秘密の会合にゃん
「何とか間に合ったのである」
扉が開き身体の大きな男性が案内されてきた。
「にゃあ、アーヴィン様にゃん」
噂をすれば影、アーヴィン・オルホフ侯爵の到着だ。
「おお、マコト! 吾輩はいま王都に到着したところだ、おまえさんの魔法車のお陰で間に合った」
「にゃあ、ケラスは街道を整備したから速度を出せるにゃん」
アーヴィン様の領地ニービス州は、リーリウム州の北隣で騎士団は二〇〇〇人。元の諸侯軍は現在の王国軍の中核を担っているから呼び戻せれば、かなりの戦力になる。その代わり王国軍の正規軍は半減どころじゃないけどな。
「フレデリカ様は、マコトの屋敷にお連れしたぞ」
アーヴィン様が小声で囁く。
「にゃあ、了解にゃん」
オレも小声で返した。
『にゃあ、姫様はどうしてるにゃん?』
屋敷の猫耳に聞く。
『いま、アイリーン様と庭を魔法馬で走り回ってるにゃん』
『了解にゃん、どこから狙われてるかわからないから気を付けるにゃんよ』
『油断しないにゃん、それとビッキーとチャスが一緒にゃん』
『にゃ?』
『今回は姫様の護衛だそうにゃん』
『ビッキーとチャスが来たにゃん? ということは、にゃお、それだけじゃないにゃんね』
『にゃあ、正解にゃん、シアとニアとノアのチビたちも来てるにゃん、三人も護衛だそうにゃん』
『チビたちのことも頼むにゃん』
『にゃあ、もちろんにゃん』
姫様と一緒にチビたち五人まで王都に来てしまったみたいだ。困ったけどちょっと嬉しかったりするのは秘密だ。
いよいよ国王陛下の入場となった。今日のロイヤルファミリーは王太子のアーサー殿下のみの同行だ。
「皆の者、面を上げよ」
オレも加わってここにいるので領主は全部で二一人だ。
「この度の宰相の不始末からの騒動、皆に心配を掛けた。これも我の不徳のいたすところ、皆に謝罪する」
国王が目を閉じ頭を下げる。
「陛下の謝罪は不要でございます! 謝罪すべきは恥知らずなフェルティリータ連合の者共です!」
国王派の領袖アナステシアス・アクロイド公爵が声を上げた。
賛同の声が幾つも上がる。
大仰なやり取りのせいでちょっと芝居がかって聞こえるにゃんね。
「すでにフェルティリータ連合を中心とする貴族派の領地では騎士団の移動が始まっていると聞く。開戦は避けられぬ状況になりつつある」
「陛下、大義無き者どもは我らの敵ではございません!」
アナステシアス公爵の威勢はいいのだが、開戦したら魔獣が湧くぞ。
「今朝、エドモンドが姿を消した」
王様の口から知らされた。
「「「……っ!」」」
「どうやら、フェルティリータに向かったらしい」
行き先がハッキリしたか。
「陛下! エドモンド殿下は何故そのようなことを!?」
エドワーズ・アンヴィル侯爵が声を上げた。
「エドモンドは旧友のセザール・マクアルパインからの誘いに乗った様だ」
「セザールは宰相ニエマイア・マクアルパインの息子ではありませんか!?」
セザール・マクアルパインは宰相の長男で王立魔法大学で考古学の教授をしている。エドモンドの同僚だ。中身はエドモンドと大差無い筋金入りの遺跡バカらしい。
「エドモンド殿下は、フェルティリータ連合に寝返り革命権を行使すると?」
「いや、本人は遺跡の調査のつもりらしい、同行している魔導師から密かに連絡があった」
マリオンが連絡して来たにゃんね。さて、こいつは味方なのか敵なのか?
「何と軽率な! エドモンド殿下は御身の立場を理解されておらぬようだ!」
アナステシアス公爵は呆れ顔を隠そうともしない。他の領主たちも同様だ。
国王の評判を貶めているエドモンドは国王派の貴族に評判が良くない。貴族派寄りの男色家と認識されている。
貴族派は、同性愛に寛容な人間が多いことからも疑惑が強化された様だ。最近はそれに幼女趣味が加わったが、オレのせいじゃないと思いたい。
「マズいですね、貴族派が革命軍を名乗ると王都の防御結界が一切反応しなくなる」
アドリアナ・マクファーデン侯爵が呟く。
「にゃ、そうにゃん?」
「王族の率いる軍隊は結界を素通りできるのです。王都は革命軍に有利な作りなので防戦はかなり難しくなるのではないでしょうか?」
グエンドリン・ナルディエーロ伯爵が小さな声で説明してくれる。
「にゃあ、そうなるとかなり不利にゃんね」
防御結界が使えないとなると王都に入られたら市民にもかなりの犠牲が出そうだ。それ以前に王都に攻め込まれたところで巻き返しは無理か。
無血開城したところで、国王派の処遇はかなり厳しいものになるだろう。
良くて国外追放ってところか。
下手すれば一族郎党奴隷堕ちだ。
オレたちはキャリーとベルも連れて逃げるけどな。
その前に魔獣が湧き出すか、そうなると内戦に勝者はおらず、全員がそろって領地を失い敗者になる。
「貴族派は、戦闘ゴーレムの配置を行ってるとの情報を掴んだ。その数、二万を超える様だ」
「「「なっ!」」」
王様から新たな情報に息を呑む領主たち。王宮の諜報活動はそれなりに機能している様だ。
隠し持っていた虎の子の戦闘ゴーレムを出して来たフェルティリータ連合は、本気で内戦を始めるつもりらしい。
「戦いは避けられぬか」
アーヴィン様も渋い顔をする。もはや国王派の領主を説得したところで内戦の危機は収まらない。
「陛下、戦闘ゴーレムはどんなタイプにゃん?」
「報告では身の丈三メートルを超える人馬型の弓兵だ」
オレの知識に合致するタイプがあった。
「意外と走破性が低いから侵攻には街道以外は使えないにゃん、ただ射程が五キロから一〇キロもある強力な攻撃が厄介にゃんね、普通の防御結界では簡単に抜かれるにゃん」
「マコトは知ってるのか?」
「にゃあ、図書館で仕入れた情報にゃん、ゴーレムは好きなので調べていたにゃん」
図書館と言っても図書館情報体の知識だけどな。
「弱点はあるのか?」
「あるにゃん、狙いを付けるのと矢のチャージに魔法使いが必須にゃん、魔力増強剤を使って一般人を使うにしても二万体を運用するのはかなり大変にゃん」
「しかし脅威であることは変わらんか」
「「「……」」」
領主たちも頷いた。
「この手の戦闘ゴーレムの最大の弱点は燃費の悪さにゃん、王都までに進軍するとしたら、かなりの魔力を必要とするにゃん」
「フェルティリータ連合の者たちはその問題を克服したのであろうか?」
アーヴィン様が質問する。
「現時点では何とも言えないにゃん、強力な魔力を発生させるからくりを発掘した可能性も否めないにゃん」
例えばエーテル機関に似たものを挿れれば魔力不足は一気に解消される。黒幕がオレと同等の力を持つ転生者なら十分可能な技術だ。
「フェルティリータの大地ならば有るやも知れぬ、あそこは先史文明の都市がまるまる埋まってると聞く」
アナステシアス公爵は国王派の中心人物なだけあって貴族派のことを良く調べているようだ。
ゴーレムならば何を出して来ようとオレの敵ではない。何故なら二万だろうと三万だろうと格納が可能だからだ。
人馬型のゴーレムは戦闘ゴーレムの中でも廉価品の部類なので、固定砲台代わりに使うのが正解で、進軍させて騎士相手に戦う代物じゃない。侵攻用に改造された亜種なのだろうか?
「我は近衛を率いて打って出るつもりだ卿らの協力を求めたい」
国王は玉座から立ち上がった。
「無論、我ら全員、陛下に従うのみ、その生命を捧げよとお命じ下さい!」
アナステシアス公爵がまたセリフっぽい大仰な言葉を吐く。
おいおいオレの命まで勝手に捧げるなよ。
「「「陛下! 我らにお命じ下さい!」」」
国王派の大半を占める小領地の領主たちも、やる気満々だ。領主自ら先頭に立って戦うのだろうか、元近衛の騎士がいっぱいいるし。
「久々に腕が鳴るのである」
アーヴィン様までやる気だ。
「マコト様、いくらフェルティリータ連合が攻めて来るとは言え、大規模な会戦は危険ではないでしょうか?」
見た目中学生のグエンドリン・ナルディエーロ伯爵がオレに囁く。
「にゃあ、魔獣が押し寄せる確率が高いにゃんね」
「それはマズいなんてものじゃないわね」
アドリアナ・マクファーデン侯爵は何故かオレを抱っこして頬ずりする。言葉と行動が一致していない。
「マコト様は、魔獣の大発生があると睨んでるのですね?」
ダンスタン・ヘルメル伯爵がオレの顔を覗き込む。
にゃあ、血を吸われそうにゃん!
「大きな戦いになれば魔獣の反応も小さくないにゃん、大規模な会戦になったら下手をすると王国の半分が魔獣の森に沈むにゃん」
「マコト殿、王国の半分が魔獣の森に沈むとは?」
エドワーズ・アンヴィル侯爵は意外と落ち着いていた。元近衛軍大佐なだけに魔獣なんぞこの手でブチのめす系かと思ったのだが違うらしい。
「にゃあ、三〇〇年前の領地間紛争の時に近くの魔獣の森から魔獣があふれ出た記録があるにゃん、近くと言っても二五〇キロは離れていたにゃん」
「その話、確かに聞いたことはある」
「二つの領地が魔獣の森に沈んだ三〇〇年前よりも今回予想される戦いの規模は遥かに大きくなりますね」
グエンドリンの声はけっして大きくは無かったが良く響いた。
血気盛んな小領地の領主たちも口を閉じた。
「ネコちゃんは物知りなのね」
アドリアナには頭を撫でられる。
「マコトよ、いくらなんでも王国の半分が魔獣の森に沈むのは大げさではないのか?」
アナステシアス公爵が疑問を呈した。
「にゃあ、会戦の場所によっては何本もの魔獣の道が出来るにゃん、魔獣の道に挟まれ孤立した場所はマナが上昇して、結局は魔獣の森に沈むにゃん」
「魔獣の道であるか」
やる気になっていたアーヴィン様も予想が付いていたらしい。
「アーヴィン、マコトの話は本当であるか?」
国王はまだ理解できてないようだ。
「陛下、私よりバルタザール殿に訊かれてはいかがでしょう?」
アーヴィン様は宮廷治癒師のバルタザール・チェーホワの名を上げた。
「どうだ、バルタザール?」
国王の問に宮廷治癒師は認識阻害の結界を解いた。
「「「おおっ」」」
国王の傍らに浮かび上がったように見えたその姿に領主たちは声を漏らした。
バルタザールは治癒師を名乗っているが、国王を守るひとりだ。常に国王の側にいる。
「マコト様の仰るとおりでございます、王国は魔獣によって引き裂かれます」
「しかし、フェルティリータ連合を止めねばなるまい!」
「そうでございますぞ、陛下! 魔獣の危機はあれどフェルティリータ連合のヤツらを討たねば我らにとって結果は同じこと、ならば戦って散るのこそが最良!」
アナステシアス公爵の言ってることはわからないでもない。脳筋な小領地の領主たちも同じ意見らしい。
「はぁ、せめて境界の結界が有効なら侵攻も防ぎようがあったのに残念ね」
アドリアナがため息混じりに言う。彼女の領地フィークス州は西隣がフェルティリータ連合のひとつボース州になっている。間には幾つかの小領地もあるが、境界線の大半はフィークスのものだ。
内戦が勃発すれば距離度的にも侵攻ルートに選ばれる可能性が高く魔獣の森に沈む最初の領地になりそうだ。
「にゃあ、境界の結界は強化出来ないにゃん?」
「革命が宣言されるとすべての境界の結界が解放されてしまうのです、ですから別の手段で境界線を守らなくてはならなくなります」
答えてくれたのはグエンドリンだった。
「にゃあ、そんな機能があったにゃんね」
「王族による革命を宣誓する儀式が必要ですが、そう難しいものではありません」
「それは厄介にゃんね」
オレのところの境界線もケラスの一部を除きほとんどイジってないから、その仕様はそのまま受け継がれてると思われる。それとヌーラも違うか。あれには最初から搭載されていないんじゃないかな。
『にゃあ、オレにゃん、境界線の結界の確認と再構築が必要になったにゃん、人のいるプリンキピウムやケラスを優先で頼むにゃん』
『こちら研究拠点にゃん、了解にゃん』
念話で指示を出しつつ領主たちの話を聞く。
領主たちの持ってる知識はオレの中に無いものだ。宣戦布告の仕組みなど知らないことばかり。
そこにいる領主を二~三人かっさらって猫耳にすれば、簡単に情報を仕入れることが出来るが、それじゃカロロス・ダリを特異種にした魔法使いと変わらないので、地道にヒヤリングする。
「領地間の紛争の場合は王宮にて宣戦布告の儀を執り行うことで、一部結界が解放されます」
ダンスタン・ヘルメル伯爵が宣戦布告関連に詳しかった。さすがは吸血鬼じゃなくてインテリなだけはある。
国王は、魔獣の侵攻の可能性に一度は躊躇したもののフェルティリータ連合との開戦やむ無しに流れつつあった。何もしないで蹂躙されるよりはと考えるのは当然か。
ただし実際の戦場になる可能性のあるフェルティリータ連合に近い領地の領主は複雑そうな表情をしていた。
「出来れば、開戦前に境界線の物理障壁を強化したかったのですが、間に合いそうにありませんね」
グエンドリンは諦め顔だ。彼女の領地もまたフェルティリータ連合の侵攻ルートに入ってる可能性が高い。
フェルティリータ連合からの王都を結ぶ街道が何本も通っている。
「にゃあ、不便になるけど最悪の場合は街道を通れなくするのがいちばんにゃんね」
「戦闘ゴーレム対策ですね」
「侵攻そのものを止めるのは難しくても領民の避難は可能にゃん」
「直ぐに対策します」
「街道の物理的な封鎖ね、私のところこそ必要みたいね、物理障壁と地雷はそこそこ整備されているんだけど」
アドリアナのフィークス州はフェルティリータ連合のボース州に隣接するだけに抜かりはないようだ。
魔法の撃ち合いもあるこっちの世界での戦い方はどんな感じなのだろう?
オレも猫耳たちも対人間では小規模で一方的な戦闘しかして来なかったから、魔獣というファクターが無ければオレも観戦を決め込んだかもしれない。
「近衛軍と宮廷魔導師、それに第二騎士団は先行してフィークス州に向かわせる、我は開戦までは動けぬが直ぐに応戦できる体勢を構築する」
国王が宣言した。
「かしこまりました」
フィークス州領主アドリアナ・マクファーデン侯爵が一礼する。
すると主戦場はフィークス州で決まりか、魔獣が大量発生するとしたらむしろ危険なのは西や北に魔獣の森を背負ってるフェルティリータ連合や貴族派の領地なのだが、たぶんヤツらは躊躇しない、あちらもまた死なばもろともか?
「陛下、フィークス州の境界近辺には会戦に適した場所がないはず、我が領アキントゥスであればボース州に対して広く展開が可能でございます」
声を上げたのはアキントゥス州領主エドワーズ・アンヴィル侯爵だ。
確かにアキントゥス州は領地の大半が森林だから市街地での戦いよりはマシか。特別に国王側が有利になるわけでは無いが一般の領民が巻き込まれない点は評価する。
「左様か、しかしヤツらと行き違いになるのではないか?」
「陛下、その時はフェルティリータに攻め込むまでのこと、ヤツらの城を落とせば慌てて戻って来ることでしょう」
ニヤリとするエドワーズ。
「なるほど、魔獣もそこに来れば被害は更に抑えられるか」
国王も頷く
「王国の一部が魔獣の森に沈むのは耐え難くはありますが、それもまたヤツらの自業自得、私もエドワーズの考えに賛成いたしますぞ」
アナステシアス・アクロイド公爵が賛同すると小領地の領主たちも従った。
「にゃあ、意見を具申するにゃん」
オレの声に全員がこちらを見た。
○王都タリス 城壁内 官庁街 王国軍総司令部 車寄せ
王宮での会合を終えたオレはその足で王国軍の司令部に向かった。オレが建て直した司令部は威風堂々としていてかつての様な卑屈さは感じない。
「おお、マコト、来てくれたか」
出迎えてくれたのはドゥーガルド副司令だ。そのままハリエットがいる執務室に通された。今度は猫耳たちとリーリも同席する。
○王都タリス 城壁内 官庁街 王国軍総司令部 ハリエット執務室
「にゃあ、王宮に寄ったからちょっと遅れたにゃん」
「やはり、開戦やむなしか」
ドゥーガルド副司令がずばり聞いてくる
「そこはまだ秘密にゃん、少なくともフェルティリータ連合はやる気を漲らせてるにゃん」
「だろうな」
王国軍にもフェルティリータ連合の情報は届いている様だ。
「王国軍も動くにゃん?」
「王国軍は憲章に従い対人戦闘は王都の防衛でしか出来ない」
ハリエットは表向き対人戦闘を禁じた王国軍憲章を守るつもりか。
「ただし、遠見の魔法使いの報告ではフェルティリータ連合に近いエクシトマ州の魔獣が騒がしいようだ、調査のために動くことはあるかもしれない」
「エクシトマ州と言ったらオレの領地だったにゃんね、にゃあ、魔獣が動いてるにゃんね」
「そうだ、エクシトマ州は外縁部だけではあるが昔から王国軍の監視の対象とされている」
「だからって、いま動いちゃダメにゃん、フェルティリータ連合の戦闘ゴーレムが相手では王国軍には勝ち目は無いにゃん」
「マコト、フェルティリータ連合の戦闘ゴーレムだと?」
「にゃあ、聞いてないにゃん?」
「近衛辺りの情報か、それはいいとして、王国軍では無理な相手なのか?」
「無理にゃん、弓を射る人馬型の戦闘ゴーレムにゃん、遠距離からの迎撃が出来る魔法使いがいないと攻撃する前に小隊ごとまとめて串刺しになって終わりにゃん」
「魔法使いか、我軍に足りないものの一つだな」
ハリエットは小さく息を吐く。
「そうにゃんね、魔獣を相手にするにしても魔法は必要不可欠にゃん」
「親父殿の話では戦になれば、魔獣の大発生は避けられないとのことだったが、マコトはどう思う?」
ドゥーガルド副司令に質問される。
「にゃあ、フェルティリータ連合が動けば戦いは避けられないにゃん、そうすれば魔獣の侵攻がある可能性は高いにゃん」
「まったく、フェルティリータ連合のヤツらも破れかぶれすぎる」
「マコトの予想は、これまでの例に漏れずというわけか、魔獣の侵攻ルートを考えるとフェルティリータ連合の消滅は時間の問題だろう」
ハリエットも戦と魔獣の関係を良く知っていた。王国軍のトップなだけはある。
「バカなヤツらはどうでもいいが、フェルティリータ連合の穀倉地帯が魔獣の森に沈むのは、王国にとって痛いな」
ドゥーガルド副司令は先のことも心配している。
「にゃあ、オレとしては罪のない領民が犠牲になるのが嫌にゃん」
「犠牲か、マコトはフェルティリータ連合内で住民が減ってるという話は聞いていないか?」
ハリエットに訊かれたが記憶には無かった。
「にゃあ、オレの知らない情報にゃん」
「ここ最近、フェルティリータ連合内で忽然と住民が家族ごと姿を消す事件が立て続けに起こってるそうだ」
ドゥーガルド副司令が補足する。
「内戦が勃発する前に逃げたと違うにゃん?」
「だろうな、庶民はしたたかだから内戦の危機に気付いた者たちから街を逃げたのだろう、だからマコトが考えるほどの犠牲は無いと思っていいぞ」
「だったら、少し安心にゃん」
それからオレは国王派の貴族にも話した秘策を伝えた。
「「……!」」
ハリエットとドゥーガルド副司令は絶句してしばらく動きを止めた。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 車寄せ
夕方になってやっとオレたちは自分の屋敷に戻って来た。風も肌寒くなって日も短くなっている。
「お腹空いたね」
ついさっきまで王国軍謹製のクッキーをカリカリ食べていたはずのリーリがセーラー服の胸元から這い出した。
「にゃあ、すぐに夕食を用意させるにゃん」
「助かるよ、今日は働き詰めで疲れたからね」
「にゃあ」
食べ疲れか?
「「「おやかたさま!」」」
玄関の扉が開いてシアとニアとノアの四歳児たちが飛び出して来た。
「「マコトさま!」」
ビッキーとチャスが三人の後ろに続いた。
「にゃあ、来たにゃんね」
「ひめさまをまもったよ」
シアが誇らしげに語った。
「にゃあ、偉いにゃん」
「あたしもまもった!」
「あたしも!」
ニアとノアも続く。
「偉いにゃん」
それからビッキーとチャスを見る。ちょっと心配そうな顔をしていた。勝手に来たからオレに怒られると思ってるのかも。
「にゃあ、ふたりはチビたちの面倒もみてくれたにゃんね」
「「はい」」
「ありがとうにゃん」
ふたりに抱き着いて頭をくしゃくしゃする。ふたりはホッとしたのか笑みを浮かべた。
「にゃ!?」
そして実感するビッキーとチャスよりオレの方が完全に小さい衝撃の事実。
以前はちょっとした違いだったはずなのに、いまははっきりと差を感じた。




