ノルド視察にゃん
○レークトゥス州 北東部 州道
ジープの車列は、軍隊蜂に襲われてオレの領地になった旧男爵領を通り抜けてレークトゥスに入った。そこから東に走って新しく手に入れたノルドに向かう。
ノルドは目の前の八〇〇〇メートル級のレーム山脈によって王都やレークトゥスから隔てられている。
「前方のレーム山脈もお館様の持ち物にゃんね」
王都出身の猫耳モモが説明してくれた。
境界線的にはレーム山脈もノルドになる。オレの感覚だと山の稜線を境界線に指定しそうなものだが、山脈は丸ごとオレの領地だ。
「にゃあ、デカい山にゃん」
それ以外の感想は出て来ない。
「まるで壁にゃん」
「にゃあ、登れる気がまるでしないにゃん」
アイガー北壁も真っ青な絶壁は、魔法蟻なら難なく踏破出来るがトンネルを使った方が速い。
「トンネルにしても良く掘る気になったにゃんね、湿地に何の用事があったにゃん?」
ノルドの領内は目の前の山脈以外はほぼ湿地だ。
「トンネルは、オリエーンス連邦時代の遺跡の可能性が高いから、昔は何かあったと違うにゃん?」
「そうにゃんね」
「でも、お館様、オリエーンス連邦時代の地図に目の前のレーム山脈自体が無いにゃんよ」
「にゃあ、確かにそうにゃん、まったく無いにゃん」
図書館情報体に当たったがオリエーンス連邦時代のいずれの地図にも記載は無い。
地図自体、詳細なものは残されて無かったが、だからといってこれだけ大きな山脈を書き漏らすとは思えない。
「トンネルのことを考えるとレーム山脈は、オリエーンス連邦が滅亡する前にはあったはずにゃん」
レーム山脈を貫くトンネルにはオリエーンス連邦形式の刻印が刻まれている。その後、現代魔法での補強がなされていた。
「いまから五〇〇〇年ちょっと前にゃんね」
「自然に出来た可能性もないとは言えないにゃんね」
「にゃあ、それより誰かが魔法でレーム山脈を作ったのと違うにゃん?」
猫耳の意見ももっともだ。
「にゃあ、それも不可能ではないにゃんね、何で作ったかはわからないけど自然の産物よりは説得力があるにゃん」
ざっくりと調べたところでは火山では無い。
「何かの余波で山脈が出来たとかも有りそうにゃんよ、例えばノルドの大湿地帯が出来た影響とかにゃん」
「にゃあ、湿地もオリエーンス連邦時代の地図には無いにゃんね」
「隣り合って無関係はそれこそ不自然にゃん」
「やっぱり湿地はレーム山脈と一緒に出来たにゃん?」
「記録も情報もないからいまのところ断定はできないにゃんね」
「オリエーンス連邦時代の末期にノルド周辺に何かが有ったにゃん」
「それは間違いないにゃんね」
「湿地帯も何処かに大規模に水を作る魔導具でも埋まってるのかも知れないにゃん」
「無いとは言えないのがこの世界にゃんね」
○ノルド州 境界門
王都のカジノ前から旧男爵領を経由してノルドのおまけにレークトゥスから譲り受けてケラスに編入したレーム大トンネル前の境界門に到着した。途中、人目に付かないところではちょっと浮き上がってぶっ飛ばしたので三時間も掛からなかった。
現在この出来たての境界門は、オレたちだけが通り抜けできる設定になってる。それ以前にレークトゥス側からは結界でこの土地に入れないけどな。
ノルドの境界門を開けてジープの車列が入る。
そこから更に一〇分ほど走るとノルドに抜ける大きなトンネルが姿を現す。
○ノルド州 レーム大トンネル
「にゃあ、お疲れ様にゃん」
トンネルの扉の前に先にノルドに派遣した猫耳のうち三人が迎えに来てくれた。
「進捗はどうにゃん?」
「出来たのはトンネルの改修と拠点の設置までにゃん、他はほとんど手付かずにゃん」
「にゃあ、そんなに欲張らなくても十分にゃん」
猫耳たちによって入口の門もトンネルも綺麗になっていた。改修済みのトンネルはオレには馴染みのある高速道路のトンネルより明るい。
まずは徐行して様子を眺めた。
「トンネルは老朽化が進んでかなり危なかったにゃん」
ジープを並走させて先発組の猫耳が説明する。
「にゃあ、放って置いたら数年で崩落してたにゃん」
「それがもうちょっと早かったらノルドはオレが貰う前に廃領だったにゃんね」
「レークトゥスの領主からしたら廃領の方が安上がりだったはずにゃん」
「にゃあ、ノルドにいたレークトゥスの人たちはもう引き上げたにゃん?」
先発組の猫耳に聞く。
「レークトゥスの人たちは残らず撤退してるにゃん」
「随分と早いにゃんね」
「レークトゥスから派遣されていたのは、トンネルの管理と警備の人間だけだったにゃん、ノルド自体はほぼ無人の状態で放置されていたにゃん」
「勿体ないにゃんね」
「これと言った活用法が無かったみたいにゃんね、お館様も見ればわかるにゃん」
「にゃあ、お館様なら見なくてもわかるにゃん」
先発組の猫耳が付け加える。
「湿地は、前情報どおり水棲のヤバいのがいるにゃん」
「侵食が激しくてかつて街の有った部分も大半が沼に沈んでるにゃん、しかも水が毒で汚染されてるにゃん」
「湿地帯が毒で汚染されてるにゃん?」
「にゃあ、そうにゃんかなり広い範囲が毒の泥と水で汚染されてるにゃん」
「魔獣はいないにゃん?」
「水棲のヤバいヤツが青色にゃん、それ以外はいまのところ居ないみたいにゃん」
「その水棲のヤバい青色エーテル機関持ちは虫にゃん?」
「にゃあ、違うにゃん、水棲の青色エーテル機関持ちは巨大なヤツメウナギにゃん、たぶんあれは元は食用にゃんね、いまは毒を垂れ流してるからとても食べられそうにないにゃん」
「食用なの!?」
昼寝していたリーリがオレの胸元から這い出して来た。
「にゃあ、毒を消すのと青色エーテル機関持ちは最優先で修正にゃんね」
「「「了解にゃん」」」
徐行してトンネルの状態を確認した後はジープの速度を上げる。
「このトンネルの全長はどれぐらいにゃん?」
「約五〇キロほどにゃん」
なんと青函トンネル並だ。
「にゃあ、八〇〇〇メートル級の山脈をぶち抜いてるだけはあるにゃんね」
ジープは時速一二〇キロで巡航する。
「下のトンネルは、もうノルドの拠点に繋がってるにゃん?」
「にゃあ、繋がっているにゃん」
「魔法蟻は仕事が早いにゃん」
「地下トンネルはウチらの生命線にゃん」
「にゃあ、それは言えるにゃんね」
「いまは、フェリクロシーヴァ経由でヌーラとプロトポロス経由でエクシトマ、それに各廃領に向けて試し掘りを進めてる最中にゃん」
猫耳が地下トンネルの進捗を説明してくれる。
「魔法蟻は足りてるにゃん」
「現時点での魔法蟻の数は一〇〇万体にゃん」
「にゃあ、増えたにゃんね」
「魔法蟻にとって数は正義にゃん」
『『『……』』』
念話で魔法蟻たちが口をカチカチさせる。
同意&頑張ってるアピールだ。
『お疲れにゃん、続けて頼むにゃん』
魔法蟻を激励する。
「埋まってる遺跡は無かったにゃん?」
「にゃあ、残念ながらいまのところプリンキピウムみたいには出て来ないにゃん」
『王都もいまのところはゴミばっかりで遺跡と呼べるモノはないにゃん』
王都でトンネルを作ってる猫耳からも念話が入った。
「にゃあ、ゴミでも遊べるモノがあるかも知れないにゃんよ」
『もちろん全部回収して有るから後でお館様に確認して欲しいにゃん』
「にゃあ、じっくり調べてみるにゃん」
「お館様、ノルドは泥の中に何か埋まってそうにゃんね」
「にゃあ、それは有りそうにゃん」
「これは探検の必要ありにゃん」
「にゃあ、探検と言う言葉はシビれるにゃん」
「「「にゃあ! 探検にゃん!」」」
猫耳たちは声を揃え、更にジープの速度を上げた。
○ノルド州 州都アメスィス
全長五〇キロのレーム大トンネルを抜けると外はすっかり暗くなっていた。ノルド側でも先発組の猫耳たちが出迎えてくれた。
「「「お館様、ノルドにようこそにゃん」」」
「にゃあ」
オレたちはジープを停めて周囲を見回す。
トンネルのノルド側出口にはトンネルを管理するレークトゥスの役人が詰めていたこじんまりとした二階建ての宿舎兼現地事務所があるだけだ。
敷地内を結界で固めてその外にはあまり出なかったらしくその外側は背の高い雑草で覆われていた。
州都アメスィスと名前が付いてはいるが、人がいたのはこれがすべて。ネオケラスより人口が少なかったわけだ。
「ノルドが手付かずだったのは本当にゃんね」
道路は今回、猫耳たちが修復して舗装をやり直したので真新しくなっていた。
「にゃあ、街っぽいのが有るのにすぐ近くで水の音がするにゃんね」
街のシルエットが見えてる。
「にゃあ、すぐそこまで毒の沼が来てるにゃん」
ざっくり探査魔法を打ったところ、報告通り街らしきものの大部分が沼に沈んでいた。
「これは湿地じゃなくて沼だね」
オレの頭の上からリーリも水音の方向を眺めた。
「にゃあ、リーリが言うとおりにゃん」
ノルドの領地の大部分が泥沼だった。かなり厚く泥の層があるらしく底なし沼の様相だ。たぶん落ちたら這い上がれない。
その前に毒で死ぬか。
「にゃあ、領地が沼なのはいいとして、毒がマズいにゃんね」
水に落ちたらまず助からないレベルの毒だ。それ以前に底なし沼ではいろいろ無理だろう。浅瀬に人骨がかなりの数が沈んでいた。
「何故、いまだに廃領地になってないのかが謎なぐらいヤバい場所にゃんね」
「レークトゥスに対する王宮の嫌がらせもあるにゃん、金のある領地は無駄遣いを強要されるにゃん」
「どうも水没してる州都が実は都市遺跡っぽいにゃん、たぶんレークトゥスの領主が何代かに渡って魔導具を探して持ち出していたにゃん」
「しっかり儲けてるあたりは尊敬に値するにゃん」
「オレに気前良くくれたってことは、いまはすっからかんの都市遺跡になってるにゃんね」
「危険な毒沼だから、犯罪奴隷を使ってもとても全部は持ち出せてなかったみたいにゃんよ」
毒沼では迷宮型の遺跡の発掘と大して変わらない危険度か。
「犯罪奴隷も数を揃えるにはそれなりにコストが掛かるにゃん」
武装商人なんて職業が成り立つぐらいだからな。
「沼の毒って、青色エーテル機関持ちの毒にゃん?」
「にゃあ、成分的には同系統にゃん」
「オレが見た感じだとかなり大規模に汚染されてるにゃんね」
「うん、見渡す限り毒にやられてるね」
リーリも確認した。
「これだけの領域を大規模に汚染させるには、青色エーテル機関持ちの毒だけでは無理があるにゃんね」
「そんなことよりここってスゴく臭いよ」
リーリが鼻を摘む。
「にゃあ、確かに腐敗臭っぽいのがキツいにゃんね」
「にゃお、ウチらも臭いのは苦手にゃん」
「洗浄してるけど収まらないにゃん、ウチらは諦めて結界で臭いを防いでるにゃん」
ノルド先行派遣組の猫耳たちは結界で沼の悪臭を弾いていた。
「にゃあ、だったら範囲を思い切り大きくして洗浄するにゃん、青色エーテル機関の修正も一緒にやって手っ取り早く済ませるにゃん」
「お館様、浄化の範囲はどのぐらいにするにゃん?」
「まずは前方五〇〇キロ圏内にゃん、洗浄して毒と腐敗した堆積物を一気に取り除くにゃん」
「にゃあ、併せて青色エーテル機関の修正にゃんね」
「そうにゃん」
「「「にゃあ、了解にゃん」」」
猫耳たちが声を合わせる。
「始めるにゃんよ!」
「「「にゃあ!」」」
オレたちのレベルが上がった洗浄と浄化の魔法が海と見まごうほど広大な毒沼を水平線の向こうまで青く光らせた。
「おお、これはスゴいね」
水に溶け込んでる毒と腐敗した堆積物をエーテルに変換する。
青い光がより強くなって、泥沼に沈みつつある石造りの古い街並みを照らす。
洗浄の魔法が五〇〇キロ圏内の湿地の水と泥に含まれている毒と腐敗した成分を分解した。
やがて光が収まると沼に沈んでいた魂が天に還る光の粒子が湧き上がった。
犯罪奴隷以外にも数多くの人間が命を落としたようだ。
「続けるにゃん」
「「「にゃあ!」」」
数百万の巨大ヤツメウナギを始めとする青色エーテル機関持ちを書き換えた。
まだ確認できてないが毒を出すことはないはずだ。
猫耳たちと湖畔に立つ。泥沼は綺麗に浄化されて清廉な水をたたえた湖に生まれ変わった。底の泥も分解されて泳いでも危険はない。
「にゃあ、嫌な臭いが消えたにゃん」
「水が綺麗にゃん」
元は街の大通りだったらしく泥水が透明な水に変わって石畳に打ち寄せる。
街はかなり古いのだが、状態保存の刻印で毒沼に浸かっていたのにちゃんと形を保っていた。
「街全体が湖底に向かって斜めに沈降していなければ普通に使えるのに惜しいにゃん」
「それ以前に沈んでるけどね」
「にゃあ、持ち上げればいいだけにゃん、でもいまの方が味があっていいにゃんね」
「にゃあ、街全体を持ち上げるだけとか、簡単に言っちゃうお館様にしびれるにゃん」
「「「にゃあ」」」
猫耳たちだって出来るはずだが。
「ひとまず毒の除去は完了にゃんね」
「いいんじゃない」
リーリもオレの頭の上に立って湖を眺める。
「五〇〇キロより先も地道に洗浄と浄化を続ければ、ノルドも使えるようになるはずにゃん」
「にゃあ、ウチらでは一気に五〇〇キロ圏内なんて無理だったにゃん、さすがお館様はやることが大きいにゃん」
『『『にゃあ!』』』
各拠点の猫耳たちも同意してる
「こんな広い場所だったら、ちまちまやってもしょうがないにゃん、次からはおまえらだけでも出来るはずにゃん」
「にゃあ、次はお任せにゃん」
「東の果ては、オレが貰ったタウルス州の魔獣の森にゃんね、気が遠くなるほど遠いにゃん」
オレは遠見してざっくりとした状況を確認した。
大部分が湖となったノルドは、東西南北の山脈のある西以外が三方が魔獣の森だ。全部オレの領地だが。
ちなみにノルドの周囲は、
タウルス州 アリエースの北でノルドの東。
アリエース州 ケラスの東隣でノルドの南。
ゲミニ州 タウルスの更に北でノルドの北。
と、なっている。人の住めない魔獣の森なので、現状は名前があってもあまり意味はないかもな。
「後は湿地帯拡大の原因を探る必要が有るにゃんね」
「地球温暖化にゃん?」
「この世界の人間はほとんど温室ガスを排出してないはずにゃんよ」
「ウチらが探検で解決するにゃん」
「「「にゃあ!」」」
「探検はさて置き、まずはノルドの拠点に行くにゃん」
「了解にゃん、直ぐに準備するにゃん」
猫耳が再生したのは、オパルスからネオケラスの移動に使ったあの六輪トラックだ。
「にゃあ、拠点にはトラックで行くにゃん」
「船じゃなくてトラックにゃん?」
「にゃあ、直ぐにわかるにゃん」
「このままトラックで湖に入るにゃん」
「拠点は地下じゃなくて湖にあるにゃん?」
「そうにゃん、だからトラックも水陸両用に改造してあるにゃん」
「にゃあ、評価するにゃん」
「お館様に褒められたにゃん、だからお館様はウチが抱っこして行くにゃん」
「だったら運転はウチにゃん」
「にゃあ」
オレは抱っこされたまま荷台に運ばれた。
「発車するにゃん!」
○ノルド州 州都アメスィス 湖上
トラックは静かに走り出し水没した石畳の道を進む。直ぐに水深が増してタイヤが石畳から浮き上がるのを感じた。
「にゃあ、水の中にも街がずっと続いてるのは幻想的にゃん」
透明になった水のおかげで暗くなっても底の様子が見て取れる。
それに水没した街の中で街灯が点いてた。
ファンタジーにゃんね。
水深四~五〇メートルのところまで水没した街が続いていた。
やがて街が途切れると湖の底はかなり荒れた状態になった。
「にゃあ、湖底が掘り返されてるにゃんね」
トラックを止めて湖の底を観察する。
「水と泥は綺麗になったから荒らされてるのが丸わかりにゃん」
「何の跡にゃん」
「これは巨大ヤツメウナギが湿地を掘り返してドロドロにした跡にゃん」
「地下一〇〇から二〇〇メートルぐらいまで掘り返してるみたいにゃんね」
「にゃあ、随分と深く潜るにゃんね」
「青色でも魔獣にゃん、やる時はやるにゃん」
『地面ヲ掘リ返スノハ彼ラノ本能ゲコ』
『許スゲコ』
『ソウゲコ』
ゲコ?
突然、水の中から数人が現れた。
いや、人じゃなかった。
「にゃ? カエルにゃん」
『かえるジャナクテ、水棲人ゲコ』
『ソウゲコ』
『水棲人ゲコ』
立ち泳ぎしてる体長一メートル五〇センチぐらいでプロポーションが少女に近いカエルだった。
語尾がゲコだし。
カズキに見せたらペンが唸りそうな感じだ。
『念話が使えるんにゃんね』
『使エルゲコ』
『ソウゲコ」
『毒泥ガ消エテ目ガ覚メタゲコ』
「お館様、青色魔獣とゴーレムのミックスみたいにゃん」
「そうみたいにゃんね」
『水棲人は前からここにいたにゃん?』
『イタゲコ』
『本来ハ巨大やつめうなぎノ監視ト管理ガ仕事ゲコ』
『毒泥ニヤラレテ機能停止シテイタゲコ』
『随分ト時間ガ過ギタミタイゲコ』
『にゃあ、知能が高い魔獣にゃんね』
『魔獣ジャナクテ、水棲人ゲコ』
『ソウゲコ』
『水棲人ゲコ』
『にゃあ、お館様、くくり的には魔獣でも、青色エーテル機関の修正で機能が回復したみたいにゃん』
研究拠点から念話が入った。
『にゃあ、人間とコミュニケーションが取れる魔獣にゃん?』
『魔獣じゃないにゃん、ゴーレムの進化版にゃん、人工的な魂まであるみたいにゃん』
『にゃあ、それはスゴいにゃんね』
『たぶん、エーテル機関は青じゃなくて緑色をしてるはずにゃん』
『にゃあ、確認するにゃん』
改めてカエル人間もとい水棲人のエーテル機関をサーチした。
反応はエメラルドグリーン。
『緑色にゃん』
『見事なアマガエル色にゃんね』
『かえるジャナクテ、水棲人ゲコ』
『ソウゲコ』
『水棲人ゲコ』
水棲人たちから物言いが入る。
『にゃあ、色の話にゃん』
『お館様、ウチらは第三のエーテル機関を発見したみたいにゃん!』
「「「にゃあ!」」」
「いきなり大発見にゃん!」
研究拠点からの念話に猫耳たちの歓声が沸いた。
『ドウシタゲコ?』
『にゃあ、こっちの話にゃん、ところで水棲人は全部で何人いるにゃん?』
『全部デ、三〇〇チョトゲコ』
『イマモ健在ナノハ、二〇チョットゲコ』
『残りはどうしたにゃん?』
『機能停止してるゲコ』
『毒泥ノ中デ機能停止ゲコ』
『するとまだ動いてないにゃんね?』
『ソウゲコ』
「それは助け出すしかないにゃんね」
「「「にゃあ!」」」
『オ気持チハアリガタイゲコ』
『デモ、我々モ時間ゲコ』
『毒泥ノ影響デ間モナク自壊スルゲコ』
『最後二意識ヲ取リ戻シタダケデモ感謝ゲコ』
『サヨナラゲコ』
『にゃあ、ちょっと早すぎにゃん! 待つにゃん!』
『無理ゲコ』
『お館様! 水棲人を猫耳ゴーレムに作り変えるにゃん!』
研究拠点から念話が飛んだ。
『わかったにゃん! 直ぐに作り変えるにゃん! おまえらも力を貸すにゃん!』
「「「にゃあ!」」」
猫耳の助けを借りて水棲人を猫耳ゴーレム化する。
水棲人たちの身体が青い光に包まれ猫耳ゴーレムに変化した。
格納できる足ひれオプション付きだ。
『『『ニャアアア!』』』
「にゃあ、機能停止した水棲人を助けて全員、猫耳ゴーレムにするにゃん」
「「「にゃあ!」」」
最も遠い場所は一〇〇〇キロ近く離れていたが水棲人の位置は把握した。機能も停止していたがそれも問題にはならなかった。
「まずは水棲人がいる周囲の毒泥を浄化するにゃん!」
「「「了解にゃん!」」」
「行くにゃん!」
猫耳たちと一緒に水棲人のいる場所を中心に浄化を行う。
「「「にゃあ!」」」
肉眼では確認できない遥か彼方で青い光の柱が幾つも立ってるはずだ。
「おお、かなり綺麗になったね」
リーリが呟く。
ひとりだけ見えてたみたいだ。
『『『ゲコ』』』
全ての水棲人たちが毒から解放され息を吹き返した。
「にゃあ! 最後の仕上げにゃん! 水棲人の残りを一気に猫耳ゴーレム化するにゃんよ!」
「「「にゃあ!」」」
自壊のタイムリミットが迫った水棲人の身体をほぼ無敵の猫耳ゴーレムに作り変える。
『『『ニャアアア!』』』
全ての水棲人を猫耳ゴーレム化した。
『全員無事にゃん!?』
『ニャア! 無事ニャン』
『三〇〇チョット全員無事ニャン!』
『毒泥は、全部浄化の方向で問題ないにゃんね?』
『ニャア、問題ナイニャン、元ハ全テ綺麗ナ水ダッタニャン』
猫耳ゴーレムに姿を変えた水棲人たちはギリギリのタイミングで自壊を免れた。
「にゃあ、お館様、ウチらの猫耳ゴーレムもバージョンアップできるにゃん」
「緑色のエーテル機関があれば猫耳ゴーレムの更なる機能強化が期待できるにゃん」
「疑似魂の効果も大きそうにゃんね、にゃあ、研究拠点で問題がないか確認したら直ぐに新しくするにゃん」
「「「にゃあ」」」
『研究拠点は、どうにゃん?』
研究拠点に念話を飛ばす。
『にゃあ、こちら研究拠点にゃん、緑のエーテル機関の調査完了にゃん』
『もう調査出来たにゃん?』
『にゃあ、ベースは青色のエーテル機関にゃん、そこに改変というより付け足しがされていたにゃん』
『そこが人工的に作られた魂の部分にゃんね?』
『そうにゃん、そしてその部分は人間のエーテル器官にかなり似てるにゃん』
『にゃ、人間にゃん?』
『人間のエーテル器官はウチらが認識してるポンコツなだけじゃない何かが隠されてる可能性があるにゃん』
『それは調べる必要があるにゃんね』
『にゃあ、ウチら一丸になって調べるにゃん!』
『『『にゃあ!』』』
研究拠点の猫耳たちも盛り上がっていた。
『猫耳ゴーレムのバージョンアップは後にした方がいいにゃん?』
『バージョンアップに関しては問題はないのでこのまま進めて大丈夫にゃん』
『わかったにゃん、直ぐにバージョンアップを開始するにゃん』
『にゃあ! バージョンアップにゃん!』
『すべての猫耳ゴーレムは安全を確認して手を止めるにゃん』
『『『ニャア』』』
猫耳ゴーレムたちの返事が帰って来た。
いずれも問題ないらしい。
『猫耳ゴーレムのバージョンアップを開始にゃん!』
『『『ニャア!』』』
これまでになく大きなバージョンアップっだったが一瞬で完了した。
猫耳ゴーレム「Ver3.01」だ。
『『『今夜ハ、オ館様トオ風呂ニャン!』』』
『にゃあ、第一声がそれにゃん!?』
『『『ダメニャン?』』』
猫耳ゴーレムたちのしゅんとした雰囲気も伝わって来た。
『にゃあ、一度に全員は無理だから順番にゃん』
『『『ニャア♪』』』
○ノルド州 ノルド拠点
毒泥の洗浄を遠距離から続けつつ、いまは清廉な湖にそびえ立つ青いガラスのピラミッドにオレたちと新しく仲間に加えた猫耳ゴーレムが上陸した。
巨大ヤツメウナギが悠々と泳いでいるが、いまはエーテル機関を修正されてるのでおとなしくて人懐っこい性格に変わっている。
顔つきも可愛くなった。
おかげで食べられそうにない。
水棲人から猫耳ゴーレムに作り変えた際、記憶を覗いたが、やはり以前はここまで湖は大きくなかった様だ。
ある日突然、毒泥が周囲を満たして意識を失い、気が付いたら今日になっていたらしい。エーテル機関の異変や機能停止の自覚も無かった。
『ニャア、うちラハかいざる湖シカ知ラナイニャン』
『外ノ世界デ何ガアッタカ、ワカラナイニャン』
「にゃあ、カイザル湖には水を作る施設があったにゃんね?」
『ニャア、管理局ニ大キナ魔導具ガアッタニャン、多分ソレニャン』
「管理局にゃんね」
「お館様、ウチらの情報にカイザル湖と言うのは無いにゃん」
「にゃあ、オリエーンス連邦の末期に極秘裏に作られた人工湖の可能性があるにゃん」
「その辺りのことは知らないにゃん?」
『ソモソモうちラハ、人間ヲ見タコトガ無イニャン』
『ニャア、うちラノ創造主タル人間ヲ見テミタカッタニャン』
「にゃあ、オリエーンス連邦の末期の人に関する情報は、オレたちも持ち合わせてないにゃん、ごっそり抜け落ちてるにゃん」
『残念ニャン』
『『『ニャア』』』
「最優先は仲間の回収にゃん、それと残りの毒泥の浄化とカイザル湖の管理局の探索にゃんね」
「にゃあ、カイザル湖では巨大ヤツメウナギの他に何か飼ってたにゃん?」
『ニャア、飼ッテイタワケジャナイケド水棲どらごんガイタニャン』
『体長八〇めーとるグライノガ四体ニャン』
「かなりの大きさにゃん」
新たに加わった猫耳ゴーレムと思考共有してドラゴンの詳細な情報を得る。
「にゃあ、この完成度もなかなかのものにゃん」
「ドラゴンも緑のエーテル機関にゃん?」
『ニャア、多分違ウニャン』
「念話はして無かったみたいにゃん」
「すると青色魔獣か、ゴーレムの可能性が高いにゃん」
「にゃあ、ドラゴンはいまも健在にゃん?」
『ワカラナイニャン』
「オレの探査魔法にも引っ掛からないにゃん」
「にゃあ、だとすると壊れたか、大きく変質してるか、別の場所に行ったかのどれかにゃん」
「機能停止じゃないにゃん?」
『ニャア、ソレナラうちラニモワカルハズニャン』
「拠点を増やしながらカイザル湖とその管理局の捜索を続けるにゃん」
「毒泥の一掃も必要にゃん」
『マズハ、オ館様トオ風呂ニャン』
『『『ニャア!』』』
オレは猫耳ゴーレムに抱っこされて出来たての大浴場に連れて行かれた。




