表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/357

開戦三日目にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年一〇月十六日


 ○リーリウム州 廃道脇 猫スフィンクス 頂上


 開戦三日目。

 オレたちは王都から約八〇〇キロ弱の位置に留まって朝を迎えた。

 猫ピラミッド改めスフィンクスの頭の上で朝日を浴びている。停戦はちゃんと守られているらしく空から無粋な鉄球は降ってこない。

「今日もいい天気にゃん」

 外気は日が出てからも一桁(摂氏)のままだった。防御結界の外なら息が白くなる気温だ。

 こっちの温度の単位は基準が曖昧なのでこのまま摂氏で行こう。

 チビたちは朝食前の朝のラジオ体操代わりに魔法馬で猫スフィンクスの周囲を走り回っている。同時に宮廷魔術師並のしかも上位クラスの探査魔法を打っていた。

 オレたちはいろいろやり過ぎた様だ。


『マコト、起きてるか?』

 ブラッドフィールド傭兵団の団長ユウカ・ブラッドフィールドから念話が入った。

『にゃあ、起きてるにゃんよ』

『戦争お疲れ』

『にゃあ、オレはほとんど移動しかしてないにゃん』

『フェルティリータ連合の最新情報が入った』

『何か大きな動きがあったにゃん?』

『領内に魔獣の侵攻が確認された』

『にゃあ、フェルティリータ州の遺跡で魔獣が出たって情報、本当だったにゃんね』

『でも遺跡から湧き出したわけじゃないぞ、フェルティリータ州の西隣で連合の一つエクウス州を通過して遺跡に入り込んだらしい』

『エクウス州と言ったらオレの領有になったオーリィ州とクァルク州の隣にゃん』

 オーリィ州とクァルク州も東隣で領民の避難を拒絶した領地だ。

『魔獣の侵攻ルートはエクシトマ州の魔獣の森からオーリィ州とクァルク州を通ってエクウス州に抜け更にフェルティリータ州の遺跡に入り込んだらしい』

『オーリィ州とクァルク州それにアブシント州だったら、今朝までに入り込んだ魔獣は全て始末したにゃん』

『するとオーリィ州とクァルク州からの流入は止まってるのか』

「そのはずにゃん』

『エクウス州も通り抜けただけらしい、現在はいない様だ』

『にゃお、フェルティリータに入り込んだ魔獣の数はわかるにゃん?』

『いや、正確なところはわからない、いまだにかなりの数が目撃されているから、別の侵攻ルートが作られてるのかもしれない』

『フェルティリータ州のどの遺跡が魔獣にやられたかわかるにゃん?』

『確認したのはクーストース遺跡群に分類されてる四つだ』


 フェルティリータ州内にあるクーストース遺跡群は以下の四つ。

 ・アクティラ遺跡

 ・コルウス遺跡

 ・レプス遺跡

 ・タルバ遺跡


『いずれも本格的な発掘はまだ行われていない遺跡だ』

『四つ全部に魔獣が現れたにゃんね?』

『そうだ、現在フェルティリータ連合の戦闘ゴーレムと交戦状態になっている』

『にゃあ、戦闘ゴーレムは魔獣に勝てそうにゃん?』

『どうだろう? 戦闘が続いてるということは仕留め切れてない証拠だと思うが』

『にゃお、そうなると戦争の続行は無理と違うにゃん?』

『いや、無理でも止める人間がいなければ続けるしかないだろう、そもそも上から下まで混乱している状態だ、今回の停戦だって各方面からの根回しで実現したのだから』

『にゃあ、フェルティリータを仕切ってる人間がいないにゃん?』

『命令はセザール・マクアルパインの名前で出されているが、我々が調べた限りヤツは現在も失踪中のままだ』

『セザール・マクアルパインが黒幕の可能性がまだ残ってるにゃんね』

『いや、たぶんそれはない、家臣たちの多くが懐疑的だ』

『でも、命令を無視したりはしないにゃんね』

『命令は特別な通信の魔導具を介して出されるらしく、それは正当な領主しか使えないそうだ』

 魔導具の仕様は、前宰相ニエマイア・マクアルパインの記憶からオレも情報を共有している。オリエーンス連邦時代の出土品で設定した特定の人物からの念話を受信することができる。片方の使用者が限定された無線機みたいなモノだ。

 なりすましは不可能とされる魔導具だが何もそれをイジる必要はない。

 オレが予想する黒幕はオリエーンス連邦時代の魔法に明るい人間だ。そいつなら簡単にセザールをかたれる。方法は人工エーテル器官だ。それにセザールのエーテル器官をコピーすればこと足りる。

『にゃあ、黒幕なら成りすましは可能にゃん』

『つまりマコトも偽の命令だと思うわけか?』

『何と言ってもセザール・マクアルパインの人となりからすると、天下を欲しがるタイプじゃないにゃん』

『ヤツの周囲の人間もそう証言している』

『にゃあ、もし黒幕じゃなくて本人が命令してるなら、セザールが特異種だったってことなるにゃんね』

『特異種か』

『にゃあ、でもヤツが特異種だったらオレに宣戦布告なんてさせる間を与えることなく革命を宣言して内戦を始めているはずにゃん』

『それはあるか』

『内戦をひとまず回避できたのはラッキーにゃん、でも、この幸運が何処まで続くかはわからないにゃんよ』

『マコト、オーリィ州を始めとする三つの州は助かったようだが、フェルティリータはどうだ、魔獣の森に沈むのか?』

『このまま放置すればそうなるにゃんね、それに魔獣が遺跡に居座ってるとしたらかなりマズいにゃん』

『マズいとは?』

『フェルティリータを贄にした禁呪の可能性にゃん、もしそうなら領民の大半が命を落とすにゃん』

『領民がグールにされたアポリトと同じようなことになるのか?』

『グールになるかどうかはわからないにゃん、でも人口の多いフェルティリータにゃん、アポリト以上の惨劇になるのは間違いないにゃん』

『止められそうか?』

『いまの段階では何とも言えないにゃん、オレたちにやれそうなのは遺跡の破壊と魔獣の排除ぐらいにゃん』

『私のところのヤツらは引き上げた方が良さそうだな、王国派側の境界門は閉鎖されてるからマコトの領地を抜けさせて貰うことになるが』

『にゃあ、フェルティリータ連合のエクウス州からオレのオーリィやクァルク側に抜けるなら止められないはずにゃん、住民も含めて出来るだけ多くの人が避難することをお勧めするにゃん』

『わかった、直ぐに動かそう』


 ユウカとの念話を終えると間を置かず研究拠点の猫耳から緊急連絡が入った。

『にゃあ! お館様、魔獣にゃん!!』

『にゃ!?』

『プリンキピウムの森に魔獣の越境を多数確認にゃん! かなりの数にゃん!』

『街に向かってるにゃん?』

『違うにゃん、ヤツらの目標はプリンキピウム遺跡にゃん!』

『にゃあ! 直ぐに迎撃にゃん! 魔獣が遺跡に取り付くのを阻止するにゃん!』

『了解にゃん! オートマタも使用していいにゃん?』

『にゃあ、出しまくって構わないにゃん! あっちが数で押すならこっちも数で対抗するにゃん!』

『了解にゃん! 魔獣を一匹残らず殲滅するにゃん!』

「プリンキピウム遺跡は物理障壁で囲ってマナを徹底的に抜くにゃん』

『にゃあ! 了解にゃん』

『でも、危なくなったら逃げるにゃんよ』

『にゃあ、ウチらの逃げ足は世界一にゃん』


『各拠点も魔獣に備えてオートマタを配置するにゃん!』

『『『にゃあ!』』』


 続けてアルボラ州の領主でもあるカズキにも連絡を入れる。プリンキピウム遺跡はカズキの領地だ。

『にゃあ! オレにゃん!』

『えっ、マコト!? どうしたのこんなに朝早く』

 カズキを叩き起こした。

『にゃあ、魔獣にゃん! プリンキピウムの森に越境して遺跡に接近してるにゃん! 規模は大発生レベルにゃん!』

『えっ!? 大発生?』

『いつまでも寝ぼけてる場合じゃないにゃん!』

『いや、大丈夫、じゃなくて、全然大丈夫じゃないよ!』

『にゃあ、魔獣どもの目標はプリンキピウムの遺跡にゃん、数が多いから人間の匂いに釣られて何匹か街や集落に逸れる可能性があるにゃん』

『状況は理解したよ、ボクはどうすればいい?』

『プリンキピウムの遺跡を潰すか何かするにゃん、あれが魔獣を呼び寄せてるにゃん』

『ボクが潰すの?』

『にゃあ、あの結界はオレたちの手に余るにゃん』

『本当に?』

『オレのじゃないから触りたくないにゃん』

『厳密には王宮管理の重要遺跡だからボクのじゃないよ』

『王宮は遺跡の凍結と同時に所有を放棄したはずにゃん』

 王都拠点から情報が上がっていた。

『良く知ってるね』

『にゃあ、魔獣の侵攻はある程度予想していたにゃん、猫耳たちが魔獣を相手にしてる間にどうにかするにゃん』

『プリンキピウム遺跡だったらマコトに譲渡するよ』

『にゃお、要らないにゃん』

『なんで、重要遺跡だよ!』

『結界で魔導師がはじけ飛ぶ様なヤバい遺跡は要らないにゃん、それに国を滅ぼす禁呪に関係してるかもしれない、超ヤバい物件にゃん』

『遺跡もマコトの知行地にしておけば良かったよ』

『手遅れにゃん』

『いまこっちにも魔獣発生の一報が入ったよ、それと未確認情報だけどレークトゥス州とタンピス州の遺跡にも魔獣が入り込んだらしい』

『レークトゥスとタンピスにゃん!?』

 レークトゥス州はチャドのところ、タンピス州は王都の西隣にある領地で、いずれの交通の要所で豊かな土地だ。

『こっちも大騒ぎだから後で連絡するよ、プリンキピウム遺跡はマジで譲渡するから好きにして構わないよ、ボクは州都の防衛で精一杯なんだ』

『にゃあ、仕方ないにゃんね、遺跡のある辺りまで貰うにゃん』

『プリンキピウムからコルムバまでマコトの領地にしていいよ、分割と譲渡の手続きはボクがやっておくから、魔獣の件は任せたよ、マコト公爵領の方があの辺りも発展が期待できるんじゃないかな』

『その前に魔獣の森に沈むかもしれないにゃん』

『それが運命なら仕方ないよ、マコトたちも無理はしなくていいから』

『にゃあ、もちろん無理はしないにゃん』


 魔獣の大発生が現実となって状況が慌ただしくなって来た。



 ○リーリウム州 廃道脇 猫スフィンクス ブリーフィングルーム


 猫スフィンクスのブリーフィングルームで猫耳たちと集まった情報を分析し指示を各拠点に出す。

『プリンキピウムの森に侵出した魔獣の数は判明にゃん! 約二〇万にゃん!』

『オートマタは現時点で二〇〇万が展開完了にゃん、順調に押し返してるにゃん』

『にゃあ、そのまま魔獣の森のマナゼロ地帯を拡張にゃん!』

 研究拠点のあるレオ州は、マナゼロ地帯が拡大しておりその領域の魔獣はすべて駆逐されている。すでに魔獣の森ではなく人の住める土地に改良されていた。

 今回の魔獣はレオの西隣のウィルゴからの侵攻だ。

『ウィルゴもゴリゴリ行くにゃんよ!』

『にゃあ! お館様の為に頑張るにゃん!』

『ウィルゴにも拠点を作る必要有りにゃんね』

『にゃあ、このまま魔獣を押し込みながら拠点を追加にゃん』

『ケラス方面もアウルムに繋がる魔獣の道から魔獣があふれ出してるにゃん』

『そちらもオートマタで対応にゃんね』

『にゃあ、数は魔獣の十倍でいいにゃん?』

『まずはそれで頼むにゃん、魔獣の道が片付いたらそのまま魔獣の森のマナゼロを開始するにゃん』

『ケラスの魔獣の森も解放にゃんね』

『にゃあ、大発生する前に出来るだけ数を減らすにゃん』

『了解にゃん』

『魔獣どもにオレたちの恐ろしさを知らしめるにゃん!』

『『『にゃあ!』』』


 続いて王都拠点から念話が入った。

『レークトゥス州とタンピス州に魔獣の侵攻を確認したにゃん』

『にゃあ、襲撃されたのはクーストース遺跡群にゃんね?』

『そうにゃん』

『進行ルートは何処にゃん?』

『にゃあ、オーリィ州からアブシント州までをウチらが押さえたせいで、魔獣はフェルティリータ連合の中で北にあるカペル州から侵攻したにゃん』

『フェルティリータ連合の北側に魔獣の森があるにゃん?』

『そうにゃん、カペル州からフェルティリータ州、ボース州、クプレックス州、タンピス州、レークトゥス州の順番で侵入されたにゃん』

 大雑把に言えば魔獣は北から南東方向に移動したことになる。

『クプレックスもやられたにゃん?』

 ヤギと魔法騎士団のクプレックス州だ。

『通過されただけだから他に比べれば軽微な被害にゃん、ただ今後、魔獣の道として固定化されるとマズいにゃん』

『それでもこのままだと魔獣の森化するタンピスとレークトゥスよりはマシにゃん』


 タンピス州のクーストース遺跡群の遺跡は以下の三ヶ所。

 ・パピリオ(州都)

 ・アピス

 ・セルペンス


 レークトゥス州のクーストース遺跡群以下の二箇所。

 ・プラティヌム

 ・ラピス


『タンピス州は州都パピリオが壊滅状態みたいにゃん』

『州都に遺跡があるのがマズかったにゃんね』

『レークトゥス州は前回の軍隊蜂の襲撃に引き続き州都直撃を免れたのは不幸中の幸いにゃん、でも、強力な防御結界の影響で州都には通信の魔導具も念話も通じない状態になってるにゃん』

 境界門が閉ざされたが魔獣には効果が無かった様だ。

『タンピス州の州都パピリオにも魔獣避けの刻印があったのと違うにゃん?』

『にゃあ、効いてないみたいにゃんね、州都をやられた貴族派の三州と同じにゃん』

『貴族派の貧乏領地とタンピスを一緒に一緒にするのは乱暴にゃんね』

『にゃあ、それが結界のレベルは同じ程度みたいにゃん』

『どういうことにゃん?』

『最低レベルの簡易結界に毛が生えた程度のモノをここ一〇〇年ほど使ってたみたいにゃん』

『王都にも近く魔獣の森から離れているからケチったにゃんね、それでも一匹程度だったら何とか防げたはずにゃん』

『にゃお、それだと今回の数では無理にゃんね、侵攻した魔獣の数はわかるにゃん?』

『タンピス州が三〇万、レークトゥス州は二〇万を越えてるにゃん』

『かなりの数にゃんね、王宮はどうしてるにゃん?』

『王国軍には特に命令は出てないみたいにゃん』

『にゃあ、タンピスとレークトゥスには向かわせないにゃん?』

『行かないみたいにゃん』

『王都守備隊には外縁部でも他所の人間は貴族以外を通さないように通達が出されてみたいにゃん』

『庶民は通れないにゃん?』

『そうにゃん、目的は避難民の受け入れ拒否みたいにゃん』

『ここに来て王宮もフェルティリータ連合みたいなことを始めたにゃんね』

『にゃあ、そうにゃん』

『アナステシアス・アクロイド公爵のリアンティス州はどうにゃん、タンピスの北隣だから近いにゃんよ』

 国王派の中心人物だ。

『にゃあ、リアンティス州は残念ながら早々に受け入れ拒否を宣言したにゃん』

『にゃお、ここは侠気を見せるところと違うにゃん?』

『ない袖は振れないにゃん』

『お館様、ハリエット様から避難民受け入れ打診の要請が来てるにゃん』

『にゃあ、了解にゃん、レークトゥスを通ってケラスに運べるにゃん?』

『魔獣はレークトゥスの西側に集中しているから東側を通行すればルート的に問題ないにゃん』

『にゃあ、了解にゃん、ハリエット様と直接話すにゃん』


 オレはハリエットに念話を送った。

『にゃあ、オレにゃん』

『マコトか、要件は聞いてるな?』

『にゃあ、避難民の受け入れにゃんね、旧男爵領は戦争中だから受け入れは無理にゃん、その代わりケラスなら可能にゃん』

『助かる』

『にゃあ、何で避難民を王都に入れないにゃん?』

『陛下の許可が下りない、というより王宮にいる法衣貴族が明確に拒否している』

 国王の意思ではなく法衣貴族たちの意思か。

『にゃあ、何か不都合でもあるにゃん?』

『受け入れる場所が無いとの回答だ』

『外縁部の東側がまるまる空いてるはずにゃんよ』

『王宮は非常時に身元不明の人間を足元に入れたくないのだろう』

『わからないではないにゃん』

『マコトにばかり負担を掛けてしまうな』

『にゃあ、それは構わないにゃん、避難民はケラスで受け入れるので通過するレークトゥスに王国軍から通達して欲しいにゃん』

『了解した。レークトゥスもかなり混乱してるが通行証を王国軍が発行するから通過して構わない』

 通行証で籠城モードのレークトゥスを無理やり通れということらしい。それでも先日の軍隊蜂の襲撃で東部の地理には詳しくなったからなんとかなる。

『直ぐに救援と移送を開始するにゃん、新軍の連中も使わせて貰うにゃんよ』

『ああ、使ってくれ、マコトも非常時に済まない』

『にゃあ、避難してる人たちに比べればどうってことないにゃん』


 ハリエットとの念話を終えたオレは、避難民の受け入れを猫耳たちに指示する。

『にゃあ、聞いての通りにゃん、新軍の連中を使って王都に向かってる避難民をレークトゥス経由でケラスのアウグルに保護するにゃん』

『了解にゃん、新軍のヤツらには給料分働いて貰うにゃん』

『頼んだにゃん』

 アウグルはケラスとレークトゥスの境界に新たに作った貿易の為の街だったが、いまのところ避難民の受け入れが主な機能になってる。

 小麦やケラス特産の毛虫の毛皮などを商会や冒険者ギルドに卸しているが、現時点では小麦以外の出荷はストップになっていた。

『こちら王都拠点にゃん、犯罪奴隷とそれ相当の犯罪者はいつも通りでいいにゃん? 管理下のチンピラは放置で』

『にゃあ、問題ないにゃん』

『こちら、アウグル拠点にゃん、簡易宿泊施設はまだ余裕があるから直ぐに受け入れ可能にゃん』

『にゃあ、了解にゃん、各自いい感じに頼むにゃん』

『『『にゃあ!』』』

 ざっくりとした指示でOKなのは、オレたちが思考共有しているからだ。



 ○タンピス州 クプレックス街道


 王都の外縁部の境界門から猫耳が運転する荷台に新軍の兵士たちを乗せたトラックがタンピス州に向かって何台も走り出す。


 タンピス州は王都の西隣なのですぐに避難民と遭遇した。


 猫耳たちは、王都には入れないことと代わりにケラスに作った宿泊施設に案内することを説明した。

「にゃあ、マコト・アマノ侯爵が全員を保護するから安心して欲しいにゃん」

「「「おおお」」」

 猫耳たちの説明を聞いた避難民は一様に安堵の表情を浮かべた。

「順番に乗るにゃん」

 その場でトラックを再生し避難民を乗せて次々とケラスに向かう。運転は新軍の兵士が担当する。



 ○リーリウム州 廃道脇 猫スフィンクス ブリーフィングルーム


『お館様、自分たちの馬車で向かうと言ってる人はどうするにゃん?』

『にゃあ、通行証がないとレークトゥスには入れないにゃんよ、馬車ごと格納して運んでやるといいにゃん』

『了解にゃん』

 タンピス州からの避難民たちは馬車を持ち出した人が多いらしい。

『魔獣の襲撃前に逃げ出せた人が多かったみたいにゃん、防御結界はいまひとだったけど早期警戒網は優秀にゃんね』

『人的被害がないのは良かったにゃん』

『にゃあ、守銭奴にしては良くやったと思うにゃん』

『そうにゃんね』

 守銭奴は、タンピス州の領主ファビウス・ボールディング伯爵のあだ名だ。王国有数の大富豪だから有名税みたいなものだ。

 レークトゥスの人間がケチの代名詞になってるが、こちらは有名税でも何でもなくて本当のことだから仕方がない。

『にゃあ、その守銭奴のファビウス・ボールディング伯爵がお館様とお話をしたいそうにゃん』

 王都境界門にいる猫耳から連絡が入った。

『にゃあ、声に出して守銭奴とか言ってないにゃんよね?』

『それは大丈夫にゃん』

『だったらいいにゃん、ボールディング伯爵に通信の魔導具を渡して欲しいにゃん』

『にゃあ』

『はじめまして、マコト様、私はタンピス州の領主ファビウス・ボールディング伯爵です』

 猫耳から通信の魔導具を渡されたボールディング伯爵の声が聞こえた。

 姿形も猫耳の目を通して確認した。

 五〇近いはずだがその姿は三〇手前に見える。眼鏡を掛けた涼しい眼差しの美形だ。

 父娘だけにアガサに似ている。ふたり並べたら兄妹にしか見えない。

『にゃあ、マコト・アマノにゃん、アガサには世話になってるにゃん』

 オレが留守にしているネオケラスの表側を仕切ってくれてる。新しく造った街も動き出しているので日々忙しく働いて貰っていた。

『いえ、至らぬ娘を使っていただき感謝しております』

『今回は災難だったにゃん』

『マコト様が、我が領民を保護して頂けなかったら更なる窮地に陥るところでした。感謝しております』

『にゃあ、困っている時はお互い様にゃん』

『マコト様の知行地にもクーストース遺跡群の遺跡があったと記憶しておりますが、どうかお気を付け下さい』

『にゃあ、確かにプリンキピウム遺跡があるにゃん』

『二週間ほど前のことです。我が領の遺跡が絶対防御の様な異常な結界を勝手に張り巡らし始めたのです』

『にゃあ、タンピス州のクーストース遺跡群の遺跡にゃんね』

『そうです、我が領にある三つの遺跡すべてに同じ状態となりました』

『にゃあ、プリンキピウム遺跡でも同じだったにゃん』

『レークトゥスの二つの遺跡、そしてフェルティリータの四つの遺跡でも同様の反応があった様です』

『フェルティリータの遺跡も同じにゃんね』

『そうです、そしていずれも魔獣の被害を受けています』

『にゃあ、確かに偶然とは言えないにゃんね』

『プリンキピウム遺跡もお気を付け下さい』

『にゃあ、魔獣は現れてるにゃん、でも人のいない場所だから何とかなったにゃん』

『そうでしたか、プリンキピウムにも現れていましたか』

 ファビウス・ボールディング伯爵なら、オレが教えなくてもプリンキピウムの森に魔獣が出た情報を直ぐに掴むことが出来ただろう。

 オートマタで蹴散らしたことまでは掴めないと思うが。

『では、フェルティリータの州都カダルで、先月新しい遺跡が発見されたらしいのはご存知ですか?』

『にゃ、それは知らないにゃん』

『フェルティリータでは、それがクーストース遺跡群十一番目の遺跡ではないかと囁かれているそうです』

『にゃあ、クーストース遺跡群十一番目の遺跡にゃんね、それは興味深いにゃん』

 遺跡バカのエドモンドならなりふり構わず駆け付けそうだ。

 ファビウス・ボールディング伯爵は王都内にある自分の別宅に向かった。そこから領地再建の指揮を取るそうだ。


 オレは猫スフィンクスのブリーフィングルームでフェルティリータ州の州都カダルの地図を再生した。

「遺跡が有るとしたらカダルの城の真下が怪しいにゃんね」

『にゃあ、エマはどうにゃん?』

 王都拠点にいる元宰相ニエマイア・マクアルパインのエマに問い合わせた。

『残念ながらウチはまったく知らないにゃん、カダルに遺跡が隠されているなんて伝承も聞いたことがないにゃん』

『後から作ったのと違うにゃん?』

『にゃあ、それはないと思うにゃん、例え一晩で造ったとしても州都の変更は領主にはわかるものにゃん』

『ボールディング伯爵の情報が間違ってる可能性はないにゃん?』

『にゃあ、天下の守銭奴ボールディング伯爵の情報ならかなり信憑性が高いにゃん、少なくともカダルには遺跡かそれに準じた何かがあるはずにゃん』

『現地に行けばわかるにゃんね』

『『『にゃあ!』』』

 地図の上にリーリとミンクが舞い降りた。

「マコト、ミンクがね、何だか王子の居場所がわかったんだって」

「何だか王子にゃん?」

「何だかじゃなくてエドモンドなの」

 ミンクがリーリの適当発言を訂正した。

「にゃあ、あの遺跡バカにゃんね」

「だいたいそんな感じなの」

 ミンクもエドモンドの遺跡バカは否定しなかった。

「にゃ、ミンクはエドモンドを知ってるにゃん?」

「うんなの、エドモンドは美味しい物をくれるから好きなの、でも、たまにいなくなっちゃうのが玉にキズなの」

「にゃあ、ミンクはエドモンドと一緒にいたにゃんね」

「そうなの」

「何で急にエドモンドの居場所がわかったにゃん?」

「それはね、皆んながカダルって街に探査魔法を打ったからだと思うよ、おかげであたしたちにも見えたんだよ」

 リーリが解説してくれた。

「カダルにゃん、するとエドモンドの居場所ってカダルの遺跡にゃん?」

「そうなの、カダルってところにある遺跡なの」

 ミンクが断言する。

「にゃあ、ミンクはカダルの何処に遺跡があるかわかるにゃん?」

「わかるの、この辺りなの」

 ミンクは地図の上を歩いて遺跡が有るであろう場所で立ち止まった。

「カダルの北西地区にゃんね、地図によれば貴族地区にゃん」

 大きな屋敷が集まっている場所か。

「この地下に遺跡が有ってエドモンドがいるにゃんね」

「そうなの」

「ここもクーストース遺跡群の一つなら魔獣が呼び寄せてる可能性が高いにゃんね」

『にゃあ、魔獣の侵攻を確認したにゃん、ミンクの情報どおりカダル北西部の貴族地区がついさっき魔獣に襲われたにゃん』

 エマから報告が入った。

「ミンクは、いまエドモンドが無事かどうかわかるにゃん?」

「いまは無事みたいなの、マコトたちがエドモンドを助けてくれるの?」

「にゃあ、もちろん助けるにゃん、遺跡バカ本人が嫌がるかもしれないからその時は相談にゃんね」

「エドモンドはご飯より遺跡が好きなの」

「にゃあ、そうにゃんね、それで迷惑かけまくりのおバカ王子にゃん、助け出したらまずは説教タイムにゃん」

「あまりいじめないで欲しいの」

「大丈夫にゃん、いじめじゃなくて説教にゃん」

「エドモンドは聞く耳を持たないの」

 ミンクはエドモンドの人となりを良くわかっているようだ。

「にゃあ、それと何処かにかくまう必要ありにゃんね」

 このまま王都に連れ帰ったら良くて縛り首で、下手すると斬首の上に晒し首だ。どっちにしても魂は天に還ってしまう。


 まったく面倒ばかり掛けてくれる王子様にゃん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ