オパルスの冒険者ギルドにゃん
○帝国暦 二七三〇年〇四月二三日
○アルボラ州 州都オパルス 城壁門
予想通り翌日の午前中にアルボラ州の州都オパルスに到着した。
一〇分ほど並ばされた城壁門には、飛行場の金属探知のゲートみたいな魔導具が設置されている。
身分証を自動的に読み取る仕組みらしい。
オレたちは難なく通過してオパルスに入った。
「にゃあ、州都だけあってデカいにゃんね」
「王都みたいにゴチャゴチャしてなくて綺麗な街だと思うよ」
行ったことないけどヨーロッパ風なのはプリンキピウムと同じだ。
こっちは州都だけあって石造りの大きな建物が多い。
魔法馬もたくさんいる。
「にゃあ、魔法車にゃん!」
数は少ないけど魔法車も走ってる。
馬なしの馬車って感じで走破性とかいまいちっぽい感じだ。
「冒険者ギルドはこっちだよ」
○州都オパルス 冒険者ギルド
オパルスの冒険者ギルドの建物は城壁門に近い所にあった。
「ここも立派な建物にゃんね」
プリンキピウムの冒険者ギルドもけっして小さくは無かったが、それよりも数倍デカい建物だ。
積み上げられた石の壁は大理石に似た石材で、それに状態維持の刻印が刻み込まれていた。
解放されたままの大きな扉をくぐって冒険者ギルドの中に入る。
ロビーも広くて冒険者もプリンキピウムよりずっと多い。
冒険者の雰囲気は似た感じだ。
「買い取りカウンターはこっちなのです」
ベルに案内されて買い取りカウンターの前に来た。
○州都オパルス 冒険者ギルド 買い取りカウンター
こちらは午前中だけ有って閑散としてる。
「買い取りをお願いします」
キャリーが代表して声を掛けた。
「いらっしゃい、軍人さんのお嬢さんがふたりっすね」
買い取りカウンターの若い男性職員が対応してくれる。
「にゃあ、オレのも一緒に買い取って欲しいにゃん」
「ネコのお嬢ちゃんは、お使いかい?」
「にゃあ、オレも冒険者にゃん」
ギルドのカードを差し出す。
「おお、本当だ、マコト・アマノって、六歳!? 登録はプリンキピウムか、デリックのおっさんは何を考えてるんだ?」
「獲物を見たら何を考えたかわかるよ」
笑みを見せるキャリー。
「本当かい軍人さん?」
「本当なのです、マコトを甘くみたら危険なのです」
「それで何処に出せばいいにゃん?」
「カウンターの裏で構わないぞ」
カウンターの裏はプリンキピウムの冒険者ギルドのそれよりも大きなスペースになっていた。
「にゃあ、ここに全部出していいにゃん?」
大きなスペースだが、オレたちの獲物だけでいっぱいになりそうだ。
「待ってマコト、もっと広いところで出さないと大変なことになるよ、プリンキピウムで買い取りを拒否されたんだから」
「プリンキピウムで買い取りを拒否って本当かい?」
職員の兄ちゃんはマジな顔になる。
「わざわざ嘘をつくほど私たちは暇じゃないのです」
「わかった、奥の倉庫に来てくれ、寒いけど我慢してくれ」
「程度によるのです」
オパルスの冒険者ギルドの倉庫は地下にあった。
「にゃあ、冷蔵庫にゃん」
オレは速攻で作ったオオカミの毛皮で作ったコートとブーツと手袋をキャリーとベルに渡した。
倉庫はテレビで見たことのある食肉の加工場の光景に似ていた。
がっちり防寒したギルドの職員たちが集まってくる。
「六歳のお嬢ちゃん冒険者が、大量の獲物を持ってきてくれたらしいぜ」
「マジかよ、いろいろな意味でスゴいな」
職員たちが白い息を吐き出しながら話してる。
「じゃあ、これからマコトに出して貰うね」
「ああ、頼んだ」
オレはまず、ウシのコレクションを出し始めた。
倉庫の床に加工済みのクロウシを並べ始める。
「ちょ! ちょっと待ってくれ! いったい何頭持ってきたんだ!?」
まだ二〇頭分も出してないのに職員から慌ててストップが掛かった。
「一〇〇頭を超えた辺りからちゃんと数えてないのです」
「おいおいマジかよ!?」
「ウシの他にもいろいろあるにゃん」
「特異種が連続したから数が増えちゃったんだ」
「とにかく応援を連れて来るから少しだけ待ってくれ!」
職員の兄ちゃんは大慌てで戻って行った。
結局、獲物を全部出すのに夕方まで掛かった。
明日の朝には集計を終わらせて精算をしてくれるらしい。
高値の付く特異種が多かったこともあって一人あたり大金貨で二~三〇枚になりそうだとか。
「にゃあ、ギルドの裏で野営する許可が欲しいにゃん」
「そりゃ構わないが、金がないなら宿代ぐらい先払いするぞ」
「にゃあ、野営はオレたちの趣味にゃん」
「趣味? まあ、そう言うなら好きにしていいぞ、パーティにFランクがいるなら料金はサービスだ」
金が有るのに野営の許可を貰ってるオレたちが奇異に映った様だが、ただで貸してくれるらしい。
「ちょっと大きいのを出すけどいいにゃん?」
「敷地に収まるならいいぞ」
「にゃあ、了解にゃん」
○州都オパルス 冒険者ギルド 野営地 ロッジ
「それでここがキャンプ場にゃんね」
ギルドの建物の裏、冒険者のための野営地だ。
州都のキャンプ場もオレたち以外の利用者は無かった。
プリンキピウムと違って無料じゃないからわざわざ借りる奴もいないのだろう。州都なら安宿も充実していそうだし。
野営地のど真ん中にロッジを建てた。
「まずはお風呂で温まりたいにゃん」
「「賛成!」なのです」
ロッジに入ったオレたちは毛皮を脱ぎ捨て階段を降りた。
そしてマッパで風呂に飛び込んで倉庫で冷えた身体を温める。
「ふう、最高にゃん♪」
「うん、最高」
「温まるのです」
じんわりと尻尾の先まで暖かくなる。
お風呂を堪能してリビングに戻ると外に背の高いおっぱいの大きな美人が立っていた。
金色の髪に金の装飾が施された詰め襟の上着とミニスカートそれにハーフマント。ストッキングは黒。そう言えばストッキングが普通に普及している。
服装に関しては日本と大差ない。いや、正確には日本のファンタジー系のコスプレと大差ない。
お姉さんはガラスをコンコン軽くノックする。
「誰にゃん?」
「ちょっと中に入れてくれないかしら?」
オレが男のままだった頃なら骨抜きにされそうな笑みだ。
残念ながらいまのオレにはいまひとつ響かない。
見た感じ危険は無さそうなので入口を開けてやる。
害意を持ってたら結界が自動排除してるし。
「あなたがネコちゃんね、そして可愛い兵隊さんがふたり」
おっぱいがポヨンと揺れた。
「オレはマコトにゃん、こっちはキャリーとベルにゃん、お姉さんは誰にゃん?」
「私はオパルスの冒険者ギルドのギルドマスター、フリーダ・ベルティよ」
「にゃあ、ギルドマスターにゃん」
ギルドの女の人は巨乳ばかりだ。
採用基準におっぱいの大きさが関係してるのだろうか? そしておっぱいの大きさで偉くなるのだろうか? 疑問は尽きない。
「ギルマスが我々に何か御用ですか?」
「問題はないハズなのです」
キャリーとベルがオレを守るように前に出た。
「警戒しなくても大丈夫よ、プリンキピウムから来た娘たちが凄い量の獲物を持ってきたって聞いたから、どんな娘か会いに来ただけよ」
「正確には私とベルは王都からで、マコトがプリンキピウムからです」
「獲物もプリンキピウムで買い取り拒否に遭ったので、仕方なくこっちまで運んで来たのです」
「あの量じゃ仕方ないわ、ウチでも通常対応ではギリギリなんだから」
「量が多いのは群れを率いる特異種が多かったからにゃん」
「そうね、あの特異種の数は何なの?」
「オレに聞かれても困るにゃん」
オレの魔力に引き寄せられたのも説明が面倒なので秘密にゃん。
「私も困るのです」
「わ、私だって困るであります」
おお、軍隊口調だ。
「そうよね、わかっていても特異種と連戦なんてしないわよね」
「そうなのです」
「普通は逃げますよ」
「でも、狩っちゃったのよね」
「力を合わせればどうにかなるにゃん」
「普通はまとめて食べられて終わりなんだけどね」
「にゃあ、オレたちは強いにゃん」
「そうみたいね」
おっぱいの大きなギルドマスターに頭を撫でられる。
「ところで、このロッジは誰が建てたの?」
「オレにゃん、もしかして邪魔だったにゃん?」
ちゃんと敷地には収まってるはずだが。
「いいえ、問題ないわ、あまりにも立派なので驚いただけよ」
「これも格納魔法で運んで来たの?」
「そうにゃん」
「ネコちゃんは凄い魔法使いなのね」
「六歳で冒険者は伊達じゃないのです」
「うん、伊達じゃないです」
「ネコちゃんの素質を的確に見抜くあたり、流石はデリック様ね」
あれが見抜いたと言うかは微妙だ。
「ギルマスも夕食を食べていくにゃん?」
「フリーダでいいわ、ネコちゃんたちがごちそうしてくれるの?」
「お近づきのしるしにゃん」
「作るのはマコトなのです」
「私たちは見てるだけです」
「ネコちゃんはお料理も出来ちゃうの?」
「そうにゃん、少し待って欲しいにゃん」
フリーダの相手をキャリーとベルに任せてオレはエプロンを付けてごちそう作りに取り掛かる。
まずは森で取れた香草を混ぜてソーセージを作る。
それとベーコンにチーズ。
シチューとコロッケパンも用意する。
コロッケパンはオレが食べたかっただけにゃん。
「「「美味しい!」」のです!」
夕食は今回も好評をいただいた。
「マコト、このシチューって食べ物、美味しいね」
「初めて食べる料理なのです」
「ネコちゃんは、何処でこの料理を覚えたの?」
「オレの地元の料理にゃん」
「ネコちゃんの地元?」
「もう帰れないぐらい遠いところにゃん」
「そう、ちっちゃいのに苦労してるのね」
「にゃあ、いまは衣食住に困ってないのでそうでもないにゃん」
新車の販売目標もないし。ノルマじゃなくて目標な。達成できないと店長が悲しい目をするけどな!
ギルマスのフリーダはおなかをいっぱいにして帰って行った。
フリーダの話でも州都では魔獣の森が遠いため、獲物もプリンキピウムほどの濃さはないらしい。
「にゃあ、獲物がいなくては州都を本拠地にはできないにゃん」
「やっぱりプリンキピウムに帰るんだね」
「にゃあ、予定通りにゃん」
「最後の夜なので、マコトも一緒に寝るのです」
「にゃあ」
テントでも三人で寝てたけどな。
寝室のベッドを二つくっ付けて川の字になった。
「オパルスのギルマスって女の人だったんだね」
「とても強そうだったのです」
「にゃあ、ギルマスだけはあるにゃん」
「ギルドマスターって、その街でいちばん強い人がなるものなの?」
「それはないはずなのです、でも頷いてしまいそうな自分もいるのです」
「オレも否定できないにゃん」
「マコトは、気を付けて帰りなよ」
「王都に来てもマコトなら上手く行きそうな気がするのです」
「そうだよ、一緒に行こう」
「にゃあ、キャリーとベルと一緒にいたいのはやまやまにゃん、でも、貴族や王族のブイブイ言ってる場所に乗り込むのはまだ早いにゃん」
「マコトも王国軍に入れたら良かったのに」
「にゃあ、流石に軍隊は無理にゃん」
「冒険者はいるのです」
「森が遠いのに?」
「狩りはしないかな、警護や警備の仕事が主かな」
「六歳児は雇わないと思うにゃん」
「そうだよね」
「前に話した通り、もうちょっと慣れたら遊びに行くにゃん」
「待ってるのです」
「マコトなら直ぐに慣れるよ」
「そう願いたいにゃん」
キャリーとベルにくっついて眠った。
○帝国暦 二七三〇年〇四月二四日
○州都オパルス 冒険者ギルド 買い取りカウンター
朝食を食べてからロッジを片付けたオレたちは、そのまま買い取りカウンターに向かった。
「よう、準備出来てるからこっちに来てくれ」
オレたちは別室に案内された。
「おはよう、三人さんたち」
ギルドマスターのフリーダの姿が有った。
相変わらずのおっぱいだ。
「ギルマスもいるにゃん?」
「いるわよ、オパルスでも久し振りの高額な取引ですもの立ち会うに決まってるじゃない」
「いくらなのです?」
「金貨九〇〇枚ちょっとだ」
職員のガタイのいい兄ちゃんが教えてくれた。
「予想通りにゃんね」
「ああ、そうだ、こんな金額は本当に久し振りだ、どうする三等分して渡すか?」
「オレはそれでもいいけどふたりはどうにゃん?」
「それだと私たちが貰い過ぎなのです」
「そうだよ、そうじゃなくてもマコトにいっぱい貰っちゃってるのに」
「にゃあ、三等分がいちばん面倒がないからそうするにゃん、それで頼むにゃん」
「わかった、三等分して持って来る」
職員の兄ちゃんが金貨を取りに行った。
「本当にいいの?」
「問題ないにゃん」
「ありがとうなのです」
オレたちは冒険者ギルドから報酬を受け取った。
三等分してもらって一人、金貨三〇〇枚ちょっと。
「仕方ないけど重い革袋にゃん」
大金貨ならまだ軽いのだが使いづらい。
「今回は、特異種の多さが高額査定に繋がったみたいね」
「気持ち悪いだけはあるにゃんね」
「あなたたち、これからどうするの?」
「私たちは王都に戻ります」
「王国軍に戻るのです」
「ネコちゃんは?」
「オレはプリンキピウムに戻って冒険者を続けるにゃん」
「そうね、稼ぐならプリンキピウムよね、でもたまにはこっちにも顔を出してね」
「マコトだったら直ぐに来ると思うのです」
「うん、間違いないね」
「にゃあ、州都にはまた買い取って貰いに来るにゃん」
「本当はオパルスに来て欲しいど、絶対にデリック様が離さないわね」
あの筋肉のおっちゃんが、オレをそこまで評価してるとは思えないが。
「どっちにしても州都は獲物がいないからダメにゃん」
「プリンキピウムにだって、特異種なんて滅多にいないんだけどね」
フリーダは肩をすくめた。




