上がってハリエットを出迎えた。
聞いていたよりも状態は良さそうだ。
元ロイヤルファミリーも揃っている。いないのは第二王妃のアイリーンと第一王女のフレデリカ、それに死んだことになってるエドモンドぐらいか。
「はい、何とか生還できました、伯父上もご無事なようで何よりです」
「すまぬハリエット、我の不甲斐なさから要らぬ苦労を掛けた」
頭を下げる元国王。
ハリエットとアーヴィン様がアイコンタクトする。
「陛下、どうか顔をお上げ下さい、この度の事態は誰にも防げぬこと、皆が等しく被害者なのです」
アーヴィン様が声を掛けた。
「アーヴィン」
「陛下、ご家族とともに我が領にお越し下さい」
アーヴィン様が元ロイヤルファミリーを引き取るようだ。オレでも良かったのだが革命の当事者では要らぬ噂が立つか。
「アーヴィンの気持には感謝する。だが、我らは過去の例にならいケントルムに向かうつもりだ」
「ケントルム王国でありますか?」
「伯父上、そこまでなさらなくても私は皆さんを害することはありません」
ハリエットも意見する。
「わかっている、我もハリエットのことは信用している、だがその先のことはわかるまい、コリンが要らぬ野望を抱かぬ保証もない」
元国王は自分の孫を見た。
王室の人間は外国に亡命すれば王位継承権を喪失する。
距離のことも考えればアーヴィン様の領地ニービス州よりも格段に安全だ。
「伯父上その時はその時です、臣民が革命を支持するならそれは仕方のないこと」
「ハリエット」
「無論、そのような事態を引き起こすつもりはありませんが」
「それで良い」
「では陛下、改めてご家族と共に我が領にお出で下さい、いずれケントルムに向かわれるにしろ、旅に慣れなくてはなりません」
「旅に慣れるとは?」
「ケントルム王国の王都フリソスまでは早くても半年は掛かる行程、旅慣れた商人でさえ簡単にはいかぬ道ゆえ、それに耐えられる身体を作る必要があるのです」
「旅の過酷さはアイリーンからも聞いておるが、やはり直ぐに出立するは無理か?」
「無謀にございます」
「わかった、世話になる、現実を我に教えてくれぬか」
「かしこまりました」
元国王はアーヴィン様の招待を受け入れた。
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内
『そうか、父上たちはアーヴィン殿の領地に行かれるのか』
徐行する猫耳ジープで王宮内を調査中のミマはオレとの念話で前国王の処遇を聞いた。
『そう決まったにゃん、明日の戴冠の儀が終わったら第一騎士団に護衛されて出発するにゃん』
『第一騎士団、最後のご奉公だな』
『そうにゃんね』
各騎士団と近衛軍は解体され王国軍に編入される。今回の革命で何の役にも立たなかった騎士団と敵に回り王国を危うくさせた近衛軍に弁解の余地はない。
『にゃあ、調査の進捗具合はどうにゃん?』
『いまは隔離区画を調査してるが、復元後の姿を見る限りオリエーンス連邦中期の遺跡と見て間違いあるまい、かなり長い間使われていたようだ』
ミマは空が映し出された廊下の天井を見る。これは紛れもなくオリエーンス連邦中期のシロモノだ。
『何か面白いモノが見つかったら教えるにゃん』
『わかった』
マコトとの念話を終えたミマは壁に描かれた動く壁画を眺める。森を動物たちが動き回ってる。
「これほどのモノを目にする日が来ようとは」
「にゃあ、全部お館様のおかげにゃん、こうも簡単に復元してしまうとは奇跡の御業にゃん」
猫耳ジープのハンドルを握っているのは元セザール・マクアルパインの猫耳セリだ。
「いまならセリにも再現できるのだろう?」
「お館様と知識を共有してるから出来るにゃん、何年も大学の研究室に籠もっても解けなかった謎も一瞬で氷解したにゃん」
「マコトが精霊情報体と呼ぶオリエーンス神聖帝国時代の知識のフルセットも得たのだろう?」
「にゃあ、オリエーンス神聖帝国の実在とその叡智を得た時は、死んでもいいと思ったにゃん」
「実際に一度死んでるけどな」
「にゃあ、生まれ変わった価値があるというものにゃん」
「実に羨ましい、私には精霊情報体のほんの一部しか触れられないというのに」
「転生者も人間である以上、精霊情報体をすべて取り込むのは無理にゃん、頭がパンクするにゃん」
「私も猫耳に変えてくれれば良かったのに」
「にゃあ、転生者はお館様の言い付けを守らない可能性があるにゃん」
「まあ、そうだな」
自分の中の知識欲の衝動はどうしても抑えられない。その自覚はあった。
「ウチらからすると偉大なお館様の言い付けを守れない方がどうかしてるにゃん」
「マコトは偉大か」
「そうにゃん」
ミマは、マコトの偉大さを猫耳たちからいくら聞かされても小さな女の子の姿ではピンと来なかった。
かつてのマコトもただの中学と高校での同級生で、偉大さとは無縁な存在だったし。家が近いということがあって、他のクラスメートよりは親しかったとは思うがそれだけで終わってしまった。
高校を卒業してからは一度も顔を合わせることなくミマは事故で命を落として現在に至る。
「まさかこんな形で再会するなんてね」
思わず笑ってしまう。
「にゃあ、殿下も頼むにゃんよ」
「わかってるよ、それから教授、私のことは殿下と呼ばないでくれ」
「ウチのことも教授って言ったらダメにゃんよ」
「ああ、わかってる」
ミマとセリはまた調査に戻った。
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内 モノレール
オレはモノレールで王宮内を移動する。
「にゃあ、これはこれで便利にゃんね」
モノレールを魔法蟻のトンネルで使ったら面白そうだ。
「そうだね」
「面白いの」
「人間は移動に時間を掛けるのだな」
妖精と天使様はさっきまで王宮の厨房で猫耳たちが焼いた牛の丸焼きに舌鼓を打っていた。
「にゃあ、それが人間にゃん」
「なるほど」
ソフトクリームを舐めながら頷く天使アルマ。西方監視者は地上ライフを満喫しているようだった。
「ソフトクリームは美味しいにゃん?」
「これはいいモノだ」
「にゃあ、リーリが研究を重ねた傑作にゃん」
「まあね」
リーリがオレの頭の上で胸を張る。
「にゃあ、チビたちはどうにゃん?」
「「「おいしい!」」」
チビたちもソフトクリームを舐めてる。オレの警護をしてくれてるので後をぞろぞろ付いて来ていた。
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内 アマノ公爵家 専用区画
チビたちも引き連れて王宮内に勝手に作った風呂に入ってから、これまた勝手に作った寝室に入って四畳半は有りそうな大きなベッドに全員が転がる。
リーリとミンクはオレのTシャツの中に潜り込み天使アルマはオレを抱きまくらにした。チビたちはそれを囲んでる。
「「「……すぅ」」」
チビたちは直ぐに眠ってしまう。
今日一日でいろいろ有りすぎたから当然だ。妖精たちと天使様も眠る。
本当に眠っているのかは不明だが。
オレはまだ眠るのが惜しくて考え事をする。
王宮の新人事とかには興味がないので、別のもっと面白いことを考える。人事はその手の事情に精通した猫耳たちに丸投げしてあるので門外漢のオレが口を挟むこともない。
いま面白そうなことと言えばさっき乗ったモノレールだ。
あれを魔法蟻のトンネルに導入できるなら速度では劣るが、格納空間経由で運べないものを大量に輸送できる。
例えばその筆頭が人間だ。生きてる人間は格納空間には入らない。獣も生きている状態では無理だ。
目立つことなくウシなど生きたままの大量移動が可能になる。難民の輸送もできるが、そういう事態はもう勘弁して欲しいにゃん。
『にゃあ、そういうわけでオレとしてはモノレールを魔法蟻のトンネルにも導入したいにゃん、おまえらはどうにゃん?』
念話で猫耳たちに問いかける。
『『『にゃあ、賛成にゃん!』』』
すぐに猫耳たちの賛同を得た。
『まずはモノレールの規格から決めるにゃん』
研究拠点もやる気だ。
『にゃあ、スゴいのを頼むゃん』
『『『にゃあ!』』』
オレたちは念話で明け方までモノレールで盛り上がった。
○帝国暦 二七三〇年一〇月二二日
○王都タリス 城壁内 タリス城 玉座の間
一晩でそこそこ修復の進んだ謁見の間でハリエットの戴冠の儀が行われる。本来ならば地方領主もすべて呼ぶのだが、今回は通信の魔導具を使っての実況のみだ。
法衣貴族は数を激減させていた。代わりに王国軍の士官たちとオレのところの猫耳が謁見の間を埋めている。
「これより新国王ハリエット女王陛下の戴冠の儀を始める!」
進行役はドゥーガルド・オルホフ王国軍副司令。王国軍の儀仗服もなかなかどうして金ピカだった。
ハリエットに王冠を被せる役は元国王のコンスタンティン二世が務める。
生演奏は猫耳たちだ。儀式にBGMが入るのは初めてらしく貴族たちは驚きの表情を浮かべていた。
「ハリエット陛下、ご入場!」
やはり王国軍の儀仗服に身を包んだハリエットが姿を現した。
軍の儀仗服はこれから王宮を王国軍式に作り変えるという言葉なき宣言である。
ハリエットの前後を特務中隊のメンバーが固める。正確にはキャリーとベルの小隊が護衛の任務を行っていた。
ふたりとも凛々しいにゃん。
儀式は粛々と進む。
そして王冠を被ったハリエットが玉座に座った。
これで儀式は完了だ。
「「「おおお」」」
下士官の儀仗服姿のチビたちが声を漏らす。所属は王国軍ではなくケラス諸侯軍だ。
王国軍の新軍もケラス諸侯軍に看板を付け替えていた。
ケラスの諸侯軍だが活動範囲はオレの領地全てと王都をカバーすることになっている。
ついでに大公国のネコミミマコトの宅配便とも連携を取ることになっていた。近い将来ほぼほぼ一つの組織と言っても差し支えない形になる予定だ。
ハリエットが立ち上がる。
「この度の功績に応えて、マコトにグランキエ州を下げ渡し、領主が不在となったペリウスィア州、プルトス州、ヘレディウム州を与える」
それは聞いてないにゃんよ。
「ありがたく頂戴するにゃん」
ここで要らないとか余計なこと言うわけにもいかず頭を下げる。
そして拍手喝采となった。
戴冠の儀が終了し、ハリエットが退出したところで猫耳たちが集まって来た。
「にゃあ、お館様の領地がまた増えたにゃん」
「「「めでたいにゃん」」」
「にゃあ、いなくなった領主って王宮内で粛清された貴族にゃんね」
「そうにゃん、領地に一度も足を踏み入れたことのない領主にゃん」
「そうにゃん?」
「貴族派の領主には王都在住が珍しくないにゃん」
「リウスィア州、プルトス州、ヘレディウム州はフェルティリータ連合の北側にあるこの前の魔獣の大発生で通り道になった領地にゃんね」
「ヘレディウム州なんか魔獣の森があるにゃん」
「ケラスみたいなものにゃん?」
「それでもケラスよりは人口が多いにゃん」
「泣けるにゃん」
「まずはその三つは領内の魔獣の殲滅と領民の保護にゃんね、フェルティリータ州にいるエマに指揮を任せるにゃん」
『にゃあ、了解したにゃん、ヘレディウム州の魔獣の森は解放でいいにゃん?』
宰相だったニエマイア・マクアルパインの猫耳エマから念話が返って来る。
「それでいいにゃん」
『かなりの数が森から出てるはずだから解放はそう難しくないにゃん』
「にゃあ、でも移動しない系のヤバいのがいるかも知れないから注意するにゃんよ」
『了解にゃん、まずはオートマタ三〇〇万体で様子を見るにゃん』
「にゃあ、安全第一で頼むにゃん」
残るグランキエ州だが、これは北極圏に近い場所にある王宮の直轄領だ。例のグランキエ大トンネルがある。
「グランキエ州はこれといってやることがないにゃんね」
特に問題なく運営されてるはずだ。
「にゃあ、国境警備隊の解散ぐらいにゃん」
「国境警備隊を解散するにゃん?」
「貴族の子弟が義務で参加してる組織にゃん、要らないにゃん」
「お坊ちゃまの集まりにゃん?」
「残念ながら集まってないにゃん」
「どういうことにゃん?」
「ほぼ全員が金で雇った身代わりを送り込んでるにゃん」
「にゃお」
「雇われた人間のレベルは、以前の王国軍程度にゃん」
「なかなかの仕上がりにゃんね、国境警備の要にそんなのを置いて大丈夫にゃん?」
「貿易業務は大商会が取り仕切ってるから問題はないにゃん」
「にゃあ、大商会相手ではチンピラもお手上げにゃんね」
「その大商会もお館様にはお手上げにゃん」
「そうにゃん?」
「にゃあ、いまはお館様の領地からの小麦と食料品で儲けてる連中にゃん、お館様の機嫌を損ねたら死活問題にゃん」
「いまや少なくない量の小麦がケントルム王国に輸出されてるにゃん」
「にゃあ、ルールを守ってるなら何処で売っても構わないにゃんよ」
「商会の連中に相互監視させてお館様の命令は徹底させてるにゃん」
「ズルして出禁を食らった商会は、いま存続の危機に瀕してるにゃん、ベイクウェル商会あたりに吸収合併されるのも時間の問題にゃん」
「自業自得にゃん」
「そうにゃんね、現状で問題ないなら大きな変更は不要でいいにゃんよ」
「了解にゃん」
○王都タリス 城壁内 タリス城 車寄せ
「皆の者、長らく世話になった、感謝する」
コンスタンティン二世からの短い挨拶の後。騎士団が護衛する元国王とその家族を乗せた馬車が動き出す。
城の使用人たちは頭を下げる。
元国王は愚かな王様では無かったのだが今回は相手が悪すぎた。その点、ハリエットなら機転が利く。
助言と甘言を取り違えない判断力と行動力も有る。オレも友だちのためなら協力は惜しまないつもりだ。
走り去る馬車を見送る。
「にゃあ、オレも帰るにゃん」
「マコトはもう帰るのか?」
ドゥーガルド王国軍副司令は驚いたような顔をする。
「黒幕を片付けるオレの仕事は終わったにゃん、後はハリエット様の仕事にゃん」
「それもそうだな」
「王宮内の仕事は猫耳たちに任せてあるから、もう使えないヤツらが幅を利かせることは無いにゃんよ」
「おお、公爵のところの猫耳の娘たちな、暫くはハリエット様の周りを固めてくれると安心なんだが」
「大丈夫にゃん、その代わり耳障りのいい言葉だけ並べるなんてことはしないにゃん」
「問題ない、ハリエット様もそのような言葉は求めていない」
「にゃあ、ハリエット様ならそうにゃんね、オレも仕事を片付けるにゃん」
いろいろ中途半端にしているが、いちばん危ないのはケラスの旧州都アウルム。魔獣はほぼ殲滅したが、どぎついマナはまだ健在だ。
いまも吸い取ってはいるが、まったく濃度が薄まってないのと街の中心に居座ってるドラゴンモドキもまだそのままなので慎重に事を進める必要がある。
それにヌーラも魔獣を片付ける必要がある。それから大いなる災いの正体を明らかにしたい。
「忙しい六歳児だな」
「まったくにゃん」
『マコト、ちょっといいか?』
ミマから念話が入った。
『どうしたにゃん?』
『面白いものを見つけた』
『面白いにゃん?』
『まずは、見に来るといい』
『にゃあ、わかったにゃん、すぐ行くにゃん』
オレはミマのいる王宮の最深部に向かった。




