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停戦にゃん

 ○リーリウム州 廃道脇


『マコト、停戦開始だよ』

『にゃあ、了解にゃん』

「全車、停車にゃん!」

 カズキの声を聞いたオレは声を張り上げて停車を命令した。

「「「全車停車にゃん!」」」

 トラックの車列を停車させた。ちょうど日没だ。

「停戦になったから鉄球は落ちて来ないにゃんね」

 運転手を務めた猫耳が空を見上げた。

「にゃあ、ちょっと寂しくもあるにゃん」

『のんきだな、マコトは』

『にゃあ、慣れるとそんなものにゃん』

『それはわかるけど』

 念話を続けるオレは猫耳に抱っこされてトラックから運び出された。

『カズキはフェルティリータ連合を探ってないにゃん?』

『まあ、ちょこちょこっとはね』

『あちらさんもかなりマズいことになってると違うにゃん?』

『ボクの受けた報告ではどうも内乱状態になってるみたいだね、本当は戦争なんてできる状態じゃないよ』

『にゃあ、オレより詳しいにゃん』

『そりゃ、こっちに来て長いからいろいろ伝手はあるさ』

『エドモンド王子の居場所はわからないにゃん?』

『マコト、サラッとトップシークレットな事柄をボクに振らないでくれるかな?』

『にゃお、そうは言っても黒幕は王子とフェルティリータ連合を使って本気でこの国を潰す気にゃんよ』

『使えない凡庸な国王が交代するぐらいなら構わないんだけど、それだけじゃ収まらないんだよね?』

『にゃあ、黒幕の狙いはそこじゃないにゃん』

『マコト、黒幕は本気でこの国を魔獣の森に変えるつもりなんだよね?』

『黒幕はともかく、フェルティリータ連合はこの国を魔獣の森に沈めるのが目的としか思えない行動を取ってるにゃん』

『ユウカにも聞いたけど、黒幕はイカレた転生者の可能性があるって?』

『にゃあ、状況証拠からオレはそう考えるにゃん、できることなら転生者は勘弁して欲しいにゃんね、まったく勝てる気がしないにゃん』

『ボクも同感だよ』

 カズキの深い溜め息が伝わって来る。

『転生者かこっちの人間か知らないけど、イカレた魔法使いがフェルティリータ連合の中枢を操っているのは間違いないにゃん、カズキは何かわからないにゃん?』

『いや、探ってはいるんだけど何も出てきてないよ、ユウカのところでも空振りらしいね』

『上手く隠れてるにゃん』

『マコト、黒幕と思しき魔法使いが作り出す人を操る特異種ってどんな感じ?』

『オレが知ってるのは精神を乗っ取る系にゃん、その特異種は人間の強い感情を糧にしてるにゃん、特に断末魔を好むにゃん』

『転生者はどうだろう?』

『にゃあ、転生者はサイコパスにゃんね、魔力があってその知識も長けてるにゃん、特にオリエーンス連邦の呪法に通じてるにゃん、そして厄介なことに王宮から封印図書館を持ち去ってるにゃん』

『うわ、サイコパスに封印図書館か、最悪の組み合わせだ』

『にゃあ、オレも同感にゃん』

『これはボクも本気で州内の守りを固めないといけないか』

『にゃあ、最悪、オレのホテルに住民を集めてくれればいいにゃん、マナの濃度が上がっても何とかなるにゃん』

『助かるよマコト、ボクでは住民を全部守るなんてできないから』

『にゃあ、誰だって一人じゃ無理にゃん、オレのところは猫耳たちがいてくれてるからどうにかなってるだけにゃん』

『気の許せる仲間が近くにいるって羨ましいよ』

『にゃあ、カズキには家族がいると違うにゃん、猫耳たちはオレにとって家族の代わりにゃん』

『そうだけどね、家族と仲間はやっぱり違うよ』

 何か遠い目をしてるのがわかる。

『エドモンド王子と魔導師のマリオンはどうにゃん?』

『そうだね、彼らは遺跡仲間かな』

『にゃあ、改めて聞くにゃん、ふたりの行方はわからないにゃん?』

『ボクも探ってるけど、現時点ではフェルティリータ連合内での足取りは掴めていないよ』

『わざわざ攫って行ったんだから、殺してはいないと思うにゃん』

『そう願うよ』

『にゃあ、王子自体は人畜無害の遺跡バカまでは良かったけど、もうちょっと後先を考えてくれると助かったにゃん』

『学者にたまにいるタイプだね、フェルティリータ連合の盟主になったセザール・マクアルパイン教授もそんな感じだよ』

『セザール教授の居場所はどうにゃん?』

『教授も行方不明だね、エドモンド殿下と一緒に軟禁されてるんじゃないかな? 少なくとも転生者ではないよ』

『エドモンド殿下と一緒に姿を消したは魔導師のマリオン・カーターはどうにゃん? カズキは否定したけど、こいつが黒幕だと辻褄が合うにゃん』

『マリオンかい?』

『にゃあ、あの男の魔力は半端ないにゃん』

『誤解しないでほしいんだけど』

 カズキはそう前置きした。

『マリオンの父親はケイジ・カーターなんだよ』

『にゃ、あのケイジ・カーターにゃん?』

『本名をスズガ・ケイジ、ボクとユウカで倒した転生者だよ』

『親子だったにゃん?』

『そう、だからマリオンは転生者の資質を色濃く受け継いでいるんだよ』

『にゃあ、だから普通じゃない魔力を持ってたにゃんね、これで納得が行ったにゃん』

『父親と彼は違う、それはボクが保証する』

『ケイジ・カーターだっておかしくなるまではいい人だったと違うにゃん?』

『それはそうなんだけどね、でもおかしくなってからも彼の基質はサイコパスではなかったよ、善悪の区別はちゃんと付いていた、でも止められなかったんだ』

『もしかしてカズキがマリオンを育てたにゃん?』

『ケイジに頼まれたからね、援助はさせて貰ったよ』

『マリオンからするとカズキは複雑な存在にゃんね』

『そうだね、それは否定しない』

『にゃあ、わかったにゃん、マリオンについては保留するにゃん』

『マリオンは特異種ではないよ、ボクが保証する』

『それはマリオンのエーテル器官をちゃんと確認しての発言にゃん?』

『マコトじゃないんだから、そんな芸当できるわけないよ』

『にゃあ、マリオンのエーテル器官は初めて会った時に確認してるにゃん、あの時は問題なかったにゃんよ』

『でしょう?』

『でも、いまはわからないにゃん』

『ボクも例え特異種でも助けてやってくれとか、甘いことは言わないよ』

『にゃあ、カズキはマリオン・カーターもセザール・マクアルパイン教授も黒幕に利用されてるだけだと思うにゃんね?』

『そういうこと、マコト的にエドモンド殿下はどう?』

『にゃあ、エドモンド殿下もエーテル器官を見た限り問題なかったにゃん、それに王子が特異種ならもっとスマートに事が運んでるにゃん』

『スマートに滅亡か』

『にゃあ、そうにゃん』

『セザール教授もただの学者バカだから利用価値は領主としての名前ぐらいかな』

『にゃあ、そうにゃんね』

『セザール教授の場合、エドモンド殿下を連れ出してる点はマイナスだけど』

『まさか、ここに来てふたりして本気で遺跡を掘ってるとかは無いにゃんよね?』

『……』

『何故、黙るにゃん?』

『エドモンド殿下にセザール教授なら有りそうかなって、あのふたりならむしろその可能性の方が高いかもしれないよ、そしてマリオンはふたりのお守りをしている』

『本当にそうなら、ヤツらがどうなろうとオレの関知するところではないにゃん』

『ボクも関知しない、巻き込まれたマリオンは助けて欲しいけど』

『カズキも何かわかったら教えて欲しいにゃん』

『わかってるよ、マコトも状況に変化が有ったら連絡を頼むよ』

『にゃあ、なるべく人が死なない方法を探すにゃん』

『マコトは優しいね』

『人がたくさん死ぬと魔獣が来るにゃん』

『そうだったね』

『失敗して尻尾を巻いて退散する時は直ぐに連絡するにゃん』

『その場合ってボクらは生き残れるのかな?』

『にゃあ、転生者は物理的に食べられでもしない限り死なないにゃん』

『そうなんだ』

『記録に依ると魔獣は最高二〇〇万頭の群れを作って押し寄せて来るらしいにゃん、それさえ乗り切れば何とかなるにゃん』

『逃げ場がないよ』

『にゃあ、領主様の城ならいい線行くにゃん、一〇頭は止められるにゃん、他にはない堅牢さにゃん』

『二〇〇万頭の群れを前にすると誤差の範囲内だよ』

『後は領主様のやる気でカバーにゃん』

『マコトのホテルはどうなの?』

『周囲のマナを吸い取るから、魔獣は近付かないにゃん、それでも近付いたら殺処分するにゃん』

『マコトたちって普通に魔獣を狩るよね?』

『日頃の努力の成果にゃん』

『いや、他の人間には努力しても無理だから』

『にゃあ、カズキだって隠し持ってるアレを出せばいいと違うにゃん?』

『な、何のことかな?』

『にゃあ、お城の地下に隠してあるアレにゃん』

『な、何で知ってるかな?』

『前の宰相が知ってたにゃん、地下に巨人型の戦闘ゴーレム二〇騎が隠してあるなんて男のロマンにゃん』

『うおおお、知られていたのか!?』

『にゃあ、最近マクアルパイン家の魔導具の調査と引き換えに口を割った奴がいるにゃん』

『エイハブ・マグダネルか!?』

『正解にゃん、エイハブ・マグダネル博士にゃん』

『彼に見せたのは失敗だったか』

『目の前に餌をぶら下げられるとダメな人間は、外に出さないか中に入れないことにゃんね』

『多分、宰相に最初から狙われていたんだと思う』

『悪気がないから困るにゃん』

『マコトにも迷惑を掛けたね』

『にゃあ、オレのところは大した物は見せてないにゃん、真似して水洗トイレでも増えてくれると助かるにゃん』

『エドモンド殿下同様、口で言ってもわからないだろうから、今回の件が一段落したら呼び戻して囲い込む方向で検討するよ』

『にゃあ、それが平和にゃん』

『マコト、オパルスを守るにはどうしたらいい?』

『現実的なところでは、オパルスの城壁の強化にゃん、魔獣を止めるには有効な手はずにゃん』

『気軽に言ってくれるね、城壁の強化はマコトのところに頼めない?』

『にゃあ、いま現在だと同盟を疑われるからヤメた方がいいにゃんよ』

『マコトはいつからそんなにお行儀が良くなったんだい?』

『にゃあ、ただでさえ戦争を抱えてるのに余計な問題を抱え込みたくないにゃん』

『だったら、アルボラの領主をマコトに譲るよ、ボクは楽隠居を決め込む』

『にゃお、それってオレに何のメリットが有るにゃん?』

『領民が増えるよ、税収も有るし』

『お金には困ってないし、領民もいらないにゃん』

『欲がないね』

『にゃあ、そんな大事なことカズキが勝手に決めていいにゃん?』

『問題ないよ』

『王都で領主の勉強をしてる息子はどうするにゃん?』

『コナンだったら好きにさせるよ、本気で領主をやりたいってわけじゃないようだし』

『口ではそう言っても、内心はやる気満々と違うにゃん?』

『そんなに領主になりたいなら、マコトみたいに自分で買えばいいんだよ』

『にゃあ、お金を貯めるならプリンキピウムの森は稼げるからお勧めにゃん』

『そうそう、それともう一つのメリットとして家臣団が手に入るよ』

『要らないにゃん』

『即答!?』

『プリンキピウムの元町長とか、盗賊兼業の守備隊とか、元宮廷魔導師とか、ハカセとかカズキのところは難ありの人材が多い印象にゃん』

『好きにやらせてたのがマズかったね』

『にゃあ、野生動物じゃないんだから子供とか犠牲になるのはどうかと思うにゃん、もちろん他所よりはずっといいのは知ってるにゃん』

『正直、ボクは領民にそこまでの関心はないんだよ、ここは彼らの世界だから彼らが決めるべきことだからね』

『にゃあ、それも一理あるにゃん』

『ボクが領主になったのはクリステルの希望だったからなんだ、ボク自身は領主の地位にそこまでは思い入れはないよ』

『にゃあ、奥様は領主夫人にナリたかったにゃんね』

『一緒に冒険者をしてる時はそんなでもなかったんだけどね、子供ができると女の人は豹変するよね』

『オレはてっきりアーティファクトのコレクションの為かと思ってたにゃん、カズキのこと誤解してたにゃん、ごめんにゃん』

『あ、それもちょっとあるかな』

『にゃお、オレの感動と謝罪を返して欲しいにゃん』


 カズキの戯言に付き合うのは時間の無駄なので適当なところで切り上げた。



 ○リーリウム州 廃道脇 猫スフィンクス


 念話を終える頃には猫ピラミッドの全身バージョンが道路脇に再生されていた。

「これはもう猫スフィンクスと言った方がピッタリな感じにゃん」

 寝そべっているので本家よりだらけた恰好だが。

「当初の予定ではニービス州に入る予定だったのにちょっと遅れてるにゃん」

 オレを抱っこした猫耳が進軍の進捗をチェックした。

「にゃあ、急遽決まった日没までの走行にゃん、それを考えれば十分な成果にゃん」

 結果として当初予定していたニービス州には届かなかったが悪くない状況だ。


『『『……』』』

 魔法蟻たちから念話が入った。

『トンネルが三つの州都の地下に到達したにゃんね』

 魔法蟻たちは右前脚を挙げて口をカチカチさせた。

 魔法蟻がトンネルを掘り進めたのはオーリィ州の州都ララクゥ、クァルク州の州都パテラ、アブシント州の州都トリィティーの三ヶ所だ。

 位置関係は北からオーリィ州、クァルク州、アブシント州の順番だ。いずれも西をエクシトマ州の魔獣の森に隣接していた。オーリィ州は北もだが。

 東はフェルティリータ連合のエクウス州とスース州に隣接している。アブシント州の南にはヌーラがある。

 三つの州都はいずれも時を同じくして魔獣の侵入とその直後のフェルティリータ連合の鉄球で壊滅している。別に憶えて無くても試験には出ないにゃん。

『にゃあ、ウチらも到着にゃん』

 三つの州都に到着した魔法蟻の背中には猫耳たちも乗っている。ジープで走り回ってる地上班も遅れて到着する予定だ。

『お館様、案の定、州都パテラの地下に遺跡発見にゃん』

『州都ララクゥもにゃん』

『州都トリィティーも遺跡があるにゃん』

 魔法蟻に跨った猫耳たちから念話で報告が入る。

 三つの州都全てに地下遺跡があった。いずれも天井が抜けて魔獣ごと遺跡の中に落ちている。

 遺跡に向けて探査魔法を打った猫耳たちから情報が流れ込む。

『いずれも同じ種類の遺跡にゃんね』

『お館様、三ヶ所の遺跡はいずれも生きてるにゃん』

 研究拠点の猫耳も念話に加わる。

『そうみたいにゃんね』

『にゃお、お館様、遺跡からマナを吐き出してるにゃん』

『魔獣好みのかなり濃いマナにゃんよ、これなら魔獣がピンポイントで狙ったのも納得にゃん』

『にゃあ、遺跡は魔獣を引き寄せる為に動いてるみたいにゃん』

『これフルゲオ大公国のプロトポロス地下に埋まっていた遺跡に似てるにゃん、魔獣が一匹埋まってると違うにゃん?』

『『『……』』』

 魔法蟻たちが更に深く掘った。

 それは程なくして三つすべての遺跡から見付かった。

『魔獣も同じ種類っぽいにゃん』

 直径三〇メートルで厚さは一メートルもなく、少し青みがかってるけど焼く前のピザ生地に雰囲気がそっくりな魔獣はプロトポロスに埋まっていたものと同じだ。

『するとプロトポロスの遺跡とほぼ同じと見て間違いないにゃんね』

『『『にゃあ』』』

 猫耳たちが同意の声を上げた。


『お館様、地上班、州都ララクゥに到着にゃん』

『同じく、州都パテラに到着にゃん』

『同じく、州都トリィティーに到着したにゃん』

 地上班からも連絡が入った。それぞれ予定どおりに州都に到着した。途中まではトンネルを使っての高速移動を行っている。

『州都はどんな感じにゃん?』

『瓦礫の山にゃん、それで街の中心部が陥没してるにゃん』

 最初に答えたのはオーリィ州の州都ララクゥに入った猫耳だ。

『にゃあ、パテラも同じにゃん』

『トリィティーもにゃん』

 クァルク州とアブシント州の州都も同じ状態だった。

 猫耳たちの目を通してオレにも見える。日は沈んでいるが、猫耳ジープのヘッドライトがそれぞれの惨状を照らし出していた。

 古いが堅牢だったはずの城塞都市が跡形もなく破壊されていた。かつて西方の守りを固めていた三つの州都は見る影もない。

『酷い有様にゃん』

『かなりの数の鉄球が転がってるにゃん』

『ヌーラから観測したフェルティリータ連合の鉄球にゃんね?』

『そうにゃん、魔獣の躯があったから物理的な迎撃を成功させたにゃん』

『倒した蛇系の魔獣から何匹か生まれたみたいにゃんね、これも観測結果と一致してるにゃん』

『最初から魔獣を増やす狙いの可能性もあるにゃんね』

『住人の被害が少ないのが不幸中の幸いにゃん』

 蜂起を恐れた領主が、着の身着のままの住民たちを城塞の外に追い出したのだった。

 実際の被害も貴族階級に限定され、結果として多くの住民の命を救ったことになる。誰でもたまには良いことをするものだ。

『魔獣の死も人の死のいずれも新たな魔獣を引き寄せるにゃん』

『にゃあ、黒幕は西側の三つの州から魔獣の森に沈めてそのまま東に拡大させるつもりだったにゃんね』

『猫耳たちが魔獣を止めなかったら、確実にそうなっていたにゃん』

 いずれの州都も瓦礫に鉄の玉、マナを吹き出している魔獣の躯。たぶん電撃も撃ち込まれたのだろう白煙がくすぶってる。

『マナの濃度が魔獣の森を超えてるにゃん』

『にゃあ、普通の人間だと一時間もたないと思うにゃん』

『生存者はいるにゃん?』

『残念ながら反応なしにゃん」

『こっちもダメにゃん』

『マナが濃すぎるにゃん』

 いずれも生存者はなかった。

『にゃあ、まずは聖魔法で犠牲者の魂を送るにゃん』

『『『了解にゃん』』』


 地上版の猫耳たちに指示を出した後は、また州都の地下にある遺跡の調査に戻る。


『遺跡はいずれもかなり前から此処にあったみたいにゃんね、新しく造られたものじゃないにゃん』

 研究拠点の猫耳が報告する。

『お館様、三つの遺跡はどれも再起動したのが最近みたいにゃん』

『にゃあ、こちらサロスにゃん、魔獣が現れる三日前に州都トリィティーの中心に空中刻印が出たみたいにゃん、避難民から聞き取りしたにゃん、ついでに記憶もコピーしたにゃん』

 コピーした記憶から抜き出したかつての州都トリィティーの領主の城の風景。その上空に黒衣の死神の様な姿の空中刻印が浮かんでいた。

『いよいよプロトポロスの地下に埋まっていた遺跡と同じにゃんね』

『お館様、でもちょっと違うにゃん、ピザ生地の魔獣は自分では魔力を作り出してないにゃん』

『ピザ生地は遺跡に落ちた魔獣たちから魔力を吸い取ってるにゃん、それを何処かに流してるにゃんね』

『何処かに魔力を流してるところはプロトポロスの遺跡と一緒にゃん』

『お館様、魔力が何処かに流れるのはマズいと違うにゃん?』

『非常にマズいにゃん、だから最優先で魔法蟻たちに魔力のパイプラインをカットしてもらってるにゃん』

『にゃあ、さすがお館様にゃん、抜け目ないにゃん』

『可愛いにゃん』

『抱き着くのは後にゃん』

『今回のフェルティリータ連合の攻撃は、遺跡へ魔獣を集めることが本当の目的だったかもしれないにゃんね』

『にゃあ、十分あり得るにゃん』

『今回はプロトポロスの遺跡と違って落ちた魔獣をマナ変換炉代わりにしてるにゃん』

『遺跡の使い方としてはこっちが正解だと思うにゃん、発生する魔力が桁違いに多いにゃん』

『吸い取った魔力は何処に転送されてるにゃん』

『にゃあ、州都ララクゥからの行き先は、魔力の流れる方向からするとフェルティリータ連合のエクウス州にゃん』

『にゃあ、州都パテラから流れる魔力の方向も同じくエクウス州にゃん』

『州都トリィティーからはフェルティリータ連合のスース州の方向にゃん』

 三つの州都の地下に埋まっていた遺跡は、それぞれ魔獣から吸い取った魔力を地下のパイプラインを通してフェルティリータ連合に属する領地に送られてるのを確認した。

『にゃあ、これから一気に行くにゃんよ、地上の猫耳たちも準備いいにゃん?』

 地上の猫耳たちにも声を掛けた。

『『『にゃあ!』』』

 猫耳たちは地上と地下で三つの州都の遺跡に潜り込んでいる魔獣たちを取り囲んだ。

 魔獣はいずれも鎧蛇系がそれぞれ四匹ずつ重なっている。

『まずは遺跡を回収にゃん!』

『『『にゃあ!』』』

 三つの遺跡が同時に分解収納されるととぐろを巻いていた魔獣たちが拡大した陥没に巻き込まれて更に地下深くに落ちた。その上に城の瓦礫が流れ込んで生き埋めにした。

『後は魔獣を殲滅にゃん!』

『『『にゃあ!』』』

 魔力を吸われて弱っている魔獣も何匹居ようがオレたちの敵では無い。しかも地面に埋まった状態とあってはいずれも秒殺だった。

『『『魔獣の回収、完了にゃん』』』

 ついでにフェルティリータ連合から撃ち込まれた鉄球も回収する。

 地上の瓦礫の山とは対照的に地下の遺跡は天井こそ落ちたが、もともと落とし穴みたいな構造なので鉄球で攻撃された割りに本体は傷一つ付いて無かった。

『にゃあ、プロトポロスの遺跡はオレがブッ壊して残ってないから、こっちの三つは研究拠点でちゃんと調査して欲しいにゃん』

『研究拠点、了解にゃん』

『何か隠し玉があるかわからないから慎重に頼むにゃんよ』

『にゃあ、ウチらに抜かりはないにゃん』


 それからまたオーリィ州、クァルク州、アブシント州に派遣した猫耳たちに念話を送った。

『各州の避難民の移動はどうにゃん?』

『にゃあ、日付が変わるまでにはサロスへの移動は一段落するにゃん』

『サロスはどうにゃん?』

『大きな問題はないにゃん、自称貴族がいい部屋を寄越せとか騒いでるぐらいにゃん』

『オレの領地に特権階級は不要にゃん、嫌なら出て行けでいいにゃん』

『にゃあ』

『お館様、これまでに三つの州で捕まえた犯罪奴隷相当の犯罪者は合計で一二三六人にゃん』

『にゃあ、州内に取り残されていた犯罪奴隷も合計三〇〇人回収にゃん』

『そっちもお疲れにゃん、捕まえた分は、ヌーラの地下拠点に集めて魂の浄化と地獄のブートキャンプを開始にゃん』

『『『了解にゃん!』』』

『引き続き避難民の移送と救助、犯罪者の捕獲と回収、それに州内に残ってる魔獣の処理を頼むにゃん』

『『『にゃあ!』』』


 猫耳たちは夜の闇を物ともせず直ぐに仕事に取り掛かった。


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