未確認生物を発見にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇四月二八日
○プリンキピウム街道
翌日は、すっきりと晴れ渡っていた。
「いい天気だね」
ベリルが御者台から空を仰ぎ見る。
「にゃあ、無理して雨の中を行かなくて良かったにゃん」
「そうですね」
シャンテルも同意した。
犯罪奴隷の怨霊に正面から出くわさずに済んだのもラッキーだ。
いまは御者台に三人並んで馬車を走らせてる。
あの雨の中、野営した人は皆無らしく怨霊の被害は出さずに済んだ様だ。
例え知らない人でも被害が出てたら気分が悪い。
盗賊どもに襲撃された場所も何事も無く通り過ぎた。
盗賊に通じていた近くの街の守備隊の人間は既に捕まったはずだ。
州都の守備隊の話では、しばらく安全になるだろうとのことだった。オレもそう願いたいにゃん。
いまのところ盗賊に負ける気はしないが、後の手続が面倒くさい。
金にはなるけどな。
○プリンキピウム街道脇
お昼は道路脇の空き地に馬車を停めて荷台にテーブルと椅子をしつらえて目玉焼き入りハンバーガーとポテトを並べた。
「美味しいね」
「うん」
ケチャップで汚れたベリルの口元をシャンテルが拭いてあげる。
仲のいい姉妹だ。
あと何年かしたら妹も生意気な口を利くようになるのだろうけど。
「美味しい!」
オレの耳元で声がした。
「にゃ?」
小さな女の子だった。
背はリカちゃん人形ぐらい。背中から光の羽根が生えていてアラビアンナイトの踊り子みたいな姿で宙に浮いている。
顔は隠してない。
美人さんだ。
それがオレのハンバーガーを横から食べていた。
「にゃあ、妖精にゃん?」
「「えっ?」」
シャンテルとベリルも妖精を見る。
「美味しいね」
妖精も口の周りをケチャップでベタベタにしていた。
しかもスゴい勢いで食べてる。
「にゃあ、ハンバーガーが好きにゃん?」
「うん、大好き!」
「もっと食べるにゃん?」
「食べるよ!」
ちっちゃいけど元気に叫んだ。
「ふう、おいしかった」
このちっちゃい身体の何処に消えたのか知らないが全部で三つのハンバーガーとポテトを平らげた。
「マコトのハンバーガーって美味しいね」
「何でオレの名前を知ってるにゃん?」
「ちょっと前から観察してたからだよ」
「観察にゃん?」
全然、気が付かなかった。
「観察だけにしようと思ったんだけど、あまりにもおいしそうで我慢できなくなっちゃった」
ニカっとする。
「にゃあ、いったいいつからオレを観察してたにゃん」
「マコトが空から落ちて来た時からだよ、そんな面白いことをされたら注目しないわけにはいかないよね」
「それだと最初から全部にゃん」
「そうなの?」
「そうにゃん」
「それにマコトのご飯は美味しいから離れられなくなっちゃった」
「にゃお、すると前からオレのご飯を盗み食いしてたにゃん?」
「盗み食いなんて人聞きが悪いな、横からちょっと貰っただけだよ」
空中で腰に手を当て頬を膨らませる。
いや、それを盗み食いと言うんじゃないのか?
「にゃあ、何で突然、姿を現す気になったにゃん?」
「マコトが悪いヤツじゃないとわかったからかな」
「悪いヤツだったらどうするにゃん?」
「どうもしないよ」
「にゃ?」
「悪いヤツは観察しても面白くないから、そのままサヨナラだね」
「にゃあ、オレは観察して面白いにゃん?」
「すっごく面白いよ! 流石に空から降って来ただけのことはあるね」
腕を振り上げて力説する。
「にゃあ、ところで妖精さんの名前はなんて言うにゃん?」
「あたしはリーリだよ」
「リーリは、オレに存在を知られても大丈夫にゃん?」
「問題ないよ、むしろこれからは普通にマコトのご飯を食べられるからいい事ずくめだよ」
どうやら今後は姿を現したまま付いて来るつもりのようだ。
知らずに覗かれてるよりマシか。
○プリンキピウム街道
午後は街道の交通量が目に見えて減って行くのがわかる。
この辺りから本格的に獣の支配地域に戻るわけだ。
ちなみにリーリはオレの頭の上に乗ってる。
重さはほとんど感じない。
「にゃあ、シャンテルとベリルはリーリみたいな妖精を見たことがあるにゃん?」
姉妹は揃って首を横に振った。
「妖精はとても珍しいって聞いてます」
「妖精さんは幸運を運んでくれるんだよ」
「にゃあ、そうにゃん?」
こちらでは縁起物らしい。
「幸運を運ぶのはただの噂だよ、あたしらの防御結界の効果を誤解したんだね」
「にゃあ、リーリは防御結界を張ってるにゃん?」
「張ってるよ」
「全然、わからないにゃん」
「あたしらの魔法は人間には見えないからね」
「にゃあ、妖精魔法にゃんね」
人間の括りにオレも入っていてちょっと安心した。
精霊情報体も当時から遭遇した人は少なかったらしく大した情報は入って無い。
気まぐれで捕まえるのは不可能。
それでいて情に厚く良き友人になると幸運を運んでくれるとある。
図書館から仕入れた情報もシャンテルとベリルの話と大差ない。
オレにわかるのは、ちっちゃいけど魔力がこの前の魔獣よりずっと多そうだってことぐらいだ。
それと食いしん坊ってことか。
見てれば誰でもわかるけど。
交通量が少ないと言ってもまったく走ってないわけじゃないので、こちらの常識的な速度で走る。
具体的には魔法馬単騎の速度ぐらいなら酷く驚かれることはない。
獣の領域が近いだけに街道からそう遠くない場所にオオカミやシカが姿を見せていた。
盗賊の姿もない。
獣に襲われるリスクを考えるともうこの辺りは美味しい猟場ではないのだろう。
夕方近くになって今日のねぐらを探す。
「ねえ、今夜はロッジ、それともテント?」
頭の上でリーリの声がする。
「にゃあ、この先もロッジを使う予定にゃん」
「ロッジだったら街道から直接見えない場所だね」
「にゃあ、良く知ってるにゃんね」
「ずっとマコトを観察してたからそれぐらいわかるよ」
「にゃあ」
「マコトのおなかの上は柔らかくてとても気持ちがいいんだよ」
「にゃあ、その情報は初耳にゃん」
いつもおなかを丸出しで寝てるのはもしかしてリーリのせいか!?
「にゃ?」
この先に人がいる。
動きを止めてる。
休んでるのだろうか?
「ネコちゃん、あそこに人がいるよ」
妹のベリルも気が付いて前方を指差した。
道端の古い切り株に座り込んでる。
「女の人にゃんね、赤ちゃんを抱っこしてるにゃん」
「こんな場所で何をしてるのでしょう?」
シャンテルも不審に思った様だ。
「確かめるにゃん」
赤ちゃん連れで盗賊でもないだろうし、他に人影もない。
馬車を停めて声を掛ける。
「にゃあ、どうかしたにゃん?」
二〇そこそこの若いお母さんだ。
こっちの世界では普通なのかもしれないが。
「この先のポレックス村まで行くつもりだったんだけど、足を痛めてしまって休んでたの」
足が腫れてるらしい。
額は脂汗を浮かべてる。
「それは大変にゃん、オレが診てやるにゃん」
オレは御者台を飛び降りて若いお母さんの前に立った。
「あなたが診てくれるの?」
「にゃあ、こんなナリでも治癒魔法が使えるから安心していいにゃん」
「治癒魔法?」
「腕は確かだから安心していいよ、あたしが保証してあげる」
リーリがオレの頭の上で仁王立ち。
「妖精さん?」
「リーリだよ、馬車に乗ってるのはシャンテルとベリルね。プリンキピウムのおばあちゃんちに行くの」
「そうなんですか」
リーリがおしゃべりしてる間に若いお母さんを観察する。
状態は、あまり芳しく無かった。
発熱をしてるらしく顔色も悪い。
赤ちゃんに特に問題がないのは幸いだ。
「ただの怪我じゃないにゃんね」
「昨日まで大したこと無かったのに、今日になって急に酷くなったの」
傷口から細菌が入ったのだろう。
「にゃあ、直ぐに治療するにゃん」
エーテル器官に魔力を注ぎ込むだけである程度なんとかなるのがこっちの人間だ。
魔力を注ぎ込み悪さをしてる細菌が消えたのを確認して傷を治す。
治癒の光で包み込む。
痛い足をかばって歩いたせいであちこち問題が出ていたのでそれも修復した。
「にゃあ、これで治ったはずにゃん」
「ありがとう、痛みがなくなったよ」
立ち上がって足の調子を確かめてる。
「うん、これなら今晩中にたどり着けそう」
「ちょっと待つにゃん、そのままでは風邪を引くにゃん」
お母さんと赤ちゃんを一緒にウォッシュする。
「スゴい、一瞬で綺麗になっちゃった」
「それとこれを飲むにゃん」
オレ特製のスポーツドリンクの入った瓶を出してやる。
「なにコレ、冷たくて美味しい」
「赤ちゃんには冷たくないこっちを飲ませてやるといいにゃん」
温度と成分を赤ちゃん用に調整したのを哺乳瓶に入れて出してやる。
哺乳瓶はこっちの世界でもある。
「赤ちゃん用は人肌にゃん」
若いお母さんは赤ちゃんにドリンクを飲ませる。
「赤ちゃん、可愛いね」
「うん、可愛い」
ベリルとシャンテルも馬車を降りて赤ちゃんを見てる。
「マコト、あたしにも冷たくて美味しいの頂戴」
リーリにおねだりされてオレたちも水分を補給して一休みにゃん。
妖精は一瓶を一気に飲んでしまった。
「にゃあ、ポレックス村はプリンキピウムの方向にゃんね」
「そう、いまから行けば夜中までには着けるんじゃないかな」
オレが州都で手に入れた地図情報と照らし合わせても六時間程度は掛かりそうだ。
「どうせオレたちもあっちに行くから送って行くにゃん」
「いいの、夜になっちゃうわよ」
「馬車ならそんな遅い時間にならないにゃん、それより歩いてて途中でオオカミでも出たら大変にゃん」
「うっ、オオカミは怖いかも」
盗賊が出ないにしても、もうこの辺りなら獣が出る可能性が高い。
特に暗くなってから歩くのはかなりの危険だ。
「その代わり村の近くに野営できそうな野っ原が有ったら教えて欲しいにゃん」
「野っ原?」
「にゃあ、オレは魔法で家みたいなモノを出せるにゃん」
「家? だったらウチの裏庭を使えばいいわ、無駄に広いから」
「それは助かるにゃん」
全員が御者台に横一列に並んで出発した。
「出発!」
リーリはオレの頭の上で声を上げた。
若いお母さんの名前はダイナ・アマースト。
赤ちゃんを見せる為に実家に戻る途中だったらしい。
「あたしの家から実家までは普通は徒歩で一日の距離なんだけどね」
「怪我はいつしたんですか?」
シャンテルが聞く。
「昨日よ、釘で引っ掻いただけだから、本当にそんな大した傷じゃ無かったんだけど」
「傷口は綺麗にしないとそこから病気になることがあるにゃん」
「たぶんそれね、途中で昨日の傷が悪化して騙し騙し歩いたんだけど、ついに動けなくなって、ネコちゃんに出会わなかったら危なかったね」
「わたしたちもそうです」
「シャンテルちゃんたちもネコちゃんに助けて貰ったの?」
「ネコちゃんが悪いやつをやっつけてくれたの」
「へえ、ネコちゃんはスゴいんだね」
「冒険者なら当然にゃん」
そんな美味しい獲物を逃したりしない。
「ちょっと飛ばすにゃん」
周囲に走る馬車が皆無なので速度を上げた。
○ポレックス村 ダイナの実家前
ダイナの実家には日が完全に沈む寸前に到着した。
実家の有るポレックス村は、街道にほど近いので、プリンキピウムに遠回りと言うほどでも無かった。
野営する場所を探してウロウロするよりずっといい。
「ここがそう、おかげで思ってたよりもずっと早く到着できたよ、いま父に裏庭を貸すことを言ってくるね」
赤ちゃんを抱えたダイナは足取りも軽く扉に向かって走って行った。
レンガを積み上げた壁の建物は平屋だけどそこそこ大きい。魔法馬も二頭いるし、農家としても裕福な家らしい。
「お帰りダイナ!」
たぶんお母さんの声だ。
ダイナが事情を説明してる。それに呼応して母親の驚く様な声が響く。途中から父親らしき中年男性の声が混じった。
それからぞろぞろと人が出て来る。
「おお、本当に小さな女の子だ」
口ひげを蓄えた恰幅のいいオヤジが御者台のオレを見て声を上げた。
「にゃあ、オレはプリンキピウムのマコトにゃん、今夜、裏庭をちょっと貸して欲しいにゃん」
さらっと本拠地を付け加えて怪しい者じゃないアピールも忘れない。
「ダイナの父です、娘が危ないところを助けて下さりありがとうございました、裏庭だったら好きに使って下さい」
「それじゃお言葉に甘えるにゃん」
馬車を降りる。
シャンテルとベリルも馬車を降りた。リーリはオレの頭の上に座ってる。
「馬車を仕舞うにゃん」
馬車と馬を一度に消すとダイナとその家族は驚きの声を上げた。
「本当にネコちゃんは魔法使いなのね、こんなに小さいのにスゴいのね、うちのバカな娘と大違い」
「ちょっとお母さん、あたしとネコちゃんを比べないで!」
「にゃあ、赤ちゃんを産んでるダイナの方がスゴいにゃん」
シャンテルとベリルも頷いた。
「ダイナが赤ん坊を産むとか、それはそれでスゴいけどいちばんは旦那のアートくんだろ?」
ダイナの兄貴らしき人がつぶやく。
「ちょっと、変なこと言わないでよ」
その兄貴を突っついてるのは兄貴の奥さんの様だ。雰囲気からすると新婚さんか。
別に羨ましくはないにゃんよ。
「裏庭はこっちにゃん?」
「私が案内しよう」
○ポレックス村 ダイナの実家 裏庭
ダイナの父さんが先導してくれて屋敷の裏に回った。
確かに広い。
草野球が楽しめるぐらいの広さがあった。庭と言うより野っ原だ。
「じゃあ、朝まで借りるにゃん」
ロッジを出した。
「おお、これは!」
「スゴい!」
「こんなモノまで出せるのか!」
「私の見たことのある魔法使いと全然違ってる」
「ネコちゃんて、本当にスゴい魔法使いだったのね」
いまさらながらダイナに感心される。
「そうだよ、マコトはスゴいんだから」
何故か今日会ったばかりの妖精が威張る。
「これはオレが獲ったウシの肉にゃん、場所代がわりに納めて欲しいにゃん」
ダイナパパに袋を渡す。
「ウシの肉をこんなに!?」
「腐敗防止の魔法を掛けてあるけど、なるべく早く食べて欲しいにゃん」
「ネコちゃんは、魔法使いなのに狩りもするの?」
「あのね、ネコちゃんは魔法使いだけど本当は冒険者なんだよ」
ベリルがオレに抱き着いて説明してくれた。
「そうにゃん、オレは冒険者にゃん」
「魔法使いなのに冒険者をやってるの、それは勿体ないねぇ」
ダイナのお母さんが腕組みしてつぶやく。
「にゃあ、六歳児には気楽な冒険者が合ってるにゃん」
「いや、冒険者は気楽な商売とは言わないよ」
ダイナの兄貴からツッコミが入った。
前もツッコまれたので、やはり冒険者に対する世間一般の評価は違ってる様だ。
「ネコちゃんは治癒魔法を使えるのよね?」
ダイナの兄貴の嫁さんに聞かれた。
「にゃあ、使えるにゃん」
「そうなの、あたしの足の怪我を治して貰ったんだよ、タリア義姉さん」
兄嫁はタリアさんか。
「ネコちゃんにおばあさまの目を診て頂いてはいかがですか?」
「母さんの目かい、いくらなんでも無理じゃないか?」
「そうよね」
ダイナの両親は懐疑的だった。
「にゃあ、診るだけみてみるにゃんよ、金は取らないから安心していいにゃん」
「父さん、せっかくネコちゃんが診てくれると言ってくれてるんだ、断るのも失礼だろう?」
ダイナの兄貴が話をまとめる。
「そうだな、ネコちゃん済まないがウチの婆さんを診てやって下さい」
「わかったにゃん」
シャンテルとベリルには一足先にロッジでくつろいでもらう。
リーリはオレに付いて来た。
「こちらです」
○ポレックス村 ダイナの実家
オレはダイナの両親に案内されて屋敷の中に入った。
同じ農家でもオレのばあちゃんちとは全然違うにゃんね。
壁の厚さが一メートルぐらいありそうだ。
「にゃあ、ばあちゃんに治癒魔法を使ったことはないにゃん?」
「中途半端に州都に近いこともあって、治癒師の方からこちらに来てくれることが無かったものですから」
「目を患ってから外に出たがらなくなったし、『治るか治らないかわからないのに大金を掛けられるかい!』ってね」
「にゃあ、治癒魔法には大金が掛かるにゃん?」
「ネコちゃんみたいに気軽に治してくれる人と大金を取る人の二通りに別れるね、治療院を開いてる人は大概、大金を取る人だけど」
ダイナの母さんが説明してくれる。
「商売でやるなら安くできないのも理解できるにゃん」
「ネコちゃんは治療院を開かないの?」
ダイナが聞いてくる。
「にゃあ、オレは冒険者の方が性に合ってるにゃん、それに六歳児ではいろいろ無理にゃんよ」
ダイナのばあちゃんは奥の暗い部屋にいた。
椅子に座って背中を丸めてる。
「おや、皆んなでどうしたんだい?」
目を閉じたままなので音でわかったみたいだ。
「ダイナが赤ん坊を連れて帰って来たんだよ、それとお客さんだよ」
「お客? 子供が一人いるけどその子かい?」
今度は目を開けた。完全に失明してるわけじゃ無さそうだ。
「そうにゃん、ばあちゃんの目を診に来たにゃん」
「おやおや、私の目を見てくれるのかい、それはありがたいねえ」
子供をあやす口調だ。
「ちょっと失礼するにゃん」
肘掛けに置かれた手に掌を重ねる。
エーテル器官に魔力を送りつつ身体のダメージを調査する。
それほど難しい症状ではない。
たぶん白内障だ。
「治すにゃん」
治癒の青い光が部屋を満たす。エフェクトをマシマシにゃん。
「終わったにゃん」
ばあちゃんが目を開けた。もう眼球の濁りはない。
「おやまあ」
目を大きく見開いてまぶたをパチパチさせる。
「どうにゃん?」
「ちゃんと見えてるよ、何だい随分と薄暗い部屋だね」
「母さん、それは自分で言ったんだろう、どうせ見えないんだから暗くていいって」
「いま、明かりを点けます」
タリアがランプを持ってきた。やっぱり魔力で光る魔導具だ。
「目も見えるし身体が軽くて、まるで若返ったみたいだよ、これは全部ネコちゃんが治してくれたのかい?」
「そうよ、おばあちゃん」
ダイナが答えた。
「こんなに小さいのにネコちゃんは凄腕の魔法使いなんだね、わかった、ネコちゃんはうちの子におなり」
「母さん、いきなり何言ってるんだ」
ばあちゃんの暴走に慌てるダイナの父さん。
「オレは冒険者だから、ここの子にはなれないにゃん、それにシャンテルとベリルをプリンキピウムのおばあちゃんちに連れていくと約束したからダメにゃん」
「ネコちゃんは偉いんだね」
「あたしも偉いよ」
「おや、妖精さんも一緒かい、これはいいことが有りそうだね」
「目が見えたんだから、母さんはもう十分にいいことあっただろう?」
「それもそうだったね」
「にゃあ、オレはロッジに戻るにゃん、ダイナは赤ちゃんをばあちゃんに見せてあげるといいにゃん」
「そうだったね」
ダイナが赤ちゃんをばあちゃんに見せたところで、オレとリーリはちょろちょろとロッジに戻った。




