金ピカと寄り道にゃん
○王都タリス 城壁内 王城区画
「にゃあ、来た道と違うにゃんよ」
帰りもこっ恥ずかしい近衛軍の金ピカ馬車に乗ってるわけだが、王宮を出て王城区画の森をオレの屋敷とは違う方向の道に入った。
「近衛軍総指令官コーネリアス大公殿下がマコト様との面会をお求めです」
イーニアスがすまし顔で答える。
「にゃあ、そういう大事なことはもっと早く言って欲しいにゃん」
「失礼致しました」
コーネリアス大公はいまさっき会って来た国王コンスタンティン二世の弟だったはず。
最初からオレを王弟のところに連れて行く計画か。
猫耳たちを乗せた王国軍の馬車も後を付いて来る。
「にゃあ、コーネリアス大公殿下はオレに何の用にゃん?」
「陞爵のお祝いを述べられるものと思われます」
「本当にそれだけにゃん?」
「私にはそれ以上のことはわかりかねます」
「着いてからのお楽しみと言うわけにゃんね」
「私からは何とも」
イーニアスは笑みを浮かべる。
「ただちょっと妙にゃんね」
「妙とおっしゃいますと」
「さっきまでこの馬車と後ろの馬車は防御結果で守られていたにゃん、かなりの腕の魔導師の仕事だったにゃんね」
「宮廷魔導師による防御結界ですね」
「にゃあ、それがついさっき途切れたにゃん」
「本当ですか?」
声が低くなる。
「本当だよ」
リーリがオレの頭の上で肯定する。
「今度はオレを排除したがってるヤツがいるのかもしれないにゃんね」
「国王派の力が増すのを快く思わない勢力があるのは間違い有りませんが、お屋敷までは命に代えても我々がお守りいたしますのでご安心下さい」
「にゃあ、命までは掛けなくていいにゃんよ」
「マコト!」
リーリが叫んだ。
「にゃ!?」
馬車が急停止してガクンと大きく揺れた。
車輪が横滑りしてジャックナイフの状態で停まった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!』
「にゃ!」
「これは……」
イーニアスは腰を浮かせ飛び出そうとしたが前方のそれに言葉を失った。
「来るにゃん!」
衝撃波が馬車を襲う。
馬車付随の防御結界がキャビンを歪ませながらも辛うじてオレたちを守ったが、魔法馬には深いヒビが入って動作を停止した。
御者は馬車から転げ落ちてうずくまる。
「ドラゴンにゃん」
突如、道を塞ぐように現れたのは体長二〇メートルはあるドラゴンだった。黒い鱗がテラテラ光り、口からは炎なのか赤い光が漏れていた。
かなり凶悪な面構えをしている。
イーニアス以外の五人の近衛の騎士たちは衝撃波を物ともせず早くもドラゴンに挑みかかっていた。
しかし、剣を振り下ろしても突き入れてもドラゴンの防御結界に阻まれていずれの攻撃も届かない。
それでも防御結界を削ってる辺りは半端ない技量の持ち主だ。
「にゃあ、王都にはよくドラゴンが出るにゃん?」
「いえ、初見です」
変形した扉を開けようと四苦八苦してる。
「だったら、取って置きをオレにブツけて来たにゃんね」
「マコト様は、あのドラゴンが何であるかおわかりになるのですか?」
「にゃあ、あれは魔獣の幽霊と同じ半エーテル体にゃん、しかもずっと人工的な感じがするにゃん」
半エーテル体で作ったゴーレムって感じだ。
「するとアレは魔法で生み出されたものだと?」
「そうにゃん、魔法というか魔導具にゃんね、たぶんドラゴンは術者と繋がってるにゃん」
さっきの魔獣の半エーテル体はオートだったが、目の前のドラゴンはマニュアル操作っぽい。
「危ないから前にいる騎士たちを下げるにゃん」
「しかし相手が強者だからと引くわけには参りません」
「アーティファクトの剣でもないとあのドラゴンの防御結界を完全には切れないにゃんよ、それに結界の中はマナの濃度がヤバいことになってるにゃん」
「ここにアーティファクトの剣を持つ者はいませんが、それで後れを取る者などおりません」
「にゃあ、心意気は買うにゃん、でもはっきり言うと邪魔にゃん」
現に全員、ドラゴンにぶっ飛ばされていた。
ドラゴンが炎を吹き近くの木々が燃え上がる。
ここがまだ王城区画の森の中なのは不幸中の幸いだ。街中だったら大きな被害を出したに違いない。
騎士たちはドラゴンの炎を各自の防御結界でギリギリしのいでる。
『にゃあ、おまえらは術者の逆探を頼むにゃん』
念話で猫耳たちに指示した。
『『『にゃあ!』』』
「にゃあ、いったん馬車を消すにゃんよ」
「えっ、消すのですか?」
「そうにゃん」
馬車を馬ごと分解格納する。
イーニアスは姿勢を崩すことなく着地し剣を抜く。さすがの体捌きだ。
『お館様! 術者発見にゃん!』
猫耳から早くも報告が上がる。
『王宮内にいるにゃん』
『にゃあ、宮廷魔導師みたいにゃん』
オレにも学者然としたヒョロガリ男が近衛軍の兵士みたいな帽子をかぶっている姿が見えた。
死ねとか殺せとか呟きながら、ラジコンのプロポのような魔導具を操作してる。
『了解にゃん、オレも確認したにゃん』
ニンマリするオレ。
オレたちはドラゴンと繋がってる魔力を確認した。しっかり尻尾は捕まえたので逃さないにゃんよ。
「にゃあ! 遠慮なしで行くにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
猫耳たちと一緒にドラゴンを結界で囲った。
『ガァァァァァァァァァ!』
炎を吹きまくるがオレたちの結界が邪魔をして自分の周囲の温度を上げる。
「バカな魔導師に喰らわしてやるにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
ドラゴンにリンクしてる魔力の源に向かって電撃と素っ裸になる魔法を放った。
ついでに悪さができないようにエーテル器官を弄って魔力の出力を下げ簡単な魔法すら使えなくする。
ドラゴンの動きが止まる。
そして割れて崩れる様に消え、オレの手に魔石に似た赤い宝石が収まる。
エーテル機関の半分ほどの大きさだ。
「こういう魔導具もあるにゃんね、危ないから没収にゃん」
ついでに術者の宮廷魔導師のところにあった魔導具も没収しておく。
「お館様、鎮火完了にゃん」
「了解にゃん」
オレは金ピカ馬車と魔法馬を修復して再生した。
「怪我をした騎士がいるにゃんね?」
防御結界で防いでいたが、辛うじて燃えない程度だった。
「申し訳ございません」
「にゃあ、イーニアスが謝る必要はないにゃん、今回は相性の悪い敵だったにゃん、治療して直ぐに行くにゃん」
倒れたり座り込んでる騎士たちに治癒魔法を掛けた。それと御者も治療する。
「「「おお」」」
騎士たちは治癒の効果に驚きの声を上げた。
「「「ありがとうございます」」」
イーニアスを始め騎士全員が頭を下げた。
「王宮で素っ裸になって気絶してる魔導師が犯人にゃん」
魔導師が倒れてる王宮の大体の場所を教えた。
「直ぐに手配いたします」
イーニアスが通信の魔導具で何処かに連絡を入れた。
○王都タリス 城壁内 官庁街 近衛軍司令部 車寄せ
サービスで金ピカ具合を増した馬車は官庁街の中で王国軍とは真逆のブロックにある近衛軍の司令部に入った。
建物は他の庁舎と同じ意匠で金閣寺みたいな金ピカではなかった。
ちょっと残念にゃん。
歩哨は例の変な帽子を被った兵士たちだ。
車寄せに降り立った印象は普通のお役所と言った感じで、間違っても筋骨隆々の半裸の大男がナイフを弄って入口を塞いでるとかはなかった。
そんなのがいたのは王国軍だったにゃんね。
○王都タリス 城壁内 官庁街 近衛軍司令部 ロビー
ロビーでは、近衛軍の制服を着た男性が書類を持って行き来してる。
「鎧は着てないにゃんね」
「司令部はデスクワークがメインですから」
「にゃあ、王国軍よりきっちりしていて驚いてるにゃん」
「あちらはまだ組織改革から日が経っていませんから、仕方ありません」
比べるのも失礼なレベルだがイーニアスは気を使ってくれてる。
あちらも近日中、強制的にちゃんとする予定だ。
○王都タリス 城壁内 官庁街 近衛軍司令部 謁見の間
イーニアスに案内されたのは謁見の間と思しき広間だ。
王宮ほどではないがかなり大きい。
そして床以外、全てが金ピカだ。
やはり近衛軍はこうじゃなくてはと変に納得してしまう。
既に四〇人ほどの騎士が左右の壁に並んでいる。金ピカの鎧は完全に保護色だ。
「前にお進み下さい」
「にゃあ」
猫耳たちとリーリはまたしても別室で待機させられていた。いまお茶を飲んでくつろいでいる。
「こちらです」
イーニアスが立ち位置を教えてくれた。
「陛下をお待ちいただいた時と同じにして下さい」
「にゃあ」
小声で教えてくれたのでオレは小さくうなずいて片膝を着いて頭を下げた。
大理石調の白い床は街道の石畳と同じくスリップ防止の刻印が施されている。金が有るところにはあるにゃんね。
金色じゃないのが惜しいところだ。
「総司令入室!」
ガシャ!っと両側の鎧が一斉に音を立て姿勢を正した。
扉が開き大股で入室する足音。
鎧は装着していないが防御結界は半端無かった。空間が歪むレベルだ。
総司令官が着席しオレに声を掛けた。
「面を上げよ」
そこにいたのは、国王を更に彫りを深くして見事な筋肉の鎧をまとった四〇歳ぐらいの男性だった。
コーネリアス大公はマントも金色。ブレはない。
「なるほど幼女であるな」
「マコト・アマノにゃん」
「立たれよ、マコト侯爵」
「にゃあ」
オレは立ち上がると両側の金ピカ鎧が囲む様に動いた。
「先程はドラゴンを倒したそうだな、不届き者の魔導師は既に捕縛済みだ。その腕前をここで披露してもらいたい」
脳筋軍団のトップも脳筋だった。
「にゃあ、了解にゃん、一斉に掛かって来ていいにゃん」
もう逃げ回るのは止めだ。ぶちかます。
「ほう、言うではないか」
「にゃあ、そのぐらいのハンデは必要にゃん」
「よかろう、即死はないが怪我は防げぬぞ」
「怪我はオレが治してやるから問題ないにゃん」
「フフ、では始めるがいい」
オレは騎士たちを勝手に弾いてしまわないように防御結界を身体の表面にまで範囲を狭くした。
それ以前に電撃で一瞬で片付ける事も可能だが、それは大公殿下も興ざめだろうから脳筋の喜びそうな戦い方をしよう。
「「「おおお!」」」
騎士たちは一斉に剣を打ち込んで来たがしっかりフォーメーションが出来ていてまるで時代劇の殺陣の様だ。
「にゃ!」
オレは騎士たちの顔の高さまで飛び上がり剣を避けつつ手足にまとわせた風の魔法で次々とブチのめした。
流石にアーティファクト系の剣は出て来ないが、剣さばきはさすがの一言だ。
それでも切られるわけにはいかないので、懐に飛び込んで猫パンチ猫キックで騎士たちを次々と壁まで飛ばして動けなくした。
バン!
銃弾が発射されたがオレはニュルっと避けた。
「「「……っ!」」」
残りの騎士たちが動きを止めた。
「へへへ、小賢しいガキめ」
さっきオレの蹴りで吹っ飛んだ騎士のひとりが拳銃を使った。まだあどけなさとソバカスが残る青年だ。半笑いの表情は怯えてるようにも見える。
「にゃあ、飛び道具もOKにゃん?」
「何でも有りだ、死ね!」
騎士はトリガーを引き絞る。結界侵食型の銃弾がフルオートで撃ち込まれた。
「にゃあ、魔法使いには悪くない道具にゃん、でも相手が悪かったにゃんね」
弾丸はすべてキャッチしてオレの掌の上でエーテルに還った。
「にゃお、だったらオレも遠慮なく飛び道具を使わせて貰うにゃん」
格納空間から取り出したのはガトリングガンだ。
「にゃあ、死にはしないけど超痛いにゃんよ」
「ひっ!?」
後ずさったが後ろが壁なので逃げられない、構わずに引き金を引いた。
ガガガガガッ!っと爆音とともに拳銃使いの騎士の鎧が消し飛び、素っ裸になった肌に銃弾が浴びせられる。
「イタタタタッ!」
「簡単には気絶できないにゃん」
四つん這いになって逃げようとしたのでケツに集中砲火をくれてやった。
「ヒィィィィ!」
運悪く急所に当たって顔面から床に突っ込んで腰を上げた土下座みたいな格好で気絶した。
モザイク処理必須にゃん。
「にゃあ、まだやるにゃん?」
ガトリングガンは格納空間に仕舞った。
残っていた騎士は剣をだらりと下に向けたている。
さっきまでの闘気はすっかり消え去っていた。
「面汚しは責任を持って処分いたします、マコト様、最後に私と立ち合っていただけないでしょうか?」
さっきの乱戦には参加していなかったイーニアス・バスカヴィルが前に出た。
「にゃあ、いいにゃんよ」
イーニアスが剣を抜いた。魔法剣士だけに油断は禁物だ。
「行きます」
空間干渉系だ。
空間が縮小して一瞬でイーニアスの間合いになった。
同時に剣が突き出される。
刃には結界侵食の魔法が乗っていた。
本気でオレを殺しに来てるがさっきのケツ出し鉄砲男より好感が持てる。
「にゃあ!」
オレも空間に干渉してイーニアスの懐に飛び込んで回し蹴りを入れた。
でも空振り。
イーニアスが加速する。剣を強引にオレに向けた。
空間干渉系より加速が本領か!?
オレは身体を更にスピンさせてイーニアスにぶつかって行く。
剣を跳ね上げ二度目の回し蹴りをヒットさせた。
「……っ!」
イーニアスが吹っ飛んで壁にぶち当たりオレは回転しつつ着地した。靴底が熱い。
「そこまで!」
コーネリアス大公の声が響いた。
「見事である!」
「にゃあ、魔法使い相手に剣士は分が悪いにゃんよ」
「いや、そうではあるまい、並の魔法使いなら最初の乱戦で防御結界ごと切り裂かれるはず、それにその甲冑は直接の魔法攻撃を無効にする効果がある」
なるほどちょっと風の魔法がヌルっとした感触だったのは鎧の防御機能が魔法を溶かしていたわけだ。
しかしレジストが追い付かずにオレにぶっ飛ばされた。
「にゃあ、大公殿下、治癒魔法を使っていいにゃん?」
「マコトが騎士どもを治してくれるのか?」
「にゃあ、即死は免れても放置したら死ぬにゃん」
「手間を掛けさせる、そこのケツを出してるバカは放置で構わん」
「にゃあ、こいつは命に別状ないから大丈夫にゃん」
壁に吹き飛んだ騎士たちを回復させる。
よく見ると近衛軍の騎士ではあるが、イーニアス以外はまだ若い兄ちゃんばっかりだった。
本当に強い人はイーニアスだけで後はペーペーの腕試しだったらしい。だからってピガズィで会ったヒュー・クロッソン少尉とかに出て来られたら困るけどな。
そして要モザイクのケツ出し兄ちゃんはちょっと考え違いをしていた様だ。殺す気なのは構わないが闇討ちじゃないんだからルールは守れよ。
ケツ出し兄ちゃんは近衛軍の兵士によって謁見の間から運び出された。
復活した騎士たちはまた壁際に整列する。
凹んだ壁も元通りにした。
「にゃあ、大公殿下にお近づきの印に贈り物があるにゃん」
まずは粗品にゃん。
「ほお、余に贈り物とな?」
「大公殿下、馬はお好きにゃん?」
「おお、馬か、魔法馬は余の愛するモノの一つだ」
「にゃあ、こんなのはどうにゃん?」
八本足の金色バージョンを再生した。
「「「おおおお!」」」
騎士たちも声を上げた。
「大公殿下ならこの馬の大きさはピッタリにゃん」
「マコト、これは伝説の八本足の魔法馬ではないか!? しかも金色に輝いておる!」
「にゃあ、特別色にゃん」
メーカーオプションにゃん。
「素晴らしいぞ、マコト!」
大公は立ち上がって馬に近付く。
「マコトよ、いったいこれを何処で手に入れた?」
「にゃあ、たまたま破片を手に入れたにゃん、実際にはまともに走らない代物だったのでオレが一から組み直したにゃん、危ないぐらい速いから乗る時は注意にゃんよ」
「マコトは魔法馬を作れるのか?」
「にゃあ、嗜み程度にゃん」
「嗜みか、しかしここまで高価なものをただで受け取るわけにはいかぬ」
「そうにゃん? 要らないなら持って帰るにゃん」
「ま、待て話は最後まで聞くものだ、代金を支払うと言っているのだ」
「にゃあ、わかったにゃん、売るにゃん」
「マコトはいくらで売ってくれるのだ?」
「これは軍用以上に高性能だけど転売できないから大金貨一二〇枚てところにゃん」
「転売ができないとは?」
「にゃあ、主人に登録すると魔力を使わなくても専用格納空間に収まるにゃん、そこから引き剥がすことは出来なくなるにゃん」
「主が死亡した場合はどうなる?」
「にゃあ、自壊するにゃん」
「なんと」
「だから他人にとっての財産的な価値は無いにゃん」
「それは何よりの宝ではないか?」
「人に依るにゃん」
「わかった、大金貨一二〇枚では安すぎる、余は二〇〇枚支払うぞ」
「にゃあ」
「マコト、しばらく余に付き合え、もう一つ頼みがある」
「にゃあ」
「屋敷に戻るぞ」
今度は大公殿下に抱え上げられたオレであった。




