前日にゃん
○王都タリス 城壁内 官庁街 王国軍総司令部
マリオンを乗せた猫耳ジープは王国軍総司令部に入る。
現在ここが革命軍の最前線基地になっており猫耳たちが厳重に警備していた。
混成軍だったのは半日ほどで、いまは王国軍の兵士の大半も旧男爵領への移動が完了している。
○王都タリス 城壁内 官庁街 王国軍総司令部 副司令執務室
「俺たちは、またマコトの世話になったわけだ」
執務室に集まった面々に腕を組んで苦い顔を見せるドゥーガルド・オルホフ王国軍副司令。
「いまさらにゃん」
「そうであるな」
ドゥーガルド副司令にそっくりなアーヴィン・オルホフ侯爵が腕組みして頷く。息子がそっくりなだけだが。
「お館様はそんなことは気にしてないにゃん」
「「「にゃあ」」」
猫耳たちも頷く。
「マコトは本気で王宮に攻め込むつもりなのか?」
ドゥーガルド副司令が確認する。
「当然にゃん、ハリエット様を助けるにはそれしかないにゃん」
「王国軍の不始末を押し付けてるようで座りが悪いが、今回もマコトにすがるしか無さそうだ」
「それもいまさらにゃん」
ハリエットが連行される時に抵抗したドゥーガルド副司令を始めとする王国軍の面々は、その場で殺されこそしなかったが、駆け付けた猫耳たちに治療されなかったら天に還ってしまうほどの重傷を負っていた。
「王国軍は存在そのものが不始末にゃん」
「「「にゃあ」」」
「それもマコトのおかげでいまはまったく別の組織であるな、吾輩も近衛軍が敗走するとは思わなかったのである」
近衛軍は王都内の国王派領主の館を急襲したが、駆け付けた王国軍に撃退されたのだった。しかも新軍に。ハリエットの逮捕はその間隙を突かれた。
「新軍のあの装備は反則だろう」
「確かにそうであるな」
ドゥーガルドとアーヴィンの筋肉親子が頷く。
「にゃあ、新軍の連中はウチらが完全に仕上げたからお館様の許可がいただけたにゃん、正規軍はウチらのコントロール下にないから貸与は出来ないにゃん」
「そうか」
唸る副司令。
「正規軍に強力な武器を持たせてドゥーガルド副司令は何をするつもりにゃん?」
「武器は強力でも人は殺せないにゃんよ」
「無論、魔獣を退治だ」
「お言葉ですがドゥーガルド副司令、魔獣の討伐はその躯を処理しないと状況を悪化させます」
マリオンが言葉を挟んだ。
「躯の処理か」
「魔法使いが必須であるのか?」
「必須にゃん」
「「そうか」」
親子そろって唸る。
「魔法を使わずに処理するのは不可能ではありませんが、かなり難しいでしょう」
「にゃあ、王国軍は普通の軍隊に看板を付け替えるにゃん、王国軍憲章はお館様が破棄を宣言されたにゃん」
「おい、俺は何も聞いてないぞ」
「にゃあ、いまウチから言ったにゃん」
「後回しかよ」
「にゃあ、正式な宣言はマリオンが代理でやるから副司令は後回しじゃないにゃん」
「こいつのことはどうでも良い、王国軍の趣旨替えも理にかなっておる、まずは王宮を解放しこの国難を収めるのが先決である」
「そうにゃんね、でも、お館様はハリエット様を救出したらさっさと退散するつもりみたいにゃん」
「黒幕はそのままか?」
「王宮の何処に隠れてるかわからない黒幕を探してるほどお館様やウチらは暇じゃないにゃん」
「エドガー・クルシュマンを放置されても我輩たちでは対処できぬぞ」
「マコト様は王宮内の刻印を破壊するようです」
マリオンが説明する。
「禁呪使いでも仕掛けがなければ国家レベルの悪さは出来ないにゃん」
「それはあくまで推測であろう?」
「当然そうにゃん、巻き込まれるのが嫌なら王宮から出るべきにゃん」
「あの王宮が安全じゃないというのか?」
「ええ、エドガー・クルシュマン様とマコト様が本気で争えば王宮であってもただでは済まないでしょう」
「そうであろうな」
唸るアーヴィン様。
「お館様は無茶はしないにゃん、でも、エドガー・クルシュマンは別にゃん、ヤツは人間の命を何とも思ってないにゃん」
「避難をすぐにでも呼びかけたいところであるが、王宮の結界が消えても門はいまだに近衛が封鎖を続けておる、下手に出ようとすれば粛清されるであろう」
「にゃあ、まだ籠城を続けているにゃんね」
「何処ぞの公爵様が革命を宣言したからな」
「にゃあ、ハリエット様は成りは小さくてもやることはデカいにゃん」
「「「にゃあ、大物にゃん」」」
「始めたのはハリエット様じゃないだろう?」
「革命権の行使がハリエット様を救出する唯一無二の方法にゃん、お館様の批判はウチらが許さないにゃんよ」
「ウチらはお館様ほど寛大でも優しくもないにゃん」
猫耳たちの目つきが変わった。
「済まない、失言だ」
ドゥーガルド副司令は頭を下げた。
「にゃあ、謝罪は受け入れたにゃん、以後気を付けるにゃん」
「わかった」
猫耳たちは、気さくな女の子たちだがマコトに関しては冗談は通じない。
マコトの敵に対しては何処までも非情になれる。
「それでいつ突入するのであるか?」
「お館様の到着次第にゃん、その前にウチらが王都内の掃除をしておくにゃん」
「我らに出来ることはないか?」
「にゃあ、アーヴィン様たちはなるべく王都から人々を避難するように呼びかけて欲しいにゃん」
「わかったのである」
現在、王都内に残ってるのは自分の意思で避難を拒否してる者たちだ。その使用人たちも残ってるが忠義者なので主人に最後まで従うのだろう。
「にゃあ、これはお館様のご希望にゃん」
「出来るだけ多くの者に声を掛けよう」
「そうしていただけると助かるにゃん、王都の特に貴族街にはヤバい刻印が埋まってるかもしれないから人は少ないに越したことはないにゃん」
「貴族街にも何かあるのであるか?」
「にゃあ、貴族街は古の仕掛けが特に多く埋まってるにゃん、除去作業はウチらが勝手にやらせて貰うにゃん」
既に魔法蟻と猫耳ゴーレムのチームが王都とその近郊に埋まってる先史文明のガラクタを片っ端から回収している。
以前の試し掘りで有用な遺跡は無いと報告されたが、いまもその状況の大きな変化はなかった。埋まっているのは何に使ったか良くわからないガラクタばかりだが大規模な禁呪の舞台装置である可能性がゼロじゃない以上、回収しなくてはならない。
「屋敷に残っている連中もいまの話を聞けば領地に戻るであろう」
「にゃあ、領地に使用人も連れて帰ってくれるとウチらとしても助かるにゃん」
「マコトのお願いなら国王派でも貴族派でも動くだろう」
「にゃあ、国王派は王様に付かなくていいにゃん?」
「既に領主のほとんどはマコト派に鞍替えを検討中だ」
「悪くない判断にゃん」
「にゃあ、ウチらはこれからマリオンと王宮前まで行って来るにゃん」
「革命の正式な手続きをいたします」
「危険ではないのか?」
「革命の使者を傷付けると大きなペナルティを課されるのです」
マリオンが答えた。
「猫耳たちも一緒なら俺たちが心配することもないな」
「むしろ心配なのは、ここにいる人たちにゃん」
「マコトたちには悪いが、我らはここから見守らせて貰うのである」
「官庁街の連中も同様だ」
「わかったにゃん、防御結界をこの辺り一帯に張るにゃん、これはお館様の指示でもあるにゃん」
「手間を掛ける」
筋肉親子が頭を下げる。
「にゃあ、ウチらもその気持わからないでもないにゃん」
「「「にゃあ」」」
○アポリト州 ヴェルーフ山脈 山頂 アポリト拠点 ブリーフィングルーム
オレは猫スフィンクスのブリーフィングルームでマリオンから革命の手続きがすべて完了したとの報告を念話で受け取った。
『にゃあ、ご苦労だったにゃん、マリオンはエイリーまで戻って欲しいにゃん』
『マコト様、私は王国軍の総司令部で待機いたします』
『わかったにゃん、その代わり自分の身は自分で護るにゃんよ』
『もちろんです』
マリオンを乗せた猫耳ジープは王国軍総司令部に引き返した。
猫耳たちが王宮区画の森ごと封印結界で覆ってマナ抜きを開始してる。細々とした魔導具が動かなくなるので停電に近い状態になってるはずだ。
「お館様、城の外からサーチしてるけど黒幕の反応は無いにゃん」
オレはブリーフィングルームで猫耳たちと協議する。
「にゃあ、突入と同時に強力なサーチを掛けるにゃん」
「了解にゃん」
「ハリエット様だけ救出して済ますつもりがダメっぽいにゃんね」
「黒幕を放置するともっと面倒くさいことになるにゃん」
「すでに面倒くさいにゃん」
「プリンキピウムにでも入り込まれたら、お館様の大事なおっさんたちが危険に晒されるにゃん」
「おっさんたちはそれほど大事でもないにゃん、でも子どもたちに危害が加えられるとヤバいにゃん」
「にゃあ、この機会に黒幕をブッコロスのが正解にゃん」
「エドガー・クルシュマンだってウチらを使った実験をやりたいはずにゃん」
「ウチが黒幕だったらやるにゃんね」
「「「にゃあ」」」
「ヤツはオレたちに追い詰められたわけじゃなくて、逆に誘い込んでるにゃんね」
「間違いなくそうにゃん」
「王宮内がヤツの実験場になってる可能性があるにゃん」
「黒幕のくせに生意気にゃん」
「お館様の封印図書館をヤツから取り返すにゃん」
「オレのじゃないけど、そうにゃんね、悪用するヤツには渡せないにゃん」
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内
王宮内の人気のない真っ暗な廊下を聖魔石の青い光を放つ魔法馬がパカポコ歩く。
その背中には王国軍総司令官ハリエット・ベッドフォード十二歳がちんまりと収まっていた。
『マコト、どうしても魔法馬で移動しないとダメなのか?』
『にゃあ、真っ暗な城内を手探りで歩いたら危ないにゃん』
オレたちは念話で話をする。
『それはそうなのだが』
ハリエットには牢からオレのナビゲートで、幽閉されているアイリーン第二王妃とフレデリカ第一王女のもとに向かっている。合流してくれた方が何かと便利だ。
『しかし、城で最も監視の厳しい重罪人の留置エリアの鍵まで開いてしまうとはマコトはいったい何をやったんだ?』
『にゃあ、城内のすべての魔導具を止めたにゃん』
『何故、そんなことを?』
『エドガー・クルシュマン対策にゃん、王宮内でこれ以上ヤツに禁呪を使わせるわけにはいかないにゃん』
『ヤツも城内にいるのか?』
『にゃあ、王宮内に入城したのは間違いないにゃん、確認されてるにゃん』
『そうか、私の前に現れてくれたらいろいろ聞きたいことがあるのだが』
『イカれた魔法使いとまともに会話出来るとか思わない方がいいにゃん、洗脳されて終わりにゃん』
『洗脳か』
『ハリエット様までおかしくなるとオレも困ったことになるにゃん』
『わかった、マコトたちにはこれ以上迷惑を掛けないようにする』
『にゃあ、オレと繋がってるから簡単にはやられないにゃん』
『いざとなったら私のことは切り捨てて構わない』
『にゃあ、切り捨てるぐらいならプリンキピウムの森で拾ったりしないにゃん、それにエドガー・クルシュマンはオレたちの敵にゃん、必ず潰すにゃん』
ヤツが転生者なら、オレたちの手で始末する責任がある。
『私では相手にならないだろうから、マコトに任せるしかなさそうだ』
『にゃあ、オレたちに任せるにゃん』
三〇分ほど進んだところでオレはその反応をとらえた。
『前方にかなり大きなモノが動いてるにゃんね』
『大きいもの?』
『四本足にゃん、シルエットはトカゲにゃん、でもかなりデカいにゃん』
全長十五メートルちょっとある。プリンキピウムの森でもそう多くは見られない大きさだ。深い場所は除く。
『何でそんなモノが城内にいるのだ?』
『反応からするとたぶん戦闘ゴーレムにゃん』
『王宮内に戦闘ゴーレムが入り込んだのか?』
『違うにゃん、入り込んだというより、最初から隠されていたにゃん、火事を消すために起動させた人型とは別みたいにゃんね』
『王宮所有の戦闘ゴーレムか?』
『たぶん、そうにゃん』
『他にも戦闘ゴーレムを隠し持っていたとは』
『貴族が持っていたのだから王宮に有ったとしてもおかしくはないにゃん』
『そうではあるが、ここまで完璧に秘匿されていたのに今回は投入せざるを得なくなったわけか』
『そうにゃんね』
『戦闘ゴーレムがあるなら、もっと有益に使えたはずなのに』
ハリエットは納得がイカないらしい。
『確かに戦闘ゴーレムは城を守る切り札とは言え、使いようはあったにゃんね』
『それでこの先にいる戦闘ゴーレムは敵か味方かわかるか?』
『わからないにゃん、しかも戦闘ゴーレムだけあってマナが無くても活動を停止しないにゃんね』
『どうするのだ?』
『いまは接触は避けるにゃん、そこを右に曲がってやり過ごすにゃん』
『わかった』
城内を徘徊する戦闘ゴーレムを避けながら進む。
魔導具を完全に潰したおかげで城内の人々は自然光のある場所以外では身動きが取れないようだ。
幽霊が動いてるがこれは聖魔石の魔法馬が近付いただけで昇天した。怨霊もしかり。
『にゃあ、今度は前方に人が倒れてるにゃん』
遠隔でも魔法馬を介してるので探査はそれなりに正確だ。
『人だと?』
『ふたりにゃん』
『私にも見えた、どうやら城の使用人の少女のようだ』
倒れていたのはどちらも一〇代半ばの少女だった。
『真っ暗な通路で遭難したにゃんね』
『城内では明かりが灯っていても道に迷う者が出る、この暗さでは仕方あるまい、生きているのか?』
『にゃあ、かなり衰弱してるけどまだ生きてるにゃん、魔法馬越しに治療するにゃん』
『頼む』
『ハリエット様は降りなくていいにゃんよ、罠だった場合、馬に乗ってれば死ぬことはないにゃん』
『わかった』
まずはふたりの身体からエーテル器官に至るまで詳細にサーチする。至近距離で爆発なんかされたら目も当てられない。
『細工は無いにゃん、本当に行き倒れたみたいにゃん』
魔法馬から治癒の光を当てる。目からビームっぽいので絵的にはちょっとあれだが、もっとも効率がいい。
『にゃあ、もう大丈夫にゃん』
『そうか、良かった』
ふたりのメイドが目を覚ます。
「ここは?」
「私たち助かったの?」
ふたりは身体を起こした。
「ああ、危ないところだったがもう大丈夫だ」
「「その魔法馬は、ハリエット様!?」」
ふたりは驚きの声を上げた。
「いかにもそうだが」
ハリエットはふたりを知らなかったが、ふたりはハリエットを知っていた。ハリエットというより聖魔石の魔法馬で気付いたようだ。
「「お助け頂き、ありがとうございます」」
「おまえたちのわかる場所まで一緒に来るがいい」
暗闇に置き去りにしてはまた遭難してしまう。
「「はい、ハリエット様に一生お仕えいたします」
ふたり揃ってお辞儀する。
「は?」
ふたりはいずれもハリエットをキラキラした瞳で見詰めている。
『マコト、この者たちはどうしたのだ?』
『魔法馬の聖魔石の光にやられたにゃん、ハリエット様はいい側仕えを得たにゃんね』
丸投げモード。
『それってマズいのではないか?』
『にゃあ、ハリエット様を崇めてるだけにゃん、別に問題はないにゃん』
たぶんな。
『本当に問題が無いのか?』
『にゃあ、聖魔石の効果にゃん、オレにもどうしようもないにゃん』
『わかった、問題がないならいいだろう』
ハリエットは簡単に丸め込まれた。
アイリーン第二王妃の幽閉された塔に近づく頃には、ハリエットのお供は六人に増えていた。
『今度は騎士がいるにゃん、残念ながら倒れてないにゃん』
『騎士?』
『にゃあ、あの金ピカは近衛の騎士にゃん』
『近衛の騎士ならまず倒れないだろう』
『面倒くさいヤツはいつも元気にゃん』
塔に続く通路を塞ぐように近衛の騎士がふたり暗闇の中に立っていた。暗闇でも金ピカはすぐにわかる。
「誰か?」
魔法馬の青い光に視界を奪われつつも誰何する。
「ハリエット・ベッドフォード王国軍総司令である」
「「ハリエット様!?」」
驚きの声を上げる近衛の騎士たち。
「ご苦労、ここを通してもらいたい」
「申し訳ございません、ここをお通しすることは叶いません」
「革命の謀反人であるハリエット様の御首、ここでもらい受けます、ご覚悟を!」
剣を抜いてハリエットに斬りかかった。
「「「ハリエット様!」」」
六人の側仕えたちが悲鳴に近い声を上げた。
「「ぐぇ!」」
しかし、みっともない声を上げたのは近衛の騎士のふたりだった。
素っ裸で通路に転がる。
『にゃあ、人型魔獣でも分解できない防御結界を剣で切ろうとは片腹痛いにゃん』
『殺したのか?』
『気絶してるだけにゃん、でも職務に忠実なところは買ってやるにゃん、ハリエット様の護衛に取り立てるにゃん』
『えっ!?』
オレは遠隔操作でヤツらのオツムを少々イジってから王国軍の戦闘服と銃を与えた。
「「我ら、ハリエット様の盾と剣となることを誓います」」
膝を付き頭を垂れるふたり。
「……わかった、よろしく頼む」
○王都タリス 城壁内 タリス城 城内 幽閉の塔
アイリーン第二王妃の幽閉された塔の部屋の前に到着した頃には、護衛の騎士は六人、側仕えは一〇人になっていた。
そして扉を開けたところで護衛の騎士は人数が倍の十二人になった。
塔の中の部屋は窓があるおかげで十分な明るさを保っている。
光がオレンジ色になってるのは日没が近いからだ。
「ハリエット様、何故ここに?」
入口での攻防戦が終わってハリエットが魔法馬を格納したところでアイリーン第二王妃が奥の部屋から出て来た。
「お騒がせしました、マコトの指示でアイリーン様と合流させて頂くことになったのです」
「マコトの指示ですか?」
「そうです、フレデリカ王女殿下は?」
「フレデリカならここにいます」
フレデリカ第一王女はアイリーン第二王妃の後ろに張り付いていた。
「ハリエット姉さま!」
今度はハリエットに抱きついた。
「良かった」
ハリエットはフレデリカの姿を確認して安堵の息を吐く。
「引き離されずに済んだのは幸いです」
『にゃあ、第二王妃と第一王女の側仕えたちもちゃんといるにゃん』
『確かに』
フレデリカの側仕えイライザ・ベケットの姿とアイリーンの側仕えアネット・フリエル、侍女だが実は魔法剣士のアナイス・アライスとドミニク・ベルナールの姿もある。
「ハリエット様が捕縛されたのと私たちがこの塔に押し込められたのは、ほぼ同じ時間だったようですね」
「そうですか」
「被害者であるハリエット様が黒幕のわけがないのに、陛下はいったい何を考えておられるのか」
「現在の陛下は普通では無いようです」
「王たる者にはあってはならない事態です、ハリエット様、私はあなたの革命を支持しフレデリカを連れて国に戻ります」
「ケントルム王国に戻られるのですか?」
アイリーン第二王妃は隣国ケントルム王国の王女だ。隣国と言っても海を挟んでるのでアメリカと中国ぐらい離れている。それがトンネルで繋がってるのだ。
「アナトリに留まってはフレデリカを利用しようとする輩が出てくるやもしれません、それに我ら親子が害されれば、父に開戦の口実を与えかねない」
「王国の惨状を知って戦争をするのですか?」
「いまなら兵を出しただけで領土を奪えると踏むでしょう、無論そのような真似は絶対にさせません、そのための帰国でもあるのです、このままではマコトにこてんぱんにやられるのは目に見えてますからね」
攻めて来るならお相手してやってもいい、オレのところはいつも人手不足だからな。
「本当の姉のようなアイリーン様が帰られるのは残念です」
「ハリエット様、すでに運命は動いてしまったのです、我ら親子がこの国にいても良い方向には転びません」
「わかりました、おふたりのことは私が責任を持って送り届けます、この状況では説得力がありませんが」
「いいえ、ハリエット様に保証していただけた事実が重要なのです、良き王におなり下さい」
「あの、革命権の行使はマコトが私を救うための方便です、私が王座に就くつもりはありません」
「いいえ、他の誰が王位に就いてもこの国は乱れます、ハリエット様以外には有り得ないのです」
「王太子殿下がいるではありませんか?」
「残念ながらあの方に乱世を治める力はありません、マコトの強力な後ろ盾のあるハリエット様とは違うのです」
「マコトがいなければ何も出来ないのは同じです」
「いいえ、マコトはハリエット様を裏切ることはないでしょう、友人とはそういうものです」
「私もマコトを裏切るつもりはありません」
「マコトがハリエット様を推したのです、これに対抗できる勢力は王国内には存在しないでしょうから」
「いえ、ひとりいます、エドガー・クルシュマンが」
「主席殿は生きておられるのですね」
「どうやら、間違いないようです」
ハリエットは深くうなずいた。
『にゃあ、いまハリエット様たちのいる塔に防御結界を張ったにゃん、ひとまず安全は確保したにゃん』
『済まない』
『食料と水は魔法馬と同じところに入れてあるにゃん、そこにいる全員分あるから分けてやって欲しいにゃん』
『野営セットも入れておくにゃん』
『いろいろ世話を掛ける』
『にゃあ、こちらこそ王宮を壊して悪かったにゃん、事が済んだら直すにゃん』
『いや、マコトのせいではない、ただ直してくれると助かる』
『そこは任せて欲しいにゃん、直す前にかなり壊れるけどそこは許して欲しいにゃん』
『相手がエドガー・クルシュマンでは仕方あるまい』
『そうにゃん、仕方ないにゃん、こちらの準備が整い次第、助けに行くにゃん』
『無理はするな、最悪、見捨てて貰ってもかまわない』
『にゃあ、最悪は世界が滅ぶにゃん、そこはなんとしても阻止するにゃん』
この先のことはエドガー・クルシュマンの出方次第だ。




