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カジノに行くにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年一〇月〇五日


 ○王都タリス 城壁内 貴族街 下級地区 ブルーマー男爵邸前


 オレはアルを始めとする猫耳三人とリーリを連れてブルーマー男爵邸にやって来た。

 男爵邸は下級の法衣貴族の屋敷が立ち並ぶ地域にある。

「古いけど、なかなかのお屋敷にゃん」

 ただし手入れが行き届いてるとは言えず、経済的困窮が見て取れた。この地区自体あまり羽振りのいい人はいないようだ。

「おはようにゃん」

 扉のインターホンの様な魔導具に声を掛けた。壊れてたので直してからだが。

「どちら様でしょう?」

 出てきたのは使用人ではなくアール・ブルーマー男爵の当主になった妹本人だ。

「にゃあ、オレはマコト・アマノにゃん、昨日はわざわざ来ていただいたのに留守をして失礼したにゃん」

「は、初めまして侯爵様! フェリシア・ブルーマーと申します」

 慌てた様子でお辞儀した。

 まだ二十代には行ってない綺麗な娘だが痩せていて、亜麻色の髪がパサパサなのも勿体無かった。ドレスも庶民よりはマシだが着古した感じだ。



 ○王都タリス 城壁内 貴族街 下級地区 ブルーマー男爵邸 応接室


 オレたちはフェリシアの案内で応接室に通された。綺麗に掃除はされてるが古さから来る煤けた感じはどうしようもない。


 やはり使用人はひとりもいないようだ。当主自らがお茶を入れてくれた。

「にゃあ、フェリシアさんがブルーマー男爵を継いだにゃん?」

「はい、王宮から兄が亡くなったと連絡が入ったものですから」

「王宮からにゃん?」

「あの、兄が侯爵様に襲撃を掛け、その場で全員処刑されたとお聞きしました」

「にゃ?」

「侯爵様のご希望で内々に処理するので取り潰しはしないが、早急に襲爵せよとのことで先月に爵位を継ぎました、申し訳ございません」

「誤解があるにゃん、オレは誰も処刑なんてしてないにゃん、気絶させただけにゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちもうなずいた。

 その後、箱に詰めて持ち帰ったけどな。

「では、兄は生きてるのですか?」

「にゃあ、オレからは何とも言えないにゃん、王宮がアール・ブルーマー男爵を死んだと言ってるのなら何か根拠があるのかもしれないにゃんね」

「いまだに連絡がありませんから、たぶん生きてはいないと思います」

「こうしてフェリシアさんと知り合ったのも何かの縁にゃん、兄貴の後始末はオレに任せて欲しいにゃん」

「後始末ですか?」

「にゃあ、まずはカジノで作った借金の肩代わりと手下の家族の面倒をみるにゃん」

「いえ、そんなことをしていただく理由が有りません」

「にゃあ、オレが気絶させた後、行方がわからなくなった上に死んだことになってるなら無関係じゃないにゃん」

「しかし、悪いのは兄たちですから」

「にゃあ、そうにゃんね、だからって関係のない家族まで不幸にする必要はないにゃん。家族そろって盗賊なら話は別にゃん」

「いいえ、それは有りません」

「にゃあ、だったら問題ないにゃん、それで兄貴の借金は幾らにゃん?」

「大金貨三〇〇枚と聞いています」

「微妙な金額にゃんね」

「面目ないにゃん」

 アルが耳をペタンとさせる。

「えっ?」

「にゃあ、こっちの話にゃん」

「悪いようにはしないから借金のことはオレに任せるにゃん」

「ですが」

「にゃあ、このままだとフェリシアさんが娼館に売られるにゃん」

「私が娼館にですか?」

 本人は知らなかったらしい。

「そうにゃん、フェリシアさんを襲爵させたのも最初からそれが目的にゃん、兄貴の借金より桁違いに儲かるにゃん」

 現役の男爵家の女当主を好きにできるとなれば高い金を払う男もいるだろう。オレの情報を流して兄貴が暴走する様に仕向けたのもカジノと娼館の関係者で間違いない。こちらは既に裏が取れている。

「つまり、フェリシアさんは兄妹揃ってはめられたにゃん」



 ○王都タリス 外縁部 南部地区 カジノ・オーディアール


 夕暮れ時を過ぎてオレたちは、王都の外縁南部地区にあるきらびやかな繁華街にやって来た。

 目の前にはアール・ブルーマー男爵がお気に入りのカジノ・オーディアールがある。ここで尻の毛まで毟られたのだ。

「にゃあ、かなりの高級店にゃんね」

「大手商会の幹部クラスや、金回りのいい貴族が常連にゃん」

 アルが説明してくれる。

「にゃあ、何で金欠の男爵が入り込んだんにゃん?」

「面目ないにゃん」

 耳ペタン。

「犯罪ギルドの接待にゃん」

 元盗賊のロアが補足する。

「そこから既に目を付けられていたにゃんね」

 まずはオーディアールのオーナーに面会だ。

「お嬢さん方、ここは子供の来るところではありませんよ」

 入口の黒服はなかなか丁寧だ。

「にゃあ、オレはマコト・アマノ侯爵にゃん、ギスラン・オーディアールに用があるにゃん、取次を頼むにゃん」

 チップに金貨を弾いて渡した。

「少々お待ちください」

 黒服は金貨に一瞬驚いたが直ぐに丁寧にお辞儀した。



 ○王都タリス 外縁部 南部地区 カジノ・オーディアール 応接室


 レオナルド・ダ・クマゴロウの絵が飾られた応接室は、下品一歩手前のインテリアだった。絵はなかなか良くできてるが贋作だし。

「なかなかイケるよ」

「にゃあ」

 それでもジュースと焼き菓子は美味しくてリーリもご満悦だ。

「お待たせしました侯爵様、手前どもにお越しいただきありがとうございます、私がギスラン・オーディアールでございます」

 カジノ・オーディアールのオーナーがやって来た。

 ギスラン・オーディアールは年の頃五〇歳ぐらいのハンプティダンプティみたいな体型の禿頭のおっさんだ。

「にゃ」

 完璧な卵型なフォルムはかなりレベルの高いハンプティダンプティだった。かつてのベイクウェル商会オパルス支店長ドリスタン・バーロウ以上とは、やるにゃんね。

「にゃあ、突然押しかけて済まなかったにゃん、田舎者の子供のやることなので勘弁して欲しいにゃん」

「いえ、いま話題の侯爵様のご訪問なら、大歓迎でございます」

「にゃあ、それはありがたいにゃん」

「今日は手前どもにどのようなご用事が」

「にゃあ、ブルーマー男爵家についてにゃん」

「確か、侯爵様を襲撃したと噂になってる?」

「そうにゃん、誰が流したか知らないがオレが全員を処刑したことになっていて、大変迷惑してるにゃん」

「それはお気の毒に」

「にゃあ、六歳児にそんなことができるわけないにゃん」

「確かに」

「聞けば男爵を襲爵したフェリシアさんも兄貴の作った借金を背負って苦労されてる様子にゃん、これも何かの縁と言うことでオレが肩代わりすることにしたにゃん」

「侯爵様がブルーマー男爵の借金をお支払いただけるのですか?」

「そうにゃん、借金は大金貨三〇〇枚と聞いてるにゃん、それで間違いないか確認して欲しいにゃん」

「かしこまりました、直ぐに確認いたします」

 ギスランは控えている黒服に無言で指示を出した。

 直ぐに証書を持った別の黒服がやって来た。

「確かに借金額は大金貨三〇〇枚で間違いございません」

「にゃあ、テーブルの上に金を置いてもいいにゃん?」

「えっ、ええ、どうぞ」

「にゃあ」

 テーブルの上に積み重ねた大金貨を再生した。

「これは、いささか多く有りませんか?」

「全部で一〇〇〇枚にゃん、延滞分も含めて、これで完済にして欲しいにゃん」

「かしこまりました、直ぐに書類をご用意いたします」

 ハンプティダンプティじゃなくてギスランは黒服に指で指示した。ごねるかと思ったがここはすんなり借金の証文を手放した。オレと事を構えるのは不利と判断したらしい。


「にゃあ、ここは面白そうにゃんね」

 書類のやり取りを終えてからギスランに問い掛けた。

「はい、数多くのお客様にご愛顧いただいてございます」

「にゃあ、お願いがあるにゃん、オレもここで遊ばせて欲しいにゃん」

「侯爵様がですか?」

「にゃあ、金が有ってもこのなりでは使い所が無くて困ってるにゃん」

「それは羨ましい、もちろん侯爵様なら問題ございません」

 揉み手で歓迎してくれた。

「にゃあ、ありがとうにゃん」

「一点だけお願いがございます、魔力検出用のブレスレットをご装着下さい、当カジノのルールでございますのでご了承下さい」

「ブレスレットにゃん? いいにゃんよ」



 ○王都タリス 外縁部 南部地区 カジノ・オーディアール カジノフロア


 カジノのフロアに出た。雰囲気は元の世界のカジノと同じだ。オレも海外のカジノにはほんの数回だが行ったことがあるにゃん。

「にゃあ、お金持ちがいっぱいにゃん」

 人気店にふさわしく着飾った人たちで繁盛していた。どこの世界も持つ者と持たざる者がいるのは一緒だ。

 全員が同じブレスレットをしている。

 ギスランから渡されたブレスレットは、エーテル器官から身体の外に出る魔力を検出すると光る魔導具だ。

 オリエーンス連邦時代の出土品を改造して複製したモノらしく従業員もしている。簡単な刻印が刻まれているがよく出来た魔導具だ。

『にゃあ、ディーラーの半分のブレスレットは光らない仕掛けがしてあるにゃん』

『イカサマにゃん』

『ウチらの魔力も光らないにゃんね』

 猫耳たちとは念話で会話する。

『にゃあ、オレたちは身体の外でエーテルを魔力に変換できるからエーテル器官に紐づけされた魔導具は反応しないにゃん』

『光らない仕掛けをしていないディーラーは、魔力を使わずに目を操れるタイプにゃんね』

『にゃあ、それもイカサマにゃん』

『お館様、人を陥れるヤツらがまともに勝負をするわけないにゃん』

『それもそうにゃんね』


「どうですかな、侯爵様」

 ニコニコした王都のハンプティダンプティが寄って来た。

「にゃあ、サイコロが簡単そうだからやってみるにゃん」

「お勧めです」

 ギスランもお勧めしてくれたのはいわゆる丁半博打で、王国軍の駐屯地で開いていた賭場でやってたのとほぼ同じものだ。

 ディーラーがカクテルみたいにサイコロをシェイクする。サイコロの出た目の合計が偶数か奇数かを当てるだけの単純なルールだ。

 王国軍の駐屯地と違って綺麗な道具を使ってるがイカサマは似たようなものだ。


『泣かない程度に遊んでやれ』

『かしこまりました』


 ギスランは念話の魔導具を使ってディーラーに指示を出した。

 オレは早速コインを偶数に賭けた。

 目の前のディーラーは魔法を使わなくても自由に出目を操れるタイプだ。

 最初は勝たせてくれるらしい。

「にゃあ、当たったにゃん!」

「マコトスゴいね!」

 リーリと一緒に喜んで見せる。

「おお、侯爵様は才能がお有りのようだ、それに妖精様も一緒ではこちらがかなり不利ですな」

 妖精は幸運のシンボルだからな。

「そうかも知れないにゃんね、リーリは何か食べて来るといいにゃん」

 金貨を渡した。

「うん、そうする」

 金貨を抱えて軽食コーナーに飛んで行った。オレは続けてコインを置いた。


「また、マコト様の勝利です」


 ディーラーはオレが五連続で的中させた辺りから脂汗をかき始めた。

『何をしている、誰がそこまで喜ばせろと言った!』

 ギスランは顔に出さないがオコである。

『すいません、何故か上手くいかなくて』

『おい、ちゃんと監視してるのか、このガキは魔法使いなんだぞ!』

 隠し部屋で魔力のモニターをしてる魔法使いたちにも文句を言う。

『魔法の反応は一切有りません』


 一〇連続で的中させたところでオレはルーレットに移動した。


「こっちも面白そうにゃんね」

 これもオレの知ってるルーレットとほぼ同じだ。

『ディーラーのお姉ちゃんは何も知らないみたいにゃんね、隠し部屋に出目を操作してる魔法使いがいるにゃん』

『にゃあ、隠し部屋の魔法使いの乗っ取り完了にゃん』

 エーテル器官をハッキングされた魔法使いは無意識に猫耳の命令に従ってしまう。

『後は勝手にこいつらがお館様を勝たせてくれるにゃん』

『にゃあ』


「始めるにゃん」

 オレはさっきまで集めたコインを全部一箇所に賭けた。

「おお、侯爵様、いきなり大勝負ですな」

「にゃあ、今日はツイてるから当たりそうな気がするにゃん」

「大いに有りえます」

『ガキの監視を強化しろ、ルーレットも見張れ!』

『『『了解!』』』

 カジノの裏のスタッフが声をそろえた。


「にゃお、何か変な感じがするにゃん、誰か近くで魔法を使ってるのと違うにゃん?」

 周囲の客もザワっとする。

 敏感な人間ならわかるレベルだ。

「本当ですか? おい、監視を強化しろ!」

 ギスランがオレの指摘に慌てて声を上げた。

『馬鹿野郎! おまえらが魔力を垂れ流してどうする!』

 いまにも割れそうな勢いでギスランが念話で怒鳴る。

『『『すいません!』』』

 裏方のドタバタを他所にディーラーのお姉さんはルーレットを回した。

 固唾を呑んで玉の転がる先を見つめる。

 監視も続くがオレたちは一切魔力を漏らさない。

 玉を操っているのは別室の魔法使いだ。


 コトン!と硬い音が観客たちが押し黙った静寂の中に響き渡った。


「にゃあ! 当たったにゃん!」

「「「おおお!」」」

 見守っていた客たちにもパチパチと拍手される。

「お、お見事です」

 滝のような汗を流すギスラン。

『いったい、どういうことだ!?』

『わ、わかりません』

『おまえは何をやってる!?』

『ちゃんと指示通りに動かしました』

『馬鹿野郎! 何でそれでこの結果になるんだ!?』

 ハンプティダンプティが更に激おこだ。頭から湯気が出てるぞ。卵の再現度がドリスタン・バーロウより上とは恐れ入ったにゃん。

「にゃあ、オレたちはそろそろ帰るにゃん、これ以上勝ち続けたらイカサマを疑われるにゃん」

「確かにそうですな」

 周囲のお客に大受けだ。

 大量のコインを黒服に運んで貰い換金する。

 大金貨五〇枚ほどだから大したことはない。

「お待ち下さい、侯爵様」

 ギスランに引き止められた。

「にゃ?」

「よろしかったらVIPルームはいかがでしょう? 一般フロアより高レートで楽しめますよ」

「にゃあ、それは楽しそうにゃんね」

「侯爵様なら存分にご堪能できるかと」

「だったら少し遊ばせて貰うにゃん、勝ち逃げしても怒ったらダメにゃんよ」

「もちろんですとも、ではこちらへ」

 表情はにこやかだが目が笑って無かった。



 ○王都タリス 外縁部 南部地区 カジノ・オーディアール VIPフロア


 オレたちが案内されたVIPフロアは地下にあった。封印系の結界が幾重にも張ってある。

 さっきのフロアの半分ほどの広さの場所にルーレットやカードゲームの台が各種設置してあった。

 オレたち以外に客はいない。

「殺風景な部屋にゃんね」

「高レートのゲームですから、装飾よりもセキュリティを重視しております」

「にゃあ、納得にゃん」

 上と違ってディーラーも黒服も本職が別に有りそうな男ばかりだ。

 怨霊を結界で力ずくで押さえつけてる。

 ここで死んだ人間は一〇や二〇では無さそうだ。

『にゃあ、黒服の半分が魔法使いにゃん』

『こっちも隠し部屋に三人の魔法使いがいるにゃん』

『にゃあ、どの台にもイカサマが仕込んであるにゃん』

『しかも魔導具にゃん』

「侯爵様、コイン一枚で大金貨一〇枚からでいかがでしょう?」

「にゃあ、いいにゃんよ、最初は大金貨一〇〇〇枚をコインにして欲しいにゃん」

 猫耳が大金貨の袋を出し、黒服に渡した。

「おお、流石、侯爵様は太っ腹でいらっしゃる」

「田舎だと金が貯まる一方にゃん」

「実に羨ましい」

「にゃあ、お金は使ってなんぼにゃん」

 コインを受け取った。

「ギスランのお勧めを教えて欲しいにゃん」

「お勧めはやはりカードでしょう、ディーラーとの駆け引きを存分にお楽しみいただけます」

「にゃあ、それは楽しそうにゃんね」

 カードゲームのテーブルにはいちばんの魔導具が仕込まれている。

 ディーラーも魔法使いだ。

「侯爵様、こちらのブレスレットをお使い下さい」

 金のブレスレットだ。

「にゃあ、さっきのより豪華にゃん」

「無粋な道具ですがルールですのでご了承下さい」


『魔力検出に思考誘導がプラスで最強にゃん』

『身ぐるみ剥ぐ系の魔導具にゃんね』

『にゃあ、残念ながらこれもウチらには効かないにゃん』

『昔からこういう魔導具が作られてると言うことは、人間の本質はあまり変わってないと言うことにゃんね』

『お館様の深いお言葉にゃん』


 オレはギスランお勧めのカードゲームをすることにした。

 ディーラーからの説明からすると乱暴に言えばバカラと同じだ。

 バンカーとプレーヤーの勝負を予想してどちらに掛けるかで勝敗が決する。

 更に乱暴に言えば丁半博打と同じ二者択一だ。

「にゃあ、迷うにゃん」

『しばらくは三勝二敗のペースを維持しろ』

 ギスランからディーラーに念話が飛んだ。

「バンカーに掛けるにゃん」

 コインをごそっと置く。

 ディーラーが華麗な手さばきでカードを配る。


『にゃあ、カードを書き換える魔導具にゃん』

『無駄に凝ってるにゃんね』

『ディーラーが小細工したにゃん』

『隠し部屋の魔法使いたちが監視してるにゃんね、またこいつらに協力させるにゃん』


 ディーラーがカードめくる。

「にゃあ! バンカーの勝ちにゃん!」

「「「やったにゃん!」」」

「おお、流石です」


『ペースを間違えるなよ』

『はい』


 ディーラーは平静を装っているがちょい焦り気味。

 初っ端から勝ちを取りに行ったが予想と違う結果になったからだ。


 それからオレの五連勝で場の空気が張り詰める。

 こっちのディーラーも汗ダラダラだ。

「侯爵様、今日はツキまくりですな」

 ギスランは目をギラギラさせてる。

『どういうことだおまえら!?』

『す、すいません、魔導具の不調としか』

 ディーラーは小さくなる。

『イカサマはどうだ?』

 隠し部屋の魔法使いたちに問い掛ける。

『『『魔力は動いてません』』』

 観測してると思ってる魔力でカードを書き換えていたことに本人たちは気付かない。

『私にやらせて下さい』

『おお、アンジェルか、頼む』

 ディーラーが交代する様だ。

 新しいディーラーはビキニアーマーが似合いそうな赤い髪の長身の女性だった。冒険者ギルドでもいいところに行けそうな大きなお胸も装備している。

「アンジェル・ドゥケーヌと申します」

「にゃあ、よろしくにゃん」

 かなりの魔法使いの様だ。

『どうします、オーナー』

『ケツの毛まで毟ってやれ』

『子供をいじめるのは趣味じゃありませんがいいでしょう』

「にゃあ、チマチマ賭けるのは飽きたにゃん、大金貨五〇〇〇枚でどうにゃん?」

 大金貨の袋をドサドサとテーブルに置く。

「どうするにゃん?」

「ええ、いいでしょう、その勝負、お受けしましょう」

 ハンプティダンプティも随分と油っぽくなっていた。ほんのりピンクでツヤツヤだ。


『にゃあ、お館様、VIPルームの外に武装したヤツらが集まって来たにゃん』

『王都守備隊でも無ければ、王国軍や近衛の兵士でもないにゃん』

『カジノの私兵にゃん』

『王国軍より練度が高そうにゃん』

『にゃあ、あそこより低いのはなかなかいないにゃんよ』


 ゲームが始まった。

「にゃあ、プレーヤーに全部にゃん」

 アンジェルはカードを捌きつつカードを結界で括って外からの干渉を排除する。

 そして自分の魔力のみを通してカードを支配した。

 結果は……。

 アンジェルは信じられないものを見る様な目でカードを凝視する。

「どうかしたにゃん?」

「……勝者、プレーヤーです」

「にゃあ! 勝ったにゃん!」

「お館様、スゴいにゃん!」

「にゃあ、お館様、偉いにゃん!」

「お館様、可愛いにゃん!」

「「「にゃあ♪」」」

 オレたちがじゃれ合ってる横でハンプティダンプティが目を血走らせアンジェルを睨みつけた。

『どういうことだアンジェル、何故おまえが負ける!?』

『わかりません、確かにカードはバンカーが勝っていたのに』

『おい、役立たずども! イカサマの証拠は掴んだか!?』

 ギスランが念話で隠し部屋の魔法使いを恫喝する。

『『『い、いいえ、何処にも魔力は検出されませんでした』』』

『だったら、証拠を作れ!』

『かしこまりました』

「にゃあ、流石に大金貨一万枚は払えないにゃん? 分割払いでもいいにゃんよ」

「い、いいえ、ご心配なく、もう一勝負お願いします」

「いいにゃん? 負けたら二万枚にゃんよ」

「問題ございません」

「にゃあ、だったらやるにゃん」

『おまえら、しっかりやれ!』

『『『お任せ下さい!』』』

 カジノ一丸になってイカサマを仕掛けるつもりだ。

「初めます」

 アンジェルがカードをさばく。

「にゃあ、プレーヤーに大金貨一万枚にゃん」

『やれ』

 ギスランが念話で指示を出した。

 アンジェルがカードに魔力を通した。

「光ってるにゃんよ」

「「「……!」」」

 ディラーを務めるアンジェルのブレスレットが光っていた。

「にゃあ、イカサマはダメにゃんよ」

「どういうことだ、アンジェル?」

「わ、わかりません」

『おまえら、何をしていた』

『『『我々は確かにガキどものブレスレットを!』』』

「にゃあ、イカサマは一〇倍返しにゃんよ、大金貨一〇万枚にゃんね」

「これは何かの間違いでして」

「にゃあ、ギスラン・オーディアール、カジノでそんな言い訳は通用しないにゃん」

「「「にゃあ」」」

「くっ、ガキが」

「にゃあ、本性を現したにゃんね」

「殺せ!」

 武装した私兵がVIPルームに雪崩込んで来た。

 オレたちに銃を向ける。

「にゃあ、そこまでにゃん、既にこのカジノは包囲されてるにゃん」

「いいかげんなことを」

『本当です、包囲されてます!』

 カジノの雇われ魔法使いから報告が入る。

 猫耳たちでカジノを囲んでいた。

「構わん、殺せ! ここは隠し部屋だ、バレはしない!」

「にゃあ、誰がどうやってオレたちを殺すにゃん?」

 私兵はピクリともしない。

「どうした、早く殺せ!」

 銃を構えた私兵がバタバタと倒れた。

「にゃあ、動いたら気絶するにゃんよ」

「アンジェル、早くこいつを殺せ!」

「無理です、格が違いすぎます」

「にゃあ、アンジェルはわかってるみたいにゃんね」

「だったら、私が始末してやろう」

 ギスランは格納空間から銃を取り出そうとした。

「なっ!?」

「にゃあ、なかなかいい銃にゃんね」

 オレは横取りしたギスランの銃を眺める。黒地に金の装飾も悪くない。炸裂するタイプの弾丸は当たるとヤバいことになる。

「でも、この銃じゃオレは殺せないにゃんよ」

 この程度ではオレの防御結界は抜けない。

「もう反撃は無しにゃん? だったら捕縛するにゃん」

 電撃を使ってVIPルームの全員を沈黙させた。


『にゃあ、業務連絡にゃん、当カジノはマコト・アマノがギスラン・オーディアールからその一切を譲り受けたにゃん、イカサマと逃亡をかましたヤツは速攻犯罪奴隷にゃん』


 通常フロアのディーラーや黒服が一瞬ピクっとしたが騒ぎ出すヤツはいなかった。


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