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一難去ってまた一難にゃん

「どういうことにゃん?」

 ハリエット逮捕の報に思わずマリオンに聞き返した。

「陛下が革命権の行使を恐れたようです」

「にゃ、この状況でハリエット様がそんなことするわけがないにゃん」

「私もそう思います、しかし陛下は違ったようです」

「にゃお、マズいにゃんね」

「はい、このままではハリエット様が暗殺される可能性が高いかと」

「暗殺を止めるにはどうすればいいにゃん? 王宮をぶっ壊すのはなるべくならやりたくないにゃん」

『革命権を行使するんだよ』

 念話でミマの声がした。

『また革命権にゃん?』

『今度はマコトがハリエットの代理で革命権の行使を宣言するんだ、そうすれば父上はマコトを討ち取るまでハリエットには手が出せなくなる』

 第二王子のエドモンドを長らくやっていただけあって詳しいようだ。

『にゃあ、わかったにゃん、早急に手配するにゃん』

『躊躇しないんだね』

『にゃあ、オレたちが相手をしてるのはエドガー・クルシュマンにゃん、躊躇したらこの国が滅ぶしハリエットが殺されるにゃん』

『では、革命権の行使はマリオンに手続きをやらせるといい、彼は次席宮廷魔導師だからね、上手くやってくれるはずだ』

『わかったにゃん』

 オレはマリオンに向き直った。

「オレはハリエット様の代理で革命権を行使するにゃん」

「よろしいのですか? マコト様が王国のすべてを敵に回すことになりますよ」

「にゃあ、構わないにゃん、エドガー・クルシュマンはハリエット様に生きていられると困るらしいから、できるだけ嫌がらせをしてやるにゃん」

「かしこまりました、マコト様の御心のままに」

 マリオンは片膝を着いて臣下の礼を取った。



 ○王都タリス 城壁内 タリス城 重罪人 留置エリア


「まさか、自分がこんなところに連れて来られるとはな」

 ハリエットは城の地下にある最も監視の厳しい重罪人の留置エリアにいた。かつてニエマイア・マクアルパインが監禁された部屋だ。

 調度品は上級貴族に相応しいものが取りそろえてあるが、窓のない部屋は陰気な空気が沈殿していた。

 力なくソファーにもたれる。

 時間の感覚が麻痺しそうだ。

 ハリエットは今回の件を分析する。

 王国建国以来最大の危機だった魔獣の大量発生をマコトたちの奮戦で乗り切ったというのに伯父上は私を黒幕だと思い込んだのだろう。

「私よりも貴族どもの言葉を信じたのだろうか」

 国王でありながら耳障りがいいだけの言葉に惑わされたというのか?

 そうであるならなんと情けないことか。

「父上、私はどうすれば良いのですか?」

 答えは無かった。


「……」

 どれぐらい時間がたったろうか。

 音もなく白い仮面を着けた人間が入ってきた。魔導師の衣をまとったその者は男とも女ともわからなかった。

「何者だ?」

 ハリエットの誰何すいかに無言で一礼する。

「王命でございます」

 やはり男とも女とも付かない声を発し手を前にかざした。

「伯父上は、私の命をお望みか?」

 仮面がうなずいた。

「そうか、では好きにしろ」

 ハリエットは目を閉じた。

『にゃあ、それはダメにゃん』

「……!」

 マコトの声に目を開けた瞬間、仮面の手が光った。

 だが、吹き飛んだのは仮面だった。

 壁まで派手に飛んでそのまま前のめりに倒れた。

『にゃあ、オレの魔法馬の防御結界を舐めてもらっては困るにゃん』

『マコトの念話は、こんな場所まで通じるのか?』

 ハリエットも念話を返した。

『にゃあ、オレに不可能はないにゃん、というか王宮の絶対防御結界はいままともに機能してないにゃん』

『ここの結界は別系統だぞ』

『にゃあ、一度入った場所の結界なんてオレには意味がないにゃん』

『それはスゴいな』

『ハリエット様は、諦めが良すぎるにゃん』

『しかし、伯父上の命とあっては拒否するわけにはいかぬ、王命に背くことは許されないのだ』

『にゃあ、王様との間にエドガー・クルシュマンが挟まっていてもにゃん?』

『どういうことだマコト?』

『そのままにゃん、一連の事件の黒幕がエドガー・クルシュマンと判明したにゃん、ヤツはオリエーンス帝国皇帝の後継者の資格を持つハリエット様を亡き者としようとしてるにゃん、今回もそうにゃん』

『オリエーンス帝国皇帝の継承者?』

『にゃあ、近いところではハリエット様とフレデリカ王女殿下が該当者にゃん』

『いまさらそんなモノに何の価値があるんだ?』

『エドガー・クルシュマンは昔の仕掛けを動かしたいと違うにゃん? たぶんハリエット様はそれを止める力を持ってるにゃん』

『いまいちピンと来ないが、そんなことより主席宮廷魔導師のエドガー・クルシュマンは死んだのではないのか?』

『にゃあ、主席宮廷魔導師がチンピラ風情に刺されて死ぬわけがないにゃん、ちゃんと調べなかったオレも迂闊だったにゃん』

『では、伯父上は?』

『陛下はエドガー・クルシュマンに操られてる可能性が大にゃん』

『しかし、二重三重に防御されてる王宮内で国王である叔父上を操ることなど可能なのか?」

『にゃあ、現実に起こってるにゃん、ハリエット様の伯父上は慎重すぎるご性格のはずにゃん、それを証拠も無いのに姪を手に掛けると思うにゃん?』

『確かに、私が革命権を行使するなどあり得ないのに』

『そうにゃんね、でも、そこだけは当たったにゃん』

『どういうことだ?』

『にゃあ、ハリエット様の代理でオレが革命権の行使を宣言したにゃん』

『私の名前を使って革命権を行使したのか!?』

『そうにゃん』

『マコト、なんてことをしてくれたのだ!』

『残念ながら、ハリエット様の伯父上にこの国難を乗り切る能力はないにゃん、エドガー・クルシュマンの起こした事件で何人が命を落としたと思ってるにゃん』

『それは……』

 口ごもるハリエット。

『ハリエット様、エドガー・クルシュマンの狙いは王国の滅亡にゃん、まずはヤツを捕獲するなり倒すなりする必要があるにゃん、その後の国王を誰がやるかなんて些末な問題は後回しで頼むにゃん』

『国王が些末な問題か』

『にゃあ、いま現在の王宮の求心力は皆無にゃん、せめてエドガー・クルシュマンぐらいはどうにかしてくれないと困るにゃん』

『それは同意だ』

『とにかくいまハリエット様に死なれるとオレも困るにゃん』

『わかった、今回の件が片付くまで私も義務を果たそう』

 ハリエットの瞳に光が戻った。

『にゃあ、頼むにゃん、後で迎えに行くにゃん』



 ○アポリト州 ヴェルーフ山脈 山頂 アポリト拠点 ブリーフィングルーム


 ハリエットの無事を確認した後は、オレは猫スフィンクスのブリーフィングルームで各方面に連絡をする。


『各領地は、復興優先で頼むにゃん』

『『『にゃあ』』』

 人型魔獣を含む越境した魔獣はすべて退治したので、平穏が戻ったはずなのだが、なにせライフラインが各地で寸断されてる上に貴族派の領地は戦いに巻き込まれたわけじゃないのに食料が枯渇してる。

 ただで撒かないにしても物流は復活させる必要がある。

『にゃあ、アポリトの道路を整備して大公国とケラスとアルボラから表向き食料を送れるようにするにゃん』

『表向きにゃんね』

『にゃあ、ネコミミマコトの宅配便とドクサの騎士団には働いて貰うにゃん』

『『『にゃあ』』』


『マコト、今度はハリエット様を傀儡にして革命とはやるね、このままマコト帝国でもぶち立てるのかい?』

 カズキにも革命の情報が伝わっていた。

『にゃあ、好きで革命に加担してるわけじゃないにゃん』

 ハリエットが逮捕されたので仕方なく始めたことだと説明した。

『やはり王宮の問題だったか』

『何か掴んでないにゃん?』

『表向き、不穏な動きは無かったはずだよ、魔獣が来るかも知れないからパニクっていたみたいだけど』

『にゃあ、十分に異常事態にゃん』

『官庁街はすでに業務を再開してるみたいだね、マコトが革命権を行使したせいで大わらわらしいよ』

『何でもオレのせいにするのはイケない風潮にゃん』

『いや、実際マコトのせいだし』

『何で革命が起こると官庁街が忙しくなるにゃん?』

『大規模な棚卸しが始まるからだよ、不正確な数字だと新しい為政者に睨まれるから辻褄合わせを頑張らざるを得ないわけなんだよ』

『にゃあ、大変にゃんね』

『マコトはこれからどうするの?』

『にゃあ、王宮に行くにゃん』

『そうか、速攻で王宮を攻め落とすんだね、ボクのところも騎士団とか出した方がいいのかな?』

『にゃあ、何でカズキが騎士団を出すにゃん?』

『だって、王都の戦いに参加しなかったら、外様扱いで北の小領地に移封されちゃうんじゃないの?』

『王都にはハリエット様を助けに行くだけにゃん』

『黒幕は倒さないの?』

『にゃあ、出てくれば相手ぐらいはしてやるにゃん、でも、あの城の何処かに隠れてるヤツを探すとかいまは無理にゃん、オレたちは忙しいにゃん』

『王宮は大きいからね、あの中で隠れんぼとか確かに大変だけど放置はマズいんじゃないか?』

『そこは王宮内のヤバそうな仕掛けは先に全部潰すにゃん、それでダメならオレたちには防げないことにゃん』

『そうか、仕掛けを潰すのか、もう城ごと壊しちゃえばいいんじゃないかな』

『にゃあ、中に人がいる状態では無理にゃん』

『退避勧告して出てこないのはエドガー・クルシュマンということでそのまま分解しちゃえば?』

『乱暴にゃんね、でも嫌いじゃないにゃんよ』

『城を建てるのも男のロマンだけど壊すのもロマンだよね』

『にゃあ、わかるにゃん』

『壊さないの?』

『オレがエドガー・クルシュマンなら変装して素知らぬ顔で外に出るにゃん』

『だよね』


 カズキとの念話ではこれと言った情報は得られなかった。王宮の中の話を地方の領主に尋ねるのが間違いか。


 オレはブラッドフィールド傭兵団の団長ユウカ・ブラッドフィールドに念話を入れた。

『マコト、無事だったんだな』

『にゃあ、いまのところは無事にゃん』

『王都も無事な割にそこそこ死人が出てる』

『なんでにゃん?』

『近衛軍が王宮内で貴族を粛清したのが大きい』

『にゃお、この非常時にいったい何をやってるにゃん?』

『黒幕の協力者として家族ごと処刑した様だ』

『子供まで殺したにゃん?』

『将来に遺恨を残さない為だ、そう珍しい事例じゃない』

『それで実際のところはどうにゃん?』

『貴族同士の派閥争いだな』

『平和なヤツらにゃん』

『貴族とは争わずにはいられない生き物だ、この状況を好機と踏んだのだろう』

『ハリエット様の件もその流れにゃん?』

『いや、ハリエット様の件は完全な王命だ』

『にゃあ、エドガー・クルシュマンの関与はどうにゃん?』

『残念ながら、ヤツが絡んでいるかどうかは不明だ』

『不明にゃん?』

『実は王宮内にエドガー・クルシュマンの侵入を確認したのが今朝だからだ』

『にゃお、王様を操る時間がないにゃんね』

『いや、ヤツは宮廷魔導師だ、その辺りはどうとでもなる』

『よく出入りがわかったにゃんね』

『なに、すべての出入り口に簡単な魔力計を仕掛けただけだ、ヤツは異常な魔力量を隠しもしなかったぞ』

『城内の何処にいるかわかるにゃん?』

『いや、そこから先はわからない、出てはいないから王宮の何処かに潜伏しているはずだ』

『現在の王宮内の動きはどうにゃん?』

『ハリエットを黒幕と決め付け捕縛し、アイリーン第二王妃も城内に幽閉してる。それにコーネリアス大公が近衛軍総司令を解任され蟄居を命じられた』

『全部、王命にゃん?』

『そうだ、ハリエット様の暗殺は失敗したらしいな、マコトが何かやったのか?』

『秘密にゃん』

『まあいい、いずれわかる』

『王様をエドガー・クルシュマンが操ってる可能性が高いにゃん』

『実際には有り得ないのだが相手がエドガー・クルシュマンとなると話が違ってくるか、だが何一つ痕跡を見付けられないでいるのも事実だ』

『宮廷魔導師はちゃんと調べてないにゃん?』

『ヤツらは次席魔導師のマリオン・カーターがマコト側に付いたということで、それどころじゃないらしい』

『にゃお、いったい何をしてるにゃん?』

『当然どちらに付くかで揉めている』

『宮廷魔導師なんだから国王側に付かないとマズいと違うにゃん?』

『革命権が行使されるとどちらに付くかはその者の判断に委ねられる』

『随分と緩いにゃんね』

『仕方あるまい、宮廷魔導師は国家の財産だ、下手に潰されても困るので革命にも不参加になる』

『それでも揉めるにゃんね』

『選択を誤れば一生冷や飯食いになるから、ヤツらも必死だ』

『オレもその立場なら必死になるにゃん』

『誰だってそうだ』

『王様が特異種にされた可能性はどうにゃん?』

『それはいずれの魔導師も否定している。頼りにしていたニエマイア・マクアルパインに裏切られて心の均衡を失ったと言うのが大方の見方だ』

『エドガー・クルシュマンじゃないにゃんね』

『国王を警備してる者たちは明確に否定している』

『エドガー・クルシュマンの手に掛かれば簡単に誤魔化せると違うにゃん』

『だろうな、それでも彼らの証言はある程度信用できる、王を護るのにまったく系統の違う魔法を使う、それを超えて干渉するのは不可能に近いとされている』

『出力を上げて無理やり干渉したかもしれないにゃんよ』

『それだと王が死ぬ、操られるぐらいなら殺してしまえという思想のもとに作られた防御結界と聞いている』

『なかなか厳しいにゃんね』

『いずれにしろエドガー・クルシュマンの関与の有無に関係なく、国王コンスタンティン二世はもうダメだ、マコトが革命を起こしてるし、退位は避けられまい』

『別に王様に恨みはないにゃんよ』

『そうは言っても実際マコト派の存在が外堀を埋め国王を追い詰めたのは事実だ』

『マコト派はオレが作ったんじゃないにゃんよ』

『作ったのはアーヴィン・オルホフ侯爵だ』

『にゃ、アーヴィン様にゃん?』

『オルホフ侯爵はマコトの領地を中心に王国の立て直しを計画してる。王国の国体を維持するならそれが最適解だろうが、皮肉なことに国王の精神の安定を奪う結果になってしまったわけだ』

『にゃあ、無理に王国という形にしがみつかなくても良いと違うにゃん?』

『マコトが新しく国を造るというなら構わないが、違うなら王国を残した方がいい』

『王国が無くなると面倒事が増えそうにゃんね』

『マコト派がらみの面倒事はアーヴィン・オルホフ侯爵に任せればいいだろう』

『そうにゃんね、そっちはアーヴィン様に押し付けるにゃん、オレは自分のところで手一杯にゃん』

『だろうな、マコトはエドガー・クルシュマンをどうするつもりだ?』

『見付けたらぶっ飛ばすにゃん』

『見付からなかったら?』

『にゃあ、エドガー・クルシュマンがいようがいまいが、王宮内の怪しい刻印は全部潰す予定にゃん』

『悪くない策だ、我々の知ってる情報も提供しよう』

 ユウカから王宮内の資料が送られる。

『にゃあ、助かるにゃん』

 後でミマからも聴取しておこう。

『王宮にエドガー・クルシュマンが戻ったということは何か始めるつもりにゃん、ユウカも王都から退避することをオススメするにゃん』

『傭兵団は退避済みだ、私は最後まで見届ける、エドガー・クルシュマンが転生者なら、この一連の事件のケリを付けるのも我らの義務だ』

『そうにゃんね』

『カズキも呼んでおく、あの無精者にも手伝わせる』

『無理しちゃダメにゃんよ』

『心配するな、私もカズキも逃げ足はマコトより速い、あれこそ世界一だ』

『それなら安心にゃん』



 ○王都タリス 外縁部 農道


 マリオンは、猫耳ジープに乗せられて旧男爵領のオルビー領を出て王都の外縁部に連なる小麦畑の道を行く。


「もう、王都に到着するなんて驚きの速さですね」

「にゃあ、お館様ならもっと早く王都に着くにゃんよ」

 運転席の猫耳がマリオンをちらっと見て応える。

「このまま王都に近付くのは危険ではありませんか? 我々は革命側の人間なのですから」

「にゃあ、王都は王宮を除いて革命軍が占領したにゃん」

「えっ?」

「実際は王国軍とウチらの混成部隊にゃん」

「守備隊は直ぐに降伏したし、近衛軍は大半が王宮内に籠もってるからほとんど抵抗らしい抵抗も無かったにゃん」

「にゃあ、ウチらの戦いは王宮の中に入ってからが本番にゃん」

 後部座席の猫耳から声が掛かる。

「宮廷魔導師は大半が中立の立場を取るようですが、近衛は国王側、いまとなっては黒幕側に付くようです」

「近衛は厄介にゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちは声をそろえて鳴く。

「コーネリアス大公が暗殺されかかったのもその一環だったにゃんね」

「大公閣下ですか!?」

「にゃあ、大公にはお館様が魔法馬を預けていたから事なきを得たにゃん」

「そうでしたか、近衛の騎士にしても王命であるなら仕方なく従ったのでしょう」

「ヤツらは単に何も考えてないだけにゃん」

「大公閣下は無事なのですね」

「にゃあ、お館様のお屋敷の離れにいるにゃん、追撃した近衛の騎士は素っ裸にしたにゃん」

「ついでにアーティファクトの武器は頂戴したにゃん」

 実際には、マコトの屋敷を襲った二〇人の近衛の騎士は、その日を境に姿を消してる。数日後、猫耳が二〇人増える予定だ。



 ○王都タリス 外縁部 環状線


「にゃあ」

 王都外縁部の環状線に入る交差点に猫耳たちが検問所を作っていた。

 軽く敬礼して停車すること無くジープは通り過ぎる。

「本当に守備隊は姿がありませんね、それに市民の方々の姿も少ない」

「守備隊は家族ごと旧男爵領に避難してるにゃん、黒幕がまだ隠し玉を持ってる可能性が高いから生身の人間は危険にゃん」

「王都外縁部の市民は七割が避難したにゃん、留守宅はウチらが監視してるにゃん」

「こそ泥は全部、捕まえて王国軍に叩き込んでるにゃん」

「私も生身の人間なのですが」

「マリオンは魔導師だから大丈夫にゃん」

「にゃあ、金属になっても復活してるにゃん」

「それはマコト様に助けていただけたからですよ、私単身だったら未来永劫、朽ち果てるまで金属のままです」

「心配しなくてもお館様は何度でも助けてくれるにゃん、しかも今回はお館様の名代にゃん、ウチらが全力を上げて護るにゃん」

「年下のお嬢さんたちに護って貰うというのも変な気分ですね」

「にゃあ、そこは気にしたら負けにゃん」

「「「にゃあ」」」



 ○王都タリス 城壁内 官庁街


 ジープはそのまま城壁の門も抜けて官庁街に向かう。

「ここは守備隊の姿が見えないぐらいの違いしかありませんね」

「にゃあ、役人はほとんど避難してないにゃん」

「そうですか」

「職務をまっとうするのが役人の矜持きょうじらしいにゃん」

「わからないでもないですが、危険なのも間違いないですね」

「にゃあ、街に火の手でも上がれば逃げると違うにゃん?」

「その時はたぶんいろいろ手遅れにゃんね」

「「「にゃあ」」」

「一応、城壁の内側に仕掛けられていた刻印は全部潰したにゃん」

「全部ですか!?」

「にゃあ、どれがヤバい刻印に変化するかわからないからひとまず全部にゃん」

「でも、中には必要なモノもあったのではないですか?」

「それは後で直すから心配いらないにゃん」

「城壁の刻印を直せるのが、既に我々宮廷魔導師からしても奇跡の御業なのですが」

「にゃあ、魔力と知識の違いにゃん」

「マリオンならウチらに近いレベルで刻印の修復をできるはずにゃん」

「皆さんは、私の父の事をご存知なのですね」

「お館様はアルボラ州の領主カズキ・ベルティ伯爵と同郷にゃん」

「そうでしたね」

「マリオンがお館様の敵ならウチらは容赦はしないにゃん、そうじゃないなら全力で護るにゃん、それだけにゃん」

「マリオンの親父は関係ないにゃん」

「そういっていただけると気が楽になります」

「にゃあ、マリオンの親父のことより知りたいのはエドガー・クルシュマンのことにゃん」

「「「にゃあ」」」

「ヤツは元々、人体実験も厭わないイカれ魔導師だったにゃん? それとも今回、突然豹変したにゃん?」

「エドガー・クルシュマン様は、温厚で思慮深い方でした。世間は実力より政治的な手腕で主席の地位を得たと評価していましたが、真の姿は魔法への苛烈なまでの探究心をお持ちの方でした」

「にゃあ、つまり人体実験も厭わないということにゃん?」

 マリオンが頷く。

「実際、犯罪奴隷を使った実験を行っていました。ですが誤解のないようにしていただきたいのですが、エドガー・クルシュマン様の実験は治癒魔法に限ってのことです」

「にゃあ、マリオンの見てる前で禁呪の実験はやらないと思うにゃん」

「確かにそうなんですが」

「いまのところ、エドガー・クルシュマンが黒幕の可能性がかなり高いにゃん」

「実はもうひとり黒幕の候補になりうる人物がいるのです」

「「「にゃ?」」」

 猫耳たちはそろって疑問の声を上げた。

「ブルーノ・バインズ近衛軍大尉です」

「にゃあ、近衛の疫病神にゃん?」

「ご存知でしたか」

「にゃあ、ウチらの業界では有名にゃん」

 前世の業界だが。

「ヤツは魔法使いだったにゃんね」

「それもご存知でしたか」

「にゃあ、ブルーノ・バインズとその手下どもは人を殺して喜ぶ変態にゃん」

「ほとんど特異種にゃん」

「でも特異種じゃないから余計に始末が悪いにゃん」

「変態には近付きたくないにゃん」

「本当に黒幕にゃん?」

「黒幕かどうかは直ぐにわかると思いますよ、王宮で出迎えてくれるでしょうから」

「ブルーノ・バインズの部隊がお出迎えとは嫌すぎにゃん」

「どんな卑怯な手を使うのか楽しみにゃん」

「たぶん、笑っちゃうぐらい卑怯にゃん」

「にゃあ、それは間違いないにゃん」

「マリオンには悪いけど、ブルーノ・バインズは黒幕の器じゃないにゃん」

「小物臭がキツくて黒幕なんて大役は無理にゃん」

「「「にゃあ」」」

「私より、皆さんの方がブルーノ・バインズ大尉について詳しかったのですね」

「にゃあ、ウチらもいろいろあったにゃん」

「「「にゃあ」」」

 元盗賊に脱走兵にチンピラだし。


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