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開戦にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年一〇月十四日


 ○旧男爵領 エイリー拠点


 オレたちは夜明け前に一〇〇台のトラックと共に地下駐車場を出た。

 王都の日の出の時間をもって開戦となる。

 オレは空を見上げた。

 東の空が明るくなって来ている。

「間もなくにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちが声を上げた。

『後のことは任せたにゃん』

 エイリー拠点を守る猫耳たちに念話を入れた。

『にゃあ、任されたにゃん、エイリー拠点はウチらの命に代えても守るにゃん』

『にゃお、意気込みは買うけど命は大事にしてもらわないと困るにゃん』

『いざとなったら拠点を消して逃げるにゃん』

『ナイスにゃん、反則ギリギリにゃんね』

『お館様、それは普通に反則にゃん』

『にゃお、いざとなったら普通に逃げていいにゃん、ちゃんと逃げなかったら怒るにゃんよ』

『了解にゃん』

 負けるならさっさと逃げるに限る。勝てないものはどうやったって無理なのだから。

「せんそうがはじまるね」

「ぜったいにかたなきゃ」

「とうぜんしょうりだよ」

 シアとニアとノアの四歳児たちは眠そうな顔をしながらも鼻息は荒い。

「にゃあ、安全第一で頼むにゃん」

 ビッキーとチャスは空を見ていた。

「にゃ、探査魔法にゃん」

「「はい」」

「にゃあ、精霊魔法だと本当にわからないにゃんね」

 魔法を使ってる気配しか感じさせないとはオレが知らないうちにかなり腕を上げたみたいだ。このまま成長したら妖精魔法だって使えるんじゃないだろうか。

 オレたちでは精霊魔法はともかく妖精魔法はまったく使える気がしない。


 東の空が明るくなり王都から夜明けを告げる鐘がなった。開戦だ。


「出発にゃん!」

 オレが声を上げた。

「「「にゃあ!」」」

 猫耳たちの声と共にオレたちが分乗した一〇〇台のトラックがエイリー拠点前から出発した。

「「マコトさま! そら!」」

 ビッキーとチャスが空を指差した。

「にゃ?」

 空に黒い点が幾つも見えた。高度限界ギリギリの高さだ。

 それが大きくなる。

 何かが降ってきたのだ。

「にゃあ!」

 とりあえず分解して格納する。それが何なのか直ぐにわかった。直径三メートルほどの大きな鉄球だ。

 それが空から雨の様に降って来る。

「誰にゃん、でっかい鉄球をいっぱい降らしてるヤツは!?」

 防御結界で弾いても良かったのだが、勿体ないので猫耳たちと一緒に回収した。

「にゃあ、誰ってこんなことをするのは、フェルティリータ連合の魔導師しかいないにゃん」

「ビッキーの心配していた遠距離の魔法攻撃がいきなり来たにゃん」

「お館様、撃ち返すにゃん?」

 逆探は容易だ。

「にゃあ、鉄球はダメにゃん、その代りめちゃくちゃ痛い電撃と素っ裸にするのは構わないにゃんよ」

「女子もにゃん?」

「にゃあ、女子は素っ裸だけは勘弁してやるにゃん」

「「「にゃあ、了解にゃん!」」」

 こちらが反撃するよりも早く晴天の空に稲妻が走った。

「にゃ、電撃も来たにゃん」

 青いピラミッドに落ちて消える。

「拠点の防御結界の栄養になったにゃん」

「あちらさんも頑張るにゃんね」

「お館様、普通の領地だったら最初の鉄球と次の電撃で城は落ちるにゃん、それどころか州都に多大な被害が出てるにゃんよ」

「そうにゃん? この程度ならカズキのオパルス城だって防御結界無しでも壊れなかったと思うにゃんよ」

「にゃお、アルボラ州の領主は参考にならないにゃん、アレはチーレムにゃん」

 チートはともかくハーレムは関係ないんじゃないか?

「「マコトさま!」」

 ビッキーとチャスがまた空を指差した。

 空に赤く光る点々が現れた。

「にゃ!? 今度は赤いのが来たにゃん!」

 真っ赤に焼けた鉄球が落ちて来た。

「回収にゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 猫耳たちが焼けた鉄球の雨を分解して格納する。

 それからしばらく鉄球が連続して降って来たが、すべて防御結界に到達する前に猫耳たちが分解して格納した。

「にゃあ、こんなに撃ってあっちは大丈夫にゃん?」

 膨大な魔力が消費されたはずだ。

「たぶん大変なことになってると思うにゃん」

「魔力切れならまだしも魔力増強剤を使ってるとヤバいことになるにゃんね」

「にゃあ、止んだみたいにゃん」

 鉄球の落下が止まった。

「にゃあ、こっちからも軽くぶちかますにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 はるか彼方のボース州に集った魔導師たちを超痛い電撃が襲う。

「お館様、回収した装備品に騎士の甲冑が混ざってたにゃん」

「護衛の騎士も素っ裸にゃんね」

「魔力増強剤も複数確認したにゃん」

「にゃお、やっぱり使ってるにゃんね」

「お館様、回収した魔法馬はどうするにゃん?」

 乗っていた魔法馬も装備品として回収されていた。

「売っぱらっていいにゃんよ」

「了解にゃん」


「にゃあ、改めて出発にゃん! おまえらも本当に危なくなったらさっさと逃げるにゃんよ!」

 自陣を守る猫耳たちに念を押した。

「「「にゃあ、心配ご無用にゃん!」」」

 トラックの車列が今度は停まること無く走り出した。

 オレは車列真ん中の五一号車の助手席に乗ってる。チビたちは荷台のベンチシートに横一列に並んで膝立ちで流れ行く景色を眺めていた。

 本当は先頭のトラックのボンネットに乗りたかったのだがチビたちが真似するといけないので自重している。

「やっと走り出したね」

「魔法車がいっぱいなの」

 リーリとミンクがオレの頭の上でシュークリームを食べてる。

「のんびり始まるのかと思ったら最初から派手な展開だったね」

「にゃあ、あの距離から魔法を撃ってくるとは普通は思わないにゃんよ、ビッキーの読みにも驚いたにゃん」

「ミンクもびっくりしたの、マコト、シュークリームのおかわりなの」

 ミンクがオレの猫耳を掴むとにゅっと自分に向けて直接語りかけた。ちょっとこそばゆいにゃん。

「にゃあ、次はエクレアなんかどうにゃん?」

「ミンクはエクレアも食べるの」

「あたしも欲しい!」

「にゃあ」

 ミンクもリーリも朝食前なのにどっさり食べた。チビたちもエクレアを食べてチョコまみれになっていた。全員まとめてウオッシュした。



 ○王都タリス 郊外 旧街道


 オルビーと王都の境界門を抜けたトラックは東に向かいレーム山脈の麓を北上する旧街道を使ったルートを取る。

 道の左右五〇〇メートルが戦闘可能区間になるので、第三者は何が有っても保証されない。人の居ない場所をルートに指定したので、わざわざ巻き込まれに来ない限り被害は出ないはずだ。

 何処の世にも野次馬がいるらしく道の向こうでトラックの車列を眺めてる人たちがちらほら見えた。

「ただの野次馬じゃないのが混ざっているにゃんね」

「あの漏れ出てる魔力はどう見ても魔法使いにゃん」

「にゃお、こっちに探査魔法を打って来たにゃん」

「おっと季節外れの落雷にゃん」

 青い稲光が走った。

「素っ裸で転がってるにゃん」

「にゃあ、逃げ出したヤツも雷に打たれたにゃん」

「フェルティリータ連合のヤツらは一般人にも容赦しないにゃん」

「にゃあ、怖いにゃんね」


 フェルティリータ連合に濡れ衣を着せ野次馬に化けてた魔法使いを懲らしめた後は、トラックを走らせながら朝食のハンバーガーを齧る。リーリとミンクはもちろん食べてるが、チビたちはクッションに埋もれて眠ってしまった。

「にゃあ、このあたりから無人になるにゃんね」

 レーム山脈に近付くと大きな岩が浅く埋まった農業には不向きな土地になる。小麦畑はすっかり見えなくなった。

 王都に近いのだが人はほとんど住んでいない。これといった獣もいないので冒険者も足を伸ばすこともない。

 横に四台並んだトラックが並走して片側二車線の道路を作りながら走ってる。見た目はただの舗装道だが、表面が魔法蟻のトンネル並に滑るのでオレたち以外は使えない仕上がりになっている。

 戦争が終わるまでは仕方ない措置だ。敵に使われるのも困るが、第三者が勝手に使って戦闘に巻き込まれたら邪魔くさいので物理的にお断りした。

 トラックの車列は時速五〇キロほどで進む。ほぼ廃道を高速道路並に作り変えてることを考えればスピードが出てる方だろう。



 ○王室直轄領 東方 廃道


 三時間ほど走ってレーム山脈の麓で進路を北に変え旧街道から廃道に入ったところでキャリーとベルから念話が入った。


『マコト、いま大丈夫?』

『さっき開戦のことを知ったのです』

『にゃあ、大丈夫にゃんよ、いま順調に進撃中にゃん』

『戦争を始めたなんて知らなかったよ』

『どうして近衛軍じゃなくてマコトが戦うのです?』

『にゃあ、時間稼ぎにゃん、近衛にはこの手法は無理にゃん』

『それはそうなんだけどね』

『王都内は戒厳令が出たよ』

『マコトに一つお願いがあるのです』

『にゃあ、なににゃん?』

『私たちの小隊をマコトの屋敷に入れて貰えないかな?』

『小隊にゃん?』

『アイリーン様の護衛を命じられたのです』

『ベッドフォード公爵家の庭先でテントを張っていいことになったんだけど、流石に緊張する上に出入りが不便なんだよ』

『にゃあ、ハリエット様のお屋敷にゃんね、お隣だけどかなり距離があるから不便にゃんね』

『どうせなら、マコトの屋敷を借りた方が面倒がないのです』

『そうにゃんね、キャリーとベルのいる小隊は一〇人だったにゃん?』

 全員女の子だ。

『そうだよ、それに小隊長を合わせると全部で十一人』

『十一人だったら、屋敷の離れを宿舎として提供するにゃん』

『助かるのです、後は庭を歩き回る許可が欲しいのです』

『了解にゃん、許可は出したから、庭は猫耳ゴーレムに怒られない程度なら好きに使っていいにゃん』

『ありがとう、これから移動するね』

『気を付けて行くにゃんよ』

『マコトたちも気を付けて欲しいのです』

『そうだよ、怪我をしたり死んだりするのは無しだからね』

『にゃあ、もちろんわかってるにゃん、またにゃん』


 オレたちのトラックは道路を作りながら徐々にスピードを上げる。

 八〇〇〇メートル級のレーム山脈の麓ではあるが森を貫いて道路を作っているので目に映る風景はプリンキピウムの森と大差ない。

「ここも獣の気配が薄いにゃんね、そこはプリンキピウムの森と大違いにゃん」

「お館様、ここはあの弱っちい王国軍が演習地にしてるぐらいだから当然にゃん」

「ウサギで去年も何人か死んでるにゃん、あいつら一般人より弱いにゃん」

「あいつらが勝てるのは女子供だけにゃん」

「えらい言われようにゃんね」

「にゃあ、日頃の行いにゃん、いまは鍛え直したからかなりマシになってるにゃん」

「アレは鍛え直すというより改造にゃん」

「でも、盗賊は王国軍の兵士を襲わないという話だったにゃんよ」

「にゃあ、王国軍の兵士なんて盗賊の親戚にゃん」

「金がない人間を襲うほど盗賊も暇じゃないにゃん」

「キャリーとベルは違うにゃんよ」

「お館様のお友だちのキャリーとベルは特務中隊にゃん、そのぐらい見分けられないヤツは早死するにゃん」

「特務中隊って本当にそんなに強いにゃん?」

「にゃあ、一般兵がウサギなら、特務中隊の兵士は魔獣にゃん」

「殺人マシーンにゃん」

「拷問もえげつないにゃん、特異種に操られた程度の人間でもあの域には達してないにゃん」

「脳筋の金ピカよりずっと危険にゃん」

「にゃお、革命軍が王都に入り込んだ時がヤツらの命日にゃん」

「にゃあ、今度キャリーとベルに会ったら敬語で喋っちゃいそうにゃん」

「ふたりに人殺しをさせないためにウチらが頑張るにゃん」

「にゃあ、オレも頑張るにゃん」

「あたしも頑張るよ!」

「あたしもなの!」

 ふたりの妖精はポテチをオレの頭の上で食べていた。


 トラックの車列は速度を上げて時速一〇〇キロちょっとで巡航する。

 全行程を一週間ちょっとで走破する予定だ。当初はまったり時間を稼ぐ予定だったが、フェルティリータ連合の惨状を前にそうも言ってられなくなった。

 あちらもほぼ同時に進撃を開始しているので、多少前後するが六日目辺りにアキントゥス州内で会敵すると思われる。

 アキントゥス州に設定されたルートは、地図上は道が通っているが実際には森林の真っ只中だ。たぶん獣道すら無いと思われる。

 お互い魔法を撃ちまくることが予想されるので、射程の長い魔法と強い防御結界が勝敗を分けることになるだろう。



 ○王室直轄領 東方 廃道脇


 トラックの車列を停めて昼休みに入る。うつらうつらしていたチビたちも起きてトラックを下りた。

「「マコトさま! そら!」」

 ビッキーとチャスの声に空を指差した。

「にゃ!?」

 轟音とともに鉄球が空から降り注ぐ。

「にゃあ、また鉄球にゃん! ヤツらオレたちの位置を正確に捕捉してるにゃん」

「どうやらお館様が標的っぽいにゃん」

「オレを殺すのも勝利条件の一つだから仕方ないにゃん」

「お館様、ここはウチらに任せて欲しいにゃん」

「いいにゃんよ、頼んだにゃん」

「「「にゃあ! 頼まれたにゃん!」」」

 猫耳たちは鉄球を次々と分解して格納した。

「いっぱいおちて、いっぱいきえてる」

「「「スゴいね」」」

 四歳児&五歳児たちは空を飽きずに見ている。

「一個ずつ消すのは面倒だから防御結界に鉄球を自動的に分解格納する機能を付け加えるにゃん」

 すぐに鉄球の自動分解が始まった。


「にゃあ、お昼ご飯にするにゃんよ」

 オレたちはお昼ごはん食べながら自動的に行われている空の攻防戦を見守る。防御結界は問題なく稼働していた。

「にゃあ、フェルティリータ連合の嫌がらせは、自分の陣営の魔法使いを使い潰す事になると違うにゃん?」

「位置は把握してるのにこちらの様子は向こうに伝わってないみたいにゃんね」

「にゃあ、この距離だからお館様の位置しか見れてない可能性が高いにゃん」

「領民を潰すことも目的の一つなら理に適った戦法にゃん」

「洗脳状態で機械的に動いてるのかもしれないにゃん」

「思考力の低下でぶっ倒れるまで同じ攻撃を繰り返すにゃんね」

「にゃあ、付き合わされるこっちも大変にゃん」

「まったくにゃん」

「そろそろ反撃していいにゃんよ」

 敵陣の魔導師がヘトヘトになるのは構わないが本当に使い潰されると困る。

「了解にゃん」

「「「行くにゃん!」」」

 猫耳たちが朝も放った素っ裸のオプション付きの超痛い電撃で反撃すると鉄球の雨が徐々に弱まりやがて止まった。


 今回も装備品を巻き上げて危険な薬も処分する。既にこの戦争は黒字が出ていた。


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