人喰い大公の館でまったりにゃん
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 車寄せ
屋敷の車寄せで客人たちとジープを降りる。
「ジープはあっちにゃん」
『ニャア』
猫耳ジープたちには居心地のいい地下駐車場を新たに用意したのでそちらに自ら走って行った。
猫耳たちは館の内外で魔導具の設置や結界の調整を行ってる。
「マコトのお屋敷、スゴく大きいね」
「元公爵のお屋敷だっただけはあるのです」
キャリーとベルが車寄せから離れて屋敷を見上げる。
「にゃあ、まったくにゃん」
オレも一緒になって館を見上げた。時間を巻き戻したので建物の外観は完成時に近い状態になっている。
「当時、国王も凌ぐ権勢を誇っただけはありますね、それが謀殺の原因でもあったわけですが」
エラが教えてくれる。その辺りのことはオパルスの図書館で仕入れた知識の中にもあった。この宮殿のような屋敷とアーティファクトの甲冑と剣を見れば当時の繁栄振りがわかるというものだ。
人喰い大公の館は、この国がもっと豊かだったことの証でもある。それゆえとてもデカい。敷地も三軒分だし。
地下一階地上四階建ての館は中央に玄関と大広間がある左右対称の造りで、使用人も一〇〇人どころではなかったみたいだ。
「マコト様、改装は終わったのですか?」
ロマーヌは屋敷を調査したくてウズウズしてる。
「にゃあ、まだ魔導具の設置をやってるにゃん、でも今晩過ごす分には問題ないぐらいには仕上がってるにゃんよ」
『『『ニャア』』』
猫耳ゴーレムがゾロゾロと玄関から出て来て並ぶ。
「猫耳ゴーレムだね、連れて来てたんだ」
「にゃあ」
実際にはメイド代わりに再生したのだ。
「中の準備が整ったからまずは一休みにゃん」
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 玄関ホール
玄関の扉を潜るとホテルのロビーの様な玄関ホールが拡がっていた。
装飾が細かくなされ壁にも天井にもレリーフが施されている。
「建物のどこもかしこもが真新しくなってます」
館に入ってもロマーヌは興奮冷めやらずって感じだ。いや、むしろ増してるか。
「にゃあ、細かな調整はこれからにゃん」
「マコトの魔法、前よりスゴくなってる」
「侯爵様になるだけのことはあるのです」
キャリーとベルはまたキョロキョロしてる。
「にゃあ、そうにゃんお館様はスゴいにゃん」
「「「にゃあ」」」
猫耳たちがオレを自慢する。
「当然だよ! マコトはあたしが育てたからね!」
リーリも威張るのを忘れない。
「マコト様、この玄関ホールのレリーフはレオナルド・ダ・クマゴロウの作品ではありませんか?」
エラが指さしたのは美女たちの沐浴がモチーフのバカでかいレリーフだ。
「にゃあ、動いてるにゃんね」
美女たちが動いていた。オパルスの美術館に有ったのは絵だったが、動くところは一緒だ。あっちほどエロくはないけど。
「オレはあまり詳しくはないけどそうみたいにゃんね」
レオナルド・ダ・クマゴロウと日本語のカタカナでサインが入っていた。やはり転生者だ。
「これって魔導具じゃないの?」
キャリーも見上げる。
「広義では魔導具ですが、レオナルド・ダ・クマゴロウの作品は美術品として扱われます」
「何が違うの?」
「主に値段です」
エラが答えた。
「このレリーフなら大金貨三〇〇〇枚は下らないと思います」
「私の生きてる世界とお金の桁が違うのです」
「そうだよね」
「にゃあ、世の中の大部分の人はキャリーとベルと同じ意見にゃん」
「それは言えてますね」
エラも同意する。
「魔導具としての価値は大金貨一枚程度だと思いますわ、良くできてるとは思いますが三〇〇〇枚はありえませんわね」
ロマーヌもレリーフをじっくり眺めていた。
「美術品の価値なんて、人によって千差万別にゃん」
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 館内
『ニャア』
玄関ホールを抜けて長い廊下を猫耳ゴーレムの案内で歩く。廊下の天井も吹き抜けかと思うほど高く、館は四階建てのはずなのに高さが通常の倍ほどもあるわけだ。
天井が高いのはいいとしても暗いのと寒いのは嫌なので照明と空調の魔導具は先に変更させてもらった。
館にはマナ変換炉を数基ブチ込んであるのでいい感じに勝手に進化してくれるだろう。外壁の色がパステルピンクになるのは勘弁して欲しいが、まあ自主性を重んじるのでその時は受け入れるつもりだ。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 客間
「贅沢すぎて落ち着かないね」
「庶民なら当然なのです」
「にゃあ、こんなものはすぐに慣れるにゃん」
「そういうものなのかな」
「マコトが言うならそうなのかもしれないのです」
オレもキャリーとベルの感覚に近い。
一休みするはずの客間は更に豪華で落ち着かない。
『ニャア』
お茶を運んで来る猫耳ゴーレム。カップもお高そうだ。
「ウチの客間もやりすぎてると常々思っていたのですが、マコト様のお屋敷は次元が違っていますわ」
地方の有力貴族の一員であるロマーヌでさえソファーに座ってソワソワしている。
「ここはオレが作ったわけじゃないにゃんよ、元からこうにゃん」
落ち着いてるのは冷静に査定をしていると思しきエラとお茶請けのお菓子を食べてるリーリだけだ。
当時、権勢を誇った公爵の館だ、内外装に魔導具と贅を尽くしてある。しかも怨霊が棲み着いたせいで、館からは何一つ持ち出せなかったようだ。
財宝も地下の金庫にそのまま眠っていた。それだけで、今回の遠征も含めてかなりの黒字になる。
「マコト様、明日のご予定ですが午前中のうちに王国軍司令部に顔を出して欲しいとのことです、キャリーさんとベルさんも同行して下さい」
エラから指示が出される。
「「了解です!」
ふたりは、立ち上がって敬礼する。
「にゃあ、司令部に行く時間はエラが決めてくれていいから返答して欲しいにゃん」
「かしこまりました、ではこちらには九時三〇分に参りますのでそれまでにお支度下さい」
「了解にゃん」
「マコト様、猫耳ちゃんたちは何をしてるのですか?」
ロマーヌが行ったり来たりしている猫耳たちを目で追う。
猫耳たちは屋敷の内外で作業していた。
「にゃあ、魔導具の設置にゃん、幾ら豪華絢爛でもオレたちの生活しやすい基準とは違ってるからそこは直すにゃん」
それと地下を拠点化する工事が始まっている。
この屋敷の敷地の真下には何もないことが確認されているので溜まったマナを消費するために魔法蟻を大量再生して派手にやっていた。
旧男爵領のオルビーに向けてトンネルの掘削も開始されてる。あちらからもトンネルを伸ばしてるからすぐに接続されるだろう。
王都内にはいろいろイケないものが埋まってそうなので発掘が楽しみだ。
「にゃあ、キャリーとベルはウチに泊まるとして、ロマーヌとエラは今晩どうするにゃん? 泊まるなら部屋を用意するにゃん」
「もちろん、泊めていただきますわ、それと見たことのない魔導具の数々を調査させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
ロマーヌはここでもやる気満々だ。
「にゃあ、猫耳と猫耳ゴーレムたちの指示に従ってくれるならいいにゃん、元からある魔導具はオレたちもまだ完全に把握してないから危ないかもしれないにゃん」
「もちろんわたくしも気を付けます、このクラスのお屋敷には防犯用の刻印が有ってしかるべきですから、では始めさせていただきます」
ロマーヌは調査を開始するべく部屋を出て行った。
再生時に刻印は全てエーテル機関からの魔力供給型に書き直してすべて支配下に収めてあるから大丈夫だと思う。
ただ地下に迷い込んでトンネルに落ちたりしたらヤバいのでそこだけは要注意だ。
オレも何度か落ちて死ぬかと思ったことがあるし、一般人だと普通に死ぬ。
「エラはどうするにゃん?」
「私は実家に顔を出します、それで余計なことを企んでいたら釘を刺します」
「にゃあ、目に余る事をすればカズキが潰してくれるからいいにゃんよ」
「いえ、潰されても困りますので」
「やっぱり実家が好きにゃんね」
「違います、潰す時は私の手で引導を渡しますので、横やりは困ります」
「にゃあ」
「それでは、明日はお時間になったらお迎えに上がります」
エラも出て行った。
「にゃあ、お風呂の準備が出来たにゃん」
入れ替わりで猫耳が呼びに来る。
早くも大浴場が完成したのだ。
オレとキャリーとベルは猫耳たちに出来たばかりの大浴場に連れて行かれた。
リーリは厨房に直行している。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 大浴場
「キャリーとベルが元気で何よりにゃん」
お風呂に入ってやっとキャリーとベルと落ち着いて話すことが出来た。以前と比べると少し大きくなってるにゃん。
「この前の蜂はちょっと危なかったけどね」
「マコトのお陰で助かったのは前に話したとおりなのです」
「軍隊蜂の襲来で被害を出したってことは、何処も探知して無かったにゃんね?」
「ほとんど人のいない王都の北東からの侵入だったのが痛かったね」
「例え王都の探知結界に引っ掛かっても、私たちのところまで情報は下りて来ないのです」
「下りて来たとしても、今回の軍隊蜂の場合はどうしようも無かったかな」
「迎撃しようにも銃もまともに支給されていないので、兵士には攻撃手段が無いに等しいのです」
「銃は欲しいところにゃんね」
魔獣とは剣で戦うのか?
やるにゃんね。
「王都の探知結界についてはずいぶん前から不備があるって言われてるから、今回も探知出来たかは怪しいところだね」
「今回のスラム地区の件は半分は人災なのです」
「そうみたいにゃんね、火を放つタイミングが早すぎにゃん」
「陰謀説もあったけど、実際は宮廷魔導師が蜂にビビって魔法をしくじったのが真相みたいだよ」
「マジにゃん」
「生き残った王都守備隊の隊員から直接聞いたから本当だよ」
「公然の秘密なのです」
「随分とポンコツな魔導師を用意したにゃんね」
「宮廷魔導師の第三位らしいよ」
「それも見越しての陰謀だったら驚きなのです」
「にゃあ、その魔導師はどうなったにゃん?」
「結界が破れて吹き出した炎で死んだみたい」
「完全な自爆なのです」
「王国の宮廷魔導師はレベルが低いにゃん?」
「スラム地区を燃やしちゃったんだから、魔力は強いんじゃないかな」
「実戦的な訓練を受けていないのが丸わかりなのです」
「宮廷魔導師がヘマをしたせいで、王宮が掻き集めた洗浄が出来る魔法使いの大部分が死んじゃったんだよね」
「二〇人ほどだったので、ほんの一瞬だったみたいなのです」
「自分で瘴気を洗浄すれば良かったと違うにゃん?」
「瘴気じゃなくて焼死だったみたいだよ」
「にゃお、洗浄は出来ても炎には弱かったにゃんね」
「マコトみたいなオールラウンダーはなかなかいないのです」
「そういうもんにゃんね」
オレは普通の魔法使いのことをほとんど知らない。魔法使いといったら冒険者のカティと大公国の魔導師たちに猫耳になった魔法使いたちぐらいだ。いずれも普通とは言い難い存在だし。
「にゃあ、軍隊蜂の接近を宮廷魔導師も探知出来なかったにゃん?」
「それはどうなんだろう?」
キャリーは首をひねる。
「国家機密たる宮廷魔導師の動きは、それこそ私たち一兵卒には公式には掴めないのです」
「非公式ならイケるにゃん」
「ある程度はイケるのです、今回はほとんど掴んでなかったみたいなのです」
「にゃあ、軍隊蜂の動きをあらかじめ掴んで迎撃してたら被害はもっと少なかったのに残念にゃんね」
「どうだろ、軍隊蜂の最大の武器はあの数だから、迎撃は効果が無かったんじゃないかな」
「下手に王国軍まで駆り出されていたら、私たちも蜂の餌食になっていたのです」
「キャリーとベルは何処に居てもお館様が守ってるから平気にゃん」
当然、距離がどれほど離れていようが関係ない。
「にゃあ、もちろんウチらも守るにゃん」
「「「にゃあ」」」
いつの間にか猫耳たちに囲まれていた。
「私たちよりマコトたちの方が、いっぱい危ないことをしてたんじゃないの?」
「にゃあ、危ないことは何もしてないにゃんよ」
魔獣の森も砦攻めも安全には十分配慮していたので危険は無かったと思う。少々の危険は退屈な日常に刺激を与えるスパイスにゃん。
「にゃあ、キャリーとベルはお館様のところに来ないにゃん?」
元ベイクウェル商会支店長の猫耳ドリが聞く。
「うーん、王国軍をいま直ぐに除隊するのは難しいかな」
「任務があるからにゃん?」
「それもあるのです」
「簡単に替えが効かないからね、それに小隊の皆んなを置いていけないし」
「それに私たちを呼んでくれたクレア少尉の顔を潰すわけにはいかないのです」
「うん、クレア姉の恩には報いないとね」
プリンキピウムの遺跡近くまで魔法馬を飛ばして来る豪快なクレア・アランデル少尉なら何でも許してくれそうな気もするが。
「にゃあ、オレとしてはキャリーとベルの意思を尊重するにゃん」
「お館様なら小隊ごと面倒を見てくれるにゃんよ」
「「「にゃあ」」」
猫耳たちの同意を訊くまでもなく面倒は見るつもりだ。既に王国軍全体の面倒を見ている気がしないでもないが。
「猫耳の皆んなもマコトと同じところから来たの?」
「にゃあ、ウチらは全員この国の生まれにゃん」
「「「にゃあ!」」」
「そうなんだ」
「にゃあ、お館様の好き加減はウチらもキャリーとベルにも負けないにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
「えー、私たちだってマコトは大好きだよ」
異議を唱えるキャリー。
「私も負けないのです」
ベルもはっきりと勝負するつもりだ。
「だったら勝負にゃん!」
「受けて立つのです!」
「「「にゃあ!」」」
『ご飯出来たよ!』
リーリから念話が届いた。
「にゃあ、オレはおなかが空いたから先に出てるにゃん」
風呂を出るとキャリーとベルと猫耳たちも付いてきた。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 食堂
「ああ、美味しい、マコトのところの料理は本当に美味しいね」
「ゴーレムが調理するなんてスゴいのです」
今回は猫耳ゴーレムが調理を担当している。
「リーリが監修してるにゃん」
「まーね」
リーリは鼻高々だ。
「こんなに汎用性の高いゴーレムを見るのは初めてですわ」
猫耳ゴーレムにいちばん興奮してるのはロマーヌだ。
「にゃあ、お触りは禁止にゃんよ」
「ええ、残念ですがわかっていますわ」
何処かの博士と違ってその辺りはちゃんと聞き分けてくれる。
「にゃあ、その代りハグしてやるにゃん」
「えっ、よろしいのですか?」
『ニャア』
猫耳ゴーレムにハグして貰ってロマーヌはうっとりした。
「ああ、最高ですわ」
ちょっと危ないかもしれない。
夕食の後は、超豪華なリビングでキャリーとベルとゆっくりする。
ロマーヌはまた調査をしてるようだ。
「小隊の皆んなも連れて来てあげたいな」
「皆んなもマコトにお礼を言いたいのです」
「にゃあ、オレはいつでもいいにゃんよ」
「でも、マコトのお屋敷にはおいそれと来れないんだよね」
「貴族街のしかも上級地区は簡単に入れる場所じゃないのです」
「にゃあ、キャリーとベルには通行証を発行するにゃん、それで小隊の娘も連れて来れるにゃんよ」
「おおお」
「それはスゴいのです」
「でも、贅沢に慣れると後で困るかも」
「軍にいる間は慣れるほどは来れないと思うのです」
「それもそうか」
キャリーとベルとロマーヌもそれぞれの寝室で寝静まった真夜中、猫耳たちと雑魚寝していた場所からオレたちはムクっと起き上がった。
オレの後を猫耳たちが付いて来る。
新設した地下室からエレベーターを使って地下拠点に降りる。
○王都タリス 城壁内 貴族街 上級地区 人喰い大公の館 王都拠点
出来たての司令室に入った。
「にゃあ、お館様、生産施設の設置が完了したにゃん」
「ご苦労にゃん」
既に何度も設置してるのでものの数秒で作り出せる。魔法は実に便利だ。
それを繋いだりなんだりの方が時間が掛かる。それだって一時間程度の作業だ。
『『『ニャア』』』
魔法蟻に乗って猫耳ゴーレムたちがやってくる。
早くも旧男爵領のエイリー拠点から王都の拠点にトンネルを接続させた。
「にゃあ、仕事が速いにゃんね」
「お館様からご褒美にゃん」
『『『ニャア』』』
猫耳の手で猫耳ゴーレムにオレが渡され抱っこされる。
『『『ニャア♪』』』
オレは次々と猫耳ゴーレムたちに堪能される。
「お館様、生産施設の稼働を開始するにゃん」
「了解にゃん」
「お館様、トンネルはどうするにゃん?」
「にゃあ、トンネルは王都各地とノルドにも繋げるにゃん」
「王都内に環状線を幾つか作るのはどうにゃん」
「にゃあ、いいにゃんね、コースは任せるにゃん」
「猫耳ゴーレムたちも作業再開にゃん」
オレは猫耳ゴーレムの手で床に降ろされた。
『『『ニャア!』』』
猫耳ゴーレムたちはまた魔法蟻に跨ってトンネルを作る作業を再開する。
「にゃあ、マナの濃度はどうにゃん?」
濃度をモニタリングしてる猫耳に聞く。
「まだ多いにゃん、生産施設を動かして積極的に消費する必要があるにゃん」
「お館様の屋敷だけじゃなく王都全体にマナの濃度が上昇の傾向にゃん」
「城壁の中も外もにゃん?」
「にゃあ、特に城壁の中が高いにゃん、ところどころマナが溜まってる場所があるにゃん」
「マナ溜まりにゃんね、良くない傾向にゃん」
「お館様、生産施設をもう一つ追加しても良さそうにゃん」
「にゃあ、そうにゃんね、生産施設を作れば城壁内のマナ溜まりの解消にも繋がりそうにゃん」
生産施設を作るのも稼働させるのは簡単だが、問題はその生産物の行き先だ。
「ベイクウェル商会の他にも幾つかピックアップしてるにゃん」
猫耳が報告する。
「にゃあ、そうにゃんね、そこを通して売っていいにゃんよ」
「了解にゃん」
「旧男爵領は王都に近いから流通拠点に便利そうにゃんね」
「にゃあ、そちらもその方向で整備を進めるにゃん」
猫耳たちが整備計画を作り始めた。
明け方には魂のブートキャンプを終えた三一人の猫耳が仲間に加わった。
「「「にゃ?」」」
エーテルの水から身体を起こした新入りの猫耳たち。
「気分はどうにゃん?」
「にゃあ、悪くないにゃん」
オレの問に答えたのは公爵で怨霊だった猫耳のカイだ。
「「「にゃあ」」」
騎士の怨霊だった猫耳たちも同意の鳴き声を上げる。
「あのまま送っても良かったけど、三〇〇年暴れまわったツケは払わなくてはならないにゃん」
「にゃあ、お館様には汚名をそそぐ機会をいただき感謝にゃん」
深くこうべを垂れるカイ。
「「「にゃあ!」」」
元騎士の猫耳たちも続く。
三〇〇年前、陥れられ謀反の疑いを掛けられた公爵一家は突入してきた近衛軍に惨殺された。
だが公爵は最後の力を振り絞りアーティファクトの甲冑で騎士たちとともに怨霊と化し近衛の騎士を皆殺しにし、更に王宮に祟を成した。
それを封じるために当時の宮廷魔導師が総力を上げてこの地に閉じ込めたのだった。以来三〇〇年に渡ってこの地に足を踏み入れた者をすべて血祭りにあげた。
「にゃあ、怨霊になるのも仕方のない事案にゃん」
「いまに思えば、ウチらの脇の甘さが生んだ事件にゃん、これからはお館様のために頑張るので抱っこさせて欲しいにゃん」
「仕方ないにゃんね」
先輩猫耳がオレを抱き上げて新入りに渡した。
そして新人歓迎恒例のオレの抱っこ会が始まるのだった。




